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American Dianthus  作者: nacchan725
気になる人は魅力の権化
33/70

渇きを癒すもの

ダイアンが帰ったという報告を聞いたクロエはさっそくダイアンを探そうとした。それを見たマリーは即座に首を横に振った。

「当分帰って来ないと思うわ。」

バージルもため息交じりに言った。

「店を何軒もハシゴだな、ありゃ。」

バージルの言葉を聞いたクロエは焦った。

「ハシゴってことはお酒を飲むの?

ダメでしょ?!ダイアンはまだ成人してないじゃない!」

マリーはまゆをへの字にしながら言った。

「ダイアンは背が高いから、未成年に見られないわ。たまに、私達の前でも飲んだりしてるわよ。」

バージルも哀愁の漂う口調で話した。

「アルコールの低いやつばかり飲んでるから心配するな。あいつは悲しくなったり、ショックを受けたりすると、いつもこんなことをするんだよ。」

クロエは重々しく息を吐くと、ダイアンの心境を心配した。

「そう・・・悲しみが早く癒えるといいけど・・・」

クロエの言葉を聞いたマリーはしばらく黙ると首をかしげた。

「そういえば、ダイアンがお酒を飲む姿を最近見かけないわね。」

バージルが軽く鼻で笑った。

「別に酒なんて飲まなくても、あいつはくつろいでるだけでカッコいいから女が寄ってくるさ。」

ダイアンは行きつけの店の隅っこで、何をするわけでもなく、外を歩く人々や、店内の喧騒を聞いて慈しんでいた。ダイアンはJRSに入ってからこの店に通っており、今もアイリスがCIA時代の仲間を頼って自分のために用意してくれた少し年齢のサバを読んだIDカードを掲示して酒を注文している。アルコール度数の高い酒は絶対に頼まないし、この店の客層の大多数は不法移民で、店長は彼らの存在を黙認している。暴露は容易いが、自分は日本人とのハーフだし、グレーな生活をしばらく送っていた時があるので、糾弾する権利はない。普段なら、酒を飲んだり、寄ってくる女性を相手にするのだが、今は誰とも関わりたくなかった。俺が他人と接触すれば、必ず暴力沙汰や事件が起きる。“ニッポンの亡霊”なんてあだ名をよくつけたものだ。もはや、“亡霊“ではなく、“死神”か?

そんなダイアンの物思いを余所に、女性が近づいて話しかけた。

「あなたのパートナーはどこにいるの?」

「一人で来たんだ。」

「一緒に飲みましょ?私も一人で退屈してたのよ。」

俺のどこが暇そうに見えると思ったんだ?!

ダイアンは心の中でつっこみ、追い返そうと思ったが、暇潰しになると捉えて付き合うことにした。ほろ酔いする酒を頼み、適当な話題で女性と会話した。

ダイアンは始めは自分から話しかけたり、女性へのアドバイスを送ったりしていたが、女性の話は友人や知り合いの成功の妬みや悪口などが終始であった。聞く価値はないとダイアンは心の中で断言すると、話を聞き流すことに徹した。だが、女性はスキンシップと称してダイアンの腕に絡んだり、肩にもたれかかるなどの、わかりやすい誘惑を繰り返した。ダイアンは軽くあしらっていたが、女性が飛びつき、耳元で誘惑したのをきっかけに、すっかり興ざめした。

「もういい。帰る。」

急に冷たくなった相手に女性は露骨に不満を表した。

「どうして?まだ9時にもなってないわよ?」

「遅くなると、家の者が心配するんだ。あんたの分も払っておくから帰らせてくれ。」

腑に落ちない表情の女性を無視してダイアンは店を出た。

店を出たダイアンは人気のない場所を求めて歩き回った。途中で空腹を覚えたので、ハンバーガーを一つ買い、近くの公園で食べることにした。ダイアンはダンスパーティーの後から何も食べてないことに気づいた。あんな半日を送れば呑気に食事など摂る余裕はないが、エネルギーがない状態で何体もの敵を相手にできた自分のタフさに驚きと自賛を隠せなかった。

公園に着いたダイアンは奥の方に進み、ちょうどよい高さの木に登ろうと両手で木に触った。

待て・・なんで俺は今両手で木を触った?

左腕は骨折してるはずだろ?

ダイアンは右の手のひらを押し付けるようにして左腕を触った。普通ならこれで痛がるべき状態だが、左腕は健常時と同じ反応だった。

ここでダイアンは更なる事実に気づいた。それは、クリスのスパイクで負った焼け付くような痛みが消えているということ。背筋に恐怖からくる悪寒を感じ、左腕に起きた異常を必死に否定した。骨折が1日以下で治るわけがない。たぶん、クリスの言っていたアドレナリンの分泌でしばらく痛くないだけだ。もし、本当に腕が治ったんだとしたら、まるでリップオフじゃないか!

ダイアンは左腕の回復はアドレナリンのせいだと自分に言い聞かせると、片手で登れる範囲で木に登り、幹にもたれかかり、枝に足を投げ出してくつろいで、ハンバーガーを黙々とほおばった。やっと心に平安が訪れた気がした。ダイアンはハンバーガーを食べ終え、伸びをすると、しばらく風を感じて目を閉じた。

なんて楽なんだろう、自分の思うままに動けるということは!誰を心配する必要も、誰を死なせる必要もない。これから俺は、絶対に仲間を死なせないようにしよう。そして仲間と関わりあうのもよそう。悲しくないと言えば嘘になるが、自分と関わった人間は死んでしまうのだから。ダイアンは風で嫌な気分を洗い流すように、風に身を委ねると、木から飛び降りた。そして、帰路への歩を進めた。

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