新しいタイプ
ヴィンディッシュは自分たちを襲った犯人の名を告げた。
「私とアイリスさん達を襲ったのはクリスよ。あいつはずっと人間のふりをしていたリップオフだったのよ!!」
意外な犯人の名前にクロエは絶句した。
「嘘でしょ!クリスが・・・あんなにヴィンディッシュを介抱していたのに。」
クリスの名前を聞くと、ナックも歯ぎしりした。
「今になんないと気づかないなんて、アイツは新しいタイプのリップオフだったのか!」
聞き慣れない言葉にクロエは怪訝に思った。
「新しいタイプ?!」
ヴィンディッシュが説明した。
「今までのリップオフのタイプは、目の周りに色を残して人間に化ける不完全型か、見た目は人間に完璧に化けるコピー型のどっちかだったの。」
クロエはパーティーで戦ったリップオフに化けた女の特徴をヴィンディシュの言った特徴に当てはめた。
「コピー型は、私達がパーティーで倒した女に、化けていたやつね。」
ヴィンディッシュはうなずいた。
「そう。コピー型なら、においの他に血の色が銀色だから、それで判ったんだけど・・・」
ナックはうなずきながら苦い顔をした。
「クリスの血は赤かったからな。」
ヴィンディシュは再びうなずいた。
「ええ。クリスが変身したのは、数十分前─」
数十分前、ヴィンディッシュはアンネとエリザベートに見守られながら、医務室でクリスの治療を受けていた。クリスはヴィンディシュの蹴られた腹部に塗り薬を塗った。
「痛いと思うけど、耐えてくれ。」
ヴィンディッシュは歯を食いしばって薬が染みる痛みに耐えた。
「塗り終わったよ。しかし、よくあばら骨10本折ったのにそんなに動けるもんだ。いや、あの敵のマジ蹴り受けてあばら10本なんて安いもんか。」
ヴィンディッシュはため息交じりに言った。
「あばら骨だけじゃなくて、内臓も傷ついてるんでしょ?」
クリスは優しく諭すように言った。
「でも、深くじゃない。内臓は2週間程で治るだろう。それにしても、よく気を保てるな。常人なら痛さで気絶してるぞ。」
クリスの気遣いをヴィンディッシュは淡々と聞き流した。。
「別に、怪我なんて今に始まったことじゃないでしょ。それに、ダイアンを守れたんだもの、後悔してないわ。」
「こんな美人から好かれてるなんて、ダイアンは幸せ者だな。」
クリスのぼやきに全員が笑い、周りは明るい雰囲気に包まれた。話に花が咲き、話題は先程アイリスがリビングで話したダイアンの出生のことになった。エリザベートは改めてアイリスの話に驚いた。
「そうそう、アイリスさんの話、かなりびっくりしたわね。」
ヴィンディッシュもうなずいた。
「ほんとね。まさか、ダイアンが武士の家系の生まれだったなんて・・」
クリスはもっと詮索しようとアイリスは質問した。
「アイリスさん、もっと聞かせてくれませんか?ダイアンのことはそれしか僕達は知らないんですよ?」
アイリスは首を横に振って淡々と拒否した。
「それは無理よ。」
クリスは食い下がった。
「僕達はダイアンの事を知らなさ過ぎです!どうしてあんなに強いのか、どうしてあんなに色々できるのか?」
アイリスは再び強く首を横に振った。
「素性を明かすことはダイアンから口止めされてるの。」
「何をいまさら・・いまさら母親ぶるつもりか!」
クリスは怒鳴りながら、アイリスの胸ぐらを掴んだ。アイリスはなんとか冷静さを保ちながらクリスの腕を引き剥がそうともがいた。
「クリス、どういうつもり?」
ヴィンディッシュが慌てて叫んだ。
「アイリスさん!」
「クリス、アイリスさんを放しなさい!」
エリザベートは怒鳴りながらクリスに近づくと、クリスの体の異常を目にして驚いた。
「その両目の周りの銀色は、リップオフの特徴!」
「これだけじゃないぜ!」
そう言うとクリスは手ぶらな左腕に力を込めると、左腕が肥大化して筋肉質になり、エリザベートを薙払った。素早い攻撃にエリザベートは成す術もなく、壁に叩きつけられた。
ヴィンディッシュは泣きそうになりながら叫んだ。
「エリザベート!」
クリスは崩れ落ちるエリザベートには目もくれずにアイリスに尋問した。
「さて、後は怪我人とアイリス・ディゴリーだけか。」
クリスはアイリスを椅子に座るように指示すると、時限爆弾のついたロープで括り付けて落ちないようにした。
「これから、お前にいくつか質問する。答えなければお仕置きが待っている。」
アイリスは即刻言い捨てて返答を拒否した。
「お腹を痛めて産んだ子を敵に売る程、母親失格にはなってないわよ!」
クリスは乾いた声で笑った。
「果たして、ダイアン・タスカーはそう思ってるかな?このまま爆弾を爆発させて塵芥として散らせるのも悪くないな。」
「思ってるし、ダイアンはアイリスさんを愛してるわよ!だから、その汚い手を離せ!」
そう怒鳴ると、ヴィンディッシュは起き上がってクリスに向かって行こうとした。クリスは半分憐れむような目でヴィンディシュを見つめた。
「俺は医者だ、手は綺麗さ。そんな体じゃ何もできないぞ。」
アイリスはヴィンディシュに離脱を命令した。
「無茶よ、ヴィンディッシュ!他のメンバーを呼びなさい!」
ヴィンディッシュは2人の忠告を無視してアイリスに語りかけた。
「アイリスさん。私、ダイアンと色々話したことがあるんです。ダイアンはアイリスさんのこと、尊敬してました。恋しく思ってました。大切にしてました。だから、死なせません!ダイアンも、あなたも。」
ヴィンディッシュはクリスに立ち向かっていった。結果は見えていたが、戦いはクリスによるヴィンディッシュへの一方的な暴力だった。アイリスの制止をお互い聞かず、ヴィンディッシュは動かなくなる寸前まで殴られ、止めを刺される直前にエリザベートが起き上がってクリスの相手をし、ヴィンディッシュは医務室を出てダイアンがいるというトレーニング室へ向かったのだ。
話し終わった途端、ヴィンディッシュは吐血した。それを見たクロエはすぐにヴィンディシュの容態を気遣った。
「ヴィンディッシュ!大丈夫?!」
ナックは医療器機を持ってこようとした。
「すぐに医療キットを持ってくるよ!」
ヴィンディッシュはゆっくりと首を横に振った。「もういいのよ。とっくに体はボロボロなんだから。お願いだから、クロエ。私の分まで、ダイアンのそばにいてあげて。あなたが一番、彼を支えられると思うから・・・」
ヴィンディッシュは涙を浮かべながらも、笑顔でクロエに想いを託して動かなくなった。




