地獄に差し込んだ光
青年は今の平和な状態に満足していた。だから男たちのしていたことが許せず、つい、あんな小物に少しばかり本気を出してしまった。そのために怖がっていた客達は見物人と化し、青年に拍手喝采を贈っていた。
褒められてはさすがに悪い気はしないので、青年も感謝の辞を述べたり、投げキスをして応えた。ふとスコープを見ると、ビルの屋上の男たちに動きがあった。青年は急用が出来たと言って机に代金を置き、店を走り去った。青年はビルの近くまで走り、そして右手に着けていた腕時計の型をした銃からワイヤーを射出してビルの屋上に上昇した。屋上にいた2人の男たちは、突如現れた得体の知れない青年に驚いて戦闘態勢をとった。
「諦めるんだな。お前らの能力は手にとるように解るんだ。」
すると、男たちは怪物の姿に変身し、青年に襲いかかった。しかし、青年は一体目に回し蹴りを首にくらわせ瞬殺し、もう一体の頭を掴み、質問した。
「仲間はどこにいる?」
怪物は舌を噛み切ってこときれてしまった。青年は少し動揺したが、しばらくして耳に聞こえてきたのは、人々の悲鳴だった。青年は無線に叫んで指示を出した。
「みんな、今すぐ配置についてくれ!俺は屋上で狙撃してから地上戦に移る!」
青年は右手首に着けていた腕時計のような銃の照準を暴れている怪物たちに合わせ、1体1体片付けていった。ひととおり撃ち終わると青年は地上戦に移るべく、ビルを去っていった。
クロエは仕事を再開していた。だが、頭をよぎるのはあの青年のことだった。見ていた客達も同じ気持ちらしく、青年の強さや美しさを口々に話し合っていた。
ふいに外が騒がしくなった。外に出て見ると男が倒れており、周りには何人かの野次馬が救急車を呼んだり、声をかけていた。
すると、男が近くにいた野次馬に噛みついた。野次馬は断末魔の悲鳴をあげて倒れた。男は地獄の底から這い上がってきたような雄叫びをあげ、姿を気味の悪い怪物の姿に変えた。それが合図だったのだろうか、雄叫びを聞きつけた人間は怪物に変身して、人間に襲いかかった。
人々はパニックになり、化け物たちに背をむけ走った。クロエもすぐにカフェに戻り、避難を呼びかけながら非常口を使って外へ走った。
しばらく全力疾走していたクロエだったが、視線に少年の姿を捉えた。こんなところに子供が一人でいるのはまずいと思い、足を止めて少年の目の前に屈んだ。見たところ5、6才のようだ。
「ボク、パパやママはどこにいるの?」
「あっち」
そういって少年は怪物が現れた方向を指さした。生きている可能性は少ないだろうが、子供一人置いて逃げるほど、クロエは心を鬼にはできなかった。
「お姉ちゃんが一緒に探してあげるから、一緒に行こう。」
すると、少年が上を指さした。
「危ない!!」
上を見ると、怪物が飛びかかってきた。慌てて身をひねって避けるも、バランスを崩して転倒してしまった。起きあがると、化け物たちにかこまれていた。見渡すと、ざっと11体。
クロエは少年を抱きしめた。こんな化け物に少年を渡すくらいなら、自分がやられるべきだと思った。この子には未来がある。自分はここまでだ。・・・短い人生だった。
クロエは、怪物たちを見据えて目を閉じた。怪物たちは、クロエに飛びかかった。だが次の瞬間、怪物たちは刀傷を負って倒れた。クロエが音を聞きつけて目を開けると、そこにはカフェで自分を助けてくれた客が腰に剣を携えて手を差し伸べていた。
「15分ぶりだな。」