第3話 秋田VS神奈川
大馬は、球団事務所から球場までタクシーで移動。球場と事務所が遠くて不便だと運転手に漏らしながら球場に到着。
「ははは。それなら大馬選手、自分で車を運転すればいいんじゃないですか?」
「事故ったら大変じゃないですか」
と、言いながらもちょくちょく運転しているのはあえて言わない。
「そりゃそうですね。はい、着きました」
「そいじゃあ、これで」
1万円札を財布から取り出して運転手に手渡す。
「それとこれがさっき頼まれたサイン。あ、領収書もらっていいですか? 宛名は『株式会社秋田フェザンツ』で」
「しれっと経費で落とす気ですね。大馬選手」
「経費ですから」
サインを渡し、お釣りと領収書をもらって下車。目の前の秋田フェザンツ本拠地である秋田県営球場には、多くの人が群れている。
球団によるイベントとあって、球場前には屋台が立ち並び、遠くでは秋田フェザンツのマスコットで、雉の「キージー(命名・大馬幸四郎)」が右往左往。緑色の羽をばたつかせながら、小学生低学年程度と推測できる子供たちから逃げ回るも、着ぐるみを来た中身おっさんと、未来を背負う若き子供達では体力も足の速さも違う。あっという間に追いつかれ囲まれ。結局、捕まってしまう。
「元気だなぁ。子供たちは」
純粋に目の前の光景に感想を漏らしながら、近くに掲げられた幟へと目を向ける。
『大馬浩介主催 秋田フェザンツ祭』
本当に彼の名前を使った祭りが開催されている。あらかじめこの件は球団事務所へ遊びに行った際、予定表を見たり、広報・営業の人から聞いていたのだが、いざ『大馬浩介主催』という文字面を見ると恥ずかしくもなるものである。
『(これはまずいな)』
思いのほか人が多く、これでは騒ぎになってしまうと悟った大馬。カバンの中から伊達メガネとフェザンツの帽子を取り出して身に着け、ついでにサンプルとしてもらっておいた応援用ユニフォーム(大馬バージョン)を羽織れば、これで野球好きな地元の大学生風味。肩からメガホンを掛けておくのも忘れない。
『(う~ん、案外時間があるなぁ)』
本来ならばもう十分に集合時間なわけだが、大馬は自由人で気にしない。むしろ去年、そうした自由奔放な態度を改めようと首脳陣が介入した結果、3試合連続大炎上してしまい、それ以降は先輩も首脳陣も恐れて手綱を握れないでいる。それも練習の時間は守らないが、試合の時間はしっかり守り、ウォーミングアップも忘れず、それでいて2年連続チーム投手四冠&最多投球イニングを成し遂げている信頼感ゆえだ。
香ばしい匂いに誘われる大馬浩介24歳。
「おっちゃん。鶏もも肉5本と豚バラ5本」
焼き鳥の屋台を見つけて迷わず注文。雉のエースが鳥を食うのは縁起の上でいかがなものかと思うが、そこも自由人・大馬浩介の成せるところ。
先ほどタクシーでもらったお釣りから千円札2枚を取り出し手渡す。
「おっ、兄ちゃん。ウチのエースで大馬君に似てるねぇ。よく言われない?」
「ははは。よく言われます。歳も同じくらいですし」
歳も同じで、似ているというより同じ顔である。と、言うより本人である。
屋台のおじさんは笑いながら注文の串を焼き終えると、透明な容器に計10本の串をまとめて入れて手渡し、ついでに2枚の千円札のうち1枚を返す。
「はい、これ注文のヤツな。それと今、機嫌いいから端数はいいや」
「あ、マジで。ありがとうございま~す」
「おぅ、その代わり、今日の試合は勝てるよう頑張ってくれよ」
「あはは」
周りで聞いていたお客さんたちは『応援を頑張ってくれ』くらいに聞いていたのだろうが、大馬自身としてはそう言っているようには聞こえなかったようで。
『(あのおっちゃん、気付いてるよな。もうちょっと何かした方がいいかな。付け髭とか。関羽みたいにモッサモッサにするか?)』
そうも考える大馬だが、同期の鳥野がサングラス&マスク&ニット帽で完全変装した結果、怪しすぎて逆に目立った事を思い出して撤回する。
『(どうしようか。変装しながらも目立たない格好と言えば……あ、この焼き鳥おいしい)』
焼き鳥のおいしさに変装の事などどうでもよくなり、もも肉に合わせて豚バラも完食。近くのゴミ箱に容器を放り込む。
『(さてと、腹ごしらえも済ましたことだし、そろそろ練習に……あれ?)』
ふと関係者入口の方を見ると人だかり。何事かと見ていると、近くに止まったタクシーから降りてきたのは、プロ入り2年目、秋田フェザンツの正遊撃手で新谷学。
「なにやってんだ、あいつ。もう練習、始まってるぞ。遅刻か?」
ここで祖父・幸四郎がいれば「お前が言うな」と言い返している所だろうが、今この現場にそれを言う者はいない。
新谷は若く性格良好なイケメンだけあり、ミーハーなおばさんも含め、女性陣に大人気。実際に入口への道の両脇に群れているのは、ほとんどが女性であり、さらにそのほとんどが40を越えているであろうおばさんたち。
「う~ん、警備員も大変だなぁ。あんなのの相手されて」
握手してくれだの、サインくれだの大騒ぎ。せめて写真をと一昔前の携帯電話やら、本格的なカメラを取り出す女性陣まで。適当に球団職員のフリをして関係者入口から入ろうかと思い、そんな集団の後ろを通ったところで大馬は気付く。フェザンツの帽子を被った小中学生程度の野球少年たち3人が、必死に飛んだり跳ねたりしているのだ。
「おぅ、どうした。チルドレンたち」
チルドレンの時点で複数形であり、『チルドレンたち』はおかしいのだが、意味が通じればOKである。
「う~ん、おばさんたちが邪魔で」
「諦めようよ。これじゃあ見えないって」
「でもさぁ、せっかくお小遣いためてここまで来たのに……」
たしかにおばさん障壁によって子供たちの視界は邪魔され、新谷の姿はまったく見えていない様子。それを不憫に思った大馬はさらに気付く。1人の男の子の右手に色紙があったのだ。しかしそれには未だに何も書かれていない。
「なんだ、新谷からサインをもらおうとしてたのか?」
「うん……でも、これじゃ無理そう」
残念がる男の子に、ふと閃く。
「なぁ、フェザンツの選手からサインをもらえるとしたら……嬉しい? 新谷ではないけど」
「も、もちろん」
「そりゃあ、なぁ」
「そりゃ嬉しいよ。俺たち生粋のフェザンツファン。あんなブームに乗っかるおばさんたちとは違うよ」
それに笑った大馬は、カバンの中から黒のペンを取り出す。
「待っとけよ~」
「ど、どうしたんだよ。おっちゃん」
「いいから待っとけ」
まずは肩から提げていた応援用メガホンを手に取り、そこに自らのサインを書いて、左にいたメガネの少年に手渡す。次に帽子を取ってつばの裏側にまたもサインを書き、右にいたやや太めの少年の頭にかぶせる。そして最後にレプリカユニフォームを脱いでサインを書くと、最後に残った目つきの鋭い少年の頭に放り投げる。
「な、なにすんだよ」
「言っただろ。サインが欲しいって」
「一般人のサインなんて欲しくねぇって」
「じゃあ、そこらへんにでも捨てとけや。あ、ついでにこれもやる」
そして伊達メガネを外して文句を言っていた少年に渡すと、彼は目を丸くして、魚のように口を開け閉め。
「そいじゃあな、一般人はそろそろ去るぜ。今日はせいぜい、『プロ野球』を思う存分に見て帰れよ」
新谷に集中していて、それ以上の大スター出現に気付いていない女性陣。その隙間をすり抜けて関係者入口から球場内に入っていく男を、最後まで見つめる野球少年たち。
「……なぁ、今のって」
「見た事ある。って言うか、知ってる。あれって……」
「え、エースの、大馬浩介、選手?」
禍転じて福となす。新谷の姿を一目も見られることはないかと思いきや、突然現れた新谷以上の大スターから、直筆サイン入りの私物をもらえたのである。
「やべぇ……」
震える声でつぶやき、それから声を合わせた。
「「「夢みたいだ……」」」
センター120メートル、両翼100メートルの球場。既に秋田フェザンツが自治体から買い取ったため『秋田県営』ではないのだが、球団もわざわざ名前を変える必要性を感じず、またネーミングライツの申請も来ていないため『県営ではない秋田県営球場』となっているのである。
そうした事情はさておき、その球場で行われるは、秋田フェザンツ・神奈川ナイトスターズ三連戦。入場者は収容能力の3万5千人の7割、約2万5千人と言ったところであろう。
その2万5千人の歓声があがる中、両チームのスターティングメンバーが発表される。
先攻・神奈川ナイトスターズ
1番 セカンド 石田
2番 ショート 山下
3番 ライト 梶尾
4番 ファースト フランク
5番 レフト 筒野
6番 サード バラート
7番 センター 金田
8番 キャッチャー 白羽
9番 ピッチャー 古浦
秋田フェザンツ
1番 センター 吉崎
2番 ライト 手嶋
3番 ショート 新谷
4番 セカンド チャリス
5番 レフト ケルビン
6番 ファースト 北見
7番 サード 東海林
8番 キャッチャー 寺西
フェザンツの9番だけが空白になっているが、予告先発制度が存在する以上、もはや発表の必要性などないのではないかと思わせるほど。が、あえてテレビの実況は煽り立てるような発表の仕方。
『さぁ。神奈川ナイトスターズ3連戦。その先陣を任された秋田フェザンツの先発投手は、もちろんこの人。お聞きください。この大声援』
国民的アイドルのライブ会場かと思わせるほどの歓声が上がる。
『秋田フェザンツは、大馬浩介。24歳、若き大エースの堂々たる出撃です』
放送席から広がる大きなグラウンド。その1塁側ベンチから右肩を回しながら、実況の言うように堂々と姿を現した大馬。ブルペンで投球練習に使っていたボールを、振り返ることもせず後ろへと放り投げると、弧を描いてネットを越えて1塁側スタンドへ。そこでボールの取り合いが行われる……と言う一連の動作は、去年の開幕戦から行われているフェザンツの恒例儀式その1である。
『本日の解説は、西摂チーターズで活躍されました、浜井さんにお越しいただきました。今日はよろしくお願いします』
『お願いします』
もはや野球中継の常套句ともなりつつある話が解説者紹介をしていると、大馬が大歓声の中でマウンドの感触を確かめながら投球練習を始める。
『浜井さん。今日の大馬。調子はどうでしょう?』
『う~ん、よくは分からんけど、いつも通りかな。大馬君はいつでも野球を楽しそうにしてるよ。それゆえにファンが多いんだろうね』
『たしかに、特に女性ファンから、大馬は野球を楽しそうにするところが好き。と声も聞こえますからね』
『ただ、個人的にはこの試合以外に気になることもあるんよなぁ』
『と、言いますと?』
実況は疑問に思い解説の浜井に問いかける。
『今日は他のチームもエース級同士の衝突が起こっているから、大きく順位が入れ替わりそうだなって事なんだよねぇ』
『たしかに。本日の東京スタジアム。東京買得ギガンテス対、西摂チーターズの先発は、杉原、神見。昭和天宮球場の東京ルート製薬スパークス対、愛媛ホワイトドッグスは、ホワイトドッグスはエースではありませんが、スパークスの先発は去年の新人王にして勝ち頭の大川』
『で、たしかさっき入った情報だと、広島県民球場の東広島レッドスナッパースと、名古屋ヒュードラスは、東広島が前山健太郎、名古屋が吉田樹と。8球団中、7球団がエース級とは燃えるねぇ』
『か、勝手に読まないでください。仕事無くなっちゃうんで』
怒っているというよりは、親友同士のじゃれ合いのような返答。そんな実況・解説の暇つぶしもほどほどに、試合の開始が迫る。
両チーム、先発に関して言えば怪我人・成績不振者などは不在でベストメンバーを組め、そして神奈川にとって6位防衛、秋田にとっては6位浮上がかかっているだけに、お互いに落としたくない試合である。
「さてと、今日も勝ちますか。きっと、あの野球少年たちもどっかで見ているだろうしね」
投球練習の終わった大馬は、若手とは思えない態度でバッターが打席に入るのを待ちわびる。
『1番、セカンド、石田。背番号7』
神奈川ナイトスターズの先頭バッター、石田が左バッターボックスへ。本塁打が少ないという意味では怖くないが、打率がそこそこ高く、足も速い方。しいて言えば守備型であるが打撃も油断できない選手である。
『(先頭の石田はあまり初球から打っていくタイプじゃない。とはいえ、甘い球を放れば打って出られる。ここは……)』
出されたサインは調子確認も込めてアウトコース低めいっぱいにストレート。
「プレイ」
主審の第1声と共に頷いた大馬は、タイミングを計って左足を後ろに引いてのノーワインドアップ。足を上げた状態で一瞬だけ制止してからの第1球。
「ストライーク」
『(っぶねぇ。大馬。少し高いぞ)』
やや高めに入った144キロのストレート。キャッチャー・寺西は「少し抑えて」と手振りで伝えながらマウンド上の大馬へと返球。受けた彼は足元のロージンバックに指の先を当てて粉を付け、軽く振るって余分な粉を振るい落とす。
『(球速はいつもどおり。次は少しカーブを試してみようか)』
2球目はインに食い込むカーブのサイン。首を横に振る理由もなく、頷いてからの投球モーション。
「ストラック、ツー」
バッターは外に張っていたようで、インのカーブに体を引かせて見送り。いとも簡単にツーストライクと追い込む。
『(さてと、次は空振りすれば儲け。基本は外すつもりで)』
無駄にはっきりと外すことはしない。ボールにするにしても、勝負にいって際どいコースに放るか、それとも次の配球への布石とするか。
大馬がモーションに入ると同時にキャッチャーがアウトコースへと寄る。ここで三振を狙いつつ、次の投球への布石とする球は、
「|strike three. He's out」
外へ逃げるスクリュー。バッター・石田は体勢を崩しながら空振りし、主審が気合いの入った声で三振をコール。秋田フェザンツ応援団のいる1塁側スタンドからは、いきなりの空振りの三球三振に大歓声が上がる。
「よし、順調、順調」
満足げな顔で返球を受け取り、足元を軽くならす大馬。野球の打順は基本的に、1番から始まることを想定した構成になっている。それだけに初回の先頭バッターを打ち取ったということは、相手の攻撃を封じる意味では非常に大きな効果を持つ。
『2番、ショート、山下。背番号0』
「さぁて、始まりましたぜ。大馬無双。今日は完全試合、やってやるぜ」
1回の表、神奈川ナイトスターズの攻撃は、1番・石田の空振り三振に続き、2番・山下をショートフライ。3番の梶尾には少し粘りを見せられるも、最後はライトフライに打ち取りチェンジ。エースらしく初回は危なげなく切り抜ける。
続く1回の裏。秋田フェザンツの攻撃。先頭バッターは2年前に自由契約から奇跡の復活を果たした俊足巧打の28歳、吉崎。神奈川先発の古浦とは過去何度か対戦経験はあるが、通算8打数1安打1犠打と、良好な成績を残せているとは言い難い。
その吉崎は左打席。
『(たしかに今年の神奈川ナイトスターズは古参組の中では最下位の6位。新参最強と言われる俺たちとほとんどゲーム差がない状況。だが、打線と投手陣がかみ合っていないだけで、大量得点を取る力、相手を抑える能力は間違いなくある)』
吉崎から始まる自軍の攻撃をみつめながら、大馬は相手チームを冷静に分析。
今シーズンのナイトスターズは、大馬の言うように古参組で最下位。しかし、大量得点を取った試合に限って投手陣が炎上したり、逆に投手陣が好投した試合に限って打撃陣が点を奪えなかったりと、ほとんどが勝ち切れなかった試合。むしろはっきり『負け』と分かる試合はほぼ無いに等しい状況なのだ。
『(今日も勝ってくるとは大見得は切ったけど、こいつは厳しいぞ)』
投手コーチ兼任の大エース古浦は絶好調。1番・吉崎をレフトフライ、2番・右の手嶋をピッチャーゴロに打ち取り、わずか5球でツーアウト。
『3番、ショート、新谷、背番号51』
ここで、大学時代の大馬からホームランを放った経験もある新谷が左バッターボックス。タイプとしては1番を打つようなリーディングヒッターだが、甘い球は問答無用でスタンドに叩き込むような厄介な選手である。
その新谷。カウント1―1から古浦のストレートを捉える。
インコースベルトあたり。これ以上ないほどの甘いボールを弾き返すと、打球はライト梶尾の頭を越えてフェンス直撃。新谷は1塁を蹴って2塁へ猛然とダッシュ。梶尾がボールを拾ってただちに内野へと返すも、到底、間に合うはずもなくツーベース。
「よし」
静かに地味に片手握り拳を上げると、スタンドからはうるさく豪快な歓声。
「グッジョブ、シンタニ」
『4番、セカンド、チャリス、背番号44』
大チャンスで迎える打者は豪打者チャリス。セカンド守備にこだわりがある、元マイナーリーグの4番。もっともその良くも悪くも並程度のセカンド守備と、頑なに他のポジションに移りたがらない意地のせいでAAAに上がれなかった元AAの選手だ。
防御率1点台の大馬・古浦が投げているこの試合。ロースコアゲームが予想されるだけに、1点の価値は非常に大きい。
右バッターボックスのチャリスはバットを振りまわすような構え。そんな威圧感満載な構えに臆することないベテランの古浦は、2塁ランナー新谷の動きに警戒しつつも、熟練のクイックモーションで第一投。
「ストライーク」
大きく外に外れるスライダーをチャリスが大振りしストライク。明らかなボール球を振ってくれただけに、守備側としては嬉しい誤算だ。
キャッチャー・白羽は古浦に投げ返したあと、手早くサインを送る。頷いた古浦はセットポジション。2塁ランナーは動かないと読んで目で牽制するだけにとどめ、バッター集中でモーション始動。
しかしここでまさかのミス。スパイクの歯に土が詰まったか何かで地面に思いのほか食い込まず、やや足が滑ってしまう。そこはさすがプロ。倒れ込んでボークなんてことはないが、ホームベース付近へと叩きつけるようなワンバウンド投球。白羽が体で止めに行くような動作を見せるが……
「「「え?」」」
その場にいる全員が驚くような出来事。そのワンバウンドをチャリスのバットが一閃し、打球は古浦の足元を抜け、さらに石田―山下の二遊間を破るセンター前ヒット。万に一つも打たれない、厳密には打ってこないようなコースを打たれた。3塁ベースコーチをしている小田守備・走塁コーチが手を回すのを見て、新谷はホームへ突っ込む。そうはさせまいとセンター・金田が転がってくるボールに突っ込み、グローブで拾い上げた。
「間に合わない、先制だっ」
興奮してベンチ後ろの席から身を乗り出す大馬。
金田は勢いを殺さず、矢のようなバックホーム。なかなか失速しないノーバウンドの低い送球がキャッチャー・白羽のミットへとストライク返球。ホーム寸前まで到達している新谷が白羽の背後に回り込むようにスライディングし、ホームベースへとタッチを試みた。
『(タイミングはギリギリ。でも、回り込めばっ)』
新谷の手と白羽のタッチが交錯。判定は、
「アウトぉぉぉぉ」
主審が拳を振り下げる大胆なジェスチャーでアウトコール。0コンマ1、2秒の世界でタッチの方が早くホーム憤死。ナイトスターズは超ファインプレーで点を防ぎ、フェザンツはファインプレーで点を防がれた形。
「やっぱセンターの金田さん、元150キロ越えのピッチャーだけあってとんでもない返球するなぁ。普通ならセーフだぞ。後退シフトで2塁ランナーは足の速い新谷だってのに」
手早く準備を済ませてマウンドへ向かう。
『(ただ今の1点を取れなかったのはまずかったな。単純な得点勘定の話じゃなく、流れが相手に持っていかれるぞ)』
神奈川ナイトスターズ戦です
……はい、「横浜ベ――」と言ったヤツ、あとで職員室に来なさい