第1話 株主兼任エース
プロ野球大改革から4年。そして、プロ野球が従来の12球団に新規4球団を加えた16球団制をスタートさせてから早くも3年目。その新シーズンもまだ4月上旬なのだが、既に順位は安定し始めていた。
「う~ん、うちのチームは相変わらずだなぁ」
秋田県に本拠地を置く秋田フェザンツの球団社長・大馬幸四郎はどうしたものかと頭を抑える。現在の順位は7位。最弱と言うわけではないが、下位リーグ降格条件たる8位とはあまり差がない。
「ふん。そう思うなら球団社長殿も何か手を打った方がいいんじゃないか。俺たち選手だって練習してるんだ」
唐突に大柄の若い少年が球団社長室へと我がもの顔で入り、ソファに座り込んでテレビを付ける。
「ここは球団社長の部屋。なんで選手がそう易々入って来るかな?」
「株主権限だ。ついでに親族権限。今ならおまけにエース特権も付いてくる。それで驚愕の19800円」
彼はちょうどフェザンツが1部昇格を決めた年のドラフトにて、2位指名で入団した選手。プロ入り3年目にして秋田フェザンツのエースピッチャー・大馬浩介。大馬幸四郎の孫であり、亡き父親の遺産であるフェザンツ株式も相続したため、主要株主でもある。
幸四郎は「親族」と言われては追いだすことはできないと、彼を無視してパソコンの画面をみつめる。
「お前は練習しなくていいのか?」
「昨日、完投したばかりのピッチャーに何を無茶言ってんだか」
「そうだったな。3勝目、おめでとう」
「プロの評価は年俸アップで」
「それは契約更改の時にな」
あっさりと要求を棄却され、つまらなそうにテレビへと目線を戻す。どうせ契約更改になったらなったで、「順位が低い」とか「フォアボールが多い」とか、適当な理由を付けて年俸はあまり上がらない事だろう。やはり2部から上がったばかりとあっては、財政的な余裕もないのである。
『(まぁ、4年前に始まった総年俸上限があるから仕方ないけど……てか、ウチの球団は関係ないな。たしか年俸上限に余裕がかなりあったし)』
浩介はそれを思い出しながらため息ひとつ。
総年俸条件とは、球団に所属する全選手の年俸に対して上限を課し、それを超過した場合は、超過額と同額を罰金としてアマチュア野球界に寄付するというものである。超過額と同額の罰金は非常に重く、センターナショナルリーグ、通称『セ・リーグ』の2強、武蔵買得ギガンテス、西摂チーターズのようによっぽど資金力のある球団でもない限り無視できないものなのだ。
「時にじいちゃん」
「年俸アップは確約できない」
「そっちじゃなく。球団社長としてはどうすんの。これからの作戦」
「インサイダー取引になるぞ」
「非公開株式でインサイダーになるか、ボケ」
「年俸ダウンな」
「それは契約更改の時にな」
少し前に言われた言葉を言い返し、してやったりと満足顔。
「どうする気だ? 俺が怪我でもしてみろ。おそらくは最下位へまっしぐらだ」
「正直、球団社長としては金の工面しかできないなぁ。野球の事は現場に任せる」
「なんて言ってるから2年間も7位から抜け出せないんじゃねぇの?」
「ふっ、もちろん、手は打ってあるさ」
「何を?」
「去年のドラフト、大成功だっただろ?」
胸を張って威張る幸四郎だが、
「2回も抽選を外しての外れ外れ1位で何が大成功だ」
「外れ外れ1位でもいい選手だ」
あいにく、100点満点とは言えない感は否めない。
去年のドラフト。結局はいい選手を取れたとしても、可能であれば1位を引き当てたいところであった。しかしこの大馬幸四郎はスカウト部長に任せればいいものを、自らくじびきに立候補。そのうえで2回連続くじ引きを外す大失態をやってのけたのである。
3年前のドラフト。1位で社会人野球ナンバーワン投手・鳥野隆義、2位では大学野球ビッグスリーと言われた大馬浩介の指名を指名。今となっては鳥野がフェザンツ不動の守護神と化し、今期1勝3セーブ。そして大馬は言わずと知れたフェザンツのエース。そんな超大成功ドラフトの陰には、4球団競合の鳥野をくじで引き当てた幸四郎の功績があったわけで、おそらく彼はその幻影を追ってしまったのであろう。
ところが、浩介も祖父をそれほど責める気にはなれない。
「仕方のないと言えば仕方のないけどなぁ。そりゃあ、3回のくじ引きしたのが西摂、日本食品。2球団あったしな。ウチが2回のくじ引きで済んだのはまだ許容範囲内。球団増加の弊害ってヤツか?」
「それでも今考えても悪い賭けではなかった。1位で松原祐介、外れ1位で柿谷《かきたに》浩太。いずれの指名も勝負に行くだけの価値があっただろう」
「まぁな。外したって結果論で言うからおかしいけど、当てていれば超成功だっただろうな。それでも1位・鳥野、2位・俺には及ばないけど」
社長室に置いてあった本棚から、経営に関する本を引っ張り出して読書を始める浩介。幸四郎は我が物顔で部屋を使う様子に顔をしかめながらも、チームを支えるエースであり、そして孫でもある彼に文句を言えず。
「イベントやらねぇの?」
「いきなりどうした?」
「いや、ウチってできたばかりだし、新顧客の開拓や、流動客をしっかり固定客にするのは大事だろ。って、この本に書いてあった」
序盤を平然と読み飛ばした浩介。ちょうど本の真ん中あたりのページを指さして意見。
「何かやりたいことは? 今、少しなら経済的な余裕が……待て、目を輝かせるな。年俸を上げるほどの金はない。あくまでも今月分の営業費予算だ」
「祭りでもすればいいんじゃない? 球団で何かやろうとすれば企画費用とか、人件費とか、場合によっては材料費とかかかるだろ。でも例えば地元飲食店とか、なんなら地元大学だとか、そういうところに出店を依頼すればいいだろうよ。先方も、金儲けだとか、宣伝だとかを、人の多い娯楽施設でできるなら嫌とは言わない。こっちはこっちで投資費用はほぼ無し。せいぜい宣伝広告や、依頼に関する諸経費くらいか。それで入場者数、グッズ売り上げの増加、知名度上昇に新顧客開拓、流動客の固定客化。それができるならWIN―WINだろう?」
指を鳴らして幸四郎を指さす浩介。そんな彼に、納得する様に右手拳で左手を打つ。
「なるほどな。それは一理ある。ついでに『大馬浩介主催フェザンツ祭』とか煽ってやってみるか? お前のホーム登板予定の試合で」
「それで球団の経常利益が増加して俺の給料が増えるなら、勝手に名前を使ってくれ。別に肖像権で訴訟なんてしねぇよ」
「そうか。だったら、今日の企画会議で提案してみよう」
すんなりと浩介の意見が球団社長である祖父に届いてしまう。幸四郎はなんだかんだ言いながらも、意外と頭のキレる浩介を懐刀として信頼している一面もある。しかしそれが契約の面であまり評価されないのが残念ではある。
「しかし、浩介。意外と経営感覚が付いてきたな」
「そりゃあ、ここにある本を暇つぶしに読んでいるからな」
「ここの本か。買ったのはいいけど読んでいないなぁ」
近くにある本棚を見つめる浩介と幸四郎。木製で5段ある本棚には、昔から事あるごとに買っている経営・経済の専門書や一般書籍が大量に存在する。
大馬家は企業経営者が多い家系。幸四郎は既に経営権を他社に売却してはいるが、地元の有名建設会社の元経営者。今は亡き大馬浩介の父は、経営コンサルティング会社を起業。全国で100近い会社の経営状態を回復させた手腕を見せた。そして従兄や叔父にも企業経営者や、それに近い立場にいる人がいる。
こうした書籍は大馬家の書庫には、ちょっとした図書館クラスの量が存在している。もちろん、ここにある本もそこから持ってきたものである。
「どうする? 浩介。なんなら引退後はここに就職するか? GMとかで」
「考えとくよ。できれば引退後もコーチとか監督で直接に野球に関わりたいけど、みんながみんな、そうしてプロに関わり続けられるわけじゃないからな」
「なんなら監督兼任でやるか? もしくは選手も続行して」
「選手兼任監督兼任GMってなんだよ」
二足のわらじどころか三足のわらじを履く所業。二兎追う者ですら一兎も得られないというのに、三兎追う者にいたっては、より高い確率で一兎も得られないのではないだろうか。
「おはよう~ございま~す」
今度の登板のための練習にと二軍練習場にやってきた大馬浩介。本来、一軍登録の大馬には二軍練習場など用がないところ。しかし今日は二軍練習場に用があってきたのである。
「あっ、先輩。おはようございます」
大馬のあいさつに答えたのは、今年のドラフト外れ外れ1位で入団したばかりの高卒ルーキー、左腕の倉本である。今現在は二軍登録であるものの、近々一軍登録予定の選手だ。
「先輩。どうして二軍練習場に?」
「一軍は遠征中だろ? ちょっと練習する相手がいなくてな」
「おいて行かれたんですか?」
「馬鹿言え。登板予定が無いから帯同していないだけだ」
「じょ、冗談ですよ。それくらい分かっています」
倉本の悪ふざけに、ため息を吐きながらも初々しさを感じて楽しそうな大馬。
彼がここに来た理由は彼自身の説明のまま。現代プロ野球では先発ローテーションが確立されており、誰がいつ投げるかはだいたい決まっている。すると遠征期間中に先発予定のない投手はわざわざ遠征に帯同する必要はない。しかしみんなが遠征に行ってしまうと練習相手がいないため、わざわざ二軍練習場まで来た。と言う真相である。
「倉本は練習を終えたところか?」
「一応はこれくらいにしようかと思って、クールダウンしていました。午後から試合ですし」
「そっか。クールダウンはしっかりな。体の疲労具合がまるで違うからな」
「はい。分かりました」
元気な返事の倉本。つい数か月前まで高校生だった子が、プロ第一線で戦うチームのエースピッチャーと話すのだからそうもなるだろう。
「そう言えば大馬さん。質問があるんですけど」
「おぅ、なんでも聞け」
「なんで、クールダウンしたら疲労が違うんですかねぇ?」
「へ?」
「いや、だってそうじゃないですか。体を動かしたら疲労がたまりますよね。だったら、じっとして休んでた方が疲れは取れそうじゃないですか?」
プロを知らないルーキーの質問は非常に怖い。時に「なんで空は青いの?」と親に聞く子供のような事になる。いくらプロと言えども野球のプロであって、スポーツ医学のプロではない以上、そんなこと分かるわけがない……と、思いきや、
「ちょっと難しい話かもしれないけど、グリコーゲンが分解されることでエネルギーが発生するわけだが、その過程で乳酸が発生するわけだ。ただ、その乳酸は体内を酸性化してしまって、神経伝達が難しくなってしまうんだ。本来はATP――アデノシン3リン酸を再合成してエネルギー源として利用するわけだが、体内の酸性化が原因でそれができなくなってしまう」
饒舌に話しはじめた大馬に唖然とする倉本。中身の難しさも合わさって、全然話が頭に入ってこない。
「だから代わりに乳酸の一部をグリコーゲンに再合成するわけだが、その再合成の過程で乳酸が減って疲れが感じにくくなる。ということだったかな?」
「……へ、へぇ~。そうだったんですかぁ」
まったく分からなかった倉本。
「たしか、最大酸素摂取量の40%くらいになる運動が、クールダウンには一番よかったんじゃないかな?」
「そ、そうなんですかぁ……」
できるだけ大エースたる先輩と話をしたいと無理に話題を引っ張り出した倉本であったが、もはやさっぱりである。
「要するに、疲れの原因がクールダウンで再利用されて、結果的にその原因物質が減少するってことかな。多分、解釈はそれで合ってると思う」
「ほ、本当に先輩、詳しいですね」
「大学でならったからなぁ。スポーツの必修で」
「そういえば先輩は大学出身でしたよね。なんで大学に行ったんですか? 先輩ほどの実力なら高校卒でプロに入れたんじゃ……」
既に24歳の大馬であるが、コントロール無視ならMAX150を超えるストレート。鋭く曲がるスライダー・フォーク・カーブに、チェンジアップ・スクリューを武器とする、秋田フェザンツの超エース。もし打線の援護がまともにあるチームに所属していれば、投手四冠も射程圏内のトンデモ投手。プロに入ってそれだけの投手が大学に行ったのは、高卒ルーキーとしては理解ができないのだ。ところがその答えは意外と簡潔であった。
「高校時代はそんなでもなかったんだよ。たしかに高校自体は強豪校だったけど、2軍の補欠どころか3軍、4軍とも言われてたかな」
「せ、先輩が?」
「それでプロの夢を諦めて、山口の関門大学理学部に行ったんだよな。卒業後は一般企業に就職するつもりで。でもそこで『趣味』でやっていた野球でこんなになっちゃってな。大学4年生の時にフェザンツに2位指名ってわけだ。因みに1位はウチのクローザーの鳥野。今思えば、高校時代は抑えよう、抑えようと思うあまり、力んで打たれていたんだろうな。逆に大学時代は遊びでやってた分、のびのびできた気がする」
「へぇ、意外でした。プロってそんな人、多いんですかね」
「大学とか社会人で伸びる人は多いんじゃないの? やっぱり上手くなるならないって、本人の努力もそうだけど、周りの人間や指導者みたいな環境の違も、やっぱり成長には影響を受けるだろうし。俺の場合はだけど、強豪校よりも野球同好会みたいなところでのびのびやって良くなったからな」
いい環境など必要ない。という話とは別だが、必ずしもいい環境さえそろえば成長するわけではない。それこそ倉本のように、強豪校で大成してプロ入りした選手もいれば、大馬のように大学の野球同好会出身もいる。さらにフェザンツには、小・中・高と野球部には所属せず、親と一緒に地元のクラブチームにいたという選手もいるのだ。結局は環境云々よりも、果たしてそこでその人がどういう意識を持つか、であろう。
「それはそうと、今日の二軍寮の夕食は?」
「たしか鶏カラだったかと」
「あ、だったら食べて帰ろうかな? 家に帰っても仕方ないし」
「先輩って1軍寮に住んでるんですか?」
「いや、じじいの――球団社長の家。たまに球団事務所の仮眠室。暇つぶしに企画会議に出たりした後、帰るのが面倒でそのまま寝たりしてる。一応、シャワーとか給湯室とかあるし」
「何やってるんですか。先輩」
「そりゃあ球団社長の家、それすなわち俺の実家だし」
実家に住んで何が悪い。と、完全になんとも思っていない大馬。球団社長に会うと緊張しかしない倉本にとっては、もはや正気の沙汰とは思えない行動である。
「う~ん。夕食を取って帰るとすると、結構時間があるなぁ。試合に出ようかな? 調整がてら」
「大馬さん、2軍相手に投げるってイジメですか」
オープン戦で実質2軍の古参組相手に投げ込んだ時は、途中降板したが、6回までノーヒットノーランしてしまった大馬浩介。1軍の第1線で戦っているピッチャーが投げるなど、相手チームにとっては悲惨でしかない。2軍は勝ち負けなどほぼ度外視ではあるが、進退がかかっている選手なども多いのだ。
「冗談、冗談。人数が足りなくなった時に出るくらいにしとくよ」
一応、ベンチには入る気のようである。
結局、調整目的で8回の1イニングのみ登板し、打者4人に対し、被安打0、フォアボール1、無失点、奪三振2のまぁまぁな内容。
「ん?」
さらにその試合後、1軍エースの凱旋だ。なんて言いながら2軍寮に突入し、まんまと鶏のから揚げ及びその他諸々を完食してきた大馬。父親の遺産の1つである車に乗ろうとしたところで、駐車場近くの投球練習場の電気が付いているのを見つけた。そして中からはそれなりに大きな音も聞こえる。
「あれ? たしか食堂には結構いたような気がしたけど、まだやってんのかな?」
誰が残っているんだろうかと思いながらそこへと歩いていく。次第に大きくなっていく音は、ボールを投げ込んでいる音なのだろう。
「そろそろやめておいた方がいい。今日はお前、投げただろう」
聞こえるその声は、大馬も会ったことがあるブルペン捕手のもの。だとすると彼相手に投げ込んでいるのは、
「せっかく、プロの1軍の舞台に立てるんです。もっと、もっと上手くならないと。そんなことじゃ、大馬先輩の陰に隠れちゃいます」
「じゃあ、その陰に隠れない方法を教えてやろうか。俺みたいにON、OFFを切り替えて、休む時はとことん休むことだな。体を壊しちゃ元も子もない」
「あっ」
突然現れた大馬に驚いたのは倉本。今日の2軍戦で、早々にノックアウトされた先発の後を継いで3回を被安打1、四死球1の無失点に抑える好投を見せた。さらにその試合後に1軍昇格を言い渡されていたのであった。
「倉本。安心しろ。今日の2軍戦の球なら、上でも通用する」
「で、でもこのままじゃ」
「俺の陰に隠れるってか? たかだか高卒1年目で、プロ3年目の奴に挑もうなんてお前、馬鹿だろ。ルーキーはルーキーらしく、1軍にしがみつくとか考えとけって。ルーキーのくせにエースに挑むとは甘い甘い」
言いたいことを言い切る大馬だが、
「倉本もお前には言われたくないだろうな。1年目の時の大馬なんか、春キャンプで『俺はエースになってやる』って宣言して、本当に夏頃には監督から直々にエースって言われたんだからよ」
「俺と鳥野は例外です」
先輩のブルペンキャッチャー・阿波原に言われてそう言わざるを得ない。
ちょうどエース・大馬、守護神・鳥野の二枚看板が確立されたのは同じ時期。当初は先発二枚看板の予定であったが、鳥野は先発するたびに打たれ続け負け星を重ねる。そこでしびれを切らした監督が様子見の中継ぎへ配置転換すれば、1回3奪三振なんてこともあった連戦好投。調子が上がってきたと判断して先発へ配置転換すれば2/3回5失点、2回6失点と連戦大炎上。結果として鳥野は短いイニングに力を集約するタイプとはっきりし、守護神としての立場を得たのであった。
一方の大馬は初登板から今まで常に同じような調子。登板間隔の関係で、調整登板として敗戦処理をしたこともあるが、基本的にここまで先発登板のみ。入団以降、ずっと先発ローテを守り続けている。
「とにかく、今日は休めって。怪我して2軍落ちしたら、球団に迷惑だ。ただでさえウチは選手層が薄いんだから」
「ま、さっきの話はさておき、その件は俺も同意見だ。練習するのもプロの仕事として大事なことだが、試合でベストの力を発揮できるようにしっかり休むのも大切だぞ」
「分かりました……ダウン、付き合ってください」
倉本はこれ以上の練習を諦めて、クールダウンに入る。さすがにこれだけ言っておけば大丈夫だろうと感じた大馬は、背中を向けて手を振りながらその場を去る。
「じゃあな、倉本。1軍で待ってるぜ」
「はい、大馬先輩。待っていてください」
「阿波原さん。こいつ、ちゃんと見張っといてくださいよ。ルーキーはだいたい加減が分からずに無茶するんですから」
ついでに阿波原にそう伝えるが、彼は呆れた表情をしながら言い返す。
「そうだな。『ルーキー』はやたらと無茶するよな。大馬。覚えてるか?」
「すみません。記憶力ないので、そんな昔の事は忘れました」
「いや、ルーキーじゃなくても無茶する奴もいるよな。昨今のプロ野球で基本ローテが中4日なんて正気じゃねぇぞ」
「誰ですか? それ」
大馬浩介とか言う破天荒野郎の事である。
早くも名前がたくさん出てごめんなさい
ひとまず主人公と、若手ルーキーの名前さえ憶えておいてもらえれば、
今章は大丈夫なはずです(今章と言うが、来章があるかどうかは不明)