プロローグ
「よかったのですか? あのような意見を飲んでしまって……」
年齢は30歳弱と言ったところであろう。1人の女性が、椅子に腰かけてスポーツ新聞を読んでいる男に問いかける。するとその男は新聞から目を話すことなく、落ち着いた声で聞き返した。
「なんのことかい?」
「プロ野球の2部リーグ設立とJPBの球団数増加の事です」
彼女が話したそれは3日前の事である。
有識者やプロ野球球団社長・オーナーなどが集まった会議にて、昨今のプロ野球人気低迷に歯止めをかけるべく改革案が検討されたのである。彼女が思うにそこで出され可決した内容は、そこの男には容認しがたいものもあったはず。しかし参加者であった彼は、反論をすることなく全てをあっさり賛成したのであった。
「来年より2部リーグを設立。そこで1位から4位になった球団を従来のリーグ、1部に上げて16球団でリーグ戦を行う。さらに毎年、セ・パ、各リーグで最下位になったチームと、2部リーグで1位、2位になったチームを入れ替える」
「さすが秘書。要点をしっかり抑えているじゃないか」
「はぁ、ありがとうございます。ですが、中には必要なものもありましたが、我々にとっては不必要な、むしろあっては困るものもありましたよね?」
「君はこんな言葉を知っているかな? 『木を隠すなら森の中』」
「は、はぁ……知っていますが……」
彼女は答えるがその意味が分からなかった。すると男は不気味に微笑み答えた。
「必要な木を隠すためには不必要な森を作ることも必要なのさ。その木が我々にとって有益なものなら特に……」