第一章
ここは、モノクロの世界。 それは、かすれそうなほどで。
でも、しっかりと私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
それは、強くなったり弱くなったりしながら、私の脳に入ってくる。
動こうとしても体が動かない。 それでも、時計は動き続けたままだ。
私は、この声を知っている。そうだ、この声はたしかに、死んだ兄の声だった。
ジリリリリリ。
もう、かれこれ20分は、鳴り続いているが、
いっこうに、布団から顔を出さない。
いやここは、どんなに格好悪くても、『朝起きれない病』にかかってしまったと
言いがかりをつけたいところだ。
住職の、娘がこんなことして良いのか。そこは、ふれないでほしい。
「ウゥ…」と、うなりながらベットから、転がり落ちる。
少女はもがきながら、パチリと目を開けた。
「うわー!!!」
あわてて飛び上がり制服に着替え部屋を出ると、
「きゃ~!!」
という叫び声と「ズタズタズタ」という悲しげな効果音に
廊下に立っていた母は、首を振った
打ちつけた腰をさすりながら、何とか立ち上がる。
そこに、「今、何時だと思ってるの?」という、周りを凍らせるような
恐ろしい声がふりかかる。
こんな朝を、いったい何度くり返した事か。
「えーと…寝坊しちゃって… お、起きる努力はしたんだよ…?」
なぜか疑問系だが苦しまぎれにそう言った私は、母の怒りをおさえる事に失敗した。
「もう風葉ちゃん来てくれてるわ!あの子はすごいわね!時間も守り成績も優秀!それに比べて…」
と言って、私を見下ろす。
母には分かるだろうか。気にしていることを言われる事の辛さが。
そんな私のデリケートな領域にズカズカ踏み込んでくる母だが、残念ながら
言っていることは全て正論。どうにも言い返せない。
頭には、GAME OVERの文字が、横切る。くぅ…無念だ。
「か、風葉もう来てるんでしょ?急いで準備するから…」
我ながら、良い回避の仕方だったとは思うが、
母は、呆れたようにため息をつき、私にかばんと弁当を手渡した。
「朝ごはんは、抜きですからね!」そう強気に言われ、冷や汗をかく反面、
毎日弁当を用意してくれる母に対してのありがたみもあった。
いそいで玄関を出ると風葉の姿はどこにもなかった。
「か、風葉…?もしかして私おいていかれっちゃった?」
そう言って肩を落とすと、茂みが、ガサガサ揺れた。
おもわず全身がびくっと揺れる。
だが、案の定、「えへへっ…驚かせようと思ったんだけど。」
といって、栗色の髪をなびかせた、少女がニコニコ笑っていた。
毎回思う。母の言った通り、風葉は成績優秀。
優しくて明るくて、いたずらっぽいところも、風葉の魅力だと思う。
しかも、容姿も間違いなく美人に分類される、学生徒の憧れだ。
しかしそんな人気者が、どうして私なんかと過ごしているのだろうと考えるが、
正直それを考える事は、あまり好きでは なかった。
「おはよう 風葉!」
「うん! おはよう 木霊!」
こんな会話でも楽しいと思えるのは相手が風葉だからだろうか。
「ん?木霊、何 にやけてんの…? 何かいい事あった?」
風葉に指摘され、我に返る。
「別に何にもないよぅ… あ、今日も母との大健闘の続き聞きたい!?」
そう私がいうと、顔をぱあっと輝かせ、「うん!」と風葉は、うなずいたのだった。
「それでは はじまりはじまりー」
思えば、この時から私の いや、私たちの物語は始まっていたのかもしれない。
投稿に日が開くことは なんとかご了承願いたい、、
のんびりまったり投稿してます。
今作品が初投稿なので一話一話が短めです。