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22歳麗華64歳ダルマ年齢不明大錦 料亭談話

 「あらやだ、店長御口が上手いですね」


 畳の上に畏まり正座する女性はスッと伸ばした手を口に当てて、若干ぎこちない敬語のようなものを口にした。


 それを受けて一緒に微笑みを浮かべる少し周りから浮いた容姿の女性も手を口に添えて応える。


 「いやいや、大錦さんの御眼鏡に叶う人材が私の部下にいることはとても喜ばしいことですのよ」

 「いえ、僕の御眼鏡だなんて。誰に言われなくても、彼女からはその才覚が溢れ出ていますから僕が声をかけずともいずれ本部より通達はきてましたよ」


 僕、そう自分が男性であると思わせる人物、彼女 大錦 瞳は間違う事なく女性である。一見して耳に自然と掛かる程度に伸びたそのショートカットと、ズラリと着こなしたネクタイを着用する姿を見て美男子。そう思う人も多からずいるほど中性的振る舞いを彼女はしていた。


 「そしてその才覚どころかすれ違うだけで目を奪われる美貌とは、私もこのような人材がわが社の系列に入社していると知りとても安心しています。」

 「もう、やです。大錦さん。そんなに褒められてはこそばゆいです。」

 「ハハハ、これは失礼した。」

 「あらあら、もうこれから上司になる人と仲良くなられてしまって、あなたたちの将来が楽しみね。私はもう定年だからもう新しいことなんてできないから羨ましいわ」

 「何をおっしゃられます!定年して退職してからでもあらゆることにチャレンジはできますとも!チャレンジに遅い早いはないですとも!」

 「まぁまぁ、大錦さんはお優しいのね。」



 3人の会話他愛もない話、世間話。そんなものがずっと続きながら大錦は目前にいる二人を試すように小出しに情報を与えてその会話を勧めはじめた。


 「でもそうですねぇ。私の一存でその研修期間が終わる前にこちらの会社に来ていただくというのも親会社との関係上、時間はかかりますがしっかりとひきつぎを行ったほうがいいでしょう。」

 「あ、そうですよね。私もしっかりと研修期間は最後までやり切りたいとは思っていました。」

 「そうですか!いやはや、仕事に熱心な姿勢はますます魅かれますね」

 「そうでしょう。そうでしょう。この子うちに来てからすごく勤勉に働いてくれるのよ、きっとそちらの会社でもバリ、バリ働いてくれるわ」

 「店長、ハードルを上げられても私困ります!」


 「ハハハ、いやいやまだ一か月も足っていないと伺っていましたがここまで打ち解けてコミュニケーションを図れるのも上司たる手腕の賜物ですね。では2か月後なのですが、一度挨拶周りということでこちらのほうへご足労していただいてもよろしいですか。日程のほうは追ってご連絡させていただきますので。」


 「あ、はいわかりました。よろしくお願いします!」

 「どうぞ部下をよろしくお願いします」


 「いえいえ、こちらこそ。あ、そういえばなのですが麗華さん。髪はそれ地毛でしょうか?」


 「…えっと、違いますけど?」


 「申し訳ない、入社試験ではないのはこちらとしても承知なのですが、髪を黒く染め戻してからお越しいただいてもよろしいでしょうか。」


 「あぁ……わかりました。重役の方々にもお会いするというお話でしたものね。」

 「ありがとうございます。」

 「そうねぇ、ここまで真剣にあなたを誘ってくださる大錦さんの面子を汚さないためにもそこはしっかりしなさいよ麗華さん。なんならその長い髪も切ったほうがいいんじゃないかしら。人事の人間に個人的趣向の多岐化でそれがお客さんにも表れているのだからそれは別に本部としては構わないと思っているなんて言われたけれども。やっぱり系列のトップ部門へ移動するのだから少しは気を配ったほうがいいわねぇ。」

 

 長々と続いた小言を語る老婆はこれでもまだ言い足りないという不満気な表情をみせるがそれを見ていた大錦の表情がひきつり苦笑いをしているのに気付いて気持ちをなだめて押し殺した。


「……はい」


 麗華は右手で無意識に髪をなぞりそれはそうだと納得はした態度はとるも、自分のアイデンティティである長髪の髪を切らなきゃいけないという現状は少しの沈黙を与え、やがてそれを彼女は振り切った。けれどそんな覚悟を決めた彼女に対し、思いがけない救いの手が差し伸べられる。


 「ハハハ、まぁ大丈夫ですよ髪型に関しては今のほうが重役たちにもお気に召されるかと思います。だって、こんなに長い綺麗な髪、私が手にしたことがないほどですから。」


 「えぇ、そうなんですかぁ。それならまぁ、よろしいのですが。」

 「ありがとうございます。大錦さん!」

 「いえいえ、その綺麗な髪、大事にとっておいてください。



 最後の会話の着地点として満点といって過言ではないだろう。

 お互い壁もなくなり条件も合致した。


 店長は部下の手柄に目を輝かせ。

 部下である麗華はまさか自分がエリート街道を進むのかと胸をはせていた。


 大錦は話が終わると何も言わずに笑っていた。


 料亭からでた三人はでたところで散会する。

 「では私は本社のほうにこのことをいち早く報告させていただきますので!ここで失礼します。」


 「はい、ありがとうございました。また後日よろしくお願いします。」

 「お食事代までだしていただいて本当申し訳ないですわ。今度挨拶に伺わせていただきますので。」


 「ハハハ、お気になさらず!では。」

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