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失恋した42歳独身には牡蠣でも食わしておくといい

ちょっと先に送る応募原稿がだれてきたので気晴らしにハゲてます。


ハゲをこよなく愛し、ハゲているみなさん。


これからハゲは書き続けるか知りませんがネタストック的に書いているのでそのうちまた書くかもしてませんけどだれも見ないだろこれもういいやと思ったので寝ます。


おやすみなさい。

 おしながき

 

 コーヒー 200円

 紅茶   250円

 

 ケーキ  400円

 ホットケーキ  400円



 ランチA 700円

 ランチB 700円



      ・


      ・


      ・







 「安いじゃないか…」


 小太郎は素直にそう思った。

 たぶん誰から見ても一般的な値段のカフェだと思えるものだろう。

 向かい側の店舗と比べるとあまりにも落差が激しいが、この値段を見てほっとする。


 しかし、麗華さんはなんであんな高いお店に入れたんだろう。


 小太郎は不思議だという顔をして顎に手を添えた。


 グゥウゥ~


 腹がなる。ずっと動き回りっぱなしで頭も使ったせいか体がブドウ糖を欲して怒鳴り声をあげてきやがった。


 怒鳴り声といって大げさだと思われるかもしれない、けれど体格は良い小太郎から発せられたその音は地鳴りのようなどこまでも響くうねる音だった。



 小太郎はしょうがない。そう思う。


 すこしだけ顔を後ろにむけて、楽しそうに笑いなが食事をとる麗華さんを見送ると小太郎は店内に入った。その背中はどこか物淋し気で、肩はストンと撫で形猫背になっていた。


 「そういえば…誰と話していたんだろう……。」


 店内にはいったところで今みた光景に疑問がのこったと小太郎はまた考える。だがその思考を遮るように声が脳味噌にヤジをいれた。


 「いらっしゃい、ひとり?」


 先ほどとは打って変わってさっぱりとした出迎えだ。

 小太郎は考えていたことを頭の隅において言葉言わずとも指を一本立ててそれに応える。


 「そうですか、じゃぁ2階いきます?」


 店主に指さされ見上げた小太郎は「おぉ…」っと感心した。


 仕事柄数々の物件を見てきたがここまで天井が高いお店は初めてだ。

 天井はおそらく3階までを突き抜けて改装してあり、2階、3階の部分も窓際だけ床がはりつけられ、その上には5つの真っ白いソファーが窓を横にしておかれていた。

 景観を損なわないためであろう天井の広々としたものを阻害しないように階段は壁際に急な坂を作って作られている。


 そして3階にも床はるようだが、階段がみうけられない。


 はて、どういう作りなのか、宙に床だけが取り付けられた構造をみて店主の返事を忘れて物思いにふけってしまった。


 「お客さん、はじめてかい」

 「あ、すいません。つい仕事柄すごいなと思ってしまったもので」

 「ほぉ、建築関係の仕事かい?褒めてもらえるならうれしいねぇ。親父が俺に残してくれた店なんだ。じゃぁゆっくりして行ってよ。」


 店主の指さされた二階へとあがると、一番奥のソファーには先客がいた。

 さきほどリムジンから下りてきた老人だろう。


 目の前に置かれている膝を少し越えるくらいの高さの机にはなにも置かれていない。まだ注文をしていないのか。


 すると、腰を掛けて背がソファーに触れたかと思うと横を女性が通り過ぎていった。スラっとしたスタイルの良い体格に、少しみじかすぎるような黒髪のショートカット。


 右手は自然と垂れて、右手には器用に五本指の先で支えられたお盆に乗るのは白く緩やかに湯気を立てるコーヒーカップ。


 女性は奥に座る老人の前にコーヒーカップを静かに置くと、私には聞こえない声で何かを老人に告げ、老人がそれに笑顔で答えてからこちらに向かってきた。


 「ご注文はお決まりでしょうか」


 サバサバとした淡々とした声。それは女性が無理矢理声帯に生き恥を晒して引っかけ声を出すようなものでもなく。ごく自然の、普通の飾らない声で話しかけてきた。


 カフェの店員。


 もちろんメイド服ではないのが当たり前ではあるだろう。

 けれど小太郎はそれがなんだか懐かしく思えてしょうがなかった。


 いつからだろう。


 コーヒーを飲むとき、年齢詐称しているメイドが目の前に必ずいるようになったのは。


 彼女は白いシャツに黒いパンツ、そこに足首まで届きそうな黒い前掛けをしたごく普通の容姿だ。


 残念。いや、なんだか久しぶりに人間になった気分で頭がボーっとする。


 「お客様」


 自分の頭の中の空想から目を彼女に向けると無表情のまま顔を横に傾けた彼女がそこにいた。

 あぁ、また一人ごとでも言ってしまったか。


 そう反省しながらまた少し鳴るお腹をさすりながら注文を頼む。


 「ランチをAのほうでお願いします」

 「……かしこまりました。」


 ん、なんか今、苦笑いしてなかったか。

 小太郎が気のせいか程度の違和感を感じ取ったがまぁいいかと去って行った店員さんから窓の外を眺めて背をもたれかけた。


 向かいのお店も値段に違わぬ風情なつくりをしていたけれど。

 こうして高いところに上ってあたりを見渡せばここら辺の街並み全体がそうなのかとはっきりわかる。


 いくつかの大通りを越えてしまえば自分がいつも働く活気のある街並みだというのに、今まで知らなったのが不思議に思えるほどだ。


 こんな近くにもこういうことがあると知れて今日は良かったかもしれない。


 それもこれも麗華さんのおか__げ?


 「え、え?あれ___?」


 小太郎は目をぱちくりさせて向うガラス窓の先で誰かと楽しそうに未だランチを楽しむ麗華さんを見つめた。


 今、今なにか、見えた、見えたぞ絶対。


 小太郎は顔を必至に左にずらし、九条院麗華の目の前に座る人物をみようと首をのばした。


 男、男だった。


 お店のオブジェクトとして竹でできたものが窓側に置かれてあり、しっかりとは見えず今もその向かう相手の姿が見えなかったのだが、今小太郎がのぞいた瞬間、身を乗り出して笑っていた男が見えたのだ。



 嘘だ、嘘だ。


 小太郎は呆然とする。

 小太郎は唖然とする。

 小太郎は人間に戻る。


 そりゃそうさ。今が華の20代。


 男の一人や二人、すぐによってくるだろう。

 そして彼女だって、若い男を、顔の整った男を選ぶだろう。



 何を俺は浮かれていたのだ。何を俺は一人盛り上がっていたのだ。


 小太郎はそのまま黙って、自分の知らない男と楽しそうに会話をする九条院麗華をただただ見るだけになった。

 もう何も考えていない。


 ただ一つ、彼に変わった事があるとすれば、なにかの欲望渦巻いた表情から、優しい笑顔で、彼女の笑顔を見つめていた。



 「お客様、ランチA。牡蠣を潤沢に使わせていただきました。」



 ただただ見ているだけの時間がどれだけ足っていたのだろう。


 無言でお辞儀をして料理と一緒に運ばれてきたナイフとフォーク、箸の入ったケースの中から箸を選んで小太郎はその運ばれてきた牡蠣に先を当てた。掴もうとした。



 掴めなかった。



 あれ、遠近法?


 小太郎は必死に箸を広げて掴もうとする。けれどだけれども箸じゃなければと顔もちかずけるが牡蠣がつかめない。

 

 貝殻を割ってそのまま開き、直火で焼いたであろうその牡蠣は。



 クソでかかった。



 人の拳よりも大きいんじゃないのか。


 小太郎は困惑する。


 「コース料理ですので前菜のあとにスープが参ります。ごゆっくりどうぞ」


 (え、コース料理!?)


 小太郎は驚きのあまりじたばたと顔を牡蠣と店員往復運動を繰り返すが店員は口をかしげたままどこかに行ってしまう。



 前菜___


 確かに、確かに牡蠣は一度貝殻から外され、その下には水菜なのかなんなのか大根を薄く細くスライスしたものなのか入ってはいる。


 だけど_____

 そうだけれども_____


 これ、ステーキじゃない?



 小太郎は目の前にある白い巨大な塊をみて、年齢とともに胃が弱ってきたこの体にはこれでも十分お腹いっぱいになると思うのだけれどもと不安がよぎった。


 メインディッシュ___


 メインディッシュだろどう考えても。



 このあとにまだ何が続くっていうんだ。



 小太郎は取り敢えずと箸は置いてフォークとナイフで少しずつ切って試みてみる。


 中は低温でじっくりと火を通したのか柔らかくまだ肉汁が残っており、

 まだ口に運んでいなくても切り口からほのかな海の香りが顔を覆い尽くす。

 

 静かに口の中運ぶ。


 「______うまい!」



 絶品だ。


 今まで食べた牡蠣の中で一番というのは大げさなんかじゃない。



 海のミルクなんて言われる牡蠣だけれどもこの牡蠣は、一口で体を癒す。

 二日酔いの朝に食べたら最高に効くだろうサッパリとした



 _____とにかくうまい!



 レモンか、レモンなのか、この柑橘系の香さっぱりとしたものはなんなんだ。


 やはりこれはステーキではないらしい。


 前菜だ。



 やはりこれはコースメニューなのか。


 そういえば、若い頃新しい上司が着くという事で歓迎会にコース料理予約をしたっけ、あれってたしか3名からとか書いてたよな…。



 ということはこれ全部3人前分でてくるのか!?


 いやいや、まぁでもそれならたしかにランチで750円コース料理って頑張ればできるかもしれないけど、そんなの赤字じゃないのか。

 というか、750*3で2250円じゃぁ財布の中身が足りないぞ。


 



 小太郎は給料日があと何日でくるかを数えながら、それでもうまいと感じる目の前の牡蠣を食べすすめる手を止めることができなかった。



 「牡蠣から出汁を取り、牡蠣を刻み衣に包み揚げた牡蠣の水餃子です」



 _____丼茶碗!?



 (いやいやいや。コース料理は100歩譲るよ。もう給料日までジリ貧の生活になろうが頼んでしまったものはしょうがないし覚悟したよ。でもさ、でもさ。____スープを丼でだすかよ普通!お腹緩々だわ。あきらかにコース料理終わるまでにトイレ2,3回通いたくなるはよこれ……)


 小太郎は真顔で頭をカクンと下げて運ばれるスープに思わず礼をする。



そんなぁ、こんなぁ、これ休憩間に合わないんじゃないか。そんな不安に駆られて小太郎は麗華さんはどうしてるのかと窓をみると九条麗華は立ち上がっていた。


 満ち足りた顔をして、それはそれは楽しいランチだったのだろう。

 

 小太郎は心の中で叫んだ。


 まって、置いてかないで。


 _____僕も帰る!



 けれど立ち上がった彼女はそのまま背をむけて歩いて行った。


 そして向い側に座っていた人間もいよいよとして立ち上がり、小太郎に姿を現す。


 

 ____大元 かず子



 どういうことだろうか、一瞬とはいえ整った顔達をした男を見たと思った小太郎としては予想外だ。見間違いか。


 少しほっとした。希望がわいた。


 けれど、その横から、あの垣間見た好青年が立ち上がりそれは掻き消される。


 「お似合いの____カッコイイやつじゃないか……」



 小太郎は静かにスープを啜った。

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