未知との遭遇、レベル1。
ごくり、と美海晴佳は息を飲み込んだ。
「……!」
深呼吸を繰り返し、自分のやけにうるさい心臓を静めていく。
今ここは生徒会室の前。自分の知らない人がいる場所。
「すぅ……はぁ……」
そう考えただけで緊張がピークに達し、逃げ出したい衝動に襲われた。
「(逃げちゃダメです、逃げちゃダメです、逃げちゃダメです…………っ!)」
胸の前で両の拳をぐっと握って、
「(が、頑張らないと。確か掲示板に載ってたのは先輩方ばっかりで、一年生は私一人なんだからっ)」
心の中で何度も繰り返した決意を唱え、
「…………し、失礼しますですー…………?」
返答は、無い。
「……………」
耳を塞いで小動物の如くうずくまりがくがく震えていた晴佳は、ほ、と一息ついた。
幾分かリラックスした動きで、晴佳はドアノブを捻る。
見えた中には─────
「だ、れも、いない、です…………?」
恐る恐る警戒心マックスで辺りを見回し、そのあとでそろりそろーりと忍び足で生徒会室に踏み込む。やはり、誰もいないように見える、が……。
「………………、」
そっとドアを閉め、もう一度あたりを見回し、
「(…………あれ? どうして鍵は開いてたんです?)」
違和感。そういえば晴佳は職員室に入っていないし、ほかの生徒会メンバーだってそうだろう。まだ慌ただしい時期であるし、
ちょっと待て。
「(あれー…………? じゃあ私、何で鍵も持ってないのに生徒会室に入ろうとしてたのでしょー…………)」
極度の緊張が成せる技だった。
それに、まだ授業が終わったばっかりだ。これじゃあ他の生徒会役員がこられるはずもない。
「わ、私の緊張とは一体…………です」
何だか恥ずかしくなって手で顔を覆った。
「……ま、まあ、ポジティブ! ポジティブで行きましょうです!」
これで安全に生徒会室を見て回ることができる。そう思おう。うん。
案外生徒会室は広めだ。大きいホワイトボードが壁際に置かれ、更には歴代の資料などを積んである棚もいくつかある。その中にはなぜかカラフルな背表紙の小説や漫画もあったが……。
「…………」
一冊手に取ってめくってみる。
過激だった。少なくともそういう行為などに耐性の無い晴佳にとっては、物凄く過激だった。
「~~~~っ! あ、あぅぅぅぅ…………」
思わず漫画を物凄い勢いで閉じる。慌てて棚へと戻し、
「ぅ、うぅ……」
頬に手を当てると、掌が冷たく感じられた。
気を取り直して。
この生徒会室には電子機器も揃っていた。パソコンはもちろん、ポットやコンロ、更にはなぜか異様な数の電子時計も。
かなり不気味だった。
「ここ、何かまともなものはないんですかです…………」
思わず溜め息を吐いた。
気を取り直して。
この生徒会室には物置まで完備されている。段ボールの山が幾重にも連なっている。
「わ、凄いです……」
段ボール箱が載せらせた棚を背伸びして調べてみる。
ブラジル水着やもうほぼ大事なところが隠れないような水着が恐ろしい数入っている段ボール箱を見つけた。
「見なかったことにしましょうです」
慌てて箱を押しやった。
気を取り直して。
「はぁ………」
晴佳は生徒会室の真ん中に並べられた机に突っ伏していた。五つあるパイプ椅子の一つに座っている。
「何だかおかしいですよぅ、この生徒会室………。変な水着いっぱいあるですし、時計もいっぱいあるですし」
というかあれはどこの備品だったのか。
「これじゃあ、集まってくる生徒会役員も変な人ばっかりかもです…………」
また溜息を吐いて、何となく腕を振る。
「…………、……………………え?」
手が、何かに当たっている。何だかもさっとして、あったかくて、大きな何か。
晴佳が座っているのは部屋の一番奥から見て右側の一番目。腕を振ったのは奥側。そこにあるのはただの椅子のはず。
「え……………?」
そちらを向く。
クッションに顔を埋めて机に突っ伏している人間がいた。
「っきゃぁあああああぁあああああああああああ⁉」