ほんの少しの幕間と、事件の香り。
生徒会総戦挙というのはどうやら丸一日使ったイベントだったらしい。戦挙が終わり、元の理事長室に帰ってきた雪也は、そのまま家に帰された。
そして、何か嫌な予感がしつつも、翌日。再び雪也と星花は理事長室に呼び出され、
「や、よかったよかった。よくやってくれたのう、雪也」
と笑顔でふかふかの椅子に座り、扇子を仰ぐ美織と遭遇した。
「………ということは、何とか生徒会入りできたのか……殺されずに済んだ」
ほ、と雪也は胸をなでおろす。そして、
「え、と。美織さん、うちのバカ兄貴、何位になったんですか?」
「ん? 何じゃ雪也、星花に伝えてなかったのか?」
そう美織に問いかけられた。
「あ、いや……気絶してたもんで」
雪也は気絶していて、そのあとすぐに家へ帰されたため、結果を知らない。
「そうか、負傷と気絶では扱いが違うのじゃったな」
そう言って美織はかかと笑い、
「まあ心配するな、ちゃんと丁度いい席になっておるでな。
ところで、お主たちクラスを確かめにはいかんのか? 確かめぬと物凄く迷う羽目になるが」
美織に言われ、
「あー……美織さん」
「ん、何じゃ雪也」
「ここで学生として学ぶなら、俺達ってどういう扱いになるんすか?」
雪也はふと、そんな疑問を思い出した。すると美織は、
「錬金科や超能力科のアルバイト、といった感じじゃな。
ここで働いたり、暮らしたりするにも学生の身分や教員免許が必要になるでのう。
そのためにここの学生とした、という感じじゃ。後はコネかの」
「コネ⁉」
「そーじゃよコネじゃよー喜べわしを崇め奉れー」
「コネで転入とか喜べませんよ!」
「……………コネかぁ」
「お、落ち込むなよ、な?」
コネで転入という事実に若干打ちのめされつつある星花を励ましつつ、雪也は
「えーと、アルバイトもやんなくちゃダメとかいう感じですかね」
「そおいう事じゃのー」
く………っ! 貴重な時間がどんどん潰されていく……………っ! と軽く落ち込んだところで、
「…………で、俺達って何処の科に転入ですか?」
「急にテンション下がったのおぬし……。まあいいがの。
お主らは錬金科の高等部中等部に転入ということになっておる。
あそこは比較的実技が少ないからのー」
そう言って美織は扇子をパタパタ扇ぎつつ手を振って送り出してくれた。
「えっと、クラス書いてあんのって何処だったっけ」
「確か、校庭だったと思うけど」
「ん、じゃ、さっさと行くか」
階段を駆け下りる。そして外に出ると、四つの建物が上の方にある通路で円のように繋がっている、どこか近未来のような光景があった。
「………校庭って、どこやねん」
「何故関西弁。………というか、ひっろー……」
星花が呆然とした様子で言う。
前に来た時も思ったが、やはり広い。きらきらとガラスが陽光を照り返す。
「…………で、校庭ってどこ」
「し、知らないよ、私」
「あの、校庭をお探しですか」
「あーはいそうなんですーってほわ⁉」
いきなり見知らぬ声が紛れ込んできて、星花が飛び退く。すると声の主も
「え、え、ふぇっ⁉」
驚いたように尻餅を着いた。そして、
「あ、あ、ああああのっ。こ、校庭ならあっちですから、ではっ!」
校庭の方向を指さして、慌てて逃げて行ってしまった。
咄嗟で顔は見えなかったが、高等部女子の制服を着ていた。髪も長かったから女子だろう。
「…………随分と臆病なやつがいるもんだな」
「あ、あのー! お、落とし物していきましたよー?」
星花がそう呼びかけるも、人ごみに紛れて行った声の主には聞こえていないらしい。というか、
「落とし物? あいつ、何か落としていったのか?」
「もう、バカ兄貴。女の人なんだから、あいつとか言っちゃダメでしょーが。
………あ」
ふと気づいたように言葉を止める星花。そしてたらたらと汗を流し始め、
「ねえ、バカ兄貴。これ、生徒手帳」
「はぁ⁉ 何であいつんなもん……」
「こ、こういうの届けるとこってなかったっけ?」
「俺たちここの施設とか全く知らねぇぞ……。あ、そだ。美織さんに渡せば返してもらえるかもな」
「じゃあ兄貴、これ」
星花が生徒手帳を押し付けてくる。
「は、何で俺が⁉」
「だ、だって私怖がられちゃったし。兄貴ならいけるかもって」
「何でいつの間にか直で返すことになってんだ⁉ 美織さんに渡せばいいだろうが!」
「え、だ、だって⁉」
道端でぎゃあぎゃあ騒ぎあっていると、いつの間にか見知らぬ真面目そうなメガネの男が隣にいて、
「君たち、ちょっといいかな?」
巡回していた風紀委員に捕まり、長々と説教を受ける羽目になる。
一方。九波市では………。
野次馬がざわざわと騒いでいる。それが気になって、警視総監の娘・久美は思わずその路地裏を覗き込んでいた。そこにあったのは。
「ひ…………っ!」
悲鳴を押し殺した。だって、そこにあったのは、
骨だけの、内臓すらない、所々砕けた、人間の死体だったから。