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九波異能学園の異端者共!  作者: みさたん
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まあ、意外と奇跡って起きたり起きなかったり。

 状況が理解できない。おかしいのはわかるけどそれ以外が全く。

「、え」

 美織が腰に変なもの巻き付けたかと思うと身体が青く光って倫敦のような街並みに立つ時計塔の上にいた。

「………」

 うん、清々しいくらいに意味不明。

『はい、ここにいる皆さんのうち、どうして自分がここにいるのか、理解できない方もいるでしょう。

 で・す・の・で! このイベントについて、改めて説明をさせていただきます!』

 どこから響いてくるかもわからない声が嬉しげに喋る。

「な、んなんだよ、これ」

 呟くと、不意に空中へ半透明な立方体が生み出される。それは底と頭が消え、四つに分割されて、

『まず実況は、この私、九波異能学園高等部二年放送部所属、夏目来未(くるみ)がお送りさせていただきます!』

 それぞれの面に、大きくアイドルのようなフリフリの衣装を着たウサミミ少女が映し出された。

 彼女は同じくフリフリでごてごてと装飾の付いたマイクを持つと、

『では、イベントの概要を。

 今年の生徒会役員選挙は、一味違う。前会長、筑波夜亜氏が提案した選挙方法、それは、

 希望生徒他全員を戦わせるバトルロイヤル(・・・・・・・)

 今まで滅多に無かった、最強を決める戦いです!』

「……………………、は」

 バトルロイヤル。というのは、つまり、異能で、潰しあう、最悪の、戦い。

 それに雪也が参加している、というのは、

「え、や、やばくねぇか、それ」

 だんだんじんわりと冷や汗が湧き出てくる。

『なお、途中参加、リタイアは不可能ですので、そこのところお気を付けください!』

 退路が塞がれたーーーー!

 冷や汗でシャツがびっしょりと濡れている。だんだんと恐怖と焦りが訪れ、

「お、おい、それって……」

 雪也の脳内で繰り広げられるのは、自分が滅殺されるグロ映像。

 ………この時代、誰にも異能があるわけじゃない。異能は、異能を持ってない人に対して、近いがどこか遠いもの。

 異能は確かに人を助けてくれる。だが、人を助けられるほどの力が、守られる方に向いたら。

 あるのは、蹂躙。ただそれだけだ。

「なお、バトルが行われるこの空間はあくまで疑似空間。肉体も仮想のもの、データに似たものなので本体は傷つくことはございません!

 更に、ステージは確かに倫敦をモチーフとしていますが、所々変化を与えています! タブレットに地図がございますので

 そちらをご覧いただければ敵の位置なども分かるようになっております!」

 疑似空間。その言葉を聞いて、少し頭が冷える。そして、

「……………タブレット?」

 そんなもの持った覚えも貰った覚えもないのだが。と、突然美織に巻きつけられたものを思い出す。

 腰の後ろ辺りに触れると、硬質な感触。前に回して見てみると、確かにそれはやや小さめのタブレットだった。

 取り敢えず電源を入れる。ポーン、と軽い音がして、メニュー画面が表示された。そこには何やら様々なアプリがあったが、

『はい、今回のバトルロイヤルは確かに生徒会の定員、五名になるまで生き残るのも大事ですが、

 ポイント制も導入しています! 例えば、建物を壊すと何点、生徒を倒すと何点など!

 生き残れても、ポイントが低ければリタイア者の中から一番ポイントの高い方が生徒会役員となります!

 なお、ポイントの確認、ランキングなどはアプリから確認してください!』

 そこまで言うと来未はびしりとポーズをとって、

『さあ、富も権力も手に入る生徒会役員になりたいのなら!

 戦闘──────開始ぃ!』

 そこら中から金属音や爆音が聞こえ始める。だがしかし、

「……………………………………、」

 雪也は明らかに蚊帳の外だった。

「……………あ、そっか、俺、時計塔の上っつぅ普通居ない場所にいるから………」

 今までの焦りとか何だったのかなー、とむなしくなり始める。ついには膝を抱えて、

「あー、誰か来ねぇかなぁ………」

 溜息。そこで近くの梯子を見つけた。

「…………あ、そこから降りれば、少なくとも寒さはしのげるかなぁ」

 著しくテンションの下がった雪也は、スライム系モンスターのようにぬろぬろと梯子を降り、そこにあった扉を開けて中に入る。

「……………おぉ」

 そこは、ちょうど文字盤の裏の様だった。時計の音。何だか妙に好奇心をそそられて、あちこちを覗き込む。

 丁度ストーブもあったし、毛布もあった。だから毛布に包まりつつストーブに当たるという雪山の遭難者のような格好で座っている。のだが。

「………………………、……………………っ」

 ここ最近あまり睡眠をとれていなかったからか、眠気が襲ってきて─────。


「っ⁉」

 飛び起きる。

「寝、てた?」

 タブレットを見ると、もう開始時刻から二時間以上経っている。制限時間はあと十分ほど。更にはタブレットと携帯両方に百件近いメールがあった。

 送信者は美織。

「え、何これ」

 そのうちの一つを開けてみる。

『生徒会役員になれなかったら、殺す』

 端的にそう書いてあった。シンプルなのが逆に怖い。

「……え、ちょ、ちょ⁉」

 だんだん事実が飲み込めてきて、

「え、え、えええええ、ど、どうしろと⁉」

 あの女はやると言ったらやる。そのことを雪也は知っていた。というかこの学校の問題ってそんなに深刻なのか、とか様々な思考が渦巻くが、

「……………っ」

 このバトルロイヤルはポイント制。生徒を倒すか、建物を壊さなければポイントは入らない。雪也は何もしていない。つまり、

「挽回は、不可能…………」

 どうしようもない。それに、

「(期待に応えられないのが、どうしようもなく悔しい………!)」

 思わず雪也は歯を食いしばり、だん、と片足を床に落とす。


 ………………ぴしっ。


「─────え」

 微かに、何かがひび割れる音。それは勢いを増し、轟音となって、


 どぉおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!


 足場が、崩れる。雪也は体勢を崩し、

「え、わ、わぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ────────……………………………⁉」

 訳が分からないままに落下した。


 同時刻。夏目来未はタブレットにて、時計塔の崩落を目撃していた。

「(有り得ない! 時計塔は破壊できる建物の中でも最高硬度、『聖剣持ち』の異能者でも破壊することが困難なはずなのに!)」

 この学園の生徒が破壊できるはずのない、時計塔が破壊されたことに来未は戸惑っていた。

 一体、誰が。

「(そうだ……!)」

 あの時計塔には生徒が破壊できないと見越して、有り得ない量のポイントを与えてある。だから、

「一位に躍り出たやつが………!」

 慌ててタブレットを操作して、ランキングを表示。様々な生徒の顔が並ぶ画面の中で、『ピッ』と電子音を立てて、神原雪也の名が浮上した。


 またある場所では。和柄の紫色をしたリボンで髪を結わえ、ポニーテールにした少女が悠然と時計塔を振り返っていた。


 ある場所では、短冊に似た紙を持った小柄な少女が、顔を険しくしていた。


 ある場所では、巨大な斧を持った少年が笑みを浮かべていた。


 ある場所では──────────。


『せ、制限時間となりました! これにて、生徒会総戦挙の決着とします!』


 一位 神原雪也 59025点 生存ボーナス +2025点


 二位 日那木奈々美 26825点 生存ボーナス +2009点


 三位 美海晴佳 26222点 生存ボーナス +1920点


 四位 河南悠理 28592点 生存ボーナス +1202点 能力による過剰なドーピング行為 減点 -10000


 五位 祭野水樹 16600点 生存ボーナス +1191点



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