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能力者たち

 深雪さんとの激闘を終え、岩になって傷を癒していた所に現れた、ヴァルキリーズメンバーの間ではめんどくさいことを言うことで知られる白川睦美さん(その他2人)と、もっとめんどくさい問題児コンビ・早海愛子さんと並木ちはるさん。このゲーム、ホントにヴァルキリーズメンバー全員でプレイしてるんだろうな? どうしてこう、ひとクセもふたクセもあるメンバーばかりに会うのだろう? 気が滅入る。


「はーい、カスミちゃん。ひざの調子はどう?」ちはるさんはいつものようにニヤニヤ笑いながら、手を振る。そして、次に睦美さんの方を見て。「こっちは……最近ちょっと干され気味の睦美ちゃんに亜紀ちゃんに恵利子ちゃんか。どうしたの? 怖い顔して。3人で寄ってたかって、カスミちゃんイジメでもしてた?」


「うっさいわね、関係ないでしょ!? 何しに来たのよ!?」


 干され気味と言われたのが気に障ったのか、睦美さん、鋭い目でちはるさんを睨む。もっとも、そこは武術の腕前はイマイチな睦美さん。ちはるさんを威圧することはできなかった。


 しかし、この2人、ホント、何しに来たんだろう?


 海岸で岩になってこの2人をやり過ごした時、確か、亜夕美さんや燈との戦いに備え、他のプレイヤーを倒して能力カードを集める、と、言っていた。今、この広場に飛んできたのは、誰かを倒して手に入れたカードの能力だろうか? それとも、もともとどちらかが持っていた能力だろうか? なんでまた、あたしの所に飛んできたんだ? まさか、あたしの能力を狙ってるとか? さっきの特殊ミッションとサドンデスの様子は、TAを通じて見ることができたはずだ。この能力、意外と役に立つからな。狙われても不思議じゃない。くそう。どうするんだよ、これ。もう岩になってやり過ごすことはできないし、さっきの空飛ぶ能力があるから逃げることもできない。当然、戦って勝つのもムリだろう。エリの計算によるとこの2人、戦闘力はそれぞれ5万くらい。深雪さんの倍は強いんだ。仮に睦美さんと協力したとしても、全く歯が立たないだろう。今度こそ、ホントに絶体絶命だ。


「――まあ、そんなに警戒しないで」愛子さんが言った。「別に、あなたたちと戦いに来たわけじゃないから」


 ……戦いに来たわけじゃない?


 予想外の言葉だった。もちろん、その言葉を無条件で信じることはできないけど。


「ふん。調子のいいこと言って」と、睦美さん。「どうせ、油断したところを襲う気でしょ? 分かってるんだから」


「アホか」と、ちはるさんが鼻で笑う。「お前らみたいなザコ相手に、そんなセコイ手、使うかよ」


「ザ……ザコですってぇ?」睦美さんが不快感をあらわにする。「今まで1度もランキングで10位以内に入ったことが無いあんたらに、ザコだなんて言われたくないね!」


「はん。ランキングなんて関係ないだろ。ここじゃ、強い者がすべてさ。なんなら、試してみるか?」


 ちはるさんが1歩近づく。後ずさりする睦美さんたち。ちはるさんの言う通りだ。ランキングはあくまでもアイドルとしての人気投票であり、強さのランキングではない。マーシャル・アーツの達人ちはるさんと比べれば、あたしたちなど、確かにザコでしかない。


「やめなさい、ちはる」と、愛子さんが言った。「戦いに来たんじゃないって言ってるでしょ?」


 ちはるさんは、「へいへい」と、手を振り、後ろに下がった。


「戦いに来たんじゃなかったら、何の用よ?」睦美さんは剣を構えたまま言う。


「まあ、あなたも落ち着きなさい。別に、悪い話じゃないんだから」


 腰に手を当てる愛子さん。普段とは打って変わって、落ち着いた口調だ。確かに戦う気はないようだ。まあ、だからこそ、余計に不気味なんだけど。


 愛子さんは続ける。「あなたたち、このゲームに勝ち残りたくない?」


 ……なんだ? 愛子さん、何を言うつもりだ? 真意が見えてこない。睦美さんたちも戸惑い、顔を見合わせている。このゲームに勝ち残りたくないか? そりゃ、勝ち残りたいけど、だから、何だと言うのだろう? まさか、必勝法でもあるとでも言うのだろうか?


 その、まさかだった。


「このゲームには必勝法……とまでは言わないけど、非常に有利に進める方法があるの。聞きたくない?」


 ……マヂかよあいこたむ。必勝法とまでは言えないけど、非常に有利に進める方法……聞きたい聞きたい! あたしみたいな戦闘力1200でも勝ち残れるような方法があるなら、ぜひ聞かせてください!


「フン。そんな怪しい話に乗るバカ、いると思う?」と、睦美さん。悪かったな、バカで。


「いいよ、別に。聞きたくないなら、それでも」ちはるさんが、また1歩前に出た。「まあ、その場合、もうお前らに用はないから、強制的に能力カードになってもらうだけだけどね」


 強制的に能力カードになってもらう……つまり、殺すということか。


「どうする? あたしたちは、どちらでもいいわよ?」不敵に笑う愛子さん。


 どうする? と言われても、答えは決まっているだろうな。確かに、冷静に考えれば怪しさ満点だけど、愛子さんたちと戦って勝てる見込みがない以上、話を聞くしかない。間違いなく何かウラがあるだろうけど、今すぐ殺されるよりはマシだろう。


 …………。


 たぶん。


「――分かったわ」と、睦美さん。観念したか? と、思ったら。「あんたみたいな干されにバカにされたんじゃ、ランキング10位の白川睦美様の名が廃るわ! やってやる!」


 睦美さんは、剣先をちはるさんに向け、叫んだ。


「フン。勝てるとでも思ってるのか?」ちはるさん、剣先を向けられても動じる様子もない。「バカなヤツだとは思ってたけど、ここまでとはね」


「なんとでも言いなさい。確かに、まともに戦ったら、あんたらの方が強いだろうけどね。でもあなたたち、これが能力バトルだってこと、忘れてるんじゃない? ――恵利子!」


 睦美さんの呼びかけに応え、恵利子がまた広場の岩に手のひらを向けた。能力を発動する。途端に、パーン! と、岩がはじけ飛んだ。


「どうだ! 恵利子の能力、何でも粉々にして弾き飛ばすんだ! あなた達もああなりたくなけりゃ、さっさと消えなさい!」睦美さん、まるで自分の能力のように言う。


 ……てか、さっきは『岩』を吹き飛ばす能力だ、って、言ってたような。人も吹き飛ばせるのかな? だったら、問答無用でちはるさんたちを吹き飛ばせばいいのに。まあ、たぶんハッタリだろう。


 それでも、ちはるさんには効いているようだ。顔からあのニヤニヤした笑いが消えている。逆に、睦美さんの方が勝ち誇った顔になった。


「でもその能力、プレイヤーには使えないでしょ?」


 そう言ったのは、愛子さんだった。


 睦美さんの顔が、一瞬凍りついた。でも、すぐに元の表情に戻り、「だったら、愛子の身体で試してみる?」


「ハッタリはやめなさい。あたしには分かってるから」愛子さんには全く動じた様子はない。「『能力名・デストラクション。無機物(鉄、岩など)を破壊する。一部、ゲームの進行に著しく影響するものは破壊できない』でしょ? 残念だったわね。人間の身体は有機物だから、その能力は効かない。本来は、金属製の剣や鎧を破壊するための能力。でも、ナイトクラスのメンバーには、クラス能力『ウェポン』がある。ナイトの装備している武器アイテムはいかなる能力の影響も受けないから、破壊できない。せいぜい、金属製の鎧を破壊するか、シスターやソーサラーの武器を破壊するくらいね。可哀そうに。それ、ハズレの能力よ」


 愛子さんの言葉に、恵利子の顔はみるみる青くなっていった。どうやら、本当のことらしい。睦美さんも悔しそうに奥歯をかみしめている。ちはるさんの顔にも、あの不快な笑みが戻った。


「恵利子の能力がダメでも、まだ、あたしと亜紀の能力があるわ!」睦美さんが再び剣を構えた。「行くわよ!」


 後ろの亜紀と恵利子も剣を抜いた。


「やめときゃいいのに。しょうがないわね」呆れ声の愛子さん。


「いいよ。愛子は下がってな。あたし1人で十分だから」ちはるさんが前に出た。3対1でも全く臆した様子はない。


「バカにして……後悔するわよ」と、睦美さん。「亜紀! 恵利子! 懲らしめてやりなさい!」


「は!? あたしたちですか!?」ビックリ顔の2人。


「当たり前でしょ! あんた達、後輩なんだから!」


「そっちこそ先輩なんだから、見本を見せてくださいよ!」


「なによ! 後輩のくせに、先輩の命令が聞けないの!?」


「こんな時に先輩後輩なんて関係ないでしょ! 立場が悪くなったからって先輩面しないで!! そんなんだから、三期生に称号とられるんですよ!」


「ああ!? それこそ今は関係ないでしょうが!! そっちこそ称号持ったことないクセに、偉そうに言うな!!」


 ……ダメだこりゃ。仲間割れ始めちゃった。まあ、所詮は寄せ集めの3人組。こんなものだろう。


 ちはるさんは、やれやれ、という感じで頭を掻くと。


 地面を蹴り、走った。亜紀に向かっている。


「――ひぃ!」


 怯えた悲鳴とともに、剣を振るう亜紀。もちろん、そんな情けない一撃がちはるさんにヒットするはずもない。虚しく空を斬る剣。ガラ空きとなった亜紀の側頭部めがけ、ちはるさんの右足が飛んだ。完璧に捉えた――そう思った瞬間。


 ピタリ、と、ちはるさんの右足が止まる。亜紀の側頭部に触れるか触れないかの、ギリギリのところだった。ふわっと、蹴りの風圧で、亜紀の髪が揺れた。


「はい、1人目」


 ちはるさんは脚を下げると、今度は恵利子に向かって走った。恵利子は腰が引けながらも、何とか剣を突き出した。もちろん、あっさりとかわされる。ちはるさんはくるりと恵利子の右側に回り込み、後頭部に向けて後ろ回し蹴りを繰り出した。


 しかし、これも完璧に捉えていたけれど、恵利子に触れる寸前で止まった。


「はい、2人目」


 ちはるさんは脚を下ろし、今度は睦美さんに向けて走る。覚悟を決めたのか、睦美さんは剣を振り上げ、前に出た。ちはるさんが間合いに入った瞬間、剣を振り下ろす。もちろん、あたしが見てもへなちょこな一撃がちはるさんにヒットするはずもなく。がつん! 睦美さんの剣は、虚しく地面を叩いた。睦美さん、驚愕の顔。その顔面に向かって、ちはるさんの左フックが飛んで来る。


「――――!」息を飲む睦美さん。


 ピタリ。これも、睦美さんの驚愕の表情の手前で止まった。


「はい、3人目」ちはるさん、バカにしたような口調。


「これで分かった?」と、愛子さん。「ちはるが寸止めしなきゃ、あなた達は3人とも、ボン! 今頃青い炎の魂状態。フェイズ終了までもう時間もないし、ゲームオーバーはほぼ確実。どう? 話を聞く気になった?」


 沈黙する3人。さすがにここまで実力差を見せつけられたら、話を聞くしかないだろう。


 ……と、思ったら。


「バカにするなって、言ってるだろ!」


 がし。睦美さんが、右手でちはるさんの左腕を掴んだ。


「なに? 力比べでもしようっていうの?」相変わらず余裕の表情のちはるさん。


 でも、次の瞬間、ちはるさんの表情が凍りつく。


 同時に。


 ちはるさんの左腕も、凍りついた!


 比喩じゃない。ホントに、ちはるさんの左腕が、凍り始めたのだ!


「――――!」


 ちはるさんは睦美さんの胸を蹴る。ヴァルキリーズ・アーマーを着ているのでたいしたダメージではないだろうけど、手を放し、よろよろと後ずさりする睦美さん。


 ちはるさんは間合いを離し、左手を確認した。表情が歪む。見間違いではない。確かに、ちはるさんの左腕は、肘から先が凍っていた。


「どうだ!」睦美さんが嬉しそうに叫ぶ。「あたしの能力だ。なんでも凍らせることができる。これでもう、あんたの左腕は使えないね!」


「――なるほど。『アイス・ジャベリン』ね」愛子さんが、相変わらず落ち着いた口調で言う。「『触れたものを凍らせる。氷を槍状態にして投げることも可能』だったわね。深雪の能力『ライトニング・スピア』の氷版、と言ったところかしら」


 睦美さん、「何でそれを?」という表情。でも、すぐに顔を引き締め。「フン。どういうわけか能力について詳しいみたいだけど、関係ないね。どうする? あたしが触れた物は、たちまち凍りつくんだよ? その凍った左腕じゃ、ちはるはもう戦えない。愛子だって、柔道の技を掛けるなら、あたしに触れなくちゃいけない。でも、触れた瞬間凍らせてやる!」


 睦美さんの能力を見て、亜紀と恵利子の顔にも笑顔が戻る。


「さ……さすが睦美さんです!」


「信じてましたよ!」


 調子のいいことを言う。


 でも、睦美さんの言う通りだろう。触れた物を凍らせるなんて、柔道家の愛子さんには侮りがたい能力だ。ちはるさんも、左腕を凍らされては、さすがに厳しいはずだ。


 しかし、愛子さんの顔から、笑みは消えていなかった。


 ちはるさんも、しばらく渋い顔で左腕をさすっていたけど、やがて笑顔が戻った。「――だから、何だっつーの」


「何だ……って。だから! 凍らせる能力よ! 分からないの!?」


「なあ、愛子。もういいだろ?」ちはるさんが愛子さんに言う。「めんどくさいから、やっちゃおうぜ」


「そうね。ちょっともったいないけど、カード3枚で我慢するわ」


「と、いうわけで――」睦美さんの方を見る。「交渉決裂だ。悪く思うなよ」


「ハッタリはやめなさい! 左腕が使えなきゃ、さすがにこっちも負けないわよ!」3人で剣を構える。


「フン。お前ら相手に左腕なんかいるかよ。なんなら、右も使わないでやるよ」


 そう言うと、ちはるさんは両手をショートパンツのポケットにしまった。


「……バ……バカにするなって言ってるだろ!」怒りをあらわにする睦美さん。


「睦美さん、落ち着いてください」恵利子が言った。「どうせハッタリです。何もできませんよ。ここは、あたしに任せてください」


 ……恵利子のヤツ、ホントに調子がいいな。さっきまで怯えて逃げ腰だったのに、形勢が逆転したと見るやコレだ。


「さあ、かかってきな――」


 ――さい、と、言うことはできなかった。


 ちはるさんは、一瞬で恵利子との間合いを詰め。


 右足を振り上げ。


 恵利子の右ひざを狙い。


 上から踏みつけるような蹴りを繰り出した!


 ボキッ!


 ――という音が、ここまで聞こえてきたような気がした。


 恵利子の右ひざが、反対側に曲がっている。


 ほんの1時間ほど前の、あの海岸での、気が狂いそうな痛みを思い出す。


 ちはるさんの本気の蹴りが、恵利子のひざを砕いていた!


 崩れ落ちる恵利子。


 でも、その前に。


 ちはるさんは、もう1度足を振り上げ。


 今度は、反対側のひざを踏みつけた!


 ボキッ! もう1本のひざも、破壊される。


 当然立っていられない恵利子は、前のめりに倒れる。


 が、その顔が、地面に触れる瞬間。


 ちはるさんの右足が蹴り飛ばした!


 恵利子の身体は、2回転しながら、数メートル吹っ飛び、地面に倒れた。


 ――が、青い炎にはならない。


 そう。人は、意外とタフだ。両膝を折られ、顔を蹴られたくらいでは、死なないのだ。


「――――!!」


 言葉にならない悲鳴を上げる恵利子。右ひざ1本折られただけでも気が狂いそうな痛みだったのに、両ひざともなれば、その痛みは想像もできない。死んだ方がマシかもしれない。


「――誰が、何もできないって?」


 両手をポケットに入れたまま、ゆっくりと恵利子に近づくちはるさん。とどめを刺す気だ。恵利子は激痛にのた打ち回るだけで、何もできない。


「――この!」


 睦美さんが両手を頭上に掲げた。手が、薄く光っている。次の瞬間、手のひらから氷が現れた。それが刃となって、2メートルほどの長さになる。


 ……愛子さんの言った通りだ。睦美さんの能力は、振れた物を凍らせるだけでなく、氷を槍上にして投げることもできるんだ。


 睦美さんは大きく振りかぶり、ちはるさんに向かって、氷の槍を投げた!


「――おっと」


 ちはるさんは軽く地面を蹴って左に跳び、氷の槍をかわした。


 その氷の槍が、激痛に苦しむ恵利子の胸に、深々と突き刺さった!


「――――」


 一瞬、両足の痛みを忘れ、何が起こったか分からないという表情で、自分の胸に突き刺さった氷を見る恵利子。


 次の瞬間。


 恵利子の胸の、氷の槍が刺さった部分から、まるで水面に石を投げ込んで広がる波紋のように、恵利子の身体が凍っていった。


 そして――。


 ボン!


 小さな爆発。


 その後には、青い炎と、カードだけが残った。


「くそ! よくも恵利子を!」


 怒りに顔をゆがませる睦美さん。ルール上、今のキルは睦美さんに付くはずだけど、まあ、スレイヤーじゃないから関係ないか。睦美さんは再び氷の槍を作り、投げた。


 しかし、再び軽く地面を蹴り、氷の槍をかわすちはるさん。まるで、ダンスでも踊っているかのような、軽やかなステップだ。


「フン。素人がそんなもん投げて、当たるとでも思ってるのか?」挑発するように笑う。


「う……うるさい!」


 もう1度氷の槍を作り、ちはるさんめがけて投げる。


 しかし。


 ちはるさんは右手をポケットから出すと、飛んで来る氷の矢を、受け止めた!


「――――!!」睦美さん、驚愕の表情。


 ちはるさんは大きく振りかぶると。


「ほらよ!」


 睦美さんに向けて、氷の矢を投げ返した!


 それは、睦美さんが投げた時よりも数倍速いスピードだった。


 睦美さんは、逃げることもできず。


「――――」


 その胸に、深々と氷の矢が突き刺さっていた。


 次の瞬間、睦美さんも凍り始める。


 しかし、その前に。


 くるっと身体を回転させながら、ちはるさんが間合いを詰めた。そして、遠心力を利用し、下から突き上げるような格好で、睦美さんの胸に、右の裏拳を叩き込んだ!


 ぱりん、と。


 それは、氷の彫刻が砕け散るのと同じだった。


 陽の光を反射し、キラキラと、まるで宝石のように、氷の欠片が舞い散る。


「あ! 右手使わないんだった! ゴメン! 今のは無し!」


 ちはるさんが言うけど、当然、無しになるわけもなく。


 ボン! 氷の欠片は爆発し、青い炎とカードになった。


「あちゃー。遅かったか。悪いことしたな」言葉とは裏腹に、全く悪びれた様子もないちはるさん。「――さて、後は亜紀ちゃんだけだね。どんな能力を見せてくれるのかな?」


 ちはるさんに睨まれ、亜紀は、1歩後ずさりする。


 その姿に満足したかのように、ちはるさんは再びポケットに手を入れ、スキップで亜紀に近づいて行く。


 …………。


 ――と、亜紀が笑った。


 何だ? 何かするつもりか? ちはるさんも警戒し、表情が引き締まる。


 次の瞬間。


 亜紀の姿が、消えた!


 いきなりのことで、あたしも、ちはるさんも、何が起こったのか分からなかった。本当に、煙のように、亜紀の姿が消えたのだ。


「――さよなら、ちはるさん、愛子さん」


 亜紀の声だ。ちはるさんもあたしも広場を見回すけど、やはり姿は見えない。ただ、ざざざ、と、草を踏む音だけが聞こえ、そのまま遠ざかって行った。


「へぇ。『アクティブ・カモフラージュ』か。やられたわね」1人、落ち着いている愛子さん。「体が半透明になる能力よ。よく見れば見えるんだけど、いきなりだったから、見逃しちゃったわね」


「じゃあ、どこかで攻撃の機会を狙ってるってのか!?」両手をポケットから出し、構えるちはるさん。


「安心して。アクティブ・カモフラージュ中は、一切の攻撃行動はできない。さすがに透明のまま攻撃できると、強力すぎるからね」


「……と、いうことは、逃げられたか。くそ。亜紀なんかにしてやられるとはな」


「しょうがないわね。ちなみにアクティブ・カモフラージュの効果は最大2分間で、その後5分間は使えなわ。まあ、亜紀のことは後にしましょう。それより、能力カード、忘れずに拾っておきなさい」


「はいよ。えーっと――」ちはるさんは睦美さんの魂の側に落ちている能力カードを拾う。「アイス・ジャベリンと、後は……あれ?」


 恵利子の魂の近くを見て、声を上げるちはるさん。


 そこに、あるはずのカードが、無い。


「おかしいな。誰も所持していないカードが消えるのは、10分じゃなかったっけ?」


「ええ、そうよ。まだ5分も経ってないから、消えるはずがない。あたしも拾ってないから、後は……」


 2人が、あたしを見る。


「――カスミちゃん。ネコババは良くないねぇ」ちはるさんがイジワルそうに笑う。


 やっぱり、バレたか。


 そう。さっきちはるさんが亜紀を狙っている間に、あたしはこっそり、恵利子の能力カードを拾っておいたのだ。


「まあ、あなたにしたら、その能力は天敵だものね」愛子さんが笑う。「いいわ。そのカードは、あなたにあげる」


「おい。いいのかよ?」と、ちはるさん。


「別に構わないわ。この娘は、あたしたちの話を聞きたいみたいだし。あたしたちが恵利子のカードを持ってたんじゃ、落ち着いて話を聞けないでしょうから」


「まあ、お前がいいなら、いいけどな」ちはるさんは睦美さんのカードをポケットにしまった。


「さて、カスミ。話は聞くんだよね? どう?」


 どうもこうも、ここまで実力の差を見せつけられたんじゃ、聞くしかないだろうな。


「はい。聞きます。ぜひ、聞かせてください」


「いい娘ね。睦美なんかより、よっぽど見どころがあるわ」ぱち、っと、ウィンクをする愛子さん。


 ……なんかこの人、さっきからキャラが違ってないか? こんなウィンクをするような人じゃなかったと思うけど。喋り方もやけに落ち着いてるし、不気味すぎて吐きそうだ。


「何?」


「いえ、何でも。それより、『このゲームには、必勝法とまでは言わないけど、非常に有利に進める方法がある』って言ってましたよね? ホントに、そんなのあるんですか?」


「ええ、そうよ。それも、とても簡単」愛子さんは、得意満面の表情で言った。「チームを組むの」


 …………。


 ……はい? 





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