表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/151

越えられない壁

 特殊ミッション告知からわずか1分。何もできないまま、強制的にミッション会場へ転送させられたあたし。細身の剣とヴァルキリーズ・アーマー(ノーマル)、そして、岩になる能力のみで、強者ぞろいのヴァルキリーズセンターポジション経験者たちと戦わなければならない。脱落するのは1人だけ。これ、絶対あたしを落とそうとしてるだろ? もう、悪意しか感じないな。


 転送させられたのは、木々が生い茂る森の中だった。幸いなことに、ところどころに岩がある。能力は使えそうだ。今はそれだけが望みだからな。


 あたしとほぼ同時に、深雪さん、亜夕美さん、燈、エリの4人も現れた。ヴァルキリーズのランキングでは上位の常連である。なんでこんなメンバーの中に、あたしなんかが入ってるんだよ。この特別称号争奪戦の様子は、地上波のテレビで全国に生放送されている。ヴァルキリーズファンの人はともかく、一般の人は今、「誰だコイツ?」と思っているに違いない。こういうのをたぶん、公開処刑と言うのだろう。


 集まった5人はそれぞれお互いに目を合わせ、苦笑いを浮かべた。これから行われるミッションの内容は分からないけれど、まあ、まず間違いなくみんな敵同士だ。警戒せずにはいられない。


「カスミ! 良かった! 無事だったんだね!」


 そう言ったのは、さっきあたしと夏樹を見捨てて逃げ出したエリだった。嬉しそうな笑顔でやって来た。


「無事じゃない! あたしは愛子さんに足を折られたし、夏樹は絞め落とされて死んじゃったよ! この裏切り者!!」


「ゴメンゴメン。でも裏切ったんじゃないよ。愛子さんとちはるさんのことだから、あたしが逃げれば、2人とも追いかけてくると思ったんだよ。あたし、カスミたちを助けようとしたのよ?」


 ウソつけ。絶対コイツ、1人だけ助かろうとしてたぞ。


「そんな怖い顔しないでよ。悪かったってば」エリは、全然悪びれてないような顔で笑う。「お詫びに、このミッションで協力するから」


 もう2度と信用するか。プイッ、と、あたしはそっぽを向いた。


「センター経験者のみなさん、特殊ミッションへようこそ。これより、ルールの説明を行います」


 森の中に声が響き、目の前に、例の案内人が現れた。メンバーの表情が引き締まる。ルール説明は重要だ。ゲームが始まる前の説明もそうだったけど、案内人が説明することはもちろん理解しないといけないけれど、説明されないことにも注意する必要がある。何でもない説明の中に、実は重要なヒントが隠されているからな。そこに気づくのと気づかないのとでは、大きな違いがある。


 案内人は説明を始めた。「現在この森一体のエリアは封鎖されており、ここにいる5人以外のプレイヤーは、侵入はもちろん、エリア外からの能力やアイテムを使った攻撃も、一切行えません。当然、ミッション終了まで皆さんがエリア外に出ることもできませんし、エリア外のプレイヤーを攻撃することもできません。ただし、このミッションの様子は、全てのプレイヤーがTAを通じて見ることができます」


 さっそく来たぞ。このミッションの様子は全てのプレイヤーがTAを通じて見ることができる。何気ない説明だけど、ここは非常に重要だ。みんなが見ている。つまり、能力を使ったら、みんなに知られる可能性があるわけだ。少し前に海岸でエリも言ったけど、他のプレイヤーに能力が知られるメリットは無い。むしろ、あたしの場合は大きなアドバンテージを取られることになる。岩になることができると知れ渡ってしまうと、カモフラージュの効果は著しく低下するだろう。くそう。これも、あたしを陥れようとする運営の策略か?


 ……そう言えばあたし、さっき海岸で、エリに能力明かしちゃったんだよな。ノリに任せて思わずやっちゃったけど、何という失態。


 あたしはエリの側に立ち、そっと言った。「ねぇ、エリ。あたしの能力のことだけど――」


 エリはパチッとウィンクした。「大丈夫。他の人に、言ったりしないわよ。だって、あたしたち、生まれた時は違えど死ぬ時は同じ、互いに志を同じくし、同じ目的に向かって戦うことを誓った仲間じゃない」


 ……疑わしい限りだけど、今は信じるしかない。はあ。なんでよりにもよってエリなんかに能力を明かしちゃったんだろ? 自己嫌悪。


 落ち込んでる場合じゃないな。案内人の説明は続いている。集中集中。


「――ミッション中は限定能力・リスポーンが付与されます。すでに発動していますので、TAにて確認してください」


 そう言われたので、みんなTAを起動した。




限定能力:リスポーン

最大HPが50になる。死亡後、10秒で、一定の復活ポイントに復活する。死亡しても能力はカード化されない。




 だってさ。


 パラメーターを確認すると、確かに、HPが50になっていた。そう言えば、愛子さんに折られた右ひざの痛みも消えている。最大HPが下がったことにより、HPが全快になったから、痛みが消えたんだろう。これで少しはまともに戦えるかな。まあ、本当に少しだけど。


「ミッションは『スレイヤー』。参加者全員が敵同士のバトルロイヤルです。今回のミッションでは、全員にリスポーンの能力がありますので、死亡しても、何度でも生き返ることができます。この能力を使い、皆さんには、他のプレイヤーを倒した回数・キル数を競っていただきます。制限時間は10分。最もキル数が多いプレイヤーが優勝です。最下位のプレイヤーは、フェイズ終了を待つことなく、その時点でゲームから追放されます」


 他のプレイヤーを倒した回数・キル数を競うルールか……これは、ちょっと困ったことになったぞ。


 最大HPが低くなったのは、ゲームを盛り上げるためだろう。HPが少なければ、それだけキル数が多くなるからな。これは、あたしにとっては良い設定だ。たぶん、燈とか亜夕美さんはあたしなんかよりはるかにHPが高いだろうからな。低い数値に設定してくれるのはありがたいんだけど、問題は、このルールでは、あたしの能力は役に立たないということだ。岩になっていれば他のプレイヤーに気づかれず、倒されることは無いけど、逆に、他のプレイヤーを倒すこともできない。キル数は0のまま。敗退決定である。このミッション、本気であたしを潰すつもりじゃないか?


 案内人は説明を続ける。「――スレイヤーのスタートは5分後の3時15分とします。それまで、皆さんはエリア内を自由に探索していただいて構いません。スレイヤー開始までは一切の戦闘行為は行えませんので、ゆっくりと探索してください。エリア内には、戦闘を有利に進めるためのアイテムがいくつか配置されてあります。これらは、エリア内アイテムと呼びます。エリア内アイテムは、拾っても30秒後に同じ場所に出現し、何度でも拾うことができますが、死亡状態になった時点で、所持しているエリア内アイテムはすべて没収されます。もちろん、特殊ミッション終了後もすべて没収されます。また、すでにエリア内に配置されてありますが、開始までは拾うことができません」


 エリア内アイテム! 戦闘力も能力もショボイあたしにとって、それは非常に重要だぞ! きっと、ロケットランチャーとかスナイパーライフルとか戦車とかがあるに違いない!


「このゲームのアイテムに銃火器はありません」


 そう言ったのはあたしのTAの案内人だ。うるさいヤツだな。わかってるっつーの。


「以上でルールの説明は終わりますが、何か質問はありますか?」


 TAじゃない方の案内人が言う。エリが手を挙げた。「競うのはキル数だけですか? 倒された回数は、勝負には関係ないんですか?」


「はい。競うのは、あくまでもキル数だけです。倒された回数・デス数は、勝敗に影響しません」


 倒されてもペナルティは復活までにかかる10秒という時間だけ。基本的には、倒されることを覚悟で突撃して倒しまくるのがよさそうだな。


 案内人は他に質問が出ないのを確認すると、続ける。「ルールの確認は各TAでも行えますので、ご不明な点はその都度確認してください。それでは、ミッション開始まで、しばらくお待ちください」


 案内人の姿が消えた。


 メンバーはお互い目を合わせ、再び苦笑いをする。


「――まあ、勝っても負けても、お互い恨みっこなしということで、正々堂々と戦おう」亜夕美さんが言った。


「そうですね」と、エリが同意する。「それでは、それぞれの健闘を祈って」


 エリが右手を出した。5人で円陣を組み、中央で右手を重ねる。気合の掛け声とともにその手を一斉に挙げ、そして、1度解散となった。


 あたしは、思い思いの方向へ歩いて行くメンバーの姿を確認する。皆、それぞれ得意の武器を持っている。


 ランキング1位の深雪さんは剣道初段だ。武器は、エリや夏樹が使っていたものと同じ、大きめの剣を持っている。防具は、あたしと同じアイドル・ヴァルキリーズの鎧だ。ただし、深雪さんはランキング1位のブリュンヒルデなので、あたしとは違い、赤を基調にした、ブリュンヒルデオリジナルのデザインである。


 ランキング2位の亜夕美さんは、高校時代、薙刀で全国制覇をしたこともあるほどの達人。当然武器は薙刀だ。リーチの長さは長所でもあり短所でもある。遠い間合いからの攻撃は脅威だけど、間合いを詰めれば、その長さは逆に仇となるだろう。身に着けているのはヴァルキリーズの鎧ではなく、純白の胴着に胸当て、そして、紺の袴と頭に鉢巻と、薙刀使いらしい格好だ。胸当て以外の防具はつけていない。防御力よりも素早さを重視しているのだろう。


 ヴァルキリーズ最強忍者の燈は、背中に短めの刀を背負っている。いわゆる、忍者刀というヤツだろう。リーチは短いけど忍者特有の人並み外れた瞬発力がそれを補って有り余る。防具らしいものは身に着けておらず、純白のノースリーブの着物にボトムは前後の垂れだけ。露出の多い、いわゆるセクシーくのいちの格好だ。


 武術もできる白衣の天使、藍沢エリは、海岸で会った時と同じ、大きめの剣とヴァルキリーズ・アーマー(ゲルヒルデ)だ。武術は剣道。段位こそ持っていないけど筋はいい。ただし、エリの真の武器は剣ではなく悪知恵だ。これこそが、彼女がヴァルキリーズで最も危険な女とされている理由なのだから。


 あたしの見立てでは、このメンバーの戦闘力の順位は、




1.一ノ瀬燈


2.本郷亜夕美


3.神崎深雪


4.藍沢エリ


5.前園カスミ




と、なるだろう。まあ、ヴァルキリーズのファンならだれでも推測できる順位だけど、問題は、それぞれどのくらいの戦闘力の差があるかだ。


 ちょっと、訊いてみるか。


 あたしは、そっとエリの方へ走って行った。さっきの海岸の出来事での貸しがあるから、それくらいは教えてもらってもいいだろう。


「ねえ、エリ、ちょっと、いい?」声をかける。


「ん? 何?」振り返り、いつものおすまし顔を向けるエリ。


「エリって、戦闘力いくつあるの?」


 単刀直入に訊く。エリは少しきょとんとした顔になったけど、すぐに教えてくれた。「戦闘力? えーっと、18000だけど?」


 18000か。やっぱり、あたしより高かったな。


 …………。


 ちょっと待て。1万8千だって?


「何? どうかした?」不思議そうな顔のエリ。


「いや、1800の間違いじゃないの?」


「ううん。1万8千よ。間違いない」エリは当然のように答えた。


 ……まじかよエリたむ。


 あたしの戦闘力、1200だぞ? エリって、そんなに強かったのか?


「だから、どうしたのよ?」と、エリ。


「あ、いや、エリって、実はすごく強かったんだんって、あはは」


「そう? 強いってことは無いんじゃない? 深雪さんは、2万4千って言ってたし」


 2万4千……あたしの20倍強いってことか。


「あたしの計算だと――」と、エリが言う。「愛子さんやちはるさんは、5万くらい、亜夕美さんは、10万超えてるんじゃないかな? ちなみに燈は、さっき見せてもらったけど、53万だった」


 …………。


 なにその惑星を破壊できそうな戦闘力。ほとんどバケモノじゃん。


 てか、あたしって、ヴァルキリーズでそんなに弱かったの!?


「まあ、あんまり気にしないことだね」エリは、イタズラっぽく笑った。「ゲーム開始前の説明の時に言われたと思うけど、戦闘力は、あくまでも肉弾戦のみの数値で、能力は含まれないんだから」


 その能力が戦闘では役に立たないんだよ。知ってるだろ。


「それに」と、エリは続ける。「この戦いでは、HPが全員一律50になるから、不意をつけば、亜夕美さんや燈も倒せるって。要は、戦略よ、戦略」


 そりゃあ、戦闘力1万8千もあればそう思えるかもしれないけどな。こっちは1200なんだぞ。どうやってその差を埋めるんだよ。


 ……とは言えないので、あたしは「そうだね」と笑って、エリと別れた。


 くそう。訊くんじゃなかった。自分の無力さを知っただけだったか。敵の情報を知ることは、戦闘を有利に進めるうえで非常に有効だけど、時に戦意を喪失させることにもなる。そして、戦意の喪失は、己の死期を早めるだけだ。


 フン。こんなことで諦めるもんか。諦めたらそこで試合終了、と、昔の偉い人も言っている。まだ試合は始まってすらいない。最後まで、自分にできることをやってやる。


 さて。


 戦闘開始は5分後だけど、もうすでに戦いは始まっていると言っても過言ではない。


 ゲーム開始までのエリア内探索。これは、非常に重要だ。地形を把握して戦闘に有利な場所、不利な場所を知っておくのはもちろんだし、エリア内にはアイテムが配置されている、と、案内人は言ってた。しかも、拾っても30秒で復活するから、何度でも拾えるらしい。つまり、強力なアイテムは、場所をしっかりと把握しておいて、何度でも拾いに行けば、それだけ有利に戦闘を進められるわけだ。戦闘力も能力も低いあたしにとって、このエリア内アイテムは唯一の生命線だからな。


 よし。そうと決まればのんびりとしてはいられない。あたしは少しでもたくさんのアイテムを見つけるため、ダッシュでエリア探索を始めた。




 そして、5分後。


「――それでは只今より、センターポジション経験者による特殊ミッション・スレイヤーを開始します」




 エリア内に案内人の声が響き、特殊ミッションが始まった――。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ