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Day 5 #07

「わ……若葉先輩!? 深雪先輩に、亜夕美に先輩に、舞先輩まで、どうしたんですか!? そのケガ!?」


 操舵室に戻ると、真っ先に駆けつけた美咲が、驚いて声を上げる。その声を聞いて、由香里や睦美たちも集まって来て、みんな一様に驚いた。まあ、そりゃ驚くよな。あたしは足首と手のひらをロープで擦りむいたくらいだけど、深雪は自慢の可愛い顔がボッコボコの岩みたいな状態。舞は鼻が潰れ、左頬が耳まで裂けた口裂け女状態。亜夕美に至っては深雪と同じ顔プラス右脚血まみれなのだ。ゾンビよりもよっぽどヒドイ姿だ。


「とりあえず、みんなを治療しないといけないから、エリと祭を呼んで」


 あたしがそう言うと、美咲は頷いて奥へ走って行った。


 三人をソファーに座らせる。すぐに祭がやって来た。一番状態が悪いのは亜夕美だ。祭は血に染まった袴をハサミで手早く切った。傷跡があらわになり、みんなが一斉に短い悲鳴を上げた。


「……こ……これ、まさか、銃創ですか!?」祭が目を丸くする。


「あはは。まあ、そうだね。理由は後で説明するから、とりあえず治療を」笑ってごまかそうとするあたし。


「治療って……あたし、銃創の治療なんかしたことないんですけど!?」


 まあ、そうだろうな。アメリカとかならともかく、銃の規制が厳しい日本で、しかも資格を取った後、病院ではなくアイドル・ヴァルキリーズに入った祭に、そんな経験があるとは思えない。


「とりあえず、火薬で傷口を焼くとか、どう? なんか、ランボーがそんなことやってたと思うけど」


「それは映画の話です! それに、どこに火薬なんてあるんですか!?」怒る祭。口調も変わっている。普段おとなしいこの娘がこんな風になるなんてビックリだ。相当ヤバいんだろうな。


「銃創にはタンポンを詰めるって、なんかのゲームでありましたけど、持ってきましょうか?」いつの間にか戻って来た美咲が、また訳の分からないこと言い出した。どんなゲームだよ、それ。


「変なこと言ってないで、早くエリを連れてきて。あの娘ならなんか知ってるかもしれないし、銃創の治療経験があっても不思議じゃないし」


「それが……いません」


「はぁ? いない? そんなわけないでしょ? もう一度、ちゃんと探しなさい」


「はい、分かりました」


 美咲はまた奥へ走って行った。


「大丈夫だよ」亜夕美が笑って言った。「さっきも言ったけど、銃弾は貫通してるし、出血も大したことないから、血管は傷ついてない。消毒して、包帯巻いておけば、そのうち治るって」


 亜夕美らしいなんとも豪快な治療法だけど、火薬で傷口焼いたり、タンポン詰めたりするよりはまともだろうな。少なくとも、初期対応としては間違いなさそうだ。祭は救急キットから生理食塩水を出して傷口を洗い、傷の状態を確認した。太ももの正面と裏に一つずつ傷があるから、亜夕美の言う通り、弾は貫通しているようだ。出血も酷くは無い。祭は太ももの付け根を紐できつく縛り、傷口に包帯を巻きつけた。予定では、明後日にはハワイに着く。それまでは、これで様子を見るしかないだろう。祭は続いて、舞を治療しはじめた。


 しばらくして、美咲が戻って来た。一人だった。


「若葉先輩、やっぱりエリ先輩、どこにもいません」


「どこにもいないって……ちゃんと探したの?」


「探しましたよぅ」唇を尖らせる美咲「食堂も、仮眠室も、トイレも、シャワールームも、この操舵室も、全部見ました。でも、いません」


 この操舵室の部屋は、美咲の言う部屋で全部だ。どこかに隠れているのだろうか? まさかね。この状況で隠れる意味が分からない。


「ところで、先輩達って、入口のカードキー、何枚持ってますか?」美咲が言った。


「へ? ええと、あたしは一枚持ってるよ」カードキーを取り出す。朝、亜夕美を追って操舵室を出た時に持って行ったヤツだ。


 深雪を見る。同じようにカードキーを一枚取り出した。あたしたちを追って外に出た時に持ち出したのだろう。


 続いて亜夕美を見た。黙って首を振る。持っていないらしい。


「他の人はどうですか? 誰か、返し忘れてる人、いませんか?」美咲はみんなの方を見た。みんな首を振り、持ってないというポーズをした。


「と、すると、カードキーが一枚足りません。もしかしたらエリ先輩、外に出たんじゃないですかね?」


 ――エリが外に出た? 何のために?


 いや、それよりも。


 みんなを見る。操舵室に立てこもっている全員が集まっていた。いないのはエリだけだ。つまり、エリは一人で外に出たのだ。


 続いて由香里を見た。黙って首を横に振る。何も聞いていない、ということだろう。外に出るにはキャプテンの許可を取ってから、必ず二人以上で。それがここのルールだ。


「やれやれ。エリ先輩、ルール違反ですね。チーフ、これは、一週間ゲーム禁止にしないといけませんよ?」


 のんきな口調の美咲だけど、そんなこと言ってる場合ではない。


 あたしは、朝のエリの言葉を思い出した。


 ――あたし、このグループを、出て行こうと思ってます。


 まさかエリは、本当に出て行ったのだろうか?


 深雪を見る。深雪もその可能性に思い当たったようだ。両手で口を押さえ、どうしよう? という表情。


「どうしたの? 二人とも。何か知ってるの?」由香里が言った。


 あたしは、朝のエリとの会話を、みんなに話した。


 話を聞いたみんなの顔に、動揺の色が浮かぶ。


「……そんな……ここを出て行くなんて……いったい何があったの?」由香里が訊くけど、その理由はあたしたちにも言わなかった。でも、一人で出て行くなんて、よほどの理由があったに違いない。


「ゴメン……きっと、あたしのせいだね」亜夕美がうつむいて言った。


 確かに、その可能性は否定できない。二日前、エリは亜夕美との合流に反対した。亜夕美が危険人物だ、という理由で。今なら、そんなことはない、と、言い切れるけど、あの時は、あたしも同じ意見だった。


 でも、だからと言って、本当に出て行くだろうか? 燈たちのグループに入れてもらう、と、エリは言っていたけれど、昨日の燈の様子だと、入れてもらえるかどうかは分からない。そもそも燈たちがどこにいるかも分からないのだ。そんな状況で、それも、たった一人で出て行って、そっちの方がよっぽど危険だ。それが分からないエリではない。そんな危険を冒すエリではない。


 でも、本当に出て行ったのだとしたら。


 それ以上の危険が、この操舵室に、あるというのだろうか?


 ……まさか、ね。


 たとえそうだとしても、みんなを残して一人だけ出て行くような娘じゃないだろう。ちゃんと説明して、全員で移動すればいい話だ。


 なら、どうしてエリは、一人で出て行ったんだ。


 それは、どんなに考えても分からない。みんなにも分からない。ただ亜夕美だけが、「あたしのせいだ」と、責任を感じて、落ち込んでいる。


「大丈夫、亜夕美のせいじゃないよ」深雪が、亜夕美の肩に手を置いた。「エリにはエリの考えがあるんだよ。きっと、どうしても一人で行動しなくちゃいけない理由があったんじゃないかな? 大丈夫。カードキーを持って行ったんだから、すぐに戻って来るって。そんな簡単にやられるような娘じゃないし。あたしね、もしメンバーの中で、生き残るのがたった一人だけだとしたら、武術の強い燈や亜夕美でも、キャプテンの由香里でも、頭のいい瑞姫でもなく、実は、エリじゃないかって思うの。あの娘、メンバーの中で一番ズル賢いからね」


「あはは。確かにそうだね」亜夕美は少し元気を取り戻した。そして、深雪の手を握った。「ありがとう、深雪」


 その姿を見て。


 うん? みんな、どうしたんだ?


 みんなを見ると、全員目を皿のように丸くして、あんぐりと口を開け、呆然としている。


「せ……先輩……ひょっとして、カメラ、回ってるんですか?」美咲が言った。


 はぁ? カメラ? 何言ってんだ、コイツ。


「だって! 深雪先輩と亜夕美先輩が話してるんですよ!? あの二人が話すのは、仕事の時だけじゃないですか! 若葉先輩! そういうことは先に言ってください! どうしよう? あたし、メイクも何もしてないです! こんなひどい顔、ファンの前にさらしたら、アイドル失格です! ちょっと待っててください! すぐ支度しますから!」


 ばびゅん! と、美咲は奥の部屋へと走って行った。他の娘も、慌てて美咲の後を追う。ホントにカメラが回っていると思ったらしい。ま、そう思われても仕方ないけど。


 あたしは深雪と亜夕美と顔を合わせ、三人で大声を上げて笑った。




 こうして。


 エリがグループを出て行く、というトラブルはあったものの、深雪と亜夕美の和解という、アイドル・ヴァルキリーズの歴史上最大級のサプライズをもって、五日目は終わった。




 ただ――。


 この時の、深雪の言葉。




「エリにはエリの考えがあるんだよ。きっと、どうしても一人で行動しなくちゃいけない理由があったんじゃないかな? 大丈夫。カードキーを持って行ったんだから、すぐに戻って来るって。そんな簡単にやられるような娘じゃないし。あたしね、もしメンバーの中で、生き残るのがたった一人だけだとしたら、武術の強い燈や亜夕美でも、キャプテンの由香里でも、頭のいい瑞姫でもなく、実は、エリじゃないかって思うの。あの娘、メンバーの中で一番ズル賢いからね」




 深雪にしてみれば、亜夕美を慰めるために、何気なく言ったことだろうけれど。


 これは、恐ろしいほど的確に、エリの行動の核心に触れていた、と、あたしたちは、後になって知ることになる――。






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