序章
序章
唐突に言おう、滝上虎午は不幸だ。
それも尋常じゃないほど不幸だ、例をあげると、ファミレスで二人のヤンキーに絡まれている女の子を助けよと、一人で特攻したはいいものの、トイレから数十人ものヤンキーが出てきてしまう、というほど不幸だ。
「あああああああああああああ!!!」
そう、不幸。
「ごらぁ!!待ちやがれクソガキィ!!」
夕闇に沈みかけた町で、滝上虎午は数十人という数のヤンキーを引き連れ、商店街を爆走してた。
いや、そんなカッコいいものじゃない。恥ずかしいから言わないがカッコいい訳じゃない。
「逃げんな!!負け犬!!」
「それ言うなよ!!恥ずかしいだろうが!」
バレてしまっては仕方がない、そう滝上虎午は今、ヤンキーから逃げているのである。
路地裏に逃げ、バケツを蹴り黒猫を追い払うように疾走する。ヤンキーから逃げ始めてから、すでに軽く十五分は走りっぱなしだ。滝上は持久力ならそれなりに自信があり、クラスでも上位に入るレベル、それに比べ後ろのヤンキーは、ベラベラと滝上に罵声をかぶせながら、ペース配分完全無視で走っている。
バカな奴ら、と滝上はつぶやく。
あんなに飛ばしていたらすぐにバテる、それでも十五分近く耐えているのはスゴいが、それじゃ上条は捕まえられない。ほら、また一人膝に手をやってリタイアした。
「残りは・・・九人かっ」
ヤンキーの数はだいぶ減ったが、まだ勝ちではない。
滝上にとっての勝ちは、とにかく逃げきることだ。元より喧嘩に勝つことなど皆無である滝上にとって、逃げきることが勝利への道だ。つまり逃げるが勝ち、まさにそれだ。
滝上は路地裏から抜け、再び商店街に出る。人を糸を縫うように進んでいく。
「待ちやがれ!逃げ足王!!!」
後ろから再び罵声が飛んでくる。
「うるせぇ!マザコン野郎!!」
気づけば、ヤンキーの数はさらに減っていた。
くそっ!しつこい!
滝上は心中吐き捨てる。
商店街を抜け、地味に人通りの少ない通りに出ると、右手に川が見えた。滝上の家の近くに川はない、つまり相当遠くまで来てしまったらしい。ここから家に帰ることを考えると、やはり滝上は不幸だ。
後方をチラリと見る。
「まいたか・・・」
滝上はゆっくりと足を止めていき、息を整えてから携帯を取り出した。
時間を確認すると、滝上が前から楽しみにしていた特別番組が始まっていた。
「はは・・・」
笑いがこぼれる・・・が
「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その笑いは、絶叫によってかき消された。