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第2話 魔女狩り①


 キルシュさんと出会ってから、数日が経った。

 あの日から、私の生活は一変した。

 以前は世界がどこか淀んで見えていたのに、今では妙に明るく見える。


 仕事も悪くない。

 むしろ――楽しい。

 昨日は、魔族領でこそこそ商売をしようとしていた商会を壊滅させた。

 健康食品を売るつもりだったらしい。

 殺す直前、そいつは「これは魔族の為なんだ!」と叫んでいた。


 ……そんなこと、知ったことではない。


 魔族の為だと言うのなら、堂々と商売しろ。


「もう昼か……」


 気がつくと、窓の外の太陽が頂点にさしかかっていた。

 読んでいた本を閉じて机の上に置く。

 今日は、自室でゆっくりと本を読んでいた。

 普段も読んでいるのだが、ここ最近は今まで読んだことのないジャンルを読んでいる。


 今日読んでいたのは、『好きな女の子をデートに誘う方法 10選。これで君も彼女持ちだ!』と言う本だった。

 本屋に立ち寄った際にそのタイトルに目を奪われ、キルシュさんと恋仲になる為には、この本しか無いと思い購入した。

 しかし、内容は期待ハズレだった。


 ……何がデートに誘うには、まずは毎日挨拶しようだと? 何故それでデートに誘えるようになるのだ。そんな当たり前のことで、女が心惹かれるわけないだろ。


 それはデートへの道ではない。世間で生きていく為に最低限必要なことだ。

 あまり人と会話しないこの私でさえやっていることだぞ。

 舐めているのか。


 ……それになんだ『デートに誘う時は、仕事終わりの夕方しろ。疲れている女は癒しを求めている』とは。意味がわからん。1番疲れている1日の終わりに言っても迷惑なだけだろうが。


 もうめちゃくちゃだった。

 恋愛初心者の私だって、それが間違っていることくらいわかる。

 これでは、デートに誘うどころか嫌われるだけだ。


「まったく……最後まで読めば何かあるかもしれないと思って読んでは見たものの、とんだ時間の無駄だったな」


 有意義な時間どころか、無意義な時間だった。

 今すぐこの本の作者を殺してやりたい。


「まぁいい。今日はキルシュさんの花屋に行く日だからな。殺さないで置いてやる」


 今日はキルシュさんの花屋で花を買いに行く日だ。

 本当は、毎日でも通って花を買ってやりたいが、それではただのストーカーだ。

 私は、純粋に彼女を愛している。

 迷惑はかけたくはない。


「ふふっ……」


 キルシュさんのことを想うとつい笑みがこぼれてしまう。

 会えなくても彼女のことを考えるだけで幸せだった。

 私を処刑人として畏怖する者が、こんな私を見たらどう思うだろうか。

 きっと、現実だとは思えないだろうな。

 そっと自分の胸に手を這わせる。


「キルシュさん……」


 キルシュさんと出会っていらい体が火照ることが多い。

 この火照りを押さえるのは、いつも一苦労だ。

 この前、始めて一人でしてみたが、こんなにも気持ちがいいとは思わなかった。

 キルシュさんと出会ってからというもの、新しい体験が出来て世界が広がっている。


「ん……」


 口から甘い声が漏れる。

 もう抑えられるない。

 キルシュさんの花屋に向かう前に済ませてしまおう。


 ◇◇◇


 一人でことを済ませて、シャワーを浴び、出掛ける準備をする。


「やはり、スカートは慣れんな……」


 今日は、いつもの執事風の服ではない。

 部下から貰った服に初めて袖を通している

 上は女性らしい上品な白のシャツに、下は黒のロングスカート。

 髪もいつものように丸く結い上げてなく、首の後ろで1本に結んでいる。

 鏡に映る姿は、男装の麗人ではない。妖艶な雰囲気の女性といった感じだった。


「キルシュさんはどう思うだろうか……綺麗と言ってくれるだろうか……」


 考えるのは彼女のことだけ。

 彼女さえ褒めてくれればそれでいい。

 それ以外の評価なんていらない。


「さて、行くとしよう。待っていてくれたまえ……私の愛しい人よ」


 身も心もスッキリしている。

 もう準備万端だ。

 目の前の空間に手をかざしゲートから、キルシュさんが住まう城塞都市マシュリアへと向かった。


 キルシュさんの花屋は、中心部から少し離れた場所にある。

 この街は、中心部に貴族などの金持ちが住居を構えており、外側にいくほど身分が低くなっている。

 彼女もお店を構えてはいるが、決して裕福と言う訳でもなく、細々とやっているようだった。


 ゲートから出て、お店近くの裏路地に到着する。

 表通りに出れば、彼女が営んでいる花屋はすぐ近くだ。


「おい、ねーちゃん」


 表通りに出ようとすると、みすぼらしい恰好の男に話しかけられた。

 服はボロボロで薄汚れており、顔も汚れている。

 きっと、この路地裏にでも住んでいるのだろう。


「今、魔法の扉から出てきたよな? あんた魔法を使えるのか?」


 どうやら、ゲートから出てくるところを見ていたようだ。


「そうだが。それがどうかしたか?」


 別に人間でもこの魔法は使えるので、不思議なことはないはずだ。


「なぁ……ちょっとで良いから、抱かせてくれないか? 俺、魔法を使える人間を抱いてみてえんだよ……」


 男は、腐りきった笑みを浮かべる。

 この男、私を抱けるとでも思っているのか?


「あ? 女を抱きたいなら娼館にでも言って抱けばいいだろう」


「そんな金はねえんだよ……なぁ、いいだろ……? 1回だけで良いからよ……そうすれば、あんたも痛い思いをしなくて済むからよ……」


 男はそう言うと、隠し持っていたナイフを取り出した。

 ほんと人間という生き物は醜いな。

 もちろん、キルシュさんは別だ。


「そうか。じゃあ、手早く済ませてやろう」


 男へと振り返る。

 こいつをのさばらせておくと、キルシュさんに手を出すかもしれないしな。


「ほ、ほんとか!? へへっ……久しぶりの上玉だぜ……」


「ああ、楽しんでくれ。天に昇らせてやるから……」


 そして、私は大鎌で男の首を跳ねた。


 ◇◇◇


「ありがとうございました!」


 店先でキルシュさんが、花を購入していった親子に手を振りながら笑顔で見送っている。

 子供の方は、どこか恥ずかしそうに手を振り返していた。

 きっとあの子も、キルシュさんの事が好きなのだろう。

 仕方ない。あんな笑顔で見送られたら、皆、恋に落ちてしまうよ。


「あ、ケリンさん! いらっしゃいませ!」


 キルシュさんが私に気づくと天使のような笑みを浮かべる。

 ああ、なんて綺麗な笑顔だろうか。

 先程の醜い男なんか、記憶から消し飛んでしまった。

 きっと、あの男はキルシュさんの笑顔の素晴らしさを私に理解させる為に、神がよこしたのだろう。

 何て素晴らしい仕事をするんだ。


「今日も花を買いに来てくれたんですか?」


「あ、ああ。今日は、どんな花がおすすめですか?」


 どうも彼女の前では、いつもの口調で喋ることができず、変な口調になってしまう。

 直そうにも、どう直せばいいか分からない。


「今日はですね……これなんてどうでしょうか?」


 彼女は、白い花を手に持つ。

 シンプルながらも、どこか儚さと綺麗さを兼ね備えている花だ。


「この都市の周辺で取れる花なんですけど、風に吹かれるといい香りがするんです」


「そうですか。じゃあ、それを何本かいただきます」


 キルシュさんの笑顔の為に買っているだけだから、別に花なんてどんな花だって構わなかった。


「ありがとうございます! じゃあ、包んで来ますので少し待っていてください」


「お願いします」


 キルシュさんは、白い花を4本ほど手に取ると包む為に、カウンターの方へ歩いていく。

 後ろ姿も可憐だ。

 後ろからそっと抱きしめたい。


「ん?」


 ふと、誰かの視線を感じて振り返る。

 しかし、店には私しかおらず、後は表通りを歩いている通行人しかいない。


 ……気のせいか……?


 もう視線は感じない。

 通りの通行人が私のことを気になって見ていただけだろうか。


「お待たせしました。……あれ? どうかなされましたか?」


「いえ、何でもありませんよ。いくらでしょうか?」


「はい。15ルクトです」


 袋からお金を取り出して、彼女に手渡す。

 本当は色をつけて、1000ルクトくらいは渡したい。

 でも、初日に花を購入する際に5ルクトの買い物に対して、1000ルクトすべてを渡そうとしたら断られてしまった。

 遠慮しなくて良いと言ったのだが、商売だからきっちりとしたいとのことだ。

 商人の鏡だ。

 昨日殺した商人にも彼女の垢を煎じて飲ましてやりたかった。


 ちなみにだが、一般的な料理屋で昼食を食べた場合、500ルクトくらいで食べられる。

 そう考えるとかなり金額は安い。

 これでお店がやっていけるのかと心配になる。

 もっと、お金を取っていいと思う。


「ありがとうございました! また、来てくださいね?」


「必ずまた来ます」


「ふふ、お待ちしてますね!」


 キルシュさんの笑顔を見に必ず来る。

 例え大怪我を負ったとしても来る。

 惜しみながらも彼女に見送られて、店を後にする。


 ――ああ、至福の時間が終わってしまった……いっその事、この付近に住んでしまうか? そうすれば毎日、彼女の花屋に行けるし、家に誘うことだって出来る。家に誘えれば……ふふっ。


 なんて卑猥なことを私は考えているのだろうか。

 でも、そうなって欲しい。

 ベッドで一緒に……


『そこの白い花を持ったお姉さん。ちょっといいかな?』


 キルシュさんとの夢のひと時について考えていると、突如として、頭の中に少女の声が響き渡った。


 ……通信魔法? いや、『魔女の問いかけ』か。


 魔女の問いかけ。

 魔女だけが使用できる魔法の1つ。

 相手の脳内に直接語りかける魔法で、60年前に私が普段使用している通信魔法が開発されるまでは、この魔法を使って魔女が伝令役を務めていた。


『へー、よく知ってるのね。魔女以外でこの魔法を知っている人がいるなんて、思わなかったわ~』


 ……それは良かったな。それで要件はなんだ? 今は気分が良いから殺さずに聞いてやるぞ?


『アハッ! 怖ーい! 綺麗な顔してえげつないことを言うのね。流石、魔族と言ったところかしら?』


 どうやら相手は、私が魔族と気づいているようだ。

 だとすれば、人間側の刺客か?


 ……よく気づいたものだ。魔法で隠していたのだがな。


『アハハ! そんな魔法じゃあ、ソーちゃんの目は誤魔化せませーん!』


 少女は、楽しそうに笑う。

 まるで、いたずら好きの子供のようだ。


『ちょっとお姉さんにお話があるから~……街の外にある森まで来てくれないかな?』


 ……なんだ。遊んで欲しいのか。声の通りまだ子供のようだな。


『アハッ! そうなんだー。ソーちゃんはねー……お姉さんと遊びたいの……良いよね?』


 向こうも元からそのつもりのようだ。

 やはり、私を狙う刺客か。

 いいだろう。満足するまで遊んでやろうじゃないか。


 ……ああ、構わない。それで? 森の何処に行けばいい?


『流石、魔族のお姉さん。遊び慣れてるねぇー。場所はあなたの記憶にねじ込んであげるから、その場所に来てね? それじゃあねぇ~!』


 少女が別れを告げると、スッと頭がクリアになる。

 そして、指定場所について考えると森の奥地であることが分かった。

 少女の言った通り、場所を記憶として植え付けたようだ。

 こんな高等なことが出来るのは、一部の優秀な魔女だけ。

 つまり、この少女の実力が相当なものだと言うこと。


「……ふふっ、これは楽しめそうだ」


 久しぶりに相手からの宣戦布告だ。

 簡単に終わってもらっては困る。

 私はこの後に控えた楽しい遊びのことを考えつつ、指定された場所へと向かった。


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