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第4話 優しさだけでは生きて行けない④


「じゃあ、マリア先生。また来月に来ますね」


「ああ。子供たちと一緒に楽しみに待っているよ」


「キルシュー! またねー!」


「うん! みんなまたね!」


 マリア先生と子供たちに見送られながら、孤児院を後にする。

 あの後、しばらくキルシュさんが子供の時の話をしながら、楽しく過ごせた。

 あんなキルシュさんや、こんなキルシュさんまで、子供の時の様子を知ることができて非常に有意義な時間だった。

 キルシュさんが、歩きながら不満そうに言う。


「もう! マリア先生は、何でも話しちゃうんだから!」


「ははっ! わらわたちは楽しかったぞ? まさか10歳までおね――」


「あー! あー! 聞こえませーん!」


 シエフがニヤニヤしながら、マリア先生に聞いた話を言おうとするが、キルシュさんが大声でかき消す。

 ほんと可愛らしい人だ。


「私の事は、これくらいにして……二人とも孤児院はどうだった?」


「ええ。良かったです」


「うむ! 楽しかったぞ」


 私とシエフの言葉に、キルシュさんはほっとしたように胸をなでおろした。


「良かった~。お礼も兼ねて連れて来たけど……その言葉を聞けてよかった~……」


「ふふっ、何よりもキルシュさんの子供時代のお話が良かったです」


「そうじゃの。それが一番面白かったのう」


「ちょっと~! その話は終わりっていったでしょ! も~。意地悪なんだから……」


 事実。キルシュさんの子供時代の話が面白かったのだから仕方ない。

 ふいに、シエフがキルシュさんに尋ねる。


「あの孤児院は、あのマリアという女性が一人で運営しているのか?」


「いえ。今日は、買い出しで席を外していたようですが、他にも二人のシスターさんがいますよ」


「そうか。じゃが、あれだけの子供を養って行くには大変そうじゃのう」


「……そうね。この街の教会から支援は受けているんだけど……厳しいみたい」


 キルシュさんが、どこか寂しげに笑う。

 私は、シエフの頭を叩いた。


「うにゃ!? 何をするのじゃ!?」


 シエフが頭を押さえる。


「……せっかく明るい雰囲気だったいうのに。何を暗くしているんだ。バカ者が」


「……仕方ないじゃろ! 商いをする者として、そういうのは気になってしまうんじゃよ!」


 だからといって、今聞く必要はないだろうに。

 やはり、詐欺師。人の心より金が大切なようだ。

 キルシュさんに視線を向ける。


「申し訳ありません。このシエフが馬鹿なこと聞いてしまって………ほら、貴様も謝らんか」


 シエフの首根っこを掴んで、キルシュさんの前に出す。


「わかっとるから、物のように扱うんじゃない!」


 シエフは、私にそう言うと、キルシュさんに視線を向ける。


「……キルシュ。すまないのじゃ!」


 そして深々と頭を下げた。

 キルシュさんは、ゆっくりと首を横に振る。


「いいの。シエフちゃんは、孤児院が心配で聞いてくれたんでしょ?」


「ま、まぁ……そうじゃな」


 絶対に嘘だな。

 この詐欺師が孤児院を心配するはずがない。

 どうせ、孤児院を利用してキルシュさんに恩を売ろうとでも考えていたのだろう。


「なら、私の方が謝らなきゃ。私が明るく答えていれば問題なかったんだもの」


 キルシュさんはそう言うと、頭を下げた。


「ごめんなさい。シエフちゃん。ケリンさん」


「き、キルシュさん!? 何も謝ることなんてありませんから、頭を上げてください!」


「そうじゃぞ! 悪いのはわらわじゃ! だから頭を上げてくれ!」


 二人で必死にキルシュさんを励ます。


 ……失敗した。


 心の中で後悔する。

 こうなることなんで想像できなかったのかと。

 これでは、私がキルシュさんに謝らせてしまったみたいじゃないか。


「キルシュさん! 私の方こそ申し訳ありません! 私がシエフに謝らせたのがすべて悪いんです!」


「そうじゃぞ! すべてはこのしょ――ゴホン! この、ケリンが悪いのじゃ!」


「……おい。なぜ、お前まで私のせいにしているんだ? お前はお前でちゃんと謝れ。すべてを私のせいにするな」


「キルシュに言った内容と違くないか?! お主が自分の責任だといったのじゃぞ! だから、わらわもそれに便乗してじゃな……」


「だが、貴様も原因の一端だろうが。貴様もしっかと謝れ」


 シエフの頭に手を置き、無理やり頭を下げさせる。


「ちょっ!? 痛い! 痛いじゃろうが! こ、腰が変な方向に曲ってしまうわ!?」


「貴様は少し生意気すぎる。ちょっとは腰が低い方がいいと思うぞ?」


「それは精神的な話であろう!? これでは物理的に低くなってしまうわ!? や、やめっ!? ギャー!!!」


「ふふっ……」


 いつの間にか、頭を上げていたキルシュさんが笑った。


「ふふっ。ごめんなさい……ついおかしくなっちゃって……アハハ!」


 方法はどうであれ、結果的にキルシュさんが笑ってくれて良かった。

 シエフから手を離して、キルシュさんに向き直る。

 キルシュさんは、胸の前で手を合わせる。


「……じゃあ、みんな悪いってことで、ここは手を打ちましょう! そうすれば、何も問題ないよね!」


「そ、そうですね……」


「うむ。そうじゃな」


 特に異論はない。


「じゃあ、この話は終わり! 孤児院の件は、大変だけど私も協力して何とかしているから、二人はあまり気にしないで?」


「じゃが……わらわは、キルシュの役に立ちたいのじゃ。幸運なことにわらわの家は、商いをしている。だから、お金のことならわらわが――」


 シエフが支援させて欲しいと言いかけるが、キルシュさんが止める。


「それはダメ。助けてほしくて、二人を孤児院に連れてきたわけじゃないの。楽しんで欲しかったから来てもらったの。だから、ここでシエフちゃんの支援を受けてしまったら、私は孤児院の為に友人を利用した詐欺師になってしまう」


「うっ……」


 詐欺師という言葉に、シエフがうろたえる。

 惚れている相手に自分を否定されたものなのだから、仕方ないだろう。


「私はそんな自分を許せない……。人の優しさは時には悪魔の囁きなの。だから、優しさだけではダメ。しっかりと自分の足で進んで行かなきゃいけないの」


 キルシュさんは、シエフを真っ直ぐ見据える。


「だから、シエフちゃんの提案は受けられないない。ごめんなさいね」


 本当に立派な人間だ。

 私たちのように心が荒んでなんかいない。


 ……よくもまぁ、この世界で真っ当に生きけていけるな。


 この世界は、薄汚れている。

 平和という真っ白な布で覆い隠されてしまっているが、その下は真っ黒だ。


 正義に隠れた傲慢。


 優しさに隠れた嫉妬


 勇気に隠れた強欲。


 生き物の本質なんてそんなものだ。

 皆、心の中に闇を抱えている。


 ……だが、キルシュさんは違う。


 彼女だけは、そんな世界でも真っ直ぐに生きている。

 きっと、彼女以上に真っ当に生きている人間はいないだろう。


 ……だからこそ、本能でキルシュさんに惹かれたのかもしれないな。


 人間であっても魔族であっても、生物は自分に無い物を求める。

 だから、私のような悪人は、彼女に正義を求めたんだろう。

 正義なんてないと知っているからこそ、恋焦がれた。


 ……ああ。キルシュさんが欲しい……私の物にしたい。


 これは本能だ。

 本能には抗えない。

 だから、私は……


「さ! 早く帰りましょ! もう、日が沈んでしまうわ」


 キルシュさんの言う通り、既に日は傾いており、もう少しで地平線に沈んでしまう。


「そうだ! 私の家で夜ご飯食べていってよ!」


 その言葉にシエフの顔がぱっと明るくなる。


「本当か!」


「もちろん! ……と言ってもこの前のような食事は出せないから、あまり期待はしないでね?」


「かまわん! キルシュのご飯が食べれるなら何だって良いぞ!」


「ケリンさんもどうかしら?」


 断る理由なんてない。


「はい。迷惑でなければぜひ」


「誘っているのは私なんだから、迷惑だなんてないわ! それじゃあ、決まりね!」


 キルシュさんが、満面の笑みを浮かべると、背を向けて自宅へと歩き出した。

 私とシエフも、彼女の手料理を食べれることに心を躍らせながら、後を追った。


 私は、必ず彼女を手に入れる。

 そのことを胸の奥にしまい込んで。


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