プロローグ 処刑人
本作品はカクヨムでも連載しております。
「アレク……」
私の目の前で魔術師の女が、仲間の名前を呼びながら膝から崩れ落ちる。
体には、左肩から右の脇腹にかけて大きな傷があり、もう長くはないだろう。
「マリア!?」
地面に倒れ込んでいた男が女性の名を悲痛な声で叫んだ。
そうか、この女はマリアと言うのか。
きっと、この男の愛する女性なのだろうな。
だが、私にはそんなもの関係ない。
私は、右手に持つ大鎌を振り上げる。
「っ!? よせ……やめろぉぉ!!」
汚い声を上げるな。
鎌を振り下ろし、無慈悲に彼女の首を跳ね飛ばした。
跳ね飛ばされた女の首が、男の元へと器用に転がっていく。
これも愛のなせる業か、はたまた悪魔のいたずらか。
「マ……リア……」
男の声が絶望に染まる。
大鎌についた血を払いのけながら、男に言う。
「安心しろ。貴様も他の奴らと同じようにあの世に送ってやる」
私達の周囲には、他にも人がいた。
いや、人だった物だ。
皆、体を切り刻まれている。
ある者は、胴体をと下半身が別れ。
ある者は、左半身と右半身が別れてしまっている。
あれを人だと言うには、無理があるだろう。
「……けるな」
男が俯きながら何かを言っているが、よく聞こえない。
「なんだ? 遺言を残しても私は伝えることは出来んぞ?」
「……ふざけるなよ!!」
男はそう叫ぶと、ゆっくりと立ち上がる。
この男だって無傷ではない。
体中に傷を負い、腹からはおびただしい量の血が流れている。
「愛とは素晴らしいな。そんなボロボロの体でも立ち上がる力を与えてくれるとはな」
男に称賛を送る。
ここ最近、殺してきた中では一番タフかもしれない。
「……なんで……何でお前は邪魔をするんだ!!」
男が剣で体を支えながら叫ぶ。
「俺たちは……魔族と友好的な関係を気づく為にここまで来たんだぞ! 互いに交流して今よりも平和な世界にするために!! お前だって! 知っていただろう!!」
確かに私は彼らの目的は知っていた。
彼らが、平和を望みこの街に来ていること。
魔族と人間が今よりも仲良く暮らせる生活を夢見ていることを。
「だから、どうしたと言うのだ?」
「な!?」
男が目が大きく見開かれた。
別に不思議なことはないだろう。
私は、ただ役目を果たしに来ただけなんだから。
「私の目的は、君たちを排除することだ。君たちの目的なんぞに興味はないよ」
「ふざけるな! 平和な世界が来て欲しくないのか!? 魔族は争いを望んでいるとでも言うのか!?」
この男は馬鹿なのか?
こちらは興味がないと言っているのだぞ。
私の話を何も聞いていないじゃないか。
「……はぁ。これでは時間を無駄にするだけのようだな……」
「時間の無駄だと……?」
男に向かって鎌を構える。
もうこの男の言葉なんか聞く価値はない。
「自称平和特使のアレク・ミルヘン。この私、ケリン・ハンカーが貴様たちを断罪させていただく」
「……自称平和特使だと……」
男もふらつきながらも剣を構える。
そして剣が徐々に輝きだす。
どうやら、残り少ない魔力を剣に込め始めたようだ。
「自称なんかじゃない! 俺たちは……本当に平和を望んでいるんだぁぁ!!!」
そして男は踏み込んだ。
仲間の無念を晴らすために。
仲間を殺した私に一矢報いる為に。
そして、自分が無駄なことをしているとも気が付かずに。
「……醜いな」
向かってくる男に対して、ただ鎌を薙ぎ払う。
まるで、飛んでいる虫を払いのけるように。
男の剣が私の目の前に振り下ろされる。
一歩前にいたら当たっていただろう。
しかし、その剣は当たることが無かった。
「惜しかったな。あと一歩届かなかったな」
目の前の男に向かって言う。
男は何も言わない。
いや、言えない。
「……ああ、すまない。もう聞く耳も喋る口も無かったな」
目の前の男には、頭が無かった。
ただ、剣を振り下ろした首から下の肉体があるだけ。
頭は、ボールのように地面に転がり落ちていた。
鎌を空間にしまい込む。
目的は果たした。もう斬るものここにはない。
本部に連絡を入れる為に、何もない空間に手をかざして、ディスプレイを表示させる。
通信が繋がるとディスプレイに1本の角を生やした女性が表示された。
「こちらケリン・ハンカー。対象の殺害は完了した」
『承知しました。今回も迅速な対応、感謝致します。いつも通り遺体の処理はこちらで対応いたしますので、そのままお戻りください』
「ああ、承知した。通信終わり」
報告を終え、ディスプレイを消す。
「平和か……」
重傷を負った男が言った言葉を考える。
平和になれば、私は何か変わるのだろうか。
「いや……何も変わらんか」
平和なんて、一部の頭おかしな人間が言っている世迷言。
生物は、争って生きていくものだ。
争いのない世界なんて、面白くもない。
「もし、平和が素晴らしいと言うのなら見せてもらいたいものだよ。……まぁ、誰も平和なんて望んでいないだろう」
世界が望んでいるのは混沌。
平和じゃない。
「さて、戻るか」
もうこの場に用はない。
目の前の空間にゲートを作りだし、本部へと戻った。
この時の私は知らなかった。
平和を望まないこの私が、たった1人の女性の平和を望むことになるなんて。




