お:想い出を辿りながら
こんなに素敵な家族に支えられて、私ったらとんだ幸せ者ね。
特にお兄ちゃん。東京に住んでたのに、私が一人になったのを心配してくれて、わざわざこんな田舎に戻って来てくれて。
他の人生があった筈でしょうに。なにか自分のしたいことに費やす人生が。なのに私の定食屋を、家族揃って一緒に切り盛りしてくれたわね。
お父さんが始めたお店を継ぐことが、息子である使命だってあなたは言ってくれていたけども。本当にいやじゃなかったの? 朝早くから夜遅くまで、毎日毎日休みもなく。いつも笑顔で、自分よりもいっつも私に休め休めって言ってくれて。
貴子さんも、文句ひとつ言わずにてきぱき働いてくれて。本当に立派なお嫁さんだわね。お店に出ずっぱりなのに、きちんと家庭を守ってくれて、慧くんのお弁当も毎日作ってあげて。なかなかできるもんじゃないわ。お兄ちゃん、あなた世界で一番素敵なパートナーに出会えたわね。
慧くん、両親への尊敬と感謝をそのまま持ち続けてね。こんなおばばに懐いてくれて、本当に心の優しい子。人のことを一番に考えられる優しい子。
お兄ちゃんがそうだからなのね。もちろん、お兄ちゃんもお父さんからそれを受け継いでるのよね。ってことは、やっぱりお父さんが一番素敵なのねえ……。ね、お父さん!
聞こえてないだろうから言いますけど。
それから、お姉ちゃん。いつも色んなところに連れて行ってくれてありがとう! 私が行ってみたいと言ったとこから、テレビや雑誌で見付けた温泉や料理屋さんまで。あなたが連れて行ってくれたところ、全部思い出せるわ。お姉ちゃんとなにを話したか、なんてことも、大体ね。
でもね、なかなか言えなかったんだけど、早くいい人見付けなさいね。男の人と対等にお仕事できるなんて格好の良いことではあるけども、あなたにも是非家庭を持ってもらいたいわ。家の中、お仕事や趣味のものばかりじゃないの? 一人を楽しむよりも、誰かと一緒に過ごす時間や誰かを待つ時間を大事だと思えるようになって欲しいの。
……やだ、お母さん説教くさくなっちゃったわね。ごめんなさいね、お姉ちゃん。ただ、お母さんはあなたの老後が心配なのよ。体が弱ってきた時、子供のいないあなたは誰に頼るの? こんな風に急に倒れたりなにかあった時に、自分の血の通った子供がいなくて寂しく感じるだろうとは思わないの?
あなたの人生だから、強くは言えないけど……。お母さんはね、あなたにも、誰かと強い絆を結んで生きて欲しいの。支え、支えられて人は生きるのだから。
ねえ、お父さん。お父さんもそう思いませんか? 私の人生において、実際にお父さんと過ごした年数よりも、その後一人で過ごした期間の方が長かった。だけどお兄ちゃん、孝良とお姉ちゃん、孝美がいてくれたから。
子供達が、なによりの宝が私を支えてくれたから。家族って、なにものにも変えられないのよお姉ちゃん。できれば一緒に暮らせる好きな人を見付けてね。
……ああ、お父さんが私に気付いてくれたみたい。こっちに向かって来てくれてる。ってことは私、やっぱりもうそっちには帰れないのね。そりゃとうの昔に河も渡ったけども、もしかしてと思っちゃってたけど、それは未練がましかったのね。
さようなら、孝良、孝美。貴子さん、慧くん。みんな元気でね。みんなお幸せに。私はお父さんと一緒だから、心配しないでね。
みんなに感謝します。楽しくかけがえのない人生を過ごさせてくれてありがとう。本当に、ありがとう。
でもね、まだみんな来ちゃダメよ。まだ誰も時期じゃないしね。
何より、……せっかくの久しぶりのお父さんと二人の時間を、大切にさせてちょうだいね。




