お金って実は結構技術かかってるよね
さて、ご飯を食べたくともお金がない。
現代であればとある大きな公園に行けばホームレスに対する配給をやってたりするかもしれないがどう見ても中世なここでは期待できないだろう。
「とりあえず換金かな」
「えっ?換金するものなんてあったの?」
美津が頭の上で聞いてくる。
まあ確かに美津は猫になったせいで服さえもないしね。
そういえば、後で服を買って今の服を売れば珍しいとか縫い方や布の材質の違いで高めに売れるかもしれない。
と、他に売れるものを考えながらポケットにはいっていた財布を取り出す。
「あぁ、そういえばそれがあったけど絶対使えないでしょ」
たしかに日本円は絶対使えないだろうけど、
「お金としてじゃなくてそういった珍品としてならいくらかお金になるだろ?
多分」
冒険者家業なんてあるのだ。
珍品を引き取ってくれる店などいくらでもあるだろうというのが俺の推測だ。
「あっ、なるほど~。
その手があったか~」
「お札の方も乾いてきたし、この市場を見る限り文化レベルは恐らく本当に中世並。
ならお札や硬貨に施された加工はきっと珍しいはず。
だよね?」
「それでお昼ご飯を食べると言うことだね。
それにしてもせっかくの1万円も千円とほぼ同価値になるんだね。
苦学生だった身としては複雑だわ」
「俺の金である以上俺が一番複雑だよ。
あぁ、諭吉さんが・・・」
そういいながら俺は市場をのぞき、時折値段を聞いて冷やかしながら歩く。
「とりあえず早く換金しに行かないの?」
美津が聞いてくるが俺がこうやって冷やかしているのにもわけがある。
「こっちのお金の単位もものの価値もわからないんだから少しは予備知識として情報を入れとかないとだめだろ」
「あっ、そうか。
ホントに良く気づくよね」
「これからの自分の命がかかってるんだから石橋を叩きすぎてももんだいはないと思うよ」
市場の値札の文字は読めないが聞いた値段と周りの人の取引を見ていてだいたいの価値が分かってきた。
単位はそのまま銅貨何枚と言っていたからよく分からなかったがもしかしたらないかもしれない。
幸いなことにお金の価値としては定番の銀・銅でパン一切れが銅貨1枚。
銀貨1枚は銅貨100枚に相当。
恐らく銅貨1枚は現代で約100円くらいであろう。
すると銀貨は約1万円。
周りの話を聞いてると金貨もあるらしい。
わりとわかりやすい価値観で助かった。
物価も特に変わりはなかった。
ただ武器や防具も売っていたがピンからキリまであってそこら辺の判断はつかなかった。
ちなみにこの世界魔法があるらしい。
魔導書や杖、マジックアイテムなど普通に売っててまさにファンタジーだった。
魔法の大きな定義はないが詠唱等で奇跡を起こすのが魔法。
個人の特別な力は異能と称されていることも分かった。
宗教もあるらしいがそこまで強いものではなく、せいぜいよくある職業僧侶といった人がいるくらいらしい。
「よかったな。
中世まっさかりの宗教じゃなくて」
「どうして?」
「魔女狩りや異端者狩りなんてあったら即討伐対象だぜ。
黒猫なんてまさに魔女の使い魔だよな」
「確かに・・・」
そんなことを話しながら市場の人に聞いた大きめの道具屋へと向かった。
「ここか、割と普通な感じかな?」
「私はなんかディ○ニーのトゥーンワールドにきたみたいでドキドキするけど」
「俺にはこの世界がすでにトゥーン過ぎるけどね」
「きっとそのうちスプラッタトゥーンになるのよ」
「サイレンに出てくる血塗れのうさぎとか」
「やめてよ、夢に出てきそうじゃない」
「現実に出てきてもおかしくない世界に俺たちはいるんだけどな」
「そうでした・・・」
うなだれた美津を頭にのせながら俺は道具屋のドアを開いた。
「こんにちは~」
中は現代で言うならば土産物屋のような感じであった。
商品棚にそれぞれ系統立って商品を置いてある感じで良く整理してある店だった。
「はいはい、いらっしゃい。
お嬢ちゃん、どんなご用で?」
この店の主人らしき中年の男がカウンターでパイプをすいながら本を読んでいる。
「道具というか珍品?を売りに来たんですけどいくらになりますか?」
そういって俺はカウンターに手持ちの小銭の半分と千円札を一枚だした。
「どれどれ、ほう、これは確かに珍品だね」
見慣れない品に興味を示したのか小銭や札を手にとって真剣に観察している。
様子を見ているとお札にかかれた絵の精巧さに驚いたらしい。
平静を装いながらどうやって手に入れたかを聞いてきた。
そこは無難に昔あった旅人から記念にもらったと返したが。
十分観察し終えたのか硬貨をおいて主人はこっちを向いた。
「ふむ、確かに見たことない珍品だがこういったものは良くあるものでね。
価値はそこまで高くないんだ。
そうだな、全部で銀貨1枚と言ったところかな」
銀貨1枚、元を考えれば結構な換金だが俺たちの財産を考えると少なすぎる。
なにより、先ほどの驚愕の顔からして絶対ぼった食ってる。
――だよね~。
絶対小娘だからだませるとか思ってるんだよ~。
美津も主人に聞こえないくらいの声で話してくる。
「そうですか、それじゃ残念ですけどお話はなかったと言うことで」
そういうと主人はまくし立てるようににいってきた。
「どっ、どうしてだい?
正直言って二束三文なものを銀貨1枚もだすんだよ。
正直に言って君にかなり得があると思うけど。
銀貨1枚と言ったら結構なお小遣いになるだろう」
かなりおいしい話が流れそうになり主人も焦っているらしい。
「それくらいじゃ安い宿に泊まっても2,3泊しか泊まれませんしね。
路銀が足りなくなったので仕方ないと思いましたけど、それは元はといえば知り合いからもらった大切なものですし。
ですからそれくらいしかならないんだったら持っていた方がいいですし」
そういいながらお金をしまって出て行こうとすると主人が慌てて行ってきた。
「そっ、そうだ!
2倍だそう。
いや、君の大切なものなんだろう。
3倍だしても惜しくないぞ!」
よっぽど価値があると踏んでいたのかいきなりつり上げてきたけど、この様子ならもっとあげれそうである。
――ふむふむ、ならば・・・ゴニョゴニョ。
なるほど、その案いただきだね。
美津と話していたのが分からないように装いながら俺は言った。
「実は前に旅の途中にあった美術商にあったときは先ほどのコインと絵で金貨2枚は惜しくないと言って頂いたんですよ。
その時はまだ路銀に困ってませんでしたしお断りしたんですけど。
それでここに来た途中にその人の馬車を見つけまして。
きっとその人のほうが高く買ってくれそうなんでソッチで売ることにしますね」
すると主人は悩み出してしまった。
時折「金貨2枚・・・しかし、」「でもそれくらいは価値が・・・」と聞こえてくる。
この調子なら金貨2枚相当で買ってくれるだろう。
とんだ良い買い物をしたもんだ。
美津が頭の上で笑顔が黒いとか言っているが無視だ。
これは生きるためにしょうがないのだよ。
第一最初にぼった食ってきたのはあちらなんだから俺に罪はない。
結局観念した主人が金貨2枚と銀貨50枚で買ってくれた。
一気に大荷物になってしまったが美津の能力で重量を軽減しているから問題なしだ。
乞食から一気に成金になってしまった。
さて、何を食べようか。
二人してにやつきながら歩いていたら微妙な顔をして避けられてしまった。
若干傷ついた。