街だ、人だ、俺は(心は)男だ!
「やっ、やっと、街が見えてきた」
「ほんど、もう足が棒になって動かないわ」
「俺は首が痛くて堪らないよ」
「それは大変ね」
「ホント、どこかの誰かさんがずっと歩かず頭に乗っていたからな」
「それは大変ね」
「・・・。
ピッチャー大きく振りかぶってぇぇぇっっ!!」
「ストップストップ!
悪かったからっ!悪かったからメーカー起動させながら森の方に投げようとしないでぇぇぇっ!!」
調子のいい美津に制裁を与えながら俺たちは長い林を抜けついに人のいそうな街に着いた。
ここまでくるのに色々なことがあった。
仮名称「必殺技メーカー」略してメーカーの実験により再び分断される俺たち。
数日後、後ろに巨大なイノシシのようなモンスターをお供に必死にこちらにすがり寄ってくる美津。
いつか見た光景にため息をつきながら派手にきまる必殺技。
数多の自然とモンスターと俺の精神を犠牲にした長い旅路だった。
メーカーも実験によりある程度系統を絞れるようになったが威力の調整は全然出来ない。
せいぜい防御か攻撃かを7割方制御できるようになった気分くらいだ。
せめてメーカーで水を作り出せないかと思ったが結局出てきたのは津波で大きく流されて九死に一生スペシャルしたのはいい思い出だ。
そんな波瀾万丈な過去を振り返りながら俺たちは目の前にそびえ立つ街の城壁と門を見つめた。
門には昔の行商人?のようなドラクエ風馬車がいくつも並んでおり、門番に申請し、積み荷のチェックを受けているように見える。
未だに頭の上に乗ったままの美津が話しかけてきた。
「それにしても異世界だけあって作りが中世風だね」
「あぁ、どうせなら現代風が良かったんだけどね」
「ところで入場料とかとられるのかな」
「可能性はあるけど、それ以前に一つ問題がある」
「ん?なに?」
頭の上で美津が頭をかしげているのか首に振動が伝わる。
どうでもいいが本当にバランス良くなったなお前。
「言葉が通じるかだよ。
異世界である以上言語が違っても当たり前。
あのキチガイからのサービスがあるといいけどね」
「うーん、それがあったかぁ。
一応ここに送って生活させる以上言語の融通くらい聞かせてくれてると思うんだけどなぁ。
流石にあのキチガイもそれくらい考えてくれてると思いたい」
俺たちの中であのおっさんはキチガイへとランクアップを果たしていた。
とりあえずこの前起こしてしまった津波の水で衣服と体は一応申し分程度に洗って置いたから乞食に見られることはないと思うが。
「猫である私はともかく、悠は元の世界の普段着だもんね」
「とりあえず異郷の旅服で通すしかないかな」
2人で話しながら行列に並ぶことにする。
並んでみると列は二つあるようだった。
一つは行商人達であろう馬車の列。
もう一つは旅人であろう徒歩の列。
幸い徒歩の列はそこまで多くなかったのですぐに門番と話すことになった。
ちょび髭のダンディな兵士の門番が俺たちに近づいてきた。
――おぉ、本物の剣かな?
一応喋るなよ。猫が喋るかどうかはまだ未知数なんだからな。
「よう、嬢ちゃん、変わった服だな。
一人旅かい?」
「まあそんなところです。
まあ一人旅じゃなくて相方もいるけどね
この服も故郷の服で旅してると珍しいと良く言われますね。」
そういうと一緒に美津がにゃ~と鳴いた。
それにしても鳴き声だけは普通に猫なんだな。
「ほ~う、なかなか賢そうな猫じゃないか。
それにこんなちっちゃい女の子1人で良く一人旅ができたな」
まあ、そこは突っ込まれるよね。
「こう見えても腕っ節は強いんですよ?」
具体的に襲いかかってきたサイみたいなヤツをメーカーで両断し、周りの木々を派手に伐採するくらいには。
あまりに広範囲すぎたよ『スマッシャーノクターン』。
おかげで俺の半径10メートルがきれいに広場っぽくなってしまった。
美津も俺の頭の上にいなかったらあのとき両断されたサイト同じ道を歩んでいただろう。
どうもメーカーを使うと過剰威力になってしまって困る。
まさに手札すべてジョーカー。
とりあえず普通な威力の手札が欲しい。
「はっはっはっはっは。
そうかそうか。
もしかしたら嬢ちゃんは冒険者の類かい?」
んっ?気になる単語が出てきた。
「冒険者ってなんですか?
私ってそういうこと気にせずぶらぶらと旅してたのでそういったことには疎くて・・・」
「なんだ、嬢ちゃん。
冒険者も知らずに旅してたのかい?
どこの田舎もんだよ」
「勉強は好きじゃないです」
そういってほおをふくらます。
きっと勉強嫌いな子だと思ってくれるだろう。
なにか頭の上で悶えている気がするが無視する。
「はっはっはっは、俺も勉強は好きじゃないが最低限くらいは覚えといた方がいいぞ。
経験者は語るってヤツだ」
うん、見事に乗ってくれた。
「それで冒険者って?」
「おう、そうだったな。
冒険者ってのは町や村のギルドに属するいわゆる何でも屋だな。
ギルドを通しての依頼を受けて探索から魔獣の退治、薬草の採取から街の住民の手伝いまでなんでもやる。
といっても大半の冒険者は名誉とロマンを求めて外へ繰り出してるけどな。
だからここで旅人に会うのは結構まれなんだよ。
ほとんどここを拠点にしている冒険者が帰ってくるのを街に入れるくらいだからな」
なるほど。
ぶっちゃけRPGみたいなものか。
「まあ、この冒険者って中からさらに職やランクとかあるがここら辺を喋ってると後ろの奴らが通れなくなっちまうから後は自分で調べな」
そういわれて後ろを見てみると長い列が出来ていないとはいえ既に10人くらいの列が出来ていてこっちを不満げそうな顔で見ていた。
「あっ、すっ、すいませんでした」
そういって俺は門番と後ろの列の人に向かって頭を下げる。
「にゃっ!?にゃ~」
その拍子に美津も落ちそうになるがぎりぎりでキャッチする。
「はっはっはっは、いいってことよ。
むさい男の相手ばっかで嫌気がさしてた所だからな。
ほら、いっていいぞ」
「ありがとうございました」
そういって俺たちは門をくぐり抜け街へと入った。
「ふぅ、なんとかタダで街に入れたな。
言葉も通じたし」
「くくくくっ」
「どうしたんだよ」
腕の中で美津が笑っている。
「だって、悠がっ、女の子っぽく喋ってるんだもん」
そんなおもしろかったか。
ちょっと丁寧に喋っただけなのに。
「あのなあ、男っぽいしゃべりより普通のしゃべり方した女の子の方が警戒されないだろ。
ただでさえおかしい格好した不審者なんだから」
「それだったら普段からそれにすればいいのに」
まあ、確かにそうではあるけどね。
それでも、
「これは俺の今の容姿に対する最後の砦だからな。
だからぶっちゃけ男の時より男っぽく喋るように意識してるの」
ケースバイケースだとはいえ普段まで女の子しゃべりにしてしまったら俺は色々と終わってしまう気がする。
「ぷぷぷぷっ、まあいいんじゃない。
私は大好きだよ。
オレっ娘は、萌えだっ、ボフっ!?なにすんの?!」
「はいはい、お前は少し黙ろうか」
そういうのは体験するんじゃなくて見て奏でるから萌なんだ。
つまり今の俺にしては苦痛でしかないの。
さて、まずは・・・。
――ぐぅ~っ。
「「ご飯だね」」