きらい
意味深な言葉を残した理玖斗とは、それからまだ会っていない。
そのかわり、ほぼ週四ペースで伊吹先輩とバイトで遭遇する。
慣れてきたからということで、今日から八時までのバイトになった。
本日も、伊吹先輩とのバイトでした。
だいぶ慣れて、ミスもなくそろそろバイト終わりの時間です。
「二人とも今日は、もう上がっていいっておかあさんが」
ひょっこり鷹見先輩が、レジ裏から顔を出した。
鷹見先輩のご両親がオーナーさんなので、戸締りや諸々は、鷹見先輩とご両親で基本行っているみたい。
「じゃあ冬芽ちゃん、送るよ」
「「えっ?」」
わたしと鷹見先輩の声が思わず被ってしまった。
「お、送るって…そんな大丈夫です」
「夜道は、まだ慣れないでしょ?」
「そ、そうよ。送ってもらったらいいじゃない。あなたそういうの好きでしょ」
って言いながらも、目が泳ぐ鷹見先輩。
…
「あの…でも…」
「もうさ、とりあえず邪魔だから帰った帰った」
鷹見先輩に、手をフリフリされて軽く追い払われた感。
鷹見先輩は、こちらを全然みなかったんだけど…
なんか、今にも泣きそうな顔…にみえたのは、鷹見先輩が作業しながら俯いていたせいかな?
…
気のせいか…な?
…
「あ、じゃあ…お疲れ様です」
「お疲れー。じゃあな泉」
「はいはい」
…
鷹見先輩は、目を合わせずに手だけで散れみたいにしてきた。
…
やっぱり…
怒って…る?
鷹見先輩の彼氏を返したら、今度は幼馴染に送ってもらうから…
そりゃ…いい気分は、しないよね。
鷹見先輩の周りの人を次々とさ…
次の日
鷹見先輩に…なんて言おう…
幼馴染さんいい人ですね?
…違うよね。
昨日は、送ってもらったけどもう送ってもらいません?
…
そんなのどうでもいいわよって…言われそう。
…
そんなことを考えながら、鷹見先輩のクラスに向かっていたら、わたしは廊下でなにかに躓いた。
そしてめっちゃ派手に床にダイブした。
「いったぁ…」
「あら、ゴメンなさぁーい」
…
見上げるとそこには、
鷹見先輩…
もしかしてわざと?
わざとあしかけした?
いや、そんなこと…ね?
「あ、大丈夫です。わたしがよそ見してて」
…
「冬芽?どうした?ひざ赤いじゃん」
転んだわたしに手を差し伸べる理玖斗。
いつのまに…
「あー、うん。ちょっとね。大丈夫!あ、授業始まっちゃう。それじゃ」
わたしは、自力で立ち上がった。
「クスクス」
鷹見先輩が一瞬笑った?
絶対わざとだったんじゃんって、あの笑みで確信してしまった。
わたしは、少し涙目になったけど必死に隠して教室へと戻った。
もう何も言わない。
鷹見先輩には、何も言わない。
そう思い、お昼になり食堂へ向かった。
そして…
食堂に入ったとたん、
「キャー」
って声が聞こえてきたかと思うと、ガシャーンと食器のようなものが落ちるような大きな物音がした。
⁉︎
みると、そこには派手に転んだ鷹見先輩と転がる食器たち。
鷹見先輩は、一瞬頭が真っ白になったのだと思う。
そこに呆然として、微動だにもしていない。
わたしは、とっさに鷹見先輩の元へ駆け寄り、お皿を回収した。
その様子をみた鷹見先輩は、顔を真っ赤にして、わたしを見ながら
「なんで……なんでわたしなんか助けるのよ…」
って、聞いてきた。
「なんでですかね…?」
「…わたしは、あなたがきらいなのに。あなただって気づいていたわよね?わたしがその…昼間あなたのあしを…」
いきなりのきらい宣言にびっくりしたけど、わたしは自分の発言にも驚いた。
だって…
「知ってます。わたしも先輩のこときらいですよ?」
って返していたから。
そのあと、先輩にニコってしてその場を立ち去った。
どうしてわたしは、とっさにあんなこと…
自分でも驚いた。
まぁ、鷹見先輩もよっぽどびっくり顔だったけどね。
…今度のバイトが気まずすぎる。
でも、言ってしまったことは仕方ない!
その日は、そのまま鷹見先輩と学校であうことは、なかった。
なんとなくホッとした。
でもさ、やっぱりバイトでは…鉢合わせするよねー…って恐る恐るバイト先に向かうと、今日も伊吹先輩と一緒のシフトでめっちゃ安心した。
あーよかったー。
今日は、このまま鷹見先輩と顔をあわせなくてすんだわーと安心して、閉店間近バイトをあがろうとした矢先…
鷹見先輩が登場してしまった…。
あ…
気まずい空気が一気に流れこんできてしまった。
気まずすぎるから、急いで帰ろうとしていたら伊吹先輩がいきなり、
「今度の日曜日、四人で遊園地行こう」
と言い出したのだ。
「「へ?」」
わたしと鷹見先輩は、思わず顔を見合わせてしまった。
だって…
四人って…
だれとだれ⁇
そもそも…
わたしたち…
遊園地に行くほど仲良しじゃないし…むしろ険悪なんですけど⁉︎ってな感じだ。
「あの…伊吹先輩?遊園地とは…」
「遊園地行ったことないの?乗り物があってね…」
「いえ、そうじゃなくて…そもそも…」
「そうよ、なんであんたはそんなに突拍子もないこと。そもそも四人って何よ?せめて冗談言うなら三人でいいじゃない」
鷹見先輩の言葉に、伊吹先輩は真顔で
「四人目は、氷河くんに決まってるだろ?日曜日駅に九時集合ー‼︎ふゆめん氷河くんに言っといて。じゃあねん」
一方的に約束をして帰ってしまった伊吹先輩。
…
とりあえずわたしは、鷹見先輩にお疲れ様でしたといい、その場を立ち去った。
伊吹先輩…謎すぎです。
てか、ふゆめんって…
わたしですか?
続く。