魔法
わたしは、理玖斗の意味深な発言にただただ驚いて硬直するばかりだった。
「理玖斗…?」
理玖斗は、わたしの手を改めてギュッて握ると、
「正直…冬芽が伊吹くんに肩を抱かれたとき、悔しかった。ずっと冬芽は、オレと一緒にいてくれるって思ってたから。なのに冬芽は、バイトしだしてさ、一緒にも帰らなくていいとか言い出すしさ…オレ、めっちゃ後悔してたんだ。でも、もう後悔したくないんだ。冬芽が好きなんだ」
ってまっすぐにわたしをみる理玖斗。
「うん、わたしも好き」
「マジで?ほんとに⁉︎」
「うん」
えっ⁉︎って顔の理玖斗。
理玖斗は、ありがとうって言ってこのまま…キスするかと思いきや、
「あ‼︎冬芽みて‼︎」
と、下を指差した。
?
えっ?
恐る恐る覗き込むと、入り口のあたりでキャラクターが風船を持ってジュースを売っていた。
「わぁ、かわいい‼︎降りたらそこ行こう?」
と、はしゃいだものの…
下を見ていたら…どんどん怖くなってきてしまった。
…
「冬芽ごめん、下みてとか言って。でも大丈夫だよ。オレが魔法かけるから」
理玖斗が、わたしの手を握って口にチュってしてきた。
「えっ?」
「ん?まだ魔法かからない?しょうがないなぁ」
チュ
え…
「ん?まだ怖い?」
怖いよりびっくりだ。
…
「こわいよりびっくりってか……うそ、やっぱり怖い」
フッと、理玖斗は笑って今度はちょっと長めの魔法をかけてくれた。
「理玖斗……この魔法っていつかとけちゃうの?」
「とけないよ。だってずっと魔法かけ続けるからさ」
チュ〜♡
わたしは、すっかり魔法にかかってしまい、ポ〜っとしていた。
そしたらまた、あっという間に頂上を過ぎて、なんならもうすぐおりるところまできていた。
理玖斗が魔法使いだとは、知らなかった…。
観覧車からおりて、理玖斗とベンチに座り鷹見先輩と伊吹先輩を待っていた。
ただいま〜と、鷹見先輩が優しい笑顔をのぞかせた。
「さっき上からみたらさ、キャラクターがいてさ」
伊吹先輩が、そう言いかけると理玖斗も、
「知ってる!行こうぜ」
と、わたしは理玖斗に手をひかれた。
いつのまにか、この遊園地で二組のカップルが成立していた。
わたしと鷹見先輩は、それぞれ彼氏に手をひかれて、顔を見合わせて、くすくすっと笑い合った。
入り口のキャラクターに近づくにつれて、軽快な音楽が鳴り響いた。
そしてその音楽みたいに、わたしの心も踊り出す勢いだった。
キャラクターは、わたしたちに気づくと、ジュース美味しいよってジェスチャーしてきた。
みると、その飲み物はラムネだった。
四人でジュースを乾杯して、キャラクターと一緒に写真をとって、キャラクターにバイバイした。
「なんか、鷹見先輩ってこのラムネのビー玉みたいですよね?」
「どういうこと?綺麗ってことかな?」
「いえ、表情が意外とコロコロかわるなって思って」
「あー、なるほどな。オレはてっきり、ビー玉みたいに透き通った心だから、泉の心をみんな見透かしているよってことかと思ったわ」
と、伊吹先輩。
「ちょっと、あなたたち…なにを好き放題に言っているのかしら?」
「「「「あはは」」」」
四人は、ラムネを飲んで笑い合った。
色々あったけど、ビー玉みたいにまるくおさまってよかった。
ラムネのビー玉がきらいだったのに、今じゃそのビー玉が宝物みたいになった。
わたしたち四人は、またみんなで遊園地来ようねって約束をした。
そして帰りに二人になったときに理玖斗に、また観覧車で魔法かけてねって言ったら、
「魔法って、どこにいてもかけられるんだよ?」
って言われて、帰り道また魔法をかけてくれたんだ♡
だから、実はわたしも魔法使いなんだよ?って言って理玖斗に魔法をかけてあげましたとさ♡
おしまい♡




