垣根を越えて
その話が来たのは、必然だったと思う。
「……しかし、今までの敵国へと大使として赴任するとなれば、さまざまな軋轢が予想されますが」
自分が大統領へと聞き返す。
「重々承知。だが今となれば先の戦争についてのことは一度忘れなければならぬ。君なら我々の間を取り持つこともできるだろう、君のその出自がゆえに」
大統領は椅子に座り、左右の指を絡めながらも自分の顔をじっと見てきた。
「それは母がこちら、父があちらの出身だから、ということでしょうか」
「まさに」
にこやかに答える。
「少なくとも、自分には断るような理由はないです。とくに両親からは古から両国は一つとして成るべきだという教育を受けてきました。自分が互いの懸け橋になるようなことができるのであれば、これに勝ることはありません」
「おお、では……」
「大使の赴任、承ります」
「おお、ありがとう。ありがとう」
大統領は立ち上がり、自分と握手を交わした。