【第4話】異世界モノのゴブリンは扱いが雑になりがちだが俺は名前を付けてあげた
ダンジョンに向けて歩みをすすめる一向は、トーリの提案でキャンプをすることに。敵だったゴブリンと焚き火を囲み、はたしてどんなキャンプになるのか?!
ゴブリンを先頭に、険しい山道を進んでいく。ダンジョンに向かって歩き始めて半日が過ぎ日が暮れて来た頃。
ゴブリン「ダンジョンまではここから更に1日以上かかるぞ」
ゴブリンは不満そうな表情で言った。リーナは険しい表情だが同意する。
リーナ「この山は危険だから、一気にダンジョンまで進みましょう」
俺はその言葉に不満を感じた。異世界でキャンプを楽しむと決めたのに急ぎ足で進むなんて面白くない。
「まあまあ、夜道は危ないし野宿してしっかり休もう。今日はここで焚き火を囲んで、ご飯を食べれば疲れも取れる」
リーナは首を横に振った。「トーリ、ここは本当に危険なの。一気にダンジョンまで進むべきよ」
「でもこの半日何も危険なことはなんもなかったよー」
ゴブリンの心の声(ダンジョンに近づけばそんな呑気なことは言ってられないぞ・・)
リーナ「確かに・・でもそれは運が良かっただけよ」
「俺はここでキャンプがしたい。昨日のご飯の残りを食べよう」
リーナはムッとした顔で俺を見つめた。「それは・・食べたいけど!」
「じゃあここで一晩ゆっくりしよう」
リーナはため息をつき、渋々と承諾した。「わかったわ。でも何かあったら守りなさいよ!」
「それは約束する!俺のキャンプの邪魔は誰にもさせないよ」
リーナ「それ私を守るのっておまけじゃない!!」
「冗談だよ(笑い声)」
ゴブリンも最初は不満そうだったが、仕方なく同意した。「クソ…なんでこんなところで」
俺たちはひらけた場所に陣取り焚き火を熾した。ゴブリンは最初は不満げに唸っていたが、次第に興味を示し始めた。
「何をしてるんだ?」
「昨日の残りでキャンプ飯を作るんだよ。一緒にやる?」
ゴブリンは渋々と参加した。リーナも少し警戒しながら、焚き火の周りに座った。
「今日は特製のスープを作るよ。ドラゴンの肉が残ってるから、それを使おう」
ゴブリンは驚いた表情で俺を見た。「ドラゴンの肉だって?!」
「うん。めちゃくちゃ美味しいよ。」
ゴブリンの心の声(おれドラゴンなんて食べたことない・・・てかこいつらドラゴンより強いのか?)
スープを作る音「グツグツグツ」
「よし出来た!特製ドラゴンスープ!!」
俺はゴブリンとリーナに振る舞った。
ゴブリン「俺も食べていいのか?」
「もちろん!たくさん食べて」
ゴブリンは一口食べると目を丸くした。
「うまい!こんなに美味いもの、俺は初めて食べた!」
リーナもニコニコしながらスープをすすった「本当に美味しいわ」
俺は焚き火を見つめながら、満足げに頷いた。
「ここでキャンプすることにして、良かったでしょ?」
焚き火の温もりと美味しいスープで、2人とゴブリンの緊張も次第に解けていった。
ゴブリンも笑顔を見せるようになった。
ゴブリン「アニキッ!アネキッ!昨日はいきなり襲ったりしてすまん!!」
「全然いいよ。襲われたとも思わないくらい弱かったし。」
ゴブリン「アニキそれはひでーよー!!」
「そのアニキっていうのやめてよ」
リーナ「もう仲良くなってるしー」
小物で悪いキャラだけど憎めない、イメージ通りのゴブリンだ。でもつくづくファンタジー系の漫画とかだと雑魚キャラとして序盤で出てきて扱いが雑になりがちで可哀想な立ち位置なんだよな・・
「そういえば、名前を聞いてなかったね」
ゴブリン「名前?俺たちゴブリンにはそんなものはないぞ」
「え?名前ないの?」
ゴブリン「いやーそんなこと考えたこともなかったな」
「よし、じゃあ今日からきみの名前はグリード!」
ゴブリン「グリード!!・・かっこいいな!!ありがとうアニキ!!!」
確かに響きはかっこいいが、意地汚いとか強欲って意味なんだよな。
でもまあ本人は気に入ってくれてるし良しとしよう。
グリード「俺の名前なんて考えてくれたのアニキが初めてだ」
嬉しそうにそう言ってドラゴンのスープを啜ったグリードは、さっきまでと比べて優しい表情になったがどこか逞しい雰囲気を漂わせていた。誰がなんと言おうとゴブリンだし襲ってきたけどコイツはいいやつだ。
ナレーション:
・山田トーリは特殊スキル「キャンプ飯」を手に入れました。このスキルは自身が焚き火で調理した「キャンプ飯」を食べた者の体力を回復させます。回復の度合いは「キャンプ飯」の具材に左右されます。またこのスキルはオリジナルスキル「不便益(unhandiness profit)」の派生スキルです。
・また特殊スキル「キャンプ飯」で使った食材の影響、そしてその他の条件を満たしたことによりグリードは種族進化を行い、ゴブリンからドラゴブリンに進化しました。通常食べる機会のないドラゴンをゴブリンが食べたことによるレア進化と思われます。
なんだこれ。頭の中に直接語りかけてくる感じだ。
特殊スキル「キャンプ飯?」・・俺は美味しく食べられればいいけど。みんなの体力を回復させてあげられるのは嬉しいな。
「グリード今の聞いた?」
グリード「ああ!なんか聞こえた!アニキのおかげで種族進化した!」
リーナ「ええ、何よ私には何も聞こえてないわよ」「それにゴブリンが進化なんて聞いたことないわ!」
「ググググ・・(グリードが変形する音)」
背丈は一回りほど大きくなり、身体中にドラゴンのような鱗が生え揃い、頼もしい風貌になった。
全人類がイメージするゴブリンとは別物のかっこいいゴブリンの誕生だ。
グリード「やったー!!」
「格好良くなったね!」
そんなやりとりの後は焚き火の炎を見つめながら、全員が新たな仲間との絆を感じていた。
キャンプはやっぱり人と人との距離を縮める素晴らしい手段だ。
「明日はダンジョンに向かおう。しっかり寝て駆け足でいこう」
俺たちはその夜、焚き火の暖かさに包まれながら、ゆっくりと休むことができた。
心身ともに休むことができた3人は次回いよいよダンジョンに辿り着く・・?!