5…外套の男
「やあ、いい夜だね」
不意に少年に声をかけてきた男がいた。黒ずくめの外套を着て、腕を組んで切り株に座座りながら、反応を窺うような目でコチラをみていた。
「……あんたは誰?」
少年は素っ気ない目で外套の男を見た。外套の男はこうも素っ気ない目で見られるとは思っていなかったようで、少し驚いた様子を見せた。
「私はただの竜殺者だよ。いや、あまりにも遅い時間に君みたいなガキが出歩いているようなもんだから、竜でも出たのかと思って来ただけだよ」
「じゃあ、わかっただろ。此処ら竜なんかいない。僕は竜というものを見たことすら無い。さっさと何処かに行ったらどうだ? 僕を1人にしてくれ」
「あっそ」
「それじゃ帰るわ」
外套の男は不機嫌そうな顔で別れの挨拶を言ってから少年に背を向けた。
「あ、そーだ」
「君はどうせ紋章を持ってないんだろ。だから屋敷が嫌になって飛び出してきた。違うか?」
外套の男は背を向けたまま言った。
「…そうだ」
少年は憎しみの感情を込めて声を発した。
「まあ、頑張りなよ」
外套の男はそう言ってからその場を立ち去っていった。
外套の男がいなくなり、しばらく経ってから、急に少年のあたりを熱風が襲った。