43…下手の横好き
オストが目を覚ますと、そこには真紅に染まったツルが幾つも、オストを護るように展開されていた。オストは後ろを見ると、
「! アルベルト!」
アルベルトがいた。アルベルトは余裕の表情を浮かべ、アミラルを見据えている。だが、アルベルトからしてもこの事態は予測不可能であった。というか、どの様にして『竜食族』の里を割り当てたのだろうか。自分たちをつけていたとしても、だとしたら『天使』が囁いてくれるはずだ。今回は『天使』が囁いてくれなかった。つまり、尾行されたわけではない。
つまり、敵側には少しの情報から、予測を確定に変換できるほどの、超人的頭脳を誇る誰かがいる。だとしたら、この少女をその誰かのところに返すのは危険だ。それだけで竜殺者ギルドの作戦を読まれる可能性がある。
「オスト」
「なんだ?」
「この女は絶対此処で殺すぞ」
「え?」
「え?」
「いや、だとしても唯の少女をなんの理由もなく殺すのは……狂人的殺人鬼と何も変わらないんじゃ………」
オストはそう言うと、口をもごもご動かした。なにか言葉を繋ぎたいのだろうが、その言葉が見つからない、といったところか。
「竜殺者のオストに刃を向けた。それで十分だ。行くぞ」
「………わかった」
オストは渋々従った様子だった。これでは共同戦闘能力が下がるが、今はそんな事を悠長に言っていられる時間はない。それに、少女もそろそろ動き出しそうだ。話がまとまるまでわざわざ待ってくれた少女は思いの外、お人好しなのかもしれない。
「【豪華絢爛】」
「【中原逐鹿】!」
オストが前に立ち、アルベルトが後ろに立った。オストはアミラル目掛けて走り出した。アミラルはその鎌を振り回し、居合いの様に構えた。オストがアミラルに刀を振り下ろすと、少女はそれを交わし、側面からオストを叩き斬ろうとした。だが、【豪華絢爛】の管がアミラルの鎌の攻撃を防いだ。
ーザンー
オストの斬撃が勢いよくアミラルの左耳を掠る。アミラルの耳からはプツンと血が出てきた。オストの紋章は『武器の性能を上げる』効果がある。つまり、オストの攻撃をただの刀の攻撃だ、と思い余裕しゃくしゃくに侮って正面から受けるとして武器ごと胴体が両断される。
その点、アミラルの判断は素晴らしかった。明らかに鎌で受けれる状況だったのに関わらず、あえて交わす選択をした。アミラルがそのまま受けていたら両断されていた。ただ、その事実をもってしても、アミラルの表情は崩れない。
交わそうと思えばいつでも交わせる。ということだろうか。いや違う。そもそもオストを脅威と認識していないのだ。事実、アミラルからしてみればオストの時間と汗を注ぎ込んだ技術でさえも、アミラルにとってはお粗末なものだ。アミラルからみて技術とは、人が自然に二足歩行できるのと同じこと。造作のない事なのだ。
そんなアミラルにとってオストとは、下手の横好きである。ただの自分の劣化。下位互換。それを補う様に紋章で威力を高めている。それは猫に小判を与えても使い方をわからないのと同じだ。
対して、アルベルトは、なかなかに厄介な敵だ。アルベルトの【豪華絢爛】は中距離、遠距離で使う紋章であり、対オストで見せた様なカウンター技で相手を仕留めることを得意とするアミラルからしてみれば遠距離から一方的に攻撃してくる厄介極まりない相手である。この時点で、アミラルの興味はすでにオストからアルベルトに移った。
「……私の思っていた以上に骨が折れそうな相手ね。私も奥の手を使う」
「「!」」
ただえさえオストとアルベルトの二人で戦ってやっとの強さだというのに、これからさらに奥の手を使うと言う。これならば、様子を見ずに速攻で最高火力で一か八か勝負を仕掛ければ良かった。とアルベルトは後悔した。ただ、時すでに遅い。
「【哀毀骨立】」
アミラルはポツリと呟いた。すると、鎌が、禍々しく、紅くなる。それを一振りすると、血の匂いが離れているオストにまで届いた。
「オスト、何か来る。身構えておけ」
アルベルトに言われた。だが、オストもそこまで馬鹿ではない。とっくに身構えていた。アミラルの動き一つ一つを注視し、その所作を見逃さなかった。だからこそ、
(くる!)
ーザンー
気づけなかった。アミラルの速度はこの時、光速を超えていた。光よりも届くのが速いのだから、光の速度までしか目で追えないオストにこの攻撃が読めるわけがなかった。だが、幸いな事に、斬られたのは刀。中心で真っ二つになっている。
「ッオスト!」
アルベルトがすぐさま対応し、アミラルへ攻撃を出した。それを簡単に薙ぎ続けるアミラル。アルベルトは卓越した戦術眼を持っているからこそわかった。いや、わかってしまった。自分たちではアミラルに勝てないと。
(アミラル。この少女は強い。だが、俺にはまだ、市場で盗んできた銃と銃弾がある。これさえ使えば)
アルベルトは瞬間、銃を取り出し、それをアミラルに構えた。
「!」
アミラルは対応してそれを防ごうと鎌を大きく振り上げた。アルベルトは最高火力を叩き込むべく【豪華絢爛】を大きく展開した。勝負は一瞬で決まる。アルベルトの銃弾が当たるのが先か、アミラルの鎌がアルベルトの胴体を真っ二つにするのが先か。オストはアルベルトの方へと駆け出した。
ーバンー
アルベルトは銃を撃った。だが、アミラルは意外にも簡単に交わした。そして、アルベルトの胴体を、切断した。だが、
「……危なかった。もし僕の紋章が【豪華絢爛】でなければ死んでいたかもしれない」
アルベルトは【豪華絢爛】の管で鎌をなんとか防いだ。アルベルトの手には銃は握られていなかった。疑問に思ったアミラルは先ほどから何がしたいのかわからず、注意を逸らしていた相手をみた。その相手はなぜか銃を構え、アミラルにむけていた。そして大きく叫んだ。
「ありがとう!アルベルト!」
そして【中原逐鹿】を発動し、銃弾の威力を何倍、何十倍にも高め、その上で、銃口から鉄の鉛を発射させ、アミラルの頭蓋を狙う様に、鉄の鉛は進んだ。
そして、ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【哀毀骨立】は「あいきこつりつ」と読みます。作者もわからない程難しいのですが、是非とも覚えてほしいです。
え?すでに知っている?そんな人は滅多にいないと思いたいですが。というかわかってたらすげぇよ。




