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40…『銃』

「……アルベルト」

「……なんだオスト?」

「なんでラテーノさんは僕とお前を南部まで徒歩で向かわせていると思う?」

「……私は実際にラテーノさんに訊いたのだが、道中で経験を積め、とのことだ」

「へーー」

「………」

「………」


 「何も話すことが無くなってしまった」とオストは心の中で絶句した。そもそも、オストとアルベルトとはあまり仲が良くない。ひょんな事で共にフェルニゲシュ討伐にあたり、偶然紋章の相性がよろしいだけだ。二人は身分も違えば趣向趣味も違う。

 オストは平民で、ラテーノにたまたま拾われた。アルベルトは生まれながらの貴族だ。宰相の息子で遠く遡れば英雄の血を引いている。

 オストの趣味は図書館でいろいろな竜に対しての知識を得る事、とラテーノに稽古をつけてもらう事。アルベルトの趣味は紅茶を嗜みながら世間話で時を過ごす事。どちらかが歩み寄ればすぐに解決する問題ではある。だが、どちらも歩み寄ろうとはしない。


「……………」

「……………」

「…なあ……」

「……………」


 会話をしようとしても何を話題にすれば良いのか、もっと図書館で社会情勢についての本を見ておけば、とオストは今頃後悔する。


「オスト、竜がいるぞ」

「ああ、本当だな。見た目からしてタラスクだな。アルベルト、こいつは機動力がないから、速度で錯乱させて倒すぞ」


 だが、こんな二人でも気を合わせて立ち向かうものがある。竜である。タラスクは背中に亀の様な甲羅を持ち、首元には獅子の立て髪がついている。手足には鋭い爪がついており、尻尾にはスパイクがある。もっとも竜殺者ギルドなのだから竜を協力して討伐しなければ本末転倒なのだが。


「【中原逐鹿】」

「【豪華絢爛】」


 二人はほぼ同時に紋章を展開し、タラスクに立ち向かっていった。オストはその紋章で刀の性能を上げ、まずは手足を切り落とそうとした。タラスクはそうはさせまいとスパイクで反撃する。スパイクのトゲとオストの刀がぶつかり合い、火花を散らした。威力はどっこいどっこいで競っていたが、最終的には元の底力が上のタラスクが振り払った。

 オストは一回転してそのまま着陸。アルベルトはオストの攻撃の様子を見て、スパイクが厄介だと感じ取り、まずはスパイクを封じようと、管でスパイクを絡め取りに掛かった。

 スパイクと管が巧妙な駆け引きを始める。合わせてオストが手足を斬りに掛かった。スパイクがオストに対して使えないタラスクは爪で攻撃する、と思われたのだが、分が悪いので、殻に籠った。


 「ッチ。面倒なことになった」


 アルベルトはじれた様に言った。それとは対照にオストは冷静だ。


「大丈夫だ。タラスクは体の割に殻が小さいから、篭れる時間は短い。粘り強く待って、首が殻から出た瞬間に斬り落とそう」


 と言った。アルベルトはそんなオストの様子と、ダハミリ城でのオストの様子とを対比した。別人とまで思える程の成長具合だ。たった一ヶ月でこれ程まで。まるで自分が置いて行かれた様な気分だ。そしてなぜか、それに高揚する自分がいる。アルベルトはもっと強くなろうと決心した。


 ーパンー


 突然、タラクスの甲羅に小さい穴が一つ空いた。空洞からは湯気が立ち上り、時を置かずして血が滴り落ちた。オストとアルベルトは何が起こったのかわからず混乱した。何者かによる攻撃である事は確かだ。だが、こんな攻撃を二人は見たことがない。紋章の効果なのだろうか?いや違う。紋章ならば勘付くはずだ。だがソレがない。つまり、なにかの兵器による攻撃。かなり高性能な。

 実在しない矢を放つ『光の矢』?それとも『光の弩』?はたまた『光神の血槍』?そんな訳がない。


 解らない。


 これが二人のたどり着いた結論。と、そこへ狩人がやってきてこう訪ねてきた。


「お二人は竜殺者ですか?」

「ああ。そうだが」

「では、そちらのタラスクは頂きたい」

「なぜ」

「我々は竜を食糧にして生きている『竜食族』だからです」


 ちょっと理解に苦しむ、という目をアルベルトがすると、オストが納得する様に説明した。


「『竜食族』、確かもう何百年も前に滅んだと聞いてはいたが、まだ生き残っていたのか。アルベルト、あの人たちは本来食べたら死んでしまう竜の肉を食べることができる特異体質だ。逆に他の肉は食べる事ができない。でも、道理で納得した。その手に持っているのは『銃』ですね」

「その通りです」


 『銃』は『竜食族』が効率的に竜を殺すために作った竜特攻の兵器である。竜を滅する鉄の鉛を音速で撃ち抜いて竜を死滅させる。現状では最強の武器だ。しかしその分精密な技術が必要で『竜食族』以外には製造すらできない。オストは少し考えて狩人にこう言った。


「このタラスクを貴方に差し上げるのはいいが条件がある」

「条件?」

「ああ、その『銃』を六つと鉄の鉛を120個くれ」

「………了承、しかねますが」


 当然だ。貴重な『銃』と鉛をタラスク一匹と交換しろと、この竜殺者は言うのだ。さすがに…、だが、久しぶりの手に入れた獲物を得られないのは本末転倒。竜殺者を殺して逃げようにもこの二人は手練だ。無事でいれる保証はない。

 ……命が最重要……だ。

 狩人は折れて了承した。


「しかし、あいにく今私は『銃』をそんなに持っていません。ひとまず里へ帰ってから準備しますので…」

「ついて行こう」


 アルベルトが笑顔で言った。笑顔とは幸せの表現の他に強引に引っ張る時にも使える恐ろしい道具だ。


「わかりました。ついてきてください」


 狩人は軽く舌打ちをしてから案内を始めた。オストとアルベルトは気づいていながらも特に追求はせずにそのまま歩き出した。

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