39…部下二人
「………『三千世界』ですか」
整頓されて執務室にて、報告書を読みながら苦々しい表情を浮かべる者が一人。この帝国の皇帝である。金色の髪型に眼鏡。耳には帝国の紋章を形取ったピアスを装着している。肌は病弱である事を疑いたくなるほど白い。黒色の皇帝服を着こなし、足を組んでいた。
皇帝は机をトントン、と叩き、合図を出した。合図を聞き、参上したのは、
「お呼びでしょうか?陛下」
近衛騎士団長である。手を合わせ、合掌し、跪いた。
「立ちなさい」
皇帝は近衛騎士団長の方を見向きもせず、立たせた。近衛騎士団長はなにも考えずに立ち上がった。
「もう時期、南部にて竜と人との大きな戦が始まるでしょう。帝国の南部師団の全てを私の指定する場所に向かわせてください。それと……竜殺者ギルドにも応援を要請しておきなさい。主に竜との戦闘になるでしょうから、プロである彼らに相手させましょう」
皇帝はそれだけ告げて、別の報告書を片手に、別の問題に思案を移した。近衛騎士団長はそのまま立ち去った。
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「………と、いうわけで朝廷の命令で竜殺者ギルドから二つ程度の部隊を南部都市に送る事となった。行きたい、という希望者は元気に手を挙げましょう!」
イオタは手を挙げるよう促すのを兼ねて、自分自ら勢いよく手を挙げた。それに呼応する者は誰もいない。
「手を挙げよう。ハイィィィ!」
もう一度やってみたが結果は同じ。誰も手を挙げない。お互いに空気を読み合っている。それもその筈だ。南部の竜は北部の竜と比べて強力な力を有している。それはなぜか?温暖だからである。竜は大きな生物区分の中では『爬竜類』という分類に入る。この爬竜類は寒さが苦手で、基本的に温暖な場所に生息している。北部の竜は南部での生存競争に敗れた結果北に来て、寒さに耐えることに力を据えたいわゆる特異点である。
それと反対に南部の竜は、生き残っている時点で獰猛な戦闘狂。生物としての三大欲求を全て戦闘能力で埋め込んでいる様な感じである。もちろん竜殺者の死亡率も北部と比べて爆発的に高く、新米竜殺者の十人に一人しか生き残れないほど過酷な戦場である。その分、南部で活動している竜殺者の実力は非常に高いのだが、それは別の話。
つまるところ、誰も行きたくないのである。だが、そんな中でも手を挙げる者が一人。
ミューである。
「行かせてください」
そう言った。ミューはモグルの孫娘だ。なにか思うところでもあるのだろう。イオタはそのことを察しているから、特に何も言わずに「わかった」と了承した。
「では、俺も行かせてください」
もう一人手を挙げた。カイだ。カイの目は迷いがなく、他の追随を許さない程の気迫を放っていた。その原因はイオタでさえも解らなかった。
「では、私の部下から二人ほど今回の部隊に参加させましょう」
静まり返った場の沈黙を破るかの様に、ラテーノが笑顔で言った。声は全く笑っていない。
「「は?」」
ミューとカイの二人は突然の出来事に固まった。正気か、とでもいうかの様な顔つきだ。当たり前である。これから竜の大生息地である南部へと行くのだ。戦闘が始まった時、南部は火の海、修羅場へと化すであろうに、その場へ自分の部下を二人参加させる、というラテーノの発言。ラテーノはその部下に死んで欲しいの?と訊きたいであろう。「なにそれ、パワハラ?」と二人は思った。
だが、ラテーノの真意は違う。むしろ逆だ。部下二人に成長して帰ってきてほしい。ラテーノは部下二人の潜在能力に気づいている。ゆくゆくは竜殺者ギルドを支えてゆける才能がある事に。それだけではない。オストとアルベルト、彼らの紋章な相性が良い。非常に良い。オストの紋章効果は『使用武器の性能を上げる』。アルベルトの紋章効果は『華の管を出現させる。纏うと相手の攻撃を跳ね返す』。
オストで前線を張り、アルベルトが管による遠距離攻撃とオストの為の防御構築、加えて牽制を行えばどんな相手にも勝てる。ラテーノの見立てだ。これではいささかアルベルトの負担が大きすぎるので要検討ではあるが。
「あの二人ならば大丈夫ですよ」
ラテーノは軽く威圧しながら笑顔で言った。ミューとカイはしばしば頷いた。
「じゃあ今回の部隊にその二人を」
「もう向かわせてあります」
流石だ、とイオタは満足そうに言った。




