38…【天眼】
「先日、帝国南部にてモグル隊長が死んだ」
帝都にある竜殺者ギルド会議室にて、ラテーノが深刻な顔付きで言った。各人はそれぞれ、驚く者、悲しむ者、特になにも感じない者、笑っている者、そもそも話を聞いていない者など、多種多様だ。
ラテーノは諦めた様に、イオタの方を向いた。
「なんだ?ラテーノ。まだ五分しか経っていないのにオイラを頼るのか?ダメ人間だねぇ」
イオタはそっぽをむきながら、ケーキを口に入れる。イオタには専用の机が用意されており、その机には帝国の高級菓子がこれでもかというほど並べられている。
「元々こういうのはイオタさんの方が得意なはずです。どうか無力な後輩に力を貸してくださいよ」
「はあぁぁぁ、仕方ないなぁぁ」
ラテーノが言ったことは間違ってはいない。イオタの【天眼】は大陸の万象を見通すという権能を誇る。竜殺者ギルドである意味最強の紋章だ。イオタはため息をつき、渋々椅子から立ち上がり、ラテーノの方へと歩いていく。その途中で別の椅子を蹴り倒し、イオタのために道を開けたラテーノにわざとぶつかった。ラテーノは口答えができず、黙り込んでいる。この態度を咎める者はこの場にいない。唯一、総帥ならば咎められるだろうが、この場にはいない。誰も咎めない事でイオタの態度はどんどん増長していったのだ。つまり、イオタを庇うとしたら、イオタの責任だけではない、という事だ。
「で、モグル爺さんは死んだわけだけどね、何故かというと雑魚だからだよ。『比重』しか使えない癖して大物ズラしててさ、うざかったよねぇ」
「イオタさん……」
「わかった。でね、重要なのはその後だ。モグルを殺したのは誰だと思う?じゃあそこのカイ君!答えてみな」
カイ、と呼ばれた青年は戸惑った。カイは白色の髪に白いスーツを着ており、いつもなら髪型を整えている。だが、今はイオタに指名された事で汗がダラダラ流れ、セットが崩れている。
「え、ええ!?」
「………時間切れ。馬鹿すぎて話にならないね」
話にならない。カイにとってはこの上ない屈辱であった。隊長に上り詰めてまでこんな惨めな思いをしなければならないのか?カイは思ったが、それを言葉にする事はなかった。
「正解を言うね。モグルを殺したのは『三千世界』だ。みんな知ってる?」
「いえ、私は知りませんね」
「俺もだ」
「オデも知らねえぞ」
「初耳だな。興味深い。もっと聞かせろ」
「それで、『三千世界』の目的は?」
それぞれが自分なりの答えを返し、最後に竜殺者ギルドの特攻隊長ミューが質問をした。ミューは重要な局面でしか口を開かない寡黙な女性で、そのミューが口を開けたということは重要であるという事で。
「『三千世界』の目的は、帝国の乗っ取りだ」
「!」
皆が驚いた。帝国の乗っ取り。明らかにおかしい。というよりも何故、モグルを殺したのだろうか。帝国の乗っ取りが目的なら、竜殺者ギルドの隊長を殺すのではなく、帝国の高官でも殺せば良いのに。
「そこが問題だ」
イオタがボソリと呟いた。皆は特に意味もない独り言だと思い無視したが、一人だけは違った。ミューだ。ミューは、
「まさか、竜殺者ギルドが帝国存亡に関わる戦いに参戦する様に仕掛けたのか?」
と言った。イオタは深刻な事であるにもかかわらず、満足げに頷いった。
「と言っても、まだそこまでの確信はないのだけれどね。それに………」
イオタは目線を下へ逸らした。ラテーノは
「自分たちが考えている事ならば、すでに朝廷が対策を実行しているでしょうしね」
笑いながら言った。
「そもそも我々は帝国に反抗する組織に対して対処する便利屋ではない」
「その通りだ。オイラたちは今まで通り竜を殺し続ける。それだけだね!」




