34…封印
胴を斬られた。
体の再生がすぐに始まる。
まだだ。まだ負けていない。
俺は死なない。
フェルニゲシュは胴を二つに分けられてからも辛うじて生きていた。ヤーノシュはわかっていたのか、完全にトドメを刺そうとして、悠然とフェルニゲシュの頸に歩き出した。フェルニゲシュは満身創痍の様子で、ダメ元で紋章が使えないか試してみた。
フェルニゲシュの血はヤーノシュの目の前に馬の形を作り始めたが、ヤーノシュはそのまま突き進み、馬を破壊した。ヤーノシュにはフェルニゲシュの返り血が浴びせられ、ヤーノシュの深紅の髪をより神聖に引き立たせた。ヤーノシュは怯む事なく進み続け、フェルニゲシュの頸の前にやってきた。
「幕だ。フェルニゲシュ」
ヤーノシュは剣を振り上げ、フェルニゲシュの頸へと無作用に落とした。フェルニゲシュの頸はいとも簡単に落とされ、フェルニゲシュは息絶えた。
「礼を言います。ヤーノシュ殿」
するとこれまで息を潜めていたアンバーが堂々と現れて、ヤーノシュへ一礼し謝辞を述べた。続けて、
「この悪竜への対処は我も難儀しておりまして、やっと死んだので清清しました」
「いや、礼には及ばない。オレは陛下の命で参上したまで」
「そんな事はございません。ヤーノシュ殿はダハミリ城の英雄ですよ」
「そうだ、アンバー城主。陛下がフェルニゲシュ討伐援助の褒美として、官位を二段階上昇させ、貴殿に『紀伯』という位を与えてくださるそうだ。次いで、金品千点もだ」
「有り難き幸せ」
アンバーとヤーノシュはしばらく談笑し、その日は一日中宴会を執り行い、次の日、ヤーノシュは帝都へと戻った。フェルニゲシュの頸は見せしめとして帝都郊外の城城を廻った。
♦︎♦︎♦︎
「さあ、生き返れ。フェルニゲシュ」
人知れず、アンバーはフェルニゲシュの頸に呼びかけた。フェルニゲシュはすでに死んでおり、問いかけても何の反応もない、筈であった。フェルニゲシュの肉体はみるみる再生し、フェルニゲシュは復活を遂げた。
「………アンバー、何のつもりだ?」
フェルニゲシュは生き返ったのも束の間、敬語を忘れ、怒りを込めた声でアンバーに訊いた。アンバーは爽やかな顔でどうでも良い事の様に告げた。
「生き返らせた、ただそれだけだが?」
「では何故俺を殺すことの手回しをした?」
アンバーは隠せなくなったのか、首を横に振り、
「我は今回の件での褒美として城主の位を上げてもらったのだ。しかも『紀伯』だ。城主の中でも二番目だ。そこで思ったのだ。今回と同じ様に、これからも貴様を利用し続けたら、いずれ皇帝の側近になれるだろう」
アンバーは冷酷な目でフェルニゲシュを見つめる。
「……一体何がしたいんだ? お前は」
「皇帝の紋章はトップシークレットだ。同じ皇族ですら、皇帝直系の紋章は知らない。その紋章を知る」
「できると思っているのか?」
「できるとも。権力を高め、娘を皇帝に嫁がせ、その子を次の皇帝にたて、自らを皇帝の外戚とする」
「!」
アンバーはニコリと笑った。
「で、皇帝の紋章を知って何がしたい?」
「あくまで紋章を知るのは不安要素を潰すためだけだ。重要なのはその後……」
フェルニゲシュは固唾を呑んで耳を傾ける。
「帝国を滅ぼし、我を中心とする新たな国を建国する」
「!」
フェルニゲシュには無謀な夢に聞こえる。どこにでもいそうな少年が掲げる世界征服の様な。アンバーは危険だ、と考えたフェルニゲシュは剣を召喚し、アンバーに斬りかかった。
だが、結局フェルニゲシュの刃がアンバーに届く事はなかった。
「……【恐怖政治】か」
「ああ」
アンバーの【恐怖政治】がフェルニゲシュの肉体の動きを止めたからだ。フェルニゲシュは悔しそうな表情を見せた。アンバーとは対照的だ。
「その時が来るまで、フェルニゲシュ、貴様は歴史の表舞台から消えろ」
その言葉を最後に、フェルニゲシュの耳には何も聞こえなくなった。
とりあえずこれでフェルニゲシュの過去は一旦書き終わりました。
いやね、思ったよりも長かった。
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