33…決着
明けましておめでとう御座います!
コレならば、いける!
俺はヤーノシュの斬撃を一目見てわかった。この斬撃は、俺の命を一撃で刈り取るものではない。勿論、それだけでも十分強力だ。だが、それは俺にとってただの斬撃と等しい。知らないかもしれないが、俺は最速の竜だ。そんな斬撃当たらない。
俺は斬撃を交わした後、隙の出来たヤーノシュの横腹を爪で切り裂く。完璧だ。それに、ヤーノシュ、お前は既に俺に紋章を見せているが、俺の紋章はまだお披露目していない。万一、俺の攻撃が交わされても、すぐさま紋章を展開する。ヤーノシュ、お前は俺の紋章にどこまで対応できる?
あの肉弾戦で圧倒的な強さを誇るベントレーでさえ、俺の紋章には手も足も出なかったのだ。
しかし、ヤーノシュはベントレーと違い、近衛騎士団長だ。ベントレーとは肩書きが違いすぎる。どうなんだ? 俺は今まで近衛騎士団の連中と戦闘をした事が一度もない。はっきり言って、未知数なのだ。近衛騎士団長が果たしてどれほどの実力の持ち主なのか、俺には計りかねる。
ダハミリ城の外にも、近衛騎士団の連中が居るだろう。たとえここでヤーノシュを倒したとしても、その後近衛騎士団と連戦せねばならない。できれば、一撃で、ヤーノシュを殺す!
「ヤーノシュ!」
俺はヤーノシュの斬撃を交わし、その勢いのままヤーノシュ目掛けて突撃した。俺は咆哮し、自らを奮い立たせた。
俺はこれより、あの怪物の殺戮圏内に入る。決して死なぬぞ!
「………蛮勇だな」
ヤーノシュは至って冷静な様子で、こちらの出方を伺っていた。それなのに、いざ始まってみれば唯の突撃。期待していたヤーノシュの落胆は大きかった。ヤーノシュとフェルニゲシュが正面から戦っても、ヤーノシュの方が強いのだ。だからヤーノシュは冷静だ。なにせ、今のヤーノシュは【諸刃之剣】でいわば完全武装をしている。
ヤーノシュが言った蛮勇という言葉はあながち間違いではないのだった。
フェルニゲシュはヤーノシュの横腹に、爪で攻撃を仕掛けた。ヤーノシュは軽快なステップで交わす。石で作られている広場の地面に音が響き渡る。アンバーはそれを見守り続ける。フェルニゲシュは自分の攻撃を交わされたことで、少し怯んだ。ヤーノシュはステップと同時に剣を振り下ろした。フェルニゲシュは間髪でそれを避けた。しかし、あくまでも直撃を避けただけ。フェルニゲシュの翼には刃が当たり、ロウソクの火のような、柔らかだが、着実に痛い傷を与える。
フェルニゲシュの翼からは血が滴り落ち、ヤーノシュの剣はその勢いのまま地面を割った。
「交わした……か。今の一撃で仕留めるつもりだったのだがな。これは想像以上にもつれるな」
ヤーノシュは嫌そうに呟き、地面から剣を抜き取り、再度構え直した。その構えには隙がなく、持久戦に持ち替えたヤーノシュの守りの構えであった。あの構えならば何処からの攻撃に対してでも対応できる。厄介である。
でもな、ヤーノシュ。生憎なんだが、幸いな事に俺は、その守りの構えを崩せる強力な紋章を持っているのだよ。
その紋章の名を、
「【塞翁失馬】」
と言う。ヤーノシュは虚空から出現した馬を見て、面白そうな顔をし、剣を振り上げた。馬はその蹄でヤーノシュの剣を受け止めた。
「!」
ヤーノシュからしたら想定外だったろう。俺の見立てが正しければ、ヤーノシュの紋章効果は『全てを斬る』という至ってシンプルなものだ。シンプルイズベスト。その為使いやすく、応用も効きやすい。では、何故俺の馬はその斬撃をたかが蹄で受けれたのか。簡単な話だ。馬の蹄には『絶対防御』効果があるからだ。理不尽極まりないことに思えるが、別に悪いことはしていない。これが戦場だ。
だが、そんな馬にも一つだけ弱点がある。この馬の紋章効果は、俺の流血によって発生する。つまり、大元は俺なのだ。馬は俺と流血が結び合わさっただけに過ぎない。そして、流血の線は、ごく僅かだが馬と接続されている。その線が切れれば、馬は機能しなくなる。
それにヤーノシュが気づかなければ俺の勝ちだ。流石のヤーノシュでも馬は倒せない。馬は俺が生きている限り無限再生するのだからな。
「なるほどな。フェルニゲシュ! オレの勝ちだ!」
ヤーノシュはタネに気付いたようで、すぐにフェルニゲシュと馬の間に入り、線を断とうとした。フェルニゲシュはそうはさせまいと、馬はヤーノシュの正面まで回り込み、フェルニゲシュは炎の魔法でヤーノシュを攻撃した。
「気づくところまでは想定内だ。で、お前は馬よりも速いのか? 速くなければ無理だ。タネが分かってもな」
フェルニゲシュは冷酷に告げ、ヤーノシュは血反吐を吐いた。
「!」
ヤーノシュは急な流血に驚いた。軍服は破れ、その肉体は裂けていた。神経がすでに切断されている。力は入らないだろう。フェルニゲシュは笑い、
「お前が俺と馬の間に回り込もうとしていた時に爪で傷を入れておいた。俺の攻撃にも気づかないとは、ヤーノシュ、お前は弱い。少なくとも馬よりは。まあ、取り敢えず俺の勝ちだ。逝ってくれ」
フェルニゲシュは軽く挑発し、勝利を悟った。ヤーノシュ、彼には剣を力強く握る力すら残っていない。整えてあった髪が崩れおり、ヤーノシュは剣を下ろした。
もはやフェルニゲシュの勝利は殆どゆるぎなきものとなったが、一つ、気がかりな事があった。悠々とフェルニゲシュとヤーノシュの戦闘の行く末を眺めるアンバーの存在である。
何故アンバーは【恐怖政治】をフェルニゲシュに発動しない? 【恐怖政治】でフェルニゲシュの動きを止めたところで、ヤーノシュにフェルニゲシュを切り刻んで貰う、という結末をアンバーが望んでいるとフェルニゲシュは考えていた。
だがどうした?アンバーは何もしていない。小手先の一本も動かしていない。前提が違うのか?アンバーの目的はフェルニゲシュを殺すことではない?だとしたら何だ?
フェルニゲシュは一瞬手をとめた。だが、戦闘中に手を止めることは命取りに他ならない。無理もない。ヤーノシュの戦意は失せている。そう思わせる程、ヤーノシュの倒れ方は敗北を認めたソレだった。しかし、ヤーノシュは立ち上がった。
「………な!」
フェルニゲシュは驚く。ヤーノシュの不屈の精神に。あれほど力の差を見せつけたのに。まだ立ち上がるのか?証拠に、ヤーノシュの眼は光を失っていなかった。フェルニゲシュには不屈の精神が眩しく見えた。
「フェルニゲシュ、お前の敗因は三つある」
ヤーノシュは弱々しくも力強く、矛盾しているが、そうでもしないと言い表せない様に口を開いた。フェルニゲシュは冷や汗を流しながら耳を傾ける。
「一つ目はオレに勝負を挑んだ事。二つ目はオレより弱かった事。三つ目はオレが強すぎた事だ」
ヤーノシュの計画性の無さが露呈した瞬間だった。俺は呆れた。まさか近衛騎士団長はここまでポンコツであったとは。なのに、
「!」
斬られた?俺は負けたのか?
こんな奴に。




