32…ご冗談を
メリークリスマス!
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「ただいま参上致しました」
俺は臣下の礼をとる。跪き、手を胸の前に、翼の後ろへと回し、無防備な状態となり、その後こうべを垂れた。今の俺がこんな態度を取るのはただ一人。その名は、
「アンバー様」
ダハミリ城主のアンバー様である。俺はベントレーとの戦闘を制し、満身創痍でここダハミリ城に帰還していた。アンバー様はゴミを見るような目線をこちらに向け、
「そうか。ご苦労」
とだけ言って、俺に背を向け、歩き出した。はっきり言って、今回のベントレー殺害をもって最も得をしたのは、他でもないアンバー様だ。もう少しぐらいは感謝の気持ちを示しても良いのではないか。俺は不満を呈さないように細心の注意を払いながら、こうべを垂れ続けた。
アンバー様は俺の気持ちを勘付いたのか、あるいは当てずっぽなのか、
「おい、無礼だぞ」
と振り向き一言。何も言わずに、【恐怖政治】の紋章を使い、なにか反抗すればいつでも殺せる、と脅しだけ入れて立ち去った。【恐怖政治】に支配されている俺は、その背中をただただ見つめ続ける他なかった。
次の日に、夜の帝都への路の経路についての会議があった。その結果、ダハミリ城に路を通す事が、あろうことかバーデリン城主自ら賛同のうえ、決定した。その場にいた城主も誰もが疑問に思ったが、問い出そうとする城主は誰一人いなかった。
♦︎♦︎♦︎
「フェルニゲシュ」
「は、何用でしょうか」
俺はアンバーに体の支配権を奪われてからまる3年が経過した。【恐怖政治】に支配されたあの日から。ダハミリ城には路が通り、ダハミリ城は栄えた。実際、ダハミリ城の経済規模は3年前とは比べものにならないくらいに成長した。アンバーは若干だが、俺への態度が軟化し、俺も順従にアンバーに従うようになった。そんなアンバーは、
「貴様の『十竜貴族』には、どのような竜が在籍しているのだ?」
と、訊いてきた。なんだ、そんな事でしたか、と俺はため息を吐き詳しく説明した。『十竜貴族』のメンバーは、
『財宝の守護竜』ファフニール。
『豊穣の巨竜』レヴィアタン。
『蛇人の王竜』ナーガ。
『病魔の化身』ドォーロン。
『大海原の覇者』オオワタツミ。
『黄金の林檎の守護竜』ラードーン。
『破滅の使者』アジ・ダハーガ。
『神敵』ヴリトラ。
『漆黒の邪竜』フェルニゲシュ。
そして、『竜帝』応龍。
以上、十指が『十竜貴族』の全メンバーである。
では最も危険な竜は?
………悩むところだが、『破滅の使者』アジ・ダハーガだな。奴は破壊を生業とする。奴は欲求的に全てを壊したがるのだ。他の『十竜貴族』のメンバーの中でも奴に単体で勝利できるのは5体もいない。
? それならどうしてアジ・ダハーガについての噂を我は全く聞かないのだ?
帝都を建設する際に、奴はちょうど帝都周辺に居たらしい。都合が悪かったので、近衛騎士団と今の竜殺者ギルドの前身が共闘し、奴を封印したらしい。俺はその時、南の辺境に滞在していたから詳しくは知らないがな。
では、今最も危険な竜は?
『豊穣の巨竜』レヴィアタン辺りか。あのモノは昔、罪を犯したから、海へと追放されているのだ。その事で人に対して大きな恨みを持っている。いずれ復讐へ来るだろうな。他に危険な竜といえば、………あ、だが『十竜貴族』のメンバーで生存が確認されているのは、俺を含めると5体だけだな。
たったそれだけ! 他のメンバーは死んだのか?
ああ。
では、生きているのはどいつだ?
『財宝の守護竜』ファフニール。
『豊穣の巨竜』レヴィアタン。
『破滅の使者』アジ・ダハーガ。
『大海原の覇者』オオワタツミ。
『漆黒の邪竜』フェルニゲシュ。
……フェルニゲシュ、貴様が名指しで危険と言った竜が2体も生存が確認されているのか。
ああ。
しかも、フェルニゲシュ。我の見てきた限り、貴様もかなり危険な竜だな。よって、危険な竜は3体だな。
アンバーは冗談混じりにそう言った。俺はただ、ご冗談を、と軽く流した。
「………ふむ、教えてくれてありがとう、フェルニゲシュ」
「は」
こうして俺からのアンバーへの情報提供が終わった。俺は一礼をした後、アンバーの目障りにならぬ様、すぐさま立ち去り、次の政務に取り掛かろうとした。
♦︎♦︎♦︎
「この路の修理は、この組合にやらせよう」
俺は、ダハミリ城の地図を机に敷き、一つ一つ、路を見て、自分で考え、適切な指示を部下に出していった。
「フェルニゲシュ様、この路は交通量が多い割に幅が狭いです。もっと幅を拡げては如何ですか?」
俺は一考。この路は確かに交通量が多い。部下の言う路の幅を拡げるべき、という意見は的を射ている。しかし、この路は住宅街エリアだ。下手に路の幅を拡げでもしたら、住民から不満の声が上がる。
「俺自らこの路へ行き、見定めよう。2人ほどついて来い」
「「は」」
俺は部下と共に例の路へと向かった。道中は馬車で移動する。外は雨が降り注いでおり、馬車は水溜まりの水を勢いよくはねながら進む。水は馬車の中にも侵入した。俺は多少気になったが、部下2人は気にも留めずに、黙々と打ち合わせをしている。
……全く、優秀な部下を持ったものである。ここでの暮らしも案外悪くない。いっその事、ダハミリ城が困窮するまでは住み続けてみようか。
俺はそう思いながら窓の外を見てみた。そこには、藁の家に住み、藁が飛ばされ、家を無くした子供を親が身を持って雨から護っている様子が見えた。……しかし、路が通っても、大して民の暮らしは豊かになっていないな。
突然、馬車が急停車した。目的地に着いたようだ。
「………確かに、狭いな」
その路は住民の生活中路と言われても何も疑わないほど、細い路であった。路の外れにある関門には長蛇の列がつくられており、路を通る商人たちは鬱憤が溜まっている様子だ。今すぐにでも路を拡げるべきだ。
不味いな、と俺は危機感を覚え、部下に聞き取り調査を行わせたりし、その結果を基に、分析、分析結果を調査報告書としてまとめた。
俺はそれをアンバーに提出した。アンバーは、
「状況はわかった。我も考えておこう」
「よろしくお願いいたします」
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そこから更に1年が経った。未だに路拡張への道筋は立っていない。アンバーが「保留」と言ったのだ。まあ良いだろう。
……! 雪が降り始めたようだ。広場はしんみりとした雰囲気に包まれる。今年は初雪か。この雪には、不思議と特別なものがある気がする。と、足音が聞こえてきた。俺はとっさに跪き、
「! アンバー様。何用で此方まで。ご用件がお有りならばこちらから出向くものを」
「………」
アンバーは無言のままだ。妙に思った俺はチラッと、アンバーの身なりを見てみた。赤い儀礼服に、銀の剣。銀の剣は処刑用に使う死者への手向の色だ。そんなアンバーの隣には、黒い軍服を着こなし、厳格な印象を抱かせるような好青年。髪は赤色で、腰には長剣をぶら下げていた。青年は目を笑わせ、不敵な印象を持たせない程に感情の制御が出来ており、俺と互角の実力を持つと考えられる。
………まさか…………近衛騎士団?
俺は最悪の思考が脳裏に走り、アンバーに、
「アンバー様。お隣におられる御仁はどちらで」
「………」
アンバーは答えなかったが、代わりに、
「オレの名はヤーノシュ・ベルフォード! 近衛騎士団長だ。陛下の勅命を受け、邪竜フェルニゲシュを封印しに来た!」
と高らかに叫び、次の瞬間、腰の長剣を抜き取り、俺に斬りかかってきた。俺も黒剣を召喚し、これに対応した。俺はチラリとアンバーを見やり、過去の出来事を振り返る。
どうしてこうなったのか。
『貴様もかなり危険な竜だ』
『ご冗談を』
まさか、あんな他愛もない会話が条件となり、今の状態に至る、とでも言いたいのか!? 馬鹿げている。俺はヤーノシュの気迫の籠った刃を間一髪でかわしながら驚愕した。経緯も驚きだが、それ以上にヤーノシュの刃は、一手一手が考えられた末に繰り出されており、瞬きも許されない。目でも逸らしたら即、あの世行きだろう。
……待て。ところで、アンバーは何故【恐怖政治】を使わないのだろうか。それとも、使えない? 俺は未だに【恐怖政治】の支配下にある筈だが………。
その事について思考を巡らしたいが、いかんせんその隙間がない。とにかく、交わし続けなければ。
「ッチ!」
俺は翼を広げ、空へと飛び立った。ヤーノシュも流石に空までは来れないだろう。だが、
「……空に逃げたからと言って、オレの刃が届かないとでも思ったのか?」
不敵にそう告げ、今までとは比べ物にならないほどの覇気にヤーノシュの体は包まれた。実際は存在しない筈なのに、覇気は具現化され、紅色の光を放っていた。覇気は禍々しいにも程があり、俺の体が本能的にそれを拒絶する。
凄まじい。
アレから放たれる攻撃を正面から受け止めるという事は、大噴火を生身の手で押さえ込むことと同義だ。そんな事、竜でも出来はしない。ダメだ死ぬ。交わさねば!
「『我が刃 鋭利なことなきけり 否 ひとつ誤れば災を成す 我 過ち冒さぬと剣に誓いし剣聖也 出よ』!
【諸刃之剣】!」
するとヤーノシュの剣は大いなる光に包まれ、辺りに静寂が訪れた。その時だけ全てが動きを止め、風が止み、火が消えた。まるで神々がヤーノシュの剣を恐れている様であった。怪物か。何故この世に生まれ落ちた?
いかん! 呆気に取られている暇など無い! アレを正面だって受けてはならん。死んでしまう。とにかく、この場から離れねば。紋章でも目視不可能な程の遠い場所に。
俺は飛翔し、全速力で空を駆けた。そして、あと少しで城壁を越えれるという所まで来た。
「!」
これ以上、進めぬ! 結界術か! してやられた。わざわざここに結界が張っているという事は、この範囲まではあの怪物の殺戮圏内という事か。絶望的だな。
! 来た! 斬撃だ。だが、コレならば。交わせる!
俺はそこで逃走を諦め、堂々とヤーノシュを殺す準備を整え始めた。




