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30…恐怖政治

「……ここは?」

「我がダハミリ城だ」


 俺が案内されたのは藁でできた家々が立ち並ぶ集落であった。人々は貧しい格好を身につけ、それを貴族は城と言い張る。俺の中で城、とは城壁で囲まれ、家々がレンガで出来たものだ。そして中心には大広場が広がり、連日イベントが執り行われ、活気に満ちている。子供たちは笑顔で学校へ通い、大人たちは張り切って役場に向かう。

 それだというのに、この集落には俺のイメージ上の城の条件が一つも合致していないではないか。それを貴族は城と言う。


「嘘をつくな。どう見ても城ではなかろう」

「城だ」


 それでも貴族は城だと言い張る。俺は軽く思考を巡らせ、まさかと思ったので、


「もしや、これがお前がダハミリ城に路を通したい理由か?」

「…………竜にしては鋭いじゃないか」


 貴族は不敵にうっすらと笑い、


「その通りだ。ここに路を通せば必然的にダハミリ城は潤う。豊かになる。全て民の為だ」

「………そんな理由で、『妥当』を捻じ曲げるのか?」

「捻じ曲げているのはバーデリン城も同じだ。城主は皆等しく同罪だ」

「違うな。お前の方がさらに罪が重い」

「そうか。そう思うか。でもな、バーデリン城や他諸々の城を消しさえすれば、証拠はなくなると思わないか?」

「……その為の俺…か」

「そうだ」


 俺は苦笑しながら、


「そうか。所詮人はその程度だ。……醜い。このダハミリ城共々お前を亡き者としよう」


 俺は黒剣を召喚し、貴族に突きつけた。貴族は首元にまで剣を押し付けられているのに拘らず、不適な笑みを崩さない。さらに強く突きつけてみても変わらない。貴族の首元からは血が滝のように溢れてきた。

 途端に、周囲を激しい風が襲い、藁の家々が無惨に飛び散った。藁は俺の目の前を通り過ぎ、或いは俺に直撃した。藁には貴族のものと思われる血が付着していた。それと同時に、俺の何かが狂った。

 俺は突き付けていた剣を急に下ろし、頭を抱え、地面に膝をついた。


「お、俺は何て事を!?」


 俺は意味もわからない自問自答を繰り返し、まさか、と思い貴族を見返した。先ほどのうっすらとした笑みとは違い、歯を剥き出しにして気が狂ったかのように笑う貴族の姿がそこにはあった。

 どうやら、俺の推測は当たりのようだ。

 これは貴族の紋章による影響だ。『自分から流れる血』が発動条件になる紋章は多いが、その場合、血自体が変形するなどが起こる。しかし、貴族の場合はそれが起こらなかった。つまり、貴族の紋章の効果は戦闘系ではないという事。

 先ほどの藁には貴族の血が付着しており、それが何度か俺に当たり、今もついている。そして俺は攻撃を受けていないにも拘らず、急に膝をつき、さらに自問自答を始めた。


 つまり、この貴族の紋章効果は、『血の付着した相手の肉体を操る能力』!


 確信はない。だが、冷静に考えるとつずつまが合う。精神支配系ではない。俺がこうして思考を巡らすことが出来るのだからな。ひょっとしたら、あえて精神まで支配していない可能性もあるが。

 そもそも、俺は『十竜貴族』だぞ! 並の精神支配の紋章は受けつけない。

 望み薄目ではあるが、


「お前の紋章は……『血の付着した相手の肉体を操る』効果でもあるのか?」

「……よくわかったな。正解だ。我の【恐怖政治】はそういう紋章だ。貴様の言っていることはあながち間違いではない」


 かなり素直に教えてくれたな。しかし、そんな強力な紋章だというのに、どうしてそのバーデリン城の強者に自ら手を下さない?


「解せない。どうしてそんな協力な紋章を有していながらバーデリン城の強者に自ら手を下さない? 俺は必要か?」

「ちょっと待て。我の思い違いでなければだが、我は自分の紋章効果を開示したが、貴様は開示していない。情報は無料ではないぞ」

「………俺にも紋章効果を開示しろと」

「ああ」

「断る!」

「…………」


 俺はその命令を断った。貴族は目に色を失いながら、


「でもな、もし貴様が紋章効果を開示しなければ、貴様自身の腕が貴様の首を切り落とす」

「………」


 流石の俺でも、自分のプライドよりも自分の命を選ぶ。


「……俺の紋章は【塞翁失馬】だ。5本足の馬を召喚する」

「わかった」


 あっさりと開示してしまった。『十竜貴族』の盟友ファフニールにも開示していないというのに。開示してみて分かったのだが、今までしてきた「開示しない」の選択は、相手が自分の紋章を知らないというアドバンテージがあるだけで、大して戦闘に影響はなかった。


「では、早速屈辱に浸っているところなんなんだが、竜……」

「フェルニゲシュだ」

「フェルニゲシュ。バーデリン城の強者を殺せ」


 それが貴族が下した、俺へ最初の命令だった。

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