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3…白い竜

 皇子は死を確信した。皇子は見てきたつもりだった。否、実際に見てきた。恐怖と云うものを。近しい人間を目の前で殺され、兄弟肉親も全滅、そして自分もそこへ向かうというところで【誰か】に救出された。あのルーレシアと呼ばれていた人間は、恐ろしかった。


 逃げ出した皇子は今共にいるこの【誰か】に連れられ、ここまでやって来た。そこでようやく【誰か】の引き攣った顔は、少しばかりおおらかなものになった。


 それなのにーーーーーーーーーーー。


 その生物は全てを超越していた。栄華を極めた驕れる人類に、自分らは小さき物であったのだと認識させた存在。皇子は諦めかけていた。だが、【誰か】は諦めていなかった。


 力強く矛を握り直し、飛んできた木を飛ばす、のではなく一刀両断した。軽く。驚いた竜に追撃をかけるかの如く、無謀と思われた事を始めたのだ。なんと、白い竜向かって突撃を始めたのだ。馬を降りているにも関わらず、その速度は白い竜さえ目視出来ていない様子だった。


 そして、白い竜の不意を突いて、全力の一刀を竜の腹に繰り出したのだ。竜は思い切り赤いモノを吐いた。血だ。さっきまで翼で宙に浮いていた竜は翼の動きを止め、大きな音を立てながら倒れ伏した。かのように見えた。まだ倒れていない。竜はなんとか踏み止まったのだ。そこには執念じみたものを感じる。


 一方、【誰か】はというと、先ほどの激しい動きで酸素を一気に消耗してしまい、呼吸困難といった感じであった。それだけならすぐに回復する。今回は皇子を抱え、敵を振り切る戦いの中で大きな動きを繰り返していた為に、元より肺が弱っていた。ここから立て直すのは至難の技だ。

 だが、【誰か】はそれをやる。もう一度同じ攻撃を白い竜に御見舞いした。白い竜は未だ立て直しておらず、かなりの傷を負った。それでも倒れない。


「化け物かッ!」


 皇子の気のせいかもしれない。今まで無口を貫いてきた【誰か】が初めて言葉を発したのだ。実際白い竜は化け物だ。【誰か】も相当な実力を持っている。そんな【誰か】の手負いとは言え、全力の攻撃を2回も受け切るとは。

 あってはならない事だ。人間の実力、努力を全て、生物のポテンシャルというもので帳消ししてくる。これが竜という存在である。


「……」


 【誰か】はそのあまりにもある実力差にとうとう現実逃避を始めた。上を向き、ちょうど降り始めた雨が目に入ることをモノともせず、ただ、打たれるだけ。

 白い竜は【誰か】が諦めたことを気づくと、すぐさま業火を放った。白い竜は自分の勝利を確信した。

 【誰か】も敗北を認め、だが、それでも受け入れられないような、歪んだ顔をしていた。だが、その歪んだ顔は何故か、不気味な笑みに変わったのだった。

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