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27…幕間

「………以上が、ダハミリ城における一連の事変への竜殺者ギルドからの報告書です」


 黒い外套を着た男が、大量の資料を手に持ちながら言った。男は渋い声の持ち主であるが青年と言っても差し違えないほどの顔で、赤髪であった。その目は髪と同じく濃い赤色で、その眼は非常に鋭かった。黒い軍服をしっかり着こなし、厳格な印象を抱かせる。

 男のいる部屋はとても暗く、男の目の前には5人の人影があり、顔が見えないようにベールで覆われていた。


「ふむ、ダハミリ城でそのような事が………。しかも、フェルニゲシュといえば、竜の中でも指折りの強者『十竜貴族』の一指ではないか」


 老年と思われる男はその顎髭を弄りながら、特に危機感なさげに言った。それに対し、


「いや、帝都郊外で『十竜貴族』による事変が発生した事にもっと危機感を持った方が宜しい」

「ダハミリ城など、過去の遺産だ。逆に都合が良かったであろう」

「………………………」


 他の3人がそれぞれの感想を、否、1人は沈黙していたのだが、それぞれ感想を述べた。その中で最も豪奢な服装の、小さな人が代表して、ずっと声を出さないでいる最奥の人物に、


「以上が我々の意見で御座いますが、如何になさいますか? 陛下」


 陛下、と呼ばれた人間はまさしく、この国の頂点である皇帝その人である。皇帝は手を組み、暫く考えてから、


「フェルニゲシュ解放の一報が帝都、ひいては全土に広がれば、混乱は避けられません。ゆくゆくは我が帝国を揺るがすほどになる可能性があります。故に、………今回の事変に関連した人物を全員粛清する必要があります。近衛騎士団長よ」


 皇帝はその褐色色の髪の毛を揺らしながら、手をかざし、近衛騎士団長に指示を出した。皇帝は細かい内容については言及しなかったが、団長の方は内容を察したようで、黙って手を合わせた。


 ♦︎♦︎♦︎


「………よっと!」


 オストは現在、ダハミリ城にて戦跡の後始末をしていた。住民の皆無となった城でやることといえばぶっちゃけ存在しないのだが、そこは念の為、とラテーノに言われ残っていた。


 今は住居の残骸の撤去をしている最中である。オストの肌には泥がつき、竜殺者ギルド所属者専用の純白の制服はすでに汚れていたが、オストはいきいきしていた。


 しかしオストは、どうしても「ここに一体どれほどの人々の思い出があるのだろうか?」と考えるとやりきれない気持ちが湧き上がってきた。


「オストよ。もっと手を動かせ。其方のような良民が手本を見せんで、他の者が同じく行動に移すと思うか?」


 そんなオストに命令するのはアルベルト、ではない。土木系の棟梁という役職の者らしい。オストと違い服はボロボロで、長い間風呂にも入っていない様にも見受けられる。何故僕があの者の命令に従って行動せねばならぬのか? オストは疑問でしょうがなかったが、渋々応じた。


 何故なら、「オスト君、これも大事な社会貢献というモノだよ」とラテーノに言われたからだ。


(……こんな事している暇ないのに。今すぐにでもフェルニゲシュを殺さねば)


 オストは歯痒い気分になっていた。が、


「今は無駄な思考を持つな。竜殺者だろう。ならばこの程度雑務にも等しい筈だ。それに、君のおかげで、50人ほどの民は死なずに済んだのだからな」

「…………………」

「君は人を救けたのだ。しかも50人もな」


 棟梁は水筒の水を頭からドボドボとかけてきた。水は口渇しかけていた田んぼに注がれる、恵の雨のようだった。水がなくなると棟梁は「誇りを持て」と言い残し立ち去っていった。


「……………はい………………」


 オストはただ黙って作業に戻った。たった50人救ったくらいなんなんだ。自分が寝ていた間にその何倍もの人命が失われたのに。と、何処からとなく、鳥が飛んできた。鳥の首には丸められた紙が括り付けられてあり、紙が開かぬように竜と剣が合わさった印が押されてあった。

 オストはそれを見て、すぐに竜殺者ギルド直々のものであると悟った。


『オスト

 竜殺者ギルドに向かえ』


 たったそれだけ、わざわざ手紙で伝えるほどのものであったのか。手紙はオストが読み終えるとすぐに魔法で燃え、塵となって消えていった。無論、情報漏れを防ぐためである。


「……向かった方が、良いのか」


 ♦︎♦︎♦︎


「ふん、全くラテーノとやら、強い」


 そこは帝都から、ずっと離れた森林。俗にジャングルと言っても過言ではないほど森が深い場所だ。あたりには原生林が咲き誇り、人が介入した後は見てとれない。人、は。

 フェルニゲシュ。

 そんなところに奴は介入できる。忘れ去られた灯台を改装し、一つの屋敷のように機能させていた。 上空には竜が絶え間なく飛び交い、余人にはなにがあるのかわからない。


 フェルニゲシュは設置された一室でふんぞり返りながら、椅子に座り、ワインを嗜んでいた。


「計画は順々。だが、まだ、なにか足らない」


 フェルニゲシュは手に持っているグラスをクルクル回しながら、物惜しそうに言った。誰も答えない。この城にはフェルニゲシュ以外誰もいない。

 だが、


「……だが、それもここまでだ。待っていたぞ。使者殿よ」


 フェルニゲシュの椅子の横には距離を置いてある影が一つ。独りの人間だ。その人間は純白の服装の上に、コートを羽織り、頭には帽子を被り、長髪の男だ。長髪の男はその貧相な顔を歪ませながら笑い、フェルニゲシュを見つめた。


「………で、そなたは何を私に献上する? その答えを知るためにわざわざ時間を取ったのだ。無難な回答、などでは承知せんぞ」


 フェルニゲシュは早速本題へと入り、


「汝の望むもの全て」


 長髪の男は簡潔に答えた。長髪の男はなんでも無さそうな様子で言ったが、フェルニゲシュは驚きを隠せず、絶句した。正気か?、とフェルニゲシュは長髪の男にアイコンタクトで語りかけたが、


「私が汝に欲するもの全てを用意しましょう。その代わり、ボクに協力して貰いたい」

「……協力とは?」

「紋章保持者50人の確保」


 ?


 フェルニゲシュは動じぬ仕草をしたが、明らかにグラスを回す手は鈍り、隠せていない。何故紋章保持者を50人確保することが、長髪の男の協力して欲しい事だとは。そんな事をして何になる?それに、紋章保持者は死ねば、紋章効果も無くなる。意味がない。


「何故だ。何故紋章保持者を50人確保することがしたいのだ?」

「答える必要はありません。ボクには貴方に貸しがあるからです」

「貸し? 私は借りを作った事はないぞ。これまで一度もな」

「いえ、ありますよ。ボクに」

「………………………」


 不敵に笑う長髪の男。そんな男に底知れなさを感じるフェルニゲシュは戦慄し、威嚇を始めた。それに気付きながら、長髪の男は笑うのだった。

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