25…フェルニゲシュvsオスト、アルベルト
「フッ、我が攻撃を正面から受け止めるか。まるで人が変わったな、オストよ」
フェルニゲシュが軽く高等魔術を放った。それをオストは正面から斬り伏せる。先ほどのオストでは絶対にできなかった事であった。だが、何故か今のオストならば出来ている。
「ああ、だろうな。だけどなにか細工をしている訳じゃない。【中原逐鹿】の権能を最大限まで活かしたまでだ。後はなにもしていない」
「そんな事が成立するなら、魔術学など存在せぬわ!」
2人は常人が介入出来ない戦闘を続ける。戦闘と言っても、フェルニゲシュが攻撃し、オストが防御するという一方通行の方式だ。
「埒が明かぬな」
剛を煮やしたフェルニゲシュは紋章の印を結び馬を召喚しようとする。だが、それが出来ない。それはずっとオストの後ろに控えているアルベルトが自分の紋章の権能でそれを妨害しているからだ。
「チッ!」
フェルニゲシュは召喚が不可能と悟ると、すぐさま肉弾戦に自らの肉体を投じた。全く隙を見せない完璧な肉体戦であった。このまま続けても勝機が薄いと考えたアルベルトは高々と、
「オスト、もっと積極的に前に出て、ヘイトを買い続けろ」
と命令した。偉そうに、とオストは内心ブチギレしたが、他に策がないと気づくとしばしばそれに従った。アルベルトはオストに異論がないことを確かめると、フェルニゲシュへの攻撃の手をさらに激しくした。
フェルニゲシュは自らの肉体でのみでそれに対し抵抗した。そしてうまくいなし、一手にまとめた管を黒剣で斬っていく。
フェルニゲシュはもうひと押しが足りないと考え、再度紋章の展開を試みたが、
「【………】!?」
フェルニゲシュは再度紋章の印を結ぼうとしたが、今度はオストに手を斬り落とされ、止められた。オストは手を斬り落としたらすぐに後退り、決してアルベルトを孤立させようとはしなかった。
(もう紋章を使用することは諦めた方がよさそうだな)
フェルニゲシュはそのように割り切ったら、黒剣を召喚し、自らその剣を握った。そして、大量の魔法光線を繰り出し、アルベルトの管と壮絶に打ち消しあった。
(今打ち消しあっているのは貴族の倅の管と、私の魔法光線。オストと私自体は手が空いている。今のうちにオストを殺すか)
フェルニゲシュは飛翔し、オストの位置を確認した後、目にも止まらぬ速さでオストへと接近した。しかし、
「おい、攻撃が単調になっているぞ」
剣を振り上げた時にはすでにオストの刀が喉近くに迫っており、フェルニゲシュは咄嗟に距離をとった。
「……ッチ!」
フェルニゲシュは致命傷とはいえないが、深い傷を喉に負った。
(一応喉には鱗が集中して大体の攻撃は無効化出来るはず、なのだがな)
やはり【中原逐鹿】が厄介だ。この結論にフェルニゲシュは至った。そして、接近戦に於いては最強かもしれない、と正面からのオストの戦闘を諦めた。
しかし、とフェルニゲシュはふと疑問に思ったことがあった。
(何故オストは急に正面からの戦闘で私を圧倒できるまでに成長した? 少なくとも初戦のときにはよくで互角、強いて言えば私の方が有利だった。何故? 何故? 何故?)
フェルニゲシュは結論が出せなくなってきた。オストはそれを察したのか、
「判らないだろう。何故僕が急に強くなったか」
「………ああ」
「実はな、人間ってのはお前ら竜と違って、独りが嫌いなんだ」
「どういう事だ」
「人は独りの時、全力を出せない。だが、仲間がいれば違う!」
「!?」
次に、フェルニゲシュの竜眼でも目視できない斬撃が飛んできた。
(な、何が起きた? オストは、オストは動いていない。貴族の倅からの攻撃?)
フェルニゲシュがオストの手先を注視してみてみると、素振りをしている様子があった。自分を標的として。まさか、とフェルニゲシュは驚愕した。
(【中原逐鹿】の性能強化はここまでなのか!)
そう、オストは自身の権能で武器の性能を単純強化し、刀の切れ味をよくしたのだ。それをそのまま振る。ただそれだけ、ただそれだけなのだが、これで空気の斬撃を飛ばせるようになるのだ。オスト自身も軽く驚いている。この紋章潜在能力が高い!、と。
本人でも予想外の出来事なのだから、フェルニゲシュに予想ができないのは当然のことである。本人でさえ想像できなかったのだから。
(だが)
と、フェルニゲシュは着々と反撃への道を模索し続けていた。そして、あることに気がついた。アルベルトの【豪華絢爛】は、強力な紋章である分、エネルギーの消耗が大きい事に。
(それに対し)
フェルニゲシュの紋章もエネルギーの消耗が非常に激しいが、今は紋章を使用せずに立ち回っている。つまり、今の膠着状態を続ければ必ずジリ貧で相手が負ける、と。
当然アルベルトもそのことを予想しており、焦りを見せ始め、攻撃の手がさらに激しくなっていった。
(愚かな)
フェルニゲシュは若干失笑した程であった。ここは思考を続けるタメに手を緩めるのが常識であるというのに、と内心余裕が出来始めた。
しかし、フェルニゲシュは自らの勝利が確実なものとなるまでは、手堅く守っていこう、と心を決めた。中の小レベルの魔法光線を放ち続け、【豪華絢爛】の管を相殺し続けた。
相殺の影響で辺りは花火のようなものに包まれた。その本質は花火よりも殺傷力の高い凶器だというのに、両方が共に見惚れるほどであった。
「美しいな」
フェルニゲシュは感嘆の言葉を漏らした。アルベルトも同調するように頷く。オストは、関係ないとばかりに、花火の中を駆け、フェルニゲシュの目と鼻の先まで迫った。そこまでなってもフェルニゲシュは抵抗しようとはせず、
「グッ!?」
フェルニゲシュは無惨に正面から斬り伏せられた。フェルニゲシュの斬られた断面からは激しく血が飛び出し、その血が遠く離れたアルベルトにまで付着した。
((勝ったな))
アルベルトとオストが勝利を確信したその時、
【塞翁失馬】
不穏な紋章の印が結ばれるのを感じた。凶悪なるフェルニゲシュの紋章が、今度はオストのみでなく、アルベルトまでを襲う。
♦︎♦︎♦︎
「……いや、予想はしていた。だが、これほどまで弱いとは」
ラテーノはもはや死に体と化したグロックスに冷酷に告げる。グロックスは悔しそうな目線をラテーノに送るが、ラテーノにとってはそよ風に等しかった。グロックスはその感情を言葉に表したくても、喉が潰されており、ただ睨み続けることしかできなかった。
「今の君をみていると私の善心が痛んでしまうよ。だから、葬ろう」
ラテーノは手刀でグロックスの命を無情にも一撃で剥ぎ取った。グロックスはその時、苦痛に満ちた顔であったが、同時に清々しそうでもあった。実際の心情についてラテーノは気になったが、本人の消えた中、それは予想するしかないことであった。




