22…グロックスvsアルベルト
アルベルトは軽快なステップを踏み、飄々とした感じでグレンジャーから距離を置いた。
「グロックス、か。噂は聞いている。『忙殺王』グロックスという通り名としてな」
アルベルトはグレンジャーに対し、「グロックス」という名で呼びかけた。これは「自分は貴様について知っているぞ」という警告でもある。グレンジャーはそれに快く、
「ご名答。やっぱ宰相家関連者の情報量はそこらの連中と違うな」
そう言いながらグロックスは腰にぶら下げてあった剣を抜いた。一度軽く一振りすると、剣先から赤色の液体が滲み出てきた。
「ではグロックスよ、質問してもいいか?」
「ああ、いいぜ」
「何故近衛騎士団である貴様がフェルニゲシュに仕えている?」
一瞬間を空けてから言った。
「別に俺はフェルニゲシュに仕えてるんじゃねえ。利害関係にあるから協力しているだけだ」
「利害関係?」
「そうだ。俺はフェルニゲシュより弱いから殺されないようにしてもらっている。今度はフェルニゲシュだ。奴は最近封印から抜け出したやつだからな。自前の軍ってやつを持ってないのよ。だから、逆に俺が奴に軍を提供してる訳」
「軍?」
「ああ、アルベルトちゃまには言ってなかったな。軍ってのはこの気の狂ったような愚民どものことよ。簡単に俺の説得に応じてくれたぜ」
「ほう。つまり貴様の紋章は精神系支配にあたるのか?」
「正解のように見えてちょっと違うな。俺の紋章は『毒』だ」
グロックスは全て丁寧に情報を吐いてくれるから助かるな、とアルベルトは内心笑ったのだった。その後アルベルトは実際にも笑い、
「では、グロックスよ。貴様を殺せばフェルニゲシュの軍は消滅するのか?」
改めて別の問いを掛けた。グロックスはこの質問を受け、暫くの間沈黙した。そしてその後、気が狂ったように笑い始めた。
「おい、アルベルトさんよ。テメェは『その通りだ』という答えを望んでいるのか?」
「……願望で言えばそうだな」
「じゃあ悪い知らせになるから、真実は教えないとくよ。そっちの方が幸せだろう」
「………だな」
アルベルトの脳裏には最悪のシナリオが出来上がってしまった。ここでグロックスを倒しても、民の洗脳が解かれない。そうなると民は永遠にフェルニゲシュを支持し続ける。たとえフェルニゲシュを討伐したとしても、民はフェルニゲシュを神と崇め続け、フェルニゲシュを殺した竜殺者たちを神敵として襲ってくる可能性も考慮しなければならない。
(最悪だな)
アルベルトは心の中で愚痴った。だが、この世界は現実からは逃れられないシステムとなっている。アルベルトは最悪なシナリオが脳裏に浮かんでも尚、グロックスとの戦いに集中を始めたのだった。
「……アルベルトさんよ、もういいか?」
「勿論だ。心の準備は出来た」
「じゃあ始めるぞ」
瞬間、グロックスは地を勢いよく蹴り、次に宙に浮き、アルベルトへと接近した。そのまま剣を振り翳し、アルベルトの首を狙った。
アルベルトは合わせる様に【豪華絢爛】で作り出した管で、首を守った。
お互いにその衝撃を己のモノにし、次の攻撃に備えた。それでも防ぎきれなかった衝撃は地面を割った。2人の外側から割れていき、その余波は戦闘が見えないところまで及んだ。
「「ヌォォォォォォ!」」
それでも2人は一歩も譲らず、やがてどんぐりの背比べ状態に陥った。ここから押し切ることは不可能と感じた両者はほぼ同時にその場を離れた。アルベルトの頬には僅かにかすり傷がある。アルベルトは攻め急ぎ、休む間もなく次の攻撃に移ろうとし、グロックスもそうはさせまいとした。
結果、先に攻撃を仕掛けたのはアルベルトだ。管を鞭のようにくねらせながらグロックスに放った。アルベルトが何もしなくても鞭は1人でに、敵意を持って行動し、怒涛の攻撃を手を緩めずに行った。
先程まで非常に好戦的だったグロックスはまるで人が変わったかのように防戦一方の戦い方になった。
(妙だな。先程までと打って変わって、なんだこれは? とはいえ、絶好のチャンスであることに違いはない。出来るだけ今度はコチラが好戦的にいくか)
叩きつけるーーーー
なぶるーーーーー
挟撃ーーーーーーー
蹴るーーーーー
正面から打ちのめし続けるーーーーー
徐々に展開はアルベルト有利になっていった。その状況下でもグロックスは倒れない。それどころか不敵に笑っていた。
♦︎♦︎♦︎
グロックスとアルベルトとの戦闘が始まってから既に10分ほどが経った。辺りには日差しが差し、その陰で何方がどちらかが分からなくなっていた。分かることは片方がもう片方を蹴り続けているという事実のみ。
蹴り続けられているのはすっかり血相の変わったアルベルトの方だった。そんなアルベルトに向けてグロックスが言い捨てるように告げる。
「かすり傷を受けたのに、な。もっと攻め急げばよかったものを。いいことを教えてやろう。いや、テメェにとったら凶報か。俺の毒には複数種類が存在してな、これはその内の一つ『中分毒』というものだ。10分で受けたものは死ぬ。センスは最悪かもしれないが、当てて、耐え続ければ勝てる強力な毒だ」
「………だな」
アルベルトは力無く肯定する。
「さぁて、しかし、毒に衰弱した誇り高い貴族様を見続けるのは正に目に毒だ。今楽にしてやるよ。何か遺言は?」
「ああ、では言わせてもらおう。ここダハミリ城は帝都にとってなんだ?」
「……郊外」
「そう、すぐ近くだ。そして帝都には竜殺者ギルドが存在する」
そしてアルベルトは変色した頭に手を添えた。
「実は私の頭にはGPSが埋め込まれていてな、異変があればすぐにわかるようになっている。理由は私も知らない」
鬱憤な気持ちになっていたグロックスは、
「それで遺言は全てか?」
と訊いた。アルベルトはもう少しだけ待ってくれ、と言うと、
「それでだ。目と鼻の先に異変があるな。竜殺者アルベルトの危機であるとすぐに分かる。そして意外かもしれないが、竜殺者ギルドは情に厚くてな。すぐに助けに来てくれる」
「……何が言いたい?」
「つまり、グロックス、ソナタらが戦う竜殺者はこのアルベルト、オストだけではない!」
グロックスは何かに勘づき、後ずさった、後ろを振り返ると、何十人もの人影が見えた。
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増えたら作者は号泣します。……なんだかコレ、私以外の作者さま方もやっている気がしますね。




