19…本当の敵
オストたちは北門からダハミリ城に入った。まず目に飛び込んできたのは、すでに使われなくなり、内部までにも蜘蛛の巣が届いている水汲み場だ。この北側には随分前から誰も住んでいなかったんだろう。
「こちらが、今までずっとフェルニゲシュが封印されていた石碑です。石碑といっても、ただ縦長いだけですがね」
グレンジャーが皮肉たっぷりにそう言った。オストとアルベルトは黙って話を聞いた。
「フェルニゲシュはとても凶暴な邪竜です。しかし、同時に人間臭い面もあります。普通の竜は哀れみなど感じませんが、フェルニゲシュは感じると言われています。言い伝えなので何処からどこまでが真実かは不明ですが」
グレンジャーは話しながら整備されていない広い一本道を歩き続け、オストとアルベルトはこれに続く。
「他にも、タバコを吸う、という一面もあります。つい最近まで共に働いていた同僚に聞きました。彼はフェルニゲシュを一目だけ見ましたから」
「……あの」
「なんですか」
「その同僚という人は今何を………、いや、やっぱり答えていただかなくても結構です」
オストは質問をしかけたが、途中でやめた。
「いいんですよ。彼は目撃した後、我々のところになんともない様子で帰ってきましたが、すぐに毒のようなものを何故か飲んでしまい、亡くなりました」
オストはゾッとする気分になる。
「ところで、グレンジャーよ。どこまで歩くのだ」
アルベルトは周囲を見渡しながら言った。そういえば、周囲の建物が色とりどりになっており、一本道も先ほどとは違い綺麗に舗装されているようになった。
前を向くと何もない殺風景が広がっており、そのまま進むとそこは広い広場であるとわかった。
広場の隅には高台が設置されており、ギロチンが並んでいた。アンバーの血脈がどれほどの圧政を敷いていたのかが、すぐにわかる。
グレンジャー、アルベルトとオストはこの高台に登り、グレンジャーが立ち止まったので残りの2人も立ち止まった。
「感じますか? この高台で、言われようのない罪を被せられた人々が無惨に処刑されていったという事が」
グレンジャーはそう言い、オストにはそれが辛いほどよくわかった。
「この高台はつい50年ほど前に設置されたものなのに、血の跡が染み付いています。全く忌々しいものです」
「………そうだな」
アルベルトはグレンジャーの意見を肯定した。
「しかし、皮肉なことに、邪竜フェルニゲシュの封印が解かれてからは変わりました。この街には活気が出始めていた」
「? じゃあ何故今はヒトっ子1人もいないんですか」
オストは違和感を覚え質問した。グレンジャーはその質問には答えない。ついでとばかりに、アルベルトが鋭い目つきで追い打ちをかけた。
「妙だな。グレンジャーよ。貴殿はダハミリ城から、フェルニゲシュ復活直後に追い出されたのだろう。何故その後の出来事を知っている?」
と。
「ええ、ええ。やはりそうですよね。疑問に持つはずです。さて、質問に答えていきましょう。まずオストさん。『ヒトっ子1人いない理由』これは恐れているからですよ。竜殺者を。フェルニゲシュ様が殺されるかもしれないから」
「………!?」
グレンジャーのフェルニゲシュへ対しての表現が「様」付けへと変わった。驚く2人を気にも留めず、淡々と続ける。
「次にアルベルト様。『私がダハミリ城のフェルニゲシュ封印解除後の経緯を知っている理由』は、私がもともと、この城の城壁守備兵ではなく、『近衛騎士団』で、フェルニゲシュに敗北し、隷属した人間だからです!」
グレンジャーは語気を強め、アルベルトとオストは身構えた。グレンジャーは覇気を発したが、すぐに消した。
「といっても、私はあなた方を殺しはしません。殺すのは私ではなく、この城の民たちです。フェルニゲシュの民どもよ!竜殺者たちを殲滅せよ!」
グレンジャーの声をきっかけに、一気に城に緊迫感が走った。




