17…アンバーの血脈
「アルベルトさん…」
オストはアルベルトの名を口にして、何か続けようとしたが途中で口を噤んだ。アルベルトは優雅に一礼してから手を横にやった。
「君だな。今回僕を手伝ってくれるというアシスタントさんは」
と言ってから、
「そして、彼が軍から寄越された案内人さ。グレンジャーという名らしい。覚えてやったくれ」
アルベルトがいうと、後ろの方からグレンジャーと思われる人が歩いてきた。グレンジャーは無精髭が顎に生え、そこまで手入れして無さそうな髪だ。そんな髪は赤色で、この国の中では不吉、とでも言われる色だ。
「初めてお目に掛かります。オスト様。ワタクシは紹介にもあった通りグレンジャーと申します。別に覚えてくださらなくても宜しいですし、何の支障も有りません」
グレンジャーはさらりと自分下げの発言を行った。
「では、参りましょうか」
「何処にですか」
グレンジャーは一通り自分の紹介を終えると、体をクルリと反転させ、歩き出した。オストとアルベルトはこれに続く。オストは薄々わかってはいるが、念のため聞いた。
「無論ダハミリ城です」
♦︎♦︎♦︎
グレンジャーは元々、ダハミリ城の城壁守備兵であった。しかし、ダハミリ城の兵士ではない。帝国兵士だ。この国では、皇帝の権力を最大限まで高めるため、各城に駐屯する守備兵は皇帝の嗜好で置いているという設定である。
話を戻そう。グレンジャーは城壁守備兵だ。勿論ながらダハミリ城に住んでいる。だが、皇帝の嗜好で置かれただけの兵士なので、ダハミリ城の住民ではない。
このダハミリ城は既にほぼ忘れ去られた存在だ。はるか大昔、栄華を極めたダハミリは何故没落してしまったのか?
答えを云おう。当時のダハミリ城の新城主、ダハミリ・フォン・アンバーが悪政を敷いた為である。このアンバーは想像もつかない程の暴君だ。
具体的には、月に一回人狩りを実施し。周辺の集落の人間を皆殺しにし、城内の住人の中でも優秀な者を集め、無給で自らのSPを務めさせたり、例をあげればキリがない。
そんなアンバーは既にこの世にはいないが、彼の息子、孫へと代代、その汚れた血脈は受け継がれていた。ダハミリの民は絶望に暮れ、危機感を覚えた朝廷は討伐軍を送り、ダハミリ城との戦争に突入した。
結果はダハミリの惨敗。
ダハミリには帝国軍が駐屯した。しかし、代々受け継がれてきた血脈からの支配しか受け付けないように、いつの間にか民の脳が洗脳されており、帝国軍への暴行を繰り返した。そして帝国軍は撤退。
その代わりにアンバーの血脈が再び立ち、民を支配した。当初は民に対し善政が起こなっていた。しかし、人間とは本来ゲスなものである。
もはや権力は安泰と考えたアンバーの血脈は次第に悪政を敷くようになり、民は苦しめられた。
そんなところにフェルニゲシュである。フェルニゲシュは聡明だ。封印から解かれたフェルニゲシュは辺りを一瞬見ただけで状況を察し、自分がどうしたらどれだけ戦闘を行わずに考えたところ、アンバーの血脈を殺し、自分が善政を敷くことだ。
フェルニゲシュはその作戦に成功し、すぐに民の心を掴んだ。グレンジャーたち城壁守備兵はダハミリの住民ではないので、当然そうはさせまいと介入したが逆効果。民の怒りに触れたグレンジャーたちはフェルニゲシュを見ることもできず、敗走したのだった。
「………じゃあ、フェルニゲシュは民を味方に………」
オストは一通りの話を聞き終え、絶望した声で言った。グレンジャーは肯定し、頷いた。
「狼狽えるなオスト」
アルベルトは大きな声を出し、オストを安心させた。
「あれですね。城壁です」
グレンジャーは歩き終え、手を出した。と、そこには煉瓦の壁が見え、上を向いても何も見えなかった。




