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この惑星の願い  ~ 人間の正しい扱いかた ~      一番愛らしいのはだあれ?

この惑星の願い  ~ 人間の正しい扱いかた ~



     一番愛らしいのはだあれ?



汰華琉は自力で空を飛べる者たちだけを引き連れて、ヤハンを離れ、オレスに向かって空を飛んだ。


するとマリアがその間にある自然保護区のオレス側に程近い場所に浮かんで、深呼吸をするように、悲壮感など、それほどよくない感情を食って笑みを浮かべた。


『根本はここのようよ』とマリアが念話で汰華琉に言ってきた。


『お出かけ用を始末してくるよ』という汰華琉の言葉に、マリアは手を振って汰華琉たちを見送った。


「…そう… パンデミックの第二波の…」と美貴が眉を下げて言うと、「…ほかの土地も、きちんと見た方がよさそうだな…」と汰華琉は眉を下げて言った。


汰華琉はこれから必要になる手順を美貴たちにひと通り説明すると、刑務所が見えてきた。



元宰相が収監されている刑務所に広大な結界を張ってから、汰華琉たちはWNA特別小隊の肩書きを名乗って、簡単に刑務所に入る許可を得た。


もちろんミトに確認もしたことで、ミトは大いに悔しがったようだ。


さらには刑務所の管理官たちは、真の能力者たちを目の当たりにして見惚れていたほどだ。


キャメルのいる牢獄に近づくたびに、悪意の反応が強くなるようで、たまが汰華琉の手を逃れようとするが、それは汰華琉が許さなかった。


「対象は三人!」と美貴が叫ぶと、汰華琉が術を使ってその三名を拘束した。


するとたまが小さなフローラに変身して、『フニャァーゴォー!!』と大きな鳴き声をあげると、その三名は立ったまま意識を失っていた。


ひとりはキャメルで、残りのふたりは看守だった。


「…死んでないようでよかった…」と汰華琉はにやりと笑って言って、三人の魂の表面を詳細に探った。


「…施術が必要だ… 三人とも魂真っ黒…」


汰華琉が眉を下げて言うと、誰もが大いに眉を下げていた。


「方法はさっき伝えた通り。

 どっちがやる?」


汰華琉の言葉に、美都子と美々子は大いに眉を下げて、黒の勇者と大天使に姿を変えた。


「…天使に任せた方がよさそう…」と黒の勇者は目尻を下げて言って、汰華琉たちの背後に回った。


中位大天使サマエリは数歩前に出て、その体にうっすらと白のオーラを纏って、手を組んで祈りをささげた。


そして汰華琉が美貴を見ると、「…精神間転送、できないのね…」と眉を下げて言うと、美貴は魔王に変身して、気功術を使って大天使をキャメルの魂めがけて飛ばした。


キャメルは眼を見開いて呆然としたが、立ったまま胸を押さえつけて大いに苦しみ、あまりの苦痛に声を上げることができなかった。


汰華琉はキャメルの拘束を解くと、キャメルは倒れこんでから、地面を転がって苦しみ始めた。


魂にまとわりついた悪いもの。


この場合は霊魂ではないが悪霊と呼んでいる。


それをきれいさっぱり消してしまう場合、悪魔に魂を食わせることが一番楽な方法だ。


しかしその場合、対象者を殺してしまうことにもなるので、肉体と切り離すことなく、強烈なショックを与えて、悪霊を溶かしてしまう必要がある。


その方法として、天使と悪魔が使える白と黒のオーラを流用する。


もちろん、強烈なオーラを流してしまうと絶命することは確実なので、弱いものを纏って、精神間転送で魂に飛ぶ。


こうすることで、魂にこびりついた悪霊を浄化することができる。


この悪霊と、染み付いた悪意は、同じようなものだ。


違いとしては、外から染み付くか、中から湧き上がるかだけのものだ。


「…魂が熱いという反応と言っていいかな?」と汰華琉が眉を下げて言うと、誰もが大いに苦笑いを浮かべてうなづいた。


看守二名にも同じ施術を行った。


幸いなことに、三名とも息絶えることはなく、十分ほど苦しんだだけで済んで、再度魂を確認すると、本来の魂の表面の色を取り戻していた。


汰華琉は健常な看守の責任者に、何をしたのかをすべて話して、この場は任せて、刑務所を出て結界を解いた。


そしてマリアがいる場所まで素早く飛んだ。



「…なるほど…

 強烈な気のはずだが、意識しないと気づかない…」


汰華琉は呟いて、行動範囲がそれほど広くない、ひとつの魂を捕らえていた。


「…前世で悪いことでもやっちゃったのかしら…」とマリアもその魂を追いながら眉を下げて呟いた。


本来ならば、強烈な悪意は徐々にその範囲を広げていくものだが、それができないようで、行動可能範囲はほんの半径二十メートほどでしかない。


「…悪が悪を呼んだか…

 あの宰相が単身でここに来たとしか思えないね…」


「…あたしもそう思うぅー…」と、汰華琉の意見をマリアも賛同した。


汰華琉はその魂と肉体を球体の結界に封じ込めた。


その実態はまったくわからず黒い霧のようなものだが、人間の大人ほどの大きさがある。


この場を中心にして、大天使サマエリの力で、すべての大地の浄化を施した。


草木は一気に霧散するようにして、土と混ざり合って砂と化した。


そして丈夫が緑竜に変身して、「…出番、あったぁー…」と喜びながら、翼を雄雄しく仰ぐと、砂が土に戻り、薄い芝のような芽が出たとたんに一気に成長した。


「…ああ…」とマリアは嘆くように言ったが、その肉体はとんでもなく大物になった。


かなりの量の強い感情がわいたようで、マリアは悪魔の副食として食らったのだ。


しかしその体は徐々に元の姿に戻っていって、涙を流していた。


「次の人生は、いいものだったはずだ」


汰華琉の励ましの言葉に、マリアはまだ涙を流しているが、笑みを浮かべて何度もうなづいている。


汰華琉の予想でしかないが、この場所でマリアは条件付きで神隠しにあわせた者たちを苦しめて殺したのだろうと予測した。


「…面倒なやつが多いのは、ひねくれたからじゃねえの?」と魔王が言ってにやりと笑うと、「…それも、ありそうだけどな…」と汰華琉は呆れるように言って、これみよがしに魔王に向けて眉を下げた。


「だが、九十億の魂のほとんどは動物になったはずだ。

 いや、それではぜんぜん足りないほどだからな。

 ここから見える景色の中だけで、百億ほどはいる」


「調査の結果、推定八千億」と魔王は自慢げに言った。


もちろん、このケイン星に生息する動物の数だ。


「最近数箇所に自然保護区を作ったから、

 ついに一兆に達するんじゃね?」


魔王の明るい言葉に、誰もが大いに感心していた。


「さて、問題は、あの子をどうしよう…」と汰華琉は言って、小さな結界の中で右往左往している黒い物体を見入った。


「俺にやらせろ!」と黒の勇者の美都子が叫んで胸を張った。


「…殺さないでくれよ…

 確実に仲間にできるんだから…」


汰華琉が眉を下げて言うと、「…うう…」と黒の勇者はうなって、自信なさげに汰華琉を見た。


「わかったわかった」と汰華琉は言って、笑みを浮かべている雅に誘われて、破壊神(仮称)に変身したとたん、結界内の黒い霧が一気に晴れて、胴の長い白と薄茶色のツートンカラーのフェレットが横たわっていた。


「…意外に小動物だったか…」と破壊神がうなると、「…俺の出番ー…」と黒の勇者はうなってからうなだれた。


雅はすぐさま汰華琉から飛び出して、しゃがんで結界に寄り添って、「生きている生きている!」と幼児のように明るい声を上げた。


「小動物にしては長生きだ。

 推定、九十五才」


汰華琉の言葉に、誰もが目を見開いた。


「これほど長く悪意に取り込まれていんだ。

 少々扱いづらい能力者程度には覚醒できるはずだ」


汰華琉の言葉が聞こえたのか、フェレットは眼を開いてすぐに立ち上がろうとしたがそれは適わず、すぐに寝転んだ。


汰華琉は、穀物と果物を結界内に入れると、フェレットは食べ物を見据えて鼻を動かして、器用に前足を使ってイチゴを取って、うまそうにして食べ始めた。


「…ふん… 残念だが、覚醒までには時間がかかりそうだな」


「でも、資質は十分だから問題ないわ」と美貴は明るく言った。


すると、「…あー…」とたまは言って、結界内にいるフェレットを見て言った。


「わかってるさ、まだ終わっちゃいない」と汰華琉は言って、たまの頭をなでた。


「この子は純白の毛並みのはずなんだ」


汰華琉の言葉に、誰もが大いに目を見開いた。


「たま、開放してやれ」と汰華琉が言うと、たまは右手に力を入れて結界を平手で叩いた。


『バンッ!』という音と同時に、『…ギャッ!!…』という小さな声とともに、フェレットの毛並みは白くなっていた。


「妖怪が悪意を吸い込んで、少々面倒なことになっていたようだ」


汰華琉の言葉に、誰もが目を見開いて小さくうなづいた。


「お姉ちゃん、天使の癒し」と汰華琉が言うと、大天使は結界に向けて柔らかな癒しを放出すると、フェレットは果物を抱えたまま眠ってしまった。


汰華琉は、「ほ」と短く息を吐いて結界を解くと、たまが満面の笑みを浮かべて、フェレットを抱き上げた。


このフェレットの魂自体には何の害もなく、害があったのは妖怪の方だったようだ。


「…範囲を広げられなかった原因…」と汰華琉がつぶやくと、「そうじゃなくてね、狭くなったんじゃないのかなぁー…」と大天使がつぶやくと、「ああ、そういうこと」と汰華琉は笑みを浮かべて言って、ひとつの可能性を示唆した。


「…脱走じゃなかったのね…

 だけど、あの子にも説明ができなかった…

 だけど、どうしてここを目指したのかしら…」


美貴が眉を下げて言うと、「それこそ、その子が夢枕にでも立ったんじゃないの?」と汰華琉がたまに抱かれているフェレットを見て言うと、美貴は消えた。


「…あの子って… 脱走癖がある、まだ五才程度の能力者の子?」と雅が聞くと、「あの子は男子だが、高確率で天使だと思う」と汰華琉が言うと、大天使サマエリは眼を見開いた。


ミトに保護されているラクロ・ミッタンはマイケルも欲していたので、早急に話を進める必要があるだろうと汰華琉が考えていると、汰華琉から魔王が飛び出してきた。


「…仮説は高確率で事実…」と魔王はにやりと笑って言ってから美貴に戻った。


「たまはどう思う?」と汰華琉が聞くと、「…あー…」とたまは眉を下げて嘆いた。


「たまはあの子は得意じゃないらしい」と汰華琉は言ってたまの頭をなでると、「…めんどくちゃいぃー…」というたまの言葉に、誰もが陽気に笑った。


汰華琉はこの場からミトとピーターに同時に念話を送って、ラクロがどのような能力者なのか聞いたが、どちらも話したがらなかった。


「治癒の術」と汰華琉がひとこと言うと、『…はぁー…』とふたりが同時にため息をついたので、汰華琉は愉快そうに笑って、今あった事実を語り、予想できるラクロの正体を話した。


ここはミトとピ-ターで話し合い、ラクロをそばに置くことに決めた。


汰華琉たちがラクロを連れ出すわけにはいかないので、魔王がミトをこの場に誘ってから、王城に飛んだ。



ラクロは幽閉されているようなものだが、すぐに脱走を試みるのでほどなので、いつもいつも危険と寄り添っているようなものだ。


よって、ミクルのように縛り付けられているわけではない。


しかし、「世話ができる者が女王様だけというのは問題だ」と、汰華琉が呆れたように言うと、「うー…」とミトはうなるしが言葉が出なかった。


「僕も郡山静磨さんのような、立派な鬼になるんだ!」


ラクロの心からの叫びに、汰華琉は愉快そうに笑った。


そしてミトは眼を見開いて、「…知らなかったぁー…」と大いに嘆いてうなだれた。


「ま、がんばれば、鬼になれるかもな」と汰華琉は言って、ラクロの頭をなでた。


「しかし、君のお守り役は神マイケルが進言しているんだ」


汰華琉の言葉に、ラクロは大いに眉を下げて静磨を見入った。


「…どこかで…」と静磨はまじまじとラクロを見入りながらつぶやいた。


「親戚一同や過去の知り合いで、ヤハン人以外」と汰華琉が短く言うと、「あっ!」と静磨は叫んで、「…マレムさん…」と呟いて笑みを浮かべた。


「…マレム… マレム・ミッタン…」とミトが悲しそうな眼をしてつぶやいた。


「ラクロはそのマレム・ミッタンさんの息子だろう」


汰華琉の言葉に、「…実は、行方不明だと…」と静磨は言って、ミトを見た。


「…亡くなった、と思う…」とミトはうなだれたまま言った。


汰華琉はラクロの頭を押さえつけて、「ああ、動物に転生しているようだ」と汰華琉は比較的明るく言った。


静磨は汰華琉を見て、「母の従兄弟だって聞いています」と静磨は言った。


「この動物を探してから、静磨のお母ちゃんも鍛えるか…」と汰華琉が言ってにやりと笑うと、「大人は任せて!」とマリアが陽気に言った。


「…だが、思ってもいなかった偶然だな…

 ひとりだけいた白の勇者は、天使だったのに鬼に転生した。

 鬼と天使は、切っても切れない繋がりでもあるんだろうか…」


汰華琉は疑問解決のため桜良に念話を送ると、桜良は汰華琉から飛び出してきて、「…似てるわぁー…」とラクロを見て言ってから、静磨を見た。


「似てるって?」と汰華琉が桜良に聞くと、「あ、白の勇者だったサランちゃん、サラン・ロドリゲスって言ってたの」と桜良は少し悲しそうに答えた。


「今はまだ鬼っ子だけど、まったく別人の顔って訳じゃなくてね…」と桜良は言いながら、説明が面倒になって、現在と過去の映像を出すと、「…マレムさん…」と静磨はつぶやき、「…マレム…」と目を見開いてミトが言った。


そしてラクロは、「…お母さんなの?」とミトに向けて眉を下げて聞いた。


「いや、似ているだけで別人だし、

 この人は今はこっちの鬼っ子になっている」


汰華琉の説明に、「…お母さん、鬼になっちゃたんだぁー…」とラクロが短絡して考えてつぶやくと、ここは魔王がきちんと説明すると、ラクロの勘違いは解けたが、魔王を大いに畏れるようになった。


「君のお母さんだった人は、今は動物になっている」


汰華琉の言葉に、「…その子じゃなかったんだ…」とラクロはたまが抱いているフェレットを見て言った。


「何をお願いされたんだ?」と汰華琉が一番肝心なことを聞くと、「…凄く苦しそうでね… でも、偉い人のように偉そうだった…」とラクロが眉を下げて言うと、大人たちは一斉に眉を下げた。


汰華琉が順を追って話すと、ラクロは悪人だったフェレットの手伝いをしていたと少し早合点して落ち込んだので、汰華琉がさらに詳しく事情を話すと、ラクロは何とか正しく理解した。


「…中途半端な大人の知識が邪魔をしているようだ…」と汰華琉は呟いてからミトと見た。


「…うう… 私のせい…」とミトは正しく理解してうなだれた。


「教育者としては勉強し直した方がいい」と汰華琉は言って、汰華琉が作り出した、『教師教本』をミトに渡した。


かなり大きく重いものだが、ミトは何とか礼を言って、意地を張って教本を抱きしめた。


「…ちょっとだけ、めんどくさくなくなったよ?」とたまが小首を傾げて汰華琉に言うと、「天使や鬼の資質にも関係しているはずだ」と汰華琉は言って、たまの頭をなでた。


するべきことはすべて終えたので、汰華琉たちはカーニバル会場を目指して飛んだ。



現在、広大な催し物場ではAFA100のコンサートが行われていて、特に女子と若い男子が熱狂したいた。


このコンサートもカーニバルの目玉の出し物となっていて、会場には五万人以上がライブで、この近隣でモニターなどを通して観ている者は五十万人以上いた。


優夏たちは出し切ったと感じて、客たちに丁寧に礼を言ってから、客席に向けて手を振っているアイドルたちは、数人ずつが次々と消えていった。


すると汰華琉が観客の見守る中、ステージにタケルスペシャルを出すと、誰もが、「…おー…」と深くうなった。


そしてたまたち幼児たちが着ぐるみに着替えてステージに立つと、喝采の渦に巻かれた。


汰華琉はタケルスペシャルに搭乗するように座って、まずは穏やかな音楽の演奏を始めると、たまたちはウォーミングアップのように緩やかに体を揺らし始めた。


そして一気に明るい曲調に代わると、たまたちは飛び跳ねるようにステージを駆け巡って、『ニャンニャンニャンコ』を歌い踊り始めた。


タケルスペシャルはまさに単身で様々な音色を表現できる画期的なものだが、能力者でも扱いはかなり難しい。


一度は消えたAFA100のメンバーたちが戻ってきたほどだ。


ひとりだけで何もかもこなしてしまうという楽器もだが、それを演奏する汰華琉に誰もが惜しみない拍手を送った。


しかし主役はたまたちで、特に幼児たちはかわいらしいたまたちに目が釘付けになっている。


昨日は契約なのでAFA100のコンサートは催されていたが、たまたちのコンサートは今日が初出で、予告のない催しものに誰もが大いに喜んでいた。


そして、酒井寅三郎に誘われて、このケイン星にやってきたセルラ星のガッツ村に住んでいるマルク・コングは、汰華琉の演奏に酔いしれていたが、マルク手製の楽器のケースを見て、決心するように開いた。


そして汰華琉に挑戦するような目を向け、今のかわいらしさ満点の音楽に彩を添えた。


この音楽に怒ったのが美貴で、すぐさま魔王に変身して、汰華琉とマルクの間に仁王立ちした。


だがマルクはまったく意に介さずに演奏をやめることはない。


魔王は少し呆れたようで、苦笑いを浮かべてから美貴に戻って、近くにいた寅三郎に詰め寄った。


「どういうつもりだ」と美貴が目を釣り上げて言うと、寅三郎は礼儀とばかり軽く頭を下げてから、「彼女の修行だ」とさも当然のように言った。


「汰華琉に惚れているようだが?」と美貴がさらに目を釣り上げて言うと、「…そうなったか…」と寅三郎は大いに眉を下げて嘆いた。


美貴はひとつ鼻を鳴らして、「大和汰華琉はあたしの夫」という言葉に、マルクの安定していた音程が狂い、そして演奏をやめてしまった。


「ほう、正解…」と寅三郎が言うと、「この程度のこと、見抜けて当たり前だ」と美貴は鼻息荒く言って、目を見開いて美貴を見ているマルクを見据えた。


そしてマルクは生きる希望を失くしたようにしてうなだれた。


美貴は親指を立てて寅三郎に向けて、「お前の相手は、このへたれ魔王で十分だ」と言い切ると、マルクは力なくうなづいた。


汰華琉の演奏を体験するまでは、まさにその通りだった。


汰華琉に会って、その想いが覆ってしまったのだ。



汰華琉とたまたちはライブを終えて美貴に寄り添った。


「…ふーん…」と汰華琉は言って、マルクの楽器を見入って感心していた。


そして細田を呼んで、さらにバージョンアップしたものをマルクに与えた。


汰華琉も同じものをもらって音を出すと、「おっ! いいねいいね!」ともうすでに使いこなしていたことに、誰もが目を見開いた。


たまたちは舞台に上がることなく、この場で歌を歌って踊って楽しみ始めた。


マルクはこの事態に音を出そうとしたが、今までとは随分と勝手が違い、音を出すことをはばかられた。


しかし、マルク手製の楽器よりも高性能であることは、汰華琉の演奏で思い知っていた。


「…酒井様、練習したいので、帰ります…」とマルクが消え入るような声で言うと、「ああ、わかった」と寅三郎は答えて、美貴と汰華琉に挨拶をしてから消えた。


「危機と不幸は去ったわ」と美貴が自分勝手に言うと、細田は声を出さずに笑っていた。


「…もてる亭主を持つと気が気じゃないね…」という細田の言葉に、「…あたしも何か芸術も…」と美貴は大いに眉を下げて言った。


細田は笑みを浮かべて何度もうなづいていた。


「…あの子、留学するために来たようだったけど…」と美貴は一番気になっていることを口に出すと、「芸術と大衆音楽の差かな?」と細田が答えると、美貴は納得して何度もうなづいた。


まさに今の汰華琉は芸術品のひとつでしかなく、美貴はさらに汰華琉を好きになっていて、頬を赤らめた。



二日目の花火大会も終了して、汰華琉たちはまた巨大な催し物会場にやってきた。


もうすでに三千名ほどの人間品評会の大会出場者が集合していて、一斉に汰華琉たちを見た。


その想いは様々で、汰華琉は想いの少数派の方から、まずは丁寧に挨拶をして話を聞いて回り始めると、誰もが拍子抜けになったようで、荒れていた心が少し穏やかに変わっていた。


大半が汰華琉の手下に、などと考えていたようだが、今の状況からは出番はないと思って、とりあえずうまい食事に手を出し始めた。


「…何でもできるんだな…」とサウスレスタ国のマッスルバトル第一位のメロン・ウリが眉を下げて言うと、「能力者の場合、その程度はできた方がいいはずです」という汰華琉の言葉に、メロンは大いに眉を下げている。


「ここにいる二割ほどの者は、俺と同じ気持ちのはずだ」


メロンは言って、汰華琉に頭を下げて、上げた顔には笑みがあった。


「防衛隊に志願しなかった理由を聞かせてほしいのです」


汰華琉の核心を突いているが穏やかな言葉に、メロンはまた頭を下げて、「…いきなりの平和という事態に戸惑って、まだなにかあると…」と呟くと、汰華琉は何度もうなづいた。


「神が穏やかなので、

 この先数十年は問題はないと推測します。

 特に能力者がらみの犯罪は起こらないはずですから。

 それに、神が悪党と判断した場合、

 少々怖いことにもなりかねませんが、

 小悪党の場合は、しばらくは傍観するでしょう。

 それに神は私たちにも厳しいのです。

 このケイン星のすべては神の所有物」


「…お兄ちゃん、ひどぉーい…」と笑みを浮かべてマリアがやってくると、メロンは眼を見開いて、すぐさま頭を下げた。


「何度か言われたぞ?」


「…うふふ… 言っちゃったわ…」とマリアは笑みを浮かべて言って、少し舌を出しておどけた。


「このメロン・ウリは、ケインに預けてくれないかなあー」


マリアの言葉に、メロンは同意の意味で深く頭を下げ、汰華琉は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「マリア、ダメだぞ」とケインが穏やかに言って汰華琉に寄り添った。


「…俺の手下にと思っていたんだが…」と言って魔王もやってきたので、メロンは一旦顔を上げたのだが、また頭を下げた。


「どうしてケインなんだ?!」と、マイケルが怒り心頭になってやってくると、さすがに誰もが汰華琉たちに大注目した。


「マイケルは三人もいるじゃない」というマリアの言葉に、その三人が走ってやってきて、マイケルに寄り添った。


そしてマリアにも三人の弟子が寄り添った。


心中穏やかでなくなったのはジャン・マッコイで、マリアのそばにいる、まさに側近然とした、ローラ・ハミングを見入った。


「ジャンさんも仲間に!」と汰華琉が叫んで呼ぶと、ジャンは素早く走って汰華琉に寄り添った。


その走って来た姿だけを見て、誰もが大いにうなだれた。


汰華琉がマッスルバトルの予選しか出ないことは聞いていたが、ジャンはライバル以上の存在感があり、さらには防衛隊の制服を着ていることで、ほとんどのことを理解できていた。


「…どうしてこの女性がここにいるのですかぁー…」とジャンがうなりながら汰華琉に聞くと、「ああ、それは…」と汰華琉は笑みを浮かべて言ってから、すべての事情を話した。


もちろん、ジャンの対抗馬としてマリアの弟子になっていると、正しい情報を与えたのだ。


「そろそろ、冷静になったら?」


汰華琉の指導に、ジャンは深呼吸してからようやく落ち着いて、苦笑いを浮かべて被りを振った。


「私への試練、本当に感謝いたします」とジャンは堂々と言って、汰華琉に頭を下げた。


「今のところは敵でもありません」という汰華琉の穏やかな言葉に、ジャンはローラを見据えながら頭を下げた。


「隊長の代わりは?」と汰華琉が聞くと、ジャンは表情を変えることなく、「一年後には人選できると思います」とお硬く言って頭を下げた。


「今のまま鍛えてもらって、まったく問題はありませんが、

 ロストソウル軍からのスカウトが厳しいのでは?」


「いえ、心は決まっております」とジャンは笑みを浮かべてマリアを見て頭を下げた。


「…ローラは放り出して、ジャンを弟子にしようかしら…」とマリアが言うと、ローラは大いに眉を下げ、ジャンは大いに喜んだが、「神の戯れ」という汰華琉の言葉に、ふたりとも平常心に戻った。


「…お兄ちゃんはやさしいのに怖いわ…」とマリアは言って、汰華琉に笑みを向けると、ローラはごく普通にマリアに頭を下げたが、ジャンは少し戸惑ってからマリアに頭を下げた。


「汰華琉は怖いに決まっている」とケインが言うと、―― それほどなのか… ―― と誰もが神ケインの言葉を信用して頭を下げた。


「自分をまだ神の一員とは認めんからな」


マイケルの言葉に、「…認めた証拠に、マッスルバトルの決勝は辞退したじゃないですか…」と汰華琉が眉を下げて言うと、「今ここで、静磨と戦えば?」というケインの提案に、「よっしゃあ―――っ!!!」と静磨が大いに気合を入れて叫んだ。


「…そうしますか…

 最終日にする予定でしたが…」


汰華琉は言って、会場の中央の組み手場を競り上がらせた。


まさに一大イベントで、勇者皇と鬼の雄雄しき姿に、誰もが目を見開いた。


まさにふたりは神でしかないと誰もが認めた。


「お兄ちゃん! 油断しちゃダメよっ!!」という雅の真剣な叫び声に、勇者皇は笑みを浮かべて、「おう!」と気合を入れて答えた。


「…叫ばなかったら勝ってたかもしれないのにぃー…」とマミーが眉を下げていうと、「それでも、勝てないかも」と雅が眉を下げて答えると、「…それほどに…」とマミーは眼を見開いて言って、静磨に向けて手を組んで祈りをささげた。



まさに二人の戦いは常軌を逸していた。


人外であってあまりにも早い動きの巨体のふたりをまともに捉えていたのは、誉だけだった。


「人気があると思っていたら想像以上に強かった!」と勇者皇が嘆くように叫ぶと、「まだまだぁ―――っ!!!」と鬼は叫んで、巨大な体を小さくして汰華琉に迫る。


今にもこの会場が崩れ去りそうなほどの衝撃に、誰もが大いに怯えていたほどだ。


そしてこのふたりをこのケイン星の守護神として、誰もが認めた。


汰華琉は豆鉄砲を何度も撃つのだが、鬼が覚悟していることでまったく通用しない。


「小細工は止めだ!」と勇者皇は叫んで、本来のファイトスタイルをとって鬼に攻め込んだ。


「…くっ!」と鬼はうなって、巨大な体を小さくして防戦一方となった。


『ウリャァ―――ッ!!!』と勇者皇が渾身の拳を鬼に向けたが、巨体の鬼が消えていた。


その鬼は勇者皇の背後にいて、両脇を抱え込んでスープレックスを放った。


勇者皇は何度も足をばたつかせたが、「参った!」と叫ぶと、鬼はすぐさま腕を解いて、徐に立ち上がって、何も言わずに両腕を上げ、満面の笑みをレミーに向けた。


レミーは涙を流しながら、その体が白く光りだし、まさに女神のような巨大な天使のような存在となっていた。


そしてその巨体を使って巨大な鬼に抱きついた。


「さらに覚醒したな、おめでとう」と鬼が穏やかに言うと、白の勇者はゆっくりと首を振って、牛の獣人の顔が薄れているかわいらしい笑みを鬼に向けた。


そしてふたりは人型に戻って、汰華琉に心配そうな眼をして見たが、「…やっぱ負けた…」と汰華琉が気落ちして嘆いたのだが、静磨は笑みを浮かべて、「ありがとうございました、師匠!」と叫んで、汰華琉の腕を持って立たせた。


「…こうなったら、弱いものいじめだとわかていても、

 マッスルバトルに出るかぁー…」


汰華琉がうなると、誰もが拒絶するように首を横に振っていた。


「お疲れ様」と美貴は笑みを浮かべて言って、汰華琉を抱きしめた。


「生死をかけた戦いだったら勝てるからいいの」


美貴の言葉に、大勢の大会出場者は大いに怯えていた。


「…うう… まあ、それはそうなんだろうけど…」と汰華琉は大いに苦笑いを浮かべて言った。


「じゃあ、人間の姿で戦うとしたら?」という美貴の言葉に、「…勝てると思う…」と汰華琉は比較的自信を持って答えた。


「やってみる?」と美貴が静磨を見て言うと、「師匠にはそう簡単には何度も勝てません」と静磨は眉を下げて言った。


「だがあれだ…

 星を守るには、人外の方がふさわしいからな」


汰華琉の言葉に、静磨は笑みを浮かべて頭を下げた。


このあとすぐに解散となって、汰華琉たちは英気を養ってから眠りについた。



「…お前…

 負けて強くなったな…」


願いの夢見中にマイケルが言うと、「なぜだか余裕がありますね」と汰華琉は余裕の笑みを浮かべて言って、多くの武器をひとまとめにして球にしてから、砦に向かって転がすと、マイケルは愉快そうに笑った。


「…絶対におかしい…」と静磨は大いに嘆いて汰華琉の所業を見て眉を下げている。


―ー まさか… ―― と静磨は考えて、幸せそうなマミーを見たが、すぐに被りを振った。


マミーに大きな喜びを与えるために静磨に花を持たせたのかと考えたが、汰華琉にはそのような考えはないと、静磨は胸を張って自信を持っていた。


「…あ、ああ… まさか…」と静磨は嘆いてからケインを見ると、「汰華琉の方が強い」と、静磨の考えを肯定するように答えた。


「いくら勇者でも、鬼の力には到底適わない。

 だが、人間の汰華琉であれば、

 さて、どうなのかなぁー…」


「…星は人外が救った方が効果的…」


静磨の呟きに、「相手へのけん制にもなるし、うわさを聞いた小悪党程度の者は恐れをなして攻めて来ることもなかろう」とケインは笑みを浮かべて答えた。


「人間であればなめてかかるからな。

 前に防衛したのは偶然だ、

 などと考えもするだろう」


「はい、大いに言えると確信しました」と静磨は言って、深々とケインに頭を下げた。


そして、「さすが、お師匠様だ」と静磨は自然な笑みを浮かべて言った。



カーニバル第三日目のマッスルバトル予選は大いに荒れた。


汰華琉が選別役として、すべての決勝進出者を決めてしまったが、誰もが大筋では認めるしかない者たちしか残らなかった。


この中にはミライ・ヤマトもメロン・ウリもいた。


ちなみに、ジャン・マッコイも決勝に進出したが、ヤハン国代表者は、ジャンだけだった。


汰華琉は特に気にすることはなく、この星の最強者十名を見て笑みを浮かべてうなづいた。


そして早速、総当たり戦の第一回戦五試合が行われて、前出の三名は全員が勝利した。


しかし、余裕で勝利したのはジャンだけで、―― この戦いをあと八試合も一日で… ―ー と、特にメロンは大いに眉を下げて考えていた。


ジャンは数え切れないほどの組み手をこなしていたので、ある意味戦いに慣れができていて、効率的に動けるようになっていたことを喜んでいる。


そして三日後の注目の第二回戦は、第一試合にジャンとミライが激突することに決まった。


ふたりは大いに気合を入れてから、気さくに肩を組んで、お互いの偉業を湛えあった。


「…あのふたりには勝てそうにねえ…」とメロンは大いに眉を下げて呟いた。


「…勝てないなあー…」とたまがメロンを見上げて呟くと、「たまちゃん、ダメよ」とセイラが言って、たまを抱き上げた。


―― ん? なんだ? ―― とメロンは思い、セイラに怪訝そうな眼を向けると、セイラは、「うふふ」と意味ありげに笑ってからきびすを返した。


―― どこかで… ―― とメロンが考え込んでいると、「今世じゃないわ」と美貴がさもなんでもないことのように言って、セイラがこの星生まれの者ではないと説明した。


「きっとね、強烈な記憶があるはずだわ。

 その事実がわかっていても、

 思い出そうとしても思い出せない。

 それは今世の記憶じゃないから。

 ウリさんは彼女の母星のセルラ星で

 生を受けたことがあるのかもしれないわね」


「…セルラ星…」とメロンが呟くと、「彼女はセイラ・ランダ。全宇宙の神の代表格と言っても過言じゃないわ」と美貴は言ってから、きびすを返して汰華琉に寄り添った。


メロンは少々おじさんのように見られるのだが、まだ生を受けて二十二年で、セイラは十八も年上だ。


よって今世ではなく前世で強烈な出会いがあったのだろうと考えていると、「…あ…」と呟いてケインに向けて陽気に笑っているマリアを見入った。


―― いや、それもあったが… ―― とメロンは思い、大和丈夫を見入った。


「…そうだ… 火を噴く怪物の竜…」とメロンはようやく前世の記憶が鮮明に頭に浮かんできた。


「…だが、そこにはフローラもいた…」とメロンは言って、ひとつ身震いをした。


「…俺は、なんだったんだ…」とメロンは考えたが、この記憶は蘇らなかった。


まさに凡人だったのだろうと、諦めの苦笑いを浮かべた。


しかし、経験としては素晴らしいものとして考えていると、戦いの疲れが吹き飛んでいたことを怪訝に思っていると、汰華琉に食事に誘われたので、快く承諾して駆け寄った。


話のネタとしてメロンが汰華琉に話すと、「面白そうだ」と汰華琉は言って、メロンが話したすべてをセイラに話した。


「同じ村に住んでいた貧乏な少年」というセイラの言葉に、メロンは納得してしまっていた。


「怖いもの知らずで、

 フローラにも火竜にもそれほど怯えることはなかった。

 気功術師にはなれたんだけど、

 九十八才で天寿を全うしたわ」


「…そうですか…

 ありがとうござます…」


メロンは丁寧に礼を言って頭を下げた。


「気功術はね、一度覚えると、魂がある限りずっと使えるのよ」


セイラの言葉に、メロンは眼を見開いてから汰華琉を見た。


「気功術師も貴重なのです」と笑みを浮かべている汰華琉の言葉に、メロンは破願して喜んだが、気功術師が何たるかの知識がない。


汰華琉が察して、その説明と実際に術を披露すると、メロンは思い出したかのように、その肉体を倍化させた。


「…おー… 即戦力」と汰華琉は明るく言って拍手をした。


ひとつ術を使えたことで、念話ができることまで理解を終えた。


そして正常化の棺を出して、箸を折ってから棺に入れて、元通りになったことを喜んだ。


「その次は魂の所在」という汰華琉の言葉に、「…それはこれからのようだ…」とメロンは眉を下げて言った。


汰華琉は笑みを浮かべてうなづいて、「間違いなく十分に使える」と太鼓判を押すと、メロンは笑みを浮かべてガッツポーズをとった。


「杞憂がないのなら、いつでも引っ越してきてくれていいですよ」


汰華琉の言葉に、メロンはさらに喜んだのだが、すぐに眉を下げてうなだれた。


「…その杞憂があったから、

 精査してから、身の振り方を決める…」


メロンは力なく呟いた。


「抱えてる孤児は何人です?」


汰華琉の言葉にメロンは眼を見開いて、「…十二人…」と蚊の鳴くような声で答えた。


「その程度なら問題ないので、

 連れてきてくださってかまいません。

 ここに来てるんでしょ?」


汰華琉の快い言葉にメロンは大いに喜んで、通信機を出して話を始めた。


程なくやってきたのはいいのだが、「十三人いますけど?」と汰華琉がにやりと笑って言うと、「…あー…」とメロンは言って、引率している女性を見て、眉を下げた。


「…俺の幼馴染を忘れてた…」とメロンがばつが悪そうに言うと、汰華琉は愉快そうに笑って、まずは美貴が女性にインタビューを始めた。


感情的にもメロンとは幼馴染でしかなく、恋人というわけではなかった。


しかし児童保護施設としては、ふたりで力を合わせて守ってきた戦友と言ってもいい。


そしてこの女性、マリ・ネットは、子供たちの母親でもあった。


子供たちとしては、「お母さんと園長先生が結婚して欲しい」という希望を持っていたことに、汰華琉たちは快く同意した。


「ウリさんはお父さんじゃないの?」と汰華琉が聞くと、「いつもね、園長だって言われちゃうんだ」と子供たちは悲しそうに言った。


「…なるほど… 里子には?」という汰華琉の言葉に、メロンを筆頭にして誰もが苦笑いを浮かべていた。


「…出戻ってくるくらいなら、出さないことにしたんです…」とマリが眉を下げて答えると、汰華琉は笑みを浮かべてうなづいた。


「いや、もう家族と言っていいほどだと俺は思うんだけど?」


汰華琉の言葉に、子供たちは満面の笑みを浮かべた。



汰華琉は十三人目のマリも快く迎え入れた。


メロンの性格を反映しているようで、子供たちはみんないい子で、たまも気に入ったようで、天国でしかない遊び道具の山に、子供たちは誰もが陽気になった。


「…へー…」と大いに感心していたのはラクロで、すぐに大勢の子供たちと仲良くなったが、たまが大いに眉を下げていた。


「…おかしいな… 天使だとばかり思っていたけど、違うのか…」


汰華琉が呟くと、「エクソシストじゃないの?」と美貴が笑みを浮かべて言った。


「あー… 退魔師や陰陽師ってヤツか…」


「その種族も、癒しや防護の術は得意よ」


美貴の言葉に、汰華琉は深くうなづいた。


汰華琉が美々子に探らせると、天使ではないという結果だけは得たので、たまの嫌がるエクソシストのようだ。


しかし、たまは、『めんどくさい』と言っただけなので、脅威ではないようだ。


たまはラクロをそれほど嫌がることはなく、近くに来たとしても朗らかに話をする。


それにラクロがたまにそれほど興味を向けない。


たまもそれがわかっていて、自然な距離間をとっているようだ。


だが興味をもった美貴がラクロにインタビューすると、たまの妖怪の認識をしていないことがわかった。


「生の魂だから、不思議な子扱い」という汰華琉の言葉に、「そうなるわね」と美貴は眉を下げて言った。


「たまも、退魔師の資質を含んで持っているようだし」


「妖怪だけを消しちゃったからね」と美貴は眉を下げて言った。


今度は汰華琉がたまにインタビューをして、消してしまった妖怪について聞くと、意外な答えが帰ってきた。


「…生のない妖怪… 誰かの思念が作り出したってこと?」


汰華琉の疑問に、「うん、そうだよ」とたまは明るく答えた。


そして汰華琉は礼とばかりに、おもちゃの新作を数点出してたまに渡すと、大いに陽気になっていた。


ラクロはお人形遊びよりもロボット模型に興味を持って、男子たちに合流していた。


「ああ、そういえば、

 とんでもないおもちゃを万有様が作っていたっていう情報が」


汰華琉の言葉に、「…大爆笑プルプルボール…」と細田は小声で言って、すぐに思い出して笑い始めた。


「それほどに愉快なんだ」と汰華琉が眉を下げて言うと、細田は手のひらに乗る四角い箱を出した。


確かにパッケージには、『大爆笑プルプルボール』と記してある。


箱から出すと、まさに愛らしい鳥のようだが、ボールでしかなく、まん丸だ。


そしておいしそうな匂いをかぎつけたのか、子供たちが細田を囲んでいた。


細田が早速笑いながら遊び方を教えていると、誰もが大いに笑っていた。


「これは危険だ!」と汰華琉が大いに笑いながらも叫んでいるほどだ。


「だけど、みやげ物にはなかったはずだけど」という汰華琉の素朴な疑問に、「源一君がお隠れになっていたからね」という細田の言葉に納得した。


「となると、このボールの製造も再開するわけだ」


汰華琉は言って、プルプルボールを透視して、構成と成分分析をして、なぜ波打つような動きをするのか理解を終えた。


「あえて、バランサーを入れていないわけだ…

 そしてやわらかいが自立する素材…

 だから常にプルプル震える…」


汰華琉の言葉に、細田は笑いをこらえながらうなづいた。


汰華琉と細田は異空間部屋を使うことなく、簡単にプルプルボールを作り上げた。


「実は欠点もあるんだ」と細田が眉を下げて言うと、「悪いやつは犯罪に使いそうだね」と汰華琉はすぐさま見抜いて言った。


細田はすぐに賛同して、子供たちにこのデメリットの話をすると、たまたちは悲しそうな顔をした。


そしてお店屋さんごっこをして、その証拠を見せると、誰もが笑いながらも理解を終えていた。


「…悪い人は噛んじゃうぅー…」とたまがうなると、誰もが背筋を振るわせた。


販売としては、神ケインの許可が出なかったことで、たまたちはあきらめるしかなく、この城だけで遊ぶことに決めた。


「あっ! こら! なにをするっ?!」と美貴がいきなり叫ぶと、美貴の目の前にいる汰華琉と細田が作ったプルプルボールが勝手に起動したので、まずは誰もが大いに笑った。


そしてプルプルボールはゆっくりと歩いて汰華琉を見上げた。


「…うう… お母ちゃん…」と汰華琉が呟くと、ボールは小さくうなづいたのだが、その勢いで転がったので、誰もが腹を抱えて笑った。


「…さすが汰華琉の母ちゃんだぁー…」と美貴はうなって眉を下げている。


「えっ? うん、わかった、できるから」と汰華琉は言って、細田とともにプルプルボールの改良をすると、『これで話せるわ!』とボールは陽気に叫んだが、声までもプルプル震えていたので、誰もが輪をかけて笑った。


「バランサーを組み込んだ方がいいんだけど」


汰華琉の言葉に、『笑ってもらえるからこのままがいい』とボールは自己主張をした。


「あ、この子はマリアンヌだから」と汰華琉が今更ながらに説明すると、雅と誉が真っ先にやってきてボールを抱きしめた。


「あのぉー! 生まれたんですけどぉー!!!」と小さな叫び声が聞こえた。


それは花のマリアンヌが植わっていた鉢で、そこにカインとよく似た小人がいて、すぐさまカインと美呼都が寄り添った。


「…この子、色々と面倒になってきそうだわ…」と美貴はボールを見て、目じりを下げて言った。


「まさかだけど、術を勝手に使ったの?」と汰華琉が眉を下げて聞くと、「そう、いきなりね…」と美貴は大いに眉を下げて答えた。


「お母ちゃんが面倒なことをしてすまん」と汰華琉が誠心誠意謝ると、「…たぶんね、人間のあたしが弱いことまで知ってるの…」と美貴は大いに反省するように答えた。


「魔王は面白そうだから、何も言わずに許可したわけだ…」


「…うん、大正解ぃー…」


「まあ、悪さはしそうにないからという理由もあるだろうし、

 悪いわけじゃないから能力を消されることもない。

 まあ…

 ぬいぐるみが魂を持ったことを知って、

 対抗したんだろうなぁー…」


「…それは大いにありそうだわ…

 もちろん魔王も…」


「悪さしちゃうと、解体されちゃうわよ?」というマリアの優しい言葉に、ボールはプルプルしながら、何度も小さくうなづいた。


「マリアに所有権があるからちょうどよかった」という汰華琉の言葉に、美貴は賛同するようにうなづいた。


だがそのマリアが眉を下げてボールを汰華琉に差し出してきた。


「悪さをしないという証明ができるまで、

 マリアに預けるから」


汰華琉の言葉に、マリアは大いに喜んでボールを抱きしめると、『…壊れちゃうぅー…』と震える声で言ったので、誰もが大いに笑った。


「どうやって証明」と美貴はここまで言ってにやりと笑った。


「そうなるまで、どれほど時間がかかるのか楽しみだ」と汰華琉は言って、愉快そうに笑った。



八重の花のマリアンヌの最後の子はポインという名に決まって、もちろん今回も森の妖精であることはよくわかった。


カインがいきなり小人サイズの花火を打ち上げると、誰もが大いに目を見開いた。


「カインは喜笑星の花火の真似をして作ったようだ」と細田は眉を下げて言った。


「量産、できそうかい?」と、汰華琉は誰よりも厳しかった。


カインは、「…大きいのはちょっと…」と眉を下げて言ったが、「大きさはそれでいいんだ」と汰華琉が笑みを浮かべて言うと、カインはあっという間に花火玉を二十個ほど創り上げた。


「お見送りの花火大会?」と美呼都が小首を傾げて汰華琉に言うと、「ああ、そういうことだ」と汰華琉は機嫌よく言って、美呼都の頭をなでた。


汰華琉は細田とともに、簡素な装置を作って、カインたちを陽気にさせた。


カインたち小人は高台のケースの中に入っていて、花火を打ち上げ名から、客たちのお見送りをするという企画だ。


もちろん屈強なガードマンが客を誘導するので、立ち止まることはできない。


「…いや、ここは強制排除でいいか…」と汰華琉は言って、動く歩道を作り上げた。


後ろから人が攻めてくることで、下がることはできないので、なかなかのアイデアだった。


「夜遅い行事になるから、

 眠くなったら寝てしまえばいいから」


汰華琉の言葉に、誰もが大いに眉を下げたが、誰も反論しなかった。



翌日の美女コンテスト決勝は大いに荒れて、第一位が三人となった。


もっとも、表彰は大賞と第二位と三位まで行うことになっていたので、ほとんど問題はなかった。


ひとり目はヤハン国代表の山城美々子。


二人目は、ファルッタ国代表のキャサリン・フラワー。


三人目は、アナダ国代表のフランソワ・ブルック。


三人は旧知の仲のように喜び合って、満面の笑みで表彰式を終えた。


民衆の中で、一番大きな拍手をしているのが、岩戸理恵だった。


キャサリン・フラワーは女優で、理恵と意気投合した仲間でもあったからだ。


そしてフランソワ・ブルックは、美々子と同じく芸術家で、楽器演奏者を目指すことになる。


美々子とキャサリンは生活を変えないが、フランソワはヤハンに留学をすることになる。


インタビューでその話が出た時、汰華琉と美貴の二人で話し合いを行って、留学の許可を出した。


そして美々子の普段の生活ぶりを披露すると、一長一短あるようだが、フランソワは快く同意した。



一方、少々悔しがったのはララ・ミノウで、おしくも大賞に選ばれなかった。


お家騒動がララの魅力を大いに下げてしまっていたからだ。


そのララの心配は同居するであろうフランソワだが、ミライは興味がないようだったのでほっと胸をなでおろしたが、高能力者と引けを取らない誉に見初められていることが気に入らないし、ミライもまんざらでもなさそうなのだ。


誉は誰が見ても頼りなげで、『弱い者』のレッテルを貼られがちだが、その生活は強者でしかない。


そのギャップをミライは気に入っていると、ララは勝手に判断していた。


当のミライだが、やはり共同生活の中で、誉にも興味を持っている。


妹のキララとまったく正反対の性格なのが、功を奏しているといっていいほどだ。


ちなみにキララは雅の配下のようになっていて、山城家に溶け込んでいる。


さらに落選組みの美都子だが、こちらの方は真人が労いの言葉をかけただけで簡単に復活して、もうデートの約束を取り付けたほどだ。


そして真人が、「…大賞に選ばれなくてよかった…」と顔を真っ赤にして告白するように言うと、美都子は天にも昇る気分となって、真人の気持ちをありがたく受け止めた。


ちなみに美都子の欠点は、大きくなってしまった胸で、それ以外は大賞級の評価を得ていた。


やはり見栄えは重要で、大賞を受賞した三人で、胸が大きい者はひとりもいない。


胸が大き過ぎると、美という面で少々野暮ったく見えるような、この星独自の認識のようだ。



翌日の美男コンテストではミライ・ヤマトが大賞に選ばれた。


もちろん、汰華琉も静磨も辞退していたので、選ばれて当然でもあった。


やはり、ヤハンに来てからの肉体的成長が著しく、まさに神の仲間入りを果たしたような肉体美となっていた。


そしてカーニバル最終日のマッスルバトル決勝戦の前に、また汰華琉と静磨は戦った。


結果は、今回は時間切れ引き分けとなったが、マッスルバトル出場者は、大いに萎縮してしまった。


よって、「ふたりは神!」とした者だけが好成績を残すことになり、最終決戦はミライ・ヤマトとメロン・ウリのふたりが決することになった。


「…強者がふたりもいた…」と、ジャン・マッコイは大いに嘆いたが、汰華琉に慰められ、そして弟子入りを果たしたことに喜んだ。


「ミライ君の強さは、俺と同じDNAという理由がある。

 だけどメロンさんの強さは、

 家族を守る心の強さが大きいかなぁー…」


「…守る家族…」とジャンは言って、祈りを捧げているようにしか見えない、メロンの子供たちを見入った。


守るべき家族を失ってしまったジャンにとっては、メロンの存在を大いに考えさせられる出会いとなった。



やはり最終決戦となると、多くの試合をこなすことにより、出場選手たちが満身創痍となっていて当たり前だが、ミライにはそのような言葉はないように、今日の初戦の覇気と何も変わっていない。


メロンも同じように見えるのだが、内情は火の車で、長い時間は到底戦えないと踏んでいる。


やはり体が大きい分、それなり以上に体力の消耗が著しい。


試合開始と同時に飛び出したのはメロンだったのだが、長い腕が伸びたのはミライが先で、メロンは焦ることなく、万が一を警戒して素早く下がって、ミライを見据えた。


すると、「お父さんが勝った!」という声が会場内に響いた。


―― あのやろー… ―― とメロンはにやりと笑みを浮かべ、普段は無口なキャンディーの顔を思い出していた。


「ありゃ、大逆転」と汰華琉が言うと、「勝てなきゃ見損ないます」と、ジャンが素早く賛同した。


メロンは体中の力を抜き、ゆっくりとミライとの間合いを詰め始めた。


今度はミライが嫌がって、下がることはないが、回り込んで距離を詰めさせない。


そしてメロンはここまで取っておいた足技を披露して、一瞬にしてミライとの間合いを詰め、正面から抱きついた。


ミライは逃げようと必死になったが、そのまま投げを放たれ、首筋から床に激突した。


「ウオオオオオオッ!!!」と会場内から大歓声が上がる。


だが、次の瞬間、信じられない事態が起こり、ミライはメロンに囚われたまま立ち上がっていたのだ。


立ち上がったと言うよりも、首のばねを使って跳ね起きたといっていい。


こうなると動けないのはメロンで、大いに悩んだ。


そしてようやく違和感に気づいて、また同じ投げを放ったと同時に、違和感を確信して、ミライの体を放した。


それと同時に、ミライが着地した地点に太い縦の蹴りを放ち、驚きの眼をしているミライを場外に蹴り飛ばしたのだ。


メロンは勝利を確信して、もろ手を挙げたまま、闘技場の床に膝を付いて、肩で荒い息を始めた。


「…はあ… どっちも強い…」と汰華琉は大いに嘆いて、大いに拍手をしながらメロンに近づいた。


そしてメロンに活を入れて、自然治癒力による普通に動けるだけの体力の確保をさせた。


「強いな、父ちゃん」


汰華琉の温かい言葉に、メロンは恥ずかしげもなく涙を流して何度もうなづいた。


そしてメロンは、家族たちの元に歩いていって、最愛の子供たちを抱き上げた。


「読まれてしまいました」とほぼ無傷のミライが普通に歩いてきて、汰華琉に頭を下げた。


「そこは技を返されたとすぐに気づいたメロンさんの強さだよ。

 捕まった次点で逃げ出すことは不可能だから、

 ミライ君の使った手しか、ほぼ道はなかった。

 そして最後まであきらめない強い意志は、

 この星の一番にふさわしいと俺は思う」


汰華琉の熱い言葉に、ミライは笑みを浮かべて頭を下げた。


「キャンディーちゃんの声、聞こえた?」


汰華琉が聞くと、「え? あの子って、話せるんですか?」とミライが素っ頓狂な顔をして聞き返してきた。


「声は出るんだが、発さないんだ。

 その声をここで出してきた。

 お父さんが勝ったと言ってな。

 彼女にとっては、それを信じることが、

 メロンさんを勝たせると確信していたんだろう。

 誰がどう見てもメロンさんが不利でしかなかったが、

 奇跡ではなく、

 メロンさんのすべてを引き出した、

 素晴らしいひと言だった」


ミライは笑みを浮かべて頭を下げて、勝者家族のもとに歩いていった。



「本気で戦ってくれてありがと!」とミライを見つけたキャンディーが真っ先に叫ぶと、ミライはあまりにもかわいらしいキャンディーの声と表情に、「…い、いや… 本当に、強いお父さんだ…」と何とか戸惑いながら答えた。


「あたしね、願掛けしたの!

 願いが叶ったら、

 お父さんの最大の敵になった人のお嫁さんになるって!」


キャンディーは満面の笑みをミライに向けたが、ミライは右の口角を上げるだけに留めた。


いきなりの告白に、誰だって戸惑うくらいの表情を見せることは普通だろう。


「…キャンディーちゃんって、まだ七才ほどだよね?」とミライが眉を下げて聞くと、キャンティーは大いに頬を膨らませた。


「キャンディーはこれでも十五だ」


メロンの重厚な言葉に、ミライは大いに目を見開いて、キャンディーにすぐさま謝った。


「…だったら、師匠に話せば…」とミライが呟くと、「…その件で、ちょっともめててな… 結論が出ない…」とメロンは大いに困惑げに言って、キャンディーを見た。


ミライもキャンディーを見て、「それほどよくない子だな」とミライが言った。


キャンディーの身体が小さいのは脳の病気のせいで、正常化の棺に入れば簡単に治るものなのだが、それをキャンディーが拒んでいる。


キャンディーとしては大人になりたくないという、まさに少女趣味の性格が働いているようだ。


もちろんメロンは無理強いはしないのだが、将来、幸せな結婚をする場合は、健常者の方が有利だ。


だが、今回のマッスルバトルで、キャンディーは一大決心をして、自分自身を賭けの道具として使うことに決めた。


どう贔屓目に見ても、メロンがミライに勝てる要素は希薄だったからだ。


キャンディーも大人たちと同じく、最強はミライと冷静に判断していた。


だったら、普段はしないことをキャンディーがすれば、何かが変わるのではないだろうかと、漠然と考えたのだ。


メロンはまんまとその手に乗って、ついには不可能を可能に変えたのだ。


「だけど、子供のまま結婚するのかい?」


まさに核心を突いたミライの言葉に、「…うわぁー…」とキャンディーは大いに嘆いて、困惑の眼をメロンに向けた。


「ほら! キャンディー、来い!」と汰華琉が叫んで、その隣には正常化の棺を準備して待っている。


「…このままじゃ、ダメなのぉー?」とキャンディーはミライに言ってから、メロンを見た。


「…できれば、健常者の方がいいし…」とメロンがいい、「脳の病気はね、長生きできないそうだ」というミライの言葉に、キャンディーは背筋を震わせて、メロンに泣き顔を見せた。


「ま、生きて三十五年から四十年っていったところだ!」


汰華琉の言葉に、ついにキャンディーは泣き出し始めて、「きちんと聞いてよかったぁー…」と泣きながら歩いて、正常化の棺に入った。


汰華琉は何も言わずに、笑みを浮かべたまま扉を閉めると、すぐに扉が開いて、目を見開いたキャンディーが姿を見せた。


「…んー… ちょっとだけお姉さんになったって感じ…」とミライが言って眉を下げると、キャンディーは少し憤慨したが、汰華琉が出した姿身を見て、「…それほど変わってないようなぁー…」と大いに嘆いた。


「俺の勇者の判断では、キャンディーはこれが大人の体だ。

 特に病気というわけではなくて、

 たぶん、進化に関することが原因だと思う」


汰華琉の言葉に、「…あー…」とキャンディーはつぶやいてからうなだれた。


「…キャンディーの血縁者は、

 父母問わず、みんな小柄だったらしい…」


メロンの言葉に、汰華琉は何度もうなづいて、キャンディーの進化形態の調査をすると、面白い結果が出た。


キャンディーの先祖に爬虫類系がいるのだが、すべてが小さい種類ばかりだったのだ。


「こりゃ、大切に育てないとなぁー…」と汰華琉が言うと、メロンはすぐさま汰華琉に頭を下げた。


「師匠としては、

 まあここは、美都子さんが適任かなぁー…

 マリアでもいいんだけど、大人担当に決めたこともあるし…」


「…壊しちゃいそうだから、美都子に譲るぅー…」とマリアは眉を下げて言った。


初の弟子取りに、美都子は大いに戸惑ったが、真人の後押しもあって、キャンディーを弟子に取ることに決めた。


そしてキャンディーに早速黒の勇者の胴衣を渡した。


もちろん、美都子の制服でもあるメイド服だ。


早速着替えて、ミライは満面の笑みを浮かべて、キャンディーを大いに褒めると、キャンディーは満更でもなかったようで、大いに照れて礼を言った。


「そういえば、花嫁修業にも最適だったかな?」という汰華琉の言葉に、誰もが大いに賛同した。



この幸せな光景を、ララとキララは眉を下げて見ていた。


「…まさかのキャンディーちゃんだったわ…」と雅が眉を下げて嘆くと、誉は声を出さずに泣いていた。


「…ぐれちゃうぅー…」と誉が嘆くと、「それだと今までと同じよ」と雅は言って、メイド服を誉に渡した。


誉は大いに動揺したが、すぐに着替えてきて美都子の前に立った。


「…はぁー… よく似合ってるわ…」と美都子が褒めると、ミライは誉とキャンディーのふたりを交互に見て、「…うー…」と小さくうなった。


誉の気持ちは聞かなくてもよくわかっていたし、ミライとしても悪からずと思ってもいて、しかも大和家の中でも高能力者なのはよく理解できていた。


「私、負けない!」と誉がまず言うはずのない言葉をキャンディーに向けて言うと、「…あ、お譲りしますぅー…」とキャンディーは大いに腰を引いて言った。


「…ま、賭けの代償だからな…」とメロンがにやりと笑って言うと、「…次に園長先生が勝てない人にするぅー…」というキャンディーの言葉に、誰もが腰を抜かすほどに大いに笑った。


「…あー…」と誉は大いに罰が悪そうな目をミライに向けたが、そのミライは笑みを浮かべて誉を見ているだけだ。


「学校はしばらく休みだ。

 自由時間にでも、デートでもしよう」


ミライの積極的な言葉に、「…はいぃー…」と誉は頬を大いに赤らめて答えた。


「…誉にも、ようやく春がやってきたなぁー…」


汰華琉の呟きに、大人たちは大いに賛同して、何度もうなづいた。


「…あたしの春…」と雅が大いに眉を下げて呟くと、「何事も縁だ」と汰華琉は言って、雅の頭を優しくなでた。



長かったカーニバルの六日間を終えた。


しかし観光客の足は止まることなく、カーニバル会場にやってくるようで、明日の人出は十万人を超えるようだと、政府から発表があった。


明日からの運営はまずは国が面倒を見ることになっているが、早速ミキコンツェルンに業務代行の話は来ているようで、若返りを果たした美紗子は快く受けている。


あまりにも風貌が変わったが、対応は今まで以上に厳しいことで、国からなめられることなく、なかなかの好条件で仕事を請け負ったようだ。


人気が高いのは、山城美々子美術館と広大な遊園地を中心にしているので、通常営業とほぼ変わらない。


そして美紗子は、更なる利益を上げるための提案を汰華琉にすると、「…それはなかなか難しい問題だね…」と腕組みをして考え始めた。


それは夜で、短いが花火大会を行いたいと言ってきたのだ。


すり鉢状の観覧席を一部有料にすることを考えたのだが、あまりにも露骨過ぎて、有効な一手ではないと美紗子は判断した。


よってそれ以外で利益を上げられないだろうかとお伺いを立てにきたのだ。


「利益と言う意味じゃなければ、

 富裕層に期待を込めて、

 募金箱を置くことがまずひとつ」


汰華琉の言葉に、美紗子は神妙にうなづいた。


「第二として、花火大会専用の物語を作り上げる…

 もしくは既存の物語を使って、

 グッズ販売で利益を上げる。

 だけどこの場合は最低でも一週間ほどの準備期間が必要だろうね…

 だけどこの場合は、条件のいい観覧席を一部差別化の有料化をして、

 大きな収益を上げることはできると思う。

 もちろん晴れの日限定の催し物になるから、

 多くの舞台セットを使った演劇などは有効だろう」


汰華琉の言葉に、岩戸理恵が真っ先に手を上げると、理恵の弟子になったキャサリン・フラワーが大いに喜んでいる。


「日時を決めて、たまたちも歌うかい?」


汰華琉の提案に、たまはすぐに賛同して、そそくさと着ぐるみに着替え始めた。


「…うう… 半端な演技ができなくなったぁー…」と、理恵が大いに眉を下げて呟いた。


「もちろんその時の演奏は俺がするから」


汰華琉の更なる言葉に、たまたちはもろ手を挙げて喜んだ。


「…音楽にも、一気に拍車をかけるのね…」と美貴は眉を下げて言った。


「演奏者は俺じゃなくてもいいからな。

 候補を募って、お試しでひと月ほどは、

 比較的安価で披露してもいいと思う。

 演劇以外の出し物も募集したっていい。

 AFAにも時には協力を要請してもいいし」


美紗子は賛同するように大きくうなづいた。


「あとは、一番簡単なのは、3D映画の上映、かな?」


「…うう… 初めのひと月間はそれがいいって思っちゃったぁー…」と美紗子が大いにうなった。


「明日からできそうだからね」


汰華琉の明るい言葉に、誰もが笑みを浮かべてうなづいた。


「グッズはほとんどが輸入だけど、

 多少の無理は利くだろうから。

 フリージア星も喜ぶと思うし…

 まずはこのケイン星独自のプリンセスナイトの昔話の映画でもいいけど…」


汰華琉の提案に、誉が大いに眉を下げた。


だがそれは過去の話なので、反対はしなかった。


「その時代と場所って?」と美紗子が興味を示して早速聞くと、「残念なのはヤハンではないこと」と汰華琉が眉を下げて言うと、美紗子は大いにうなだれた。


「過去の文献から、

 衣服についてはタリスマン王国近辺が有力だと思う」


汰華琉が言って雅を見ると、「明日でも空を飛んで確認してくるわ」と雅は明るく答えた。


タリスマン王国はヤハンのほぼ南にあるので、その近辺も今は夜だ。


「タリスマン王国の特産品!」と美紗子は通信機に向かって叫んだ。


そこには、気弱そうな少女ではなく、ミキコンツェルン会長の美紗子しかいなかった。


様々なアイデアが出て、明日から使えるものも多く出たことで、美紗子たちが早速会議を始めた。


そして汰華琉は理恵から相談を受けて、数本の舞台用のシナリオを手に入れて上機嫌になって、本読みを始めた。



学校が休校なのは三日間で、カーニバル期間中とあわせて九日間となる。


学生としてはまだまだ遊びたいところだったが、わんさかと観光客がやって来たことで、広大な遊園地ですら、それなりの混雑があるとテレビで知って、大いに残念に思ったようだ。


人出の長期予想では、二週間ほどは今の状態が続くそうだと知って、遊ぶことはあきらめて、開放されている学校か図書館で勉強をすることにした学生が半数ほどいた。


山城城の住人たちの行動も様々で、汰華琉と美貴は仕事で、静磨たちは余暇を過ごすことになった。


もっとも、美貴の鶴の一声で仕事になることもあるが、静磨たちもそれを望みながらも、特に子供たちが喜ぶことに専念することにしている。


そして早速雅が調査した結果、プリンセスナイトがいた地は、ほぼタリスマン王国で間違いないようだが、本拠地は、その隣の国だったモロダの地だった。


今はモロダ国はなく、自然保護区となっている。


汰華琉と美貴は、雅たちを引き連れてモロダの自然保護区に入って、原生の作物などを吟味した。


南の地とあって、果物が豊富で、小動物たちの楽園と言っていいほどだ。


「…まさか、お会いできるとは…」とこの地の管理官のWNA職員でもある、ミトラ・ミッタは大いに感動していた。


本来ならば地方局長が対応するのだが、上層部の誰もが腰を抜かすほどに驚いて尻込みをしたので、比較的度胸があるミトラが案内役を引き受けたのだ。


「雰囲気から、猛獣はいないように感じるけど…」と汰華琉はいいながらも、深い森から続く高い山を見入った。


「はい、あの辺りが、猛獣王国です」


ミトラの言葉に、汰華琉は愉快そうに笑った。


「ま、あまり近づかない方がいいだろうけど、

 もうひとつ二つ、インパクトのある作物に期待したいんだけど…」


「たまとセイラに行かせる?」と美貴が聞くと、汰華琉は笑みを浮かべてうなづいて、早速セイラに念話で連絡を取った。


セイラは喜び勇んで飛んできた。


もちろん、一緒に遊んでいた静磨たちも抱えていたので、山城城の住人がほぼ集合していた。


汰華琉から詳しい話を聞いたセイラは、早速ダイゾに変身して、小さなフローラを手のひらに包み込んだ。


『できるだけ脅さないように、

 おいしそうなものを探してくるわ』


ダイゾは念話で汰華琉に言って、ひとつ舌なめずりをした。


「…汰華琉が一番うまそう…」と美貴が大いに眉を下げて言うと、汰華琉は愉快そうに腹を抱えて笑った。


ダイゾはその重厚な体を森の中に消した。


「できれば、動物専用の古代の水場を作ってもいいかなあー…」と汰華琉が呟くと、「あってもいいわ」と美貴は機嫌よく答えた。


山の麓で、動物の騒ぐ声が聞こえたが、それは途切れ途切れだった。


ダイゾはなかなかうまく潜入できたようで、森と山はほぼ平和だった。


そしてダイゾが戻ってきて、様々な戦利品を並べてから、セイラに戻った。


「…半分ほどは、なかなかグロテスクだね…」と汰華琉言って、少々臭い匂いを放っている果実を見て眉を下げた。


「山のボスは余裕があったようだけど、

 たまちゃんに気づいて、かなり警戒したけど、

 騒ぎにはならなかったわ」


「ああ、ここからでもそれは感じた」


汰華琉の言葉に、人型に戻ったたまは大いに眉を下げていた。


「たまには、ちょっとした刺激もいいさ」と汰華琉は穏やかに言って、たまの頭をなでた。


「杞憂は?」と汰華琉が聞くと、「東側が水不足気味、かなあー…」とセイラは唯一の杞憂を報告した。


「誉! 土地の調査に行くぞ!」と汰華琉が叫ぶと、誉はすっ飛んでやってきて、汰華琉に抱かれて空高く舞い上がった。


「…これが、彼女の仕事か…」とミライは少し悔しく思った。


「お兄ちゃんへの恋心はもうないわ」という雅の言葉に、「魔王様がほぼ平常心だから」というミライの言葉に、「そうだったわ!」と雅は叫んで大声で愉快そうに笑った。


「…誉は妹と言うよりも、子供にしてもいいほどだもの…」と美貴は眉を下げて言った。


「…すっごくうぶなのも大変よ?」と雅が少しミライをからかうと、「彼女の自然に任せるから」とミライは清々しい笑みを浮かべて言った。


「それに、この先は俺が師匠の仕事を取ってしまいたいと思ってるんだ」


ミライの明るい言葉に、「…それ、たぶんお兄ちゃんはすっごく嫌がると思う…」と雅が眉を下げて言った。


「…結婚してからの方がよさそうだ…」とミライは色々と察して答えた。


「…まあ…

 恋人と認めたら、その限りじゃないと思うけどね…」


美貴の呟きに、ミライは笑みを浮かべてうなづいた。


『美貴、来てくれ』という汰華琉の念話に、「わかったわ」と美貴は答えて魔王に変身して、大きく東に反れて飛んだ。


もちろん、この地のボスを刺激しないためだ。


しかしすぐに巨大な宙に浮かんでいるような空池が現れ、そして雨が降り始めたと同時に、汰華琉たちが帰ってきた。


「…あー… 空気までおいしくなったわ…」とセイラは笑みを浮かべて言って深呼吸をした。



汰華琉たちが新たなる作物の選定作業をしていると、前田源次が単身で山城城にやってきた。


静磨は大いに喜んで、まさにもろ手を挙げて歓迎して、源次を迎え入れた。


源次は家長でもある汰華琉と美貴に丁寧に挨拶をして、手土産を渡すと、汰華琉と美貴は早速包みを開けて、みやげ物の選定も始めたので、静磨が眉を下げて事情を説明した。


「…祭りをずっと続けるようなもの…」と源次が半分以上あきれ返って言うと、「まあ、そうとも言えるかなぁー…」と静磨は否定することなく、眉を下げて答えた。


「キャンディー・ウリ!

 十五才です!」


早速源次に目をつけたキャンディーが挨拶をすると、「あ、源次さんは結婚してるから」と静磨が答えると、キャンディーは残念そうに眉を下げてメロンを見た。


「…負かされそうだ…」とメロンは大いに眉を下げて言って、源次に頭を下げた。


「…源次さん… 独身者も連れてきてぇー…」と雅が甘えるようにねだると、「一度帰った時にでも連れてくるよ」と源次は気さくに笑みを浮かべて答えた。


源次はすぐに旅に出ることなく、この山城城の住人の人間観察から始めた。



「…よく働く王様だが…」と源次は言って、汰華琉の取り巻きの大人たちを見た。


まさに教師と生徒だと源次は判断して、笑みを浮かべて何度もうなづいた。


よって、汰華琉がしていることは第一次審査のようなもので、実権は大人たちの仕事になっていくようだと理解した。


源次は城の外に出て、わずかばかりに歩いた場所に、きらびやかでしかない商店街があった。


まさに喜笑星安土城下の街道筋のように、様々な店が所狭しとある。


そして観光案内所に入ると、真っ先に目に入ったのは、山城美々子美術館の宣伝用ポスターだった。


そして不思議なホログラムのポストカードも販売している。


―ー 絵でしかないのに、面妖な… ―― と源次は思い、ほかの観光ポスターにも目を向けた。


様々な国の様々な観光名所の宣伝があり、そして陳列棚の一角に、『総まとめ! ケイン星観光地ガイド!』と、少々気合の入ったガイドブックを購入した。


「この星で一番売れている本です!」と案内嬢が機嫌よく言うと、「カーニバルも終わったばかりだからね」と源次は気さくに言った。


「…このヤハンはそれほどでもないんですけど、

 他国は貧富の差が激しい土地もあるのでぇー…」


案内嬢は眉を下げて言って、支払いを終えたガイドブックを源次に渡して、「ありがとうございます!」と心の底からの礼を言った。


「まさかだけど、学生さん?」と源次が聞くと、「…ここって親がやってる店で、学校が祭り休暇でお休みなのでバイトですうー…」と答えた。


「この商店街は、山城城と関係があるの?」


「もちろん、大家さんです!」と案内嬢は快く答えた。


「ちなみに、君が興味がある観光地ってどこ?」


「あっ! それは、152ページです!」と案内嬢が陽気に答えると、源次はガイドブックのページを開いた。


「…野生的だね…」と源次はそのページにある写真を見て眉を下げて言うと、「…危険なので立ち入れないので、余計に…」と案内嬢は大いに眉を下げて答えた。


「まあ… 立ち入れば、ほぼ食われそうだからね…」


「…はいぃー…」と案内嬢は大いに眉を下げて答えた。


その地はフローラの生息地の広大な自然公園だ。


この写真撮影も、観光客用の超望遠鏡で撮ったものを採用していると書かれている。


中には入れないが、隣接している展望台から見ることはできるので、源次は覚えておくことにした。


源次は観光案内所を出て、商店街を冷やかしてから、山城城に戻った。



「…あー…」とたまは帰ってきたばかりの源次を見上げて言った。


「…ふむ…」と源次は言って、柔らかなゴムボールを出して転がすと、たまはフローラに変身してボールを追いかけてじゃれて遊んだ。


源次が腹を抱えて笑うと、セイラは大いに眉を下げていたが、怒ることはなかった。


「なるほど… まさに動物としての遊び方だな…」と汰華琉は言って、子供たちにゴムボールを渡すと、フローラが一匹だけで大運動会を始めた。


ついにはフローラは疲れてしまったようで、動きを止めて、『ニャーン』と源次に向かって鳴いた。


源次が異空間ポケットから干し肉を出して、「与えても?」と汰華琉に聞くと、「ええ、どうぞ」と汰華琉は快く同意した。


そして子供たちが古代の水を皿に汲んできて、フローラに与えた。


フローラは源次に干し肉をもらって機嫌よく食べてから、人型になって眠った。


「動物として接することを、再確認させてもらいました」と汰華琉は言って、源次に頭を下げた。


「いえ、ふと気になったものですから」と源次は少し恐縮して答えた。


「たまが探るはずだったのに、逆に探られたようなものですね」


汰華琉の言葉に、「かなり不思議な猫ちゃんですので、興味はありました」と源次は穏やかだが、真剣な目をして答えた。


「生のある妖怪です」


汰華琉の言葉に、源次は大いに戸惑った。


源次も勇者なので、汰華琉の言った事に間違いはないという自信もあった。


よって、かなり不思議だったという意識があったのだ。


まさにたまは、汰華琉の言ったように、死後の世界の魂ではない妖怪だったと再認識した。


「しかも、今の人型も、人間ではなく動物です」


「…はい… そうとしか思えません…」と源次は答えて頭を下げた。


「特技は楽しく遊ぶことで、

 成長は人間の十分の一ほどで、

 寿命は永遠でしょう」


汰華琉の更なる言葉に、源次は驚くことなくうなづいた。


「お母さんがふたりいたとしても足りない」


源次の言葉に、汰華琉は大いに笑って賛同した。


もっとも、姉が大勢いるので、たまとしては寂しがることはまるでない。


それに輪をかけて、大勢の友人がいることも、たまとしてもうれしいことなのだ。


そのたまはパッチリと目を覚まし、そしてきょろきょろと辺りを見回してから、「…あー…」と罰が悪そうに眉を下げて言うと、誰もが大いに笑った。


そして、「寝ちゃった!」と今更ながらに陽気に言った。


そしてたまは徐に立ち上がって、また興味を持って源次の前に立って、「…あー…」と言うと、源次は大いに苦笑いを浮かべていた。


今度はたまの方から、「動物のお友達がいるんじゃないの?」と小首を傾げて聞くと、「動物の猫と子供の獣人はいるけど?」と源次が答えると、「…一緒に、ここに来たかったんじゃないのかなあー…」というたまの言葉に、「わかった」と源次は笑みを浮かべて言って、渡航者の追加一名と一匹を汰華琉に申請してから喜笑星に戻った。


源次はすぐに戻ってきたが、人間も一緒だった。


もちろん、興味をもった妻の志乃が挨拶がてらやってきたのだ。


もっとも、猫と子供の獣人は、この夫婦の子供のようなものなので、志乃としても別れづらいものがあるようだ。


虎柄の茶色の猫はすぐさまたまの配下に下り、兎の獣人はたまを大いに畏れた。


「…おー…」とたまはうなるように言って、兎の獣人の源太を見入っている。


源太は困惑の目を源次に向けるばかりだ。


「…なるほど、そういうこと…」と源次は何かに納得して、手品のようにして、手のひらにすっぽりと収まる源太の人形をたまに渡すと、「…ああ、ありがとー…」とたまは礼を言って、清々しい笑みを源次と源太に向けた。


そしてたまは、猫の忍にも笑みを向けた。


「…いつからこんなことできるようになったのよぉー…」と志乃が人形を見ながら嘆くように言うと、「勇者になった時から?」と源次は愉快そうに言った。


そして源次は志乃にも人形を渡した。


「しばらくはこれで我慢してくれ」


源次の言葉に、「…わかったわよぉー…」と志乃は眉を下げて言ってから、源太人形を抱きしめた。


動物を連れて歩くのは少々問題があるので、汰華琉は三枚のIDカードを源次に渡した。


これがふたりと一匹の証明証のようなもので、WNAが認めた渡航者扱いとなっている。


証明証発行者が美貴なので、WNAが係わる機関ではお大臣扱いとなる。


もっとも、事件に巻き込まれることがなければ、証明証の提示はほぼ必要はない。


しかも猫の忍は今はもういない。


誰もが意識していないうちに、源次の懐に隠れてしまったからだ。


まさに名は体を現すと言ったところだ。


しかし獣人である源太は珍しいので、誰もが興味を持つはずだが、その点は修行を終えていて、源太は源次によく似た人間としての姿を得ていた。


「親子二人旅にしか見えないね」と汰華琉が笑みを浮かべて言うと、「はっ ありがとうございます」と源次は笑みを浮かべて礼を言った。


「少々困った付きまといにでもあったら、

 遠慮なくWNAの施設に飛び込めば問題ないはずだから。

 だけど、たまに、それほどよくない考えを持った者もいるから、

 その点は精神修行で」


「…どこでも同じですね…」と源次は大いに眉を下げて言った。


「人が十億もいれば、

 やはり十人十色だよ…

 何らかの欲を持って接してくる者もいて当然のようなものだよ…」


汰華琉がうんざり感を持って言うと、「よく理解できました」と源次は笑みを浮かべて答えて頭を下げた。


「服装も意識しなくていいよ。

 ガイドブックの255ページを見てもらうとよくわかるから」


源次は着物を着ているが、きらびやかなものではなく、差無衣という地味な作業服のような装いだ。


源次はガイドブックを開くと、「…ポペタン国の装い…」と源次は言って苦笑いを浮かべた。


まさに源次と同じような装いの国のようだが、国の名前がかなり変わっている。


「派手なもの以外は、

 案外どの国でも採用されているから。

 このヤハンでも、その装いの人も時には見かけるし、

 装いで国籍を認識することはないから。

 眼や頭髪、皮膚の色で、認識することが多くて、

 源次さんは比較的ヤハン人として認識されると思う。

 下手なことを言うと、あとでとんでもない事態にもなりかねないからね。

 興味は持つかもしれないけど、

 あまり馴れ馴れしく言ってくる人はそれほどいないと思う。

 源次さんは多くの人を見ているはずだから、

 その辺りの判断もできると思っているので」


汰華琉の言葉に、源次は笑みを浮かべて頭を下げた。



通達事項はこれで終わり、源次は歓迎の食事会の席に着いた。


何を食べても口にあい、静磨と競うようにしてたらふく食った。


もちろん、このうまい料理がどこでも食べられるとは思っていないが、古代の水を使っている店ではそれなりだろうと静磨が言うと、源次はすぐさま納得した。


店としてもそれが売りの場合があるので、宣伝は事欠かない。


それに、保存食も持っているし、汰華琉からもひと揃えもらっている。


やはり飲料としては、古代の水は欠かせないのだ。


食事が終わると、名残惜しそうにして志乃はひとり喜笑星に戻っていった。


一方源次は、山城城に住む人間観察を続けるために、まだ旅に出ない。


やはり静磨としても、様々な話を源次としたいこともあり、自然に居座るようになっていた。


「…奥様って、怖い人なの?」とマミーは歯に衣着せぬ言いようだが、源次は愉快そうに笑った。


「何もかも自立できている女性ってところかなぁー…」


源次の言葉に、「…あー… すっごくしっかりしてるからかぁー…」とマミーは志乃を正しく理解した。


「なんだか先生みたいだったし…」


「少し前までは教職についていたからね」


「…やっぱりぃー…」とマミーは大いに眉を下げて言って、汰華琉を見た。


「…私の怖い先生…」というマミーの言葉に、源次は少し笑って賛同した。


「源次さんは子供たちと遊んでいるイメージだ」


静磨の言葉に、源次は快く同意した。


勉強を教えるよりも、遊びから多くを知ってもらいたいという教育方針を取ることはあるが、教師として働いたことはない。


「優しい兄と厳しい兄に、

 頼りなげだが厳しい妹の板ばさみで幼少期を過ごしたもんでね。

 その間を縫うように成長したようなものなんだ」


この件は静磨としても知識はあった。


長兄の幻影が父と母の代わりとして成長を遂げている。


「…うちは、母ちゃんが弟子のようになっちゃって…」と静磨が大いに眉を下げて言うと、源次は初耳だったので、大いに興味をもった。


「ん? となると父君は?」と源次はまずは父親に興味をもった。


「汰華琉先輩はここで暮らしてもいいと言ったんだけどね…

 父ちゃんの方で気が引けたようなんだ…」


もっともそれはあるだろうと源次は感じたが、子供たちのほとんどは普通に人間で、能力開花はないだろうという予測もできた。


「人間としての成長のために、

 ここに住むことはすばらしい精神修行になると思うけどなあー…」


「そうだよね?!」と静磨は勢い勇んでいってしまったので、すぐに謝った。


「もっとも、この城の家長が

 この星のトップと言ってもいいほどのお方だからね…

 能力者よりも、そっちの方で気が引けていると思う…」


「…なるほど…」と源次はさらにこの山城城について理解した。


「じゃあ、静磨は母様の血が濃く出たわけだ」


「うん、そうなるね…

 その母ちゃんは、ここに来てから人が変わったように逞しくなった。

 もしも今までの生活だったら、

 それほど長生きはできなかったかも…

 多少、病気の兆候もあったようだったから…」


「普通の人間には背負えないDNA」


「…うん、そう…」と静磨は眉を下げて答えた。


するとマリアが興味を持って、静磨の母の静子を連れてやってきた。


「…ここに住んじゃえば?」というマリアの気さくな言葉に、「しばらくはご厄介になります」と源次は背筋を伸ばして言って頭を下げた。


「あ、私たちはこの家ではおまけだから。

 それほど気にしなくていいの。

 神という幽霊のようなものだから!」


一度接したマリアとは人が変わっていたが、源次は戸惑うことなく頭を下げた。


「あ、よく考えたら、初対面じゃなかったわ!」とマリアが気さくに言うと、「ええ、何度もお会いしています」と源次は笑みを浮かべて答えた。


「…信長は放さないわよねぇー…」


「いえ、そうではなく、私が離れるつもりがないのです。

 織田信長様はわが父ですので」


「…そうよね…

 それぞれの正義があって当然だもの…」


マリアの言葉に、源次はさらにこの神に好感を持った。


「…それに、間違いを犯してきちんと反省できるんだから、

 余計に離れがたいわ…」


まさにマリアの言ったことも真理で、現在の地位にふんぞり返るだけの父親であれば、源次も、さらには為長ですらも、信長を捨てたはずだ。


「…幻影とのバランスがよすぎて借だわ…」


まさにこのマリアの言葉が一番の真理だ。


「永遠の主従関係よ」と美貴が言うと、「へー… そんなのもあるんだあー…」とマリアが感心するように言った。


「あたしにはいないけど、強制的に汰華琉に放ってやろうかしらぁー…」と美貴がうなると、汰華琉は困惑の笑みを浮かべていた。


しかし、「…永遠に僕、ねえー…」という汰華琉の言葉に、美貴は大いに顔色を変えて、「余計なことはしない!」と宣言するように言った。


源次は言いタイことはあったが、ここは黙っておくことにした。


だが、「源次さんは俺側の人間だと思う」という汰華琉の言葉に、源次は笑みを浮かべて頭を下げた。


「同じ勇者でも性格も考え方も様々だからね。

 勇者は基本、自由であることが自然だから。

 幻影さんに弊害がなきゃいいが…」


汰華琉の杞憂に、源次は大いに戸惑った。


「うふふ…

 念話でもして、伝えた方がいいかもよ?」


美貴の言葉に、源次は素早く頭を下げて、幻影に念話を送った。


『…弊害…』という幻影の戸惑いの念話に、源次は大いに心配になってきた。


「念のため、解いてもらった方がいいかもしれない」


『…いや…』というこの幻影の短い言葉にも戸惑いがあった。


「勇者は、魔王を超えることもあるはずだからだ。

 明るい道もあるんだろうけど、

 破滅の道も考えられる」


『…わかった… 解いてもらう…

 …ありがとう、源次…』


幻影は言って念話を切った。


「兄に、不安があったようです」と源次は言って、汰華琉、マリア、美貴に頭を下げた。


「俺の場合、それがあったからね」という汰華琉の言葉に、「四位一体」と源次が言った。


「まあ、特殊な例だから。

 だけど、束縛はいただけないかなあー…

 俺の魔王はとんでもない能力者なのはわかっているが、

 四位一体の破壊神と比べると、さて、どうなんだろ…」


汰華琉の言葉に、源次は目を見開いた。


「源次さんでは、厳しいかなぁー…」という雅の言葉に、源次は背筋が震えた。


「源次さんに見合う神獣がいたら?」


汰華琉の言葉に、「…そんなに、いるのかなぁー…」という雅の言葉も真理だ。


「雅しか知らない」という丈夫の言葉に、誰もが大きくうなづいた。


「マイケルも言っていたように、

 合体したらそのまんまになっちゃうことが普通だから。

 元に戻れることがかなり優秀だけど特殊、

 と言っていいんじゃないのかなぁー…

 かなり長い修行も必要だけど、

 勇者の生きがいにもつながるから、

 長い時を生きる目的や目標を持つことはできるね」


丈夫の言葉に、源次の目から鱗が落ちた気がした。


「…出会いを、大切にしよう…」


まさにここからだと源次は思い、ついつい呟いたのだが、誰もが笑い、そしてうなづいていた。



「四才児がそこまで卓越できるものなのでしょうか?」


汰華琉と雅の昔話を聞いた源次が聞いた。


「…構えていない覚悟があったと思うしかないね…

 普通、最愛の母親を亡くしたんだ、

 心細くなって子供らしく泣き喚いてもいいほどだと思う」


汰華琉の客観的な言葉に、源次は賛同してうなづいた。


「言葉にしないだけで、すっごく困ってたよ?」


美々子の少し気の抜けた言葉に、汰華琉たちは一気に眉を下げたが、これも重要な証言でもある。


「困ってただけ?」と汰華琉が聞くと、「もちろん感情は様々で、だからひと言で言うと困ってたわけ」と美々子が答えた。


「…なるほど…」と汰華琉は言って何度もうなづいた。


「だけどね、雅ちゃんの汰華琉への頼り切った目が、

 汰華琉を悲しませなかったといっていいのかも…

 汰華琉が感情をあらわにして泣けば、

 雅ちゃんも泣いていたはずだし…

 それが一番嫌だったんじゃないのかなぁー…

 それとすぐに現場に来た美貴ちゃんの存在も大きいかなあー…

 汰華琉は美貴ちゃんの僕にでもなろうとしていたようだったから」


「…それをあんたが邪魔してたんじゃない…」と美貴がクレームがあるように言うと、「…あたしにはわかんなあーい…」と、さすがに自分自身のことはよくわかっていなかったようだ。


「実の姉とは知らずに、お姉ちゃんに恋をしたんだよ」


汰華琉の言葉に、「…幸運と言うかなんと言うか…」と源次は大いに戸惑っていた。


「ここで一番の疑問があるんだ。

 これはまだ聞いていなかった」


汰華琉が美貴を見ると、「虫の知らせ?」と美貴はすぐさま答えた。


「そうそう…

 楽しいドライブだったのに、

 美貴ちゃんがUターンしろって、すっごく騒いだの…

 十分ほど走って、大きな事故があったって、

 ようやく気づいたの」


「さすが、俺の魔王様」


汰華琉がおどけるように言って美貴に頭を下げると、誰もが愉快そうに笑った。


「なのにこいつは、美々子に恋しやがってぇー…」と美貴がうなると、「恋と親愛の間だろう」と汰華琉は美貴の感情を無視して答えた。


「その時の雅は?」


「…あんたの影に隠れてたわ…」と美貴はため息をつきながら言った。


「そして、あたしを睨んでた…」と美々子が大いに眉を下げて言うと、「あはははは!」と汰華琉と雅がわざとらしく笑った。


「あ、その時はまだ雅の能力は開花してなかったわけか…」と汰華琉が言うと、「それはそれほど後のことじゃなかったはずよ…」と美々子は言って、背筋を篩わせた。


「きっとね、安定した生活が送れると思ってほっとした時だと思う。

 その一週間後くらいかなぁー…

 姉ちゃんが最初に卒倒したのって…」


「きっと、お兄ちゃんが怖かったのよ」と美々子が美貴を見て言うと、「はぁー…」と美貴は深いため息をついた。


「かの昔、美貴はお姉ちゃんの兄だったってことでよさそうだね?」


汰華琉が確信をついた話をすると、「…大正解ぃー…」と美々子は眉を下げて答えた。


「…からかってたわけじゃなかったんだ…」と美貴は眼を見開いて言ってから魔王に変身して、「…みつけた…」と言ってから大いに眉を下げた。


「出来損ない天使」


魔王の言葉に、汰華琉だけが大いに笑った。


魔王は美貴に戻って、「兄といってもお世話係」とここまで言って固まった。


汰華琉はにやりと笑って、「マリーン様の?」と聞くと、「…まさかだったあー…」と美貴は大いに嘆いた。


「しかし現在、男性でマリーン様の近くにおられるのは煌様だけだが…」


「極はまだ生まれてなかった…

 燕さんもいなかったし、

 マリーン様の前の世代?」


美貴は言って、背筋を振るわせた。


「それに、ケインに転生するかなり…

 数千年前の話だから」


美貴の言葉に、汰華琉は大いにうなづいたが、さらに疑問がわいてきた。


「その時から、魔王と融合してたわけだ。

 いや、その時に、美貴と魔王は融合した。

 当時の大神殿長の誘いかな?」


美貴は眉を下げて、「あたしもそう思ってたけどね、それよりもまだ前のようなの」と答えた。


「…そうか…」と汰華琉は言って、美貴に頭を下げた。


美貴は怪訝そうな顔をしたが、また魔王に変身して目を見開いてから美貴に戻った。


「隠し事はよくないな」


「…ふたりっきりでなら話したげるぅー…」


美貴の甘えきった言葉に、「それでいいさ」と汰華琉は陽気に言った。


「…気になるよ?」とたまが燃えるような眼をして美貴を見て言うと、「どんな感情?」と美貴は言って大いに眉を下げた。


「動物たちにはあまり隠し事はしない方がいいそうだよ」


源次の言葉に、「あ、なるほどね」と汰華琉は陽気に言った。


「隠している後ろめたさを気づかれちゃうわけね…

 それを不安に転換しちゃう…」


美貴が嘆くと、「ふーん」とたまが興味がないように言ったので、誰もが大いに笑った。


美貴は丈夫を見て、「メタリカっていう名の竜に出会ってない?」と聞くと、「出会った」と丈夫は答えてから眼を見開いた。


「神々しい名だな…

 まあ、現代的と言うか…」


汰華琉の言葉に、「そうじゃないわ… 人間的な少女でしかない竜」と美貴が言うと、「ああ、そっちのリカちゃんなわけだ!」と汰華琉は叫んで、腹を抱えて笑った。


「いつ出会ったの?」と汰華琉が丈夫に聞くと、「つい最近。僕が勇者皇と再会してから」と答えると、誰もが眼を見開いた。


「あ、それは火竜のはずで、普段は水竜として生活している人だ」


汰華琉の確信をついた言葉に、「…スイジンちゃんだったかぁー…」と美貴は大いに嘆いた。


「知っての通り、竜の多くは火竜。

 その中でも一番怖い火竜がメタリカのはずだった」


丈夫の言葉に、「そうか、封印したように出さないわけか… 竜ですら恐れるから…」と汰華琉が呟くと、「…だろうね…」と丈夫も呟き返した。


「ま、それほどじゃないと、自然界の神は勤まらないさ。

 そして改良も重ねて、宇宙のために大いに尽力している」


「出さないのなら平和でいいけどね…」と丈夫が嘆くように言うと、「ん?」と汰華琉は怪訝そうに言って、腕組みをして考え始めた。


「…あ、まさか、だが…」と汰華琉が言うと、「想像通りだと思う」と丈夫が答えた。


「だが、よくも押さえ込めたもんだ…」と汰華琉が感動して言うと、「押さえ込めたご褒美なんじゃない?」と丈夫が答えると、「…隠し事もいい加減にしろぉー…」と今度は魔王が怒り始めた。


「じゃ、ご本人を呼んで?」と汰華琉が言うと、「…仕方ない…」と魔王は渋々言って、スイジンに念話を送って、単刀直入にスイジンのもつ火竜について聞き始めた。


「ん? 隠す必要でもあるのか?

 あー… そういうことかあー…」


魔王は大いに悪そうな顔をしてうなった。


「善と悪は紙一重だったわけだ」と魔王が胸を張って言うと、『…世間ってそんなもんよぉー…』とスイジンは大いに困惑して言った。


「だがな、お前の悪竜は、それほどに力がないと判断するが?」


美貴の言葉に、「…悪竜…」と誰もが呟き始めた。


「いくつの魂を融合させたんだ?」


『完成が二組に、失敗作が二組…』


「俺は失敗じゃあねえ!」と魔王が叫んだ。


『…失敗だった、はずだったのにぃー…』とスイジンが少し悔しそうに嘆くと、「晩期大成型なだけだ」と魔王は言って鼻で笑った。


「そんなでかい術を四回も使って、

 まともでいられるわけがねえ。

 あんたの火竜は、もう存在してないかもな」


『…もう探らないし確かめない…』


「悪さしたら撃退するだけだから、何も問題はねえ。

 じゃあな」


魔王は言って念話を切ってから美貴に戻った。


「間違いなさそうよ」と美貴が汰華琉に言うと、汰華琉は笑みを浮かべてうなづいた。


「天下、取るかい?」と汰華琉が美貴に聞くと、「面倒なのはこりごり」と美貴は吐き捨てるように答えた。


汰華琉は何度もうなづきながら、「確かに大いに面倒だし、楽しくなさそうだ」と言って少し笑った。


「だけど、マリーン様が知ったら、協力を要請されると思う。

 受けてもいいものは快く従った方がいいかもな。

 その方が面倒はなさそうだし、

 いい修行にもなりそうだから」


「…そうするわ…」と美貴は嘆くように答えた。


源次は旅に出ている気にならなかった。


まさにこの山城城は、源次の住む安土城となんら変わらないどころか、さらに踏み込んだ、今までの回答編を教えられていると感じたからだ。



「魔王ほどではないが、美貴も相当に特殊だと思ってるんだ」


汰華琉のいきなりの言葉に、美貴は大いに戸惑ったが薄笑みを浮かべて、「そうね」とだけ答えた。


「魔王の力が漏れているようでそうじゃない。

 勇者のようなのにそれもない。

 美貴は想像を絶した人間でしかない。

 気功術もいつの間にか使えるようになっているから、

 余計に意味不明になった」


「うふふ… これは内緒にしたって、誰も困らないわ」


美貴の言葉に、汰華琉は大いに戸惑ったが、また腕組みをして考え始めた。


「…いや、まさかだが…」と汰華琉が目を見開いて美貴を見ると、「…隠し事の時間、短すぎるぅー…」と美貴は大いに嘆いたが、愉快そうに笑った。


「…だったら美貴は、古い神の関係者ということになるが…」


汰華琉が大いに戸惑っていると、「…関係者には違いないけどね… 番号付きはね、それに値しないの」と美貴は言ってセイラを見た。


「だけど私は、古い神の一族よ?」とセイラが笑みを浮かべて言うと、「あら、どういった違いがあるのかしら?」と美貴は困惑しているようだが、笑みを浮かべている。


「あいまいなのはね、

 セイントが彫った木像の違いによるものらしいわ。

 もちろん、想いがそれなり以上じゃないと、

 番号付きの思念…

 永遠の母としては生まれないから」


「動物か、人型か…」と汰華琉が言うと、「人間の方が下に見られていたようね、あ、あとは神」とセイラは追加して言った。


「そうだ、それはエッちゃんに聞いた」と汰華琉は言って何度もうなづいた。


「となると美貴の番号は、

 かなり後半?」


汰華琉が聞くと、「三十九番」と美貴は笑みを浮かべて答えた。


「そういう事実もあって、魔王はあたしを選んだようだし、

 あたしは心広いから受け入れたし!」


美貴は自分勝手に言って陽気に笑った。


「お姉ちゃん凄い!」とたまはほとんど訳がわからず叫んだが、美貴は上機嫌でたまを抱き上げた。


「あ、早速情報提供だけど、

 鬼と天使は関係が深いわ。

 あたしが初めてじゃなかったけど、

 天使と鬼の混血が生まれたことがあったの。

 もっとも、すっごく希少だけどね」


「…ふーん… 過去に、姉妹たちと色々と接触もあったわけだ」


汰華琉が確信してにやりと笑うと、「魔王の暇つぶしに付き合っただけよ」と美貴もにやりと笑って答えた。


「動物と鬼の混血も生まれたわ」とセイラは昔を懐かしむように言った。


「その話は、織田為長さんが詳しいぞ」


汰華琉の言葉に、「…もっと、興味をもっておけば…」とセイラは悔しがっていた。


「美貴とセイラさんが妙に仲がいいのも、

 ママさん仲間だったからのようだね」


「私なんて、飽きちゃって数億年でリタイアして転生したわ」


セイラの言葉に、美貴は同意するように何度もうなづいた。


「自分の子供をそれほど欲しがらないのは、

 今世だけってわけじゃなさそうよ」


美貴の言葉に、「一度生んだら生み続けるらしいからな… ただの苦痛でしかない…」と汰華琉は言って、大いに苦笑いを浮かべた。


「その中で百億年の天寿を全うしたのが、松崎拓生よ」


セイラが敵対するように言うと、「…やはり、その膨大な積み重ねで、それなり以上に優秀か…」と汰華琉は言って、笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「どう思う?」と汰華琉が美貴に聞くと、「義姉妹の挨拶を交わす程度ね」と美貴は比較的陽気に答えた。


「もっとも、あたしと接触があったのは、

 現在はまだ確認できてない人ばかりのよう。

 三人、いたんだけどね…」


美貴は拓生にはそれほど興味がないが、出会った三人には興味があるようだ。


「それも、これからの生きがいになるさ。

 だが、転生するとほとんどが男性なんだろ?」


汰華琉の言葉に、「女性で確認できたのは私と美貴だけ」とセイラが答えた。


「でも、特殊な子がいてね…

 木像番号三番なんだけど、まだ子供を一度も生んでない天使…」


セイラが眉を下げて言うと、「…そりゃ、別の意味で筋金入りだ…」と汰華琉も眉を下げて言った。


「…ずっと、生き続けてるんだ…」と美貴は大いに眉を下げて言った。


「…宇宙船も持ってないのに、星々を渡り歩いてたの…

 今は喜笑星にいるわ」


「ま、あまり環境を変えない方がよさそうな気がする…

 なんだかめんどくさそうだ…」


汰華琉の言葉に、セイラは同意するようにうなづいた。


そして汰華琉が思い出したように、「為長さんの能力の件だけど、鬼気質のある動物に変身できるそうだけど、それを伝授してくれた悪魔がいたそうだ」と言うと、セイラは少し考えて、「…悪魔は仮の姿…」とほぼ確信したように呟いた。


「…なるほどね…

 それも、スイジンちゃんの悪竜だったってわけだ…」


汰華琉はため息を吐くように言った。


「…悪竜は全宇宙を掌握できるほどの力を持つことができるが、

 それはスイジンちゃんに限ったことだと思う。

 悪竜になってしまうと、話なんかできないって聞いているから」


汰華琉の言葉に、セイラは深くうなづいた。


「…一部の竜は、間違った方法で悪竜になっていたんじゃないのかしら…

 …もしも悪魔が仮の姿じゃなかったら…」


セイラが呟くと、「…竜と悪魔の魂二個持ちか…」と汰華琉は言って美貴を見た。


「…ふむ…」と美貴がうなると、その腕にスイジンを抱いていた。


そして美貴は魔王に変身して、「魔女のばあさん、久しぶり」とスイジンに挨拶をすると、汰華琉は愉快そうに笑った。


「…あーあ… ついに、知られちゃったぁー…」とスイジンは言ってうなだれた。


「いろんなところに強大な痕跡を残しているからだ。

 おまえ、為長にも術を与えたって?」


「…あの狼の子しかいなかったぁー…」とスイジンが嘆くと、汰華琉もセイラも納得したようでうなづいた。


「だが、種の存続って訳じゃないんだろ?」


「…知っての通り、強い思念…」とスイジンが眉を下げて答えると、「…なるほどなぁー…」と汰華琉は言って、大筋ですべてを理解した。


「為長さんが思いを込めてその鬼に変身すれば、

 その思念を基にして、

 どこかで鬼の動物が生まれるって訳だ…

 その鬼の動物が、十六神将の中の、動物の十二神将に値するわけだ」


「…いろいろと、守る方法を考えてた…」とスイジンは眉を下げて答えた。


「為長殿にその話は?」と源次が真剣な目をしてスイジンに聞くと、「…伝えてないよ? その必要はないからぁー…」とスイジンは笑みを浮かべて答えた。


「それを理解していくことも、為長さんの修行だろうなぁー…」


汰華琉の言葉に、源次は納得してうなづいた。


「鼠の鬼っ子とね、土竜の鬼っ子はどこかで生まれたはずだから。

 為長さんがすっごく気に入ったみたいで」


「十二神将の鼠ちゃんと、土のサラマンダーの土竜君だな…」


汰華琉の言葉に、「うん、そうそう!」とスイジンは陽気に答えた。


「…動物によって、平和を維持する…

 人はその手助け…

 このケイン星も、それができないかしら…」


美貴の都合のいい話に、「デートがてら、自然保護区を回ってもいいぞ」と汰華琉は言って、興味津々のたまを見て笑みを浮かべた。


「静磨とマミーもデートがてらついてきて欲しい。

 静磨の鬼が、きっと何らかの反応を示すはずだからな」


静磨は満面の笑みを浮かべて、「はい! 喜んで!」と快く叫んで、マミーに満面の笑みを向けた。


「問題は…」と汰華琉は言って、かわいらしいメイド服姿の誉を見た。


「相手が動物ですから、誉ちゃんは確実に必要になるでしょう」


美都子の優しい言葉での進言に、誉は大いに喜んで、汰華琉たちは納得してうなづいた。


「雅は、山城城防衛隊長な」


汰華琉の無碍な言葉に、「…はぁーい…」と雅は大いに眉を下げて返事をした。


「たぶん、破壊神の出番はないだろうから。

 変身したら、悟られてみんな逃げ出しそうだからな」


「…強すぎて役に立たないのは悲しい…」と雅は大いに嘆いた。


「宇宙の妖精のようなものだ。

 能力は高いが、生物探しには少々疎い面もあるし…

 丈夫も城にいておいて欲しい」


汰華琉の言葉に、「うん、それでいいよ」と丈夫は比較的機嫌よく答えた。


「もしも必要になったら、城の住人全員できてくれたらいいし」


「はは、そうするよ」と丈夫は機嫌よく答えた。


「源次さんはどうします?

 冒険の旅のひとつにしますか?」


汰華琉の言葉に、「はい、末席で控えさせていただきます」と源次は笑みを浮かべて答えた。



こうして、汰華琉を団長として、鬼っ子動物の探索に出かけることになった。


探索の旅は、それほどお気楽なものではなく、饒舌な汰華琉が黙り込んでいることもあり、静磨の鬼の勘と誉の神の目に託すことになった。


よって鬼の背中に誉が陣取って、鬼と小声でコミュニケーションを取りながら、具に探索を開始した。


ヤハンから千キロほど東の地の自然保護区のほぼ中央で、「…いたぁー…」と誉が小声で呟いた。


「…ありゃ、熊だ…」と汰華琉も目標を感知して、大いに眉を下げて呟いた。


しばらく観察していたが、普通の動物とは違って、なんとなく人間のような行動をしているように感じる。


「…退屈、らしいですぅー…」と雅が言うと、誰もが声を殺して笑った。


「さあ、たま、行こうか」と汰華琉が機嫌よく言うと、たまは満面の笑みを浮かべてうなづいた。


たまはフローラに戻って、汰華琉の手のひらの中で大人しくしている。


汰華琉はゆっくりと飛んで、熊を驚かせることなく、その目の前にゆっくりと降りて、地に足をつけた。


成長しきっている若い熊は、一瞬目を見開いて臨戦態勢を取ろうとしたが、すぐに緊張は解けて、汰華琉の手を見入った。


熊は少し跳ねるようにして汰華琉に近づいてから見上げた。


「一旦、城に戻るか」と汰華琉は言って、熊の頭をなでるついでに、角があることを確認した。


「…よく見えたもんだ…」と汰華琉があきれ返って言うと、フローラは、『ニャーン』と賛同するように鳴いた。


熊を驚かせることなくゆっくりと宙に浮かんで、一旦美貴たちと合流してから、汰華琉が戦利品を山城城に届けると、門番役の巌剛が大いに目を見開いた。


もちろん、フローラの手前喧嘩をすることはないが、大いに気になるようだ。


「もう見つけちゃったのね」とセイラは言って、新しい仲間の熊に抱きついて、頭をなでてから、耳の脇にある二本の小さな角を確認して笑みを浮かべた。


「…誉の眼力に、さらに呆れた…」と汰華琉は言って、フローラを抱いたまま、美貴たちと再合流するために空を飛んだ。


「…振られないだろうか…」とミライが眉を下げて、飛んでいく汰華琉を見上げて呟くと、「今は我慢の時よ」と幹子がやさしく言ってミライを慰めた。



「もう一匹、この辺りにいるそうだ。

 今回はかなり小さいから、

 巣から出ていないと確認は難しいはずだ。

 たまによると、リスっぽいらしい」


汰華琉の言葉に、「…見られてましたぁー…」と誉が嘆くように言うと、「…もう二匹も…」と汰華琉は言って、誉に詳しい場所を聞いて、たまと二人して飛んだ。


「…モモンガだった…」と汰華琉は言って、右手を差し出すと、モモンガは素直に手に飛び乗った。


そして早速、フローラに挨拶をするように、頭を上下に振って、滑稽でかわいらしいしぐさを見せた。


「…ちっこい角だ…」と汰華琉は言ってから、美貴たちと合流した。


モモンガは美貴の機嫌をとるように、その肩に飛び乗った。


「天照のムササビとはちょっと違うのね。

 この子の方がかわいい顔をしてるわ」


美貴は陽気に言った。


「ほぼリスと言っていいからな。

 尻尾も体に似合わず大きくて、

 さらに愛嬌がある」


「天照が妬いちゃうかもね」と美貴は機嫌よく言って、モモンガの体を優しくなでた。


現在、陽が当たっていた自然保護区すべてを回って、成果は、ウサギ、猫、犬の合計五種の動物を確保して、汰華琉一行は山城城に戻った。


WNAには公式には報告するつもりはない。


今回発見した動物は神の僕として、ケインに献上するという建前をもって動いたこともある。


さらには、その神の動物を探そうと、無謀な者が出ないとは限らないからだ。


自然保護区は熊も生息していた通り、決して平和な場所ではない。


ここには食物連鎖の厳しい掟があり、ひとつの自然保護区は数種類の様々な猛獣も生息しているからだ。



すると眉を下げている為長が桜良とともに訪問していて、「…よく見つけたものだ…」と角のある熊を見て言った。


そして四匹の小動物が床に下りると、「…これほどにいたわけだ…」と為長は言って、小動物たちを見入った。


「まだこのケイン星の十分の一ほどしか回ってないから、

 まだまだいると思う。

 それに、俺たちのいい訓練にもなる」


「…四郎を連れてくることもなさそうだ…」と為長は笑みを浮かべて言った。


「ああ、なんだったら、

 角っ子動物たちと十六天神将を面会させてもらいたいんだが…」


汰華琉の進言に、為長は快く同意して、十六天神将たち全員を連れてきた。


「兄が、お世話になっております」と龍の神である天草四郎は汰華琉たちに丁寧に挨拶をした。


「いえいえこちらこそ…

 …いいなぁー… かわいい弟もいいなぁー…」


汰華琉が大いに羨ましがると、汰華琉の妹たちの頬が膨らんでいた。


「どうだい、感じるかい?」と為長が四郎に聞くと、「…なぜ、これほどここにいるのですかぁー…」と四郎は目を見開いて為長を見て、逞しい熊二頭を見て笑みを浮かべた。


「探知の結果、この子たち以外に十五匹います」


四郎が汰華琉に報告すると、「…その特殊能力も凄いね…」と汰華琉は大いに眉を下げて呟いた。


「一番近いのは…」と四郎は言って、庭を見ると、「…灯台下暗し…」と汰華琉は眉を下げて言って、雅と誉に捕まえてくるように言った。


ふたりは競い合うように庭に出て、「サリーちゃん!」と誉が叫んだ。


「青い鳥…

 セキセイインコです…」


汰華琉が苦笑いを浮かべて言うと、四郎は笑みを浮かべて頭を下げた。


『サリーちゃん! 鬼っ子じゃない!』と青い鳥が拒否するように叫ぶと、「ま、普通じゃない能力者には違いない…」と汰華琉は大いに眉を下げて言うと、四郎と為長は愉快そうに笑って同意した。


すると、サリーが誉たちから逃れて汰華琉の肩に止まって、『サリーちゃん! 鬼っ子じゃない!』とまた叫んだ。


「わかったわかった」と汰華琉はめんどくさそうに言うと、『わかったんならいい! ピピピチイー♪』と機嫌よく鳴いた。


「…こんなに話してたのかしら…

 自分の名前を連呼するだけだったと思うけど…」


美貴が眉を下げて言うと、「うふふ…」とマリアが意味ありげに笑って、サリーに手の甲を向けた。


サリーは機嫌よく飛び移って、『サリーちゃん! 悪魔悪魔!』と叫んだので、誰もが大いに眉を下げてから大いに笑った。


「…だけど、角があるのは気づかなかったあー…」とマリアは言って、頭の左右にあるちょっとして膨らみを見た。


『耳耳!』とサリーが叫ぶと、「それでいいさ」と汰華琉はあきれ返って言った。


「ちなみに、悪魔も角があるんだが?」


汰華琉の言葉に、『うっ!』とサリーがうなって何も言わなくなると、また誰もが大いに笑った。


『汰華琉お兄ちゃんにチューしたい!』とサリーがいきなり叫ぶと、「…おまえ…」と魔王が大いに怒ってマリアを見据えた。


「…妹のちょっとした願望じゃなーい…」とマリアがいいわけをすると、「…はなっから敵対」と魔王は言って腕組みをしてから考えて、「当初のあの行動がフェイクか?!」と叫んだ。


「…さあ… どうかなあー…」とマリアは意味ありげに言って、汰華琉に満面の笑みを向けた。


「…お兄ちゃんにチューしたいぃー…」と誉が眉を下げて言うと、「ミライ君の目の前でだったらいいぞ」という汰華琉のかなり厳しい条件の言葉に、誉は首が千切れんばかりに横に振った。


「じゃ、だめ」という汰華琉の無碍な判断に、誉は大きくうなだれた。


「するべきだと、俺は思う」


ミライの言葉に、誉は大いに戸惑って、汰華琉とミライを代わる代わる見た。


「留守番のご褒美!」と雅が叫んで、汰華琉に抱きついて右の頬にキスをすると、「お姉ちゃんだけ、ずるいずるい!」と誉は叫んで、その勢いのまま汰華琉の左の頬にキスをした。


すると誉の表情が固まり、肉体が倍ほどの大きさになった。


雅はもうすでに察していて、サクラインコに変身して翼を広げていた。


「汰華琉! 見るんじゃない!」と美貴が叫んで、変身した誉にロングガウンを着せた。


「…くっそー… 相変わらず、わかってるやつぅー… やはり、見てなかったかぁー…」と美貴がそっぽを向いている汰華琉を見て悔しそうにうなると、「そんなの当たり前だ」と言って、勇者然としている風貌の誉を見て、「覚醒、おめでとう」と笑みを浮かべて言った。


「…はい… はい…」と誉は言いながら、汰華琉と雅に頭を下げまくっている。


「最大の功労者はわかってるよな?」と汰華琉が女勇者に言うと、勇者はミライを見て、「アドバイス、ありがとうございましたぁー…」と頬を赤らめて礼を言った。


そのミライは大いに苦笑いを浮かべている。


もちろん、誉との差がさらに開いてしまったからだ。


「誉さん、おめでとう」とミライが言うと、勇者は手を前に組んで腰をくねらせながら、「…ありがと、ございますうー…」と顔を真っ赤にして礼を言った。


「俺の戦闘服と同じでいいか?」と汰華琉が服装について聞くと、「あ、下は、スカートがいいですぅー…」と誉は希望を言った。


「そうか、わかった」と汰華琉は笑みを浮かべて言って、雅に誉の勇者のコスチュームを渡した。


「…はあ… 特別製…」と雅は羨ましそうに言ってから、巨大なサクラインコに姿を変えてから、大きな翼を広げて勇者を隠した。


勇者はあっという間に着替えを終えて、ミライを見て頬を赤らめた。


身長はミライとほぼ同等で、人間の女性と比べると高身長だ。


「…あのぉー…」と勇者が懇願の目をして言うと、「…神々しい…」とミライは笑みを浮かべて言った。


「あ、いえ、うれしいんですけど… あ、ありがと…」と勇者はかなり戸惑いながら言った。


「ん? 何があるって言うんだ?

 …あ、そうか…」


汰華琉が言ってにやりと笑うと、「そうね、肝心なことを決めてもらいたいようだわ」と美貴は笑みを浮かべて言った。


「誉。

 誰にでも理解できるようにきちんと説明しろ。

 そんなに難しいことでもないだろ?」


汰華琉の言葉に、「うん、お兄ちゃん…」と勇者は言って汰華琉に笑みを浮かべてからミライを見た。


「…今の私って、生まれたばかりで、名前がないの…」


誉の言葉に、「…あっ! ああ、そういうこと… だったら…」とミライは言ってから、汰華琉と美貴を見た。


「この先は、あなたのために生きて生きたいから!」


勇者は告白するように叫んでから、緊張のあまり目を回して倒れそうになったが、ミライが優しく抱きとめた。


「まっすぐな誉らしいな」と汰華琉は笑みを浮かべて言った。


「ミルル・ヤマト」


ミライの言葉に、勇者は眼を見開いて、「ミルル・ヤマト」と言って満面の笑みを浮かべた。


「もうお嫁にしちゃうわけ?」と美貴がにやりと笑って聞くと、「…あ、いえ… そういうわけではぁー…」とミライは大いに戸惑ったが、ミルル・ヤマトという名をもらったミルルはミライを抱きしめて、満面の笑みを浮かべた。


「…かりそめの妻でもいい…

 ミライさんの私生活の役にも立つはずだから…」


ミルルの言葉に、「…あ、ああ…」とミライは呟いて、ついにこの日が来たといわんばかりに落ち込んでいるララと、まるで正反対のように祝福しているキララを見た。


「ミライ君は養子としてきてもらおう。

 この条件は飲んでもらうから」


汰華琉の誉の兄としての言葉に、「はい! それはもう!」とミライは満面の笑みを浮かべて汰華琉に言って頭を下げた。


「あ! お母さん!

 お兄ちゃんがすごい勇者の人と結婚するって!」


キララは大いに陽気になって、通信機で話し始めた。


「…相変わらず何事にも動じない素早いヤツ…」とミライは眉を下げて言ったが、「ううん、いいの… いつでも、ご挨拶に行くから…」というミルルの言葉に、「わかった」とミライは笑みを浮かべて答えた。


「…お姉ちゃんは心配なんだけど…」と美貴が眉を下げてミルルに向けて言うと、「人間の誉とはよく似てるけど別人だから」とミルルが笑みを浮かべて答えると、「…それもそうね…」と美貴は呟いてから、二人を祝福した。


「だがあまり、脅してやるなよ。

 相手は普通に人間だから。

 ま、だからこそ、威厳を持って挨拶に行く必要はあるけどな。

 ヒゴ家はたぶん問題はないだろうが、

 ミノウ家は調子に乗って色々言ってくるだろうからな。

 まずは挨拶しておかないと、あとで色々と面倒だろうから」


汰華琉の言葉に、ミルルは名残惜しそうにしてミライの腕を逃れて、背筋を伸ばし、「はい、お兄様、お任せください」と堂々と言って頭を下げた。


「ちなみに、勇者の能力の方はどんな感じ?」


汰華琉が興味を持って聞いた。


「あっ! 大丈夫です!

 遠見は今までと同様に使えます!」


ミルルの喜びの言葉に、「そうか、それは何よりだし、まだまだ誉… 勇者ミルルに頼ることにもなるだろう」と汰華琉は笑みを浮かべて言った。


「…でも…」とミルルが眉を下げて言うと、「勇者の能力で空を飛べる」という汰華琉の核心を突いた言葉に、「…はいぃー…」とミルルは誉に戻ったように、今まで通りの落ち込んだ感情で言った。


「じゃあ、ミルルと誉の両方で遠見を持ってるの?」


汰華琉の更なる興味に、ミルルは大いに慌てて誉に戻って、「…どちらも使えますぅー…」と言ってから少し喜んだ。


今の誉の姿では、自力で空を飛べないと確信していたからだ。


「気功術は?」


汰華琉の更なる興味の言葉に、誉は眼を見開いて、ふわりと宙に浮かんで、「…できて、しまいましたぁー…」とかなり残念そうに言ってうなだれた。


「雅だって自力で飛べるのに俺に頼ることもある。

 これも兄妹の親しさだからな」


汰華琉の希望がある言葉に、「そうですよね?!」と誉は叫んでから、雅に抱きついた。


「お姉ちゃんだって、頼りきって喜んでいることはいつもです!」


誉が元気よく美貴に向かって言うと、「…甘えすぎたか…」と美貴は大いに苦笑いを浮かべて呟いた。


「だけど、ずいぶんと優秀よね?」と美貴が汰華琉に向けて言うと、「覚醒と同時に、人間の誉の能力までコピーしたんだな。普通はなかなかないことだ」と汰華琉は笑みを浮かべて言った。


―― ますます、都合が悪いぃー… ―― と、ミライは大いに苦笑いを浮かべて考えていた。


「遺伝子に関しては魔王が特出している。

 はっきり言って、

 成長段階で美貴の遺伝子を持って生まれる可能性はゼロだ」


汰華琉の言葉に、美貴は薄笑みを浮かべて瞳を閉じて、誰もが美貴を見入った。


「…そうなのよねぇー…」と生んだマリアが小首を傾げて呟いた。


「これは誉と同じような特殊な事象が原因なんだ。

 魂が、DNAを選択して構築したんだよ。

 美貴のような転生方法は本当に特殊で、

 その他では願いの子が値する。

 だがこっちは少々不幸で、

 俺たちから見れば、能力者ではあってもほとんど成長しない、

 はっきり言って不良品のようなものだ。

 よって願いの子は、とんでもない精神修行を課せられることになる。

 それを理解して、満足して転生した時、

 一段強く生まれ変わるだろう」


汰華琉の言葉に、桜良だけが満面の笑みを浮かべて、大きく何度もうなづいている。


「…意思を持って、できるものじゃない…

 …まさに、魂の高尚さ…」


静磨が呟くと、「そういうことになるな」とマイケルが笑みを浮かべて言った。


「どう見てもハイレベルな人たちは、

 そうやって好条件で生まれてくるわけだ。

 あとは、現世の心が曲がらなければ、

 順当にその星の敬われる神にもなれるだろう」


ケインとマリアは顔を見合わせてから、満面の笑みを汰華琉たちに向けた。


「その実例が、俺の神のひとりでもある、

 万有源一さんだ」


ここからは桜良が大いに陽気で饒舌になって、幼児に言い聞かせるように語ったので、誰にでもよく理解できた。


「…優秀な妹が生まれたことでの大いなる精神修行…」と美貴は眉を下げて言って、今にも泣きそうな顔をした。


「そしてその妹が姉想いの優しさを持っていたことも功を奏したよな」と汰華琉は笑みを浮かべて言った。


「その妹が、ロストソウル軍の最高司令官として君臨しているらしい」


汰華琉の言葉に、誰もが大いに納得してうなづいた。


「悪魔アイリスちゃん!」と桜良が陽気に叫んだ。


「…高能力者の悪魔かぁー…」とマリアがにやりと笑って言った。


「基本術師らしいが、

 その性格は武闘派らしい。

 言葉遣いがかなり荒っぽいが、

 万有さんの前だけでは大人しいそうだ。

 元妹としても、大きく成長して転生してきた姉への敬意だろう。

 万有さんが完全復活を果たしたことで、

 また寄り沿ってるんじゃない?」


汰華琉が桜良に聞くと、「…源ちゃんの軍に入るって毎日毎日…」と桜良が眉を下げて言った。


「ま、俺も経験は積みたいね」という汰華琉の言葉に、誰もが賛同した。


「…防衛隊に入るかあー…」と静磨がうなると、ほとんどの者が賛同した。


汰華琉と美貴は愉快そうに笑って、数名ずつ経験を積むことに決まった。


このイベントはちょっとした旅のような経験となる。


「ミライ君」と汰華琉がミライを見て言うと、ミライは姿勢を正してすぐさま頭を下げた。


「万有さんの子供たちだが、

 能力者ではない子もいるんだ。

 これは、途轍もない修行になっているはずなんだ」


「誉ちゃんと一度デートしてからでもすぐに!」


ミライが必死になって叫ぶと、まずは美貴が愉快そうに笑って、その笑いが全員に伝染して、誰もが大いに笑った。


「…一緒に、行こうかなぁー…」と誉が今までと同じように頼りなげに呟いた。


「…どのパターンがいいと思う?」と考えあぐねた汰華琉が美貴に聞くと、「始めはひとりずつの方がいいと思う」という美貴の決断に、「…そうしますぅー…」と誉は眉を下げて答えた。


「俺たちの弟子も便乗させてもらおう」とマイケルが胸を張って進言すると、その弟子たちは胸を張って頭を下げた。


「そうですね、早く体験した方がいいこともあるはずですから。

 もっとも、心が折れないことを願いたいものですが、

 そういった人は、マイケルが許可しないでしょうけど」


「当然だ」とマイケルは言って、大人の弟子一同を見回した。


「過酷な経験により、

 折れた心を修復することも修行だが、

 ま、頭でわかっていれば、それでいいことも多いからな」


マイケルの言葉に、十数名の神の弟子たちが一斉に頭を下げた。


早速汰華琉が源一に念話を送ると、興味津々となっていた。


しかし汰華琉が違和感を感じ、「都合の悪いどなたかが、そばにいるのですか?」と汰華琉が聞くと、『アイリス… 大昔の妹に悟られてね…』と源一は呟くように答えた。


「いえ、それも修行でもかまいませんから」


汰華琉の言葉に、『そお? それほどに自信がある人を送り込んでくるわけだ!』と源一はいきなり機嫌がよくなっていた。


「いえ、ほとんどが純粋に人間です」


『そんなわけないよ』と源一は気さくに言って、源一自らが人選したいと言って来たので、汰華琉は快く迎え入れることにした。


そしてその源一がお子様部隊を引き連れてやってきて、大人数での挨拶が始まった。


「…おー…」と、お子様部隊がまず興味を示したのはたまだった。


「…まだここにいたんだ…」と随分とご挨拶な源一は、セイラに向けて眉を下げて言った。


「メリスンが、帰ってこなくていいって言ってくれたからね…

 私はどうやら、部隊にとっては邪魔者のようよ?」


セイラが明るく言うと、源一は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


そして源一は汰華琉を見て、「ついにランスさんが暇になったそうだ」と笑みを浮かべて言うと、「それは楽しみですね」と汰華琉も笑みを浮かべて答えた。


「…ランスも、ジョーカー役のようね…」とセイラが眉を下げて言うと、汰華琉と美貴が愉快そうに笑って賛同した。


「ま、修行をすれば成長もあるが、

 肉体的よりも精神面だろうからな。

 だが、いてくれるだけで本当に心強いから」


源一の言葉に、汰華琉もすぐさま賛同して、セイラに礼を言ったほどだ。


「ちなみに、アイリスさんは来ていないようですが?」


汰華琉の言葉に、源一が大いに眉を下げて、「…迷惑をかけそうなんだが…」と言ったが、「いえ、そんなことはありません」と汰華琉が答えると、マリアがあふれんばかりの気合を入れ、さらには美貴がでかい方の魔王に変身した。


「あ、アイリスの修行」と源一は明るく言って、アイリスを呼び寄せると、そのアイリスは、まずは巨大な魔王に顔を向けて目を見開いていた。


そして、「…地獄…」とアイリスが呟くと、汰華琉が一番に腹を抱えて笑い転げた。


「俺は閻魔じゃあねえ!」と魔王が叫んで大声で笑うと、天草四郎が本来の姿の古い神の一族の竜神に変身した。


「ほら、本物の閻魔だ」と魔王が言ってにやりと笑うと、「いやー… ここに来るだけで修行になったぁー…」と源一は満面の笑みを浮かべて上機嫌で言って、大いに戸惑っているお子様部隊に笑みを向けた。



本題の方は、日替わりの一日ひとりの受け入れとして、その中に汰華琉と美貴も組み込まれているので、ほぼ全員の高揚感が沸きあがった。


「…どーしてあたしが一番なのぉー…」と嘆いたのは美々子だ。


「本当は汰華琉とセットがよかったけどね。

 もちろん、芸術面の方で」


源一が機嫌よく言うと、お子様部隊の誰もが賛同するように、満面の笑みを浮かべた。


「だけど、それだけじゃないことはわかっている。

 汰華琉と同じDNAに大いに興味があるからだ」


そして二番手だったミライも大いに眉を下げていた。


近くで始めて接した万有源一も、とんでもない神とミライは正しく認識していた。



「…今日はここに泊まるの?!」と言い出したのはふたりいて、純粋な鬼っ子の美奈と人間の幼児にしか見えないセイランダだ。


「ふむ…」と源一が腕組みをして思案していると、「面白そうです」という汰華琉の言葉に、源一は腹を抱えて笑った。


よって、源一の鶴の一声で、今夜はこの山城城に宿泊することに決まった。


前回に来た時は、歓迎の宴会をしただけで終わっていたこともその理由のひとつだ。


「だがな、ひとつ言っておくが」と源一が雰囲気をがらりと変えて真剣な目をして言ったとたんに、お子様部隊は背筋を振るわせた。


そして悪人面をした雅が四位一体を取ると、「…えー…」とお子様部隊は巨大化した汰華琉を見上げて固まった。


「俺を悪者にすんな」と破壊神が普通に言ったが、お子様部隊は声を出さずに泣き出し始めた。


「お兄ちゃんだよ?」とたまが慰めるようにお子様部隊に言って回ったが、破壊神への恐怖の方が大きいようだ。


しかし、泣くことだけはしなくなった。


雅が破壊神から出てきて、「うふふ…」と笑うと、元に戻った汰華琉は大いに苦笑いを浮かべていた。


「…味方でよかったあー…」と源一は言ってから愉快そうに笑った。


「大先生のお姉さまですか?!」と鬼っ子の美奈が美々子に言うと、「…遺伝子上はそうだけどね…」と美々子は大いに苦笑いを浮かべて答えた。


「美々子さんを盾に取る作戦だよ」と源一があきれ返って言うと、「…軽く見られてるわけね…」と美貴は大いに眉を下げて言った。


「…うふふ…」と天草四郎についてきていた天草桔梗が意味ありげに笑って、喜怒哀楽の四位一体をとると、お子様部隊はまた固まった。


「外、行って来ていい?」と喜の面が為長に聞くと、「予定は三日後」とすぐさま釘を刺した。


「…そうだった…」と喜の面は言ってから、変身を解いた。


「…やっぱり、お姉さまも怖かったぁー…」と美奈は大いに嘆いて、逃げ込む場所は源一しかなくなっていた。


「…汰華琉の気持ちがよーくわかったわ…」と美々子は大いに苦笑いを浮かべて言った。


「…いい子にしてます!」とセイランダが汰華琉に宣言するように言うと、「…ああ、わかった…」と汰華琉は苦笑いを浮かべてセイランダに言った。


そして、「お母さんがお世話になってます!」とセイランダが叫んで頭を下げると、セイラが大いに罰が悪そうな顔をした。


「きちんと挨拶ができて偉いな」と汰華琉は言って、セイランダの頭をなでた。


「…えへへへ…」とセイランダは大いに照れて笑った。


そして、「…はあ… だからお母さん…」と汰華琉はセイランダに触れて察して、大いに納得してセイラを見た。


「…源一を破壊した子よ…」というセイラの言葉に、特に大人たちは眼を見開いた。


「あ、そんなこともあったあった」と源一は気さくに言って、セイランダの頭をなでたが、セイランダが大いに嫌がった。


「…天使を抜いた分、それほどやさしくないから…」と源一が嘆くように言うと、「いえ、高能力者相手に嫌われることが勲章です」という汰華琉の言葉に、「それは大いにある」と源一は胸を張って賛同した。


「先輩が怖いだなんて思ったこともありません!」と静磨が胸を張って言うと、「静磨が希少生物なだけだが、ありがとう」と汰華琉は大いに苦笑いを浮かべて頭を下げた。


「…確かに雅ちゃんと同じで希少生物だし、鬼としても超一級品だ…」と源一は大いに眉を下げて言った。


「あ、ちなみに角って何本?」と源一が静磨に気さくに聞くと、「え?」と静磨は少し戸惑ってから、「一本、ですがぁー…」とさらに戸惑いながら言った。


そして源一は笑みを浮かべて美奈の頭に指を挿した。


「…うう… 三本あるぅー…」と静磨は大いに嘆いた。


「そのうち生えてくるかもね…

 角一本は粗悪品な鬼らしい…

 どう贔屓目に見ても、

 美奈が静磨君を超えているとは思えないから」


「ああ! 大したことはないと思って伝えてなかったな!

 わりいわりい!」


汰華琉の明るい言葉に、誰もが大いに眉を下げていた。


「…さすが、親愛なる我が師匠…」と静磨は苦笑いを浮かべたまま礼を言った。


しかし静磨は鬼に変身して、巨大な白の勇者に変身したマミーに頭部の確認をしてもらった。


「…両端に、生えてきてるぅー…」と白の勇者が高揚感を上げながら言うと、「よっし! よっし!」と鬼は気合を入れて喜んだ。


「…もう、勝てないなぁー…」と汰華琉が寂しそうに言うと、「さあ? それはどうかしら?」と美貴が意味ありげに言って、汰華琉の腕を取った。


「弱い種族だからこその最強が、何よりも一番強いはずだから」


美貴の言葉に、「やっぱ、いらん!」と鬼が大いに騒ぎ始めると、汰華琉は愉快そうに笑った。


「心がけひとつで変わるもんさ!」という汰華琉の陽気な言葉に、「…奢らず…」と鬼は呟いて、汰華琉に頭を下げた。


「ここ数日は、色々と確認をした方がいい。

 できれば、今までと同様の動きをするように。

 それを超えた動きもできるのだろうが、

 少し慎重になった方がいい。

 そこに落とし穴があって、

 入り込むと抜け出せないこともあるはずだから」


「はい、守ります!」と鬼は答えてから静磨に戻った。


「まさに、的確な指導だよ」と源一は陽気になって、汰華琉の肩を何度も叩いた。


―― …旅に出てきてよかったぁー… ―― と源次は思い、まさに化け物級の者たちに満面の笑みを向けた。


「源次さんにも杞憂があるんじゃない?」という汰華琉のいきなりの言葉に、「我が兄、源弁慶についてです」とすぐさま答えて頭を下げた。


「一度手合わせはしたから、よくわかってるつもりだよ。

 ちなみに、静磨はどう思った?」


汰華琉の言葉に、静磨はまずは源次に頭を下げて、「考えすぎるから悟られるのです」とかなり肝心なことを告げた。


「うん、それが一番だね。

 ほかの性格は静磨とそれほど変わらないけど、

 それが大きな欠点に等しいから。

 弁慶さんこそ、旅に出るべきだと思うけど、

 それもよくないことに繋がることにもなるかなぁー…」


汰華琉が大いに戸惑いながら話すと、「時には嫌われ役にも徹しましょう」と源次が決意の意を込めて言った。


「…いや、それはどうだろうか…」と汰華琉がさらに心配そうに眉を下げると、「俺から伝えるから」と源一が言った。


「はい、ありがとうございます」と汰華琉はすぐさま源一に礼を言った。


「…親しすぎて、素直になれないから…」と源次が大いに嘆くと、「うん、そうだね」と汰華琉が即答すると、源次は笑みを浮かべて頭を下げた。


「強者が諭すことで、ある程度は素直になれるはずだ。

 ある意味敵対している俺や静磨の言葉もたぶん耳に入らないと思う。

 輪をかけて嫌われるのも問題だからね。

 ここで第一の強者に出てもらった方が、

 すんなりと方向転換できる可能性が上がると思う。

 ちなみに、万有さんの言葉が誰にでも通用するとは限らないんだ。

 大きすぎる存在として、

 夢見話のように聞こえてしまう人もいるだろう」


汰華琉の言葉に、「その人選は、まさに適材適所を考えなきゃね」と源一は言って汰華琉に賛同した。


「美奈ちゃんが流暢に話せれば、

 案外素直になったりして…」


汰華琉の言葉に、「美奈にも会わせよう」と源一は笑みを浮かべて言った。


「…その美奈ちゃんですが、兄とは真逆のように思えます…」と源次が苦笑いを浮かべて言うと、「うん、基本お調子者だから」と源一は言って大いに笑い、美奈の頭をなでた。


「…あの… 非常に言いづらいのですが…」と源次は大いに眉を下げて汰華琉に言った。


するとその感情から察したのか、雅と誉の眉が一気に下がった。


「はい、なんでしょう」と汰華琉もわかっているのだが、ここはとぼけて聞いた。


「こちらの慣わしの食事会を、

 琵琶家を招いて行っていただけないでしょうか?」


まさに何よりも一番拒んでいたことなので、「…あーあ…」と雅は口に出して嘆いた。


「実は、杞憂がひとつあるのです」と汰華琉がごく自然な笑みを浮かべて言ったのだが、源次は大いに腰が引けていた。


「為長さんと源次さんはきちんと我が家に溶け込んだのです。

 しかしほかの方は、さてどうでしょうか…

 特に喧嘩っ早い琵琶胡蝶蘭さんは少々いただけませんね」


汰華琉の言葉に、―― …心を読まれてないのに… ―― と源次は思ったが、今までの行動から察して誰もが気づくと思い直した。


「それに、確実に食事会だけでは終わらないでしょ?

 特に、琵琶胡蝶蘭さんは、会った瞬間から、

 戦えぇー… とうなってくるはずです」


汰華琉の物マネがかなりの高水準でよく似ていたようで、源次はまずは大いに笑った。


「しかも、先日幻影さんも倒した技を使うなとも言ってきそうですね。

 純粋な手合わせを願ってくるでしょう」


「…はあ… 面目次第もありません…

 もうその時点で負けてるのに…」


源次は大いに眉を下げて言った。


「そうなれば、少々まずいことが起こってしまうのです。

 ですので、できれば源次さんと為長さんに、

 俺の真髄を見ていただこうと思っているのです」


いきなりの汰華琉からの組み手の申し出に、為長は大いに腰が引けていたが、源次は真剣な目をして、「よろしく、お願いいたします」と言って、深々と頭を下げた。


「…なるほど… 自信… いや…

 覚悟をもう持っているわけだ」


汰華琉の言葉はまさに図星で、「さすが源次さん!」と陽気に叫んだのは静磨だった。


「…いいね静磨は…

 最高で最大の友を持った…」


汰華琉が大いに羨ましがると、「はい! もちろんです!」と静磨は友人を自慢するように胸を張って言った。


「それは私も同じですから」と源次は緊張を解いて穏やかに言った。


では早速ということで、山城城にいる全員でWNA訓練場に飛んだ。



「…はあ… まさかだったぁー…」と源次は大いに嘆いた。


この全宇宙に数箇所ある、『高能力者要請施設』で、一番厳しいと思われる施設がここにある。


源次たちが常に使っているノスビレ村の第一修練場は、この地の半分の高さしかない。


この厳しい環境で鍛えれば、みんなこうなるだろうと思い、源次は大いに眉を下げて猛者たちを見入った。


しかも、疲れている顔をしている者がひとりもいない。


まさに心身ともに充実していると源次は確信した。


もっとも、誰もが能力開花者で、そのDNAが反則級の化け物なのは理解を終えている。



汰華琉たちは組み手場に移動して、汰華琉が素早く中央に陣取ると、まずは源次が汰華琉に追従して素早く頭を下げた。


そして後方に重心を置くように、左前にして両手の手刀を構えた。


「喧嘩選手権では、少々気を抜きすぎていたようです」


汰華琉は言って、まるで鏡に映したように、源次とまったく同じ構えを取った。


「…むむむ…」と静磨がうなったとたん、「始め!」とここはマイケルが号令をかけた。


まず前に出たのは汰華琉だが、やけにスローモーだったことで、源次は出しかけた右の手刀を大いに気にしたが、思い切って振り切って、体ごと回転させた。


―― …おっ! さすが、やるうー… ―― と汰華琉は思い、源次を中心にして弧を描くように間合いを保った。


―― いやぁー… 助かったぁー… ―― と源次は大いに嘆いたが、真剣な目をして観戦している静磨の視線に、尻を叩かれた気分になった。


ここはお返しとばかり、源次も混乱を呼ぶ足技を使うと、汰華琉は大いに嫌がった。


まさに前後左右に縦横無尽に動くが、正しい距離感がつかめないのだ。


そして誰もが驚きの表情をしている中で、源一だけが妙に明るい表情をしていると感じ、きっと源一も同じ技を使うのだろうと汰華琉は確信した。


だが汰華琉はこの動きの弱点を見抜き、ゆっくりのはずだが素早く動いてきた源次の影を踏み、右腕を水平に振って、源次の体ごと組み手場の外に吹っ飛ばした。


源次は飛ばされながら、―― 見抜かれたあー… ―― と大いに嘆いて、転ぶことなく地面に足をつけて、「参りました!」と叫んで頭を下げた。


「ううう」と意味がわからなかった静磨がうなって、汰華琉に懇願の目を向けている。


「じゃ、次は俺の親友」と汰華琉が言うと、為長は嫌がるように首を振りながらも組み手場の中央に立った。


そして為長は、業物の槍を出して、水平に構えて腰を落とした。


汰華琉の感情は何も変わらず、両拳を中段に構えて腰を落とした。


マイケルの、「始め!」の合図と同時に動いたのは汰華琉で、見えない速さで右腕を振ると、後手になった為長が槍を横に振ろうとしたが振れない。


もちろん、汰華琉の放った風圧によるもので、為長は迷うことなく、すぐさま大きく一歩下がったが、一気に間合いを詰めてきた汰華琉の手足の上下の攻撃を苦労してなんとかかいくぐった。


―― この、風使いめえー… ―ー と、為長は大いに嘆いた。


そして汰華琉の動きが止まろうとした瞬間に、為長は槍を目の前で回し始めたと同時に、『ポポポポポポン!』と軽快な音がしたが、何も起こらない。


汰華琉は少し悔しそうな顔をして半歩下がった。


「…武器を使えばよかったかぁー…」と源次は今更ながらに大いに後悔した。


為長の防御は、まさに空気砲除けとなっていたのだ。


汰華琉は為長が武器を手に取った時から防御については悟っていたが、あまりにも見事だったので、大いに楽しくなったのか笑みを浮かべていた。


一方の為長だが、これでは防戦一方で攻めに出られない。


汰華琉は術ではなく、技として空気砲を撃ってくるのだ。


―― ならばっ! ー― と為長は一大決心をして、槍を回しながら汰華琉に詰め寄る。



汰華琉は嫌がるどころか大いに歓迎して、槍の順方向に左手を素早く振ると、「ぐあ!」と為長が叫んで槍を手放し、右腕を押さえつけて地面に膝をつけた。


「救護班!」とマイケルが叫ぶと、ここぞとばかり天使たちとラクロが駆け寄った。


あっという間に為長の右腕は完治して、「…助かったぁー… みんな、本当にありがとう…」と為長は天使たちに心からの感謝の意を述べた。


天使たちは満面の笑みを浮かべて、為長の感謝に感謝の祈りをささげた。


「荒っぽくなってしまった」と汰華琉が眉を下げて言うと、「風使いをなめるなという、いい教訓になった」と為長は笑みを浮かべて言って、汰華琉と硬い握手を交わした。


「自然の力は絶大だからね。

 幻影さんも使っているはずだけど?」


「萬幻武流でももちろんあるが、師匠専用の奥義に近い」と為長は大いに眉を下げて言った。


「あの勢いで回している重い槍を、

 順方向にさらに回されたらひとたまりもないね」


源次が言いながらやってくると、「俺は焦ってしまったようです」と為長が言って、師範代総代に頭を下げた。


「前に出た時、止めようと思ったけどね…

 まあ、天使たちの出番があっていいかなー、

 とか考えていたら、もう決着がついていた」


源次の気さくな言葉に、「…うう…」とそばにいるマイケルがうなると、「源次さんの師匠っぷりも筋金入りですから」と汰華琉は笑みを浮かべてマイケルに言った。


「…師匠として、さらに精進しよう…」とマイケルは言って、汰華琉たちに頭を下げた。


「できれば、マイケル様と汰華琉殿の戦いを見たいのですが…」


源次の希望に、マイケルが大いに嫌がってマリアを見ると、そっぽを向いていた。


マリアとしても、汰華琉とは戦いたくないようだ。


「…神との手合わせ、本当は拒否したいところですが…」


汰華琉の言葉に、「やらんとは言っとらん!」とマイケルは大いに憤慨して、組み手場の中央に立った。


「汰華琉なんぞ、小指一本で十分だ!」


マイケルが自信なのか虚勢なのかよくわからない感情で叫ぶと、汰華琉は背筋を震わせていて、「…断るべきだったかぁー…」と大いに嘆きながらも、走ってマイケルの前に立って頭を下げた。


「…やはり隠してやがったかぁー…」とマリアと魔王がマイケルに向けて同時にうなった。



ケインの、「始め!」の合図とともに、真っ先に前に出たのは汰華琉で、マイケルは腰を落として左前にして拳を握って構えたままだ。


汰華琉が目に見えない速さで手足を出すが、マイケルにまったく当たらない。


いや、誰もが当たっているように見えるのだが、拳が空を切っていることは確認できる。


マイケルは一寸の見切りを使って、すべてをかいくぐっているのだ。


そしてその合間に、汰華琉に向けて拳を出す。


汰華琉が五回手を出せば、マイケルは一度手を出す程度だ。


しかし、何が起こったのか、汰華琉が素早く三歩引いた。


「救護班!」とケインが叫ぶと、また天使たちとラクロが駆け寄って、流血している汰華琉の額の治療を施した。


「…本当に小指だけで…」と源次が大いに苦笑いを浮かべて言うと、「…まさに神業…」と為長は言って、マイケルに向けて拍手を二回打った。


汰華琉は天使たちに丁寧に礼を言ってから、「さすがです師匠。ありがとうございました」と礼を言って頭を下げた。


「お前の方が強ええじゃねえかっ!」とマリアがマイケルに指を差して叫ぶと、「お前は固すぎるから通用せん」とマイケルは言ってにやりと笑った。


「いいや、親指なら、俺にでもダメージはあるはずだぁー…」とマリアは今にもマイケルに挑みかかろうという勢いでうなった。


「マリアも師匠がただものではないことはよくわかったはずだ」


ケインの穏やかな言葉に、「…だって、お兄ちゃんを負かしたから悔しいんだもーん…」と甘えた声で言うと、誰もが後ろを向いて控え目に笑っていた。


「師匠は言っていたはずだ。

 本気を出すと、誰もいなくなる」


ケインの言葉に、誰もが思い出して、ようやくその証拠を見せてもらったことで、大いに納得した。


「さらにはだ。

 今世は本体が猫だから、

 さらに動きが早くて楽だ」


マイケルの言葉に、「さすがお師匠様です」とケインは胸を張って師匠を褒め称えた。


「…シュールの恩恵もあったかぁー…」と汰華琉は大いに嘆いた。


「まさに、神の中の神!」と源一は言って、マイケルに向かって拍手を一度打った。


マイケルは背筋が伸びていたが、笑みを浮かべてうなづいただけだ。


「さらに強くしてんじゃないわよ!」とセイラが叫ぶと、「弱い子供たちを見守ってもらわなければ」と汰華琉は言って、マイケルに手を合わせて頭を下げた。


「…あ、そお?」とマイケルは言って大いに照れていた。


よってマイケルは、願いの夢見以外では第一線に立つつもりは毛頭なかった。


まさに、かわいい子供たちを見守ることに徹すると決めた。


「…神の中の神…」と雅は言って、大いに眉を下げてうなだれた。


「雅の伸びしろはいくらでもある」というマイケルの明るい言葉に、雅はすぐさま復活して、マイケルに満面の笑みを向けた。


「…雅を、マイケルの嫁にしなければ…」と汰華琉がうなると、「そうね… それがお互い幸せかも…」と美貴は言って、汰華琉に寄り添って、「何度突かれたの?」と聞いた。


「二十五」と汰華琉が答えると、美貴は魔王に変身して、「上等だ!」と叫んでマイケルを見入った。


「やっちゃえ! やっちゃえ!」とマリアは魔王の応援に徹することにしたようだ。


「魔王ごときが、術なしで勝てると?」というマイケルの本気の言葉に、「やってみんとわからん!」と魔王は叫んで、全体重を両足に込めて構えた。


「…最大の誤算、だったかぁー…」とマイケルは大いに眉を下げて、「参った」と言って魔王に頭を下げた。


「…わかればいいんだぁー…」と魔王はうなってから機嫌よく美貴に戻った。


「…強すぎる女房も考えものだよ…」と汰華琉が大いに嘆くと、「戦わずして勝ったわ!」と美貴は機嫌よく言って、汰華琉の右腕を抱きしめた。


「…いやー… 上には上がいるもんだ…」と源一は清々しく言って、汰華琉と美貴に頭を下げた。


「あ、細田さん!」と汰華琉が叫ぶと、「やっとくよ!」と細田は機嫌よく言って、透明のコンソールを出した。


「…あ、今の組み手の結果を…」と源次が呟くと、「俺たちの力関係がかなりわかりやすいので」と汰華琉が言った。


もちろん細田は喜笑星に対して、今の組み手の情報を流したのだ。



「…むむむ… なんだこいつらはぁー…」


組み手の映像を観終えた信長は大いにうなった。


「何よりも心配なのは源次です…

 もう大和家の一員になっているようなものだと。

 それに為長殿までも…

 さらには、万有様もおられたようですし、

 長春様が黙ったっきり何も言いません…」


「…むむむ…」と信長はまたうなって長春を見た。


もちろん長春も気づいていて、信長に懇願の眼を向けた。


「…ほかに、鬼っ子動物が十四匹もいるうー…」と長春はさも幸せそうに言った。


「権利はもちろん大和家にある」と信長が威厳をもって言ったが、長春は悲しげな目を幻影に向けた。


「敵とは言わないが、我らは嫌われている」


幻影の言葉に、「お蘭ちゃんのせいじゃないっ!」と、普段は絶対に怒らない長春が怒って叫んだ。


「ま、しつこいのはお蘭の長所だ」


幻影の言い切った言葉に、蘭丸が大いに頬を膨らませると、信長は愉快そうに笑った。


「ま、第一天がかなり強いことはよくわかった。

 よってお蘭が、

 まだそれほどでもない大和汰華琉に興味を示す…

 確執することも頷ける」


「…さすがに、遺伝子の差は埋められますまい…」と幻影はほとんど絶望して言った。


「我らは次回の転生に期待、じゃな」


「御屋形様に申し上げる!」


蘭丸が叫ぶと、「言うてみよ」と信長は穏やかに言った。


「幻影と同じく、縛りを解いていただきたい!」


蘭丸は叫んで、畳に額がつくまで頭を下げた。


「ふん… もう解いておるわ」と信長は鼻で笑いながら言った。


「はっ! ありがたき幸せ!」と蘭丸は礼を言ってから頭を上げ、幻影を見た。


「お蘭の好きにしていいが、さすがに子供たちはどうすんだ?」


幻影が呆れ返って言うと、「通いだ!」と蘭丸は胸を張って叫んだ。


幻影はさらにあきれ返って頭を振った。


「お蘭はめんどくさいとして、受け入れられんと思うが?」


信長の言葉に、「…ここは、様々なことを我慢せねば…」と蘭丸はうなった。


「…たまちゃんにお願いするぅー…」と蘭丸の切り札でもある阿利渚が眉を下げて言うと、蘭丸は、「…おお、おお…」とうなって、実の我が子の阿利渚に頭を下げて号泣した。


「あっ! たまちゃん! わたしわたし!」


阿利渚はまるで若い女子学生のように、たまに気さくに念話を送った。


阿利渚から事情を聞き終えたたまは、『…お願いしてみるけど、うまくいかないかもぉー…』とたまは大いに弱気になって言った。


蘭丸と幻影の汰華琉への確執は、たまですらよく理解できている。


『だけどね、お母さんがもし変わっていたら、

 絶対応援しちゃう!』


「よかったぁー! ありがと! たまちゃん!」


阿利渚の念話のやり取りに、幻影は大いに眉を下げていた。


「…お蘭がどう変わっておればよいのじゃ?」


信長の素朴な疑問に、「…大和汰華琉様をお殿様にするぅー…」という阿利渚の返答に、誰もが目を見開いた。


しかし信長は大いに笑い、「それはその通りじゃ」と機嫌よく言った。


「だが、大人は神マリアに弟子入りらしいぞ?」


幻影の言葉に、「近くにいれば、吸収できるはず」と蘭丸は心を落ち着かせながら言った。


ここは阿利渚を落胆させないためにも、自分自身を変えようと決意したのだ。


「…母様は、本当に素敵だと思うぅー…」


阿利渚の最大の褒め言葉に、「ありがとう、阿利渚」と蘭丸は母として、恩人に対して、最大級の敬意の感情を持って礼を言った。


「まさに命を捨てねばできぬこと。

 お蘭の精進に期待しておる」


信長の重厚な言葉に、「はっ! ありがとうございます!」と蘭丸はまた額を頭につけて礼を言った。


「…じゃが、神マリアはかなり意地悪じゃぞ?」と信長が言うと、「たまちゃんに任せておけば大丈夫大丈夫!」と阿利渚が明るく叫ぶと、「…子供には弱い、か…」と信長は眉を下げて言った。


「しかし御屋形様。

 お蘭の所業は裏切りにも値します」


「どこがじゃ?」


信長の返答に、幻影は二の句を告げられなかった。


「お蘭の忠誠はわしにもある。

 そしてわしと第一天が諍いを犯さぬ限り、

 ふたりを殿としてもよい。

 それがこの琵琶家の繁栄にもつながるのならばな。

 じゃがお蘭、つまらぬ失敗はするなよ」


「はっ! 誰にでも対等に付き合いたいと心に決めております!」


お蘭の回答に満足したのか、信長は機嫌よく頷いた。


「お蘭としては、今世での一大決心じゃ。

 それも、阿利渚と大和たまがおってのことじゃ。

 この二名を落胆させぬように」


信長のまさに父の言葉に、蘭丸は涙を流して頭を下げた。


「御屋形様はもう琵琶家を変えるとおっしゃるのか?」


幻影の言葉に、「子に… 為長とお蘭に教わった気分じゃ」と信長は穏やかに答えた。


「はっ どこまでも付いて行きましょうぞ」


幻影の返答にも大いに満足した信長は何度も頷いて、「阿利渚、行って来い」という信長の言葉に、「はい! 御屋形様!」と叫んで頭を下げてから蘭丸をせかした。



「何がどうなったらこうなると思う?」と汰華琉は大いに眉を下げて為長に聞くと、「…皆目見当も…」と為長にもこう答えるしかなく、しかも、源次ですら呆けていた。


「やるねぇー… まさに子が母に向ける愛」


源一の言葉に、「…阿利渚ちゃんとたまの仕業かぁー…」と汰華琉が大いに嘆くと、源一は賛同して愉快そうに笑った。


「…随分と変わったのね?」とマリアは大いに苦笑いを浮かべて蘭丸に言った。


「どうしても、わが野望をこらえきれず。

 そして、わが子に教わりました」


蘭丸は穏やかに言って、阿利渚とたまに笑みを向けた。


「うん、いいよ。

 だけどそれほど教えることってないけど…」


マリアはこう言いながらも色々と考えている。


まさに師匠として考えてくれていると蘭丸は思い、初志貫徹を心に決めた。


「ちょっと、信長に会ってくるわ」とマリアは考えあぐねた結果、第三者に聞くことにしたのだ。


さすがの蘭丸も大いに動揺して腰を浮かしたが、マリアが穏やかなので疑うことはしなかった。


「呼びつければいいではないか」とマイケルが眉を下げて言うと、「それでもいいけど、ほかにも興味があってね」とマリアはにやりと笑って消えた。


「…真田さんですよ…」と汰華琉が眉をひそめて言うと、「…そうだった…」とマイケルは納得して言って、汰華琉に頭を下げた。


「マイケル様は人付き合いが苦手ですか?」


汰華琉の素朴な質問に、マイケルは真っ先にケインを見た。


「…好き嫌いは激しいようで…」とケインが少し愉快そうに言うと、「…と、いうことらしい…」とマイケルは自分ではよくわからなかったようで、弟子に答えさせたのだ。


「…何とかして堪えることも覚えよう…」とマイケルは瞳を閉じて言った。


「相手の本性が見えすぎて、

 ファーストコンタクトで判断してしまわれるのでしょう。

 ですが特に人間は愚かなので、

 一瞬にして想いも感情も変わってしまうこともありますから。

 もちろん、改心してしまうこともあることでしょう」


「…お、おう… よーくわかったぁー…」とマイケルは答えてうなだれた。


―― やはり、凄い神だったぁー… ―― と神の弟子たちは全員が同じ気持ちになると、早速マイケルが弟子たちを見入ってから、笑みを浮かべて頷いていた。


「…軽く見られてなくて助かったぁー…」とマイケルが大いに安堵感を流して呟くと、汰華琉と美貴だけが愉快そうに大声で笑った。



程なくしてマリアが帰ってきて、「随分と変わっちゃったけど?」というマリアの開口一番の言葉を聞いて、真っ先に汰華琉が笑みを浮かべた。


「時代を動かすのじゃ、とか何とか言ってたわ…」


マリアが似ていない信長の口真似をすると、源次が腹を抱えて笑い、為長は背を向けて肩を震わせていた。


「源次さんの期待に応えることにしました」


汰華琉の朗らかな言葉に、源次は何も言わずに笑みを浮かべて、汰華琉に頭を下げた。


「もうその一歩は為長さんが開いていたんだから。

 少々早くなっただけのことだったのに…」


「…細かい取り決めの変更が多いから…

 家老たちはさぞ大変だろう…

 ま、俺もだが…」


為長は竜神城の家老なので、それなり以上に忙しい。


天草家は四郎が継いでいるのだが、今のところは先代で父の又蔵が取り仕切っている部分もある。


家は問題ないのだが、城に問題がありそうなので、為長たちは汰華琉たちに挨拶して喜笑星に戻った。


「…この子たち、何もしなかったけどよかったのかしら?」と美貴が言って、六匹になった角っ子動物たちを見ると、「暇になったらまた来るんじゃないの? まだほかに十四匹もいることだし」と汰華琉はさも当然のように答えた。


その為長だけが戻ってきて、六匹の複写を行った。


中でもウサギと熊についてはかなりの想いがあると汰華琉は感じた。


「なんか、かっこいい変身手順だ」と汰華琉が言うと、美貴は子供っぽい汰華琉に向けて眉を下げていた。


「…書いた血文字は自分の… ん?」と汰華琉は言って今度は熊の姿の巌剛を見た。


「そういえば、手順は違ううし方法も違うけど、似たような術ね」と美貴も巌剛を見ていた。


「…何度もできるのか… 回数制限があるのか…」


汰華琉が呟くと、「回数制限があると思う」と美貴はほぼ断言した。


「巌剛」と汰華琉が呼ぶと、巌剛はすたすたと歩いてきてから人型を取った。


「その人型になった術のことだが、

 何か知ってるか?」


「もうできないってことだけは知ってる」と剛は少し悲しそうに言った。


「そうか… それは残念だったな…

 ほかには何かないのか?

 今までに使ったことがあるとか」


剛は、汰華琉の優しい言葉に感動したのか、一度熊に戻って汰華琉に甘えてから、また人型になった。


「ん? この姿では甘えないのか?」


汰華琉のもっともな言葉に、「魔王様に殴られる」と剛が答えると、「おまえ、男子だろ?」と汰華琉が言うと、なんと剛は首を横に振ったのだ。


「俺としては男子と認識したんだがぁー…」と汰華琉が大いに困惑して言うと、「あとで変わったみたい」と剛はまったく感情を変えずに言った。


「…クール女子…」という汰華琉の言葉に、美貴は腹を抱えて笑った。


そして美貴がきちんと確認してから、剛をそれ相応の服装に着替えさせた。


「…今回は熊の着ぐるみじゃないんだな…」


「それは寝巻き」と美貴は明るく言った。


「…姉ちゃん、困らないかな…」と剛が心配すると、「正直に言えば、困ることは何もないさ」と汰華琉は言ったのだが、「来るって」と通信機を切りながら美貴が言った。


「ま、ここに住んでもらってもいいのにな」


「ごく一般的な正当な理由を述べたわ」と美貴は言って、愉快そうに笑った。


そしてその約二分後に、大潮潮がやってきて、「かわいい!」と潮は剛を褒めて抱きしめた。


「…あ、名前、どうする?」と潮が聞くと、「…気に入ってるんだけど…」と剛が答えると、「…そう… だったらそれでいいわ…」と潮は笑みを浮かべて言った。


「…まあ、あまりよくないが、

 気に入ってるんだったら無理に替える必要はないか…」


「あいまいにするんだったら」と潮は言って、メモ用紙に、『剛 たける』と書いた。


「あ、字はともかく、読みは女子に近づいたな」


「…えへへ…」と潮は機嫌よく笑って、剛を抱きしめた。


「よく考えたら、俺と同じ読みだが…」と汰華琉が大いに苦笑いを浮かべると、「大成しそうだから別にいいわ」と美貴は機嫌よく言った。


「本来なら、弟にしたいところだったからな。

 まさかメスで女子だったとは…」


汰華琉は大いに眉を下げて言った。


「特に熊は、メスの方が猛々しいからね」と美貴は言って、穏やかな笑みを剛と潮に向けた。


「姉ちゃん、ここに引っ越してもいいって聞いたよ?」


剛の言葉に、「…うーん… 父ちゃんと母ちゃんが寂しがるかなぁーって思ってね…」と潮は眉を下げて答えた。


「潮は芸術家じゃないけど、

 お姉ちゃんに弟子入りでもすれば?」


汰華琉の気さくな言葉に、その美々子は潮に薄笑みを向けていて、「本当に素晴らしい漫画だったわ」と、美々子は手加減のない本心からの感想を述べた。


「…えへへへ… ありがとうございます…」と潮は大いに照れて礼を言った。


「もちろん弟子入りは許可するけど、

 あたしも潮ちゃんに弟子入りしたいの」


美々子の言葉に、「…おー…」と汰華琉が言って拍手をすると、誰もが一斉に追従した。


そして美々子は切実な不器用な天使について説明すると、「お姉さん! 任せて!」と潮は胸を叩いて叫んだ。


そして通信機を出して、潮の両親に説明すると、かなり背中を押されたようで、潮は納得して通信機を切った。


「明日、ご挨拶に行くから」と美々子が言うと、「はい! 先生、ありがとうございます!」と潮は上機嫌で叫んだ。


「…呼んだ方がいいと思うけど…」と美貴が眉を下げて言うと、「杞憂はお父様」と言う美々子の言葉に、「…はい、きっと、固まったまま何も言わないと…」と潮は眉を下げて呟いた。


「…でも、母も…

 必要以上に話します…」


「バランスがよくていいわ」と美々子は言って、控え目に笑った。


「実はあなたにもね、見えてるの」と美々子は言って雅を見ると、雅は笑みを浮かべてうなづいた。


「きっとね、巌剛ちゃんが噛んじゃったから…」と美々子が眉を下げて言うと、汰華琉が膝を打って大いに笑った。


剛は大いに戸惑って、汰華琉を見上げた。


「ま、誰でもそうなるって訳じゃないだろう。

 能力者への資質が潮にもあって、

 それを当時の熊の巌剛が見抜いたと言ったところかなあー…」


汰華琉の言葉に、特に神たちが納得したようで、笑みを浮かべてうなづいている。


「ちなみに、潮の進化の過程だが…」


汰華琉は言って、厚みのあるファイルを開いて、その情報を潮に見せた。


「…海洋生物だらけ…」と改めてみた結果に、潮は大いに嘆いた。


「海洋生物に関する能力者は、この星ではまだ発見されていない。

 その第一号が潮になりそうだ。

 だがほかの星にはいるから、会ってみることもいいことだと思う。

 明日以降、また遊びに来るかもな」


汰華琉の明るい言葉に、「…楽しみぃー…」と潮は言って、自然に右手が何かを描くように動いていた。


「筋金入りの漫画家」と汰華琉が眉を下げて言うと、美々子も潮のマネをした。


「…海洋生物が絵を描くって、一番遠いわね…」と美貴が嘆くように言うと、「その肉体自体の変化が、人間の目で見て芸術品の場合があるぞ」と汰華琉が自信を持って言うと、ある程度以上の知識人の美貴は魔王に変身することなく、「…あ、あったあった…」と言って、納得して笑みを浮かべた。


そして、「あっ!」と何かに気づいたように美貴は叫んで、汰華琉と雅を見た。


「そう、正解はクラゲだ。

 経験を積めば、潮も雅と同化できる可能性が上がるかもな。

 もっとも、変身が解けないというリスクを

 まずは何とかする必要もあるだろうが、

 そこは雅が判断できるはずだ」


「…今は無理だよ?」と雅が小首を傾げて答えたが、その感情は明るかった。


「経験を積むだけで同化できれば、かなりのもうけものだ」と汰華琉は明るく言った。


「…運命の人とだったら、

 さらにやる気が出たのにぃー…」


雅は言って、眉を下げているマイケルを見た。


「いや、それは違うぞ、雅」と汰華琉が言って目で語ると、雅は大いにやる気になっていた。


「あら? どんな会話があったのかしら?」と美貴が笑みを浮かべて言うと、「神をうならせるには、その類まれな能力を見せた方が効果的」という汰華琉の明るい言葉に、「あはは! そうそう!」と美貴は陽気に叫んでマリアを見た。


「…実際に見るまで、信じられなかったほどだわ…」とマリアは眉を下げて言った。


「…人をやる気にさせる能力も、天下一品だ…」とマイケルが笑みを浮かべて言った。


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