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この惑星の願い      世界で一番はだあれ?

この惑星の願い  ~ 人間の正しい扱いかた ~



     世界で一番はだあれ?



カーニバル開催予定日の三ヶ月前に、会場の建設は滞りなく終了した。


予定よりも早く完成したので、それぞれの施設の機材や展示品などの運び込みも始まって、会場内は人と物で一気にあふれかえった。


汰華琉たちも修行とばかり、大いに運搬作業を手伝った効果があったのか、大きなトラブルは起こらなかった。


大和天照美術館は敷地内の北西の端にあり、この美術館もカーニバル対象の建造物となっている。


子供用の遊園地は、現在ある遊園地も含み、その敷地を南側に倍増させた。


さらに待ち時間も必要だろうと思い、広大な遊園地の周りに、木製の児童公園や寛ぎ広場なども作り上げた。


もちろん、自然保護区が近いので、注意書きなどの看板なども忘れずに設置を終えている。


そして、一日の受け入れ入場者を比較的少ないと感じる五万と決めて、チケットの抽選販売も開始された。


カーニバルを開催する期間は六日間で、累計で三十万人を迎え入れることになる。


しかし、施設としてはすべてを研究所などとして残すことは決まっているので、正式な開催期間が過ぎても、すべてを公開して、行楽観光地として客を招き入れることは継続する。


やはりカーニバルの第一の目的は、『人間品評会』なので、特にこの六日間に世界中から人を集めることになるし、この戦いは六日間通しで、全世界中継を行うことに決定している。


よって宿泊施設なども近隣に準備を終えていて、最大で十万人ほどは余裕で抱え込めるし、少し範囲を広げれば、二十万人ほどであれば、それほど苦もなくカーニバル会場に足を運ぶことはできる。


一日の収容人数が少ないと、世界各地から言ってきたが、この件は予想していたことで、美紗子がすぐさま対応して、誰もが黙り込むしかなかった。


現在のケイン星に住む人民にとっては初のカーニバルなので、少人数を入場させて様子を見るのは当たり前。


よって、今回のカーニバルのすべての情報を精査してから、今後のカーニバル開催国の受け入れ人員を考察させるべきと熱弁したのだ。


もちろん、その倍の十万人を受け入れる警備体制で臨んでいることなど、すべての種明かしをしたことについては賞賛された。


そして、WNAに携わる世界中の従業員たちは、快く入場を受け入れる準備もあると公言した。


下請けを除外したエリートと呼ばれる者たちも含め、正式なWNA職員は、総計で三十万人ほど存在しているので、それを前夜祭や開催期間中の六日間のうちに分散させて訪問させる予定だ。


よって実質、一日約十万人を受け入れることになる。


このカーニバルに多くの手を入れた者たちが楽しんでこそのカーニバルだと、WNA理事長は熱弁した。


もちろん、今回のカーニバルの開催は、将来に向けての第一歩の新しい催し物でもあるし、WNAが必要経費の七割を出資しているという強みもある。


その七割の費用のすべてを、大和汰華琉のポケットマネーで賄っていることも、ここで初めて公表した。


『大和汰華琉は、このケイン星の経済面の神だ』と山城は言ってにやりと笑ってから、一段高い場所から降りた。



「…ま、仕方ないかぁー…

 喧嘩選手権、どうしよ…」


汰華琉が眉を下げて言うと、「どっちでもいいんじゃないの?」と美貴はパソコンのキーボードを叩きながら陽気に言った。


「出場者にとっては、それも燃えるんじゃないの?」という美貴の言葉に、「そんなやつほど簡単だよ」と汰華琉は笑みを浮かべて言った。


「簡単じゃないのがこの人たち」と美貴はパソコンの画面を汰華琉に向けた。


「保護施設系の関係者?

 思っていたよりも少ないね…

 …七、八、たったの九人?」


「それ以外に十八人。

 だけどこの人たちの施設は潤ったから。

 もちろん事情は報道でもあった通りで、

 あたしたちの贅沢のおこぼれ。

 調べさせたけど、きちんと潤っていたことに驚いたわ」


美貴の意外そうな言葉に、汰華琉は愉快そうに笑ってから、安堵の笑みを浮かべた。


「…直接の礼も聞く必要があるようだね…」と汰華琉が気が引けて眉を下げて言うと、「半数ほどはね」と美貴は言って、危険人物を赤色に染めた。


「…ま、色々と、プライド的な逆恨みもある、ってことだね…」と汰華琉は眉を下げて言った。


「神に強くしてもらっている、など…」


「…それは俺も言うだろうなぁー…

 ま、話がかみ合わないだろうから、

 早々に蹴散らすよ。

 ま、あとは負かした後に、

 いかさまを頼まれた!

 などと豪語してきそうだな…」


「その点は任せて欲しいわぁー…」と美貴は甘えた声で言って、「…開会式と閉会式の宝石とドレス…」と頬を朱に染めて言ったので、「…一番性質が悪いって思わない?」と汰華琉は言って少し笑った。


そして、美貴は今の汰華琉との会話をそのまま美々子に報道させた。


汰華琉への敵対心の対応の準備まで万端に整っていると公表したに等しい。


このようなことを先に伝えておくことも、余計な犯罪を防ぐためにも然るべきことなのだ。


そして汰華琉たちは宝石店などで散在して、喧嘩選手権出場者の二名の施設が潤ったことを確認した。


その反応は相対していて、子供たちの笑みを喜んだ者と、自分の手で賞金をつかんで潤すことができなかったことを悔しがった者だ。


もっとも、地区予選である程度の賞金は手にしているので、それほどの貧乏ではないはずだが、良心的な施設の場合は、賞金の受け取りを拒否していることも少なくない。


よって汰華琉としては、マッスルバトルはいろんな意味で大いに荒れるだろうと予測した。


だがそのすべてを受け止めようと、汰華琉は、『ウォ―――ッ!!!』と叫んで大いに気合を入れた。


いた場所と叫んだ方向が悪かったようで、大学の校舎の窓ガラスなどが大量に割れてしまったので、汰華琉と美貴はみんなに謝りながらも、早々に修復した。


「…怪我人がいなくて助かったぁー…」と汰華琉は嘆いて、大いに反省したが、美貴は腹を抱えて笑っていた。


この件は、大学生からあっという間に全世界に広がって、『大和汰華琉が世界中の敵対者に対してやさぐれて、学園の校舎の窓ガラスを割って回った』ということになっていたので、汰華琉は腹を抱えて笑った。


もちろん反論はあって、学校の監視カメラの映像がそうではないという証明をした。


しかし割ったのは汰華琉には違いないので、『破壊神汰華琉』という、不本意な二つ名をもらってしまうことになった。


「…破壊神?」と汰華琉は言ってから、腕組みをして考え込んでいると、雅がリスリスと翼のある小人の美呼都を抱いて合体した。


訓練のおかげで威厳を抑えることはたやすいので、修行不足の者たちの背筋を震わせる程度の畏れしか放出していない。


「破壊神、ねえぇー…」と、まさに魔王以上の存在感のある巨人はうなって、手のひらを見た。


そして手の甲を見て、「…水牛?」とつぶやくと、雅が浮き上がってきて変身が解けた。


「…なんだか、怖かった…」と雅は背筋を震わせてつぶやくと、「夢見で確認しよう」と汰華琉は笑みを浮かべて言った。


今の手の甲の文様は黒い水牛ではなく、金色の桜の花びらを組み合わせた、少し怒った人の顔のように見えるだけだ。



就寝したと同時に、桜良に夢見に誘われ、四人はひとつになった。


そして暫定破壊神は左手の甲を見入った。


「ん? これは、悪魔じゃないのかなぁー…」


破壊神は今度は右手の甲を見て、「…う… こっちはヤギ?」と眉を下げて言った。


すると破壊神は、現在の巨大な体よりもさらに巨大なヤギとなって、桜良を大いに驚かせて尻餅をつかせた。


『ギヤギヤ!』とヤギは鋭く鳴いてから黙り込んだ。


『人間の言葉は話せないようだ』と汰華琉が桜良に念話を送って言うと、「存在感は天使よ!」と桜良はしりもちをついたまま明るく言った。


『天使と悪魔を兼ねそろえて持ってるってことかぁー…』と汰華琉が言うと、雅が離脱した。


「正確にはね、悪魔と天使の使途だと思うの。

 だからね、本来ならそのボスが必要になるはずなの。

 悪魔は、マリアちゃんでいいのかなぁー…」


桜良が眉を下げて言うと、「天使はできれば、お姉ちゃんがいいね」と汰華琉は一番容易な希望を言った。


「でもね、黒の勇者と白の勇者かもしれないの…」と桜良が眉を下げて言うと、「…黒の勇者は美都子さんか… 妙な命令をしても、雅が気に入らなければ変身を解けそうだけど…」と汰華琉が言うと、その雅は大いに眉を下げているので、命令を聞いた後は、変身を解けない可能性もありそうだ。


「じゃあ、白の勇者は?」と汰華琉が聞くと、桜良は眉を下げて、「ひとりだけいたんだけどね、数年前に転生しちゃったのぉー…」と答えた。


さらに、「今は鬼っ子」と桜良が軽い口調で言うと、「…そういう転生もあるわけだ…」と汰華琉は言って何度もうなづいた。


「元からね、鬼の資質はあったの。

 女性なのにすっごく逞しい天使だったから。

 武闘派でもほとんどいない程逞しかったから」


「ん? いきなり頭に… マミー…」


汰華琉の言葉に、桜良と雅が満面の笑みを浮かべて飛び跳ねて喜んだ。


「その可能性は絶対にあるわっ!」と桜良は小躍りしながら喜んでいる。


汰華琉は今は何もない右手の甲を見て、「…しっかし、複雑な合体技だなぁー…」と、眉を下げて言った。


「…でもね、変身した雰囲気からね、きっとね、盾…」と桜良は眉を下げて言った。


「悪魔と天使を守る盾、か…」と汰華琉は笑みを浮かべて言って、何度もうなづいた。


「黒と白の勇者も、今の自然界にはいないはずの存在だから」と雅が言うと、「ああ、そうだったな」と汰華琉は機嫌よく言った。


もちろん、桜良のすべての生い立ちを知ったので、この事実に間違いはない。


「あ、まさか、しもべじゃなくて…」と汰華琉が言うと、「精神安定剤?」と桜良が小首を傾げて言うと、「黒や白の勇者が不安定な時に、背中を押す役、だな…」と汰華琉は笑みを浮かべて言った。


「じゃ、牛と羊は後回しにして、破壊神をさらに知ろうか」と汰華琉が言うと、桜良と雅が大いに眉を下げていた。



早朝訓練を終えた朝食の席で、汰華琉が美都子とマミーにひとつの可能性を語ると、二人とも目を見開いて、そして大いに高揚感を上げた。


そして静磨がガッツポーズをとって、マミー以上に喜んでいる。


「お姉ちゃん、絵はいくらでも付き合うから、

 マミーと天使ちゃんたちの天使修行を」


汰華琉の言葉に、美々子は大いに陽気になったが、「…修行を始めちゃったら、絵を描けないぃー…」と大いに嘆いた。


「気分転換の時間を作ればいいさ」と汰華琉が言うと、美々子は満面の笑みを浮かべて同意した。


「美都子さんは、今夜はエッちゃんに夢見に誘ってもらうから」


汰華琉の言葉に、美都子はメイド服のスカートの端を持ってお辞儀をした。


このメイドのしぐさは大いに必要で、真人が美都子に見ほれていて顔を赤らめている。


「…夢見でやる必要があるのか?」とマイケルが責めるように汰華琉に言うと、「…かなりの大物でして… この吹き抜けの部屋よりもでかいんです…」と答えると、マイケルですら呆れて首を横に振っていた。


「変身した雰囲気的には、肉体としては完全に動物です。

 きっと、リスリスの受け持ちの部分でしょう。

 悪魔の使途と天使の使途としては、

 たぶん、美呼都の受け持ちだと思います」


汰華琉の目の前で小さな食卓で食事をしている美呼都は、機嫌よく両腕を上げて喜んでいる。


「メインのコントロールは雅で、汰華琉は実験動物役?」とマイケルが言って少し笑うと、汰華琉は愉快そうに笑って同意した。


マイケルとしては機嫌よく夢見に出たいところだが、さすがに汰華琉の可能性を潰すわけにはいかないので、今のところは少し待つことにした。


だがふたりも抜けてしまうことになったので、静磨たちは大いに眉を下げている。


しかしこの状態が永遠に続くわけではないし、汰華琉たちの能力の高さは普通ではないので、今は我慢の時として、少しだけ気合を入れた。


「…あたしも、エッちゃんにお願いしようかしら…」と美貴がついに言い初めて、美呼都に笑みを向けた。


「たまにはマイケルの手伝いでもすれば?」と汰華琉が少し美貴を睨んで言うと、「お遊びのような戦闘には、なんの興味も沸かないの…」と美貴は眉を下げて言った。


「…だったら仕方ない…」と汰華琉が言うと、残されてしまう者たちは大いに眉を下げている。


「今夜だけは踏ん張ってくれ。

 明日の夜は、願いの夢見に出られるはずだから」


汰華琉の明るい言葉に、「…まあ、それでいい…」とマイケルはかなり機嫌よく言って、美都子にご飯のお代わりを機嫌よく頼んだ。



「…なんということだ…」と黒の勇者は黒い巨大な水牛を見上げて、機嫌よくその太い後ろ足を陽気に叩いて大声で笑った。


そしてその体を水牛と同じほどにすると、雅が分離して満面の笑みを浮かべた。


「もう、わかっちゃったんだぁー…」と桜良が大いに眉を下げて言うと、雅は黒の勇者から戻って眉を下げている美都子を見た。


「黒の勇者にとっては甘やかしなの」


雅の明るい言葉に、「…いざという時にだけ使った方がいいわけね…」という桜良の言葉に同意した。


今夜に確認することはもう終わってしまったので、一旦夢見から出て、今度は桜良の誘いで天使の夢見に出た。


汰華琉たちは大歓迎された天使たちと陽気に遊んで、天使の夢見を終えて、笑みを浮かべて現実に戻った。


「…どこの天使たちだろ…」と汰華琉がつぶやくと、「…どこの天使と浮気して来たのよぉー…」と早速美貴に苦情を言われた。


美貴はたまの願いを聞いて、仕方なくマイケルの願いの夢見に出いていた。


汰華琉が天使の夢見の話をすると、「たまたちはそっちにも興味が沸くだろうし…」と美貴は言って、三人の天使とマミー、そして美々子を見て眉を下げた。


「ああ、俺たちはお姉ちゃんたちの夢見に乗っかったわけだ」と汰華琉は今ようやく気づいた。


「…使徒は黒の勇者にとっての甘やかし…」と事情を聞いた美貴は大いに眉を下げている。


「そういう理由で、

 その時が訪れた時に変身した方がいいという結果に至ったんだ。

 それ以外の確認は全部終わった。

 特に荒れることも無謀になることもなさそうだし、

 使徒だけど、黒の勇者の付属品…

 イルビーの石と言ったところで、

 家来というわけではなさそうだ」


汰華琉は話すことはすべて話して、美貴とともに家族たちを起こして回った。



この日の学園内での昼食時、美紗子がひとりの男性を連れてやってきて、早速汰華琉に弁当をもらって大いに喜んで食べ始めた。


ひとり取り残された男性は大いに眉を下げている。


「ジェンガ・カムエルさん」と汰華琉は言って弁当を渡した。


ジェンガは大いに恐縮して弁当を受け取って、美紗子の隣に座って、弁当の蓋を開けて大いに感動してから、弁当を無心で食らった。


「…見覚えがあるわね…」と美貴が眉をひそめてつぶやくと、「一度捕まえたからな」と汰華琉が言うと、ジャンガは大いに咳き込んでから、眉を下げて美紗子を見た。


「知らないの、大和汰華琉」と美紗子が息子自慢のように言うと、「…私が捕まったのは一度切りですがぁー…」とジェンガは大いに眉を下げて呟いた。


「あなたを捕まえた黒装束が、二年前の俺です」


汰華琉の言葉に、ジェンガはすぐさま頭を下げた。


ジャンガは汰華琉がその時に、「ケイカンだ!」と叫んだことだけを覚えていたので、まさかその声の主が大和汰華琉だとは思ってもいなかったのだ。


「…ああ、あの時は、その当時に見たことがないほどの報酬だったから、

 すっごくよく覚えてるわぁー…」


美貴の言葉に、汰華琉、雅、静磨が大いに眉を下げていた。


まさにお大臣遊びの真骨頂のように、その日のうちにすべてを使い果たしたのだ。


そしてそのあとすぐに大いに後悔して、汰華琉を財布のように扱うようになっていた。


財布の紐は雅が握っていたのだが、雅は美貴にはめっぽう弱いので、当時はほぼ美貴の言いなりだった。


「散財癖は治ってないよな?」と汰華琉が言うと、「あら、耳鳴りが…」と美貴はすっとぼけた。


「…警官、と言われましたが…」とジェンガは大いに戸惑いながら聞くと、「臨時です。警察官の権限は大いに使えますから。もちろん、それなり以上の肉体と学力の訓練をして、正式に許可をもらっているものです」と汰華琉が説明すると、「はい、ありがとうございます」とジェンガは大いに丁寧に礼を言った。


「…父さんがもらってきたんだと思ったわ…」と美貴が言うと、「んなわけないだろ…」と汰華琉は答えて愉快そうに笑った。


「そんな不正が発覚したら、ただじゃ済まないだろ…」


「…はい、そうでしたあー…」と美貴は大いに眉を下げて詫びた。


「警官だと叫ばれたあとが、まさに恐怖でした…」


ジェンガは当時のことを思い出して、ひとつ身震いをした。


「術の打消しです。

 よって、術の失敗とほぼ同等の罰を食らったんです。

 術を使い始めの頃は、たまに起こっていたと思いますが、

 その程度のリバウンドではなかったと思います」


汰華琉の言葉に、ジェンガは何度もうなづいて、ようやく何があったのか理解を終えた。


「できれば、痛めつけて捕らえる方法は取りたくなかったのです。

 悪いことをすれば天罰を食らうとしておいた方が、

 改心も早いと思いましてね。

 ジェンガさんは改心されたからこそ、ここにいるはずです」


「…まさかのやつが目の前に現れたので…

 あ、もちろん、改心は終えていたと思いますが、

 さらに背中を押されたように思ったのです。

 それが三日前で、そして今朝、山城さんが面会に来られて、

 そのまま釈放になったのです」


ジェンガとしてはその辺りの事情が今ひとつ理解できていない。


「やつというのは女性で、江戸忠美ですよね?」


汰華琉の言葉に、「その名前は三日前に知りました」とジェンガは言って頭を下げると、汰華琉は笑みを浮かべてうなづいた。


「忠美とは知り合いだったようですね。

 忠美を捕まえた時、あなたと同じ顔をしていました」


汰華琉の言葉に、ジェンガは大いに苦笑いを浮かべた。


「あ、忠美を捕まえたのは俺ではありませんでした」と汰華琉は言って、幼児と少年の狭間のツヨシを見た。


「…熊だったと聞いていたのですがぁー…」とジェンガは目を見開いていいながらも、この先の展開はもう察していた。


「今はお食事中だから」とツヨシは言って、姉と思っている潮に笑みを向けた。


まさにふたりは仲のいい姉弟にしか見えない。


「ツヨシも能力者です。

 ですが、忠美を捕まえる前まではただの熊でしたが、

 その後は、なにかと俺に付きまといたいと考えていたようです。

 色々あって、人型を取れるようになって、

 今は学校で勉強してます。

 本体は熊に違いないのですが、

 穏やかな性格のツヨシはクラスの人気者でもあります」


汰華琉の解説に、ジェンガは頭を下げっぱなしになった。


すると、うまいにおいをかぎつけたのか、神たちがすっ飛んでやってきたので、汰華琉たちは気さくに挨拶を交わした。


「ほう! 君、いいな!」とマイケルは大いに有頂天になって言うと、そのターゲットのジェンガは大いに戸惑って汰華琉に懇願の眼を向けた。


「仕事は、宇宙中の困っている人を助けること。

 報酬は抱えきれないほどで、欲しいだけ差し上げましょう」


汰華琉の言葉に、ジェンガはすぐに首を横に振って、弁当を食べつくした。


「お代わり、どうです?」と汰華琉が弁当を出して聞くと、「いえ、今すぐに、体を動かしたい気分ですので」とジェンガは言って立ち上がった。


「やる気がみなぎっていて結構結構!」とマイケルは陽気に言って、ジェンガを宙に浮かばせて、修練場に向かってすっ飛んでいった。


「面接は合格だよ」と汰華琉が言うと、「絶対に間違えない面接官だわ」と美紗子は言って、汰華琉が手に持っている弁当を奪って、幸せそうな顔をして蓋を開いた。


「母の手料理を披露するべきじゃないの?」


美貴の言葉に、美紗子は大いに咳き込んでから、「…あんただってできないじゃない…」と言い返してにやりと笑った。


「ふふふ、今までのままのあたしだなんて思ってるの?」と美貴が意味ありげに言うと、美紗子は眼を見開いたが、汰華琉はこっそりと手を横に振ったので、美紗子は安堵の笑みを浮かべた。


「お皿を並べるのは誰よりも早いわ!」と美貴が大いに自慢すると、誰もが苦笑いを浮かべながら拍手をした。


「次は盛り付けだな」と汰華琉が言うと、「えー…」と美貴は言って大いに眉を下げた。


「…私も、少しはしなきゃ…」と美紗子は大いに反省していた。


「やっぱりね、みんなで作ってみんなで食べるのが一番うまいんだ」


汰華琉の明るい言葉に、誰もが満面の笑みを浮かべていた。


「…帰る家、お城の方にしようかしら…」と美紗子が嘆くと、「お父ちゃんと相談して引っ越してくれば? まあ、護衛とか色々と大変だろうけど…」と汰華琉が言うと、「その点はきちんとするわ!」と美紗子は胸を張って言って、弁当を平らげてから、お付きたちとともに走って校門を出て行った。


「…そうね… それが一番いいわ…」と美貴は笑みを浮かべて言って、汰華琉に頭を下げた。


「WNA本部の方が何かと都合がいいのはわかってるけど、

 職場と家が同じというのもね…」


汰華琉の言葉に、美貴は笑みを浮かべてうなづいてから、汰華琉に抱きついた。


「これから帰って、最低限の業務ができるように改良するわ」と美貴は陽気に言って、名残惜しそうに立ち上がって、魔王に変身して山城城に向かって飛んでいった。


「汰華琉様、ご馳走様でした」とメイド姿の美都子が丁寧に言ってから、黒の勇者に変身して空を飛んで魔王を追いかけた。


「…注目の的だよなぁー…」と汰華琉が辺りを見回しながら言うと、誰もが大いに眉を下げてうなづいた。


相変わらず昼のひと時は、汰華琉たちの周りのギャラリーが多いので、誰もが声を上げずに驚いていた。


魔王は何度も見ているが、メイドが正体不明の真っ黒な存在に変身できることを、誰もが初めて知ったという理由だ。



「ご馳走になればよかった」と教育学部の境要さかいかなめ教授がやってきて、汰華琉に気さくに声をかけた。


「まだありますよ」と汰華琉も気さくに言って弁当を出すと、「食べる!」と境教授は叫んで、弁当の蓋を開いて幸せそうな顔をしてから、「これがこの世で一番うまい弁当かっ!」と叫びながら大いに喰らい始めた。


そして、「例の件、休み明けから、ひとまず一週間だ」と境教授が機嫌よく言うと、汰華琉は笑みを浮かべて頭を下げた。


「小学校の方で、育児休暇が相次いだようでな。

 まさに都合がよかった。

 少々季節外れだが、君の新たな更なる実力を図ってみたいんだ」


「はい、ありがとうございます」と汰華琉は笑みを浮かべて礼を言った。


「小学校の職員室は、蜂の巣をつつくほどの騒ぎになったぞ」


境教授は、その対象年齢の山城城に住む子供たちを見て笑みを浮かべた。


「…教育学部を専行してないのに…」と雅が眉を下げてつぶやくと、「テキストは買い込んだからな」という汰華琉の陽気な言葉に、「…テキスト一式、抱えて帰ってきたわ…」と十ヶ月ほど前の入学式の日のことを思い出していた。


「大和はまずは、この学園の宝で。ついでにこの星の宝だ」と境教授は自慢げに言うと、汰華琉は大いに照れた。


「あとはスポーツもと思ったが、さすがに忙しかったようだし、

 その集大成がマッスルバトルだな。

 期待しているよ」


境教授は機嫌よく言って、丁寧に弁当箱を置いて、「うまかった!」と叫んで頭を下げてから、職員室に向かって勢いよく歩いていった。


「…先生、いやぁー…」とたまが泣き出しそうな顔をして嘆くと、汰華琉は大いに眉を下げた。


「幼稚園は担当じゃないぞ」と汰華琉が言うと、たまは少し考えて、「…よかったぁー…」と言って満面の笑みを浮かべた。


たまは最低でもあと一年は幼稚園に通うことになるので、まだしばらくは汰華琉が教室で教えることはないし、たまの身体と学力の成長がかなり遅いこともあって、数年は幼稚園に通い続けることにもなるはずだ。


妖怪ではあるが、生の魂を持っていることで、成長しないわけではないのだ。


しかし、幼児の平均成長率の十分の一程度しか成長をしていないことは、もう調べ上げてわかっている。


学力についてもやはり集中力の持続ができないことで、もの覚えも悪い。


だが、遊びと仕事については素晴らしいものを持っている。


よってたまはあと十年ほどは、幼稚園に通い続けることになるだろうと汰華琉は考えていた。


そしてその方が大いに都合がいい。


幼児でも、能力者に開眼する子がいるかもしれないからだ。


現在のところは該当者はいないようだし、その資質を持っている子もいないので、汰華琉はこの先に期待した。


「たまは、小学校に上がりたいか?

 あ、俺が先生じゃないとしてだ」


汰華琉の質問にたまは少し考えてから、「…むりぃー…」と眉を下げてつぶやくと、美貴が愉快そうに笑った。


「だけど、お友達はいずれは小学校に行くんだぞ?」


「…でも、お友達だからいいぃー…」と笑みを浮かべて言ったので、汰華琉は笑みを浮かべてうなづいた。


「…本人の同意を得ちゃったわ…」と幹子は大いに眉を下げて言った。


「…この件は重要だった…

 …無理をして小学校に上げる必要性はまったくないからな…」


汰華琉のつぶやきに、幹子は無言でうなづいた。


「…私が生きているうちに、小学校に上がってもらいたいわ…」と幹子が眉を下げて言った。


最低でも、たまの誇らしげな入学式だけでもという、幹子の母の気持ちが大いに現れたひと言だった。


「たまの場合は、

 世間一般については、なかなか知っているし、

 判断もできているから、

 ほとんど心配はないから。

 人間的な面は、

 たまの生きやすいように成長してもらいたいんだ」


「…そうね… 大仕事も簡単にやっちゃったし…」と幹子は高能力者たちの縛りの変更の件を示唆して言った。


「説明しなくても、本能と俺たちの雰囲気で察していたからね。

 たまはもうすでに俺たちの戦力でもあるんだ」


汰華琉の最大の褒め言葉に、幹子は大いに喜んで、たまをやさしく抱きしめた。



二人も弟子ができたマイケルはなかなか機嫌がいい。


今のところは、気功術師か更なる種族のステップアップを狙って訓練をしているが、急ぐ必要はまったくない。


ミケタもジェンガもかなり真摯な気持ちで、術を使うことなく修練場を走破する。


能力者資質としては、今のところはミケタが上を行っているが、ジェンガは二年間拘束されていたことで、うまくいけばミケタを追い抜くだろうと、マイケルは予測していた。


まさにふたりは鬩ぎあいながら成長することは確約されている。


そしてふたりは能力者でも大きな壁でもある、第六修練場にやってきて、大いに眉を下げた。


自分の身長よりも、頭二つ以上のでかい岩人形がいれば、誰だって尻込み程度はするだろう。


まずはマイケルが手本を見せて、攻撃を食らわず、逃げるための見本を見せる。


そのあとに移動スピードを上げて、岩人形のバランスを崩させるように軽い攻撃をして簡単に倒してしまった。


ふたりは大いに眉を下げていたが、相手の力を利用する、まさに効率のいい倒し方だと納得した。


しかし今のところは、マイケルのように戦闘の猛者ではないので、見るとやるとは大違いだった。


ミケタとジェンガは貴重な体験をして、学校を終えてやってきた汰華琉たちと入れ代わるように休憩に入った。


ふたりは休憩しながらも、汰華琉たちの動きを凝視するが、まさに人間を逸脱している動きだ。


特に小回りの利く静磨は、この修練場では一番の猛者だとふたりは確信した。


そして誰もが、第三修練場よりも先には行かず、第一修練場に戻ってくることを怪訝に思ってマイケルを見た。


「すべてを回るのは、最後の一回だけ」とマイケルが言うと、「…基礎鍛錬重視ですか…」とミケタは大いに嘆いた。


「人間であっても、体力はあんがい青天井でもあるんだ。

 これを毎日こなして、そして一気に休む。

 それを何週間も繰り返し行った成果が、

 能力開花や覚醒というご褒美だ。

 休養明けの初日に、さらなる開花をする者が多いようだぞ」


マイケルの希望がある言葉に、ふたりは素早く頭を下げて、休憩は終わりとして、第一修練場に走っていった。


「まだあったのに… せっかちなやつらだ」とマイケルは言いながらも、機嫌は最高によかった。



ミケタとジェンガはまるで競い合うように垂直の壁を登っていたが、女子供にまで簡単に追い抜かれていく。


そして汰華琉が二人に追いついて挨拶を交わして併走する。


「お兄ちゃん! 遅い遅い!」とたまが陽気に叫んで、まるで地面を走るように壁を登っていく。


「元気だなぁー…」と汰華琉は言ったが、追いかけることはしない。


もちろん、ミケタとジェンガは心穏やかではいられない。


ふたりは大いに焦っていて、少しでも前に出ようと手を伸ばす。


すると汰華琉を置いていくような形になって、まずはミケタが怪訝に思った。


―― なにか、意味がある! ―― とミケタは確信して、すぐにペースを落とした。


「どうか、ご指導を!」とミケタが叫ぶと、ジェンガはその声に気づいて下を見ることなく、ペースを落とした。


「肝心なことを教わらなかったのか…

 聞く耳を持たずに駆け出してきたのか…」


汰華琉の言葉に、ミケタはすぐにその意味を気づいて、「まずは昇り切って降りてから、マイケル様にお聞きしてきます!」と叫ぶと、汰華琉は笑みを浮かべてうなづいてから、猛然たるスピードで昇っていった。


「…なんとなく察しはついた…

 俺たちは焦っている…

 それに関連することのような気がした…」


ジェンガのつぶやきに、「…もちろん、肉体鍛錬も大いにあるが、精神鍛錬でもある…」とミケタがつぶやくと、「…それを確かめに行く…」とジェンガはつぶやき返して、ふたりはまた競うようにして壁を登った。



ふたりは大いに息を切らせてマイケルの元に戻ってきた。


「…汰華琉に指導されたか…」とマイケルは言ってにやりと笑った。


「体力鍛錬でもあり、精神鍛錬でもある」とジェンガが何とか普通に聞こえるほどの声で言うと、「そういうことだ。よってひとりで修練を積んでも、それほどに効果は出ん」とマイケルはまさに師匠らしく堂々と言った。


「時には競い、時には息を合わせて登ることもよい鍛錬となるだろう。

 決して焦らず平常心で冷静に。

 そして自分に厳しく。

 その按配があんがい難しいのだ。

 だが、今日はもう終わりだ」


マイケルの言葉に、ふたりは何とか姿勢を正して頭を下げて、その場に寝転んだ。


「ちなみに、強制ではないが、早朝の鍛錬もあるからな。

 日の出前に起きることを心がけよ」


マイケルの言葉に、新参者のジェンガは、「はい!」と叫んだ。


「…昨日は起きられなかった…」と呼吸を整えながらミケタがつぶやくと、「…なんとしても起きなければ…」とジェンガは大いに気合を入れたつもりだったが、さすがに息が上がってしまっていて、ほとんど声になっていなかった。


「…うう… 起き上がれないかもしれない…」とジェンガが嘆くと、「…五分待てば、何とかなる…」とミケタは答えた。


ふたりは今は、呼吸を整え、体力の回復を待つことにした。


ふたりとも素人ではないので、比較的自分自身の体については理解を終えてはいるものの、この鍛錬は大いに厳しい。


二人はまさに生きがいができたと、心の底から喜んでいた。



早朝訓練が終わり、朝食時の朗らかな席に、美紗子が朝っぱらから女性を連れてやってきた。


「…あ、今回は捕まえてない人だ…」と汰華琉がつぶやくと、美貴は大いに苦笑いを浮かべた。


もちろん強者は汰華琉だけというわけではないので、能力者でも捕まることはある。


この女性を捕まえたのは、ケイン星防衛隊の第一部隊の隊長だ。


よってこの女性は、部屋中を見回してから、少し落ち込んでいた。


「行き先はここじゃなくて、士官学校でいいんじゃないの?」という汰華琉の言葉に、美紗子は、「…面接だけでも…」と懇願の眼をして呟いた。


早速ふたりの食事を美都子、雅、誉の三人で準備した。


美紗子としては、できればここで朝食を摂りたかったので、この女性を連れてきただけだ。


よって朝早くに、刑務所に行ってきたわけだ。


刑務所は朝は早いので、叩き起こして門を開けさせたわけではない。


「大人はマイケルに任せてるから」という汰華琉の言葉に、「…そういうルールもできたのね…」と美紗子は言って、マイケルたち神に頭を下げた。


「その方が、何かと話しやすいだろうし。

 俺と話をすると、せっかくここまで来たのに、

 刑務所に逆戻りの場合もあるよ」


汰華琉の厳しい言葉に、「ああ、あるな」とマイケルは言って、女性に厳しい目を向けた。


「…ああ、まさか… 今回は不合格だなんて…」と美紗子は嘆きながらも、食事はしっかりと摂っている。


「そうじゃないんだ。

 何事にも順番ということがある。

 中には年齢的に目下には厳しい人もいるってことだよ。

 忠美がどうやって外に出せるようにしたのか、

 大いに気になるところだし。

 まあ、同姓の気さくさっていう部分もあるんだろう」


美貴は魔王に変身して、「だったら、俺でもいいわけだ」とうなって、女性を見下した。


女性はまさかの事態に大いに体を震わせたが、魔王から目を離せなくなっていた。


「…脅しでしかないじゃないか…」と汰華琉が呆れて言うと、「…さっさと捕まえたやつに逢わせろ…」と魔王はうなってから、その姿を美貴に戻した。


「今の興味は、ジャンにしかないようよ?」と美貴が言うと、「…ジャン…」と女性は呟いた。


「ここにいる俺の家族以外のケイン星生まれの人で、暫定で最強の人だ。

 そういう人こそが、このケイン星を守ってもらわないとね」


汰華琉の言葉に、「ま、汰華琉たちは星を出たりと、うろうろするからな」とマイケルは機嫌よく言って、大口を開けて飯を食らった。


美貴はパソコンを開いていて、「あら、今はフリージアよ」と言うと、女性は大いにうなだれた。


「入れ替わったばかりだから、

 ジャンさんとの再会はひと月後だね。

 その人は刑務所に戻ってもらってもいいよ。

 その方が、彼女にとっても落ち着くだろうから。

 むざむざ俺たちが刑務所に放り込まなくてもよさそうだし。

 もしもそうなれば、また数年は刑務所暮らしだろう」


ローラは何とか拳を握り締めて、この蛇の生殺しのような雰囲気を我慢した。


「復讐心なのか恋愛感情なのか、自分でもよくわからない心境」と汰華琉が言うと、ローラはうつむいたまま力が抜けた。


「うふふ… よくある話だわ」と美貴は言って、ローラの顔を覗き込んだ。


「その薬がケイン星にいないんだから、

 できれば刑務所に戻ってもらいたいね。

 審査はそれからになるだろう。

 忠美の今回の識別は、同姓からの甘さが出てしまったのかなぁー…

 ま、俺に挑戦でもしようとしたのかもなぁー…

 帰ってきたら、絶対に泣かせてやる」


汰華琉は大いにひどいことを言って、にやりと笑った。


「好意をもたれちゃうわよ?

 汰華琉と離れて、恋心でも沸いちゃったかも」


美貴が言うと、汰華琉はさらににやりと笑って、「何か知ってるよな?」と美貴に逆襲した。


「…課題を出したのよ… 次は女性でって…」と美貴が暴露すると、「…この人が一番マシだったわけね…」と汰華琉は言って、大いに眉を下げた。


「その理由」


「ここに来られる女性はひとりもいなかったはずだったから」


美貴の言葉に、美紗子もローラも大いに目を見開いた。


「…それは、忠美を褒めないといけないなぁー…」と汰華琉は笑みを浮かべて言うと、「…どっちにしても心配だわ…」と美貴は大いに眉を下げて呟いた。


忠美はかなりの感情をもって、ローラを極力正しい道に誘ったことになる。


ある程度はわかってはいたのだが、忠美には喜怒哀楽の神に匹敵するような能力があるのだろうと、汰華琉も美貴も漠然と考えた。


すると美々子から桔梗とふたりの天照大神が飛び出してきて、早速美々子を巻き込んで喜怒哀楽の神に変身したが、『…お食事中…』と喜の神の桔梗が言って変身を解いて、四人そろって食事を始めた。


ローラは大いに目を見開いていたが、いきなり号泣を始めて、「あの人が好き!」と大声で叫んだのだ。


「…平和な方でよかったぁー…」と汰華琉が安堵の感情を大いに流して言ったが、美貴は大いに眉を下げていた。


「高確率で玉砕するわよ…

 この人は犯罪者だったんだから…」


まさに現実的な美貴の言葉にも、ローラの心が乱れることはなく、「…なかなか素晴らしい捕らえ方をしたようだ…」と汰華琉が呟いた。


美貴は怪訝に思いながらも、当時の調書を調べると、ジャン・マッコイは常に笑みを浮かべてローラを攻め続け、体力切れを待つような戦いになるように運んだようだ。


この証言はローラの口からで、言葉通りは、『ニヤニヤしやがっていけすかねえヤツ』だった。


「ま、腕っ節はかなりのもんだからなぁー…」と汰華琉が言うと、「瞬殺だったじゃない」と美貴が悪態をつくように言った。


「なかなか戦ったあとだったから、調子が悪くなったんじゃないの?」と汰華琉が笑いながら言うと、「…色々と隠してるのね…」と美貴は瞳を輝かせて言った。


汰華琉とジャンは当然のように戦っていた。


もちろん、カーニバルでのマッスルバトルの予選だ。


「体力はありそうだけど、まだまだ組み手不足だよ。

 その指導はしたから、

 特にフリージアでは暇さえあれば組み手ばっかやってんじゃない?」


汰華琉の言葉に、美貴が誰かに念話を送ると、「…その通りよ…」とため息交じりに答えた。


フリージアに住む兵たちもなかなかの猛者たちがいるので、相手には事欠かない。


ひとつ杞憂があるとすれば、ロストソウル軍かフリージア軍にスカウトされて、戻ってこないことが考えられる。


「マイケル、ジャン・マッコイさんをどう思います?」と汰華琉が聞くと、「マリアが神」とマイケルは笑みを浮かべて答えた。


「ラッキー」と汰華琉はひと言で解決した。


「…スカウトされても、心は動かないわけね…

 まあ、責任感があるからこそ、

 隊長にも任命したこともあるし…」


「…お前が、ジャンの代わりに次の隊長を選定しろ…」とマイケルが苦情があるようにうなると、「それはジャンさんの仕事ですからできません」と汰華琉は明るく言うと、マイケルは気に入らないようで、汰華琉を大いに睨んでいる。


ローラは汰華琉たちの言葉のやり取りを聞いて、ジャンへの想いがさらに膨れ上がっていた。


もちろん、この化け物たちがジャンを褒めるように話をしているからだ。


「ケイン星防衛隊は、俺たちの家族になれる資質を持った人ばかりなんだ」


汰華琉がローラの想いを察して言うと、ローラは笑みを浮かべて深くうなづいた。


「ジャンさんが今回の訓練で、

 本格的な能力者にのし上がることを期待しているんだ。

 だからローラさんも、ジャンさんに負けないほどに鍛え上げないとね」


「はい! 次は勝ちます!」とローラが明るく叫んだとたんに、元から持っていた能力が復活していた。


汰華琉たちは何も言わずに、笑みを浮かべてローラを見ていた。


「マリア、悪いんだけど、ローラさんの面倒を見てやって欲しい」


汰華琉の言葉に、「…なんだとぉー…」とマイケルが大いに怒りまくって汰華琉を見た。


「当たり前じゃないですか…

 マリアを師匠につけるのは、

 ローラさんの後押しに決まっています」


汰華琉の言葉に、「…くっ… 相変わらず機転が利くやつ…」とマイケルは悔しそうにうなった。


ジャンがマリアを神と思っているのなら、その神がローラを鍛えたと知ったジャンが、平常心でいられるわけがない。


「…お兄ちゃんのお願いだから…」とマリアは笑みを浮かべて言って、ローラをなめるように見回した。


「肉体が粉になるまで鍛えてやる!」とマリアが叫んで陽気そうに笑うと、ローラは大いに眉を下げていたが、何とか頭を下げていた。


「あ、マリアとマイケルって、どっちが強いの?」


汰華琉の素朴な質問に、マリアは胸を張り、マイケルはうつむいて首を横に振った。


「さすが、全宇宙第十位だよ!」と汰華琉が明るく言うと、マリアは兄に褒められた感情を大いに出して照れまくっている。


ローラは眼を見開いて、「…全宇宙、第十位…」と呟いて、マリアを見入ったまま固まった。


「ひとつふたつはさらに上がったかもしれないけどね」と汰華琉がさらに明るく言うと、「…ライバルは静磨…」とマリアは眉を下げて言った。


その静磨は、「あはははは!」と陽気に笑って、アピールなのか、マミーに満面の笑みを向けた。


「…ああ、やっぱり素敵…」とマミーは呟いて、さらに静磨を好きになっていた。


「あ、お兄ちゃん、あの技だけどぉー…」とマリアが懇願の眼をして汰華琉にねだると、汰華琉は念話を使って、マリアだけにすべてを伝えた。


「そういうことだったんだぁ―――っ!!!」とマリアは大いに叫んで、ガッツポーズをとった。


「誰にでも有効って訳じゃないけど、

 人間から覚醒したり転生した者にも有効なはずだ。

 その期間が浅ければ浅いほど、大いに使えると思う」


「うんうん! お兄ちゃん、ありがと!」とマリアは陽気に明るく礼を言って汰華琉を抱きしめてから、「さっさと食っちまえ!」と叫んでローラを急かせた。


「…面倒にならないのかしら…」と美貴が眉を下げて、感情をころころと変えるマリアを見て言うと、「美貴と魔王の切り替えのようなものだよ」と汰華琉はさも当然のように答えた。


「…うう… あの攻撃はワシにも有効だった…」とマイケルが大いに眉を下げて言うと、汰華琉は笑みを浮かべてうなづいている。


「特に寒い日などは効果覿面です。

 何度も身動きできなくなりましたからね」


「…せんぱぁーい… 礼の件、ですよねぇ?」と静磨が眉を下げて聞くと、「うん、そうだよ」と汰華琉は明るく答えた。


「やり方を伝授してくださいよぉー…」と静磨が眉を下げて懇願すると、「人間の姿だったらいいけど、鬼はダメだぞ。相手の体がたぶん千切れるから」という汰華琉の言葉に、「…まだ食事中…」と美貴が指摘すると、汰華琉と静磨は大いに反省して、頭を下げまわった。


「静磨には教えちゃだめぇー!」とマリアが懇願の目をして汰華琉を見たが、「本人の希望だから、我慢しな」と汰華琉はやさしく言って、マリアの頭を軽く平手で叩いた。


「…ほんとに… 誰にでも優しいんだからぁー…」とマリアは眉を下げて言ったが、怒ることはなかった。


「それが俺の欠点で、

 窮地に追いやられることにも繋がるかもな」


汰華琉の言葉に、「大丈夫、あたしが蹴散らすから」と美貴、雅、マリアの三人が同時に言って、三人は顔を見合わせて、愉快そうに笑った。


すると、「うふふ…」と美呼都が機嫌よく笑って、汰華琉の首にしがみついた。


「美呼都が守ってくれるそうだ」と汰華琉は笑みを浮かべて言って、美呼都の頭を指先で優しくなでた。


「…サクラインコを、小さくしなきゃぁー…」と雅は美呼都をライバル視していて、大いに焦るように言った。


すると、雅の胸ポケットから、カインではない小人が顔を覗かせていた。


「おっ? リスリスも成長したようだ」と汰華琉が機嫌よく言うと、雅は胸ポケットから人型の小人を出そうとしたが、「…お洋服…」と雅が眉を下げて言うと、汰華琉が小さな茶色の生地を出した。


「リスの着ぐるみじゃないっ!」と雅が愉快そうに叫んで、ひとまず人型のリスリスに着せた。


「…あー… リスリスちゃん、かわいー…」とたまはリスリスの着ぐるみが大いに気に入ったようだ。


「ほら、たまの寝巻きだ」と汰華琉は言って、フローラの着ぐるみを出すと、「…服だから、かわいいわね…」と美貴は眉を下げて言った。


「…学校に着て行くぅー…」とたまが駄々をこね始めると、「…かわいいから認めたいけどね…」とセイラは眉を下げて言って、学校の校則に違反するとはっきりと伝えた。


「厳しい人が来てくれて助かった」という汰華琉の言葉に、美貴は大いに眉を下げていた。


「まあ、結局は、雅が悪い」と汰華琉が言うと、「…リスリスちゃんを連れ回した罰だわぁー…」と雅は大いに嘆いた。


人型のリスリスは笑みを浮かべて機嫌よく、どんぐりなどの種や豆類を食べたが、すぐに苦そうな顔をした。


雅はすぐに察して、小さな人間用の食事を作って戻ってきた。


小人はまずは香りを楽しんでから、ひと口口に運んで幸せそうな顔をして、猛然たる勢いで食べ始め、ついには雅の食事にも手を出し始めた。



「ただいまぁー…」と覇気なく山城の声が聞こえてリビングに入ってくると、「お帰りなさい!」と山城の百倍ほど覇気をもって、家人たちの誰もが労いの言葉とともに、城の主の帰還を歓迎した。


「今日は一段と憂鬱そうだね」という汰華琉の言葉に、山城は苦笑いを浮かべて、「…ミト・バルカンがヤハンに来るらしい…」と言ったとたんに、「出入り禁止!」と美貴が叫んだ。


これは予想していたのか、山城の心が乱れることはない。


「なんだか懐かしいね…

 美貴の件が何とか落ち着いたすぐあとだったから、

 よく覚えてるよ」


汰華琉が笑みを浮かべて言うと、「…うー…」と美貴は大いにうなっている。


「都合よく美貴が高校に入り直したすぐあとだったからな。

 …あの子は汰華琉を連れて帰ると言って、

 大いに駄々をこねてくれた…」


山城が笑みを浮かべて言うと、「微笑ましいことではございません!」とここは雅が威厳を発して、山城の眉を下げさせた。


「最愛の妹と最愛の妻にとってはありがたくないそうです」


汰華琉の言葉に、雅と美貴が骨抜きになると、山城は愉快そうに笑った。


「もちろん汰華琉を警備に入れろと言ってきたが断った。

 他国の重鎮を迎え入れた時に、それが慣例になるからな。

 それにすべては国側に託して、

 WNAは関与しないことに決まったから、

 国の重鎮たちは大いに揺れたそうだ」


山城が愉快そうに言うと、「…あー…」とたまが山城を見上げて言った。


「たま、どんな杞憂だい?」と山城は言ってたまを抱き上げてひざの上に乗せると、「…噛んじゃう?」とたまが笑みを浮かべて言ったので、山城たちは大いに眉を下げた。


「…会ったこともないのに、たまがこれほどに敵意を見せるとは…」と汰華琉が目を見開いて言うと、「悪いこと、考えてるよ?」とたまは小首を傾げて汰華琉に言った。


「…ふむ… まさか、もう来たのか…」と山城が察して言うと、美貴が確認して、「オレス国専用機がタッチダウンした」と美貴が早口で言った。


「…ま、わずか二時間弱のフライトだからね…」と汰華琉は眉を下げて言った。


美貴は魔王に変身して、「歓迎してきてやろう」と言ってにやりと笑って消えた。


「はい、解決」と汰華琉が陽気に言うと、たまは、「あはははは!」と愉快そうに笑った。



ミト・バルカンは意気揚々と王室専用機のタラップを降りようとしたが、ヤハン国政府の重鎮と警護の者たちの背後に、巨大な魔王が仁王立ちしていたことに腰を抜かしそうになって立ち止まった。


「ミト! 帰った方が身のためだ!

 さらに!

 …汰華琉と俺はもう結婚したからなぁー…」


魔王が比較的堂々と言うと、ミトはすべての希望を失くして、その場にへたり込んだ。


「お前が数少ない能力者の端くれとしても、

 魔王にはまずなれんし、その資質はねえ」


魔王の言葉に、ミトは何も言い返せずに、顔を伏せたままだ。


「汰華琉には会わせん!

 昔通りだとすると、

 お前が大いに面倒なのは知っているからな!」


「…ミキ・ヤマシロォー…」とミトがうなって顔を上げると、「今は、大和美貴だ!」と魔王は叫んで、まるで勝者のように大声で笑った。


「…それよりも、どんな悪さをしに来たんだ?」


魔王の言葉に、政府の重鎮たちが目を見開いてミトを見入った。


「…もう、我が願いは達成されたはず…」とミトが薄笑みを浮かべて言うと、十数名の縛られた者たちが、一斉にこの場に現れた。


「魔王様! 不審者を捕らえました!」と警備隊ナンバーツーの摂津幹也は最敬礼をして魔王に報告した。


「あら? まだ厳戒態勢だったの?」と魔王がやさしく聞くと、「これも訓練だと、汰華琉様のお言いつけでした」と幹也は満面の笑みを浮かべて答えた。


すると、ミトは余裕の笑みを浮かべていたが、また別の縛られた三人がこの場にいきなり現れると、すべての希望を失くした。


魔王が三人を見て眉を下げ、「…見過ごしてたようね…」とさも残念そうに言うと、「…あはははは!」と幹也は大いに眉を下げて空笑いをした。


「…たまちゃんに噛んでもらっちゃおうかしら…」と魔王はつぶやきながらもミトを見ていた。


「…なかなかやるわね…

 悪意を持たずに悪さをしようとは…」


魔王はごく自然に言ったが、心中穏やかではなかった。


ミトは何とか立ち上がってタラップを降りて、今現れた三人に近づいた。


「大和汰華琉様からの伝言です」とひとりの男が言うと、ミトは笑みを浮かべてうなづいた。


「結婚式に呼ばなくてごめんって謝っといて!」


男の言葉に、ミトはひざから崩れ落ち、その反面、魔王は愉快そうに笑った。


「…学生だから、まだ先だって思ってたのにぃー…」とミトは大いにうなった。


「ふん、汰華琉はいつでも学校なんぞは卒業できる。

 それに特に俺は急かさなかった。

 よって、あいつが俺を必要としたから婚姻したんだぁー…」


魔王の勝ち誇った言葉に、ミトはさらに肩を落とした。


事実と語った内容は少々違うが、魔王の心の内ではこの通りだったので、嘘を言ったわけではない。


「用は済んだ! 帰る!」と魔王は叫んで、この場から消えた。


国の重鎮たちがミトを筆頭にして大いに怒りをあらわにしたが、ミトたちにとっては暖簾に腕押しだった。


だが、一番困ったのは、汰華琉たちとの接触が不可能だろうという絶望的な事実だ。


ミトとしては、できれば汰華琉との婚姻を望んでいたのだが、実はそれが本題ではない。


「…なんとしてでも、接触せねば…」とミトは、大人たちのお小言など聴く耳を持たず、小声でうなった。



「このヤハンを王国にするらしいぞ」


汰華琉の言葉に、美貴は大いに呆れてソファーに腰を落とした。


「占領するわけじゃないのよね?」と美貴が呆れた顔をして聞くと、「まあ、合併?」と汰華琉は言って少し笑った。


「自然保護区を挟んではいるが、お隣さんだからな」と汰華琉は言って、美貴が出したパソコンの画面を見た。


大昔はこの自然保護区にも国があったのだが、第二のパンデミックにより、ほとんどの住人が命を落とし、生き残った者たちは別の国に逃げ込んだのだ。


よって空き地となってしまった国をそのまま動物保護区に変えてしまった。


オレス国の領土はヤハン国とほぼ同等の領土面積を持っているが、人はヤハンの半分ほどしか住んでいない。


簡単に言えば、ヤハンは都会で、オレスは田舎だ。


「だけど、王国って…

 もちろん、大和姓のことに関係があるのよね?」


美貴が聞くと、汰華琉は苦笑いを浮かべてうなづいた。


「隣国は無碍なことをやってはいないが、

 何かと不安なんじゃない?

 俺たちを抱えておけば安泰などと考えているはずだ。

 もちろん、ミトだけの考えじゃないだろう。

 本来ならば、国同士で話をすればいいのだが、

 それはする気がないらしい。

 直接俺に、この話を持ちかけたいようだ。

 もしもその事態となった時、

 すぐさま全世界完全生中継にするけどな」


「…それがよさそうね…」と美貴はため息混じりに言った。


「先手を打つわ」と美貴は言って、文量のある台本を書いて、WNA理事長に送りつけた。


「…お父ちゃんの眉を下げた顔が思い浮かんだよ…」と汰華琉が眉を下げて言うと、美貴は愉快そうに笑った。


するとすぐにWNA広報部からのニュースが始まり、『不確定事項』として、美貴が書いた台本がそのまま報道に乗った。


この事実を知ったミトたちは大いに驚き、ヤハン国の重鎮たちに詰め寄られた。


するとミトは開き直ったようで、「そなたらでは話にならん! この国の王である、大和汰華琉としか話はせん!」と言い切った。


『第三者機関であるWNAにすべての事情を説明してからなら話を聞こう』


汰華琉の映像付きの肉声に、ミトは大いに落ち込んだが、的確に先手を打ってくる汰華琉をさらに好きになっていた。


『もっとも、オレスと合併したところで、

 このヤハンにとっての利点が何もない。

 下手をすると、オレス国民にとって、

 悲しいことになるような気がするが?』


更なる汰華琉の言葉に、ミトは大いに落ち込んだ。


『誰に何を吹き込まれたのかは知らないが、

 王女ミトは、まずは身辺確認と整理をした方がいいと俺は思う』


汰華琉のこの言葉に、ミトは火が出るような眼をして、宰相であるキャメル・ラッチを見入った。


好々爺でもあるキャメルは動揺することなく、首を横に振っているだけだ。


『あ、そうだ。

 先王と后を手にかけたのはその宰相らしいぞ』


汰華琉の言葉に、今までまったく動じなかったキャメルが目を見開いて、平常心ではいられなくなっていた。


この事実が明るみになるはずはないはずだった。


「衛兵長! ラッチを拘束だ!」とミトが叫んだが、その衛兵長はにやりと笑ったが、いきなり目を見開いた。


目の前に魔王がいきなり現れれば、誰だって冷静ではいられないだろう。


「お前は目も悪いようだな」と魔王が鼻で笑って言うと、ミトは大いに悔しがった。


「汰華琉の代わりに、俺がすべてを見抜いてやろう。

 王室のカネをかなり使い込んでいるそうだぞ。

 このままだと、オレスは国の維持すらできんかもな。

 ま、おせっかいなやつがいるから、

 その事態はまず起きんがな」


魔王は汰華琉の想いを示唆して言って、反王族たちを一斉に縛り付けた。


ミトが国から連れてきた半数が拘束されてしまったことで、ミトの表情がなくなった。


「…国は、お前にやる…」とミトは小声で言った。


「それでもいいが、おまえはどうする?

 城の外に出て、働けるとでも思っているのか?」


「…唯一、学校の教師であればできる…」


「そうか、わかった…

 だがまずは、オレスを一旦きれいにしてしまうぞ」


魔王は言って、ミトたち全員を消してから、魔王も消えた。


「…魔王も、なかなかのおせっかいだ…」と汰華琉が鼻で笑って言うと、「そんなの、決まってるじゃない」と雅に言われてしまって、汰華琉は大いに眉を下げた。


もちろん、汰華琉に手を出させないために、魔王自らが働いているわけだ。



「…あー… 疲れたわぁー…」と美貴は言って、汰華琉に抱きついて大いに甘えた。


すべてのカタがついたのは数時間後で、オレス王室は貧乏にはなったが、何とか維持できることになった。


そして将来有望な若い力を魔王が選定して、宰相や大臣などに任命して帰ってきたのだ。


「まさかだが、カネはギャンブルに消えた?」と汰華琉が聞くと、「…差し押さえるもの、何もないの…」と美貴は呆れるように言って、汰華琉の言葉を肯定した。


「…となると、潤ったのは隣国のムハダとジハダ、

 といったところか…」


汰華琉の言葉に、「…はい、大正解…」と美貴は言って、冗談ぽく汰華琉にキスをした。


「…貧富の差は?」と汰華琉が真剣な目をして聞くと、「…そんなことになってたら、戻ってくるわけないじゃない…」と美貴は言ってから少し笑った。


「…そうか、さすがだ… 安心した」と汰華琉は言って、まん丸の眼をして汰華琉を見ているたまを抱き上げた。


そして、「どうした?」と汰華琉がたまに聞くと、「…出番、なかったぁー…」と答えたので、汰華琉は愉快そうに笑った。


「たまに人間を噛ませるわけにはいかないの」と美貴は言って、汰華琉からたまを奪って抱きしめた。


「あら、おねむね」と美貴はやさしく言って、うつろな眼をしているたまを見て笑みを浮かべた。


「もう、寝ちゃいなさい」と美貴が言うと、たまはそのまま眠ってしまった。


汰華琉と美貴は、大人たちに就寝の挨拶をして、大勢の子供たちを引き連れて寝所に行った。



『ポンッ』という軽い音がしたと思いきや、『ドォ―――ンッ!!!』という、耳を劈く音がして、汰華琉の獲物だった巨大ロボットは、黒い煙を吐いて停止した。


「なにをどうすればこうなるんだ?」とマイケルが機嫌よく汰華琉に聞くと、「通風孔に豆鉄砲を食らわせただけです」と汰華琉は言って、乗組員が自動で脱出した後のロボットに人がいないことを確認してから、術を使ってロボットを押しつぶして平らにした。


「…銘菓、ロボットせんべい…」とマイケルが眉を下げて言うと、汰華琉は愉快そうに笑った。


「…はあ…」と、戦場に出ている仲間たちはため息をついた。


まさに格違いとして、汰華琉に羨望の眼差しを向けた。


そして、勇者に変身してなかったことに今気づいて、目を見開いた。


人間、大和汰華琉は、神でしかないと誰もが感じていた。



睡眠時間八時間のうち、願いを受けるのは、大小あわせると、多い日で百ほどだ。


よって調子がいい場合は、数分で願いを叶えて回っている。


戦場の場合はほぼこうなるのだが、精神面での願いの方は、事情を聞く時間が必要なので、それほどスムーズではない。


よってマイケルがにやりと笑って、ひとつのパネルに飛び込んだ。


「来てやったぞ、願いを言え」とマイケルが言うと、ミト・バルカンは眼を見開いて、マイケルの仲間たちを見回した。


「…大和汰華琉と結婚…」とミトが汰華琉を見てつぶやくと、「平和ではないから却下」とマイケルはすぐさま答えた。


もちろん美貴は魔王になっていて、ミトをにらみつけている。


「…噛んじゃうぅー…」と人型のたまがうなると、ミトは背中に冷たいものが流れたようで、背筋を篩わせた。


「感じたところ、オレスはそれなり以上に平和となった。

 あんたの望みは贅沢というものだ。

 だが、あんたも能力者の端くれのようだし、

 現実世界に戻ってから、俺たち神が面倒を見てやってもいい。

 まさに若い力で国を盛り上げていくわけだから、

 俺たちにとっても働き甲斐がある。

 この程度で手を打たんか?」


マイケルの言葉に、ミトは気落ちしたままうなづくと、マイケル一行はパネルの部屋に戻されていた。


「甘やかしじゃないの?」と美貴がマイケルを睨んで言うと、「俺が気に入った」とマイケルはにやりと笑って言った。


「まさか、関係者ですか?」と汰華琉が興味を持って聞くと、「今回も、妻にしたいところだ」とマイケルは照れくさそうに言ってから、次は戦場でしかないパネルに飛び込んだ。



有言実行で、汰華琉たちが学校に行っている間に、マイケルたち神は物見遊山としてオレスに飛んで、隅々まで見回した。


特に足りないものはなく、ここにはある程度以上の平和があるので、マイケルたちは笑みを浮かべて納得していた。


「正すことは…

 しいて言えば、女王様の虚無感だけ、だな」


マイケルの言葉に、ケインもマリアも賛同した。


「まさかですが、お師匠様はこちらに残られるのでしょうか?」とケインが眉を下げて聞くと、「いや、弟子がいるからそれはできん」とマイケルはすぐさま答えた。


今回は弟子のふたりには、「ずっと走ってろ!」とマイケルは命令を与えてから、このオレスにやってきたのだ。


「まさに田舎です」と機嫌よく細田が言って、マイケルたちを少し驚かせた。


「まさか、汰華琉の指示?」とマイケルが眉を下げて聞くと、「いえいえ、私の興味からです」と細田はいつもの笑みを浮かべて答えた。


「下手な手を打つと、女王に妙な期待をさせますから、

 少々手を出しづらいですね。

 この場合は、手を出さないことが平和でしょうが…」


細田の言葉に、ケインとマリアは賛成した。


「女王様のように、詰まらなさそうですね」と細田は遠くに見える児童公園を見て言うと、「…何が気に入らない…」とマリアは呟いてから、すぐに気づいた。


「あるだけではダメだ。

 あれは整備されていないとな」


マイケルは明るく言って、細田も仲間に加えて、児童公園の遊具の修復と地面の舗装、ならびに増築工事と花壇の整備を始めた。


大きな町を中心にして飛ぶと、人が多い場所には児童公園はあるが、辺鄙な場所には自然がその代わりとなっていた。


だが、子供たちにとってはそれほど面白いものではないようで、神たちは自然の一部を児童公園にしてしまった。


いきなり振って沸いた児童公園に、この近隣の子供たちは声を掛け合ってやってきて、満面の笑みを浮かべて遊具で遊び始めた。


「…少ないな…」と上空からその様子を見ていたマイケルは眉を下げて呟いた。


「多少、この村の中で分け隔てがあるようですね」


細田は言って、遠巻きから見ている子供たちに指を差すと、マリアがすっ飛んで行った。


そしてマリアは厳しい指導をして、子供たちを合流させて遊ばせた。


始めはぎこちなかったのだが、マリアが仁王立ちして観察していて、それが大いに怖かったようで、比較的大人しく遊んでいたが、そのうち誰もが心から仲良くなっていた。


「あとの問題は大人でしょう」という細田の言葉に、「…手をつけたからには、そこまで面倒を見んとな…」とマイケルは眉を下げて言って、この近隣の実力者の家にずかずかと上がりこんだ。


村長はマイケルたちの存在を知っていたようで、頭を上げられなくなり、神たちの意思を守ると誓った。


「…あ、ついてたな…」とマイケルは言って、同じようなことを五回ほど繰り返して、ヤハンの修練場に戻った。


そして神たちが一番高い場所で遅い昼食を食べていると、修行者たちが続々とやってきて、神たちと朗らかに挨拶をする。


「…まさか、昨晩の続きに行っておられたのですか?」と静磨が眉を下げてケインに聞くと、「比較的楽に平和になった」とケインが機嫌よく言ったので、静磨は満面の笑みを浮かべて、「それはよろしゅうございました!」と静磨は心の底から喜んで叫んだ。


「君たちからの労いも、我らを穏やかにするのだ」


ケインの更なる言葉に、静磨は満面の笑みを浮かべて頭を下げると、たまがやってきて、代わる代わる神たちの膝の上に座ってご満悦の表情になっていた。


「…噛む意識は去ったようで助かったぁー…」とマイケルが眉を下げてつぶやくと、細田が少し笑って何度もうなづいた。


するとみんなから遅れて一時間後に、汰華琉が空を飛んでやってきて、オレス国での平和なニュースを見せたが、大いに眉を下げていた。


「見本を見せただけ」とマイケルは言ってそっぽを向いた。


「わかりました。

 そのように答えておきましょう」


汰華琉は前向きに言ったが、まだ眉を下げたままだ。


『神様の公園』と名前をつけられてしまうと、ほかの国も欲しがって当たり前だからだ。


よって、WNA理事長は、『神の気まぐれ』のひと言で事態を収拾した。


もちろん、神の怒りに触れることが怖いので、誰も何も言えずに、それなりにカネを持っている国は、情報を収集してから、子供たちのために奮起することになった。



何か変わったことをすると必ず誰かが何らかの反応を示す。


それをうまく回避しながらも、ついにカーニバルの開催の日が三日後と迫った。


実はこの日から前夜祭として、関係者だけが会場視察という理由をつけて会場を楽しんでいる。


もちろん、本格的な確認を汰華琉たちは真剣な眼差しで行っている。


それほどの大仕掛けの施設はないのだが、夜になってからの花火は、まさに本番さながらだった。


そして親交のある星の重鎮たちもこの前夜祭に招き入れた。


その中には、喜笑星の重鎮たちもいる。


最後の行事の晩餐会は、巨大な施設内での立食バーティーとなり、女性たちは大いに着飾っている。


琵琶家の者たちは、このような食事方法に慣れていないので、大いに躊躇したが、ボーイが室内の一角に誘った。


そこには畳敷きの寛ぎスペースがあり、信長たちを大いに喜ばせた。


そして食うものも飲むものも、どの星のものよりもうまい。


すると汰華琉と美貴が腕を組んでやってきて、信長に来訪の感謝の意を示すと、信長もすぐさま誠意を込めて礼を言った。


しかし、森胡蝶蘭だけは気に入らないようで、美貴を避けるようにして汰華琉を見入っている。


「実はこの広間は、喧嘩選手権で使用する予定となっているのです」


汰華琉は言ってから、胡蝶蘭を見入った。


「どうです、一手ご指南願えますか?」


「望むところだ!」と胡蝶蘭は叫びながら立ち上がった。


すると、会場の中央部がゆっくりとせり上がり始めたので、近くにいた客たちは一斉に逃げた。


「次は真田様でもかまいません」と汰華琉が言うと、真田幻影は深くうなづいて立ち上がった。



汰華琉は着替えることなく勇者に変身すると、「…おー…」と誰もが一斉にうなった。


胡蝶蘭も幻影も、さらに大きくなってしまっている勇者皇に目を見開いていた。


「いつでもいいぜ!」と勇者皇が組み手場の中央で叫ぶと、胡蝶蘭は長木刀を上段に構えようとしたが、『ポンッ!!!』という軽いが大きな音がしたとたんに、背後に吹っ飛ばされていた。


「場外負け」と勇者皇が言って鼻で笑うと、胡蝶蘭は正座をして頭を下げていた。


何をされたのかよくわかったし、逃げる間もなかったという理由だ。


そして幻影が一瞬にして組み手場に現れ、真剣な目を汰華琉に向けた。


「いつでもいいぜ」と勇者皇が言うと、幻影はその場から消えたが、『ポポポポポポポポン!!!』という空気砲の連打の音だけが会場に響き渡って、その一発を見事に食らってしまった幻影は、場外に足をつけて、「参った」と言って頭を下げた。


勇者皇は汰華琉に戻って、「今の技は、ランス・セイントさんの特技の応用です」という汰華琉の言葉に、幻影も胡蝶蘭も大いに悔しがった。


「勇者ともなれば、

 術ではなく存在感だけで様々なことができますから。

 相手を寄せ付けないことに関しては、

 大いに研究をしました。

 一般的な試合であれば、拳を交わすことなく、

 安全に終えられるでしょう。

 ですが、それでは納得できない者も大勢いますので、

 その時は直接攻撃をしかけますが、

 それは見た目だけで、結局は空気砲を撃って、

 できれば怪我をさせずに吹っ飛ばすだけにする予定です」


「…手も足も出せないのか…」と胡蝶蘭は大いに悔しがった。


「静磨!」と汰華琉が叫ぶと、「おう!」と静磨は勇ましく答えて、その体を鬼に変えた。


まさに芸術品のような巨大なその肉体美に、「…おー…」と誰もが大いにうなった。


汰華琉は勇者皇に変身して空気砲を放ったが、鬼には通用しなかったことに、幻影も胡蝶蘭も目を見開いている。


そして重量級同士の拳と拳のせめぎあいが始まった。


どちらもが敏感に反応して、まったくヒットしない。


腕や脚の振りで、空気が大いに動いていることがよくわかる。


しかし、『ポンッ!』と軽い音がしたとたんに、鬼の動きが止まって、勇者皇は体ごと使って、簡単に鬼を場外に押し出した。


「なぜだ! なぜだ!」と鬼は大いに悔しがって叫んだ。


「教えてやらん!」と勇者皇は叫んでから愉快そうに笑ったあと、汰華琉に戻った。


鬼は静磨に戻って、「…まったくわからないぃー…」と大いに嘆いたが、「…汰華琉様は意地悪だから…」とマミーが眉を下げて言って、静磨を慰めた。


「…遊んでくれたら、教えたげるぅー…」というたまの言葉に、汰華琉は大いに眉を下げた。


「修行だから邪魔しちゃダメよ」というセイラの優しい言葉に、「はぁーい」とたまは素直に答えて、セイラに抱きついた。


「お前はこっち側だろうがぁ!」と胡蝶蘭がセイラに向かって叫ぶと、「うふふ」とセイラは意味ありげに笑っただけで、機嫌よくたまを抱き上げて、幹子に寄り添った。


「セイラさんも、少々元に戻ってもらいましたので」


汰華琉の言葉に、琵琶家一同は眼を見開いた。


「…セイラは、正常化したのではなかったのかぁー…」と信長がうなると、「…ほかに何が…」と幻影はつぶやいて、まったく察しもつかなかったようだ。


すると、幻影からひとりの男が飛び出してきて、真っ先に桜良に挨拶をした。


そして桜良は汰華琉にゼンドラド・セイントを紹介すると、「本当にそっくりさんですね」と汰華琉は笑みを浮かべて言った。


少々込み入った事情があって、ゼンドラドと結城覇王は背丈も見た目も寸分違わずそっくりなのだ。


「呪いがかかっているなどと思ったことはありませんか?」


汰華琉がいきなりゼンドラドに聞くと、「こらこら!」とセイラは叫んでたまを追いかけてきた。


そしてたまはゼンドラドを見入って、「…おー…」とうなったので、汰華琉は愉快そうに笑った。


「近寄っちゃダメよ。

 子供でも女と見たら容赦なく手を出す悪人だから」


セイラがたまに言うと、ゼンドラドは大いに眉を下げていた。


そしてたまはセイラを見上げて、「悪いから縛られてるの?」と聞くと、汰華琉は大いに苦笑いを浮かべ、そして美貴は魔王に変身した。


「セルラ星の神は竜だったな?」と魔王が汰華琉に聞くと、「ああ、そうだよ」とすぐさま答えた。


「だったら、死なんだろう」と魔王は言ってにやりと笑ってから、「たま、解いてやれ」という魔王の言葉に、たまは今回も両腕を上げてタマをとるようなかわいらしいしぐさをしてから、魔王に満面の笑みを向けた。


するとゼンドラドは眼を見開いて、肉体から魂が抜けたが、汰華琉がすぐさま肉体に戻す。


「転生したがってるけど、どうする?」と汰華琉がセイラに聞くと、「…あーあ… 場合によっては、部隊に戻んなきゃ…」とセイラは大いに眉を下げて言って、「開放していいわ」と言った。


よって汰華琉はこれ以上手を出すことはなく、ゼンドラドの肉体から魂は抜けて、肉体は霧散した。


「あ、根付いた」と汰華琉が言うと、「…まさか、メリスンに宿るなんて…」とセイラは言ってから、大いに眉を下げた。


メリスンとは、セイラの育ての親で、ゼンドラドはセイラの幼少の頃からの師匠だった。


セイラは念話でメリスンに事情を話すと、メリスンはなんでもないことのように平然と受け入れた。


そして、『特に帰ってくる必要はないわよ』とメリスンに明るく言われてしまったので、セイラは大いに眉を下げた。


『必要だったらランス君でも雇うから。

 それに、サンドルフに部隊を指揮させるから問題ないわ』


「…わかったわ…」とセイラは大いに眉を下げて答えてから念話を切って、一部始終を汰華琉たちに話した。


「…ランスさんの奇跡がぬいぐるみに宿って生まれた子…」


汰華琉が目を見開いて言うと、「欲しいっ!」と真っ先にたまが言った。


「参謀も優秀だから、私の出る幕ってまったくないほどなのよね…」とセイラは眉を下げて言った。


「好きに過ごしてくれていいさ」と汰華琉は気さくに言った。


「セイラさんの扱いは、エッちゃんと同じだから」


更なる汰華琉の言葉に、セイラも桜良も大いに眉を下げていた。


「…サンドルフ君もサンサンちゃんも、あたしの子でもあるのにぃー…」と桜良は少し悔しがって言った。


汰華琉がその事情を詳しく桜良に聞くと、「…ま、ランスさんとふたりで創った子でいいじゃん…」と汰華琉は眉を下げて言った。


「…そんなことができるものなんだな…」と万能の神のマイケルも大いに眉を下げて言った。


「…俺も、創るぅー…」と魔王がうなると、「その候補はお母ちゃんでいいぞ」と汰華琉が言うと、「よしっ!」と魔王は叫んで、まずはマリアを脅してから許可を取った。


汰華琉がマリアンヌを推薦したのは、やはり動けない植物よりも自在に動きたいという、マリアンヌの意思があったからだ。


ここから先は、また明日ということになって、誰もがパーティーを楽しみ始めた。


もちろん、この話はまた別の話とリンクしていることもあり、魔王はさらに奮起することになる。



「…ぐぬぬぬぬ…」と信長はうなりながら、もうしわけなさそうな顔をしている幻影と胡蝶蘭を見入っている。


しかし信長は余裕の笑みを浮かべて、少々へらへらしているようにも見える前田源次を見入った。


「…大和汰華琉に寄り添うのではなかろうなぁー…」とうなると、「そのつもりは毛頭ございません」と、源次はまるで感情を変えることなく答えた。


「…ちなみに源次は、大和汰華琉の技をどう見た?」


信長の一番興味がある事柄に、源次は笑みを浮かべてうなづいて、「まさに魔法の一手でしょうが、同じようなことは誰にでも記憶にあるはずなのです」と、源次は謎賭けのように言って、師匠であり兄でもある幻影を見た。


「初めて兄者に抱えられて空を飛んだ時、

 僕は身動きできなくなった」


源次の言葉に、幻影は少し考え、空高く飛んだ時のことを思い出し、「…そういうことかぁー…」と呟いてうなだれた。


そして幻影は顔を上げ、信長を見て、「鼻や口に直接空気の塊を送り込まれたのです」と言うと、信長は一瞬固まったが、少し懐かしそうな顔をした。


「…山奥の秋の風は強く冷たかった…」と言って、納得の笑みを浮かべた。


「…そうだぁー… 感覚的には同じ…

 呼吸を邪魔され、一瞬だが、それが隙となったかぁー…」


胡蝶蘭は悔しそうにうなった。


「しかも、相当に手加減されていたはずだ。

 本気で撃っていれば、俺たちの頭はなくなっていたはずだ。

 その加減が難しいはず…」


「…くっそ、くっそ…」と胡蝶蘭は言いながらも、顔には笑みが浮かんでいた。


「あっ!」と咲笑が叫んで、汰華琉が巨大ロボットを粉砕した映像が宙に浮き、すぐさま映像が巻き戻されて、その一部始終を観てとれた。


「…ほんとだ、確かに吹っ飛ぶね…」と源次は煙を噴出している、巨大ロボットの映像を観ながら明るく言った。


「…風圧だけで、内部を破壊しよったか…」と信長は笑みを浮かべて言って何度もうなづいた。


「咲笑、何か風に関しての重要な項目があるか?」と幻影が聞いたとたんに、会場内が騒がしくなって、歓声と拍手が巻き起こった。


そこには琵琶家が見たことのない、白い柔らかそうな竜がいたのだ。


琵琶家の子供たちは一斉に立ち上がって、竜に向かって一直線に走って行って、その柔らかい体を体中で体感した。


「…なんだ、あれは…」と信長がつぶやくと、「雲の竜、雲竜らしいですぅー…」と咲笑は眉を下げて言った。


「確かに、聞いたことがございません。

 ですが、自然界に関与することですから、

 いてもおかしくないものと」


幻影の言葉に、「…あの雲竜の直伝かぁー…」と胡蝶蘭がうなると、「あ、いえ… 竜のお師匠様が大和汰華琉様のようです」と咲笑が答えると、誰もが大いに苦笑いを浮かべて首を横に振った。


「雲竜は、風の竜、雷の竜、

 そして氷の竜の一部と同等の力を持っているようですぅー…

 あちらの雲竜様は、大和丈夫様。

 大昔からの、汰華琉様のお仲間のようですぅー…」


咲笑の言葉に、「…教えられたな…」と信長が咲笑を見ていうと、「はい、この情報は今受け取りましたぁー…」と咲笑は眉を下げて言った。


「…そして、子供たちの心まで奪われた…」と信長は苦笑いを浮かべて言うと、誰もが大いに苦笑いを浮かべていた。


信長は重い腰を上げて立ち上がると、誰もが一斉に立ち上がった。


そして信長はケイン星の神たちに近づいて、挨拶は済ませていたが重ねて挨拶をした。


「前田源次が世話になるとのこと。

 本当にかたじけなく思う」


信長の言葉にケインは笑みを浮かべて、「郡山静磨が望んだことでもあったのでな」と朗らかに答えた。


「…心静かなのがおかしいぃー…」とマリアがうなると、ケインは愉快そうに笑って、マリアを諌めた。


「覇者というものの宿命でもあるんだ。

 不思議なものに出会えば、

 その真実を知りたくなる欲望がわく。

 だが汰華琉は、それを自分の考えで見つけ出す。

 ワシだってそのひとつだし、

 数々のものをいくつも生み出してきたからな。

 そして手を抜くことも忘れない。

 使えるものはそのまま流用することもあるから、

 このケイン星は、無理をすることなく、

 星を汚すことなく安寧を維持したまま、

 多くの商品が飛び交うようになった。

 そして儲けた金は抱え込まずに使い、

 世間一般のカネの目減りを押さえ込む。

 さらには人を大いに雇い、

 経済効果を上げる努力もする。

 汰華琉は優秀な商人でもあり、

 政治家でもあるようだ」


ケインが語ると、「我が喜笑星の未来だが…」と信長が眉を下げて聞くと、「その件は、織田為長の担当だと聞いておるが?」とケインが答えると、信長は無条件で頭を下げて、「…あのやろー…」と明るくうなった。


「汰華琉とは相当に懇意にされておるので、

 我らとしても何も文句なく受け入れておる。

 汰華琉の数少ない真の友人のひとりだろう。

 そういえば、汰華琉は為長の魔具を褒めておったし、

 為長は手放しで喜んでおった」


ケインの言葉に幻影が少し焦ったが、ここは感情を押さえ込んで笑みを浮かべた。


「喜笑星に対して汰華琉がそれほど荒れないのは、

 為長の立場を考えてのことだ。

 よい息子をもったものだ」


ケインの褒め言葉に、信長の頬が緩んでいた。


もちろん為長も末席の中にいて、大いに苦笑いを浮かべていた。


表立っては汰華琉と懇意にはしていないので、幻影の目すら欺いていたが、為長に後ろめたさがない分、誰にも気づかれていなかっただけだ。



その汰華琉は、今は八丁畷春之介夫妻の接待を受けているような立場になっていて、大いに眉を下げている。


「…それをもうやっちゃったんだ…」と春之介は眉を下げて呟いた。


「さすが能力者と、自画自賛しましたよ」と汰華琉は明るく言った。


もちろん教育者としての話で、期間は短かったが、納得ができる教師ぶりを披露して、勉強での弟子が大勢できていた。


そして汰華琉が小学校を去る日は、まるで汰華琉の卒業式のようで、多くの小学生たちが一斉に泣いたほどに、まさに素晴らしく楽しい教師生活でもあった。


そしてこの件についても論文を発表して、特に能力者限定で大いに重宝されることにつながった。


もちろん、能力者ではなくても読み解ける部分はあるので、学園内の教師や職員は、少々小難しい汰華琉の論文を愛読書にしている。


よって汰華琉は学生でありながらも、腰仕掛けではない教師の資格を確定的にした。


もう大学の卒業はできるので、あとは汰華琉の思いひとつで動くことは可能だ。


「…うちの学園は、いい子しかいないからなぁー…

 だからこそ、悪が見えなかったこともあった…」


春之介が大いに嘆くと、「大事にならなくて幸いでした」と汰華琉はすぐさま当たり障りのない言葉を言った。


「…あれ? 知ってたの?」と春之介が不思議そうに聞くと、汰華琉は宇宙船強奪未遂犯について説明した。


「…ああ、その件からね…」と春之介は納得して、苦笑いを浮かべて言った。


「ですが、まずは学長とお話をしていただきたいのですが…」と汰華琉が大いに眉を下げて言うと、「誰もが認める実力のある教師が一番偉いに決まっている!」と春之介がこれ見よがしに叫ぶと、学生たちは一斉に拍手をして、教職についている者は大いに眉を下げていた。


「…ちょっと春君… 言い過ぎよぉー…」と妻の優夏が眉を下げて言うと、「…我がアニマール学園の専属教師として雇ってもいいんだぁー…」と春之介がうなると、汰華琉も美貴も優夏も大いに眉を下げていた。


「総学生数は五万。

 こちらの全学生の五倍を抱えている。

 よって、優秀な教師は多ければ多いほどいいんだ」


「いい子ばかりなんでしょ?」という汰華琉の逆襲に、「…うう…」と春之介が言葉に詰まると、優夏は腹を抱えて笑い転げた。


「それに、私の護衛に魔王が必要なもので…

 そうしないと勉強よりも、恋愛に触手が動くようなので…

 そうならないために、

 ひとりの生徒にかける時間は私の考える最短にしています。

 さらには、個別に聞きに来るのですが、

 ほかの教師か同級生、

 または上級生に説明させるように仕組みました。

 よって比較的穏やかに、

 家族専属の教師として、ようやく機能を始めました」


―― 雇えない… ―― と春之介は絶望感を覚えた。


これほどまでに自分自身を知っていては、これ以上の無理を言うことは欲でしかなかった。


「…そう簡単には、優秀な教師は手に入らないわ…」と優夏が眉を下げて言うと、春之介も認めた。


「それに、万有様も教師をされるとか。

 何も問題はないのではないでしょうか?」


汰華琉の言葉に、春之介はぐうの音も出ず、頭を下げた。


「いやぁー! 白竜かと思った!」と、話に出た万有源一が陽気に叫んでやってきた。


「白竜は、もっとすっきりと細いようですから」と汰華琉が丈夫を示唆して答えると、源一は笑みを浮かべてうなづいた。


「まだ修行中のようですが、

 完成したといってほぼ問題ないでしょう。

 次に何に挑戦するのか楽しみです」


汰華琉の言葉に、源一と春之介は顔を見合わせていた。


「丈夫は花蓮様と同じで、複数の竜を持っていますから」


「…花蓮さんやスイジン様限定じゃなかったわけだ…」と源一は苦笑いを浮かべて言った。


「あ、そういえば…

 源一さんの金属の竜は生きているんでしょ?」


汰華琉の気さくな言葉に、源一は眼を見開いて、「…確認、してなかった…」と呟いてから、光を反射してとんでもなく硬そうな竜が現れると、子供たちが興味を持ってやってきて、口をぽかーんと開いて金属の竜を見上げた。


そして竜が控え目にひと扇ぎすると、子供たちは強風に煽られて床に転がって、愉快そうに笑った。


金属の竜は源一に戻って、「まったく問題なし」と笑みを浮かべて言った。


「得意技はなんです?」と汰華琉が興味を持って聞くと、「無属性流と同じで、ただただ硬いだけ」と源一は眉を下げて言った。


その無属性竜をもつゲイルたちもやってきて、ここはまるで重鎮会議の場となっていた。


「…婆ちゃんが嘆いた…」とゲイルが眉を下げて汰華琉に言ってから、人型の丈夫と話をしている人型のスイジンを見た。


「スイジン様も火竜を持っておられるそうですね」と汰華琉が聞くとゲイルは眉を下げて、「…姿は見たことないけどね…」と答えた。


「ひとりでいいから、ここに預けたいんだが…」とゲイルが言いづらそうに汰華琉に言うと、「使えそうにない子がいれば預かります」という汰華琉の明るい返答に、「…大勢が嘆くだろうな…」とゲイルは言ったが、その顔には笑みが浮かんでいた。


「使い物になると確信した時、お返しします」


汰華琉の更なる言葉に、「それでもいいし、こっちにいい人ができたら、そのまま嫁入りさせてやって欲しい」とゲイルは言って頭を下げた。


よって、預ける予定の竜は女性だ。


「はい、そうさせていただきます」と汰華琉は笑みを浮かべて頭を下げた。


ゲイルが振り返って、「ミトン!」と叫ぶと、ひとりの幼児がすぐに反応して、躊躇しながらもかわいらしく走ってやってきて、汰華琉たちに頭を下げて、気が弱いようで、もうべそをかいていた。


すると汰華琉が勇者皇に、美貴が魔王に変身してミトンをサンドイッチにすると、ミトンは金縛りにあったように動けなくなっていた。


「…かわいそうなほどに能力が希薄だな…」と魔王がうなると、「だからこそ預かることにした」と勇者皇が答えた。


「おう… それはそうだな」と魔王はうなって、ミトンを素早く抱き上げると、ミトンは眼をまん丸にして魔王と勇者皇を代わる代わる見入った。


そしてなぜか安心したのか眠ってしまった。


「竜になったことで、新たな不安も沸いたようだ」と魔王は言って、美貴に戻って、「かわいいけど、年上なのね…」とミトンを見て眉を下げて言った。


「俺よりもみっつ上だから、二十三才だ」とゲイルが朗らかに言うと、「…年相応になるには、数年はかかりそうね…」と美貴は笑みを浮かべて言った。


竜になった場合、人間側の成長も顕著に現れ、人間の年相応に近づき、二十才程度の肉体で落ち着く。


この特殊な竜の一族は、人間の若い姿のまま、長い時間を生きていくことになる。


これが母である、ライジンとスイジンの願いでもあったからだ。


竜は神でもあるので、この程度の願い事は簡単に叶うようになっているので、特別な例外などではない。



「では少し余興でもしましょうか」と汰華琉は言って、組み手場の舞台を下げて、人間品評会用のT字の舞台を競りあがらせた。


そして美男美女コンテストに出る者たちが、次々に舞台に上がって、人々を魅了した。


そしてコンテストに出ない、着飾っている美貴もちゃっかりと舞台を練り歩いて、ご満悦の表情で会場内を見回して笑みを浮かべると、大きな拍手と歓声が上がった。


まさに、心の中の美しさや逞しさを披露したようなもので、汰華琉たちの仕業ではない。


特に竜一族は、誰もが美貴にあこがれた。


よって、ひと時ではあるが、美貴と汰華琉の子になってしまったミトンをうらやましく思っていた。


そのミトンは機嫌よくたまに寄り添っていて、「お姉ちゃん素敵!」などと声を上げていた。


そしてたまたちも舞台に上がって、「にゃんにゃんにゃんこの歌を歌います!」とたまが叫ぶと、誰もが大きな拍手を送り、汰華琉によって音楽が流れ出すと、「にゃんにゃんにゃにゃん♪ にゃにゃにゃにゃん♪ わたしはにゃんこ、にゃんにゃにゃんっ♪」とよく通る声でたまを中心にして、簡単な振り付けの踊りと歌を披露した。


「宇宙一かわいいわ!」とセイラと幹子の親ばかコンビが叫んだ。


「…ふむ… 息抜きで出すか…」と汰華琉が言うと、美貴は大いに賛成した。


まさに今の雰囲気は、この場を大いに和ませていた。


そして汰華琉は舞台に上がって、全員分の着ぐるみの衣装を出して、着せて回った。


まさにかわいらしさが数倍上がって、大きな拍手と大歓声をもらって、たまたちは手を振りながら舞台を降りてきた。


「…負けてられないぃー…」と優夏がうなると、その仲間たち百名が優夏から飛び出してきて、一瞬のうちに舞台上で演奏が始まり、優夏たちは舞台に駆け上がって、まさにアイドルさながらのダンスと歌を披露した。


たまたち子供たちが大いに熱狂し始めたので、「あ、あとで契約」と汰華琉が言うと、「都合を聞いておくわ」と美貴は明るく言った。


「フリージアで時々コンサートをしているんだ」と春之介がかなり照れながら言うと、「そうなると、それなりの見返りも必要ですね」と汰華琉が明るく言うと、春之介は笑みを浮かべて頭を下げた。


汰華琉は専属ではなく臨時の教師として、アニマール学園の教壇に立つことになった。


アニマール学園本校はアニマールにあり、フリージア星、右京和馬星、マテリアル星、喜笑星に分校が存在している、学生数五万のマンモス校だ。


どこでも同じだが、教師不足は否めなく、汰華琉のように優秀な学生が教師を兼任している場合がある。


よって卒業と同時に、半数ほどは教師業に就くことになる。


幼稚園から高校までの一環校なので、教師は多ければ多いほどいいのだ。


優秀な者は二束のわらじを履くこともある。


汰華琉はすべてに適応していることは周知の事実なので、春之介は手放しで喜んだ。


そして舞台を降りた優夏に、美貴が雇う交換条件を話してから、カーニバル本開催の六日分の契約をした。


さらには、このアイドルグループ、『AFA《アニマールフロムアニマール》100《ワンハンドレッド》』の関連グッツを並べて、汰華琉が販売も許可した。


そしてたまたちが一連のグッツをもらって、ご満悦の笑みを浮かべた。


やはり女の子用には着せ替え人形や絵本は必修だ。


春之介が企画制作をしたようで、どれもが素晴らしいものだった。


このようにして、ケイン星とアニマール星に強靭なパイプが出来上がった。


そして優夏は汰華琉の許可を得て、この会場内で商売を始めた。


売り子たちは大きなパネルを持っているだけで、商品を持っていないが、客が気に入った商品のパネルに触れると、その商品そのものが待機状態となり浮かび上がるが手を触れられない。


そして装置にカネを入れると、パネルから本物の商品が飛び出してくるという、かなり高性能な販売装置だ。


よって、大人たちが大枚支払って、愉快そうに買い物を始めた。


「…あとで使いすぎたなどと嘆くでしょうけど、まあ、いいでしょう…」と美貴が眉を下げて言うと、汰華琉は愉快そうに笑った。



そして汰華琉はあることに気づき、AFA100のバンドセットを見入り始めた。


たまが歌った時は鍵盤楽器の録音のものだが、このアイドルグループは生演奏も売り物にしている。


バンドセットは2チームあって、中央にクラシックオーケストラバンドが陣取っている。


よって、どれほど巨大な会場でも、拡声器などを使わずに演奏を楽しむことは可能だ。


汰華琉が太鼓などの数が多いドラムセットを興味深く見ていると、幻影はホルンを見て笑みを浮かべている。


「ここは男子禁制よ!

 幻影さんは前にも言ったわよね?!」


優夏の叫び声に、幻影と汰華琉はすぐさま首をすくめたが、好奇心は止まらなかった。


幻影はホルンのレクチャーをアイドルに受けて吹き始めると、汰華琉はついさっきの演奏を思い起こし、見よう見まねでドラムセットを叩き始めた。


すると優夏が大いに眉を下げて、「ジャングルで捕まえて! 行くよっ!」と楽曲名を叫ぶと、全楽器がすべて低音を奏で始め、汰華琉は相対するドラム奏者の想いの演奏に乗って、リズム感よく叩き始めた。


そして優夏は一瞬にしてメンバー全員の衣装をグリーン一色の、少々なまめかしいものに変えたが、子供たちは大いに盛り上がって、アイドルたちの振り真似をする。


中心になる歌い手も、比較的声の低い者を人選していて、声と楽器が渾然一体となっていて、子供たちを熱狂させた。


対する大人たちは目のやり場に困っているようだが、誰もがリズムに乗っている。


演奏が終わって、大きな拍手と歓声をもらった後すぐに、汰華琉は優夏にある提案をした。


優夏は目を見開いて考え込んで、「…今まで、思いつかなかったぁー…」と大いに眉を下げて嘆いた。


「この星の音楽に関しては本格的なものが一切ないんだ。

 テレビ番組でも、バックに流れるBGM的なものすらないし、

 主題歌のようなものもほとんど存在していない。

 音楽自体がないわけじゃないが、

 すべては楽器のせいだろう。

 この星の楽器は質が悪すぎるんだ。

 だから、この楽器に直接触れ、

 大いに勉強させる学校を創ろうと思う」


汰華琉の言葉はすぐさま美貴が文章にして、WNA理事長に映像付きで送信した。


「音楽はこれほどまでに楽しいものなんだと思い知ったよ」と汰華琉は明るく言って、ドラムスティックをドラム奏者に返した。


「すっごくお勉強になりました!」と少女は叫んで、スティックを宝物のようにして抱きしめていた。


「それは向かいにいるドラムの子に言ってくれ。

 あの子のイメージを読んで、太鼓を叩いただけだから」


「…イメージを読んで… 実際に叩いた音じゃない…」と優夏がつぶやくと、「うん、そういうことになるね」と汰華琉は明るく答えた。


「…それで音が、いつもよりも重厚だったのね…」と優夏は喜びながら言った。


「イメージは最高なんだが、

 まだまだ実力が備わっていないようだ。

 技術面もだが、体力的に問題でもあるの?」


汰華琉の疑問に、「…鍛えさせなきゃ…」と優夏は眉を下げて答えた。


「能力者が大勢いるから、

 まずは能力を使って演奏させたっていいはずだ。

 それで納得できれば、自分の手足で表現させて、

 納得ができる演奏をすれば、

 もっと楽しくなるんじゃない?」


「…先生になって…」と優夏が懇願の目を汰華琉に向けると、「美貴が学園に音楽学校を開く意思を見せたからそれは無理」と汰華琉が言うと、優夏は一直線に美貴に向かって走っていった。


汰華琉のすることは、まずは美貴にお伺いを立てるべきなのだ。


すると、館内の大きなモニターにWNAのニュースが流れ始めて、今あった演奏と音楽をバックに、大いに眉を下げているWNA理事長の山城が苦笑いを浮かべて壇上に上がった。


そして、来期から江富学園に音楽学校を開校させると宣言した。


対称は中学生から大学生までで、まさに音楽の英才教育となる。


小学校と幼稚園は対象外だが、同じ学園内にある学校なので、コミュニケーションをとることは可能だ。


よって自然に高濃度な音楽に触れることが可能となると演説した。


まさに江富学園の宣伝でしかなかったが、全世界で大いに話題となって、江富学園は有名校の筆頭となった。


『江富学園の宝の大和汰華琉が、その見本を示したのがこの演奏だ』と山城は自慢げに言ってから、壇上から降りて行った。


画面には汰華琉を中心とした演奏の風景の映像だけが流れている。


今までに聞いたこともない音楽に、興味があった者はさらに心を揺り動かされていた。


「…先手、打たれたぁー…」と優夏は大いに嘆いて春之介に泣きついた。


「…特別授業をお願いするから…」と春之介が眉を下げて言うと、優夏は何とか立ち直っていた。


「私にとって、楽しい時間でしかありませんよ」と汰華琉は笑みを浮かべて言った。


そして汰華琉はほかの楽器演奏者の楽器を使って、演奏者のイメージ通りの演奏を表現すると、誰もが骨抜きになっていた。


「…あのなぁー… 今の演奏はあんたのイメージなんだ。

 俺の腕前ではない」


汰華琉の少し厳しい言葉に、誰もが眉を下げてから頭を下げていた。


「…己がもつ能力を百パーセント生かしている…」と春之介がお固く言うと、「…わかるけどできないぃー…」と優夏は大いに眉を下げて言った。


「…学園の宝か… まさにその通りだった…」と春之介は穏やかに言って、今は厳しい教師の汰華琉に笑みを向けた。


そして今の汰華琉の指導も、参考資料として全世界に中継中だ。


様々な楽器があるからこそ、大いに有効な一手だ。


特にこのケイン星にもあるピアノには誰もが熱狂していた。


そして聞いたことがない素晴らしい音色に、誰もが酔いしれるほどだった。


よって、楽器の開発も平行して行うことになったが、それは細田が受け持つことになった。


細田としては汰華琉にはドラムが似合うとして、『タケルスペシャル』として、派手なドラムセットを組んで、汰華琉に叩かせると、まさに期待通りの音を奏で始めた。


単独の打楽器でしかなのに、様々な音が鳴り、聞き応え十分の音楽となっていたのだ。


そしてドラムを専攻している五名の奏者がやってきて、代わる代わる演奏するが、汰華琉のようにはうまく叩けない。


しかし汰華琉は笑みを浮かべて拍手をしてから、様々な指摘をしていく。


そしてやはり、技術面よりも体力面が先として、体力づくりのメニューを渡したほどだった。


「名誉教師の発言は守れ!」と優夏が気合を込めて叫ぶと、「はい! ユーカちゃん!」とアイドルたちは一斉に叫んだ。


公開指導も大いに功を奏して、WNAにはひっきりなしに問い合わせが殺到したが、まだできてもいない学校のことなので、募集要項などは後日公表するとだけ答えた。


「…幻影もやれ…」と信長がにやりと笑って言うと、「管楽器にしか興味がわきません」と幻影は眉を下げて答えた。


管楽器しかないわけではないのだが、琵琶家にとっては、音楽は最大の鬼門のようになっていた。


「だが、十六神将の社があるではないか…」と信長が言うと、「…すべては為長殿の製作でございますれば…」と幻影は眉を下げて言った。


「為長!」と信長が叫ぶと、為長はすっ飛んでやってきて、誰もが信長と為長に注目した。


「十六神将の社をここで作れ。

 そして神ケインに献上する!」


「はっ! ありがたき幸せ!」と為長は叫んで、早速社の製作にかかると、真っ先に汰華琉がやってきて、興味津々でそのからくりを見入っている。


そして細田もやってきて、「…むむむ…」と珍しく眉をしかめて悔しそうにうなった。


「為長さんに、神の想いが乗っている」と汰華琉が笑みを浮かべていうと、「…為長君の真の実力じゃないわけだ…」と細田は言って眉を下げた。


「だけど、それほどに信頼されているんだ。

 しかも、十六柱もいる神に」


汰華琉は言って、為長に満面の笑みを向けた。


「悪い… ケイン様への献上品だが手伝ってくれ…」と為長が懇願すると、汰華琉と細田は心の底から喜んで、部品を作る作業だけを手伝った。


信長は気に入らなかったのだが、口出しはしなかった。


そして十六神将の社は完成して、まずは社を開帳して誰もを笑みにした。


そして、そのからくりによる演奏を聞かせると、特に神たちの背筋が伸びていた。


「…はぁー… 和みすぎて、昇天しそうだぁー…」と細田が恍惚とした表情をして言うと、妻の理恵の蹴りが飛んできて、一瞬にして現実に戻されていた。


「逃がさん!」と理恵が叫ぶと、「…逃げないさ…」と細田は言って立ち上がって、理恵の肩を優しく抱いた。


そして信長は正式にケインに十六神将の社を献上すると、ケインは心の底から礼を言って、満面の笑みを浮かべた。


十六の神にも興味がわいたが、やはり音楽の方が先に立っているほどに素晴らしい作品でもあった。


神たちを感動させるのは、汰華琉と細田だけではなかったと、ケインたちは敬うような目を為長に向けた。


「…ふっふっふ… まさに我が手柄…」と信長が機嫌よくつぶやくと、「…為長の実力です…」と濃姫は信長をにらみつけながら言った。


「…なんにもできない魔王に、何の魅力があるのかしら…」と濃姫が悪態をつくと、信長は大いに眉を下げていた。


そして濃姫の言った通りでもあった。


「それは簡単なことです」と幻影が胸を張って言うと、「…はい、ごめんなさい…」と濃姫はすぐさま謝って頭を下げた。


「…幻影と胡蝶蘭にばかり甘えていては…」と信長が嘆くと、「急がないことに決めております」と幻影は薄笑みを浮かべて言った。


「…むう… あいわかった…」と信長は不服そうだが肯定した。


「…我が力は御屋形様の力…」と胡蝶蘭がうなると、「…おー… そういう信頼関係だったかぁー…」と一部始終を見ていた汰華琉がようやく理解を終えていた。


「…命に代えても、父を守りたいのだが、

 この考えは流派で禁止されていてね…

 公言できないことが口惜しいんだ…」


為長が小声で言うと、「…うん… よく理解できたはずだよ…」と汰華琉も小声で答えて、ようやく信長の全貌が見えたような気がしてきた。


「信長さんを俺たちに置き換えれば、ケインたちと同じだ。

 まさに敬うべき、守るべき神」


「…あ、ああ… そうなるな…」と為長は戸惑いながら言ったが、まさに汰華琉の言った通りだと理解した。


「信長さんの指示があってこそ、幻影さんたちは動く。

 なくてはならない神であり、指揮官なんだなぁー…

 きっと幻影さんがその指揮官だと、

 あとで困ったことでも起きるんじゃないの?」


汰華琉が為長に聞くと、「…お師様は厳しいのでね…」と為長が眉を下げて言うと、汰華琉はすべてを理解して何度もうなづいた。


「程ほどの範囲がかなり違うわけだ。

 それを幻影さんはよく理解しているから、

 己を主張せず指示を仰いで動き、

 何のわだかまりも持たないように自然に行動ができるわけだ。

 俺には今は静磨しかいないから、

 さらに増やさないとなぁー…」


「…その相棒がすごいじゃないか…」と為長は言って、静磨と仲睦まじいマミーを見た。


「…そういえばそうだったなぁー…」と汰華琉も静磨とマミーを見て笑みを浮かべて言った。


「それに、あの雲竜は?」と為長が聞くと、「竜は気まぐれでね」と汰華琉は言って苦笑いを浮かべた。


「…そうか、あてにはできないわけだ…」と為長は汰華琉の気持ちを察して言った。


「できれば、生も根も尽き果てるまで、

 仲間であってもらえる者に託したいからね。

 竜はどのような事情があっても神だから、

 無理強いはできないんだ」


汰華琉の言葉に、為長は納得してうなづいた。


「…幻影はどう思う?」と、汰華琉と為長の話を盗み聞きをしていた信長が眉を下げて聞くと、「…非の打ち所もございません…」と幻影は答えて頭を下げた。


「…為長以外で何とか…」と信長がうなると、「そういえば… お凜たちがこのケイン星に遊びに来たいと言っておりました」と幻影が言った。


もちろん、勇者皇と魔王が偶然にも竜王星に来訪していたことは周知の事実だ。


「…許可をせよ…」と信長は言ってから、「もちろん、真珠も行かせろ」と追加して言うと、「御意」と幻影は答えて、すぐさま真珠に念話を送った。



この話は為長には筒抜けで、すべてを汰華琉に話した。


真田真珠は元はといえば幻影の配下で、元はといえば純白の猫だった。


その肉体も維持したまま、人間の肉体を得られた能力者でもある。


真珠への信頼は厚いので、ほとんどのことは話は通るのだが、ちょっとした障害もある。


獣王星の持ち主は酒井寅三郎という魔王が所持していて、お凜たちは寅三郎を親として育っている。


現在の住処は別だが、寅三郎の許可も必要なので、信長から一報を入れた。


酒井寅三郎もケイン星には大いに興味があり、今回もできればともに来訪したかったのだが、守るべき星が多いことで、今回は仕方なく断念していた。


娘たちがケイン星に興味を持っていたことは知っていたので、寅三郎からの意見はなく、お凜たちの思うがままにさせると答えた。


そしてこの念話で、セイラの更なる正常化の話を聞いて、寅三郎は大いに驚いた。


もう何も束縛はないと思っていたのにまだあったからだ。


言葉では感じさせなかったが、寅三郎は、―― まだまだだった… ―― と心の中では大いに嘆いていた。


「…落ち込ませてしまったな…」と信長が察して言うと、幻影は何も言わずに頭を下げただけだ。


獣王城も今は夜なので、お凜たちには明日の朝に連絡することにした。


ちなみに真珠は獣王星ではなく、喜笑星の天草御殿に住んでいて、為長の家で巫女修行をしている。


その巫女の主が、十六神将だ。


現在は巫女が三人いるので、真珠を抜いてもほとんど問題はない。


もっとも、為長が少し楽をするために、巫女を育てているといっていいほどだ。


よって為長が喜笑星を離れなければ、ほぼ問題はない。


そして十六神将のひとりである為長の妻の春駒もここにいる。


物静かな女性だが、その正体はそうでもない。


よって、雅は大いに興味を持って、じっくりと春駒を探っていた。


「…神獣の女王様?」と誉が眉を下げてつぶやくと、「…そうとしか思えないわぁー…」と雅はすぐに誉に同意した。


「…それに…

 お兄ちゃんと同等の人をお婿さんにもらってるなんて…」


雅が大いに悔しそうにつぶやくと、「…お姉ちゃんはミライさんに興味はないの?」と誉が戸惑いながら聞くと、「…同級生だけど、妹扱いされそうだから、たぶんないなぁー…」と雅が答えると、誉は満面の笑みを浮かべていた。


「それにね、我が妹の応援もしないとね!」と雅が明るく言うと、誉はすぐさま雅に抱きついて礼を言った。


宴は朗らかなまま終わりを告げ、美貴の閉会の挨拶を終えて、誰もが納得して、それぞれの星に戻っていった。



翌朝の朝食時、美都子が城の玄関に出て、話に聞いていた真田真珠が、ポピーたちサラマンダーを持つ四人を連れてきた。


汰華琉は朗らかに挨拶を交わしてから、真珠を見入った。


「マイケル」と汰華琉が言うと、「お、仲間だ」とマイケルは陽気に言って、真珠に頭を下げた。


―― うわぁー… とんでもない神だぁー… ―― と真珠はマイケルの姿と声だけで見抜いた。


「雅、誉、猫まんま」とマイケルが言って猫に変身すると、真珠はつられるようにして純白の猫に変身した。


そして猫まんまをもらって、二匹そろって食べ始めた。


「…真珠お姉ちゃんが穏やかだぁー…」とお凜が言うと、汰華琉は愉快そうに笑った。


普段は相当の跳ねっ返りのようだと、汰華琉は理解した。


するとお凜が、「うっ!」とうなって、リスの姿になって、たまの肩にいるムササビの天照を見入った。


ここは汰華琉が笑みを浮かべて立ち上がって、ムササビもリスも好む果実セットを用意してテーブルの上に置くと、ムササビとリスは競うようにしてテーブルに乗ったが、仲良く食事を取り始めた。


「…あー… いいなぁー…」と人型を取っている、まだ小人でしかないリスリスはうらやましそうに眉を下げて言った。


ほかの三人は動物に変身することなく、機嫌よく人間の食事を食べ始めた。


汰華琉はお凜の妹のお杏を見入ってから、次に人型のツヨシに目を向けると、大いに苦笑いを浮かべていたので、それなり以上の存在感のある動物だろうと理解した。


「近くに大きな湖があるの?」とポピーが陽気にいきなり汰華琉に聞くと、「ああ、北西に三キロほど行った丘の上にあるよ」と汰華琉が答えた。


「泳いでも?」


「ああ、問題ないよ。

 獣王城にある池と同じだ」


汰華琉の朗らかな返答に、ポピーは大いに陽気になった。


「ろ過しちゃうからいいんだ…」と美貴がつぶやくと、「住み始めた動物たちも、水浴び程度はしているさ」という汰華琉の言葉に納得してうなづいた。


「だけど水は飲んでいないだろう。

 面倒でも丘を降りて、

 小屋から流れ出ている古代の水を飲みにやってきているはずだ」


「動物だったらそうするわね…」と美貴は言って何度もうなづいた。


「だから身を隠せるように、

 採水場周りの川に、大きめの林を作ってあるんだよ」


「…ああ、そういうこと…」と美貴はようやく作業小屋の下流の仕組みに納得してうなづいて、汰華琉と美貴を親にしてしまった、今は人型の幼児のモグラに笑みを向けた。


「お名前は?」と美貴が聞くと、幼児は困ったようで、親代わりでもあるポピーを見た。


「つけてあげてくれない?」とポピーが眉を下げて美貴に言うと、「…そうねぇー…」と呟いて幼児を見てから、「…大和、タケヒコ…」と呟いてから、紙を出して素早く書いた。


『大和太華彦』という文字に、幼児は満面の笑みを浮かべて、美貴と汰華琉を見た。


「通いでもいいぞ」という汰華琉の言葉に、太華彦はさらに陽気になって、もりもりと食事を摂り始めた。


「…そうね… モグちゃんにとっては、それがいいのかも…」とポピーは、眉を下げて言った。


「それに、モグちゃんを発見したのは為長だから、

 特に問題はないわよ」


ポピーの言葉に、太華彦は少し頬を膨らませて、名前を書いている紙をポピーに向けた。


「…わかったわよぉー… 太華彦…」とポピーが眉を下げて名を言うと、太華彦は満足そうに笑みを浮かべた。


「太華彦君、よかったね!」とお杏が笑みを浮かべて言うと、太華彦は誇らしく胸を張った。


「今日は五人だけど、あと何人かいるの。

 あ、サラマンダーとは別で…」


ポピーが眉を下げて、そして頬を赤らめて言うと、「別の場所で仕事でも?」と汰華琉はすぐに聞いた。


「面倒な星があってね…

 大きな戦いはないけど、

 魔王様が押さえつけてるだけのようなものだから…」


ポピーが眉を下げて言うと、「酒井寅三郎さん?」と汰華琉が聞くと、「…へたれ…」と美貴が言ったので、汰華琉とポピーは大いに眉を下げた。


「…そうなるわ…

 太華彦が完全に心を開いたのは、

 汰華琉と美貴が始めてだから…」


ポピーの言葉に、汰華琉と美貴は太華彦を見た。


太華彦がこれ見よがしに笑みを浮かべたので、ふたりは愉快そうに笑った。


汰華琉は太華彦の頭をなでながら、「まさか、春駒さんにも懐かなかったの?」とポピーに聞くと、「…怖いだけのようだわ…」とポピーも大いに怖がって、背筋を奮わせた。


「まあ、存在感の大きな神獣だからなぁー…

 神すらも怯えて当たり前だ…」


汰華琉の言葉に、「…やっぱりぃー…」とポピーは嘆いて、大いに眉を下げた。


「怖くないもーん」と雅が大いに強がると、「…雅ちゃんも…」とポピーが眉を下げて言うと、汰華琉と美貴は愉快そうに笑った。


「あたしなんて、かわいいサクラインコでしかないわよ?」と雅がポピーを睨んで言うと、ポピーは眼を見開いて、同意するように何度もうなづいた。


「俺の師匠でもあるからな。

 怖くて手当たり前だから」


汰華琉の言葉に、太華彦は一旦目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべた。


そして雅を見てから、満面の笑みを向けた。


「…やっぱり、大物だったのね…」と雅が嘆くように言うと、「土のサラマンダーは大地の神でもあるからな」と汰華琉は我が子自慢をするように言った。


そして太華彦は、岩にしか見えないドールハウスに目が釘付けになっていた。


「あとでたまと遊んでもらえばいい」と汰華琉が言うと、太華彦は満面の笑みを浮かべてから、大いに食事を食らってから、すぐさまたまに寄り添って、丁寧に挨拶をした。


「弟弟!」とたまは大いに陽気に叫んで、太華彦を抱きしめた。


「色々と助かったようだ」と汰華琉が言うと、美貴も賛同して、たまと太華彦に笑みを向けていた。


やはり太華彦は神でもあるので、手下ではなく、同格として弟としたのだ。


たまにとって初めてのことなので、陽気になっていることは、汰華琉にもよく理解できた。


「わたしも遊ぶ!」とお杏は満面の笑みを浮かべてからご馳走様を言って、たまに寄り添った。


そして、「…こんなおうちもいいぃー…」とお杏がうなるように言うと、「何度も注意してるよ?」と人型に代わったお凜が眉を下げて言った。


「…お姉ちゃん… ごめんなさい…」とお杏は大いに怯えながら謝ったが、恐怖ではないと汰華琉は見抜いた。


「姉妹だが、お凜ちゃんはお杏ちゃんにとって母だ」という汰華琉の言葉に、雅たちはすぐさま認めていた。


「お杏ちゃんの本来の姿を見せてくれないか?」と汰華琉が聞くと、お杏はまずはお凜を見た。


「もちろん、いいわよ」とお凜が言うと、お杏は安堵の笑みを浮かべて、大人よりも頭二つ分ほどでかい雌獅子に変身した。


変身というよりも、これがお杏の本来の姿だ。


始めは誇らしく胸を張っていたが、『ニャーン』と陽気に鳴いた小さなフローラを見入ってすぐに頭を下げるようにうなだれた。


「…あー… すっごーいぃー…」とお凜は言って、小さなフローラに笑みを向けた。


そしてフローラはたまに戻って、「お兄ちゃんとお姉ちゃんの方がもっともっと凄いよ?」とたまは兄と姉自慢を陽気にした。


「うふふ… 知ってるよ?」とお凜は陽気に言って、たまたちの仲間になって、ドールハウスで遊び始めた。


「…親の威厳を… まさか吸いとっている?」と汰華琉がお凜を見て言うと、美貴が一瞬だけ魔王に変身したが、「見習った程度だけど、魔王の威厳はあるわね…」と美貴は眉を下げて現在の状況を短く言った。


「それに風のサラマンダーだから、

 まさに汰華琉のような自由な勇者も感じるの。

 リスで小動物なんて仮の姿。

 能力者であればすぐに見抜けるはずよ」


美貴の言葉は、半人前の能力者たちの心に重く圧し掛かっていた。


「リスリスちゃんは、お凛ちゃんに寄り添った方がいいわ」


美貴の言葉に、テーブルの上にいる人型のリスリスは、リスの姿に戻って、お凜に挨拶をするように寄り添うと、お凜もリスに変身して、大きな木のドールハウスの登場人物になって遊び始めると、たまたちは大いに陽気になって、ふたりを歓迎した。


「…竜王星は別荘で…」とポピーが笑みを浮かべて言うと、「…勝手に決めないで欲しいね…」と汰華琉が眉を下げて言ったが、「きちんと説明するわ」とポピーはなんでもないことのように言って、雅と誉を誘って部屋を出て行った。


「ポピーたちはある意味自由なの。

 ここに住みたいって言うのなら、

 それでかまわないはずよ。

 獣王星は別荘だって言っているんだし、

 琵琶家と縁を切るわけじゃなさそうよ?」


「…わかったよ… 為長さんだけに説明しておく…」と汰華琉は嘆くように言って念話を送った。


もっとも、もうすでに琵琶家ではこの情報は伝わっていて、「…奪われてしまったかぁー…」と信長が大いに悔しがってうなった。


「…真珠の場合は、帰ってくる意思はないようです…」と幻影が大いに嘆くと、「…真珠を行かせたことは間違っておったかぁー…」と信長は地団太を踏みながらうなった。



ついにカーニバル初日となり、カーニバル会場は人であふれ返ったが、騒ぎになることはなかった。


それは広い通路にあり、混んでいるとは思わせないほどに広大なもので、時々人の足を止めさせるような看板などがある。


そしてここからが汰華琉の知恵の真骨頂子で、カーニバル会場に入らなくても祭りを楽しめる場所を自然の中に作り上げたのだ。


総勢百万人以上を収容できる、山並みに作り上げた、半すり鉢状の広大なベンチなどだ。


ここにも露天が出ているので、しかもカーニバル会場を一望でき、さらには巨大モニターに様々な情報が流れる。


足を棒にして動き回らなくても、会場内を具に知ることができる画期的な施設だ。


さらには夜の花火大会では特等席でもあるので、誰もが寛ぎながら祭りを楽しんだ。


そして第一日目の今日の一番の出し物は、美女コンテストで、総勢千名の中から、二日後の決勝進出者二十名が選出される。


その詳細はすべて冊子に書かれていて、大勢いる審査員たちの心はすでに決まっているようなものだが、実物を見てから決定する。


ステージに百人も上がってくると、目的の個人を見つけることは困難だが、すでに録画されていて、目的の出場者の番号を入力すれば、さらに詳細な情報を知ることができる。


そしてまだ顔見せ段階だが、『ヤハン国代表、山城美々子さん! 決勝進出です!』といち早く決勝進出が決まった。


そして美々子のすべてを晒すような情報と、決勝進出の理由が流れると、「…あー…」と誰もが大いに納得していた。


もちろん、人情に訴えかける事情もあり、『山城美々子さんは、つい最近、肉親の弟さんと再会を果たしているのです!』と解説員が叫んで、その情報も流れると、「おおおおっ?!」と誰もをうならせた。


その弟が大和汰華琉であれば、知らなかった者たちは驚いても当たり前だった。


もちろん、WNA代表の山城月雄の養女でもあることも大きいが、これは家柄だけであって、やはり美々子の素晴らしさを誰もが認めたといっていいほどだ。


だが、出場者たちは心穏やかではなく、コネを使ったものだと誰もが思ったが、まったく別の国の美女に決勝進出が告げられると、誰もが大いに焦った。


まさに、山城美々子と甲乙つけがたい美女が選出されたからだ。


この美女の情報だが、一部は昨日書き換えられていて、『江富学園音楽学校進学希望』と追加として書かれてあった。


二日前に公表された情報に、早速触手を動かしたひとりだった。


千名の練り歩きが終了してすぐに、残っている十一の決勝進出枠がすべて埋まった。


その中に滑り込めたのが駿河美都子で、その本人は飛び上がって喜んだ。


「よっし! よっしっ!」と叫んでガッツポーズをとったのは、美都子の父の、WNAナンバーツーの駿河家持だ。


やはり決勝に残った美女たちは、WNAの関係者が十名ほどいるのだが、誰もが素晴らしいほどの美女でしかないので、誰からもクレームが上がることはなかった。


しかも、開催国のヤハンが独占しているわけでもない。


落選した者たちは確かに悔しいのだが、滞在期間中の六日間は、土産物以外はすべてが無料なので、それほどの落ち込みはなく、早速会場内の祭り見物に陽気に行ったほどだ。



夕暮れが迫って来ると、カーニバル会場の外の施設に、会場に入場しなかった大勢の人が大挙してやってきて、思い思いのベンチに座って黄昏空を見上げる。


そして、『ヒュー… パァーン!』と小さな打ち上げ花火が一発上がると、「お―――っ!」と誰もが叫んで、陽気になって拍手をした。


そしてここが今日一番の稼ぎ時として、露店主などが陽気に叫んで客を呼び込む。


道幅に余裕を持たせた広い広場なので、露店業者がどれほどやってきても、通路が狭くなることもないので、スムーズに買い食いができる。


ここからは徐々に打ち上げ花火の間隔とその大きさが顕著に派手になり、ほぼ暗くなったとたんに、一斉に花火が打ちあがり、誰もが大熱狂した。


現在WNAが抱えている花火職人が一堂に会しているので、どのような無謀な打ち上げ方でも可能だが、今日のところは汰華琉が作ったタイムテーブルに沿って打ち上げられている。


リハーサルでの三日間で、汰華琉が日々更新して行った入念なものだ。


もちろん、花火職人たちも汰華琉の理想の打ち上げ方を見せられていたので、苦情を申し出る者は現れなかった。



カーニバル第一日目は滞りなく、そして大きな問題も起きることなくすべてを終えた。


問題が起こったのは汰華琉たちがすべての確認を終えて、城に戻ろうとした時だ。


美女コンテストの予選通過者でもある、オレス国王のミト・バルカンが、その美貌をすべて打ち消すようにして、汰華琉たちを見入っていた。


「誰が許可したの?」と汰華琉が美貴に聞くと、「…父ちゃん…」と言って苦笑いを浮かべたので、汰華琉は大いに眉を下げていた。


もちろん、その道筋でしか、この場に残ることは不可能だったからだ。


ミトは必要最小限のお付きだけを連れていたが、その中のひとりは、マッスルバトルにも出場する、オレス国代表筆頭で巨体のピーター・ドクソンがいる。


汰華琉は少々怪訝に思ったが、「…ピーターを同行させるわけにはいかなかったの…」と美貴が短く事情を話すと、汰華琉はすぐさま納得した。


「さっさとピーターと結婚しちまえ!」と汰華琉が叫んで愉快そうに笑うと、ピーターは大いに眉を下げ、ミトはピーター以上に眉を上げていた。


「それが嫌なら、ピーターは俺たちが預かるが?」


汰華琉の穏やかな言葉に、「なっ?!」とミトは叫んでピーターを見入った。


ピーターは寝耳に水の話で、「何も聞いてございません」と、まさに正義の人かミトの家来のように穏やかに答えた。


「宇宙の旅」と汰華琉が短く言うと、ピーターは汰華琉を見入って固まった。


そして、「…単語だけで話すなと言った…」とピーターは少し厳しい口調で言ったが、懐かしくも思ったようで、汰華琉に人懐っこい笑みを向けた。


もちろん、ミトが留学生としてやってきた時にピーターもお付きとしてやってきていたので、汰華琉たちとは顔見知りだ。


「もちろん理由があるからさ。

 意を得ていた場合、今のピーターのように戸惑うからな。

 前後に言葉を入れてしまうとそれが薄れるという正当な理由だ」


「相変わらず説得力があるヤツ」とピーターは言って、一瞬だが雅を見た。


そしてこれ見よがしに汰華琉は振り返って雅を見ると、大いに戸惑っていることがよくわかった。


汰華琉はピーターに向き直り、「雅はやらん」と言うと、ピーターは苦笑い気味に短く笑った。


「欲しいのなら、お前が婿に来い」


汰華琉の言葉に、雅は大いに頬を赤らめていた。


「それも、今回の話し合いのひとつだ」というピーターの言葉に、「ミトと話す必要がないのならそれでいいぞ」という汰華琉の言葉に、ミトはさらに火が出るような目で汰華琉を見入ったが、ピーターが一歩前に出て、「お任せあれ」とミトに言って頭を下げたので、ミトはそっぽを向いて悪態をつく代わりの態度をとっただけだ。


汰華琉はピーターと朗らかに握手を交わして、「夜食に付き合え」と朗らかに言って、ピーターと肩を組み合って、陽気に歩き始めた。


「…オレス国も動物保護区にしちゃおうかしら…」と美貴が言ってミトを見ると、「ふん!」とミトは悪態をつくだけに留めた。


「うちも多いわけじゃないけど、

 あんたのところも正義のヒーローが少ないわね…」


美貴の言葉に、ミトは胸を張ってはいたが、美貴の言葉に賛同していた。


国政の維持はできるのだが、まだまだ不安は満載なのだ。


こうやって恥を忍んでここにやってきたことも、ミトの杞憂があってのことだ。


「…まだまだカネが外に流れてる…」という美貴の言葉に、ミトは眼を見開いた。


「…ギャンブル好きの国民にも困ったものね…」と美貴は同情して言った。


「だけど、借りられないように仕組んだから、

 今以上の損益は出ないわよ」


「なっ?!」とミトは叫んで、その場に立ち止まった。


「国民の手持ちがなくなるだけ。

 もちろん国内ではおカネは借りられないだろうし、

 外の国からも援助という悪意を持った貸与はできないようにしたの。

 だから国がやせることはないわ」


「…あの短時間でそこまで…」とミトは嘆いて大いにうなだれたが、ゆっくりと歩き始めた。


「あとは、おカネがなければ働かせればいいんだけど、

 その働く場所がないのよねぇー…

 まあ、簡単な仕事だったら回してあげてもいいわ。

 ヤハンで作るよりも安く付きそうだし。

 工場予定地の数箇所の目処はついてるから、

 明日から働いてもらってもいいほどよ」


ミトは打ちひしがれていた。


美貴は何も変わっていなかった。


まさに有言実行で、口から出た言葉は必ず叶えた。


ミトはまた立ち止まって、「…もう、話すことはなにもない…」と呟いた。


「あら、いいの?」と美貴は言って、先を歩いている汰華琉とピーターを見た。


「…うう…」とミトはうなって、渋々だが歩を進め始めた。


「…いつまで経っても気に入らないヤツ…」とミトが悪態をつくと、美貴は愉快そうに笑った。


「あたしなんて、何の権力もないのよ。

 みんなはあたしの変身した姿がただただ怖いだけ。

 …怖がらないのは、あとにも先にも汰華琉だけ…」


美貴が少し照れて言うと、ミトはついに涙を流し始めたが、泣き声はあげなかった。


「…合併したっていいんだろうけどね…

 だけどまだまだ差別が横行しているから、

 これだけが杞憂なのよねぇー…」


美貴の少し陽気な言葉に、ミトは素直に受け止められた自分に驚いていた。


そして、―― これが安心感… ―ー とミトはようやく理解して、「…きちんと順序立てて考えるわ…」とかなり穏やかに言うと、美貴は何も言わずに笑みを浮かべただけだ。



山城城に帰るには徒歩では少々遠いので、臨時の客も含めて宇宙船に乗せた。


ミトたちはまさかの体験に、驚きながらも喜んで、なぜか宇宙空間に飛び出していたことに感動していた。


たまたちがねだったので宇宙に飛び出しただけだ。


かなり遠回りだが、ケイン星をゆっくりと周回してから、山城城に戻った。



小さな子たちはおねむの時間だが、大人にとっては宵の口だ。


「ピーター、もういいわ。

 すべては美貴に託すから」


ミトの言葉に、ピーターは驚くことも躊躇することなく、すぐさま頭を下げた。


汰華琉は美貴に笑みを向けているだけで何も言わない。


「…新作ジュエリー…」と美貴が言うと、「…わかったわかった…」と汰華琉は眉を下げてめんどくさそうに言った。


そして美貴はパソコンを取り出して、この先のオレス国の改造計画について話を始めた。


「…ふーん… なるほどなぁー…」と汰華琉は大いに感心していて、何度もうなづいている。


「問題があるのは差別だけ」と美貴が言うと、汰華琉ももちろん杞憂に思っていたことでもあるので、すぐさま賛同するようにうなづいた。


「ギャンブルに関しては?」と汰華琉が聞くと、「あら、そんなものはもうないわよ?」と美貴が明るく言うと、汰華琉は愉快そうに笑った。


「元締めがいないんだったら、ギャンブルもできないわけだ。

 それは何より。

 だけど、多少の娯楽は必要だから、

 体力勝負の金儲けができる娯楽でも考えるか…」


汰華琉の言葉に、「…うふふ… 修練場の改良版を創り上げるわ…」と美貴は陽気に言って、その映像をパソコンに出すと、汰華琉は明るい笑みを浮かべて納得した。


「ギャンブル依存症の正常化にはいいのかもな。

 今以上に体力もつけば、

 仕事の幅も広がるだろうし」


「…この、ハンマーの遊具は好きだわぁー…」と美貴は陽気に言った。


遊園地にもあるのだが、ほぼ子供専用のものだ。


大人用の本格的なものはないので、こういった力技で達成できる大人の遊具を多く創り上げ、ある意味観光地にしてしまおうと画策しているのだ。



大人の話し合いが終わってすぐに、「…汰華琉君、汰華琉君…」と汰華琉を呼ぶ声が聞こえるが、汰華琉の周りにはいない。


美貴は大いに眉を下げて、「…幼いけど、お母ちゃんの声よ…」と呟いた。


お母ちゃんとはもちろん、美紗子のことだ。


「…まさか、小さくなりすぎた?」と汰華琉が言うと、美貴はすぐにリビングを出て、廊下にいたほぼ裸の少女を見つけて、リスの着ぐるみを出して着せてから、愉快そうに笑って、美紗子と手をつないでリビングに戻った。


「やあ、お母ちゃん! きちんと若返ったね! おめでとう!」と汰華琉が叫ぶと、誰もが美貴が手を引いている、着ぐるみの少女を見入ってから拍手をした。


「…あははは… ありがと…」と美紗子は大いに照れて礼を言った。


そしてタイミングよく山城も戻ってきて、美紗子の姿を見てからすぐに、「昔のまんまだ!」と叫んでから、あまりにもかわいらしい着ぐるみを見入ってから笑い転げた。


「…着ぐるみは初めて着たぁー…」と美紗子は大いに照れて言うと、「よく似合ってるわ!」と美貴は叫んでから陽気に笑った。


「…さすがにふざけてるって思われるから、

 スーツが欲しいぃー…」


美紗子の言葉に、ひとまずは汰華琉がデザインしたスーツを出すと、美貴は残念そうな顔をして、別室で着替えさせてすぐに戻ってきた。


「…サイズの合う、貴金属がないわぁー…」と美紗子が大いに嘆くと、「…明日の午前中にでも買いに行こう…」と汰華琉は大いに眉を下げて言ったが、「あるよ!」と雅と誉が叫んで、汰華琉の作った宝石箱を開いた。


「ああ、発掘した原石か」と汰華琉は陽気に言って、一番小さな宝石だけを拾い上げて、研磨機を五台出して原石を入れた。


「貴金属店で買うと、とんでもない値がつくものばかりだよ」と汰華琉が陽気に言うと、「…うれしー…」と美紗子は言って、宝石がゆっくりと削られていく様子を見入り始めた。


そして台座は美紗子の体のサイズを測って創り上げたので、あとは宝石をはめ込めば完成だ。


「一番安いのを売ってから、別のを買うぅー…」と美紗子が言うと、「ああ、それでもいいさ」と汰華琉は笑みを浮かべて賛同した。


「…別世界…」とミトは大いに眉を下げて嘆いた。


そしてようやく、美貴の母の美紗子が心身ともに若返ったことを理解した。


そして美紗子は姿身を見て、「…かっこいい…」と言って、山城に満面の笑みを向けた。


「俺の娘になってしまったが、美紗子は変わらず美紗子だ」と山城は言って、美紗子の頭を機嫌よくなでた。


そして、「あっ!」と美紗子は言って、鞄の中からファイルを取り出して、「…あーあ、ほんとに消えちゃったぁー…」と大いに嘆いた。


汰華琉が前と同じ絵を描いて美紗子に渡すと、「汰華琉君! ありがと!」と陽気に礼を言って、ファイルの中に絵を仕舞い込んだ。


「…一体、何が…」とピーターが大いに眉を下げて言うと、汰華琉がすべてを説明した。


「…家族にも厳しかったのね…」とミトは大いに眉を下げて言った。


「家族だからといって、何でもかんでも願いを叶えることはないわよ」という美貴の言葉に、ミトは納得して何度もうなづいた。


「…次は、能力者になれる絵…」と美紗子が言うと、「…あるわけないよ…」と汰華琉は大いに眉を下げて答えた。


しもべだったら可能よ」と美貴が言うと、美紗子は大いに眉を下げて、「…やっぱり、能力者は、別にいいかなぁー…」と前言撤回するように呟いた。


「能力者になれるの?!」とミトが目を見開いて叫ぶと、「できるけど、さっきも言った通り、魔王の僕よ。それに、それほどの高能力は与えられないし、成長はしないの」と美貴が眉を下げて言うと、「…そんな便利なものはないに等しいわけね…」とミトは眉を下げて言った。


「それに、魔王の手下でしかないから。

 ほかの人の言うことなんて聞きもしないから、

 それほどに使えないわね…

 雑用が多ければ、いても問題はないわ。

 あたしは母さんほど忙しくないから、

 今は必要ないの。

 会社の会長職に就いたら、

 僕を創るかもね」


美貴の言葉に、「まだ譲らないもぉーん!」と美紗子が少し怒って言うと、「欲しいなんていってないわよぉー…」と美貴は眉を下げて言った。


「…僕、創れちゃうんだぁー…」と美々子が興味津々に言うと、美都子は眼を見開いて何度もなづいている。


「悪魔でも、マリアのような高能力者だったらできるはずよ」


美貴の言葉に、「そうね、必要だったら創るわ」とマリアは明るく答えた。


「でも、黒の勇者はできないよ?」と美都子が言うと、「…主人よりも凄いのがもういるじゃない…」と美貴が眉を下げて言うと、美都子は汰華琉を見て、「…いたぁー…」と言ってうなだれた。


「…汰華琉が僕…」とミトは大いに興奮して言うと、「あんた、あたしの言葉をきちんと聞いてないでしょ?」と美貴が言うと、ミトは素っ頓狂な顔をして、「…主人よりも凄い…」とつぶやいて、なんとなくだが理解できた。


「そんな僕なんていても迷惑だから。

 だからピンチになった時のブースターのようなものだし、

 それに汰華琉ひとりの力じゃないの」


すると雅が汰華琉と同化して、吹き抜けの天井に接するほどの巨人に変化した。


「おー… なぜだか、でかくなったぁー…」と汰華琉が大いに嘆くと、「お城、壊さないでね」と美貴が明るく言うと、雅は汰華琉から離れた。


「…どうして成長したんだろ…」と雅は不思議そうに言った。


「黒の勇者に引きずられてるんじゃない?」と汰華琉が答えると、「…また、色々と確認しなきゃ…」と雅は眉を下げて言った。


「…化け物屋敷…」とミトが嘆くように言うと、「…今更ながらね…」と美貴は言って、愉快そうに笑った。



この日はミトたちに城に泊まってもらい、マイケルが願いの夢見に誘ったのが、汰華琉がいなかったので、ミトは大いにうなだれた。


そして何度も貴重な体験をした。


夢でしかないことはわかっているのだが、神に対して様々な願いがあることを知った。


もちろん、ミト自身も願っていたので、願う側と叶える側の両方に関与したことで、意味はよくわかった。


しかし、戦いの場に出ると足がすくんでしまうが、すべてを魔王が守っていたことが気に入らない。


しかし守ってもらっていないと、確実に痛い目にあっていた事もよく理解できた。


圧巻はやはり戦場に出ているマイケルと静磨たちだ。


その中に、マイケルに誘われたピーターもいて、ミトにとっては気が気ではなかった。


しかしやっていることは後片付けのようなものだったので、ひどい目にあう確率は低い。


特に最前線では、巨大な静磨の鬼と獣人のマミーが、まるでデートをするようにして全体を守っているようなものなので、安心感は大いにある。


「ふん!」と鬼がうなって、両手のひらを地面に叩きつけると、大地が揺れ、普通の戦士たちは立っていられないほどに揺れた。


「あ、楽に終わった」とマイケルは機嫌よく言ってから、武器を持った者全員を砦に引かせて目標を達成した。


依頼主が納得したようで、マイケル一行はパネルの部屋に戻された。


すると、「あっ」とミトはパネルの一枚を見て声を上げると、マイケルはにやりと笑って、そのパネルに飛び込んだ。


「ダメだと言ったはずだ!」とピーターが叫ぶと、獣たちは嫌がるように後ずさりをして、深い森に戻って行った。


「大人の言うことを聞かない悪いやつめ」とマイケルが言うと、少年はうなだれた。


だが、いきなりやってきたピーターとミトを見入った。


ここはヤハンとオレスの間にある鳥獣保護区だ。


すると、少年を追いかけていた城の兵たちが、「女王様?!」と叫んで固まった。


「私はある意味偽者だから。

 そんなことはどうでもいいけど、

 きちんと監視しておいて」


ミトは言って、少年を見た。


「俺たちが戻るまで縛り付けておいてもいい」とピーターが言うと、兵たちは一斉に頭を下げた。


「杞憂は去った」とマイケルは言って、ミトたちも巻き込んで、その姿は消えた。


「…まさか… ピーター隊長の願いが叶って、神修行中か…」


兵の一人がつぶやくと、誰もが自然に頭を下げていた。


「…魔王様もおられた…」と別の兵がつぶやくと、半数ほどは末席にその姿を見ていて、深くうなづいた。


少年はこっそりと逃げようとしたのだが、もうすでに縄につながれていたので、大いにうなだれた。



「あの年齢で能力者とはな。

 なかなか優秀だが、

 恐怖心によって能力が使えなかった」


マイケルが誉を見ると、「今だからこそ、よーくわかりますぅー…」と誉は頬を赤らめていった。


「…さっきの男の子は私とは逆で、好奇心が旺盛すぎますぅー…」と誉が言うと、「臆病な方がまだマシさ。無駄に命を落とすことはないからな」とマイケルは答えて、少し笑った。


「…はいぃー…」と誉は言って笑みを浮かべた。


「…ですから、この先が思いやられますぅー…」と誉が言うと、ミトとピーターは大いに眉を下げた。


「ミト、さっきの子…

 ラクロ・ミッタンを俺に預ける気はないか?」


マイケルが聞くと、ミトは満面の笑みを浮かべて、「願ってもなかったこと!」と陽気に言って頭を下げた。


「もっとも、汰華琉の最終審査が少々怖いけどな」とマイケルが言って鼻で笑うと、「…やっぱり、凄い人だったぁー…」とミトは恍惚とした表情をして言った。


「汰華琉は超常識人だからな。

 神の思いもよらない考えを持っておる。

 汰華琉の猜疑心は、神ですら納得させられるのだ。

 よって神も、汰華琉にだけは素直になるべきなのだ。

 そうでないと、神すらも能力剥奪の憂き目にあう」


マイケルがにやりと笑うと、ミトは眼を見開いていた。


「汰華琉は、お前があこがれるようなやさしいやつではない。

 お前もそのうち、能力剥奪の憂き目にあうことだろう。

 そうなれば、追いかけるどころかその道がなくなってしまうだろう。

 今のうちにきちんと考えておいた方がよさそうだ」


マイケルの言葉を正しく理解したミトは、魔王を見た。


「汰華琉が何かをするわけじゃないの。

 汰華琉を監視している自然界の神が決めることなの。

 もっとも、もっと詳しい事情を知らないと、

 汰華琉がすべてをやっているように感じちゃうけどね」


「…回避する方法は…」とミトは呆然として言うと、「まず、欲は厳禁ね。でも、願いはいいの」という魔王の言葉に、ミトは大いに考え込んだ。


「お勉強は目覚めてからだ」とマイケルは機嫌よく行って、今度は戦場のパネルに飛び込んだ。



「…あれは、なんだったんだぁー…」と汰華琉がうなって目覚めると、「…どんな悪夢?」と美貴はたまと汰華琉を抱きしめて聞いた。


「…エッちゃんの願いの夢見…」と汰華琉は大いに苦笑いを浮かべて答えた。


「…巨大生物の星…

 まあ、感じた結果から言うと、

 神の原始の星、ってところかなぁー…

 人間の住める環境ではないのに、人間が住んでいた…

 そして、悪魔と天使が戦っていた…」


「…平和じゃないわね…」と美貴は大いに眉を下げて言った。


「…最終的には、エッちゃんがデヴォラに変身して説教をしただけで、

 すべてじゃないけど、多くが霧散した…」


汰華琉が眉を下げて言うと、「…デヴォラ、大丈夫かしら…」と美貴は大いに眉を下げて言った。


「…神の本気は怖いものがあるね…」と汰華琉は言ってから美貴とともに起き上がって、今朝も子供たちを乱暴に起こして回った。



汰華琉が夢見での出来事を語ると、「…むむむ…」とマイケルがうなった。


「色々と知っているようですね」と汰華琉が笑みを浮かべて言うと、マイケルは朝から機嫌よく食事を摂っている桜良を見て、「…それは暗黒宇宙だ…」と吐き捨てるように言った。


「…暗黒宇宙…

 ああ、その話は聞いていました…

 あの場所がそうだったんだぁー…」


汰華琉は感慨深く言って、何度もうなづいた。


暗黒宇宙はまさに神の領域で、この先の種族の運命をつかさどるような宇宙空間でもある。


ごく普通の宇宙に星があるのだが、まさに平和ではない場所でしかない。


その暗黒宇宙を平和にすれば、比較的素晴らしい魂がほかの宇宙へと旅立つ切欠にもなる。


さらにデヴォラが悪魔や天使を何人も納得させて昇天させたことで、このケイン星にも、その恩恵があるはずなのだ。


夢見の場合は肉体は偽者だが、魂は本物だ。


その魂に寄り添う新魂も少なくない。


そして桜良の様子が明らかにおかしい。


普段から大喰らいなのはいつも通りだが、その食欲が止まらない。


さらにはみるみるうちにその腹が膨れ上がったのだ。


「…あー… 懐妊したぁー…」と桜良が陽気に言うと、誰もが一斉に、臨月でしかない桜良を見入った。


「…想像妊娠?」と美貴が聞くと、「うふふ」と桜良は愉快そうに笑って、両手のひらを腹に当てた。


すると、まばゆい光が湧き上がったが、それは一瞬だった。


「ママ! 産んでくれてありがと!」と、幼児に近い男子と女子が同時に叫んだ。


「…おー…」と汰華琉は言って拍手をすると、誰もが大いに眉を下げて拍手をして、ふたりの誕生と桜良を祝福した。


「さあ! ここからが試練よっ!」と桜良が明るく言うと、子供ふたりは大いに緊張した。


「ほら、飯だ、まずは食え」と汰華琉が言って配膳すると、「お父さんと呼んでもいいですか?!」と男子がまず言った。


「ああ、お父さんというあだ名ならいいぞ」


汰華琉の答えに、桜良を筆頭にして、男子と女子は大いに眉を下げた。


「エッちゃんは俺の妻じゃないからな。

 エッちゃんにはきちんと夫がいるから、

 そのお方を父と呼ぶべきだろう」


汰華琉の言葉に、「…そうでしたか… ごめんなさい…」と男子は謝ってから、眉を下げて桜良を見た。


「…正論でしかないけど、なんだか悔しいわぁー…」と桜良は言葉とは裏腹に明るく言った。


「俺が神であればそれでもよかったんだ。

 俺は人間でもあり、勇者という種族であって、神ではない。

 だが親は無理だが、師匠として接することは可能だ」


汰華琉の言葉に、母と子どもたちが会議を始めると、汰華琉は愉快そうに笑ったが、「先に飯だ!」と汰華琉が叫ぶと、「はい、先生!」と男女と桜良まで叫んで食事を食い、「…おいしい…」と涙を流して感動した。


「ほらほら食え食え!」と汰華琉の師匠っぷりは大いに厳しいが、親が桜良なので、ふたりは出されるものすべてをおいしくいただいた。


「…ぬぬぬ… さすが神の子…」と汰華琉がうなると、桜良から眉を下げたレスターが飛び出してきた。


そして桜良がすべてを説明したのだが、ここで大問題が起こった。


レスターと男女が、親子を拒否してしまったのだ。


レスターも男女も神なので、これは大いにありえることだ。


「汰華琉が父親でいいじゃない…

 それに、あたしも母親として二人に接するから」


美貴の言葉に、また桜良と男女が会議を始めたので、汰華琉と美貴は愉快そうに笑った。


もっとも、美貴の言葉によって、汰華琉の杞憂は去っていたので、この先はどうとでもなるだろうと思い、楽観視することにした。


「どうしてレスターさんが拒否するの?」と美貴が素朴な質問をすると、レスターは大いに眉を下げて、「この子たちの意思を尊重したのです」と、レスターは笑みを浮かべて言った。


すると、男女は少し驚いた目をレスターに向けた。


「お前らの父親は、レスターさんが最適だ」と、汰華琉が師匠としての気持ちを乗せて言うと、男女はすぐさま汰華琉とレスターに頭を下げた。


「…解決、しちゃったぁー…」と桜良は少し涙ぐんで言って、わが子を抱きしめた。


「では、俺たちは師匠夫婦ということで。

 美貴は俺なんかよりも厳しいから注意するように」


汰華琉の言葉に、「…少しは厳しい方がありがたいかもぉー…」という桜良の言葉に、レスターと男女は大いに眉を下げた。


このレスターの感情も、男女は好ましく思ったようで、二人ともレスターに笑みを向けた。


「名前でも決めながら食事をどうぞ」と汰華琉が言うと、雅と誉がレスターに食事を持ってきた。


レスターは大いに恐縮して、家族四人は朗らかに食事を始めた。


名前は男子がたまき、女子は於慶およしと決まった。


苗字はもちろん、レスターと桜良が名乗っている万有だが、「大和も使っていい?」と桜良が眉を下げて汰華琉に聞いてきた。


「…ふむ…」と汰華琉は言ってから、半紙を出して、四人の名前をすらすらと書いた。


そこには、『大和礼須汰 大和桜良 大和環 大和於慶』と書かれていて、レスターが大いに目を見開いて、喜びの笑みを浮かべた。


「こら汰華琉!」とマイケルが大いに怒鳴ると、「畏れ多いこともあり、さすがにマイケルに私がお名前をつけるわけにはいきません」と汰華琉は朗らかに言って、マイケル、ケイン、マリアに頭を下げた。


「…あたしは妹だからいいぃー…」とマリアがいい、「汰華琉はある意味、ワシの父だ」とケインは胸を張って言った。


マイケルはふたりを睨みつけたが、「…まあ、マイケルは飼い猫という意味も込めて…」と汰華琉が言うと、マイケルは気に入らなかったようだが、少し威厳を持ってうなづいた。


「…おまえ… わかっていてじらしてるだろうがぁー…」とマイケルは汰華琉を睨んで言ってから、レスターと桜良を見た。


「苗字はどうします?」と汰華琉はマイケルの言葉は無視して聞くと、「キョウ」とマイケルはすぐに答えた。


「えっ?」と汰華琉は戸惑って言ってから、別の半紙を出して、『京』と書くと、「そう、それだ」とマイケルは誇らしげに胸を張っていった。


「よく勉強をなさっています」と汰華琉は言って、マイケルに頭を下げた。


このヤハン国が、『屋藩』と表記されていた時の王の苗字が京だった。


よってこのヤハンに京という苗字は存在していなかった。


ちなみに、そうなるまでは屋藩は大いに混沌としていて、代表となる豪族はいなかったので、最終的に屋藩を制定したのは京一族だったという史実が残っていた。


そしてケインたちに京という苗字を名乗ってもらうことで、一般人が京を名乗ることは許されないことにもなる。


その原稿を美貴が素早く作り上げて、WNA本部に送信した。


汰華琉は半紙に、『京舞華琉 京華胤 京魔莉亜』と書くと、三人は満面の笑みを浮かべて、書を見入った。


そして、「強くなったっ!」とマイケルが叫んで、拳を握り締めてガッツポーズをとって、陽気に笑った。


「それはなにより」と汰華琉も笑みを浮かべて、三人を見ている。


「…神への甘やかしじゃないの?」という美貴の言葉に、マイケルたちは固まった。


星の神は確かにこの三人だが、最大の実力者は魔王でもある美貴だ。


「この先、公式に名乗ってもらう名も必要だと思ってね」


汰華琉の言葉に、「…それもそうね…」と美貴が賛同すると、三人はほっと胸をなでおろしていた。


そしてマイケルは国宝に指定されたからくりの城を指差して、「城の復活」と汰華琉に言った。


「…そんなどでかいものをどこに建てるんですか…」と汰華琉は眉を下げていうと、さすがの美貴もマイケルをにらみつけた。


「このお城でいいよ?」とマリアが眉を下げて汰華琉に言うと、ケインも賛同した。


「…調子に乗りすぎたかぁー…」とマイケルは言ってうなだれた。


そして美貴がパソコンを操って地図を出して、「ここでいいんじゃない?」と言って指を差すと、神たちが集合して見入った。


「あ、それ、すっかり忘れてたなぁー…」と汰華琉は言って笑みを浮かべた。


そこは少々広い無人島で、汰華琉のポケットマネーで購入していた。


この先、何かに利用しようと思って、使い勝手がいい使えそうな島などは汰華琉が買っていた。


もちろん子供っぽく、秘密基地などと考えていたようだ。


美貴が島の詳細な情報を出すと、「…広いな…」とマイケルはご満悦の表情を浮かべて言って、何度もうなづいた。


「使用人の募集もしないと、

 掃除だけでも大変だろうし…

 面接の審査はさらに大変だろう。

 特に警護官は、これから鍛えなきゃならないし…

 まあ、来年の士官学校の卒業見込み者をあてにして、

 現行の警備隊から抜いてもいいけど…」


「…あ、任せた…」とマイケルは呟いて陽気に笑った。


「…織田信長さんのようになったら、叩き潰しますよ?」


汰華琉の穏やかだが迫力のある言葉に、「…肝に銘じた…」とマイケルが大いに眉を下げて答えると、美貴は愉快そうに笑った。


「…うふふ… 壊すのは城だろうけど、神たちもたじたじだわ…」


美貴が明るく言うと、「…ふむ… 琵琶家にやってみるか…」と汰華琉が物騒なことを言い始めたので、美貴は大いに眉を下げた。



すべてはカーニバルが終わってからのこととして、汰華琉たちはカーニバル第二日目の準備を始めた。


ちなみに昨日の入場者は、予定通り十万人で、そして花火見物者が百万人を超えたと正式に報道した。


これはニュースの映像でも確認できたので、間違いのないことだ。


そして美女コンテストを現地で観覧した者が三十万人もいたことに、世界中の重鎮たちはうなり声を上げた。


百万人を収容できる、階段状の広場は、カーニバル会場を一望でき、しかも会場の外側に向けて巨大スクリーンに映像を流しているので、この件なども報道に乗せたのだ。


どの国の重鎮たちも同じことができるのかと疑問に思い始め、中にはずっとヤハンでやってもらえばいいと、投げやりになっている国もある。


カーニバルは不定期開催なので、開催したい国があれば手を上げればいいだけだ。


しかし、第一日目だけの結果を見せられて、手を上げる国はないに等しかった。



そしてカーニバル第二日目は、美男コンテストの予選があるので、汰華琉と静磨の出番でもある。


女性陣は、今日はふたりの応援に専念することに決めている。


先にすべてを回っているので、混雑している会場内をうろつくのは疲れるだけなのだ。


午前中は注意事項の確認だけを行い、昼食後に汰華琉と静磨の出番となった。


美男コンテストも美女コンテストに負けることなく大盛況で、開始早々に汰華琉の決勝進出が決まった。


よって焦ったのは静磨だが、もちろん奥の手があるので、ステージに上がってすぐに、巨大で逞しい鬼に変身した。


誰も何も言えなかったのだが、文句なく静磨も決勝進出が決まり、「やったぞぉ―――っ!!!」と鬼は力の限りに叫んで、その姿を小柄な人間の体に戻すと、―― だまされてないだろうな… ―― と誰もが思っても仕方のないことだ。


しかし、プロフィールにはきちんとすべてが載っているので、もちろんだましてなどいない。


さらにはヤハンからは十名が出場していたが、選ばれたのは汰華琉と静磨だけだったので、誰かが苦情を申し出てくることはなかった。


もちろん投票は厳正なる審査上で成り立っていて、すべてが公表される。


もちろん個人差はあり、好き嫌いだってあるので、その採点はまちまちだ。


すると、「なんていうことを言うんだっ!!」とひとりの出場者がいきなり叫んだ。


この場所は公の場ではなく、出場者の控え室がある廊下だ。


すぐさまは騒ぎは収まったが、係員から事情を聞いた汰華琉は、「騒いだやつが黒幕」と言うと、周りにいた者たちが目を見開いた。


もちろん、汰華琉たちの決勝進出を快く思っていない者たちの仕業で、内部から侵食しようと企んでいたわけだ。


係員が能力者を含めて厳しい取調べをすると、汰華琉の言った通りだったことに、WNA経由でこの事実が公表された。


そして、一旦決勝進出を果たした者が失格になる寸前で汰華琉が止めた。


「…表に出ていない者が操っていた可能性もあるんだ…」と汰華琉がつぶやくと、「…面倒なことを…」と警備主任が怒りをあらわにして大いにうなった。


しかしそれは簡単に魔王が解決して、その真実をすべて暴露した。


もちろん暴露された側は大いに慌てていいわけを始めたが、魔王に思考を読まれ始めたことに気づいて、ついには悪態をつき始めたので、すべての事情を説明してから、国外退去の憂き目にあった。


『カーニバルを中止にしてもいいんだぞっ!!!』と、マリアが一段高い場所から叫ぶと、誰もが一斉に頭を下げた。


これ以上神を怒らせると、確実に中止になると誰もが感じた。


「…その中止を狙ってるんじゃないの?」と汰華琉が言うと、「…面倒なやつらめぇー…」とマリアは大いにうなった。


「…疑わしいヤツは、全員、国外退去にするぅー…」とマリアがうなったが、WNAの秘密警察が、煽った者数名を拘束してきたので、騒ぎは一旦終息した。


「神を試していると思っておいていいさ。

 そして、神の怒りに触れて、

 百年前に逆戻りだっていいんだ」


汰華琉のこの言葉には誰もが震撼が走った。


ようやく手に入れた平和を、平和にした汰華琉がすべてを壊そうという。


まさに汰華琉は、『破壊神』として畏れられ、敬われることにもなってしまった。


「うふふ! お兄ちゃんって、やっぱり大好きっ!」とマリアは大いに陽気になって、汰華琉に抱きついたが、美貴が必死になって引き剥がしたことに、汰華琉が愉快そうに笑った。


そして汰華琉は美男コンテストを辞退して、裏方に回って目を光らせることにした。


マッスルバトルの出場も辞退しようと思っていたのだが、予選だけは出ることに決めた。


「…あまり悪者になるな…」とマイケルが眉を下げて言うと、汰華琉は笑みを浮かべて頭を下げた。


「破壊神とは思いませんが、

 それで丸く収まるのならば」


汰華琉の言葉に、マイケルたち神は汰華琉に頭を下げた。


「…出てもらわないと困りますぅー…」と静磨がうなると、「…別の場所と時間を使ってやったっていいんだ…」と汰華琉が言うと、「あ、それもそうですね…」と静磨はすぐに納得していた。


「どう考えても、マッスルバトルに俺たち以上の者は出ないからな。

 だがこの星を守る力としての、

 俺たちの戦い方を見てもらう必要はあるだろう。

 マッスルバトルの決勝が終わってすぐに、

 エキシビジョンでやるかい?」


汰華琉の言葉に、静磨は満面の笑みを浮かべて頭を下げた。


「それに、優勝者が俺たちと戦いたいと言うのならやったっていい。

 それも副賞のひとつにしたっていいんだ。

 その肉体と精神力を見極めて、

 仲間にすることも重要だからな」


すべては全世界に中継されていたので、誰にでも正しい情報が提供された。


よって正式に静磨も出場辞退となって、ふたりは神の席に座ることになった。


しかし、ふたりの出番がなくなるわけではないし、WNA職員としても映像などに頻繁に出てくるので、苦情を言う者はほとんどいないようだったが、汰華琉と静磨の根強いファンが大勢いるので、この者たちが少し落ち込んだ程度だ。


特に学園関係者は大いに残念に思っているが、神でしかないことは、誰もが認めていることでもあるので、渋々だが納得もしている。


そして残された出場者は、喜んだ者もいれば悔しがっている者もいる。


特に悔しがる者たちのために、汰華琉たちは出場していたのだ。


よってその矛先は、騒ぎを起こした国の出場者に向くのだが、WNA職員がそれを許さない。


『本日の花火大会終了後に、

 各大会出場者による懇親会を行います』


この館内放送に、誰もが歓声を上げて大いに喜んだのだ。


時間はかなり短いはずだが、都合がつけば、カーニバルの最終日にも時間をとる準備があるということなので、本来の目的を果たせると思った者が大勢いた。


「…面倒な人たち…」と美貴が大いに憂鬱そうに言うと、「ま、いいんじゃないの? 祭りだし」と汰華琉は大いに楽観視していた。


「殺しても死なんから別にいい」とマイケルが愉快そうに言うと、「うーん… 死ぬことの方が難しいことはよくわかりましたからねぇー…」と汰華琉が言うと、ほとんどの者たちが目を見開いた。


「斬りかかっても剣は折れ、毒を飲まされても体内で分解してしまう。

 爆弾を仕掛けられ狙撃されても、自然に張り巡らされる結界に阻まれる」


マイケルの言葉に、「…よく知ってますね…」と汰華琉は大いに眉を下げて言った。


「もっとも、そんな荒っぽい感情を持った者は、この近くにいませんけどね」と汰華琉がお気楽に言うと、「問題は、手も足も出なくなった後よ」と美貴は眉を下げて言った。


「そこは、魔王が守ってくれるんだろ?

 そうすれば、祭りの最後はさらに平和になるんだからな」


「…ついに… 全世界の武器の破壊の旅に出るわけだな…」とマイケルが察してうなると、「理由がないとなかなかできないことですから」と汰華琉は機嫌よく言った。


「…もう来たわ… それに、もう捕らえたけど…」と美貴が言うと、誰もが大いに眉を下げて、臨時ニュースを見入った。


そのニュースを見て、このヤハンに近い場所に位置する国の、ムハダ、そしてジハダの工作員だった。


もちろん、準備万端整えてやってきたところに、警備隊員が職務質問をかけて、簡単に捕らえたのだ。


色々と裏をかいてやってきたようだが、このヤハンの領土にやってきた次点で魔王がすぐに察知していたのた。


もちろん、このヤハンにない武器が持ち込まれたからだ。


ニュースを見ていたカーニバル見物に来ていたムハダとジハダの重鎮たちは逃げるようにして席を立ったが、すぐさま拘束された。


「だからできないって言ったじゃない!」とヒステリックな女性の叫び声がすべての真実を語ったことになった。


そして臨時ニュースの中にその企みが一気に詳細に披露されたと同時に、重鎮たちは力なくうなだれた。


こともあろうか、警備の厳しい会場内ではなく、広い階段状の無料観覧席を爆破しようと計画を立てたようだった。


それが全世界に公表されたと同時に、両国内で紛争が起こり始めたが、今までここにいた汰華琉たちが早速すべての武器の破壊をしていた。


「殴り合いで決めろと何度も言った」と汰華琉は言ってから、巨大な鉄の塊を地面に置いて、ヤハンに戻った。


「今回は手伝ってやった!」とマイケルは大いに機嫌がよくなっていた。


「…その代わりに、あたしが留守番したじゃない…」という美貴の言葉に、マイケルは無条件で美貴に頭を下げた。


カーニバル開催中でも気を抜かないWNA特別小隊は、全世界から賞賛の拍手を受けることになった。


そして、―― 神に勝てるわけがない… ―― と、マッスルバトル参加者は一斉に思い、うなだれていた。


「…借金はチャラ…」とミトが笑みを浮かべて言うと、「そんなわけないじゃない」という、美貴の厳しい言葉に、ミトは、「…うー…」とうなるしか手はなかった。


「借金は貸した国の国民の金だ。

 その国民たちに返す必要と義務がある。

 よくもそんなことを恥ずかしげもなく言えたもんだ…」


汰華琉があきれ返って言うと、ミトは居場所を失くしたように小さくなっていた。


「…まさに、ここにはふさわしくない人間…」とマイケルが大いに苦笑いを浮かべて言うと、ミトは軽口を叩きすぎたと思い、うなだれたまま、お付きたちを連れてこの場を去った。


「ここには必要はありませんが、

 まあ、比較的平和でしょう」


汰華琉の穏やかな言葉に、マイケルは眉を八の字にして頭を下げた。


「どうやってのし上がっていくのか楽しみだわ」と美貴はミトに期待するように言った。


「…ピーターが二年前とまるっきり変わってないからなぁー…」と汰華琉が嘆くと、「…姫を守る以外の余計な話はしないわけね…」と美貴は汰華琉の感情を察して言った。


「まあ、それなりの重圧はあったはずだが、

 根本に何かあるんじゃないかと思ってね。

 あまりにも言動が迂闊すぎる。

 …たとえば、もうすでに罪を犯している、とか…」


「その後ろめたさや諦めかっ?!」とマイケルが勢い込んで叫ぶと、汰華琉はにやりと笑って、「必死ですね」と言った。


「お前だけ、幸せにはさせんぞ?」とケインが考えながらいきなり意味不明なことを言うと、「ああっ! なるほどっ!」と汰華琉は機嫌よく叫んで大いに笑った。


「…地雷を仕掛けていたヤツがいて、

 それは確実に宰相だぁー…」


マイケルが顔中に力を入れて大いにうなると、「その通りでしょうね」と汰華琉は言って、ケインに笑みを向けた。


「…あれ?

 お師匠様の汰華琉に対する想いじゃなかったのか…」


ケインの言葉に、「…おまえなぁー…」とマイケルは大いに眉を下げて言い、汰華琉と美貴は腹を抱えて笑い転げた。


「その程度のつまらんことを考える創造神は、

 その次点で存在できんはずだ」


「…はっ… もうしわけございません…」とケインは頭を下げて謝ったが、汰華琉は笑うのをやめて、ケインとマイケル、そして心配そうな顔をしているマリアを見た。


「…マイケルがミトを深く探りすぎた?」と汰華琉がケインに向けて言うと、「…そうなのかなぁー…」とケインが不思議そうな顔をして言うと、「そんなことはしとらんっ!」とマイケルは本気で怒ってる。


「…ミトが、マイケルに憑依…」と汰華琉が言うと、たまが全力で走ってやってきた。


そして、「今はないよ?」とたまが言ったので、汰華琉は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「…今回はあたしにも見えたわ…」と雅が眉を下げて言うと、「美貴、ミトを隔離して焼き尽くせ」と汰華琉が言うと、誰もが大いに目を見開いて、身動きできなくなっていた。


美貴は意味がわからず、ただただ呆然としている。


そして神たちはようやく納得して何度もうなづいている。


「言っとくけど、ミトをバーベキューにするんじゃないぞ…」と、汰華琉が眉を下げて言うと、「…あたしがやってもいいよ?」とマリアが笑みを浮かべて汰華琉に言った。


「そうね…

 ここは神の力を見せてもらうことにするわ」


ようやく復活して事情を飲み込めた美貴が明るく言うと、「…魔王ではできないのか…」と汰華琉が考え込んで言うと、「できるけどやらせてあげるのっ!!」と美貴はテーブルを叩きながら叫んだ。


「その前に」と汰華琉が言うと、マリアはひとつ舌なめずりをした。


「…あら、やだわ…

 引きずられてたみたい…」


美貴が眉を下げて言った。


「…肉体ごと焼き尽くすやつがいるのではないのかぁー…」とマイケルが吼えると、「死の苦しみ程度は味わうことになるでしょうね」と汰華琉は笑みを浮かべて言った。


「根本を探し出して消す必要もあるなぁー…

 まあ、こうなったのも、

 元はといえばマリアとケインのせいだし…」


汰華琉の言葉に、マリアは今にも泣きそうな顔をしていて、ケインは大いに眉を下げていた。


「ふふふ… さぞ、住みにくくなったことだろう…」とマイケルは機嫌よく言った。


「なかなか賢いですからね。

 生き残るために、できれば派手な行動はしたくないと考えたのでしょう。

 劇的な変化はまず考えられませんが、

 宰相たちの様子を確認しておいた方がいいでしょう。

 ミトをお出かけ用の肉体として使いこなせるようですから」


「…これも、思念、なのね…」と美貴が眉を下げて言うと、「一番性質の悪い思念だよ…」と汰華琉は大いに苦笑いを浮かべて言った。


その思念とは悪意だ。


汰華琉の予想としては、その悪意の根本が、オレス国元宰相のキャメル・ラッチが抱えていると予測していた。


もちろん、キャメルが悪意を生んだわけではなく、元からあった悪意とキャメルが協調したと汰華琉は考えたのだ。


よってその悪意の根本の根城が別にあることも、この先の調査で調べ上げるべきだろうと考えた。


悪意は接触したものに簡単に憑依してくるが、善の正義にはめっぽう弱い。


自分自身が存在できなくなるので、小悪党程度のミトであれば簡単に憑依をしてくる。


人によれば、二重人格にも見える場合もあるので、発見はそれほど難しいことではないのだ。


これを経験していれば、楽に選別はできる。


汰華琉は今世では始めてみたが、今までの魂の積み重ねの中で、多くの悪意を見てきた積み重ねがある。


「…カーニバル中だが、ここは仕事とした方がいいか…」と汰華琉が笑みを浮かべて言うと、たまが真っ先に喜んだ。


まさに観光気分だったようで、大人たちは一斉に眉を下げた。


汰華琉としてはたまが喜べば別にいいようで、笑みを浮かべている。


「さて、人選だが…」と汰華琉は言ってから、ここは厳しい判断をした。


連れて行くのは、完全に覚醒を果たしているの能力者限定としたのだ。


「俺たちだって、表意されないとは言い切れないほどだからな」


汰華琉の言葉に、まだ覚醒していない能力者たちは一気に頭を下げた。


「俺の下につけても?」とマイケルがにやりと笑って言うと、「はい、もちろんです」と汰華琉は快く答えた。


「だが、マリアだけは近くまでは来て欲しい。

 よくない感情が漂っている可能性もあるんでね」


汰華琉の言葉に、マリアは協力できることを大いに喜んだ。


「…確かに… 前回行った時、多少は感じた…」と美貴がつぶやくと、「どうやら細心の注意ははらっているようだ」と汰華琉が言うと、特に神と呼ばれる者たちは納得して何度もうなづいた。


「奇襲をかけるといった意味で、今行った方がよさそうだ。

 相手が慌ててくれたら、かなり都合がいいからな。

 見分けも、それなり以上に簡単につきそうだ」


汰華琉は言って、両腕を上げて笑みを浮かべているたまを抱き上げた。


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