この惑星の願い 芸術家宇宙一はだあれ?
この惑星の願い
芸術家宇宙一はだあれ?
汰華琉たちはフリージアに渡り、源一と挨拶を交わしてすぐに、イルビーの宝石を渡すと、何事にも動じない源一が目を見開いて、汰華琉と細田を見た。
「どうぞご遠慮なく」と汰華琉は笑みを浮かべて言ってから、なかなかの時間をかけて作り上げた高さ二メートルほどのモニュメントを出して、これも献上した。
「…これは… 3.5次元とでも言った方がいいか…」と源一がつぶやくと、細田が目を見開いて、源一とともにモニュメントを見入り始めた。
「…確かにそうだし、これを三次元で現すと…」と細田は呟いてスケッチブックを出して絵を描き始めた。
「…神でもなく、仏でもない…
…ケイン星のある宇宙の位置に、
何か秘密でもあるのか…」
細田の普段の朗らかな顔をまったく出すことなく、ケイン星に係わる宇宙地図を出した。
「…宇宙の肥大はない…
ほかの宇宙と何も変わらない…」
結局は今の時点では詳しいことは何もわからなかったが、マイケルが言った汰華琉が別の宇宙からやってきた件は信憑性が上がったと細田は考えた。
「…なぜ魔法を…」と細田は呟いて、マイケルとケインの関係について考え始めた。
「そういえば、ケインは修行中に一度死に掛けたとか」と汰華琉が言うと、「…それだぁー…」と細田はうなって、美術館に向かって歩いているケインたちを追いかけた。
「…ケイン様は四次元の世界を見たのかな?
あれを見ると、まともではいられないからね」
源一の言葉に、汰華琉は何度もうなづいた。
もちろんこの件は、桜良からのお勉強のネタとしてもあったので、ある程度のことは汰華琉も知っていた。
「…俺たちは三次元にいるから、
情報量が異様に多い四次元の世界は理解不能だ…
そして、術と何か関係があるのか…」
汰華琉がつぶやくと、「術?」と源一が怪訝そうな顔をして聞くと、魔王の詠唱魔法の件について説明した。
「ここにも魔王がひとりいるから、
その件は知識として持っている。
己の魂から発する術と交換で詠唱魔法を得られる。
その価値観は、神自らの定規でしか測れないし、
魂の術に問題があるとすれば、
詠唱魔法の方が都合はいいのかもしれない。
そういった事故で、ケイン様の魂が崩壊しかけたのかもしれないね。
と言うよりも、その本人は今は美貴様だが…」
「…爆弾を抱えてなきゃいいけど…
…いや、それはクリアになっているのか…」
汰華琉がつぶやくと、「今の美貴様は、確実に無謀なことはしないよ」と源一が笑みを浮かべて言うと、「ええ、別件で無謀なことをしたので、三年かけて諭しました」という汰華琉の言葉に、源一は笑みを浮かべて何度もうなづいた。
「…やはりあれか… ずっと、違和感はあった…」
汰華琉は呟いて、美貴の魂を詳しく探っていると、美貴がすっ飛んで近くまでやってきて、「さっさと来る!」と自分勝手に叫んだ。
汰華琉が笑みを浮かべて手招きをすると、源一は愉快そうに笑っていた。
美貴はばつが悪そうな顔をしてやってきて、「…なによぉー…」と悪態をつくように言った。
「魂の底から無謀だったんだな」という汰華琉の言葉に、美貴は必要以上に目を見開いた。
「魔王は殆どの術を使えなくなっているはずだ」
汰華琉の決定的な言葉に、「それはどうかしら」と美貴は言って鼻で笑った。
「知り合いの魔王をとっ捕まえて配下のようにしてから、
詠唱魔法で術を構築している」
汰華琉の言葉に、源一は今は天使の姿の魔王イカロスを見て眉を下げた。
「つながっている」と源一が言うと、「…えー…」と美貴は大いに眉を下げて嘆いた。
もちろん、秘密がばれたといった感情だ。
「よってケインはどんな術でも扱うことが可能だ。
だがここは魔王がある程度数量限定として、
術の召喚許可を出している。
あ、マイケルも同じだったな」
「…空を飛べて威厳があればそれで満足だって…」
美貴が他人事のように言うと、「美貴は魂を二つ持っている」と汰華琉は決定的なことをいって、にやりと笑った。
「…うまく重ねたもんだ…」と源一は大いに感心して美貴の魂の観察を始めて何度もうなづいている。
汰華琉は二つの魂をしっかりと確認して、魔王の魂だけをしっかりと見据えた。
そして正常化の棺を出して、「魔王に変身して入れ」と汰華琉が言うと、「…うう…」と美貴はうなったが、源一は笑みを浮かべてうなづいた。
「魔王はノウがない」と汰華琉が言うと、「無能ではない!」と美貴が魔王に変身して叫んで、汰華琉をにらみつけた。
「意味が違う…
物理的に脳みそがないんだよ…
魔王の脳だけが魂の中から出られない…」
汰華琉の言葉に、「…それが真相だったのかぁー…」と魔王はうなって、大人しく正常化の棺に入って、扉が閉まるとすぐに扉が開いた。
「…まずは、ケインとマイケルが嘆く…」と魔王が言ってにやりと笑うと、「…できる限り協力してやってくれ…」と汰華琉は眉を下げて言うと、魔王は美貴に戻って、ケインたちを追いかけていった。
「…手に負えなくなったと思う…」と源一が苦笑いを浮かべて言うと、「ええ、そうでしょうね」と汰華琉は何も問題がないといわんばかりに明るく答えた。
肝心の美術館だが、「…ここ以上の美術館はないはずだ…」と汰華琉は明るく言って、何度も先頭の部屋から閲覧を繰り返し、子供たち以上に子供になっていて、ついには源一に許可を取って、閲覧室内の絵まで描き始めた。
ここは美々子も便乗して、汰華琉と肩を並べての絵画の創作活動に専念した。
「…ほう、面白い…」と魔王が言って、ふたりの絵の映像のコピーをとって重ねると、不思議な画像が浮かび上がった。
それはホログラムと言っていいもので、魔王が映像を紙にコピーすると、「…えー…」と誰もが声を上げた。
平面なのだが奥行きがあって、その一部がだまし絵のように複雑に絡み合い、写真としては最高級品といっていい代物となっていた。
そして被写体の人としては、大和汰華琉と大和天照の幼児ふたりがちゃっかりと出演している。
「これ、売るか?」と魔王が言うと、源一は大いに喜んで、早速コピーをとって感心して写真を見入りながら販売を始めた。
土産物屋も充実していたのだが、さらに充実したことに源一はかなり陽気になっていた。
「…お母ちゃんにも土産ができた…」と汰華琉は心の底から喜びながら、汰華琉と美々子の絵画作品の数々を異空間ポケットに仕舞い込んだ。
「これ、買って?」と美貴が陽気に、炭鉱採掘時に出土した見本として置いてある、美貴の身長よりも大きい巨大な岩に手を触れて言った。
このフリージアの特産には宝石もあって、色とりどりの原石が詰まっている岩を展示してあるのだ。
そして磨き上げた宝石の販売までしている。
宝石も芸術品と言わんばかりに、様々な種類のものがある。
「炭鉱を掘って持って帰っていいぞ!」と源一が気さくに言うと、「あら、よかったわ!」と美貴は陽気に言って手のひらを合わせた。
「…展示用と発掘用…」
美貴の言葉に、「…わかったわかった…」と汰華琉は眉を下げて言って、美術館を出て源一の案内で鉱山に入り、美貴が気に入った巨大な岩を二つ切り出した。
岩自体が芸術品のものは、あまりお目にかかれないだろう。
汰華琉たちは充実した時間を過ごして、源一に礼を言ってから山城城に戻った。
そして待ち構えていた美紗子に嫌というほどの土産の品を渡した。
女子たちがハンマー片手に庭で巨大な岩から発掘作業を始めたので、「…私も発掘するぅー…」などと言ったが、今は運搬の指示を出している。
「結論、出たの?」と汰華琉が細田に聞くと、細田は苦笑いを浮かべて首を横に振った。
すると汰華琉があるひとつの可能性を口にすると、「…その方が現実的だ…」と細田は言って笑みを浮かべて何度もうなづいた。
汰華琉は夕食前に桜良を呼んで、ひとつの提案をした。
「汰華琉君も雅ちゃんも優秀なのは知ってるよ!
知ってるけどっ!」
桜良は普段しない真剣な目をして汰華琉に訴えた。
もちろん、汰華琉がかなり無謀なことを言ったからだ。
「これはね、俺のルーツを知りたい、俺の好奇心でもあるんだ。
ほとんどの力のある人たちは、魂の先頭が誰よりも特殊なことは知っている。
だが俺も、そして雅も、どこにでもいる動物から始まっている。
何かが俺に取り憑いたなどの記録はまったくないんだ。
だからエッちゃんの現世ではない、
さらに前の宇宙を構築した当時の記憶を見てみたいと思ってね。
そうすれば、不思議だったことが不思議ではなくなって、
誰もが納得できると思うんだ。
エッちゃんの神のデヴォラも、
ようやく自由になれると思うし、
そのデヴォラが俺のお母ちゃんのような気がするんだよなぁー…
もちろん、デヴォラから生まれた思念が俺の魂に取り憑いたはずなんだ。
今言った仮説だけではなく、真実を知りたいんだ」
汰華琉の力説に、ついには桜良は涙を流し始めたが、その表情は薄笑みを浮かべていた。
「…やっぱり、汰華琉君はお兄ちゃん…
今までに一度だって、
汰華琉君が言ったことと同じことを言った人っていなかった…」
桜良が笑みを浮かべて言うと、「さらには、別の理由があるんだよ」と汰華琉が言ってからその理由を語ると、桜良は汰華琉と雅を抱きしめて大いに泣いた。
桜良は汰華琉の言葉のすべてを信じた。
ここからはまるで地獄のような時間が流れ、汰華琉、雅、桜良はとんでもなく長い時間をともに共有した。
異空間部屋での五年という累計時間が過ぎた時、「終わったぁー――っ!!!」と汰華琉は叫んで、半分眠っている雅を抱きしめた。
「…元気すぎるぅー…」と桜良でさえ眉を下げて言ったほどだ。
付き添いの細田もレスターも、性も根も尽き果てて眠っているほどだ。
「何も問題ないさ」と汰華琉は言って、雅と桜良に渇を送った。
そして細田とレスターにも同じように渇を入れて、五人は異空間部屋を出た。
外の時間は一週間が過ぎていたが、汰華琉はまったく気にしなかった。
「…死にたいだなんて絶対に言わせない…」
汰華琉の真剣な言葉に、「うん! うん! もう絶対に言わないし、そんなことひとっつも思わないっ!!」と桜良は陽気に叫んで、汰華琉を抱きしめた。
まさに、すべての魂の記録を共有できた者が四人もできたことで、桜良の心の重荷をようやく降ろせるようになったからだ。
「…とんでもない試練だったぁー…」と細田は薄目を開けて、比較的明るく言った。
すると雅がはちりと目を開いて、何も言わずに汰華琉を抱きしめた。
「もう、すべてのものを手にできたも同然だ」と汰華琉が明るく言うと、「…お兄ちゃんがいいれば、それだけでいいもん…」と雅も明るく言って、満面の笑みを汰華琉に向けた。
そして、ここで汰華琉が予想していた大問題が発生した。
レスターの魂が昇天を始めたのだ。
汰華琉はレスターの魂が完全に肉体に戻るまで何度も引き戻した。
すると桜良がわなわなと震え、古い神の姿のデヴォラとなり、「起きんか! ばかものがっ!」と大きな渇を入れて、レスターはようやく目を覚ました。
「よっし! すべて予定通り!」
汰華琉の陽気な言葉に、デヴォラは大いに眉を下げて、「やっぱりお兄ちゃん」と薄笑みを浮かべて言って、桜良に戻った。
「胸は、どっちもお母ちゃんだな」と汰華琉が言うと、桜良はケラケラと陽気に笑った。
「おかえり」と美貴は穏やかに言って汰華琉を抱きしめた。
「美貴にも経験させたかったけどな…
だが、レスターさんのようになってしまうと、
俺一人では手に負えなかったはずなんだ…」
汰華琉が眉を下げて言うと、美貴は笑みを浮かべて首を横に振った。
「まずは、魔王が嫌がったわ…
人の人生などどうでもいいって…」
美貴が眉を下げて言うと、汰華琉は、「絶対に言うはずだ!」と叫んで陽気に笑った。
この件は宇宙中の神々の耳に入り、汰華琉たちの都合がいい時間に、神たちの日参がひっきりなしに始まった。
そしてもちろん、汰華琉を含めた、自然界が与り知らない件も、すべてがクリアになった。
この宇宙を生んだデヴォラが思念として、いいとこ取りをしてすべてを生んでいたと、誰もが確信して納得したからだ。
「…こちらに住まわせていただこうかしら…」
こう言ったのは、今日の参拝者の自然界の神のマリーンだ。
すべてにおいて一番理解できたのはこのマリーンだったので、この言葉が出ても当然と言ってもいいほどだ。
汰華琉が全住民に配るプレゼントもすべて配布を終えたこともあり、こうやって誰かがやってくる日が多くなったのだ。
「お水は一緒なのに、食べ物はこちらの方がおいしいですわ」とマリーンは笑みを浮かべて言って、汰華琉が作り出したお茶請けを口にした。
「この城の敷地内で採れた作物だけを使って作り上げたものです。
お口にあったようでなによりでした」
汰華琉が言って頭を下げると、マリーンは薄笑みを浮かべて頭を下げた。
「ほら、謁見時間は終わりよ」と言ったのは燕で、汰華琉たちに大いに気を使っている。
マリーンは駄々をこねることなく汰華琉たちに笑みを向けて、「それでは、ごきげんよう」と陽気に言ってから、頭を下げたまま消えた。
お付の方が気を使ってくれるので、汰華琉たちにとってはありがたいことでもあった。
汰華琉は家族たちの時間も大切にするので、謁見の件数は最大でも一日一件、一時間以内と決めていた。
よってこの先は家族との自由時間で、眉を下げて汰華琉を見上げていたたまに寄り添った。
「今度は何?」と汰華琉が眉を下げて聞くと、たまは人形を手にとって、「おうち、作ってぇー…」と懇願してきた。
今までに三つほど作ったのだが、何かが気に入らないようなので、汰華琉はその家を三軒並べてからはたと気づいた。
動物視線で見た場合、人間の住む家は違和感でいっぱいなのだ。
よって汰華琉は、大きな木をイメージした家を作り始めると、たまは今までで一番陽気になって、汰華琉に抱きついて離れなくなった。
そして裏側は岩場になっていて、こちらの獣人たちは肉食獣だ。
たまは汰華琉に手を合わせて喜んで礼を言ってから、女の子たちとともに陽気に飾り付けを始めた。
そして美貴がすべてを詳細に報告書に認めて、ミキコンツェルンに送信した。
獣人の着せ替え人形シリーズはもうすでに商売として成り立っていて、新作などは配布ではなく販売を始めている。
現在のところは、汰華琉が援助金を支払って作ってもらっているので、それほど高いものにはなっていないが、いずれは援助金を打ち切ることに決まっている。
子供たちに夢を持ってもらうことで、このケイン星は大きく変わりつつあった。
大人たちは幸せそうな子供たちのために奮起し始めたのだ。
もちろんすべての人間たちが等しくそうではないので油断はできない。
特に富裕層はまだまだかなりめんどくさい面は大いにある。
だが、警察省から発表される犯罪件数などは激減を果たしたので、ケイカンとしての汰華琉の出番はなくなっていた。
その資格を返上してもよかったのだが、警察署の方で開放するつもりはない。
そんな中、ついに汰華琉の研究が日の目を見ることになり、報道が始まった。
それは進化過程での係わった動物についての研究結果だ。
よって、この『能力者開花条件』の件についての問い合わせが、現在の窓口のミキコンツェルンに殺到した。
その準備は終えているのだが、まだ営業はしていないので、今のところは門前払いにしている。
「必要があれば出向くから」と汰華琉が公表しても、我先にと駆け込むことが、まだ当たり前のようにまかり通っている。
よって、「駆け込んできた者は後回しにする」と汰華琉が公表することで、騒ぎはあっという間に終結した。
もちろん、WNA内部でのコネクションも存在していないことは、理事長が公言しているので、さらに苦情すら言えない状態となっている。
そんな中、平和になったといわんばかりに、WNA主催のパーティーが行われた。
参加者はWNA各理事とその下の組織でもある各委員、そして大和家で、ホストは大企業の代表として、ミキコーポレーションが請け負った。
そしてこのパーティーの一番の話題は、このヤハン国の力関係の歴史が紐解かれたことに尽きた。
多くの歴史書の中に、美濃家、肥後家、そして大和家の名が多く見られ、さらには捏造ではないことも多くの研究家によって立証されていて、もう報道にも乗っている。
さらに言えば、大和性を名乗っているのが汰華琉たちしかいないことも公表されたので、大きな話題となっている。
結局は体のいい、『大和汰華琉との顔つなぎ』が、主たる目的のパーティーと言っても過言ではない。
少し前までの研究結果だと、大和家は美濃家の家来的に語られていたのだが、実はそうではなく、一番の権力者は大和家にあったとされた。
その家系図には何度も、『大和汰華琉』の名が出てくるのだ。
よってその名は世襲制となっている史実も発見されている。
そして現在の戸籍とそれ以前の戸籍から、汰華琉の曽祖父が大和汰華琉を名乗っていた事実も公表された。
この件によって無碍な、『孤児差別』は、目に見えて行われなくなってきた。
もっとも、表立って差別をするような事態となれば、魔王が睨むという罰が横行していたことも、収まっていった理由のひとつと言っていいほどだった。
そして今の大和家は、妹たちを養子にしていることで、良縁を望む権力者が大勢いることも否めない。
雅、誉、そしてたまは、かなり大人しい方なので、大勢の若者たちが三人をとり囲むようにして、口々に言葉を発するが、「…自己主張も大概だ…」と魔王がうなると、即座に解散となって、雅たちは魔王に礼を言った。
魔王は美貴に戻って、「いい人いた?」と聞くと、三人は大いに眉を下げていた。
「そうね! 能力者じゃないと相手は無理だわ!」と美貴がこれみよがしに大声で叫ぶと、会場内に一気に悲壮感が流れた。
「…そうでもないんですけどぉー…」と誉は言って眉をひそめた。
「あら? 気に入った人っていたの?」と美貴が興味を持って聞くと、「…ここにはいませんけどぉー…」と誉は頬を赤らめて答えた。
「へー… だったらまだ学生?」と美貴が少しだけ声を潜めて聞くと、誉は小さくうなづいた。
「でもね、相手も能力者じゃないと、あとが辛いわよ」
「…お兄ちゃんが引き上げてくれないかなぁー…」と誉が頼りなげに希望を述べると、美貴たちは愉快そうに笑った。
「随分と自己主張できるようになったわ」と雅が笑みを浮かべて明るく言うと、誉は頬を赤らめて頭を下げた。
「あら? そういえばそうだったわ。
これも、汰華琉効果のようね」
美貴の言葉に、誉は笑みを浮かべてすぐにうなづいた。
「…何も言えなかった私が嫌いなので…」と誉が言うと、美貴たちは何も言わずに笑みを向けただけだ。
「十分に義理は果たしてるよ」
汰華琉の明るい言葉に、山城理事長と美紗子は眉を下げている。
まさにお見合いの席だったのだが、こちら側が能力者集団なので、うまくいくはずはないと思ってはいたものの、一縷の望みさえ消えうせていた。
「これが切欠で、さらに悪い膿を搾り出したいところだね」
汰華琉の明るいが厳しい言葉に、父母は大いに眉を下げた。
汰華琉は何も言わずに会場を見回すと、首を横に振って眉を下げている美貴の視線とぶつかった。
「…となると… お母ちゃんの推薦人たちだけかな?」と汰華琉は言って、ボーイとメイドに集中を始めた。
そして汰華琉は、「どうしてフロア係にしなかったの?」と汰華琉がいきなり言うと、美紗子は慌てて走り去った。
「…表に出ていない子たちに資格が…」と山城は少し嘆いたが、最後は笑みを浮かべていた。
「会えば大体のところはわかりますが、
半分以上はごり押しでしょう。
自己主張しない者が裏方に回ることは世の常です」
すると美紗子は、悲壮感漂う接待役の責任者を連れてやってきて、その背後には地味に着飾っている、大勢の裏方担当者が眉を下げてやってきた。
すると美貴が小走りでやってきて、男子二名と女子一名を確保した。
「…はは… 三人とも肥後家の人なんだ…」と汰華琉はネームプレートを見て言った。
「あら? 見てなかったわ!」と美貴は叫んでから陽気に笑った。
よって、能力者資質は十分な逸材で、遅れてやってきた雅が、汰華琉に向けて笑みを浮かべていた。
「肥後君!」と山城が叫ぶと、理事第二席の肥後成昌と秘書の肥後武美がすっ飛んでやってきた。
同じ肥後でも上下はあるが、美貴が見抜いた三人とは接点があるはずなのだ。
「…大人しい君たちがまさかだったぁー…」と成昌は男子と女子を見ていい、「…姉冥利に尽きるわぁー…」ともうひとりの男子に向けて武美が言った。
「WNA内部から仲間を仕入れることは、
さらに結束を深める常套手段ですから」
汰華琉の言葉に、肥後家一同は一斉に頭を下げた。
汰華琉は三人に顔を向けた。
「この先は君たちの自由だ。
今のままの服装でいるか、俺たちのように着飾るかで、
この先の運命が変わる」
汰華琉の言葉は重く三人にのしかかり、三人ともが大いに眉を下げた。
「私は、今のままがいいです」と紅一点の肥後光が、今までの顔を捨て、汰華琉に挑むように言った。
「光っ! どういう了見だ?!」と成昌が叫んだが、汰華琉がすぐに手で制した。
「気に入らないことを教えて欲しい」と汰華琉が穏やかに聞くと、「パーティーなんて、贅沢でしかありません!」と光はまず叫んだ。
「費用はすべて俺が出してるんだよ」
汰華琉の言葉に、光だけではなく、肥後家一同が大いに目を見開いた。
「それにね、着飾るとたったそれだけで、
数万人の子供たちの生活が安泰になるようになっているんだ。
知っていると思うけど、特定店舗の寄付制度を使ってね。
俺としては偽善者と言われたくないこともあって、
直接の寄付はしないんだ。
それは貧困層といわれている人たちへの甘やかしでもあるからね」
わずかだが、大和汰華琉の考えに触れた光はすぐさま頭を下げた。
「ほかには?」と汰華琉が光に聞くと、「…好きになれない人…」と光はうなった。
「それはよく言われるから、もう慣れた。
ほかには?」
「私は意地を張って、お断りします!」
光が目を吊り上げて断言すると、「今の君だと誰も救えない」という汰華琉の言葉に光は目を見開いた。
「…意地を張るだけじゃダメ…
そこにはきちんとした理由がないと…」
誉の発言に、汰華琉と美貴は満面の笑みを浮かべていた。
「孤児の化け物集団に染まりたくない!」と光が一番に思っていることを叫ぶと、真っ先に成昌が頭を振った。
「…私はね、あなたと逆…
家族がいるのに、そこは他人以上に冷たい場所だった…
すぐにでも逃げ出したかったけど、その当時の私にはできなかった…
もちろん、お兄ちゃんもお姉ちゃんたちも孤児なのは知っていたけど、
百年前はみんな孤児のようなものだったって、報道があった通りなの…
生きていくためには、奪ってでも生き残りたかった…
まさにそれは、理不尽な戦争と同じだったって、私は理解したの…
平和になった今だからこそ、
退屈しのぎに差別を楽しんでいるだけのようなものだわ」
かなり辛らつなことを誉は言ったが、光は素直に頭を下げていた。
「それに、光さんも孤児のはずよ」と誉が成昌を見て言うと、「…大正解…」と成昌がつぶやいたので、光は目を見開いた。
「さすが、凄い目をしてるね」と汰華琉が誉を褒めると、誉は笑みを浮かべて頬を赤らめた。
「…探る必要もなかったわ…」と美貴は眉を下げて呟いた。
光は振り返って男子二名を見て、「悪いけど裏切るわ」と光は言って、誉に満面の笑みを向けて頭を下げた。
男子二人は大いに迷った。
三人が能力者の端くれであったことは気づいていたので、今のところは同盟を組んでいたのだ。
光が語ったことがその理由であり、すべてだった。
「じゃ、解散で」と汰華琉が言うと、男子二名は大きく目を見開いた。
光はもうすでに美貴によってパーティー衣装に着替えていた。
「…お兄ちゃんって、なかなか意地悪だわ…」と雅が言ってくすりと笑うと、男子二名は大いに戸惑った。
「安心したところ申し訳ないが、雅もなかなかの化け物なんだぞ?」
汰華琉の言葉に、男子二名はまた震え上がっていた。
「血筋としては、雅の父が美濃家。
俺は母が美濃家ってことはわかっているんだ。
このヤハンでは、美濃家が絶大なる権力を持っていたように思っていたけど、
実際は俺しか残っていない大和家だったらしい。
一部は報道でやっていたから、聞いていると思う」
汰華琉の言葉に男子二人はすぐにうなづいた。
能力者だからこそ、このような報道については、年齢に関係なく伝達速度はなかなか早い。
肥後家でもそういった教育を受けている事実もある。
さらには報道以外でも、肥後家党首からの言葉も伝えられた上でここにきているのだ。
その党首の口癖は、「…ワシが能力者だったら…」だった。
もちろんその先の言葉も気になったのだが、党首がにやりと笑ったことで、光曰く、「スケベなこと」らしい。
「正当な肥後家家人が、どれほどいるかが問題だな」
汰華琉の言葉に、成昌が大いに眉を下げた。
「子供の言ったことだから気にするな」という山城理事長のこの場限りの慰めはまったく通用しなかった。
結局は男子二人はまったく語ることなく、美貴の手下となって、着飾って居心地が悪そうにしていた。
パーティーが終わり、早速三人の歓迎会を修練場で行って、大いに鍛え上げてから城に戻った。
汰華琉が寛ごうとすると、たまが眉を下げてやってきた。
「なんだい?」と汰華琉がすぐに聞くと、「…あのね…」とたまは言って、ちょっとした願い事をした。
するともう美々子が絵を描く準備を始めたので、「今更断れない」と汰華琉は眉を下げて言ってから、その被写体となる準備をしてから、満面の笑みを浮かべているたまたちがいる絵を描いた。
もちろん今回も、いるはずのない、少女の天照と少年の汰華琉のあねおとうとも絵の中にいる。
二人の描く絵に、この二人はほぼレギュラーでその姿を現している。
そして魔王によって絵画は合成されて、紙に印刷したものをたまたちに配ると、子供たちは一斉に魔王たちに礼を言って、不思議な写真を飽きることなく見入り始めた。
そして美術館で販売するポストカードも作り上げて、うまい匂いを嗅ぎ付けてやってきた美紗子に、絵画とポストカードとその手引き書の束を渡した。
美紗子はポストカードを見入りながら、絵画を梱包して、リビングを出て行った。
そして今度は汰華琉を丈夫が眉を下げて見上げていた。
「おっ 珍しいこともあるな」と汰華琉が言うと、「…訓練、手伝って…」と丈夫が照れくさそうに言うと、「ああ、もちろんだ」と汰華琉は陽気に言って、素早く立ち上がった。
そして二人は玄関先に広がる整備された庭園に出た。
「新しい竜の形だけはできたんだ」と丈夫は言って、その姿を妙にずんぐりとした白っぽい竜に変化させた。
「…マシュマロの竜…」と汰華琉が苦笑いを浮かべて言うと、「雲竜だよ!」と竜が怒って叫んだ。
「ふーん… なかなか濃密… というか、凝縮された雲だよなぁー…」と汰華琉は言って、まさにマシュマロのようなその体に触れた。
「雷竜でもあり、風竜でもある」
汰華琉の言葉に、雲竜は目を見開いた。
「あとはその能力の使い方だ。
まさに自然に乗っ取って、
高気圧と低気圧を意識して、
マイナスイオンとプラスイオンの位置づけを確実にする。
水竜と火竜、さらに土竜に変身できるんだから、
一から説明する必要はないはずだ」
「…お… おう…」と雲竜は言って、口から雲を吐いて、その体を徐々に大きくしていった。
「まずは軽く風を起こしてみな。
これが一番簡単だ。
なんなら、怒らせてやろうか?」
汰華琉が言ってにやりと笑うと、「その程度はできる」と雲竜が自信を持って言うと、木々や草花が揺れ始めた。
「次は逆の風」と汰華琉が言うと、雲竜は高気圧と低気圧を入れ替えて、逆からのそよ風を吹かせた。
「あとは、高気圧と低気圧の規模や濃度を上げるだけで、
風は自在に操れるはずだし、
竜巻だって思いのままに起こせるはずだ」
「…おっ おう…」と雲竜は小声で言った。
まさかこんなに簡単に、風竜の力を手に入れるなどとは思いもよらなかったのだ。
「じゃ、次は雷竜だ。
今回はそれほど簡単じゃないし、
ここでは少々危険だが、
意識して小さいものだったら問題はないはずだ」
汰華琉の言葉に、雲竜は深くうなづいた。
「高気圧と低気圧の小さいものを極限まで密度を上げる。
あとはマイナスイオンとプラスイオンを意識して、
プラスイオンめがけて高気圧と低気圧を一気にぶつける。
風の術の、かなり小さくて、かなりの高等技術となるようだけどな」
風竜は何度も繰り返して極限まで濃度をあげた小さな高気圧と小さな低気圧を作り上げた。
そしてその濃密な球は、一瞬にして雲竜の頭上で接触して、『ガァ―――ンッ!!!』という、とんでもない音とともに、汰華琉が地面に設置していた避雷針にイカヅチが落ちた。
「おっ! 大成功!」と耳をふさいでいた汰華琉が陽気に言った。
「さらには、雨を降らせることも可能なはずだ!」
汰華琉は陽気になっていた。
雲竜は汰華琉と様々な話をしながら、ついには雹を降らせる氷竜の術の切欠まで得ていて、「…まさかだったぁー…」と雲竜は嘆いたが、満面の笑みを浮かべた。
すると、今にも泣き出しそうなたまがやってきて、「もういい?」と汰華琉に聞いてきたので、「ああ、いいぞ」と汰華琉が言うと、たまは満面の笑みを浮かべて雲竜に抱きついて陽気に笑った。
「おい! こらっ!」と雲竜は汰華琉に向けて叫んだが、汰華琉はもうすでにきびすを返していたので、雲竜の声は聞こえていなかった。
「…普通じゃないぃー…」と美貴が眉を下げて嘆くと、「指導するだけだったから楽なもんだった」と汰華琉は明るく言った。
「…人助けには必ず必要になることばかりだった…」とマイケルまで嘆くようにうなっていた。
「緑竜も持っているので、
荒地は一瞬にして風光明媚な土地に変えられるでしょうし、
土地を変化させての実証検分も簡単にできるでしょう。
雲竜は生物にとってやさしい竜になりそうです」
汰華琉は子供たちが陽気に抱きしめている雲竜を見て、笑みを浮かべて言った。
「…丈夫様は、そうは思っておられんようだがな…」とマイケルは言ったが、子供たちの言いなりになっている雲竜に笑みを向けていた。
するとテレビから、『来館者、毎日先着百名様限定のプレゼントです!』という、美紗子の陽気な声が聞こえた。
放映されていたのは、食後のひと時の情報番組だった。
「…美術館の客寄せ…
宣伝なんて全然必要ないのに…」
美貴が眉を下げて言うと、「やりがいを感じるからじゃないの?」という汰華琉の言葉に、美貴は眉を下げながらもすぐさま賛同した。
来館のプレゼントは、今作ったばかりの擬似ホログラム写真だった。
本来は土産物の売店で、それなりの値段で単体で売ったり、ポストカードと抱き合わせて売るそうだ。
『どのようなことでもいいので、
大和汰華琉様について教えていただきたいのです!』
インタビュアーの心からの叫びに、「…なかなか乱暴なインタビューだ…」と汰華琉が呆れて言うと、「…きっと、台本は母さんよ…」と美貴はあきれ返って答えた。
『…うふふ… これ、言っちゃおうかしらぁー…』と美紗子は興味を引くような含みがあるような話し方をした。
「…ああ、あれだ、あれ…」と汰華琉が眉を下げて言って幹子を見ると、「…大丈夫かしら…」と美貴は大いに心配をしていた。
『我が息子、大和汰華琉は、若返りの術をもっているのです!』
美紗子はわが子自慢のように叫んだ。
『わかりやすい人がひとりいるので、
証明はできるのですが…
…私には術を施してくれませんの…』
美紗子が眉を下げて悲しそうな感情を込めて言うと、「…母ちゃんが恥ずかしいぃー…」と美貴は大いに嘆いたが、汰華琉は愉快そうに笑った。
『でも! 若返らせてくれるかもしれないから、
しっかりと今の私を撮っておいてね!』
美紗子は陽気に叫んだ。
『…で… ですが… ずっと、若返らせれば…
…永遠の、命、とか…』
インタビュアーの途切れ途切れの言葉に、『…生物ってね、悲しいかな寿命があるの… いくら若くて健康であっても、長くもっても百二十年頃から呆けちゃうんだって…』と美紗子が眉を下げて言った。
「…エッちゃんから聞いたようだ…」と汰華琉が眉を下げて言うと、「…余計な知識を…」と美貴は機嫌が悪そうにうなった。
『…うふふ…
その資格がある人には、
汰華琉がいきなり訪問するかもしれないわ』
美紗子の言葉に、「なくはないな」と汰華琉は賛同して言って、また幹子を見ると、「…それはその通りだけどぉー…」と美貴は言って眉を下げた。
『汰華琉!
もっと働きたいから、若返らせて!』
美紗子が叫ぶと、汰華琉は愉快そうに笑い、美貴は下を向いてかぶりを振った。
『…お母ちゃんね、ここんところ、すっごく老いを感じるの…』
「…良心の呵責に押しつぶされるような、卑怯な手を使ってきたな…」と汰華琉が嘆くと、ついに美貴が消えた。
そして魔王がいきなりテレビ画面に現れて、『いい加減にしろ!』と叫んだので、汰華琉は腹を抱えて笑い転げた。
『…今の話、すべて忘れろぉー…』と魔王がうなると、インタビュアーは涙を流しながら何度もうなづいていた。
『あ、あと、言っておくがな。
若返って調子に乗っていると、
働きすぎに気づかなくなる。
だから、寿命が来る前に
人知れずぽっくりと死んでしまうこともあるぞ』
魔王がにやりと笑って言うと、『あー…』と美紗子とインタビュアーが呆然として言った。
『どんなことでも、いいことばかりはそれほどないということだ。
愚かな人間どもは、大いに考え直した方がいい』
魔王は言いたいことを言ってから消えて、汰華琉から飛び出してきた。
すると魔王に向けて神たちが拍手をしていた。
まさに、神が言いたいことをいってくれたという、歓迎と感謝の拍手でもあった。
「家族愛にあふれる家族にだけは、
正確に届いただろうな」
汰華琉の言葉に、魔王は美貴に戻って、「…そうね…」とつぶやいてから汰華琉を抱きしめて甘えた。
「ぽっくりと死なないように気をつけないとな」
「うん… 汰華琉に向けて言ったのぉー…」
美貴の言葉に、誰もが戦慄が走っていて、「さっさと寝ろ!」とまずはマイケルが叫んでいた。
そしてたまが、「…ごめんなさい、ごめんなさい…」とつぶやきながら汰華琉に抱きついてきた。
「…じゃ、寝るか… おやすみ」と汰華琉は言ってから、たまを抱き上げて美貴と大勢の子供たちとともに寝室に行った。
「お前が死ぬわけがないんだぁー…」と願いの夢見の中でマイケルがうなった。
「不安にはなったんでしょ?」と汰華琉が聞き返しながら敵の武器を粉砕すると、「…絶対にないとは言えん…」とマイケルは眉を下げてうなってから、「これでいいな!」と願いの主に向けて叫んだ。
その願いの主が何度も頭を下げると、マイケルたち一行は、願いの聞き届け場所の小部屋に戻ってきた。
この部屋に戻る方法は、依頼主を納得させるか、正しい意思を持って、夢見の誘い主が強制的に戻るかのどちらかだ。
かなり使える神ではあるので、願いの主が無謀なことを言って、返さない手を使ってくることがある退避処置でもある。
そういった者には、願いは二度と神に届かないという罰則もある。
一方、たまを含む子供たちは、まるで遠足気分で陽気だった。
「お前らも時にはこうやって連れてきてやるから、
汰華琉にあまり甘えるな、いいな!」
マイケルの厳しい言葉に、「守ります!」と真っ先にたまが真剣な目をして叫ぶと、子供たちもすぐに追従した。
「…俺の生きがいでもあるのに…」と汰華琉が嘆くと、「…余計なことを言うなぁー…」とマイケルはうなった。
「子供たちも含めて、家族には甘すぎるし、
それ以外にも一生懸命だし…」
美貴の言葉に、「…お、おう…」と汰華琉は少し照れてなんとか返事をした。
「おっ! お前らが必要な願いだ!」とマイケルはたまたちを見て叫んでから、ひとつのパネルに飛び込んだ。
「…まさに、適材適所…」と夢から覚め、汰華琉は天井を見上げて呟いた。
「…そうね… 子供たちがいたから簡単だった…」と美貴も賛同して言ってから、汰華琉とまだ普通の夢の中のたまを抱きしめた。
「…ひとりでは何もできない典型だな」と汰華琉は言って、子供たちを乱暴に起こし始めた。
「…私もまだ経験してないのにぃー…」と江戸忠美はリビングで眉を下げて兄弟たちを見て呟いた。
「お願いしてみるよ?」と妹の一人の生江が小首を傾げて言うと、「ありがとう… でも、自分で言ってくるわ…」と忠美は言って立ち上がって、美貴に寄り添った。
「あら? 朝っぱらから何を盗みに来たのかしら?」と美貴が言って汰華琉の腕を抱きしめると、忠美は大いに眉を下げていた。
「…そういう理由で、ダメですか?」と忠美がかなり言葉を省略して聞くと、「最低でも保護観察が解けてからね」と美貴は陽気に言った。
「私の場合は三年かかったから。
もちろん悪事じゃなくて、
私自身が正しいと思えば、どんな無謀なことでもやっちゃう件」
美貴の言葉に、忠美はこの件はたま経由で聞いて知っていたので、すぐさま頭を下げた。
「保護観察が解けたとしても神の審査があるわ。
そのあとに汰華琉の審査があるから、
五年程は自由にはならないと思っておいた方がいいわね」
忠美は一瞬、心が荒れそうになったが、それでは元の木阿弥と思い、心を落ち着かせた。
「だから刑を受けてきな」と汰華琉がうなるように言うと、忠美は頭を下げっぱなしになっていた。
「囲いの中で使えるやつを見極めて連れてくるという特殊任務があったんだが…」
汰華琉の言葉に、誰もが顔を上げて目を見開いていた。
忠美はようやく現実に引き戻され、そして今の自分にできることとして、「どうかやらせて!」と叫んだ。
「…私たちが行けばそれでいいじゃない…」と美貴が眉を下げて言うと、「何でもかんでも、俺たちがやっていいものかどうか」という汰華琉の言葉に、美貴は眉を下げながらも同意した。
「…母さんを呼ぶわ…」と美貴は言って、通信端末を出した。
美紗子は眉を下げながらも、忠美の主張を受け止めて、刑に服させることに決めて、身支度をさせた忠美と外に出た。
「次に姉ちゃんに会えるのは、遅くてもひと月後だろう」
汰華琉の明るい言葉に、忠美の兄弟たちは満面の笑みを浮かべていた。
「…そう… 獲物は何人かいるのね…」と美貴が眉を下げて言うと、「問題は改心できるかどうかにかかっているんだ」と汰華琉は明るくいった。
「俺たちが示唆して連れて帰ってきた場合、
色々と隠すだろうからな。
結局はその次点で刑務所に戻ってもらうことになるから意味がない。
忠美を行かせることで、心底素直になってもらおうと思ってな。
忠美だって、ここにいた十数日間、
何も考えていなかったわけではないはずだから」
「…功績を恩赦の材料にするわけね…
…心底の改心があるという証明のようなもの…」
美貴の言葉に、汰華琉は笑みを浮かべて何度もうなづいた。
「ついに、細かくなってきたな」とマイケルが機嫌よく言うと、「時には神が手を出してもいいんですよ」と汰華琉が言うと、「時にはそうするさ」とマイケルは陽気に言って、「朝っぱらからねだろうとするな!」とマイケルはたまに向けて言うと、汰華琉と美貴は愉快そうに笑った。
そんな中、ついにケイン星独自のカーニバルの準備が始まったと、報道に乗った。
開催場所はもちろんこのヤハン国で、WNAが七割、国家が三割の出資負担をすることに決まった。
もっともその売上金は国家に計上されることになるので、WNAとしてはただの名誉職のようなものだ。
実際の資金は、ほとんどが汰華琉のポケットから出ているので、WNAの懐はまったく痛まない。
さらには新たな発見もあり、歴史的文献の中の、過去の農作物なども、古代の水によってかなりうまいものだったと知って、誰もが感動していた。
そして、日持ちのするものから順に、本格的な製造が始まった。
今までの加工技術の数倍の文献や調理レシピなども次々と発見されたことが大きい。
さらには試験として、ほんの一部がスーパーなどに出回ると飛ぶように売れる。
同時に料理研究家によって、詳しいレシピなども公開され始め、書籍の売り上げなども大いにうなぎ登りとなった。
ついにヤハン国内は、カーニバル効果による高度成長期となっていった。
そしてカーニバルの目玉でもある、美男美女コンテストの受付と予選が全世界で始まった。
各国の代表者は、まさに王子様お姫様気分でヤハンに乗り込んでくることができる。
もちろん、必要経費はすべてカーニバル開催国が、決められた予算を支払って行われる。
ちなみに、ご他聞に漏れず、出場者は独身者に限るので、美貴が大いに悔しがっている。
さらには、宇宙一喧嘩選手権ではないが、『マッスルバトル』という出し物もあり、はっきりいって喧嘩選手権だ。
もちろん力を見せ付けて勝ち上がる競技でもあるのだが、肉体美の審査もあるので、喧嘩が強くなくても賞をもらうことは可能だ。
もちろん汰華琉も客寄せとして出ることになり、早々に公表されたのだが、それほど申し込みが殺到しなかった。
しかし、この催しもヤハンに無料で来ることができるので、それぞれの国で数百名ほどの申し込みはあるようだ。
祭りで販売する商品などは、汰華琉と美貴で様々な指導を行うことになっていて、その形や味などの指導も厳しいものがある。
よって、半数ほどは原型を留めていない商品が多く出ることになったが、美紗子はかなり機嫌がいいので、それほど問題はない。
汰華琉自らが内容物とパッケージのデザインをしたのだが、大人には受けがいいが、肝心の子供たちは迷っているように感じた。
汰華琉の創作意欲に火がついて瞳がきらりと光り、たまたちに入念なインタビューをした。
やはり、内容物の作物などを前面に出すのではなく、キャラクター性が重要だと知って、フリージアなどでのパッケージデザインや内容物の形状デザインなどを調べ上げ、実際に輸入して、子供受けの実証見聞をした。
やはり、子供らしいストーリー性は重要として、現在大人気で汰華琉オリジナルの獣人たちの童話集をパッケージデザインとして採用し、そして今までにこの星の歴史では希薄だった、おまけを入れ込むことで、たまたちは熱狂し始めた。
「…やりすぎって思うぅー…」と美貴が眉を下げて嘆くほどだったが、汰華琉としてはこれでよしとして、おまけのデザインをさらに考え出し始めた。
さらには男の子用として、リナ・クーターの物語をすべて輸入して、まずは映像化商品の販売に踏み切ると、まずは子供から火がついて、比較的若年層の少年と青年が食いついた。
この件は美紗子にすべて丸投げして、フリージアとの貿易を正式に開始することになった。
フリージアで販売している商品は、フリージア、アニマール、右京和馬の各星で分担して製造していることもあり、ケイン星との惑星間の商業的交流が始まったといっていい。
「…ふふふ… 我にひれ伏せぇー…」と汰華琉が子供たちを見回しながらうなると、「…悪者でしかないからやめてぇー…」と美貴ですら大いに嘆いていた。
汰華琉は子供たちの神として君臨したが、特に魔王のようになることはなく、その効果はヤハンからほかの国にも波及した。
まだカーニバルは行われていないのだが、カーニバル効果を予想していた経済効果が目に見えて現れ始め、ヤハンが世界の中心となった。
このような忙しい中でも、自らの肉体を鍛え、星々を巡る旅は行われているのだが、仲間にできる人材が現れない。
もちろんカーニバルが行われると、確実に数名は雇うことになるのだが、汰華琉としては今の状態でひとりでも雇いたい意思がある。
汰華琉の目が厳しいせいもあるのか、汰華琉のめがねに適う者は現れない。
そして美貴たちが推薦することもない。
汰華琉だけではなく、その家族たちの目も、少々厳しいものがあるようだ。
そんな中、ロストソウル軍常駐班の定期的な入れ替えがあり、まるで軍人には見えない少年のような男性が責任者で、「星野春介です」と名乗った。
「ああ、あなたが万有王の数少ないお弟子さんのおひとりですか」と汰華琉は確信して言うと、春介は戸惑うことなく、笑みを浮かべて頭を下げた。
その地位を聞くことはなく、かなりの高職だと察して、もちろんスカウトすることはなかった。
しかしその高官がなぜここにやってきたのかが、汰華琉は気になっていた。
「…このケイン星の掌握にでもやってきたのかしらぁー…」と美貴がうなると、誰もが大いに眉を下げていた。
雰囲気すべてから、春介にはそのような野望などはなく、見た目にも平和でしかない。
よって、春介としてはこのケイン星での生活を望んだようだった。
「…スカウト、してくださいませんか?」と、眉を下げて春介が聞くと、汰華琉と美貴は顔を見合わせた。
その事情は簡単で、春介は向上心が旺盛だったことに尽きる。
そして、現在の地位を誰かに譲ることも、ロストソウル軍にとってもいいことではないのかという考えもあった。
しかしこの考えは、春介のすべての上司によって打ち消されているので、春介としてはなんとしてもロストソウル軍の外に出たいこともあって、今回はごり押しをして何とかケイン星に渡る希望が叶ったのだ。
もちろん汰華琉の性格を察して、無謀なことや、友好の裏切りのような手には出てこないという信頼関係があったからこそだ。
案の定、汰華琉と美貴はフリージアに飛んで、源一と爽太に謁見して、星野春介について語り合った。
爽太は終始眉を下げていたが、これを機に、春介の代わりを置くことに決めた。
その候補者が数名いたことが、汰華琉にとってはうらやましい限りである。
源一としては何の戸惑いもなく、「春介の思い通りでいいよ」と器は広く、懐は深い。
しかしここに同席しているフリージア王代理で、現在は補佐のマサカリ・ウェポンが大いに眉を下げている。
マサカリも源一の弟子のひとりで、彼はロストソウル軍ではなくフリージア軍として独自の部隊を抱えている。
現在の第二のフリージア星での戦力で、水竜アリスを神として崇めているが、竜の実力的にはその水竜よりも勇者でもあるマサカリの方が上位者だ。
ちなみに、源一が戦列に復帰したことによって、源一の部隊が第一の戦力となっている。
「…ですが、源一さんの弟子になってそれほど時間が経っていないんですよね?」
汰華琉の言葉に、「余計なことは聞かなくていいの」と美貴がすぐさま口を挟んだ。
「…思うわぬ欠点とかが気になってね…
彼はなんと言うか…
完璧すぎる?」
汰華琉の言葉に、「あんただってそうじゃない!」と美貴は今回は少々怒り心頭で叫んだ。
「俺の場合は運がよかっただけ」という汰華琉の穏やかな言葉に、「…うー…」と美貴はうなるしか術がなかった。
「…ふむ…」と源一は腕組みをして考え込んでから、春介に念話を始めた。
そしてひと言ふた言言葉を交わして、「…それ、冷静過ぎないか?」と源一が言ったとたん、汰華琉は笑みを浮かべてうなづいた。
「…それの、何が悪いのよぉー…」と美貴がうなると、「見すぎてしまって不幸に見舞われることなどが考えられる」と汰華琉が言うと、「…はい、それはありますね…」と爽太が眉を下げて言った。
「冷静なまま体が動けばいいんだが、
もしそうでないととんでもない欠点になるから、
組み手をすればすぐにでもわかるはずだ」
汰華琉の言葉に、「いやぁー! まさかだった!」と念話を終えた源一は陽気に言って、汰華琉の言葉を認めた。
「だから余計に、春介を預けることに決めたから」という源一の明るい言葉に、「はい、ありがとうございます」と汰華琉は笑みを浮かべて礼を言った。
「…あんたらって、普通じゃないわね…」と美貴は大いに嘆いた。
「美貴のように反対意見を述べる人も重要なんだ。
美貴の言った通り、俺たちは確実に普通じゃないから」
汰華琉の言葉に、源一も爽太も笑みを浮かべて認めたことで、「…魔王に変身しておけばよかった…」と美貴は大いに嘆いた。
「それはそれで、
ちいせえことは気にすんな!
などと言って話し合いにもならない」
汰華琉の言葉に、「…確実に言う…」と美貴は眉を下げて答えた。
ここで爽太によってひとり増えた。
もちろん春介の代わりのロストソウル軍防護隊の隊長で、どこからどう見ても百戦錬磨の猛者でしかない。
名をギルバートとだけ名乗った。
だが、普通であれば、誰もが怪訝そうに見るだろうが、その目をしたのは美貴だけだったが、魔王に何かを言われたようで、表情をすぐに薄笑みに変えていた。
しかし、「…うーん…」と汰華琉がうなったことで、誰もが大いに眉を下げた。
「さすがに元とはいえ、星の創造神は困ります」
汰華琉の言葉に、「見抜かれたから失格」と爽太は言ったが、自然な笑みを浮かべていた。
そのギルバートは見た目通りの少年の表情で唇を尖らせて、「…いい修行になったのにぃー…」と眉を下げて言った。
「ここは仕方ない…
少々強力な守り刀を出しますか」
爽太は陽気に言って、ひとりの悪魔を召喚すると、「…マリアと喧嘩にならない?」と汰華琉は大いに心配した。
面倒になったようで、美貴は魔王に変身して、「よくねえな… 見ている方はおもしれえだろうが…」と言ってにやりと笑った。
「…それほど簡単に見抜かないでください…」と悪魔は眉を下げて穏やかに言った。
「態度も言葉遣いも荒れて見える方が、
悪魔としては普通ですからね。
あなたは今のマリアと同等だと感じるので、
だからこそ連れて帰ることはできません。
ですが、同じチームで戦う場合は、
本当に役に立つはずですから」
汰華琉の明るい言葉に悪魔は頭を下げて、「おかげであの信長を拘束できました」と改めて礼を言った。
「拘束せず囲んで睨んでいれば、
俺の出番もあったんだがな」
魔王が苦言を述べると、悪魔は大いに慌てて、何も言えずに頭を下げた。
そして、「…しまったぁー…」と悪魔が今更ながらに嘆くと、誰もが愉快そうに笑った。
そして悪魔はレイとだけ自己紹介をした。
まさに悪魔の頂点に達するほどの猛者で、ロストソウル軍の悪魔の中ではトップの地位に君臨している。
そして爽太自慢の品評会が始まって、十名ほどやってきたが、汰華琉がロックオンしたのはその中にはいなかった。
「ゼウスさんに来ていただけませんか?
交代は三ヵ月後ですよね?」
汰華琉の言葉に、誰もがあきらめの笑みを浮かべて、爽太の側近のゼウスを見た。
「…僕はいいけどぉー…」と爽太は大いに眉を下げて言ったが、「ご用命、本当に感謝いたします」とゼウスはその人となりのままに穏やかに言って頭を下げた。
「側近はまだいるんだろ?」と源一が爽太に聞くと、「…うん、問題ないよ…」と眉を下げて答えた。
「その代わりにマイケルでも出したいところでしたが、
神ケインと神マリアの護衛役でもあるので、
申し訳ないのですが、代わりを用意することはできないのです」
汰華琉が申し訳なさそうに言うと、「ランスさんでも呼ぶのでいいですよ」と源一は明るく言った。
すると、「え? 何をしてるかって?」と源一がいきなり表情を急変して言った。
どうやらそれなりの猛者が念話を飛ばしてきたようだ。
「うん、構わないよ」と源一が気さくに言ったとたんに、ひとりの少女が源一から飛び出してきた。
「…おー… 伝説が来たぁー…」と汰華琉がうなって、少女に拍手を送った。
「…あんたの罠をまんまと食らったわよ…」と少女は源一に言って、この場にいる数名に、かわいい面差しとはかけ離れている鋭い視線を向けた。
この少女は現在は喜笑星に身を置いているが、その部隊は別で、何かと注目されているセルラ星ゼンドラド軍に所属している、実質的なボスだ。
「セイラ・ランダよ」と少女が自己紹介をすると、汰華琉と美貴はすぐに挨拶を返した。
「一応弟子だったこともあるけど、
最終的に正したのは俺じゃないことが自慢できない」
源一が眉を下げて言うと、「結局は妖怪の仕業だったとか」と汰華琉がにやりと笑って言うと、セイラは火の出る勢いで汰華琉を見入った。
「大きな口はさすがに叩けませんが、
その程度のことで操られる人は必要としません。
と言うよりも、わかっていて操られていたようにも感じますね。
その生き方が楽に思えたから」
汰華琉の言葉に、美貴は何度もうなづいている。
セイラは大きなため息をついてから、「…帰るわ…」と呟いて消えた。
「…なるほどね…
真面目な自分がそれほど好きじゃなかったわけだ…」
源一は言って、笑みを浮かべて何度もうなづいていた。
「でもそれでは自然ではありませんから、
今が正しいと私は思います。
最終的に正したのは魔王らしいのですが、
そちらの方はそれほど興味はありません。
セイラさんにとっては、余計なことだったようにも思えますから、
まずは確認してからでも遅くはなかったように思うのです」
汰華琉の言葉に、源一は少し笑っていたが、爽太は大いに眉を下げていた。
「さすがに生きる伝説のセイラさんは潔し。
完成品はいらないという、
私の意思を尊重してくれたようですね」
汰華琉の言葉に、「…そうなれば、刺激を欲しがるからね…」と源一は眉を下げて言った。
「網を張って監視されていたようですね。
とんでもない実力者ではある」
「…あんなに複雑な人は知らないわ…」と美貴は眉を下げて嘆いた。
「まさに、適材適所の権化だよ。
だけどああなってしまうと、
今回のように高度な話し合いに首を突っ込みたくもなるんだろうね。
それに真面目だから、
昇天することも考えられるよなぁー…」
汰華琉のつぶやきに、「…大いにあるなぁー…」と源一も賛同した。
「…なんでも一人でできちゃうことも考えものだわ…」と美貴は大いに嘆いた。
「だけどね、製造については何も知らないんだ」
源一の言葉に、「それが唯一の光明のようなものですが、興味がわくことが第一条件でしょうね」と汰華琉は言葉は少し陽気だが、目は真剣だった。
「…もちろん試していて、呆れるほどに不器用だった、とか…」
汰華琉の言葉に、源一が腹を抱えて笑い始めた。
「そういえばそうだ。
彼女の場合は術師でもあるのだが、
細かいイメージングが必要としない術を多用する。
よって、製造はたぶん不得意だろう。
多く持つ種族を使い分けて多くを救うという、
まさに英雄的存在感を持っている。
製造に関しては、ある意味トラウマでもあるのかなあー…」
「でしたら、何も問題ありませんし、
我々は必要としていない人材ですね。
ですが、強力な盾が必要な時は、
頭を下げてお願いに行きますよ」
「…俺も、そうしよ…」と源一は汰華琉に賛同した。
するとセイラが源一から飛び出してきて、汰華琉を見入った。
そして、「…教材、頂戴…」とセイラは唇を尖らせて言った。
汰華琉は獣人の着せ替え人形の基本セットを出すと、セイラは目を見開いて箱を受け取って、勝手に椅子に座って箱を開け、笑みを浮かべて着せ替え遊びを楽しみ始めた。
そのしぐさや表情はまさに見た目の年相応と言っていいほどだった。
セイラの見た目や身長は十二才程度にしか見えないが、実年齢は三十五だ。
「友人はいるんですよね?」と汰華琉が聞くと、「いるけど忙しいし、半数は結婚して、多少の距離感ができた」と源一は眉を下げて言った。
「…喜笑星にいるんだったら、子供は多いはずだが…」
汰華琉がつぶやくと、「…田舎過ぎて詰まんない…」と人形に笑みを浮かべてセイラが言った。
「じゃあ、このフリージアに住めばいじゃないですか。
天使たちも着せ替え遊びがお気に入りのようですから」
「源一の妻の目がうっとうしいのよ」
セイラの言葉に、源一は大いに眉を下げた。
「じゃ、俺のうちも無理だな」と汰華琉が言うと、美貴は大いに眉を下げていた。
「ですが、お試しでケイン星に来てみます?」と汰華琉が言ったとたんに、セイラはそそくさと片づけを始めて、余裕の笑みを浮かべてフィルにお茶を注文したので、源一だけが腹を抱えて笑った。
「…ケインはまだしも、マイケルが嫌がらないかな…」と汰華琉が嘆くように言うと、「そっちの伝説にも会いたいの」とセイラが明るく言うと、汰華琉と美貴は顔を見合わせた。
「家柄は申し分ないよ」と源一が茶化すように言うと、セイラはひと睨みしたが、怒ることはなかった。
「そっちのマイケルはね、統括地の創造神もこなせるほどの神よ。
まさに、創造神の伝説のひとりなの。
私が認めるもうひとりは、八丁畷春之介」
セイラの言葉に、汰華琉は感慨深げにうなづいた。
アニマール星の王の八丁畷春之介とは、喜笑星での祭りの日に、汰華琉たちは挨拶だけは済ませていた。
まさに五大神のひとりにふさわしい人格者でもあったが、その威厳を隠すことはかなりうまいらしく、その力を正確に測れないほどだった。
「では、喜笑星でいう年寄りとして来てもらいましょうか」
汰華琉の言葉に、「…嫌な言葉の真似をしないで欲しいわ…」とセイラは眉をしかめて言った。
そして汰華琉は眉を下げているゼウスを見て、「セイラさんとは別件ですから」という言葉に、ゼウスは満面の笑みを浮かべた。
「…名前負けしてない子もいたわぁー…」とセイラは眉を下げてゼウスを見て言った。
どうやらゼウスはセイラの弱点でもあると思い、汰華琉はセイラとゼウスに大いに興味を持っていた。
「エッちゃんとはどんな感じです?」と汰華琉が興味を持ってセイラに聞くと、「…うう…」とセイラはまずうなった。
「エッちゃんはいいけど、デヴォラが苦手」
汰華琉の言葉に、「…あの御仁を気に入る人はまずいないから…」と源一ですら眉を下げて言った。
「しいて言えば、
まともに扱えるのは、
今のところは兄でもある汰華琉だけだろうね」
源一の気さくな言葉に、「いやー! なぜだか認められてしまったのでね!」と汰華琉は明るく叫んだ。
「…大神デヴォラの兄という称号…」とセイラがつぶやくと、美貴が魔王に変身していた。
身の危険を感じたセイラは眉を下げ、「…遊びに行くだけになりそうだわ…」と言うと、「はじめっからそのつもりでした」と汰華琉は明るく答えた。
汰華琉と魔王は源一たちに礼を言ってから、ゼウスとセイラを連れてケイン星に戻った。
「…おまえ…」とマイケルは横目で汰華琉をにらみながら、セイラに頭を下げっぱなしになっている。
「すべてを見抜いてしまうマイケルのその潜在能力が悪いんです」
汰華琉がさも当然のように言うと、マイケルは何も言い返せず、何とか頭を上げた。
「…うわぁー… セイラちゃんが来たぁー…」と桜良が眉を下げて言うと、「遊びに来てもらっただけだから」と汰華琉は大いに眉を下げて言った。
「…お兄ちゃんは猛獣使い…」とマリアが涙目で言うと、「違うぞー」と汰華琉はあきれ返ったように答えた。
そんな中、セイラはかなり穏やかに、見た目と同等の言葉遣いで汰華琉の家族たちと挨拶をして、やはりたまにつかまって遊び仲間になった。
汰華琉はゼウスとともに第一宇宙観測所に飛んで、春介に引継ぎを頼んだ。
春介としては心中穏やかではなくなっていた。
まさか自分の身代わりがゼウスだったことに、大いに恐縮して、かなりの低姿勢で引継ぎを終えた。
そして春介とともに空を飛んでの帰り道に、「冷静を保てないこともあるようですね」と汰華琉が明るく言うと、「…さすがに、ゼウス様が来られるとは、想像もしていなかったので…」と春介は大いに眉を下げて答えた。
ゼウスは爽太の側近でもあるので、いつも陰のようにして寄り添っている。
よって軍人ではないので、春介の言った通り想像もしていなかった。
だがその実力は、軍人以上のものを持っている。
春介の部下たちも、まったくタイプの違う上官に、大いに戸惑っていたほどだ。
汰華琉と春介が城に帰ると、セイラはたまの手下のようになっていて、巨大な木の家の飾りつけなどに余念がなく、熱中して遊んでいたことに、汰華琉は笑みを向けた。
すると汰華琉を見つけたたまが眉を下げてやってきたが、「セイラ姉ちゃんに頼んでみな」と汰華琉が言うと、「…あー…」とたまは言ってゆっくりと振り返ってセイラを見て、すぐに汰華琉を見てから満面の笑みを浮かべて、セイラに駆け寄った。
「…どうなるのかしら…」と美貴はわくわくしながらセイラとたまを見入った。
たまが希望を言うと、セイラは大いに眉を下げた。
だが一念発起したのか、たまが希望した小さなテーブルクロスを出したが、生地がほつれまくっていたことに、セイラは大いに眉を下げた。
「あ! これはこっちこっち!」とたまは明るく言って、木の裏側の岩の家のテーブルに、セイラが作ったテーブルクロスを置いて、ご満悦の笑みをセイラに向けた。
「…採用、されてしまった…」とセイラは大いに目を見開いて、そして少々不本位だったが感動もしていた。
「…なるほどな…
これもある意味、適材適所だ」
汰華琉は機嫌よく言った。
そしてセイラはろくでもないものばかりを作り出したが、たまがすべてを認めたので、セイラはかなり機嫌がよくなっていた。
「…仕事、してくるわ…」と美貴は言って、大きな人形の家に近づいて、そしてある意味感動していた。
セイラの創り出した小物はまさに雑なのだが、逆にこれを作り出すのは至難の業のようにも思えたが、その分、岩の家の雰囲気にぴったりとマッチしている。
そして美貴は、ひとつの家の提案を汰華琉にして、たまに新しい家を与えると、少し身震いしたが、セイラが小物と人形までも創り出して、まさに恐怖の館が出来上がっていたので、子供たちはおっかなびっくりの表情をしながらも、陽気に遊んだ。
「遊園地のスリラーハウスの前に飾って客寄せにするから、
もうひとセット作ってくれ」
汰華琉の言葉にセイラが機嫌よく作品を噴出させると、たまたちは大いに喜んで、まったく同じものをもうひとセット作り上げると、美紗子がやってきて、ひとつ身震いをしてから、荷造りをして持って出た。
「…役に、たったぁー… かなり、不本意だけどぉー…」とセイラが大いに嘆くと、汰華琉と美貴は愉快そうに笑った。
うまい食事を摂ったあと、「…じゃ、帰るね…」とセイラがたまに言うと、セイラの言葉を拒絶するようにたまはセイラに抱きついた。
「あら?」とセイラが言ってフローラに変身すると、たまもセイラに倣って小さなフローラに変身した。
そして二匹はまるで親子のようにして、庭に出て走り回った。
だが、「…動物たちにとっては恐怖のようだ…」と汰華琉は眉を下げて言って、避難してきた動物たちを抱き上げて眉を下げた。
「…神はいらんから帰れぇー…」と汰華琉が大根役者振りを発揮すると、たまはすぐさま人型に変身して、「ここに住んでもいいでしょ?!」とたまは涙を流しながら訴えた。
「それほど役にたたんから別にいらん」とさらに大根役者振りを汰華琉が発揮すると、たまがついにワンワンと泣き出し始めた。
汰華琉はたまの頭をなでて、「何が気に入ったのか教えてくれ」と、今度は普通に聞くと、たまは泣き顔を上げて、「…あー…」と言って大いに戸惑っていて目が踊っている。
「…神はいらないし、役立たず…」とセイラは言って眉を下げたが、愉快そうに笑った。
「パンダ勇者に変身することはなしで願います」
汰華琉の早口の言葉に、「うっ!」とセイラはうなって、なにも言えなくなった。
「すべてを救うと丸一日ほどはかかるでしょうから。
不死身に近いセイラ様でも、
少々辛いと思います。
このケイン星は、条件としてはセルラ星とよく似ていますが、
さすがに犯罪はかなり多いと思います」
「…そうだ… ここでは、変身しちゃダメ…」とセイラは呟いて何とか踏みとどまったが、たまの嘆願する顔を見て、どうすればいいのか大いに考え込んだ。
「竜もいます」
汰華琉の更なる言葉に、セイラはどうすればいいのか大いに戸惑った。
「…もう、これしか…」とセイラは呟いて、鈍く光る鱗を持つ異様に硬そうで化け物的威厳がある怪物に変身して、たまを抱き上げて素早く木の上に登り、『ギャイィ―――ンッ!!!』と金属質の声で鳴いた。
そして木の上から飛び降りて、城の裏に向かって走っていった。
「…人さらい…」と汰華琉が言ってにやりと笑うと、まずはマリアたち神がすぐに追いかけて行った。
「…あー… ダイゾね…」と美貴は大いに眉を下げて言った。
「動物たちにとっては平和の象徴だからね。
これで無碍に帰すわけにもいかなくなった」
汰華琉の言葉に、「…面倒そうだけど、たぶん大丈夫でしょう…」と美貴は言って、マリアたちに連れ戻されて、人間の姿に戻っているセイラを見て笑みを浮かべた。
そしてたまは目を見開いているが、セイラが怖いわけではなく、徐に手をつないで汰華琉の目の前まで走ってきて、「すごい!」と叫んだので、汰華琉は愉快そうに笑った。
「セイラさんの好きにしてもらっていいから」と汰華琉が穏やかな笑みをたまに向けると、たまは満面の笑みを汰華琉に向けてから、その顔のままセイラを見上げた。
セイラはたまを見て、「…変わった子ね…」と眉を下げて言った。
「たまのお母ちゃんが、
この先どうすればいいのか考えあぐねてんだ」
汰華琉の言葉に、セイラはすぐさま幹子を見て頭を下げた。
「…できれば、あまりわがままを言わないようにしつけるわ…」とセイラは眉を下げて言った。
汰華琉が少し考えると、セイラは大いに眉を下げた。
汰華琉としては、今のままのたまのままでいいといった感情を流していたからだ。
「…そう… 甘いお兄ちゃんだわ…」とセイラはつぶやいてから、たまに笑みを向けた。
「お兄ちゃんも喜んでくれてるよ?」
たまの陽気な言葉に、「よーく、わかったつもりだけど、甘やかしも程ほどだからね」とセイラが少し厳しく言うと、たまは少し首をすくめて目じりを下げた。
「…わかったの… セイラお姉ちゃん…」とたまは表情を変えることなく言った。
そしてセイラはたまと手をつないだまま、幹子に寄り添って挨拶を交わした。
ヤハン国から遠く西に一万キロほど離れた場所に、ヤハンとよく似た文明文化をもつニラニア国がある。
文明文化も似ていれば、人種もよく似ているのだが、様々な人種が混ざって共存しているといっていい。
これほど離れていてヤハン国の雰囲気と似ているのも何か意味がありそうだが、現在のところは歴史的文書を紐解いていないので、その事情は不明だ。
このニラニアでは、カーニバルでの出し物の喧嘩選手権と美男美女コンテストの出場者の予選が行われ、すでに渡航者は決定していた。
このニラニアから本戦に進出できる定員は、喧嘩選手権が五名、美男美女コンテストが各三名だ。
その喧嘩選手権で好成績を上げて本戦出場を決めた、まだ高校三年生のミライ・ヤマトは大いに落ち込んでいて、学校の校門を出た。
そしてまるで夢遊病者のようにして、学校から程近い住宅街の道に入った。
この道はこの近隣に住む人たちの生活の中心となっている商店街だ。
商用車すらも立ち入れなくなっているので、この界隈に住む人たちは安心してこの商店街を歩いている。
「やあ! ミライ! お帰り!」と店先を掃除している酒屋の大将が気さくに声をかける。
「…うん… ただいまぁー…」とミライはやはり元気はないが、苦笑い気味の笑みを返す程度の気力はあった。
「…なんでえ… また嫌なことでもあったのかい?」
大将が聞くと、「…あはは… いつものやつ…」とミライは言ってから、頭を下げて、家に続く道を歩いていった。
「…いつものやつって、まだ気づいちゃいないのかい…」と大将がひとりごとのようにつぶやくと、「話しちゃだめよ」と店から外を見ていた女将が釘を刺すと、大将は大いに背筋を震わせて、慌てて顔の前で平手を横に振った。
「ただいま!」とミライとは相対するような明るい声で、見た目も存在感も超絶美人のララ・ミノウが酒屋夫婦に声をかけると、「やあ! ララちゃんお帰り!」と大将と女将は声をそろえて挨拶をしたが、少々緊張している。
ララは笑みを浮かべて、鞄を振り回すようにして、軽くスキップを踏みながら、家路を急いだ。
「…あのふたり、どうなるんだろ…」と大将がつぶやくと、「今から準備をしておいた方がいいようよ」と女将は機嫌よく言った。
ミライは何とか家に帰り着いて、「…ただいまぁー…」と小声で言って、そのまま階段を登っていく。
「こら! ミライ! 靴を脱げ!」と叫んだのはミライの妹のキララだ。
まるでミライの男の部分を妹が吸い取っているように、十五才の女子にしては逞しいが、その面差しは、美女コンテストに出ていれば、確実に上位入賞を果たしたはずだ。
「あ」とミライは言って、その場で靴を脱いで、玄関の敲きの端に靴をそろえておいた。
そして徐にモップを持ってきて、廊下と階段を入念に拭いた。
「兄貴! また振られたのかよ?!」とキララが叫ぶと、「…ああ、まただ…」とミライは隠すことも照れることも怒ることもなく正直に答えた。
「どうしてララ姉ちゃんじゃねえの?」とキララが聞くと、ミライは大いに背筋を震わせて、眉を下げ、平手を顔の前に徐に持ってきて横に振った。
まさに、『絶対にない!』といわんばかりの感情だ。
「…まあ… 怖いのは家だけどな…
だけど、兄貴はこの国の代表なんだぜ?」
「…この国程度、のな…」とミライは答えてため息をついてから、階段を昇った。
「…元気なのはいいが、もう少し穏やかに話しなさい…」と父のサクタが眉を下げて言うと、「…はぁーい…」とキララは比較的素直に穏やかに返事をした。
「…お兄ちゃんが嫌いなのね…」と母のウララが大いに眉を下げて言うと、「…お婿さんに欲しいほどよ…」とキララは満面の笑みを浮かべて言った。
「ああ、それが一番いい」とサクタが笑みを浮かべて言うと、「…ミライが嫌がるわよぉー…」とウララは大いに眉を下げて言った。
ミライは養子なので、キララとの婚姻はまったく問題はないし、もしもララがいなければ、キララがミライと結婚したいほどなのだ。
そしてミライとは性が違い、この三人はヒゴという姓を名乗っている。
これがこのニラニアの法律で、養子にとった場合のみ、姓を変えることは許されないのだ。
「…だが、ヤハンの大和家と関係があるのか… 俺たちヒゴもだが…」とサクタがつぶやくと、「…あと、ミノウさんのところもね…」とウララは眉を下げて答えた。
「いいなぁー… お兄ちゃんたち…
無料で旅行にカーニバル見物…」
キララがうらやましがると、サクタは雑誌で顔を隠した。
「…さすがに、家族旅行としても遠いし、お金がかかりすぎるわ…」とウララは大いに嘆いた。
するとミライがトレーニングウェアに着替えてきて二階から降りてきて、「あ、これ」と言葉少なに言って、テーブルの上に厚みのある封筒を置いた。
すぐさま察したサクタが、「ミライ、これはダメだ」と威厳を持って言うと、「学校も、超特待生になれたから、別にいいんだ」とミライは少し照れくさそうにはにかんだ笑みを浮かべて言ってから、「…応援、してもらいたいし…」と顔を真っ赤にして言って、リビングを出て行った。
「…寂しくなるなぁー…」とサクタは大いに眉を下げて言うと、ウララはワンワンと泣き出し始めた。
そしてキララは封筒を手にとって、「…うちの年収…」と現実的なことを言った。
このカネは喧嘩選手権のニラニア国予選の副賞の、優勝者の賞金だ。
このカネもWNAから出ているので、ニラニア政府の懐は痛まないようになっている。
この事実をミライは家族以外には話していない。
もしも話していれば、今日だけは振られることはなかったはずだったが、実のところはミライは大いにもてる。
それを邪魔する者がいるわけで、ミライは今日も振られたわけだ。
ミライは猛然たるスピードで、二キロほど離れた山に入って、ミライ手製の木製の器具を使って肉体を痛めつけるようにして鍛え上げる。
腕っ節の実力もそうだが、その肉体美もこのニラニアで一番に輝いた。
もっとも、秘密にすることが好きなお国柄なので、予選は秘密裏に行われた。
そして結果を知った者たちが口外することは罪の対象になるので、よほどのことがない限り、誰もが口を閉ざす。
「たまにはデートして」と細い道を昇ってきた、カジュアルな姿でファッションモデルのようなララ・ミノウが言うと、「断ったはずだ」とミライはララを見ることなく言った。
「どうして私じゃダメなの?」とララは目を吊り上げて言った。
まさにその顔は、優しい美人が鬼に変身したように見えた。
「結婚相手としてはないな。
キララと同様で、
ララと俺は、本当の兄妹じゃないのかなぁー…」
ミライの言葉に、ララは大いに目を見開いた。
「…おぞましさ…」とララがつぶやくと、「言いたかったけど、さすがに言えなかった」とミライは言って、器具から体を起こした。
「ララんちの父ちゃんたちは知っているはずだ」
「…帰って、とっちめてやるわ…」とララは怒っていた顔を一気に軟化させ、さらに眉を下げた。
「最低でも俺とララは従兄妹だろう。
その場合でも、健常ではないの子が生まれる確率は倍増だ。
そのような冒険はできない。
生まれてくる子が大いにかわいそうだ」
「…いつ、気づいたの?」
「五才のころ」とミライはすぐさま答えた。
「随分と早かったのね…」とララは大いに嘆いた。
「対称はララじゃない。
ララの父ちゃんだ。
きっと、父か叔父か…」
「…はあー…」とララは深いため息をついた。
そしてミライは足元にあった拳大の石を素早く拾って、正面にある木に思いっきり投げつけると、『ドガッ!!』という音とともに、木が大いにゆれて、葉が舞い散った。
「盗み聞きはよくないな」とミライが言うと、一人の男性が姿を見せて、ミライとララに頭を下げた。
「ミケタさんは真相を知ってるんでしょ?」とミライが男の名を言って聞くと、「ミライ様は、先代のご子息です」とミケタは言った。
「…先代… 叔父さんの兄ちゃんか…」とミライはうなづきながら言った。
「…爺ちゃんのせいで、かなりややこしい話だけど、
父さんはヤマト姓で、叔父さんがミノウ姓なのは?」
「どちらも、母上様の姓でございます」
「…爺ちゃんは養子で、しかも妾まで…
…あ、種馬」
ミライの言葉に、ミケタは無言で頭を下げた。
「血の濃さについては、専門家にお聞きするよ。
できれば、ヤハン国の大和汰華琉さんと話をしたいね。
だけど、俺としては、ララを嫁にもらう件はないなぁー…」
ミライの言葉に、ララは顔を伏せ、ミケタは眉をひそめた。
「キララと同じで、妹にしちまったというわかりやすい理由だ。
キララとララがどれほど俺に迫っても俺は拒絶する」
まさに死刑宣告の言葉に、ララはきびすを返して山を降りていった。
「…キララ様も?」とミケタが聞くと、「照れ隠しの似合わない男言葉を使ってくるんですよ… 三年ほど前から…」とミライは眉を下げて答えると、ミケタは納得したのか何度もうなづいた。
「…だけどまさか、ララが俺の恋愛の邪魔しているとは…」とミライが察して大いに嘆くと、ミケタがミライに近づいてきて、名刺を渡した。
「…WNAニラニア支部長?」
「多少の風習は違えど、ヤマト、ミノウ、ヒゴという姓の一致は見過ごせません。
確実に、ヤハン国の大和汰華琉様たちとの関係があるものと存じます」
「うん、そうだね、ありがとう」とミライは礼を言って頭を下げた。
「…じゃ、ちょっと行ってきます…」とミライは言って、名刺の住所を確かめて、飛ぶようにして北に向かって走った。
ミケタは大いにあきれ返って、首を横に振って苦笑いを浮かべていた。
WNAニラニア支部長とはすぐさま面会が適い、詳しい事情を話した。
そして支部長を顔つなぎとして、通信端末を使ってWNA理事第二席の肥後成昌と話を始めたのだが、山城理事長に代わってすぐに、『…汰華琉が興味を持った…』と言った。
今すぐにこの支部に来ると言ったのだが、窓の外に男女の二人がいて、ミライに向けて手を振っている。
支部長はこの八階の非常用の窓を開けて、二人を招き入れた。
「いやぁー! 行儀が悪くてごめんなさい!」と汰華琉は陽気に言って、支部長とミライと朗らかに挨拶をした。
空を飛んでやってくれば、偽者と本物の区別は大いにつくので、文句なく本物だ。
「あ、ヤマト君が喧嘩選手権と肉体美選手権の国の代表になったことは聞いたよ。
まさに、苗字の妙だよね」
汰華琉が朗らかに言うと、「実は、遺伝子の件でお話したいと思いまして」とミライが眉を下げて進言すると、「ん? 進化の件じゃなさそうだね」と汰華琉は察していった。
ミライが事情を説明すると、「…ま、おぞましく思うのなら、無理な婚姻はさせたくないね…」と汰華琉は一般的な常識として言った。
「…姉にされなくて助かったぁー…」と美貴は大いに嘆くようにいった。
「お姫様をバンバンに出してたじゃないか…
姉にしようなどと思ったこともないよ…」
汰華琉が眉を下げて言うと、「…お嬢様気質満載で助かったぁー…」と美貴は笑みを浮かべて言った。
「ま、その前に、美々子姉ちゃんにあこがれたけどな」
汰華琉の言葉に、美貴は拳で殴ろうとしたが、「おほほほほ!」と空笑いをして、拳を収めた。
ミライからDNA鑑定用の細胞の摂取をして、汰華琉たちはミライの案内で、ララの住むミノウ屋敷に飛んだ。
「…おー… 立派な門だぁー…」と汰華琉はうなってから、「たのもぉ―――!!!」と叫んでから、愉快そうに大声で笑った。
すると、WNA支部長から連絡があったようで、汰華琉たちはすぐさまララとその家族との面会が適った。
そしてララの細胞の摂取をして、「…ふむ… 血縁者…」と汰華琉は細胞を見ただけで、ある程度は悟った。
「ここで検査をするから」と汰華琉が言うと、ララは大いに慌てた。
DNA鑑定が、それほどすぐにできるとは思ってもいなかったからだ。
汰華琉は装置を二台出して、それぞれの細胞を入れ込んで、スイッチを押した。
「…さすが細田さん、処理が早いなぁー…」と汰華琉は言って、パソコンの画面を開いている美貴に指示を与えた。
「二人は確実に血縁者。
一般的にいう血の濃さは、従兄弟か再従兄弟レベル。
できれば、婚姻は避けた方がよさそうね」
そして、プリンターから吐き出した紙を見て、汰華琉は笑みを浮かべて、ミライとララに渡した。
「その結果が誰もが気にする、
能力者への切符だ」
汰華琉の言葉に、「…トカゲに、ワニ…」とミライは眉を下げて言った。
「…ゴリラにオラウータンじゃないの?」とララが嘆くように言うと、「ヤマト君には能力者の道が開いたから」という汰華琉の言葉に、ミライは大いに喜んでガッツポーズをとって、汰華琉と握手を交わした。
「なんだったら、もう俺たちの学園に編入すれば?
防衛隊士官学校に入学するんだよね?
学園と同じ敷地内にあるし、
もう訓練をしてくれてもいいし」
汰華琉の言葉に、ミライは大いに喜んだが、「…一応、家族と相談してから…」と眉を下げて言った。
返答はそのあとに聞かせてもらうことにして、汰華琉と美貴は、空を飛んで帰っていった。
「…まさかの技術…」と首を横に振りながら言ったのはララの父だ。
「それじゃ叔父さん、帰るよ」とミライが笑みを浮かべて言うと、「この家ごとミライのものだ」と叔父は堂々と言った。
「いや… 俺は俺の力で家を構えるから。
もしも俺が出世したら、
このミノウ家も便乗してくれていいから」
ミライが笑みを浮かべて言うと、叔父は笑みを浮かべて頭を下げた。
そしてミライが席を立つと、表情の暗いララも席を立った。
「じゃ、またね」とミライは気さくに叔父に挨拶をして部屋を出た。
ミライは数メートル後ろを歩いているララを伴って家に帰りついた。
ララとしては勝手知ったる家なので、堂々と上がりこむ。
ミライとララのかみ合っていない感情に、ヒゴ家の三人は大いに戸惑った。
ミライが今あった件を家族に話すと、「…大和汰華琉様がこちらにこられたのか…」とサクタが目を見開いて言うと、「フットワークはすっごく軽いね」とミライは少し陽気になって答えた。
そして、ヤハンに渡る件だが、「ミライの思い通りにすればいい」とサクタは家長として堂々と言ったが、ウララとキララは堂々とはできないようで、「…ついていくぅー…」とまずはキララが言った。
「場違いだと感じて落ち込んでもいいのならくればいいさ」
ミライの言葉に、ヒゴ家の三人は大いに眉を下げた。
「じゃ、早速連絡させてもらうよ」とミライは言って、美貴にもらった名刺の連絡先に電話をかけると、すぐさま汰華琉と美貴がミライから飛び出してきて、ヒゴ家の三人と挨拶を交わした。
そしてサクタは目を見開いたまま、「…フットワークが軽い…」とつぶやくと、「興味があること限定です」と汰華琉は明るく言った。
さらに具体的な話になって、ミライが住む家や経済的なことまで話を進めた。
「現住所は今のまま変更はしないから。
そうしておかないと、
ミライ君はニラニアの代表者じゃなくなってしまうからね。
留学扱いであれば、その期間中は、
国籍を変えることなく渡航の自由が与えられるから、
ミライ君はニラニア国民のままだ。
審査は必要だけど…」
汰華琉は言って美貴を見て、「もちろん許可」と堂々と言うと、ミライは笑みを浮かべて頭を下げた。
「WNA特別顧問の許可が出たので、
ヤハンには出入り自由だ。
必要なものを持って今すぐに連れて行ってもいいよ。
できれば試験をしたいし」
汰華琉の明るい言葉に、「はい! ありがとうございます!」とミライは満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「ヤハンはもう夜だから、少し体を動かしてもらって寝てもらう。
今のミライ君でもかなり厳しいはずだから、
睡眠を誘うにはもってこいのはずだ」
汰華琉の明るい言葉に、ミライは少し躊躇したが、笑みを浮かべて頭を下げてから、「持って行くものは何もありません」と堂々と言った。
そして家族とララに別れの挨拶をした。
まさに両極端で、室内には将来に対する明るい希望と悲壮感が混在していた。
「では、ミライ君は借り受けました」と汰華琉は明るくサクタに言って、笑みを浮かべているミライは消えた。
四人は目を見開いていて、今あった現実を拒否したいほどだった。
「…カーニバルの前の日には会える…」とサクタが言うと、「…妙なこと、するんじゃなかったぁー…」とキララは大いに嘆いてうなだれた。
サクタの言葉は夕食時には現実となり、『カーニバルでの重要な出し物のひとつに出場を果たしている、ニラニア国代表者のひとりのミライ・ヤマト君は、WNAに認められたのち、このヤハンに留学を果たしました!』という報道に、ヒゴ家の三人は目を見開いた。
レポーターはWNA広報部の美々子なので、必要以上に明るい。
よってその経緯も包み隠さずに話して、ニラニアのヤマト、ヒゴ、ミノウ姓を持つ者に一気にスポットライトが浴びせられることになった。
「…留学試験、難しいのかなぁー…」とキララがつぶやくと、「…ミライの言った通りだと思うぞ…」とサクタが眉を下げてつぶやくと、キララは大いに肩を落とした。
『以上!
報告は大和汰華琉の実の姉の、
山城美々子こと、大和天照でしたぁー!』
美々子は明るく手を振って、WNA報道番組のワンコーナーが終了した。
「…山城って、WNAの代表の…」とサクタが大いに苦笑いを浮かべて言うと、「…場違いだぁー…」とキララは大いに嘆いた。
その頃ミライはなんとか食事を終えて、笑みを浮かべて心地よいソファーで眠りこけていた。
「…襲っちゃう?」と雅が明るく言うと、誉は首が千切れんばかりに横に振っていたが、顔は真っ赤になっていた。
「なんだ、好きな人がいたんじゃなかったの?」と汰華琉が誉に聞くと、「…会ってすぐに、変わっちゃいましたぁー…」と言ったので、誰もが大いに笑った。
「ま、変わって当然だ」と汰華琉は明るく言って、術を使ってミライを宙に浮かべてリビングを出ると、雅と誉は興味を持って汰華琉についていった。
「…まさに汰華琉になろうとしている青年でもあるな…」とマイケルが機嫌よく言うと、誰もが大いに納得していた。
「…大和の血はとんでもなかったわぁー…」と美貴が嘆くように言ったが、その心中は穏やかだ。
「DNAも?」と細田が聞くと、「…汰華琉と姉ちゃんとよく似てるわ…」と言って、その診断結果表を細田に渡した。
細田は診断用紙を見て笑みを浮かべて何度もうなづいた。
「…汰華琉君になれなきゃ落ち込むだろうなぁー…」と細田が眉を下げて言うと、「余計なことは言わない」と妻の理恵ににらまれて言われると、細田は苦笑いを浮かべて頭を下げた。
「では、ミライ君の本当のご両親もいないわけだ」
「…うん、きっとそう…
だからこその、大和の血といってもいいみたい…
それほど生きられない運命を背負った、
呪われた血のようなものだわ…」
美貴の言葉に、美々子が大いに怯えると、「…もう覚醒したんだから、あんたは死なないわよぉー…」と美貴がめんどくさそうに言うと、美々子はほっと胸をなでおろしていた。
「…それほど急いで、描かなくてもいいんだぁー…」と美々子が笑みを浮かべて言うと、美紗子だけは反論があるようで眉を下げた。
そんな美紗子を横目で見ながら、「時には母さんを理由にして、競作すればいいのよ」と美貴はまためんどくさそうに言った。
「そもそも、競作だけじゃなくてもいいんでしょ?」
美貴の疑問に、「…あー…」と美々子は言って少し考えてから、「…単独作品は、完成品だと思わないかもぉー…」と答えた。
予想の範疇だったようで、美貴は笑みを浮かべて納得していたが、美紗子としては少し落ちこんでいた。
「それにね、
今はね、
汰華琉君にね、
手加減されてるってね、
思うぅー…」
美々子が桜良の口真似をして話すと、美貴は愉快そうに笑って何度もうなづいた。
「だったら、失敗作だとしても描いた方がいいと思うわ。
もちろん、没頭することは毒のようなもの。
空き時間にこつこつと積み上げた方がよさそうよ。
そのうち、今のような絵を描けなくなるはずだから」
美貴の言葉に、美々子と美紗子が同じような顔をして目を見開いた。
「天使の姿で絵を描いてみなさいよ」と美貴が言うと、美々子は疑うことなく深くうなづいてから天使に変身して、紙を出し鉛筆を手に持って、妙にすらすらと描いて、「完成!」と大いに陽気になって叫んだ。
そして誰もが興味を持って紙を見て、腹を抱えて笑い転げた。
「あ、あれ?」と天使は今更ながらに、思い描いたものとは違うと認識して眉を下げた。
「いっしょいっしょ!」とたまが陽気に言って、たまのスケッチを見せると、「…一緒だぁー…」と天使はうなってから変身を解いた。
「…幼児の気持ちになって、朗らかに絵を描ける…」と美々子が都合のいいように言うと、「でも、芸術品じゃないよね?」と美貴が現実に引き戻すように言うと、「…うんそうね、お兄ちゃん…」と美々子はいつものように言ったので、美貴はもう正すことは諦めたようで、「はぁー」とため息をついただけだ。
「…あたしには、限られた時間しかないんだわ…
あと、百年ほど…
百年?」
美々子が不思議そうに言うと、「間違ってないと思うわ」と美貴はすぐさま答えた。
「姉ちゃんは人間に天使が乗っかってるって感じだから。
だからこそ、人間の寿命も正しくあるの。
だけど失うのは人間だけで、天使は残るから死ぬことはない。
だけど人間の特殊能力的なことは引き継がれないから、
天使に変身して人間側が納得いくものを作り上げていくことも重要だと思う」
「大変だ!」と美々子がひと言で感情を表すと、「…どうして、こんな人に頼っていたのかしら…」と美貴は大いに嘆いた。
「絵力!」と美々子が叫ぶと、「…そうだ、それだぁー…」と美貴はようやく長年の不思議が解決して苦笑いを浮かべた。
美々子に画材道具を持たせておけば、威厳のあるお姫様となることは昔からだった。
そのお姫様気質を、美貴が真似をしたと言っていいほどだった。
ちなみに紙と鉛筆程度ではメモを取ることとそれほど変わらないので、威厳を発することはない。
「…その力があったのに、当時の汰華琉君は怖かったぁー…」と美々子が大いに眉を下げて言うと、「…そのようね…」と美貴は大いに苦笑いを浮かべて答えた。
もちろん、雅が汰華琉の体に細工を施して、見た目を怖く見せかけていたからだ。
「まずは、時間をきちんと決めて、絵画に力を入れたら?」と美貴が紙と鉛筆を見て言うと、美々子はすらすらと絵を描いて、満面の笑みを浮かべた。
「…幼児の絵と同じ絵なのね…」と美貴は眉を下げて、たまの満面の笑みを浮かべている絵を見入った。
「…天使の方をがんばらなきゃ…」と美々子は少し落ち込んで言った。
「天使はね、基本手先は不器用なの。
だけど、例外の人は数名だけどいるそうよ。
エッちゃんが詳しいから、聞くことも修行にすれば?」
美貴のアドバイスに、「…うん、そうするぅー…」と美々子は言って、もうすでに大和家の一員となっている桜良に寄り添った。
「…そうねぇー… まずは…」と桜良が言ってから、簡単に説明すると、美々子に戦慄が走っていた。
「…大丈夫かしらぁー…」と美々子が大いに眉を下げて嘆くと、「天使たちはね、絵の感情を読むの」と桜良が明るく言うと、美々子は満面の笑みを浮かべて、早速天使に変身して、マリアに寄り添った。
「…大天使様、畏れ多いですぅー…」と天使たちは大いに気が引けていたが、「モデルは気にしないように」と大天使美々子は穏やかに言って、慎重に鉛筆を紙の上で躍らせたが、なかなか思い通りには描けない。
そして描き方などを工夫していると、天使たちは幸せの涙を流していた。
もちろん、大天使様はその感情を正確に受け取って、多少の自信がつき始め、画力は幼児レベルから少女レベルに上がっていた。
「漫画漫画!」と桜良が陽気に叫ぶと、大天使は三人をモデルにした漫画絵を描き始めた。
これにはマリアが感動して、描いた漫画をもらったほどだ。
ついにはモデルの天使たちが眠そうな顔をしたので、「今日は終わりよ」と大天使は言って美々子に戻った。
「…この方法は、好きぃー…」と美々子は満面の笑みを浮かべて言った。
「絵の方がうまくいったらこれ」と桜良は言って、小さな天使のぬいぐるみを美々子に渡した。
「…あ、あたし…」と美々子は察して、天使人形を抱きしめた。
「絵と造形の修行にはぴったりなの。
だけど、落とし穴もあるの…」
桜良の説明に、美々子は大いに眉を下げながらも正確に理解して、大天使に変身してから美貴を描いて、腹を抱えて陽気に笑い始めた。
まさに画力は幼児レベルに戻っていたからだ。
よって、大天使が描きたいと思うものにしか、その画力が伴わないことを実証できたことに喜んだのだ。
だが、魔王を描くと少女レベルに戻っていたことに首をひねった。
「存在自体が芸術的な部分」という桜良の指摘に、大天使は大いに納得して、美々子に戻った。
「…描きたいというその想い…」と美々子は言って、魔王と勇者皇を描いて、満面の笑みを浮かべたが、すぐさま眉を下げた。
「…なんだか、気にいらないぃー…」と美々子がうなると、美貴は絵をひったくって、異空間ポケットに収めた。
魔王としては絵が非常に気に入ったようで、絵を自分のものにしただけだ。
「気に入らないようだからもらってあげたわ」と、美貴は自分勝手なこじ付けを言った。
美々子はめげることなくもう一枚描いて絵を見入った。
そして、「…化け物たち…」と呟いて背筋を震わせると、「なんだとっ?!」と美貴は叫んでから、愉快そうに笑った。
「鉛筆描きでもリアルだし…」と美貴は言ってから魔王に変身して、紙を十分の一ほどに小さくした。
「…おっ 商品になりそうだな…」と魔王はまた自分勝手に感想を言って美貴に戻った。
「…縮小すると、さらにリアルに…」と美々子は呟いて笑みを浮かべた。
確かにその通りで、単色で、線が細くなっている分、今にも絵の中の魔王と勇者が飛び出してくるように見える。
「魔よけとかでいいんじゃない?」と美貴は言って、ケラケラと愉快そうに笑った。
美々子はまた魔王と勇者の絵を描いて、大天使に変身してから紙を小さくして、ご満悦の笑みを浮かべて、時には大天使が描いて、これを美々子と大天使の修行とした。
桜良は何も言わずに笑みを浮かべて見ているだけだ。
すると、うまいにおいをかぎつけた美紗子がやってきて、部下たちと会議を始めて、ついには技師を呼んで、小さな紙を透明な樹脂に閉じ込めた。
こうすれば汚れることはないし、キーホルダーをつけるともう商品になってしまった。
「美々子、サインも書いて」と美紗子が注文すると、美々子は素直に従った。
直筆サインなので、これだけでもかなりの価値が上がり、しかもコピーではなく、実際に描いたものを縮小したものだ。
美紗子はこの一連の作業の写真を撮って、美貴に説明文の台本を書かせてご満悦の表情になった。
「だけどこれって、芸術品扱いにならないの?」と美貴が眉を下げて言うと、美紗子は固まって、また会議が始まった。
「…私としては練習のデッサンでしかないから、
欲しい人には買ってもらってもいいと思う…」
美々子の頼りなげな言葉に、「あんたがそういうなら」と美貴は言って、今美々子が言った言葉も説明文に書き添えた。
「あっ! そうそう!」と美貴がある提案をすると、「…あー…」と美々子は言って、大天使に変身して、ひたすら描きたい絵を描いて、縮小し捲くった。
サインは、『天使サマエリ 大和天照』のふたつが入っている。
「天使の成長によって作品が変わっていくから、
今のこの絵は、今しか手に入れられない」
まさに、修行中の天使にとっては試練のようなものを授けられたので、大天使サマエリは大いに陽気になって絵を描き始めた。
「…天使の姿って、サマエリっていう名前だったのね…」と美紗子が笑みを浮かべて言うと、「魔王も名前、あるのよ」と美貴は自慢げに言った。
だが眉を下げて、「仮の名でも、名乗れないことが玉に瑕ね」と美貴は眉を下げて言って、ケインとマイケルを見た。
「…許可なく詠唱したら、罰が下る…」と美紗子は背筋を震わせて言った。
「…まあね…
その部分は魔王の意思じゃないから、
均等に罰が下るわ…
もっとも、唱えた者の黒い部分に大いに反応して、
見た目は同じ罰だってわからないけど…
…たとえば、幼児になってしまうとか、若返る、とか…」
美貴の言葉に、「…罰を受けたいぃー…」と美紗子は眉を下げて懇願した。
「その逆もあるのよ。
さらに年寄りになる、とか…」
美紗子は美貴の今の言葉は聞かなかったことにした。
「おっ すげえことやってたんだ」と汰華琉たちがリビングに戻ってきて、今のこの状況を見て、正確に理解して笑みを浮かべた。
そして汰華琉も真似をして、汰華琉自身と勇者皇の画力の差を知って、二人の同一人物が一枚の紙に人型のたまとその正体のフローラの絵を描いて、笑みを浮かべた。
そして首からぶら下げる名札にしてたまに渡すと、「…ありがとー…」とたまは大いに感動して礼を言って、名札を見入って笑みを浮かべた。
そして家族には全員に同じものを渡して、家族として、仲間としての連帯感の結束がさらに固くなった。
「…右と左の画力が違うことがよくわかるぅー…」と美紗子は大いに眉を下げて言った。
美紗子のひとつの肖像画を、汰華琉と勇者皇が左右半分ずつ描いたのだ。
汰華琉の描いた方は忠実で、勇者皇の方は、多少劇画タッチとなっているので、美紗子の肖像画は二面性を持っているようにも感じられる。
「同じように描いたはずだけど、違うところがなかなか面白い」と汰華琉が言って笑みを浮かべると、美貴は愉快そうに笑って同意した。
よって、ここに来ていた美紗子の手下たちも思わぬプレゼントに、ご満悦の表情になっていた。
「両方勇者で描いて」と丈夫が眉を下げて言うと、「注文は受け付けない」と汰華琉はにやりと笑って言った。
「渡したものは俺が気に入ったから。
気に入らないのなら返して」
汰華琉の言葉に、誰もが上着のポケットや服の中に名札を隠したので、汰華琉と美貴は愉快そうに笑った。
「じゃあ、お母ちゃんにだけは特別に…」と汰華琉は言って、汰華琉が感じた若返った姿の美紗子を描いた。
そして、勇者皇が描くと、顕著に違うと感じたが、絵を美紗子に渡した。
「想像物にも差が出たね」と汰華琉は陽気に言った。
「…あたしに、よく似てたぁー…」と美貴が絵を覗き込んで言うと、「…汰華琉の描いた方がいいぃー…」と美紗子は懇願するように言った。
「先に言っとくけど、この絵には遅延発動術式を施してるんだ。
条件を満たせば、
お母ちゃんはこの絵のどちらかに若返って絵は消えるはずだよ」
汰華琉の言葉に、「あー… わかりづらいけど、ほんとだぁー…」と美貴は感動しながら言って、汰華琉に満面の笑みを向けた。
「…条件を隠しているところがみそなのねぇー…」と美紗子は正しく理解して嘆いた。
「体が疲れるのなら、
子の愛をもって俺や美貴が癒せばいいだけだから」
汰華琉は言って、美紗子に手のひらを向けて、軽い渇を送った。
「…あ、熱い…」と美紗子は呟いてから笑みを浮かべてすぐさま立ち上がって鏡を見たが、今までの美紗子でしかなかったことに落ち込んだ。
「自然治癒力を上げただけだ。
だから効果は今だけのものだから、
明日働いたら、疲れるのは今日と同じ」
汰華琉の言葉に、「働きすぎなきゃ、ひょっとしたら若返るのかも…」という美貴の言葉に、汰華琉は賛同した。
「…仕事、辞めるぅー…」と美紗子は眉を下げて言って、美貴に懇願の眼を向けた。
「あたしが会長になったら、ぜーんぶ社長にやらせるわよ。
あたしは後からちくちく意地悪なことを言うだけ」
美貴の言葉に、美紗子もその部下たちも大いに眉を下げていた。
「…お母ちゃん、何とかがんばるわぁー…」と美紗子は嘆くように言って椅子に座って、汰華琉の描いた絵を拝んだ。
絵は縮小することなく、汰華琉は透明のケースを出して絵を入れ込んでから、美紗子に渡した。
「お母ちゃんにしか効果がないし、
盗まれたとしてもありかはすぐに判明するから、
社のデスクの上にでも飾ってくれていいよ」
「…よかったぁー… でも、持ち歩くぅー…」と美紗子は言って、ケースを鞄の中に入れた。
「じゃあ、術じゃなくて呪いなの?」と美貴が聞くと、「遅延発動術式と言ったぞ… だから呪いじゃないけど、俺の意識を断っても術式は消えないんだ」と汰華琉が言うと、「…超高等技術じゃない…」と美貴は大いに眉を下げて言った。
「もちろん限度はある。
そのペナルティーは、日々進んでいって、
ひと月後には縛っている術式が開放されて、
完全に解体されるはずだ。
だから術がかかっている間は盗まれてもありかは容易にわかるし、
俺の負担はまるでない」
「…どうやって構築したのよぉー…」と美貴は眉を下げて言った。
「長い年月をかけたね。
星々を渡っている時に何とかならないかと思ってね。
それが生きる希望になればいいとだけ思って、
何とか完成したんだよ」
「…百年、二百年レベルじゃないわね…」
「今の状態になるまで、三千年ほどかかったはずだ」という汰華琉の言葉に、誰もが目を見開いていた。
「だからこそ、この場にいる子たちにはかなり甘い。
今も昔もこれは変わっていない」
汰華琉が言って丈夫を見ると、眉を下げて深くうなづいた。
「…だけど…
セイラさんを見習って、
あまり俺の思い通りにはしない方がよさそうだ…」
汰華琉が苦笑いを浮かべると、真っ先に美貴が賛成したので、ほかの者たちはまったく意見を言えなくなっていた。
「それでも十分にやさしいし、
人によっては、それが大いなる修行になっているはずだわ」
セイラが希望ある言葉を言って静磨を見ると、誰もが大いに納得していた。
「…そうか、師匠…
指導者としての心構えで接した方がいいか…
…子供たちに嫌われてもやむなしとするかぁー…」
「どうせ、その指導者もそれほど厳しくないんでしょうけどね」
セイラの言葉に、誰もが大いに苦笑いを浮かべていた。
セイラの言った通りでもあるのだが、今考えると、厳しい師匠でもあったと思い当たる節もあるのだ。
「…いつも、ご褒美くれるから…」と誉が頬を朱にして言うと、「あら、いいわね」とセイラは言って、意味ありげに汰華琉を見た。
「セイラさんは知り合いで、
今のところは家族でも仲間でもないからね。
そんな人からご褒美をもらったら、
色々と勘違いするんじゃない?」
汰華琉の言葉に、「…するわぁー…」とセイラは言ってうなだれた。
「…ご褒美禁止令でも出そうかしら…」と美貴が無碍に言うと、特に妹たちが大いに眉を下げた。
「…でもさ、大切にして持っていてくれたら、
能力者になっても、
当時を思い起こして昇天しにくいんじゃないかなー…」
汰華琉の言葉に、誰もが大いに反応して、「…しっかりがんばって、形のあるご褒美をもらうぅー…」と雅がうなると、誰もが賛同してうなづいた。
「…うふふ… あたしが審査してご褒美を渡してもらうから。
そう簡単にはもらえないかもよ?」
美貴の言葉に、誰もが大いに眉を下げていたが、希望は失くしてはいなかった。
「あ、ついさっき、雅と誉に手伝ってもらったんだが…」と汰華琉は言ってその事情を話すと、「…それは仕方ない… ご褒美ありで…」と美貴が言うと、雅と誉は大いに喜んでいた。
まさに二人にしかできない芸当だったので、認めるしかなかったのだ。
そして、ご褒美を渡す実例もあった方がいいという理由もある。
「今回は先渡し分で」と汰華琉が言うと、雅と誉はネームプレートを出して、大いに苦笑いを浮かべると、美貴は愉快そうに笑ってそれを認めた。
よって誰もが、先渡し分のご褒美をもらってしまったことになる。
「…じゃあ、あたしもぉー…」と桜良が悲しそうに言ってネームプレートを見ると、「エッちゃんはいくつか溜まってるけど、どうする?」という汰華琉の明るい言葉に桜良は大いに喜んで、「…思いついたらもらうぅー…」と笑みを浮かべて言った。
「マイケルはどうします?」と汰華琉が聞くと、「…いらんと言えんからなぁー… それに、もらったとしても、罪悪感が沸いてしまうことにも困ったもんだ…」とマイケルは大いに嘆いた。
「あはは、そうですよね。
でしたら、マイケルの想いが乗ったものを、
みんなに渡してやって欲しいのです。
きっと、これからの生き続ける糧になるはずですから」
汰華琉の言葉に、マイケルは瞳を閉じて深くうなづいた。
「で? 欲しいものってなんです?」と汰華琉が改めて聞くと、「…あ、そうだった… まずはワシがもらっておかねばな…」とマイケルは納得して言って、その思念をかなり細かく汰華琉に念として送った。
「姉ちゃん、手伝って」と汰華琉は言って、美々子の頭をむんずとつかんだ。
二人は画材道具を出して、マイケルの想いを絵にしてから、美貴が魔王に変身して、不思議な写真をマイケルに渡した。
「…ああ…」とマイケルは感動するように呟いて、そして満面の笑みを浮かべて汰華琉たち三人に頭を下げた。
「弟?」と汰華琉が聞いて首をひねっていると、「昔の弟子」とマイケルは笑みを浮かべて言った。
「あ、今日会った」と汰華琉が言うと、「ああ、ギルバート」と美貴は思い出して言ってから笑みを浮かべた。
「…まだ生きていたかぁー…」とマイケルは言って、大いに苦笑いを浮かべた。
「ロストソウル軍の重鎮の一人です」
「…よーく理解できた…」とマイケルは笑みを浮かべて言って、汰華琉に頭を下げた。
「…星の創造神程度の威厳しかなかったけど…」と汰華琉が言うと、マイケルたち神たちは大いに眉を下げていた。
「俺の真似だろうな…
やはりな、創造神の中では、
星の創造神が一番楽しいからな」
マイケルの自慢げな言葉に、「…上になればなるほど辛くなる、か…」と汰華琉は感慨深げに言った。
「あ、八丁畷さんとは知り合いじゃないの?」
汰華琉が素朴な疑問を投げかけると、「…あっちは、名実ともに奇跡で英雄だよ…」とマイケルは眉を下げて言った。
「…まあ… 五大神と言われるひとりだからなぁー…
…マイケルはまだまだ本気を出しちゃいないし…」
汰華琉のつぶやきに、マイケルが盛大に咳き込むと、美貴は愉快そうに笑い転げた。
「…あまり考えられないことをやっちまうと、
誰もいなくなるだろうがぁー…」
マイケルが小声でうなると、「…あはは! それは何度か経験した!」と汰華琉は悲壮感あふれることをさも愉快そうに叫んだ。
「…おかしいと思っていた…
汰華琉ほどの者が、創造神に興味を抱かなかった…」
マイケルが言って美貴を見ると、「魔王は経験者」と美貴は笑みを浮かべて言った。
「常に自由の利く勇者でいたかったはずだよ」という汰華琉の明るい言葉に、マイケルは大いに眉を下げて、首を横に振った。
「勇者の成長は底なしよ。
統括地の創造神を上回ることだって考えられるわ。
現在は自然界からの強制的なスカウトはないようだから、
汰華琉は助かっているようなものだわ」
美貴の言葉に、桜良が真剣な目をして超高速でうなづいている。
「…そうだ、それもある…」とマイケルは言って何度もうなづいた。
「基本的にはね、自然界に託すことに決めたのぉー…」とすべての根源である桜良の言葉に間違いはない。
「制約が厳しすぎたみたいでね、いろんなところで宇宙の空気が澱んじゃって…」と桜良は眉を下げて言った。
「だけど、比較的自由な分、不幸も多くならない?」
汰華琉の言葉に、「…うふふ…」と桜良は意味ありげに笑ってから、満面の笑みを浮かべて汰華琉を見た。
「…正すために働けって…」と美貴が通訳をするように言うと、「…宇宙と同じで、果てがないね…」と汰華琉は眉を下げて言ったが、すぐに余裕の笑みに変えた。
そして、「万有様が何とかしてくれるし」と汰華琉が他力本願の極のように言うと、誰もが大いに眉を下げていた。
「…源ちゃんは天使が長かった分、汰華琉君よりもやさしいかなぁー…」と桜良が眉を下げて言った。
「本来の威厳をさらせば、誰だって言うことを聞くさ」
汰華琉の余裕の言葉に、「やっぱりかっ?!」とマイケルと美貴が同時に叫んだ。
「みんなに迷惑がかかるから、本来の威厳を晒していないだけだよ。
心が弱い死神だったら、簡単に昇天するかもね。
だからある意味、俺なんかよりも随分と怖いと思う。
さらには、太陽の神竜も、守り刀のひとつだし」
汰華琉の言葉に、桜良は眉を下げて静かにうなづいた。
「さらには人間には、喜怒哀楽の神は有効だし。
あとは俺たちの意味不明の合体…
俺自身の感情には、何の影響もなかったと思うけど…」
「…もう、安泰だわぁー…」と桜良は笑みを浮かべて言った。
「…あー… そういうこと…」と汰華琉は大いに眉を下げて言った。
「万有源一の代わりができるわけだ」とマイケルが言ってにやりと笑うと、「…畏れ多いけど、できそうだね…」と汰華琉は眉を下げて言った。
「…威厳を押さえ込む必要はあるなぁー…
誰もない場所で、訓練しなきゃ…」
汰華琉は言ってから、大きなため息をついた。
そして汰華琉たちは今夜の夢見は桜良に誘われた。
呼び出されたのは、汰華琉、雅、美呼都にリスリスの四人だ。
「ここだったら、思う存分、修行できちゃうよ!」という桜良の明るい言葉に、汰華琉たちは礼を言って、桜良と話し合いながら時間が許す限り、威厳を押さえ込む修行を行った。
さすがに一長一短があり、思っていたよりも簡単なものではなかったが、多少なりともその切欠はつかみ取れて、汰華琉たちは夢から覚めた。
朝食の席で、マイケルの機嫌が大いに悪い。
だが桜良が眉を下げてマイケルを見ると、その表情は瞬時に軟化して、背筋が伸びていた。
汰華琉は家族たちを見回してから、静磨と丈夫を見て、「いつもとは勝手が違ったようだね」と言うと、「…今までずっと楽をしていたって、マイケル様はずっとうなっておられました…」と静磨は眉を下げて言った。
「戦い方のバリエーションが増えたと思っておけばいいさ。
俺はマイケルと別行動を取って作戦中、などとね。
だけど、セイラさんもいたんだろ?」
汰華琉が気になったことを聞くと、「…魔王様たちとずっと楽しそうにお話をされておられました…」と静磨は眉を下げて言った。
「…そうか… それほどに余裕があったわけだ…」
「…きちんと託されていた…」と静磨は言って、自信を取り戻していた。
「だけど、僕と静磨とマミーを抜いたら、
戦いに出るのがマイケルひとりになるのはいただけないよ」
丈夫の言葉に、「今はまだその程度でいいんだ」と何事も急がない汰華琉の言葉に、「…合わせるよぉー…」と丈夫は眉を下げて呟いた。
星野春介も願いの夢見に出いてたのだが、丈夫の今の判断ではそれほどのものではなかったらしい。
冷静で慎重すぎる欠点が見え隠れしたのだろうと汰華琉は考えた。
その春介も、今は反省中のようで少々元気がない。
ミクル・ブラウ、蝦夷真人、肥後一族の三人の能力開花組みも大いに眉を下げている。
能力者としては自他共に認められているものの、その先がまるで見えてこない。
特に真人は美都子と同じで、能力者認定は受けたものの、未だその片鱗さえ見えてこないことに、多少の焦りがあった。
しかし人間としてはもうすでに限界を超えていると、健康診断の結果からよくわかっていたことで、希望を捨てることはない。
しかし戦場に出ると、さすがに十五才の少年でしかないので足がすくんでしまう。
夢見でもしも死亡するほどのダメージを受けたとしても、偽者の肉体なので、本体が死に至ることがないことは説明を受けている。
よって真人としてはそれ以外での不甲斐なさを思い知っていたところだ。
―― 戦士としては、資質なし… ―― と真人は眉を下げて考えていた。
すると誰かが強く背中を押したはずだったが、振り向いたが誰もいない。
―― …どなたかに見張られてたぁー… ―ー と真人は内心大いに戸惑ったが、すぐに考えを変えた。
―― だからこそあきらめずに、前だけを見て… ―― と、ここまで考えたが、その希望の片鱗だけでも見えればと思い、宝石のイルビーを握り締めた。
すると、いつもよりも赤い光が強く発したことに、真人は目を見開いた。
そして真人は別の理由でさらに目を見開いて、すぐさま耳をふさいだが、大勢の声が消えない。
さすがに冷静になれなかったが、また誰かに強く背中を押された途端に、騒がしい声は消えていたので、ゆっくりと両手を耳から放した。
―― …どんな時でも冷静に… ―― と真人は考えて、深く深呼吸をした。
そして今あった事象を分析すると、どうやらここにいる者たちのささやき声や心の声などが一気に頭に入り込んできたと、仲間たちを見回して判断できた。
そして真人は特に探っても問題のない、たま以外の子供たちのひとりに集中した。
この子は真人に背中を向けているし、普通の声であれば届かない場所にいる。
すると、『たまちゃん、お靴ちょうだい』と頭の中に響いてきた。
するとたまが笑みを浮かべて、小さな赤い靴と青い靴をターゲットの女子に渡したので、―― 大当たりだぁー… ―ー と真人は考えて、心の中でガッツポーズをとった。
すると明るい鼻歌が聞こえてきたので、真人は笑みを浮かべて、「…ふー…」とゆっくりと息を吐いた。
そしてまた別の子に意識を移して集中すると、妙に混線していると感じた。
その絡んだ糸を解くように集中すると、ターゲットの子から離れた場所にいる美都子の意識が飛んできていると判断できた。
それはかすかに頭に響く鼻歌が美都子のものだったからだ。
美都子は朗らかに子供たちを見ているように見えるのだが、『…何とか能力者として開花して、恋愛もしたぁーい…』と繰り返し言っていたのだ。
真人は大いに頬を赤らめて、また冷静になるように息を吐いたのだが、なぜだか美都子の小さな心の声が消えない。
―― …僕は、ミッちゃんが好きだったんだ… ―― と真人はここで始めて自覚すると、美都子の心の声がようやく消えたので、ほっとため息をついた。
―― …聞こえるだけじゃなく、届かないか… ―― と真人は考えただけだったのだが、なぜだか不自然な形で美都子の首がねじって、真人を見つめてきたのだ。
『…まさか、念話?』と美都子の声が真人の頭に響いてきた。
『…心の声を聞いてしまって、ごめんなさい…』と真人が誠実に謝ると、「私っ! 妙なこと考えてなかった?!」と美都子が声に出して叫んだので、誰もが一斉に美都子に注目してた。
「あっ! 僕が美都子さんと念話をしていたのです!」と美都子が誤解されないように真人がすぐさま叫ぶと、「おー…」と誰もがうなって、真人に拍手を送って祝福した。
「色々と気になったが、ここは聞かないでおくよ!」と汰華琉が朗らかに言ったので、真人も美都子も眉を下げてほっと胸をなでおろしていた。
「それと、僕の背中を何度も押してくださった方、
本当にありがとうございました!」
真人が満面の笑みを浮かべて言って頭を下げると、汰華琉はすぐに察して何度もうなづいた。
そしてその犯人は、まったく興味を示していない振りをしているマイケルだと汰華琉は見抜いた。
ひとりだけそっぽを向いているので、大いにわかりやすかったのだ。
「…私が手伝っていれば、感謝されたのにぃー…」と美貴は大いに眉を下げて嘆くと、「気づいた時だけでいいんだよ」と汰華琉は少し諭すように言った。
「…気功術とテレパシーが同時に沸いたようだね…」と汰華琉が今までの真人の状況から察して眉を下げて聞くと、「…あー… すっごくややこしかったので、たぶんそうかもしれません…」と真人は眉を下げて答えた。
「…真人、一番肝心なことを言ってみろ…」とここでマイケルがつぶやくと、真人は一大決心をして、「僕は今、ミッちゃんが好きだって始めて気づいたのです!」と真人は清々しいほどの声で叫んだ。
「よっしっ! よく言ったっ!」と真っ先にマイケルが叫んで満面の笑みを浮かべたが、「…マイケル、今のひと言は余計です…」と汰華琉が眉を下げて言うと、マイケルはこれ見よがしにそっぽを向いた。
そして美都子だが、目を見開いていて固まっていた。
しかし意識を取り戻したようにして、姿見のある場所に走って全身をくまなく見てから、満面の笑みを浮かべて真人を見た。
そして眉を下げて、「…知らなかったぁー…」とつぶやいたが、すぐに笑みを浮かべた。
そして今度は大いに恥ずかしそうにして、メイド服の裾を弄びながら、真人の目を見ることなく、「…訓練のパートナー、お願いできる?」とつぶやくと、真人は、「もちろんです!」と大いに高揚感を上げて叫んだ。
「…おー… これで、ひとまずは安心だぁー…」と美貴がうなると、「余計なことは言わない」と汰華琉にすぐさま諭された。
「…高能力者の方が性質が悪い…」と汰華琉が苦情があるようにつぶやくと、マイケルも美貴もそっぽを向いた。
美都子はさらに真人に近づいて、「…あたしのどこを、気に入ってくれてたのかなぁー…」と真人に何気なく聞くように呟くと、「…ついさっきまでは漠然と、でした…」と真人は大いに照れて呟き返した。
「…あ、今は少しは見えてきたんだ…」
「…あ、はい…」
真人が照れくさそうに頭をかきながら答えて、「…あははは…」と照れ笑いをした。
「…もちろん、ビジュアルを気に入っていることは、
まず外せません。
あ、三才ほど若返っていることは知っています。
だからこそ、素敵な女性だとも思いますし、
僕はついていたと、思っているんです…」
真人が照れくさそうに言うと、美都子はそれ以上に照れていて、口から言葉が出ないほどだった。
「あ、ですが、一番の理由は、
もちろん見た目ではないのです」
真人の真剣な言葉に、「…はい… なんでしょうか…」と美都子は胸の動機を押さえつけながら聞いた。
「現在もメイドでいらっしゃる。
その立ち振る舞いが、
ほんとうに… 美しいと…」
真人は顔から火が出るほどに顔を赤らめると、なんと美都子は白目をむいて後方に倒れ込みそうになった。
しかしここは、危険をすぐさま察知した真人がその背中を支えた。
そして美都子は今までの美都子ではない眼をしていて、「…よくぞ言ったな、ガキ…」と悪態をつくように言ったのだ。
そして美都子の体が黒一色に染まっていくと、汰華琉だけが満々の笑みを浮かべて拍手をしていた。
「…えー…」と桜良が大いに戸惑いの声を上げると、「あ、この悪魔のような存在は知ってたんだ」と汰華琉が興味を持って聞いた。
「…今までにふたり覚醒したわ…
悪魔の上を行く、黒の勇者…」
「…そりゃまた狭き門だ…」と汰華琉は大いに感心しながら言った。
「そのうちのひとりは、ゼウス君の今のお母さんなの」
桜良の言葉に、「…まさに、この母あって、この子あり、ってわけだ…」と汰華琉は何度もうなづきながら言った。
「あなたから見れば、僕なんてガキでしかなさそうです」と真人は言って、黒の勇者から離れようとしたが、黒の勇者は、今度は懇願の眼をして、背中を支えている真人の腕を握った。
真人は腕がちぎれるような痛みを覚えたので、すぐさま右腕に力を込めると、腕が倍加した。
「…気功術の初歩は手に入れたようね…」と黒の勇者は穏やかに言って、その姿を美都子に戻して、顔を真っ赤にしていた。
「僕からもお願いするよ。
どうか、パートナーになってください」
真人は堂々と頭を下げて告白するように言うと、「もちろんよ!」と美都子は叫んで、真人の両手を両手で握り締めた。
今は黒の勇者ではなく、馬鹿力は出ていないが、人間の美都子もそれなり以上に力持ちではあるので、真人も少しだけ握り返して、茹で蛸のようになっているふたりは見つめあった。
「…これでようやく一段落だ…」と汰華琉は笑みを浮かべて家族でもある仲間たちを見回した。
「美都子さんが三人目とは、ほんとうに狭き門だったようだね」と汰華琉が桜良に聞くと、桜良の影が、ほかの二人の映像を出した。
「…たしかにそっくりさんだが、
白い文様が目立つし、
これが大いに違う」
汰華琉が画像を見比べながら言うと、「アナログ的な何かだって思うの」と桜良は比較的真剣な目をして言って、黒の勇者とは別の種族の映像を出した。
「…ああ、古い神の一族の正体…」と汰華琉が言ってマイケルを見ると、「…色々と問題がぁー…」とマイケルは何か隠し事をしているように呟いた。
「変身してみせろなどとは言っていませんけど?」と汰華琉が言ってにやりと笑うと、マイケルは聞かなかったことにしてそっぽを向いた。
「…その神の姿もね、何が一番いいのかよくわからなくなっちゃったの…」と桜良が眉を下げて言って、その姿を竜神に変えた。
「ふーん… まばゆい光の幽霊…」と汰華琉が言うと、桜良はすぐさま元の姿に戻った。
「今の姿が、いいのか悪いのかがよくわからないってこと?」
汰華琉が聞くと、「…うん、そうなのぉー…」と桜良は大いに困惑しながら答えた。
「存在感自体は特に問題はなかったけど、
威厳をかなり抑えていたことはよくわかった。
そうしないと、マニエル船長たちは昇天していたはずだから」
汰華琉の言葉に、特に種族が死神の者たちは背筋を震わせた。
「マイケル、比較のために変身してみてください」
汰華琉の言葉に、「…むうー…」とマイケルはうなりながらも変身して、その体は基本黒の竜神の姿となった。
そして黒の勇者のように、幾何学的な白いラインが体のいたるところに走っている。
「本気を出してくださっていいですよ」と汰華琉が竜神に挑戦するように言うと、竜神は何も言わずに、全身に気合を入れた。
すると、体中の白いラインが金色に光り輝いた。
「はい、ありがとうございました」と汰華琉が礼を言うと、竜神はマイケルに戻った。
そして汰華琉は死神たちの周りに張っていた特殊な結界を解いた。
一気に空気が入れ替わったので、死神たちは守られていたことをすぐに理解した。
「…エッちゃんの竜神は、竜になるんじゃないのかなぁー…」と汰華琉がつぶやくと、桜良は眼を見開いた。
「…竜は、なったことないぃー…」と桜良は大いに眉を下げて言った。
「もちろん、普通の自然界の竜じゃない。
エッちゃんと同じ人って、それなりにいるの?」
汰華琉の疑問に、「…源ちゃんもたぶんそうだし、三人か四人ほどは…」と桜良は眉を下げて呟いた。
「あのさ、存在がなくなりかけているとしか思えないんだよ。
まさに幽霊のような…」
汰華琉の言葉に、桜良は眼を見開いて、「…死にたいだなんて思ってたから、罰が…」と桜良は大いに眉を下げて呟いた。
「それは違う。
何か、原因があるはずなんだが…」
汰華琉が腕組みをして考え込むと、美貴が魔王に変身した。
「あ、妖怪騒ぎが色々とあったそうだけど…」と汰華琉が言うと、「燃やし尽くしてもいいか?」と魔王がにやりと笑って言った。
「…物騒だな…」と汰華琉が眉を下げて言うと、「肉体や魂には作用はせん」と魔王が自慢げに言った。
「考察を詳しく聞かせてくれ」
「ふん」と魔王は鼻を鳴らした。
「ひとりだけ、会ったことがないやつがいてな。
そいつから出ているようだぞ。
くもの糸のように、ほぼ透明の細い糸だ。
つながっているのは、桜良、万有源一、結城覇王、松崎拓生、
この四人とだ。
その張本人はフリージアにいるようだ」
「きっと、ルオウちゃんだぁー…」と桜良は嘆くように言った。
「デヴォラの双子の弟だな」と魔王が聞くと、桜良はすぐさまうなづいた。
「魔王であれば見えんものはないはずなんだがな…
そのルオウと会っていないから、俺には見えるのかもしれん…」
魔王がつぶやくと、「それは大いにありそうだ… たま来てくれ」と汰華琉が呼ぶと、たまはすぐさまやってきて、「…あー…」と呟いて、桜良を見てから遠い目をした。
「たまには見えているようだ。
さすが妖怪」
汰華琉は言ってから笑みを浮かべて、たまの頭をなでた。
「そのルオウって人は、セイラさんが父と慕っているんだよね?」
汰華琉の言葉に、セイラは大いに戸惑ったが、「…うん、そうだけど…」と、何とか呟いた。
そしてセイラは確実に必要な話だと判断して、今までに経験したすべてを話した。
「…なんてこった…」と話を聞き終えた汰華琉は大いに眉を下げて言うと、「…おいそれと切るわけにはいかん…」と魔王は悔しそうにうなった。
「…繋がっているみなさんは、
イルビーの宝石と同じ扱いを受けているわけだ…
…あ、だったら簡単だった…」
汰華琉は言って細田を見ると、満面の笑みを浮かべてうなづいていた。
汰華琉、美貴、セイラ、細田、そしてたまを抱き上げた桜良の六人はフリージアに飛んだ。
いきなり六人が飛び出してきたので、フリージアの共同農場で農作業中のルオウは勢いよく尻餅をついて、そしてばつが悪そうな顔をした。
桜良はデヴォラに変身して、「…とんでもねえことをしてくれたなぁ、おい…」とうなると、「…気づかない方が悪い…」とルオウは言ってそっぽを向いた。
するとたまが小さなフローラに変身して、『フーッ!!!』と大きな声でうなると、ルオウは白目をむいて農地に大の字に倒れた。
「あ、面倒がなくて幸い」と細田は気さくに言って、対象者全員をこの場に強制的に引き寄せた。
「いやー、みなさん! いきなりで申し訳ない!」と細田が陽気に言うと、誰もが大いに眉を下げていた。
そしてイルビーの石を対象者全員に渡して握らせた。
まさに高能力者ぞろいで、イルビーの石はまばゆいほどの赤い光を放った。
そして小さなフローラが、空中でタマをとるように腕を何度か振ってから、汰華琉に向かって、『ニャーン』と穏やかに鳴いた。
魔王が、「…ふむ… すべてイルビーの石に繋がったな…」と機嫌よく言って、フローラを手のひらに乗せて頭をなでた。
ここで汰華琉がすべてを説明すると、真っ先に結城覇王がうなだれた。
「…俺たちは、消えていたかもしれない…」と源一は大いにうなるように言って、まだ意識を断たれたままのルオウを見た。
「…気持ちはよくわかるね…」という細田の言葉に、誰も何も言えなかった。
セイラを今の状態で維持するために必要だったことをルオウはやっていたのだ。
まさに父の愛だが、その方法が平和だとは言いがたい。
「さて、これで一旦は落ち着けたけど、
ここから自然に戻すことが普通じゃないね…」
汰華琉の言葉に、「ふん! なめんなっ!」と魔王が叫ぶと、イルビーの石がすべて消えた。
セイラに何か衝撃が走ったようで体を震わせたが、すぐに笑みを浮かべて魔王に頭を下げた。
「…面倒なことをやってくれたもんだ、まったく…」とまったく疲れてもいない魔王がルオウを見て胸を張ってうなった。
「力不足なんだから仕方ないよ…
まあ、父親としては何とかしたかったんだろうけどね…」
汰華琉の言葉に、「…長く生きていればいいってわけじゃないわ…」と、桜良はため息混じりに言って、肩を落とした。
「セイラさんと同じほかの魂はどうなったの?」と汰華琉が魔王に聞くと、「そこら辺りの新魂を引き寄せて中身を移した」と胸を張って言ってから、愉快そうに短く笑った。
「となると、セイラさんの魂はきちんと元に戻ったわけだ」
「…だがな、かなり、手ごわいぞ…」と魔王は言って美貴に戻った。
そのセイラは、大いに眉を下げて、美貴に頭を下げっぱなしになっていた。
「あとは最終確認。
威厳を殺して、竜神の姿になってください」
汰華琉の言葉に、古い神の一族たちが一斉に変身すると、全員が黒い肉体だったことに、誰もが目を見開いた。
「やはりこれが正常なわけだ」という汰華琉の言葉に、変身を解いた桜良は汰華琉に抱きついて大いに泣いた。
「…まさか、最後のセルラ星にあった呪いも…」とセイラが眉を下げてつぶやくと、「ルオウさんの仕業かもしれないね」と汰華琉は穏やかに言った。
「それも、セイラが生きやすいようにという、
親心だと思うわ。
もっとも、それを正された時、
ルオウはかなり戸惑ったはずだわ」
美貴は意識を断たれたままのルオウを見て言った。
「…ここで会った時、心配そうな顔をしていたから、たぶんその通りだと思う…」とセイラは言った。
ルオウは眼を覚まして、変わってしまった現状を見回してから、地面に正座をして眉を下げてから頭を下げた。
「たぶん、俺たちにもどうしようもなかったはずだから、
責める言葉は見つからないよ」
源一の言葉に、古い神たちは誰もがうなづいた。
すると、「思い残していることは本当にないのか?!」と汰華琉がルオウに向けて大声で叫ぶと、白目をむきかけていたルオウの目がしっかりと見開かれた。
「…昇天させてあげたかったぁー…」と桜良が嘆くように言うと、「まだ役割があるのなら、もったいないから」と汰華琉が穏やかに言うと、「…う、うん…」と桜良は答えて、満面の笑みを汰華琉に向けた。
「…厳しいねぇー…」と源一がばつが悪そうに言うと、「そうですか? あはははは…」と汰華琉もばつが悪そうに空笑いをした。
すると、お付きを連れたマリーンが美貴から飛び出してきて、すぐさま全員と挨拶を交わした。
「ルオウ様、お手伝いをお願いしたいのです」
マリーンの穏やかな言葉に、ルオウは大いに戸惑った。
汰華琉は笑みを浮かべて何度もうなづいているだけだ。
そしてルオウは立ち上がって、今までの悪行を源一たちに詫びてから、マリーンに寄り添った。
桜良は何度もうなづいていて、声を出さずに号泣している。
「これで私もさらに楽になります。
では、またの機会を楽しみに」
マリーンは汰華琉に言ってから、マリーン一行の姿は消えた。
「丸く収まってよかった」という汰華琉の言葉に、まずは桜良が汰華琉を抱きしめて大いに泣いた。
「早いこと学校を卒業してもらいたいところだ」と源一が気さくに汰華琉に言うと、「ええ、もう卒業の資格は得てしまったのです」と汰華琉が眉を下げて言うと、「…よねぇー…」と美貴が眉を下げて言ったので、その信憑性は高く、源一は満面の笑みを浮かべて何度もうなづいた。
論文などはDNAや能力者の資格の件、そして過去の遺物の復元や、動物たちの楽園の件など多数を提出していて、いくつも博士号を取得した実績がある。
「ですが今度は、教師業をしようと考えているのです。
我が学園であれば、その資格を得ましたので」
汰華琉の言葉に源一は大いに眉を下げたが、「…それも必要な道だと思う…」と、教師でもある源一はすぐに理解して言った。
「アニマール校に負けないほどの学園にしたいと思いまして」
汰華琉の少し挑戦するような言葉に、「…春之介さんが大いに嘆くよ…」と源一は眉を下げて言ったが、大いに笑って汰華琉の肩を力強く何度も叩いた。
「…先生、いやあー…」とたまが大いに眉を下げて嘆くと、「好き嫌いはいけないな」と汰華琉は朗らかに言って、たまの頭を優しくなでた。
「だがそれはまだ少し先の話だ。
それよりも、たまにはしっかりとご褒美をあげないとな」
汰華琉の言葉にたまは大いに喜んだがすぐに肩を落として、「…いらないぃー…」と言った。
しかし汰華琉はそれを許さずに、源一に頼んで土産物屋に案内してもらった。
たまはあっという間にいつものたまに戻って、まさに友達思いぶりを発揮した。
その都度、美貴が源一と直接交渉をして、決められた商品のみ輸入をすることに決まっていった。
たまは山城城に住む友人たちへの土産を抱え込んで大いに陽気になっていたが、目を見開いて汰華琉を見た。
「何も気にすることはないさ。
城以外に住んでいる子供たちも、
みんな、たまたちと同じ笑顔になるから」
汰華琉の言葉にたまは大いに喜んで、汰華琉に満面の笑みを向けた。
子供向けの商品の輸入はこの翌日から開始され、まずは山城城の近辺とカーニバル開催予定地の元の田村エリア近隣の巨大な売店を開放して販売が始まった。
現在は異様に安い値段なので、子供たちが大いに興味を持ったことで、在庫をいくら置いても売り切れが続出した。
もちろん、なぜ安いのかは説明を終えていて、これも大和汰華琉からの子供たちへのプレゼントのようなものだった。
よって、数日後からは値段が倍増することもわかっていたので、誰もが大いに買い込んだ。
今回輸入を始めた商品の三分の一ほどはヤハン国外にも流れ、ヤハン国は経済大国第一位の栄光も得た。
通常料金になってすぐに、美紗子が契約を交わした国にだけ商品の輸出が始まった。
そしてヤハン国内にも行き渡り、まさにフリージアブームが一気に到来した。
そのフリージアへの渡航申請も多く上がり、神たちも忙しくなってきた。
そんな中、ヤハン国でも、喧嘩選手権と美男美女コンテストの予選が行われて、山城城からは四名がヤハン国代表として出ることに決まった。
汰華琉と静磨は当然のように喧嘩選手権と肉体美コンテストの代表者に選ばれた。
残りは美女コンテストの美々子と美都子が出場を決めたのだが、美貴の機嫌が大いに悪い。
「…予選に出たとしても、出場できたかなぁー…」という汰華琉の言葉も気に入らない。
「顔や姿かたちで嫁を決めたんじゃないからな」
汰華琉のこの言葉には、美貴は骨抜きにされて、すぐさま汰華琉に謝った。
するとミライが大いに眉を下げて汰華琉に頭を下げた。
「ニラニアでなにかあったの?」と汰華琉が聞くと、「…それが…」とミライは大いに眉を下げて、家族の事情を話し始めた。
「…ほう、面白い…」と汰華琉は機嫌よく言うと、美貴がその情報をパソコン画面に出した。
「…美少女芸術家現る!」と汰華琉は機嫌よく言って、その作品と作者近影を見て何度もうなづいた。
「妹さんとララさんにはその資質があったの?」
汰華琉が聞くと、「…人並み以上には…」とミライは眉を下げて言った。
確かにその作品は芸術性に長けていたが、美紗子は動かずここにいる。
「お母ちゃんのめがねにはかからなかったの?」
汰華琉の言葉に、「飛びつくほどではありません」と美紗子は落ち着いた表情で言った。
汰華琉は何度もうなづきながら、「美貴の見解は?」と聞くと、「数点は抑えておくべき」と間髪入れずに答えると、美紗子は眼を見開いて立ち上がって、風のように消えた。
「…こういったマーケティングってね、
芸術性よりも流行っていうものがあったりするの…
それに、姉さんの作品が手に入らないってわかっているからね…」
美貴の見解に、汰華琉は大いに納得して何度もうなづいた。
「芸術品のおまけのようなみやげ物だけだからね」と汰華琉は愉快そうに言うと、「入館料もその売り上げも絶好調よ」と美貴は薄笑みを浮かべて、機嫌よく言った。
「お母ちゃんは余裕を見せすぎだったわけだ」
「…ですがぁー…」とミライは大いに眉を下げて言うと、「お母ちゃんを引っ張り出す作戦に決まってるじゃないか」という汰華琉の言葉に、「…簡単に引っかかっちゃったわ…」と美貴は言ってから、愉快そうに笑った。
「目的は、この城に住むことに尽きる。
作品と引き換えに、その権利を得る交渉をするわけだ。
ミライ君は、生涯のパートナーをこのヤハンで見つけた?」
汰華琉の言葉に、ミライは大いに苦笑いを浮かべただけだ。
ミライの今の気持ちは今までとはまるで違い、少し付き合いたいなどとい浮ついた気持ちはなく、そう簡単には将来の伴侶を見つけることは叶わなかった。
すると美貴の通信端末に美紗子から連絡が入って、美貴がすべての指示をした。
「…それが妥当…」と汰華琉の言葉に、ミライとしては少々心配だったが、できる限りわが道を行こうと決めた。
「ララさんに能力者への切符はないと判断したけど、
気功術師の道は誰にも等しくある。
それにキララさんはまだ検査していないからわからないが、
何かを持っていそうだった」
汰華琉の言葉に、ミライは大いに戸惑った。
「まずは好意を持って迎えればいいだけ。
そして罪悪感やおぞましさが沸くのなら、
さらにはっきりと伝えるべきだ。
これはミライ君にとっての精神的修行でもあるんだ」
汰華琉の雄雄しき言葉に、ミライの心配は一気に解消されて、「はい! ありがとうございます!」と明るい笑みを浮かべて礼を言った。
そして早速だが、ニラニアの宝になった二人と、ミキコンツェルンが接触したことが報道された。
そしてニラニア国の意思とは別に、その芸術家ふたりが動いたことにより、ニラニアが大いに揺れた。
「計画は中止よ!」と美貴が通信端末に向かって叫ぶと、「…そうなったか…」と汰華琉は残念そうにつぶやいたが、ミライとしては胸をなでおろした。
もちろん、国と国の間でいさかいを起こしたくない意思表示で、汰華琉自らの言葉でも報道されたことに、ニラニアの宝のふたりが、ニラニア国に対して、宣戦布告をするように騒ぎ出し始めた。
「亡命もやむなし!」とララ・ミノウがテレビに出て叫ぶと、「…美人が台無し…」と汰華琉は眉を下げて呟いた。
「…そのギャップも受けそうだわ…」と美貴は違う見解を述べた。
「だがな、美貌だけではなく、
きちんと芸術家という武器を持っているんだ。
ふたりのこの先の光明と名声をできれば閉ざしたくない。
ここはミライに出てもらいたかったが、
勘違いされて大いにやぶへびになりそうだから、
それ以外の作戦で丸く治めたいね」
汰華琉の言葉に、ミライはほっと胸をなでおろし、美貴は腕組みをして考え始めた。
そして美貴はまずは、今言った汰華琉の言葉をそのまま情報として流した。
「…おいおい… 相変わらず乱暴だ…」と汰華琉が嘆くと、「これでしばらく待つわ」と美貴は明るく言った。
そのしばらくは数時間後にすぐにやってきて、ニラニア国側もララ・ミノウ側もその声を抑えた。
余計なことを発信することがやぶへびだと感じ始め、さらにララはミライが何も変わっていなかったことを悲しく感じたようだ。
その狭間にいる美紗子だけが大いにジレンマを感じているが、美貴と汰華琉の考えに水を差すわけにはいかない。
するとニラニア側の大使が美紗子に接触してきて、ミライについて語り始めた。
まずはミライの現状から話し始め、能力者への覚醒についてしつこいほどに聞いてきたのだ。
もちろん美紗子は、「私を疑っているようですわ」と断定して言うと、大使は大いに慌てて、すべてを取り消すように発言して、そそくさと帰っていった。
もちろんこれを報道に乗せないわけはなく、正しい情報としてミキコンツェルンからWNA経由で報道された。
もちろん、ミライ・ヤマトの存在は以前から報道されていて、世界中でそれなりの知名度はあるが、WNA理事長がさらに輪をかけて説明をして、写真付きで現状の報告をした。
しかもミライの現在と将来のスポンサーともいえる存在がWNAでもあるので、ニラニア国は大いに余計なことを言ったと、謝罪会見まで行う羽目になった。
この時に、WNA理事長とミキコンツェルン会長が夫婦であることを知って、ニラニア国代表は大きな衝撃を受けた。
そして姓が違うが大和汰華琉は、有り余る財力を惜しげもなく使い、まさに息子として育て上げたことも、WNA理事長の自慢のひとつでもあった。
こうなればさらに軟化するのがララ・ミノウ側で、今回は親であるミノウ家が国を押さえ込んで、美紗子と穏やかに話を始めた。
さすがに今回は親同士なので穏やかに話は始まったのだが、なぜだかミライの伴侶について聞きたがることもあり、さらには悪い虫を寄せ付けるなと、時には命令口調で話してくる。
結局は、規模が小さい国の言い分と同じで、美紗子はミライについてはWNAを通じて本人にコメントさせ、ミノウ家はミライから怒りを買うことになった。
よってミノウ家はララからも怒りを買い、その立場は失墜した。
そして美紗子は、亡命を果たしたミクル・ブラウについて話すと、「ひどい話ですわ」とララは立腹して言って、美紗子に寄り添った。
「もう、肉親と言えども信用できかねます!
私はキララを連れて、ヤハンに亡命いたします!」
ララの怒りを買ったミノウ家は、手も足も出せなくなった。
胸を張って美紗子がララを連れて歩こうとしたが、屈強なガードマンたちがその行く手を阻んだ。
「これだと、監禁と同じですわね」
美紗子の脅しにも言うことを聞くことはない。
すると、美紗子とララ、そしてこの場にいないキララの三人が消えたことにより、ニラニア国に震撼が走った。
もちろん、すぐさま報道があり、美紗子、ララ、そしてキララの三人はもうすでにヤハンにいて、さらにはテレビ出演を始めたことに、誰もが大いに驚いていた。
このようなことができるのは、神しかいないからだ。
『ここまですれば納得もできただろう。
ララ・ミノウさん、ならびに、
キララ・ヒゴさんの両名は、
身の安全が保障できるまで、ヤハン国山城城で保護させてていただく。
第二のノーストロリオ国の
ミクル・ブラウを生むわけには断じていかんのでな』
山城は言うべきことを言って、一段高い場所から降りた。
大昔の神は人間を神隠しにしたが、今の神は、きちんと居場所を知らせているので神隠しにあったわけではない。
よって多くの人民は、ニラニア国とララの家族を一気に糾弾した。
ララとキララは夢見心地で放送局を後にして、美紗子の案内でまずは美術館に行った。
そしてふたりはエントランスに入るや否や、数多くのドールハウスに釘付けになった。
このエリアは美術品ではなく、どちらかと言えば託児所のようなものだ。
小さな子供たちはさすがに美術品鑑賞は飽きるので、子供が喜ぶものを置いておけば、大人たちはゆっくりと美術品鑑賞ができる。
ララとキララは幼児たちとともにドールハウスや、電気仕掛けの静止画の絵本自動再生装置に夢中になっていた。
だが、ここにやってきた目的を何とか思い出し、展示室に足を踏み入れたとたんに固まった。
まさにこれぞ美術品と言わんばかりの美々子の作品に、ふたりは打ちひしがれた。
しかも題名のあとにすべてに、『失敗作』という案内が書いてあるのだ。
この絵が失敗作だとすれば、失敗していない作品に大いに興味がわいて、奥へ奥へと自然に歩が進む。
そして二人展のエリアにやってきて、二人は納得した。
ここにある絵はすべて生きていると感じたからだ。
美紗子は終始笑みで、ふたりの思うがままに絵画鑑賞をさせた。
長い時間をかけて美術品鑑賞を何とか終えたふたりは、大いに空腹だった。
美紗子はふたりを山城城に連れて行き、ミライ・ヤマトと面会させた。
ララとキララの反応はかなり微妙で、大いにばつが悪そうな顔をしている。
歓迎されてヤハンに来たわけではなく、保護という理由でここまでやってきたからだ。
そのようなことを考えていると、異様にうまそうな香りにふたりはまた夢中になって、無言でうまい食事を堪能した。
腹が膨れ上がった頃にようやく平常心を保てるようになり、回りを見る余裕ができた。
挨拶はしたのだが、やはり大和汰華琉は近寄りがたい存在感があり、その妻の美貴はまさに女王様でしかなくエレガントだった。
さらには美々子のお姫様加減にも降参して、メイドでもある美都子にも脱帽した。
「…美人コンテスト、辞退しようかなぁー…」とララは本心を語った。
「ニラニアを刺激するようなことは、できればやめてもらいたいわ」
美紗子の穏やかな言葉に、ララは眉を下げて頭を下げた。
「カーニバルは人間の品評会でもあるから、
好みは人それぞれよ。
だけど、私の娘がグランプリに輝くのは動きませんけど」
美紗子は言って、静々と食事を摂っている美々子に笑みを向けた。
「…汰華琉くぅーん…
お食事のあと、絵を描きたぁーい…」
美々子が甘えた声で汰華琉に言うと、「たま、何か用事はないか?」と汰華琉がたまに聞くと、「…お絵かきの鑑賞するぅー…」とたまに言われてしまったので、「お姫様の希望にそうことにしたよ」と汰華琉は美々子に言った。
美々子は穏やかな笑みを湛えて、手のひらを合わせてから、少し急いで食事を再開した。
ララとキララは誘われるままに、美々子のアトリエにやって来た。
まるで芸術家っぽくない整然とした部屋に、ふたりはまず驚いた。
そして美々子が希望を言ったので、汰華琉はミライ、ララ、キララの人間観察をしてから、美々子の頭をむんずとつかんだ。
「…あら、素敵…」と美々子は手のひらを合わせて喜んでからキャンバスに向かって、その技を惜しげもなく披露した。
美々子と汰華琉の作品に向かう製作風景事態が、まさに芸術品だと誰もが思っていた。
構図は児童公園にいる五人の子供たちで、ふたりは同じ絵を描いていると誰もが思っていた。
そして完成したのだが、本題は絵画ではなかった。
ララとキララは美貴に写真を手渡されて見入ってしまった。
まさに楽しそうな五人の子供たちが浮かび上がっていて、今にも動きそうなほどに生き生きとしていた。
実際の絵画の方もまさに素晴らしいのだが、この写真は常軌を逸脱していた。
「…おほほほほ… また儲かるわぁー…」と美紗子は商売人気質を大いに噴出していた。
「…素晴らしい作品は、手にできてこそだ…」とミライは写真を見入りながら笑みを浮かべて言った。
ララとキララは、不思議な写真のアルバムを見せてもらって、まさに感動していたし、数枚ある写真をもらって、大いに高揚感を上げていた。
「…お姉さんたち、いいなぁー…」とたまがつぶやくと、ララとキララは大いに戸惑った。
そしてたまが今もらったばかりの五人の子供の写真を改めて見て、ララが真っ先に目を見開いた。
「…私たちだった…」とララは呟いて満面の笑みを浮かべてから号泣した。
素晴らしい作品の中に幼い頃の自分自身がいれば、これ以上に感動することはない。
そして、「…妹でしかないわぁー…」とララは呟いて肩を落とした。
絵の中の幼児のララは、幼児のミライに頼りきった目をしていたのだ。
もちろんキララも同じで、ララと同様に感動し、現実を見つめることにした。
そしてララはついに下世話なことを考え始め、「…いい人、いた?」と恐る恐るミライに聞いた。
「…こちらのお宅で頂点を見てしまったからなぁー…
この先の俺に期待するよ…」
ミライは大いに眉を下げて言った。
確かにミライは本心を言ったとララは確信した。
まさに芸術品のようなこの城の家人たちと接すれば、ララも同じように考えてしまう。
よってミライは恋愛などの寄り道はせず、能力者開花への道を突き進むことを今の生きがいにしていると、ララは察して笑みを浮かべた。
「学校はまさに社交場でね…
半数以上の生徒は、勉強よりもパートナー探しにご執心だ。
それなりの家の子女も多いようだから。
それに今の俺は、雅さんに守られているようなものだよ…」
ミライは言って、近くにいてララとキララを観察していた雅に頭を下げた。
「…ララさんほど露骨な行動には出ないわ…
…だけどあまりにも欲を噴出させてるのもねぇー…」
雅は言って大いに眉を下げると、「ほんとうに助かっています」とミライは穏やかに言って、雅に頭を下げた。
「それに、男友達もできたし、
自然に守ってもらってるようになってるんだ」
ミライは言って、静磨に頭を下げた。
「…何人かは、落第しないことを祈るばかりだよ…」と静磨が眉を下げて言うと、ミライは愉快そうに笑った。
「…ああ、素敵…」とキララは呟いて静磨にロックオンしたが、その気持ちを察したマミーがすぐに静磨に寄り添ったことに、大いにうなだれた。
「…うふふ…」とマミーが意味ありげに笑うと、キララの背中に戦慄が走っていた。
「…僕も、雅さんに守ってもらってるようなものだからね…」と静磨は恥ずかしそうに言って頭をかいた。
「…レミーちゃんが穏やかにうるさいのよぉー…」と雅が眉を下げて言うと、「あはははは!」と静磨とマミーが大いに空笑いをした。
マミーは静磨よりも学年が二つ下なので、常に目を光らせているわけにもいかないからだ。
「この家に住む男子に好意を向けるのはいいが、
添い遂げられないと思っておいた方がいい」
汰華琉の言葉に、ララとキララは眼を見開いた。
「その理由は簡単で、覚醒や転生を果たした場合、
永遠の命を得るんだ。
人間の寿命など瞬きでしかない。
できればその重荷を、能力者に背負わせたくないという理由からだ」
汰華琉の厳しくも優しい言葉に、ララもキララも大いにうなだれた。
ミライが一気に遠くに行ってしまったように思ってしまったのだ。
そのミライは、まだ能力者の切欠も何も得ていないので大いに眉を下げているが、その実績を積んでいる汰華琉と静磨からきちんと話は聞いているので、理解は終えている。
よってミライ自身も、能力者にしか興味を持たなくなっていた。
「もっとも、永遠の命を持っていても、
五百年から千年ほどでみんな納得して昇天しているから、
能力者がそれほど偉いってわけでもない」
汰華琉の言葉に、「そのすべてを、汰華琉さんは背負っていたんだ」というミライの言葉に、ララは激しく反応して涙を流し始めた。
きっと自分だったら耐えられない悲しみだと感じたからだ。
「ま、俺もひとりになって納得して昇天したが、
あの時はなかなか生きたなぁー…」
汰華琉はその昔を懐かしく思いながら笑みを浮かべて言った。
「…私… 帰った方がいいのでしょうか?」とララは懇願の目を汰華琉に向けて聞いた。
「俺たちを踏み台にできるほど、
人間として逞しくなってもいいと思うけど?」
汰華琉の言葉に、美貴が愉快そうに笑った。
「ここに住んでる子供たちのほとんどは、能力者の資質はないわ。
あなた方はこの子たちと同じだから、
住むなとは言わないわ。
だからあたしたちに聞かずに、自分で決めて」
美貴の厳しい言葉に、ララはすぐさま頭を下げた。
「ちなみに、あたしの母も能力者じゃないから」
美貴が美紗子を見て言うと、「…えー…」とララとキララは大いに驚いたようで目を見開いて声を上げた。
「…見た目は、能力者っぽいけどね…」と汰華琉は言って、愉快そうに笑った。
「…じゃ、じゃあ… このヤハンにはどうやって…」とキララがつぶやくと、「母の魂経由であたしが呼び寄せたの」と美貴は言って顎を上げて、自慢げな顔をした。
「まずはあなたたちふたりを母の魂に飛び込ませて、
母の肉体も自分の魂に飛び込ませたの。
そしてこのヤハンに戻ってきたっていう手順よ」
「…そうだったんだぁー…」と今更ながらに美紗子が目を見開いて嘆くと、美貴は愉快そうに笑った。
「能力者の資質がなくても、気功術師にはなれる。
まさに、魂をつかさどるような術師だ。
信じたもののほとんどを疑わないキララさんはその資質は高いと思う。
だが、気功術師は能力者ではないから、永遠の命は得られないが、
人から見れば確実に能力者だ。
その修行をしてもらってもかまわないから。
それがこの家にいる意味になると思うし、
何らかの拍子に、能力者としての資質が沸いて出るかもしれない。
選ばれたDNAに関しては、能力者への覚醒が高くなるというだけで、
それがすべてじゃないんだ」
汰華琉の言葉に、ララとキララは顔を見合わせてから、「どうか! よろしくお願いします!」とふたり同時に懇願して頭を下げた。
「キララさんは合格だけど、ララさんは不合格」と汰華琉が言うと、美貴は愉快そうに笑った。
「…お前の師匠っぷりだと、初心者には嫌われるぞ…」とマイケルはようやく出番が来たと思って口を挟んだ。
「あ、この人は猫のシュールって言うんだ」と汰華琉がマイケルの紹介をすると、山城城に住む家人の誰もが大声で笑い転げた。
「…そういえば、それが本体だったぁー…」と神マイケルはすっかりとその事実を忘れていて、猫に変身して汰華琉の足に猫パンチを浴びせかけた。
さすがにララとキララはこの事実を見て、笑うことすらできなかった。
「だがその正体は、ここにいる誰よりも神でしかない高尚なお方だ」
汰華琉がシュールに向けて言って頭を下げると、ララとキララもすぐさま頭を下げた。
そして巌剛も熊に戻って、汰華琉に突進した。
さすがに熊は脅威だったようでララもキララも目を見開いたが、「…怪盗を捕らえた熊ちゃん…」とキララは言って、巌剛に突進して抱きしめた。
汰華琉も美貴も、キララを見て笑みを浮かべてうなづいていた。
「…あにいもうとの濃度の差が出たわ…」と美貴は穏やかに言った。
「たまに甘がみして流血するぞ」と汰華琉が言ったが、キララはまったく気にしていないようだ。
「…いい根性してるわ…」と美貴は機嫌よく言うと、「時間をかければ、気功術師にはなれそうだ」と汰華琉も機嫌よく言った。
巌剛が調子の乗ってキララの顔を嘗め回し始めたので、キララが黄色い声を上げると、子供たちも一斉に巌剛に抱きついた。
ララは大いに戸惑っていたが、まずは猫からと思い、シュールを抱き上げて笑みを浮かべた。
「…動物を抱けるとは思ってもいなかったぁー…」とララは大いに感動して言った。
「シュールの場合は、そういった飴と鞭が最大の武器だ。
ララさんの師匠にはいいかもね」
汰華琉の明るい言葉に、ララは笑みを浮かべて礼を言った。
汰華琉はララとキララを学園に通わせることにした。
学力面でも体力面でもまるで問題はなく、ララは高校三年、キララは高校一年に編入した。
もちろん、WNA経由でふたりの行動はニラニア国に伝えられるようになっているし、ついでにミライの動向も報道に乗せた。
ニラニアからは特に何も言って来ないことにより、汰華琉は何かと騒がしくなりそうだと察し、学園と山城城の警備を強化させた。
警備員は防衛隊から数名スカウトしてきたことで安心できたのもつかの間で、案の定、探りを入れてきた者一名を簡単に確保した。
「…ミケタさんの実力って、それほどでもなかったんだね…」とミライが眉を下げて言い、ララは汰華琉に頭を下げっ放しになっていた。
ミケタ・サツマも、まさか汰華琉やミライ以外に捕まってしまうとは思ってもいなかったようで、大いに落ち込んでいた。
この事実は実況中継で報道され、ニラニア国の政治家がミノウ家を糾弾したが、そのミノウ家が知らぬ存ぜぬを突き通したが、もちろんララがミケタを諭して、ミノウ家の命令で情報収集に来たと説明をした。
さすがにミノウ家はララまでも切る訳にはいかず、探りを入れるためにミケタ・サツマを向かわせたと、ようやく自供した。
「…普通に訪問してくればよかったのに…」
汰華琉の言葉に、誰もが大いに笑い、ミケタは大いに眉を下げて頭も下げた。
「…サツマ、ねぇー…」と汰華琉は呟いて、大いに眉を下げている幹子を見た。
「…婆ちゃんはどう思う?」と汰華琉が幹子に聞くと、「幹子ちゃん」と幹子に少し怒りながら言われたが、汰華琉はまったく気にしなかった。
「いいんだよ、若返りの生き証人でもあるんだから」という汰華琉の言葉に、全世界が震撼した。
「大和幹子…
本名薩摩幹子さんは、
こう見えても八十八才だ」
汰華琉が少し笑いながら言うと、「…レディーに対して年齢をばらすなんて失礼だわ…」と幹子は腕組みをしてそっぽを向いて言ったが、たまが困惑の眼をして幹子を見上げていたので、「…八十八で間違いありませんー… もうすぐ、八十九ですぅー…」と眉を下げて言って、たまを抱き上げた。
「あ、誕生日パーティーをしないとね!
俺と雅をずっとかわいがってくれたお礼も兼ねて」
汰華琉の明るい言葉に、幹子は困惑したが、たまが大いに喜んだ。
「…お婆ちゃん、どうなの?」と美貴が真剣な目をして聞くと、幹子は大いに眉を下げて、「…私なんかよりも優秀かもね…」とため息混じりに言った。
「気功術師の婆ちゃんの言葉に、間違いはなさそうだ」と汰華琉は笑みを浮かべて言った。
ミケタは眼を見開き、そして何度もうなづいているミライを見た。
「ミケタさんはミノウ家に捨てられたも同然だ。
だったら、汰華琉さんに拾ってもらえば?」
ミライの言葉に、ミケタは覚悟を決めたのか薄笑みを浮かべて、「…もしも許されるのであれば、ご指導願います…」と言って、頭を下げた。
「…ミライ君の推薦もあるから俺はいいんだけど…」と汰華琉は戸惑いながら言って空を見上げた。
その視線の先には、マイケルを先頭にして神たちが空を飛んでやってきた。
そして、「任せろ!」とマイケルが叫んでから、地に足をつけた。
「…俺たちの神様が張り切っている…」と汰華琉が眉を下げて言うと、ミライは満面の笑みを浮かべてミケタを見た。
そのミケタは大いに戸惑いながらマイケルに頭を下げると、体がふわりと宙に浮かんで、「あーっはっはっは!」と機嫌よく笑っているマイケルに操られたまま連れ去られた。
「…ま、居場所はわかってるけど、神隠しということで…」と汰華琉は大いに眉を下げて言った。
「…シュールちゃんが鍛えるのね…」とララは呆然として言うと、誰もが大いに笑った。