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この惑星の願い      ロボット発射事件?


この惑星の願い



     ロボット発射事件?



ロボットが映りこんでいる映像だが、いつものように汰華琉と雅が担当して、マリアの頭の中から引き出したのだが、「…あたしにも教えてくれないぃー…」と雅が大いに嘆いた。


「雅に隠し事をするのはひと苦労だが、

 ようやく難問がクリアできたようだ」


汰華琉は言って、笑みを浮かべている。


「では、上映会だ。

 映像は約三十秒で、画面はほぼ動かない。

 それを三回…

 いや、四回繰り返し再生するから、

 ロボットを見破ってくれ」


汰華琉は言ってレコーダーを再生した。


画像の内容は、映っている誰もがかなりの豪華な着物などで着飾っていて、しかも室内は見たことがないほど素晴らしい出来栄えで絢爛豪華だ。


とんでもない職人に手がけられたものだろうと、誰もが感じることだろう。


そして食事風景は全員が正座で背筋をぴしっと伸ばしている。


面前には高級そうな大きな膳を置き、色とりどりで値が張りそうな器に、うまそうな料理が並んでいる。


琵琶一族はこういった生活環境の星から喜笑星に引っ越してきたようだと誰もが理解した。


そして画面に映っているのは、左手に男性が一名いて、この人物が殿様の織田信長。


その左前に側近の真田幻影。


その隣に、幻影の妻の胡蝶蘭と、娘の幼児に近い女子の阿利渚。


その隣に、阿利渚の友人の女子の真田桃源と真田咲笑。


織田信長のひざの上には男子が座っていて、幼児に近い男子の織田幻之丞。


右に見切れかけて見えている男性が、真田藤十郎。


その手前にその妻の織田長春。


そして左側にわずかに後姿の半分が見えているのは、織田信長の妻の濃姫。


この部屋には、ほかに五十名ほどいて、マリアが座っていたのは上座に当たる。


この時のマリアの視界には、これらの人物が映っていて、誰もが薄笑みを浮かべて食事を摂っている。


見るからにロボットという存在がいないことに、マリアは大いに戸惑った。


すると映像が始めに戻り、「…いるわけがない…」とマリアはこの時の記憶をしっかりと思い出していた。


汰華琉は笑みを浮かべているだけだ。


そして三回目の放映の時に、「あ」と小さく声を上げた者がいる。


もちろん誰もが、この人物に注目したが、何かを考え込んでいるように見える。


そして四回目の放映が終わって、汰華琉は仲間たちを見た。


「疑問に思った者が正解だ、誉」


汰華琉の言葉に、誉は大いに戸惑った。


「正解はわかったが、その理由が思い浮かばないといったところのようだ」


汰華琉は言って、また映像を出して一時停止した。


「さあ、まずは回答を聞かせて欲しい」


誉は眉を下げたままソファーから立ち上がって、咲笑と幻之丞に指を差した。


「…そう、なのか…」とマリアは目を見開いて呟いた。


「では疑問に思った点」


汰華琉の言葉に、「動きが、まったく同一のところですぅー…」と誉は答えてから、確信したのかうなづいた。


「滑らかに動いてはいるが、型にはまりすぎているといったところかな?」


「はい! そうです! その通りです! お兄ちゃん!」と誉は高揚感を上げて叫んでから、満面の笑みを浮かべた。


「あ、それから、滑らかのところですけど、

 そうでもないんです…

 初速が速くて終速がゆっくり、って感じで…

 どちらも話しかけられて、首を振っているのですが、

 人間の動きとは違うような…

 あ、それから、皮膚の伸び具合も気になり始めました」


誉の言葉に、「大正解!」と汰華琉は機嫌よく言って、満面の笑みを浮かべて拍手をした。


「誉の能力は、遠くのものや小さなものが見えるだけではなく、

 洞察力の鋭さも兼ね備えているといっていいだろう。

 こうやって仲間を知っていくことも、

 俺たちにとって重要なことなんだ」


汰華琉の明るい言葉に、雅は誉に抱きついて喜んでいる。


「あ、ついでに、この人たちと食事をしたい人」


静止画を指差した汰華琉の言葉に、誰も手を上げなかった。


「…素人では厳しいかな?」とマリアは言って鼻で笑った。


「俺たちは素人だから、喜笑星に行くのは断念した。

 もうひとつ、おあつらえ向きの星があって、フリージア星。

 あとは、機械技師だけど、

 ほぼ引退状態で、

 少々悪いことをやっちまった細田仁左衛門という人がいる。

 今は立ち直っているが、蚊帳の外のようなので、

 ロボット作りは細田さんに頼もうと思っている。

 もちろん、経験のために俺も手伝う。

 できれば細田さんを使って欲しいという、

 エッちゃんのたってのお願いもあったからね。

 フリージアは、少々お家騒動があって、

 王はいるが、喜笑星ほど家来を抱えていない。

 以前は千名ほど抱えていて、

 実戦も星の復興もこなせる兵がいたそうなんだけどね。

 まあ、どこにでもある話だろう。

 食事風景は、俺たちとそれほど変わらんそうだから、

 初心者はフリージアがいいだろう。

 それに、喜笑星はいろいろとうるさそうだからね。

 誉が読んでくれた文章でよくわかったつもりだ。

 あまりにも高飛車過ぎる」


汰華琉が少しだけ怒りを込めて言うと、「…ま、魔王の強さはそうでもねえ…」とマリアは言って鼻で笑った。


「真田幻影さんだね」


汰華琉の言葉に、「ま、戦闘の頭目と言ったところで、暫定で全宇宙第一位らしい」とマリアが投げ捨てるようにいった。


「あ、なんかあったようだね」と汰華琉が聞くと、「詳しい話は聞いちゃいねえが、感情的にはなんかあったはずだ」と答えた。


「穴は? あ、弱点らしきもの。

 あ、すべてに対して。

 俺たちとの常識の相違は、

 見た目でわかったけど」


「まず、電気を使ってねえ。

 だから、ロボットがいることは矛盾している」


マリアの言葉に、汰華琉は無表情でうなづいた。


「その正当な理由はあるようだ。

 朱に染まればを、嫌がったか…

 だが、便利なものはピンポイントで使うってことかなぁー…

 宇宙船は?」


「そうだそれだ!

 発着場がねえ!

 もちろん、飛行機すら飛んでねえ!」


マリアは勢い込んで叫んだ。


「時代に合わないものは出さないといったところか…

 国全体が、昔を垣間見る見世物小屋のようだ」


「…お前の話を聞いて、そう思い始めた…」とマリアは言ってにやりと笑った。


「だが、遊園地があった。

 すべて木製だったがな」


マリアの言葉に、「そこいきたぁーい!」と雅がすぐさま叫んだ。


汰華琉が無言で映像に指を差すと、「…前言撤回しますぅー…」と雅は肩をすぼめて呟いた。


「ま、いずれ作るから少し待ってな」と汰華琉は兄として堂々と言うと、「…うん、待ってるぅー…」と雅は腰をくねらせて言った。


「待たなくていいの」と美貴が言うと、「魔王様!」と誰もが叫んで頭を下げた。


そしてまたマリアの脳内を探って、遊園地の映像を出した。


見た目だけは理解できたが、箱型のアトラクションブースの中身は不明だ。


「エッちゃんに聞いて参考にした方がよさそうね」


「ああ、それでいいだろう。

 それに、細田さんにも聞いてみる。

 きっと、仕事に飢えているように思うからね。

 だが、となれば、フリージアではなく、

 地球という星にいくことになるか…

 また変わった遊園地があるかもな」


「やったぁ―――っ!!!」と雅は叫んで、誉と美貴を抱きしめて大いに喜んだ。


「異空間部屋も影というヒューマノイドも細田さんの考案のようだからね。

 基本はすべて、細田さんが作ったものらしいが、

 喜笑星の人たちが使っている宇宙船は独自のもので、

 足こぎ式らしい」


汰華琉の言葉に、誰もが目が点になっていた。


「それほどの体力の持ち主ばかりなんだよ。

 素人の俺たちには出番はない。

 だがな」


汰華琉は言って雅を見ると、「うふふ」と雅は意味ありげに笑った。


「エッちゃんのお仲間はほかに三人いて、

 喜怒哀楽の神という。

 その四人で合体して、人々の心を救っているそうだ。

 俺と雅とは少々違うが、

 かなり珍しいそうだから、

 俺たち自身が餌のようなものだ。

 織田信長はもう興味を持っているはずだ」


「…もってねえわけがねえ…」とマリアは言って鼻で笑った。


「情報はもう伝わっていて、いろいろと聞かれたが、

 俺はそれほど聞いてねえし、

 ほかのやつらも、合体すること以外知らねえだろ?」


マリアの言葉に、誰もがすぐさまうなづいた。


「そういう理由で、知らね、とだけ言ったら、角を出しやがった」とマリアは言ってから、愉快そうに笑った。


「教えてくれといわれても答えようがない。

 できて、便利だから使ってるだけ。

 その理由を説明してくれと言われても、

 今の俺と雅では説明できない。

 きちんと覚醒してからの話だろうな」


汰華琉の言葉に、「あはははは!」と雅は愉快そうに笑った。


「それにな、鍛え上げていない俺だからこそ、

 でかいことも言えるんだ。

 喧嘩を売られても、相手を卑怯者扱いして逃げる!」


汰華琉の堂々とした卑屈に聞こえる言葉に、「そのお前に俺が負けたことも知ってるんだぞ?」とマリアが眉を下げて言うと、「あんなもの、マリアの真の実力ではない」と汰華琉が言うと、「よっし!」とマリアはひと声叫んでガッツポーズをとった。


「そもそも冷静ではなかったし、

 それなりに精神的ダメージも食らっていた。

 冷静になっていて、まずは悪魔の副食を食っていたら、

 俺は手も足も出なかったはずだ。

 それも、俺のかなり線の細い作戦だったからな」


「…そうか…」とマリアは言って、薄笑みを浮かべただけだ。


「あ、マリア、先に言っとくがな、

 相当に時間がかかることだから、急かすなよ」


汰華琉の言葉に、マリアは、「…うううー… わかったぁー…」と何とか言葉では同意した。


「ま、守らねえのは目に見えているけどな。

 今いった理由は、必ず魔王が止めてくれるから」


「…そうね、そこは協力しないとね…」と美貴は言って、マリアにこれみよがしの笑みを向けた。


さすがに娘でもある美貴は苦手なようで、マリアはすぐさま肩をすぼめた。



汰華琉は桜良に一部始終を説明すると、意外な答えが返ってきた。


そして快く汰華琉たちを地球に送り、細田に紹介すると確約した。


休日の前日に連絡したので、都合がいいのは明日となったが、先様はいつでもいいようで、首を長くして待つという話だ。


「…もう、明日には…」とマリアは呟いては何度も号泣する。


「言っとくが、障害は腐るほどあるんだぞ」


汰華琉の言葉を聴いているのかいないのか、マリアは何度もうなづいてばかりだ。


「…信用しきってるわ…」と美貴は眉を下げて言って、「…ああ! ほかの星に行く余所行きがないわ!」と美貴が意味ありげに叫ぶと、「…制服、渡したよね?」と汰華琉に冷静に言われて、「…はい、そうでしたぁー…」と美貴は今思い出したように言った。


そして山城にも連絡して、もしも宇宙人がやってきたとしても、星を死守してくれという汰華琉の言葉に、山城は大いに怯えた。



この話が琵琶家の耳に入るのはほんの数分のことで、泣きっ面の顔をした桜良が、夫の万有レスターとともにやってきた。


「レスターさんの着衣は目立ちますね。

 こっちの世界だと仮装行列のようです」


汰華琉のいきなりの挑発の言葉に、誰もが目を見開いたが、レスターだけは冷静だった。


「随分と喜笑星のことがお嫌いのようです」


「ええ、そちらの殿様が大いに気に入りません。

 ですが、エッちゃんには大いに恩を感じています。

 どうやら立場が悪くなられたようですので、

 そちらの殿様にひと言いいたいのですが、

 よろしいですか?」


さすがの冷製沈着なレスターも、大いに困った顔をした。


「長いものに撒かれすぎだと思います。

 そもそもエッちゃんはどんな理由で、

 私たちに手を差し伸べてくださったのです?」


「…えー…」と桜良は困惑の表情をして嘆いて、レスターを見た。


「エッちゃんに聞いているのです」


汰華琉の言葉に、桜良はまるで雅が今までにしたことがある泣き顔になって、「…すっごく困ってるって思ってぇー…」とだけ答えた。


「それは本当に心から感謝しているのです。

 ですがおまけがいただけませんでした。

 ですのではっきりと私から意見を述べさせてもらいます。

 もちろん、魔王は連れて行きませんから。

 私の身一つで」


汰華琉は言って、左手を後ろに伸ばした。


「さあ、連れて行ってもらいましょう。

 喜笑星へ」


汰華琉が言って立ち上がると、「…わかりました…」とレスターは言って、桜良を立たせた。


「じゃ、ちょっと苦情を言ってくるから」


汰華琉が言ってすぐに、レスター、桜良、汰華琉は消えた。



飛んできたのは室内で、映像に出ていた部屋とは別のものだった。


そしてここの方がさらに煌びやかだった。


「座してお待ちを」とレスターは言って障子を出て廊下に出ると、「…ごめんなさいぃー…」と桜良が謝った。


汰華琉は胡坐を組んで畳に座った。


「ぜんぜん気にしていないよ。

 本当に恩義に思っているから。

 これは嘘でもなんでもないことだから」


汰華琉の優しい言葉に、「…うん、ありがと…」と桜良は言って笑みを浮かべた。


すると、かなり憤怒した感情が迫ってきたと思いきや、とんでもない勢いで障子が開いた。


だが、先制パンチを食らわしたのは汰華琉だった。


「お前が織田信長か。

 映像も実際も、横柄で気にいらねえ顔をしてやがる」


汰華琉のいきなりの口撃に、後ろにいた高身長で女性の胡蝶蘭がすらりと長太刀を抜いて、汰華琉の目の前に切っ先を向けると、汰華琉は太刀を目でひとなめしてから、右腕で軽く払った。


すると、『チィ―――ンィ!!!』という甲高い音とともに、長太刀の切っ先が飛んだ。


胡蝶蘭はこの現実が信じられないのか、長太刀のなくなってしまった切っ先を見つめたままだ。


「なんだ脆いな」と汰華琉が言うと、胡蝶蘭はすぐさま長太刀で自分自身の首を落とそうとしたが、真田幻影が力づくで長太刀を奪って、「すぐに抜くなと言ったはずだ!」と叫んだ。


「形あるものは必ず壊れる。

 きっと、真田幻影も言っていたはずだ。

 お前らは過信しすぎだ。

 わずか十八の、ほとんど鍛えてもいないガキにコケにされている。

 お前らの未熟さを思い知れ!

 愚か者どもが!」


汰華琉の言葉に、信長が魔王となった。


「あんたは腕っ節はそれほどでもねえ。

 だが、術には自信があるようだが、

 俺はそっちの方は得意なんだ。

 なんでもいい、撃ってみろよ」


魔王は怒り心頭になったが、「御屋形様、真実です」と幻影が冷静に声を殺すようにしてすぐさま言った。


「幻武丸のわずかなくすぶったような

 魔力を狙って拒絶反応を起こさせたのです。

 術を放てば、最悪、御屋形様は消え去ります」


「つまんね…

 ぶっ飛ばしてやろうと思ったのにな。

 俺が何に怒っているのか、

 真田幻影にならわかっているはずだ」


「…そなたたちの神を愚弄して申し訳なかった…」と幻影は言って、頭を下げた。


「そう、それを言いに来ただけだ。

 そしてさらには、助言をくれたエッちゃんに辛く当たったよな?

 だからこそ!

 この馬鹿殿を葬り去る!」


汰華琉が第六天魔王に指を差して叫ぶと、魔王は信長に戻って、畳に正座して、「…申し訳なかった…」と謝って頭を下げた。


「邪魔をした。

 エッちゃん、連れて返ってくれないか?」


汰華琉の優しい言葉に、「…う、うん!」と笑みを浮かべて言って、汰華琉の腕を握って消えた。


「…はあ… かなり焦りました…

 それにやつは肝が据わりすぎです…

 合戦場にも、あれほどの者はいなかったはず。

 しかも命をかけていたわけでもありません。

 それに、あの実力は本物で、魔法などには滅法強いかと」


幻影の言葉に、「…愚か者に馬鹿殿か… 少々調子に乗りすぎておったか…」と信長は薄笑みを浮かべて言った。


さすがに家臣たちは何もいえなかったが、「…あの子とマリア、欲しいわぁー…」と濃姫が言うと、もう慣れているようで、呆れて誰もが頭を振っていた。


「私のことはかなり調べたように思えますが、

 その形跡がないことが不思議なのです。

 気功術師には違いありませんが…」


「もうひとりおった…

 こしゃくなヤツ…」


信長は言って、愉快そうに高笑いをした。



「いやぁー… 作戦通りで驚いた!」と城に戻ってきた汰華琉は機嫌よく叫んだ。


そして雅が汰華琉の体から出てきて、汰華琉を抱きしめた。


「何があったのか見たいぃー…」と美貴がせがむと、宙にその映像が流れて、汰華琉の武勇伝が放映された。


「…うう… できな… できる! 僕だってできるんだ!」と静磨がやけくそ気味に叫んだ。


「そうだ! その調子だ!」と汰華琉は叫んで、静磨を大いに褒めた。


「…折っちゃって、ちょっとかわいそうだったけど…

 もちろん、お兄ちゃんの気持ちもすっごくわかったしぃー…」


雅は言ってマリアを見ると、汰華琉たちに背を向けて号泣していた。


「言ったろ…

 形あるものはすべて壊れる。

 そして真田幻影も認めた。

 今頃はあの長太刀を打ち直してるさ。

 ま、自分で首をはねようとしたことはさすがに驚いた。

 あの人たちはそういう世界にいたんだなぁー」


「こっちだって、それほど変わんなかったわ」と桜良が言うと、「…ま、まあそれなりにね…」と汰華琉は頭をかきながら答えた。


「雅のこと、気づいたって思う?」と汰華琉が聞くと、「微妙だけどぉー… 信長さんは気づいたかなぁー…」と桜良が考えながら答えた。


「術師のようだからそれはあるだろう。

 特に知られても問題ないし。

 エッちゃんたちなんて四人なんだから」


「あ! そうだったそうだった!」と桜良は陽気に言って喜んでいる。


合体する者たちが一組いれば、同じようなことをする者が別にいても不思議ではない。


「だからこそ気づいたわけね」と真顔の美貴が言うと、「だろうなぁー…」と汰華琉は答えて、雅の頭をなでた。


すると、「え?」と汰華琉が驚くと、「…うふふ… 大成長ぉー…」と言って、満面の笑みを浮かべた。


「これ以上、伸びたりしないの?」


汰華琉は眉を下げて言って、雅の頭をなでまくった。


「うーん、わかんないけどぉー…」と雅が言って右手で頭の突起物をなでると消えた。


「え? 小悪魔ちゃん?!」と桜良が叫ぶと、汰華琉と雅は愉快そうに大声で笑った。


「…悪魔の角じゃあねえ…

 竜のもののように感じたが、それでもなさそうだから、神獣か…」


マリアの言葉に、「鳥たちの底なしの成長については聞いたし、サクラインコがここまで成長したことはよくわかったよ」と汰華琉は穏やかに言った。


「でも、サクラインコが神獣になった記録はないから、

 どんな子なのかすっごく楽しみだわ!」


桜良の陽気な言葉に、「…お姉ちゃん、いいなぁー…」と誉が言って雅に抱きついた。


「あ、お前ら二人は強制的に褒美な。

 何がいい?」


「一緒に寝る!」と雅と誉と美貴の三人が同時に叫んだので、「美貴は却下」とさも当然のように汰華琉は言った。


「…かっこよすぎるぅー…」とひとり輪の中に入っていない美都子が、笑みを浮かべて言った。


そしてまた映像を再生をしてもらって喜んでいる。



翌日は予定通りに桜良が迎えに来て、目的の地の地球に飛んだ。


そこは妙に広い場所で、雅と誉が、「遊園地だ! 遊園地!」と叫んで走り出そうとしたが、マリアにすぐさま捕まった。


「遊びに来たんじゃあねえ」とマリアが穏やかに言うと、「えー…」と二人は眉を下げて嘆いたが、「美都子さんと、そこの幼い姉妹は遊んでいてもいいぞ」と汰華琉が少し投げやりに言うと、桜良が三人を連れて走り去った。


すると、「やあ、待ち遠しかったよ」と言って、初老の男性が言って、ゆっくりと歩いてきた。


細田仁左衛門の後ろに妻なのか、女性が影のようにして付き添っている。


年の離れた夫婦なのか、妻は意外に若々しい。


女優という職業柄、実年齢よりも二十ほど若く見えるので、細田とはほぼ同い年だ。


「余計なことですが」と汰華琉は挨拶代わりに、細田の手に触れた。


すると細田は、女性と同じほどの年齢にまで若返っていた。


「…えー…」と女性が大いに驚くと、「まさか大和君もできるなんてね」と細田は言ってから、丁重に礼を言った。


「おかげで、今までの数倍は働ける。

 もう準備は整っているから、

 記録のコピーだけで終わりだ」


細田の明るい言葉に、「本当にお世話になります」と汰華琉は言って、細かい打ち合わせをしていると、「なぜそんな面倒なことをする?!」と話を聞いていたマリアが叫ぶと、「はいはい」と美貴は言ってマリアを遠ざけた。


「あ、魂のコピーは雅がいないと…」と汰華琉が言うと、美貴は魔王になってすっ飛んでいって、雅だけを奪ってきた。


「わりい、仕事だ」と汰華琉が言うと、「…あははは、そうだった…」と雅はようやく思い出して、この場で美貴の魂の情報と、マリアの脳内と魂の情報を、細田が用意した黒い箱二つにコピーした。


「…転送速度が早すぎるが… 問題ないはずだ…」と細田は呆然として言って、汰華琉と雅を見て笑みを浮かべた。


そして汰華琉と細田は異空間部屋に入って、ヒューマノイドのケインの調整をしてから、ケイン星の過去で動物が人間に進化する直前までの記録の範囲を探って、ヒューマノイドケインの集積回路にコピーした。


「ま、慌てるだろうなぁー…」と汰華琉が言うと、「そうなるね」と細田は陽気に言って、汰華琉に同意した。


「じゃ、起動」と細田は言って、リモコンのボタンを押すと、ケインが目を開いた。


そしてゆっくりと半身を起こして、「…あんたらは…」と呟いて首を振った。


「これからマリアさんのために、

 ちょっとした試練に耐えてもらいます」


汰華琉の落ち着いた言葉に、ケインは目を見開いて、「そうだ! マリアは?! マリアはどこだ?!」と叫んでベッドを降りようとしたが、腰から下が動かない。


「人間だったら、鎮静剤でも打ちたいところだけどね。

 君たちの世界では、製薬はご法度だったね」


「ええ、それが原因で、第一のパンデミックが起こったようですから」


やはり副作用があり、化学物質や遺伝子組み換え食品などは作り出すべきではなかったのだ。


よって製薬会社がないことで、今もウイルス性の疾患などは確認されていない。


人類のほとんどが健康体過ぎるほどなので、人間や動物に悪さをするウイルスなどは、発見されるのだが、それほどの繁殖力もなく強い効果を持っていない。


さらには、マリアが過去の文献などをかなりの量を汰華琉に渡していたので、この先、様々な事実が解明されるはずだし、ケインとマリアの記録からでも、それを知ることが可能だ。


「あんたは、一度死んだんだ!」と汰華琉が叫ぶと、ケインは動きを止めて、「え?」と言って固まった。


「だが、マリアさんは生きている。

 そのマリアさんの依頼で、

 あんたを蘇らせようとしているわけだ。

 そしてここからが試練だ。

 あんたはなぜ死んだのか」


汰華琉の言葉に、「…そんな、そんな…」とケインは嘆いた。


「マリアさんに会いたいのなら、試練に耐えろ!」と汰華琉が活を入れるように叫ぶと、「…取り乱してしまって、申し訳ありません…」とケインは言って、汰華琉に頭を下げた。


そして、ケインとマリアが何をしたのか、まずは汰華琉が口頭で説明した。


ケインは大きなショックを受けたが、「…ありえます…」とケインは小声で答えて、ケイン星であった不幸を認めた。


そして第二段階として、かいつまんだ人類粛清の顛末を今度は映像として見せると、「…なんとひどいことを…」とケインは大いに後悔して、そして懺悔した。


もちろん、マリアに協力させたことも、ケインの悪い心だ。


過去を語ることと、映像を見せることには意味があった。


体内のメモリーにいきなり書き込むと、目覚めた次点で動かなくなると、汰華琉と細田の意見が一致していた。


よって、第三者的に言い聞かせることで、贖罪の思いを緩和させようと考えたのだ。


そしてケインは二人の思惑通り、停止することはなかった。


「そしてあなたとマリアは、

 今日からは過去とは違う別の道を歩むのです。

 その道は、また腹が立つ道かもしれませんが、

 今度は私たちがお手伝いします。

 決して前回と同じ結末にならないように、

 同じ轍を踏まないように、ケイン星をさらに平和な星にします。

 ですから、マリア様とともに、

 心穏やかに過ごしていただきたいのです」


「…また、生きる希望を与えてくれてありがとう…」とケインは言って、汰華琉と細田に頭を下げた。



そして新たに発覚した事実があり、ケインは特殊な術使いだと知った。


それは、詠唱式の術で、魔王サンダイスを神として発動するものだった。


「…ヒューマノイドですが、術が発動するかもしれませんね…

 ですが、魔王サンダイスが存在していませんから、

 別の魔王で試してみますか…」


汰華琉の言葉に、「一度、異空間部屋を出て休憩にしよう」と細田は言った。


異空間部屋に入って、もう十時間が過ぎていた。


汰華琉はケインに許可を取って、眠ってもらった。


そして、細田はケインを異空間ポケットに入れ込んだ。



部屋を出ると、魔王がマリアを押さえつけていた。


こちらの方はまったく時間が進んでおらず、つい数秒前に汰華琉と細田を見送ったばかりだ。


「大丈夫、大成功だが、少々ケインさんに聞きたいことができてね。

 術を使えるかもしれないんだ」


汰華琉の言葉に、「…え?」とマリアと魔王が同じ顔をして固まった。


「ケインさんの場合、

 術は魂内で作り出すものではなく、詠唱式だ。

 術の召喚といった方がいいね。

 魔王を崇拝する気持ちが機械にでも再現できるのなら、

 かなり便利だと思うし、さらに神ケインに近づける。

 それを確認しておきたいんだよ。

 もしも放っておいて、

 とんでもない術が発動してしまうと、

 かなり怖いからね」


「…うう… 忘れてしまっていた…

 確かに、ケインは、術を唱えていた…」


マリアは目を見開いて言った。


「崇める魔王は美貴だから、判断してほしい」


汰華琉の言葉に、「…おう、わかった…」と魔王は答えたが少々心配なようで、困惑気な眼をしていた。



休息と食事を摂るために、汰華琉一行は遊園地を出たのだが、「…浮島だったんだ…」と汰華琉はかなり感動して言って、チューブ式のシースルーエレベーターに乗り込んだ。


しかも島の上に浮島があり、島の全貌を見入りながら地上に降りて、このコンペイトウに一軒だけある旅館に行って、まずは温泉に浸った。


「あー! 蘇るぅー!」と汰華琉が思ったままを感情を込めて叫ぶと、細田が愉快そうに笑って賛同した。


料理もうまいものばかりで、ケイン星とは一味違って、食材が豊富だった。


そしてマリアはなぜか大人しくなっていて、食事を終えて寛いでいる汰華琉と細田の元にやってきて、「…お父さん、元気?」とまるで幼児に返ったように聞いてきたので、汰華琉と細田は顔を見合わせた。


「ああ元気だよ。

 お父さんもマリアに会いたがっている。

 次はきっと会えるからね」

 

汰華琉は子供に言い聞かせるようにやさしく言った。


「…お父さん、またプレゼントくれるかなぁー…」


「ああ、もちろんだよ」と汰華琉が自信を持って答えると、「うれし!」とマリアは喜びをあらわにして言って、また大人しくして鼻歌を歌い始めた。


「…確認しておいてよかった…」と汰華琉が安堵感を流しつぶやくと、「さすがです」と、細田は自分のことのように喜んだ。


細田のこの仕事は、まるで自分のためにやっていると、いろいろと錯覚していた。


まさに、細田の身に、マリアと同じことが起こったのだ。


それはもちろんかなり昔の前世の話で、細田はひとつの魂だけを生涯をかけて追っていた。


その魂は破壊され、霧散していた事で、細田は一度は絶望しただが、妻の岩戸理恵が時にはこづき、時には抱きしめて、献身的に支えた。


ようやく生きる希望を得た細田だったが、その魂の探索のために、人を欺いたり罠を仕掛けたりして、人々を困惑させたのだ。


怒り狂った当時のフリージア星の王の万有源一が、細田を糾弾したことによって、細田は自由を奪われた。


今は囚われの身ではないのだが、細田としても自分自身を許せなかったので、蟄居の身は当然として、母星である地球に篭っていた。


そんな生活の中で、汰華琉からの依頼があったのだ。


細田は、まさに自分自身の贖罪としてケインを作り上げ、今も誠心誠意、自分とマリアをだぶらせながら、真摯に仕事に打ち込んでいる。


二人は今度は美貴も連れて異空間部屋に入って、魔王とともにすべての検証を終えて、異空間部屋を出た。


この時に魔王の名を知り、「…かわいいな…」と汰華琉が陽気にいうと、「…忘れっちまえ…」と魔王は悪態をついた。


今度はケインは自分の足で立っていて、マリアと対面した。


マリアは大粒の涙をぽろぽろと零し、「おとうさぁーんっ!」と叫んで、ケインを抱きしめた。


ケインは感動して涙を流した。


ヒューマノイドも涙を流す。


もちろん計算の結果だが、記憶装置に書き込まれていることを精査しての真実の涙だ。


おあつらえ向きにここは遊園地なので、二人は再会の記念として早速ここを堪能することにした。


「…よかったぁー…」と雅が薄笑みを浮かべて感情を込めてつぶやくと、「今、問題ないと確信したよ」と汰華琉がやさしい感情を流して言うと、雅は汰華琉の腕をとって甘えた。


「細田さん、一緒に暮らしてくれませんか?」と汰華琉が進言すると、「そうしたい」と細田はすぐに答えてしまって、ばつが悪そうな顔をして、妻の理恵を見た。


「三日に一度は帰ってきて」と理恵が懇願の目をして言うと、「あ、通いでも構いません。時には泊まってくださってもかまいませんから、奥さんもどうぞ」という汰華琉の快い言葉に、細田と理恵は笑みを向け合って汰華琉に礼を言った。



汰華琉たちは遊園地を堪能してからケイン星に戻った。


ニュースを見る限りでは困ったことは起こっていないようで、汰華琉は安心してから山城に帰着の挨拶をするために電話をした。


そして口頭だが、別の企画を話すと、「いや、それもいいな…」と山城はうなるように同意した。


「美貴が今から企画書を書き上げますから。

 褒美を与えれば何でもする、

 素晴らしいお嬢さんです」


汰華琉の言葉に、山城は愉快そうに笑って電話を切った。


「カジュアルなお洋服を買いにデートに行きたいわぁー…」


「…わかったわかった…」と汰華琉はめんどくさそうに答えた。


「デザートは、チュー…」と美貴が言うと、「その場の雰囲気でな」と汰華琉が言うと、美貴は唇を尖らせたが、とんでもない速度でパソコンのキーボードを叩き始めた。


施設が出来上がっても従業員が必要なので、今すぐの開園は不可能だ。


だが驚くほどの応募が来たことで、後は従業員訓練だけとなっていた。


一旦は不合格を出した求人者にまた連絡をして、遊園地の従業員として雇うことにもなり、動物特別保護センター、WNA軍特別訓練施設、自由の森の木の遊園地は、五日後に同時に開園した。


開園の前日までに、雅たちが遊園地を大いに堪能したことは言うまでもない。


汰華琉たちはもちろん修練場にいて、短い時間だが肉体鍛錬に勤しむ。


日の入りを閉園としているので、のんびりと訓練はできない。


もちろん、動物保護施設なので、明るすぎる照明などを使うことは厳禁だからだ。


さらに圧巻は、ジェットコースターの走路のようなランニングコースで、一周五キロと短いのだが、一周するだけであごが上がるほどに険しいものだ。


若い力は、その可能性に満ちた力を連日さらに上げていった。



そんな中、売り上げが好調となってきたのが、やはり古代の水だった。


始めはただの水だという軽い認識で、安いので買っていたのだが、リピーターが殺到して、開園と同時に売り切れる事態となった。


園には水を買いに来る目的でやって来る客が異様に増えたことで、園内での販売は終了したとした。


するとその看板を見て、あっという間に園から人が引いていった。


実害はなかったのだが、動物たちに悪影響がある可能性も捨てきれなかったからだ。


さすがに人が増えればごみも増えるし、許容範囲以上に騒々しい。


モラルのない不届き者はもちろん出入り禁止としたが、それでも掃除が追いつかないほどだったからだ。


よって商品名、『神ケインと神マリアの古代の水』は、大型店舗に卸すことになり、少々値が張る商品となった。


もちろん儲け主義に走ったわけではなく、小さなものだが工場建設と、管理と運搬する従業員、そして卸の中間マージンが発生することによるものとして、WNAから正式に詳しく公表されたことにより、一部の者は煽り立てた者や、クレームを言った者たちを責め立てた。


もちろん、このようなことから平和ではなくなることがあるため、また警察が忙しくなってきた。


これは騒ぎが起こった時に予想してきたことだし、ケインもマリアもこの程度のことでは怒らず呆れているほどだ。


だが、「…平和じゃないね…」とケインの眉を下げさせた。


そしてマリアは過激で、まったく別のWNAの記者会見の生放送中に、勝手に乱入して、「…また、人間たちだけ間引いちゃっていいのよ?」と言って、悪魔の笑みを浮かべてからふわりと浮かんでその姿が消えると、世界中の人類が震え上がった。


「あ、いい効果だった。

 しばらくは平和かも」


テレビを見ていた汰華琉は絶賛したが、誰もが眉を下げていた。


だが、これほどに危機を示唆しても、止められないのが馬鹿な人間なのだ。



そう、このケイン星は平和になった。


するとその平和に狙いをつけてなのか、汰華琉と細田で星に三箇所設けた宇宙観測所のヤハン観測所から、宇宙船来襲の一報が入った。


魔王は特別小隊全員を抱え込んで、宇宙船が飛来する近くの高い山の上に降り立った。


ほかの観測所からは通報はないので、この地だけのようだ。


そして新たな連絡が観測所から入って、宇宙船は一隻だと報告があった。


「あ、見えた…

 民間船のようだなぁー…」


帰り支度をしていて帰りそびれた細田が呟いた。


この近隣の生物のいる星の所在は細田によって探索は終えているので、隊員であれば話は通じる。


「このケイン星に一番近い、

 一光年ほど離れたギリス星から来たようだ。

 乗組員はすべてで八百九十二名。

 戦い敗れて、亡命してきたってところかなぁー…

 追いかけられてはいないけど、

 食糧が尽きたようだ。

 宇宙船の表面に武器はないけど、

 携帯の武器は持っている。

 そして、勇者一名」


細田の最後の言葉に、誰もが大いに緊張した。


「よっしっ! 来たっ!」と汰華琉が叫んだと同時に、宇宙船らしき機影が見えた。


そして、汰華琉たちがいる山の頂上に近づいている。


「タフだなぁー…」と細田が大いに感心して汰華琉に言うと、「その件で明日お話をしようと思ってたのです」という汰華琉の言葉に、「できることがあれば何でもするよ」と細田はいつものように気さくに言った。


宇宙船は停止したが、もちろん汰華琉が操っているので、ハッチが開くことはない。


「蜂の巣をつついた大騒ぎだ!」と細田は叫んで愉快そうに笑った。


「取調べは遠慮した方がよさそうですね。

 下手に逃がすのも問題ですから」


「うん、賛成だよ」


汰華琉と細田の意見が一致したので、汰華琉は美貴に言って、すでに同盟を組んでいて打ち合わせ済みの、困った時のロストソウル軍に通報するように伝えた。


するととんでもない速さで、十機ほどの機影が見え、ロストソウル軍のペイントと船籍、機体認証を終えた。


汰華琉はロストソウル軍第三機動部隊の隊長と話をして、引継ぎを済ませると、それなりに大きな宇宙船はビームアンカーで拘束されて、すべての宇宙船が消えた。


「もっと安心できるように、アンテナの捜索範囲を十時間分ほど広げるよ。

 半年後には、ひと月先までの飛来確認ができるはずだから」


「数日後にはようやく安心して外出できます」と汰華琉は愉快そうに言って、細田に礼を言った。


「みんなが、もう星を守ったぁー…」とマリアが少し感動しながら言うと、「立派な子供たちだ」と穏やかな笑みを浮かべてケインが言った。


もちろんこの件は、初の宇宙人来襲事件として、すべての情報を星中の人民に対して報道をした。


もちろん、まったく接触しなかった事情も映像込みで説明したが、どうやらほかの星の人間と接触を図りたかったようだ。


危険だと説明して証拠も見せているのに、このようなことを言ってくるのだ。


その中に実力者でもいればいけにえにでもなってもらうのだが、ただただ興味があるだけの者たちばかりだったようで、相手にしないことにした。


この日を境に、各国で宇宙開発の準備を始めようとしたのだが、ケインによってすべてが却下された。


もちろん、公表した国はないのだが、それが報道として正確に流れたことで、世間は一斉に黙り込んだ。


これがケインの持つ、星の所有者の権限となった。


宇宙に飛び出して迷惑をかけた場合、このケイン星の存続が危うくなるからだ。


「次は、ほかの星に行かせろ、だな」と汰華琉が愉快そうに言うと、「その準備もできているさ」とケインは明るい口調で言った。


「ま、受け入れてくれる星があっても、

 どうなっても放っておくけどな。

 それもある意味見せしめだよ」


「まっ! 汰華琉お兄ちゃんってこわぁーい…」とマリアは言って、けらけらと陽気に笑った。


「人口十億でも十分にこの星は広いんだけどなぁー…

 やるなと言われると狭く感じるんだろうけどなぁー…

 できれば、宇宙旅行の企画でも立ち上げたいところなんだが…」


汰華琉の言葉に、「WNA特殊機動部隊特別小隊隊長の言葉として報道に乗せたわ」と美貴がかなり悪い顔をして言うと、「…おいおい…」と汰華琉は言って、大いに眉をひそめた。


ケインとマリアは愉快そうに笑っていたので、反対意見はないようだ。



翌日の大学では、汰華琉の公表した宇宙旅行の件で大いに沸いていた。


だがこの件は様々な障害があって、出先の星に迷惑をかけないことが第一条件となる。


もちろんあくどいやつも必ずいるので、星を飛び立つ際の審査はケインとマリアが行うことになる。


予想としては、千人応募してきたとして、許可できるのは三十人程度だと言った。


よって公表したからにはその企画を立てる必要があるのだが、すべては美貴が終えていて、まずはテレビ局が第一陣として出向くことだけが決まった。


訪れても問題のない星は、フリージア星と細田の住んでいる地球の二箇所に限定された。


もうすでに交流があることを人民たちは大いに驚いていたのだが、ここに来て、すべての手札をさらしたことになる。


そして多くあるテレビ局のどこが行くのかは、ケインとマリアが決定する。


問題なく無事に帰ってこられたのであれば、宇宙旅行は超高級なステータスな行事となることは決まったようなものだ。


汰華琉は学校の講義を終えて城に帰り、こちらにやってきていた細田に挨拶をした。



「やっと原因が固まったし、すべての能力の上昇も確認できた」


細田の明るい言葉に、「本当にありがとうございました!」と汰華琉は満面の笑みを浮かべて、細田に最敬礼をした。


汰華琉の仲間たちは着々と実力を上げていたのだが、汰華琉自身のすべての実力が足踏みになっていったのだ。


これは由々しき事態と思い、汰華琉は本格的な検査と、汰華琉にみあった鍛え方を細田と考え出した。


原因はまったくわからないのだが、体力的鍛錬と精神的鍛錬をまったく同じレベルでこなさないと、成長が見込めないという特殊な結果が出たのだ。


体力と精神力の指標は同一ではないし、特に精神鍛錬をどう計算すればいいのかが未知だった。


よって細田はすべての鍛錬を得点制にして、鍛錬後の結果と照らし合わせて、ようやく汰華琉が自信を持てる結果を出せたことに喜んだのだ。


しかも誤差なしに成功した時の上昇率が半端ない結果にも驚いたものだった。


だが汰華琉としてはそれほど急ぐことはなく、その日の気分で怠けすぎない程度に鍛え、長い時間をかけてここまでたどり着いた。


だが、肝心のその原因がわからなかったので、雅を交えて鍛錬した時に、ようやく回答が出た。


すべての原因は内臓の肝臓にあった。


雅を憑依させた場合、ごく一般的な体力上昇や精神力上昇につながることがわかった。


そして細田が注目したのが、肥大気味の汰華琉の肝臓だった。


なんと雅が憑依していた場所は肝臓だったのだ。


肝機能を上げることで、汰華琉は身体的にはほぼ完璧と言っていいほどの力を手に入れていた。


もちろん身体のバランスもあって、肝臓だけに固執した憑依はしていない。


雅を憑依させずに、汰華琉ひとりで鍛える場合は、肝機能のわずかな不全が確認できた。


雅は無理はしていなかったはずなのだが、あまりにも過度な働かせ方をしたので、肝臓が悲鳴を上げていたと言っていい。


食欲は変わらないのだが、栄養分が正常に吸収されていなかったことも結果として判明し、栄養バランスを重視した食生活改善などにも着手した。


この食事療法は、汰華琉だけでなく誰にでも適応できることだったので、それぞれ個人の特別メニューなども食事に取り入れた。


汰華琉自身もキッチンに立つようになり、料理スキルも手に入れた。


よって汰華琉たちの肉体は、誰もが信じられないほどに素晴らしいものとなっていた。


その中で一番の力持ちは静磨で、身長が低く軽量なのだが、その力は信じられないほどに発揮できた。


もちろんこの結果に、静磨自身が一番喜んだほどだ。


そして能力者覚醒の階段を二三歩昇っていた。


「だけど、美都子さんの胸だけがお母ちゃんになったな」と食事を摂りながら汰華琉が言うと、「大きいのはいいけど意味わかんなぁーい」と美都子は困惑げだった。


「…分けて欲しい…」と胸の変化がない美貴は大いにうらやましがっているが、この中で唯一、魔王というと途轍もない存在感を持つ種族に覚醒しているのは美貴だけなのだ。


汰華琉のように、気功術だけでも使えるようになれば、成長速度はさらに速くなると誰もが疑っていなかった。



そんな中、ヤハン各地の企業で、盗難騒ぎが相次いだ。


秘匿事項の書類などの紛失が相次ぎ、姿なき怪盗でも現れたのかと、WNA支部では警察とは別に独自に調査を開始した。


もちろん、理事会や委員会のメンバーの企業も被害にあっていたからだ。


この怪盗はまったく尻尾をつかませないのだが、幸いにも、その秘匿資料が使われたり公開された形跡はない。


もちろん、特殊能力者の出現も考えられたのだが、まったく手がかりがないので探しようがないので、各社はこぞって防犯に力を入れた。


「あ、それだそれ」と細田がようやく謎が解けたと満面の笑みを浮かべて言った。


「防犯設備会社が怪盗を飼っている。

 その通りだと思います」


防犯設備会社はすべてがこぞって宣伝に余念がない。


この中で秀でて売り上げが芳しい企業が怪しいかもしれないと考えたが、今までよりも売り上げが上がればよかったのかもしれないと思い、小さな会社や下請けまでも手広く調査をした。


その中の情報で偶然だったのが、『透明化マント』の存在がWNA本部ヤハン出張所に入って来た。


以前捕らえた賊が使っていた汰華琉が手に取った布だ。


もちろん汰華琉は自分のものにはせず、WNA本部に提出している。


細田がそのマントの解析を行って、「…術が施されてる…」と呟いた。


そして細田はその詳細をわかりやすく映像として出した。


「術と言ったが呪いのようなものなんだ。

 術は、術師の意識が断たれたり眠ると消え去るからね。

 だから犯人の種族候補は二つある。

 神か、妖怪」


細田の言葉に、「…妖怪…」と誰もが呟いた。


「ケイン、出先を追えないか?」と細田が聞くと、ケインは布を手にとって短い詠唱をして、「気は南」と言ってすぐに、「わかったって!」と美貴が叫んだ。


「迂闊だった」と汰華琉は透明化マントのことを忘れていたことを後悔して反省してから、「全員で行くぞ!」と気合を入れて叫ぶと、美貴は魔王に変身して、全員を抱え込んで飛んだ。



「…児童保護施設…」と汰華琉は門の表札を見て呟いた。


「ここの管理は、山茶防犯商店だ。

 調べると、この近隣では防犯関連店はここしかなく、

 売り上げ十倍増だ」


魔王の言葉に、「…ここでたぶん決まりだけど、まあ、いろいろとつらいことになりそうだ…」と汰華琉は呟いた。


「…園の子供たちの中に妖怪が…」と雅は悲しそうな顔をして呟いた。


「呪いとしてはそれほど厳しいものではないんだ。

 妖怪だとしても駆け出し。

 だが罪悪感にさいなまれると少々まずい。

 その妖怪は霧散するかもしれない。

 だからこそ、作らせた者が黒幕と思っていいはずだよ」


細田が悲しそうに言うと、「誉」と汰華琉と言ってから、誉を抱いて、施設をかなり離れて上空をゆっくりと飛んだ。


「…ああ、わかってしまいましたぁー…」と誉が言った時、魔王も理解して、美貴に姿を戻した。


「ツインテール。

 オーバーオール。

 赤いTシャツ。

 赤い靴。

 今の所在は中庭」


美貴の報告に、「…訪問しよう…」と汰華琉は少し暗い表情をしてつぶやき、施設の門をくぐった。



『たなかみよ』というネームプレートをつけている女性職員に、汰華琉たちは身分を明かした。


するとみよは明らかに動揺した。


そして中庭にいるツンテールの女の子について聞くと、顔面が蒼白になった。


そして、作業机にある電話を気にし始めた。


「そうですか。

 彼女が何物なのかは知っているわけですね。

 一番まずい状況は、

 あの子が本当のことを知ることです。

 もしも悪事に加担していると知れば、

 彼女は最悪、良心の呵責に押しつぶされて消え去る可能性があるのです」


汰華琉の言葉に、みよは目を見開いて、口をふさいで声を上げずに涙を流し始めた。


「彼女の運命を変える必要があります。

 彼女はWNAが保護します。

 ここの経営者はもうすでに確保されているはずですから」


『確保して認めた。

 あとはうまくやれ』


魔王の短い念話に、「わかった」とだけ汰華琉は答えた。


だが汰華琉はこの先どうすればいいのか、判断ができなかった。


みよの思考を読むと、この園の子供たちが全員無事に別の施設に引き取られるのを見送ってから、目的の女子、たまという名の子だけを連れて別の地に移動する計画になっている。


そうなれば、いずれたまは悪事を知ることになるだろう。


だが、汰華琉の頭にある光が差した。


「中庭に行こう」と汰華琉は自信を持って、部屋を出て廊下に出た。



中庭には五人の女子が遊んでいて、たまはその中心にいた。


「やあ、たまちゃん」と汰華琉が気さくに声をかけると、ツインテールのたまが一番に顔を上げ、ほかの女子もそれに倣った。


「たまちゃんはお兄ちゃんと一緒に来ないかい?」と汰華琉が言うと、「…えー…」とたまは言ったが、汰華琉の周りにいる雅たちを見て笑み浮かべた。


「俺たちにも孤児がいてね。

 妹にした子が二人もいるんだよ」


「えっ?! そうなのっ?!」とたまは満面の笑みを浮かべて汰華琉を見た。


汰華琉はほかの女の子たちを見て、「たまちゃんは内緒で、空を飛んだりしてないかい?」と汰華琉が聞くと、女の子たちは何か言おうとしたが、一斉に口をふさいだので、誰もが愉快そうに笑った。


「実はな、お兄ちゃんも空を飛べるんだ」


たまは、「うわぁー…」と言って、汰華琉を見上げて満面の笑みを浮かべた。


―― つながった… ―― と雅は思い、汰華琉とたまに笑みを向けた。


そして汰華琉はたまを抱き上げて、低い位置だが宙に浮かんで、女の子たちを喜ばせた。


「お兄ちゃんだ!」とたまは叫んで、汰華琉をしっかりと抱きしめた。


誉と美都子は安堵したのか、顔をぐちゃぐちゃにして泣いている。


「じゃ、空を飛んで帰るから」と汰華琉は言って宙に浮かんで、「さあ、みんなにあいさつだ」とたまに言うと、「みんなも幸せになるから!」と心の底からたまは叫んだ。


そして汰華琉は全員を宙に浮かべて、城に向かって飛んだ。


途中で魔王と合流して、城の庭に足を降ろした。


「…お城だぁー…」とたまは城を見上げて呟いた。


「たまちゃんも王女様だぞ」と汰華琉が言うと、「うれし!」と叫んで、汰華琉を抱きしめた。


「…おー… 怖そうな仲間だぁー…」とたまは声を低くしてうなるように言って、汰華琉がシュールと名づけた猫を見入った。


「保護地に連れて行ったけどなじまなくてね。

 ここで共同生活をしているんだよ」


「…みんなと一緒に、行くはずだったのになぁー…」とたまが悲しそうに言うと、「じゃあ、明日だが、俺たちと遊園地に行くかい?」と汰華琉が答えると、「いくいく!!」とたまは叫んで大いに喜んで、誉に捕まってしまったが、しっかりと抱きしめた。


「…先にとられちゃったぁー…」と雅は言ったが、やはりたまも、雅には少々抵抗感があるようで、少しぴりぴりしていると汰華琉は思った。


しかし妙案が沸いてきて、汰華琉は雅と手をつないだ。


すると、妙な緊張感が解け、誉も気づいて、たまを雅に渡した。


「四姉妹になったわ!」と雅は明るく言って、美貴に満面の笑みを向けた。


「…お姉ちゃんが一番すごいぃー…」とたまが目を丸くして雅を見上げてつぶやくと、「…あたしじゃないのね…」と美貴は少し悲しんだが、「今は人間」という汰華琉の言葉に、「そうだったわ」と美貴は言って、三人の輪の中に容易に入っていた。



「…だが、おかしい…」と汰華琉がつぶやくと、ケインが短い詠唱をして、「生のある妖怪は聞いたことがない」と笑みを浮かべて言うと、汰華琉は笑みを浮かべて頷いた。


「それに、転生して時間が経っているはずなのに、

 成長速度が遅いように感じる。

 また別の、何かの想いも作用しているかも」


汰華琉の言葉のあと、「あたしの知り合いの想いだわ!」と美貴が叫んだ。


「だったらお前もこっちに来い」と汰華琉が言って苦笑いを浮かべて手招きをすると、「…結婚してないけど離婚されそうだわ…」などと美貴はいいながら詳しい話をした。


「山城理事長の唯一の肉親か… ああ、昔話のばあちゃんだ…」と汰華琉は笑みを浮かべて言った。


「こっちに呼んだんだけどね、

 長年住み慣れた土地がいいからって。

 最近はお正月じゃなくて、暖かい時に、家族旅行に行っていたの。

 もちろん、汰華琉たちにも多少の気遣いを持ってね」


こういったところは、孤児仲間精神が働いたと言っていいだろう。


「だったら兄さんたちは懐いたんじゃないのかい?」


美貴は眉をひそめて、「…利用価値はそれほどない…」とつぶやいた。


「いや、大いにあるはずだぞ。

 大きな目で見ればこの辺りは都会だが、

 この城を中心にして見れば田舎に近い。

 宅地改革と自然保護をしてこうしたようなものだからな。

 案外喜んで来るんじゃないのかい?

 それに…」


汰華琉は言ってたまを見た。


「…探していたかもしれない…」と美貴は言って笑みを浮かべた。


「大婆ちゃんはみんなの覚醒の糸口を解いてくれるかもしれない」


汰華琉の希望ある言葉に、「行って来るわ」と美貴は言って、魔王に変身してすっ飛んでいった。


「…大丈夫かな…」と汰華琉が大いに心配すると、ケインとマリアが愉快そうに笑った。


魔王の姿で逢えば、誰だって尻込みするし、腰を抜かしてもおかしくない。


しかし、何らかの力を持っているのなら、そうでもないだろうと汰華琉は思い、笑みを浮かべた。



魔王はあっという間に帰ってきて変身を解いた。


その傍らには笑みを浮かべた老婆がいる。


「…腰が抜けた…」という老婆の言葉に、汰華琉は少し笑いながらも、わずかな若返りの術を使った。


「あー… いい男じゃぁー…」と美貴の戸籍上では大祖母に当たる薩摩幹子は、汰華琉を見上げて頬を朱に染めた。


美貴は汰華琉と幹子の間に入って、「あたしのだんなって言ったよ!」と本気で怒鳴った。


「…私がさらに若ければ…」と幹子は本気で悔しがっている。


「できますが、どうされます?

 今も、体の調子が多少よくなっていると思います」


汰華琉の言葉に、「…愛の奇跡…」と幹子が涙を流して言うと、「…そっくりとしか思えないから、美貴の血縁者じゃないの?」という汰華琉の言葉に、「…自信はないわ…」と美貴は眉を下げて答えた。


「お兄ちゃん、お願い」と雅が言ったので、汰華琉は心置きなく、幹子を若返らせた。


「おほほほほ!

 体が羽のように軽い軽い!」


幹子は大いに喜んで、庭中を駆け巡っていると、その視界にたまが入って目を見開いて立ち止まった。


「…まさか、たまかい?」と幹子が小声で聞くと、たまは信じられないほどの小さな猫になって、幹子の指に甘えた。


「…フローラだった…」と汰華琉が眉を下げて言うと、誰もが目を見開いていた。


この星の最強最悪の猫科の動物のフローラは、この星で一番広大な土地に生息させている。


繁殖力が弱いのだが、その狩りはまさに獰猛で、人間などひとたまりもない。


そして人馴れはまずしないことが第一の特徴だ。


そしてフローラで障害を持つ個体の報告はないので、このたまが人馴れ第一号だと考えた。


「おやおや、随分と小さくなっちゃったんだね」と幹子は言って、小さなフローラを手のひらに乗せた。


「まさかですが、別の猫を保護していたのでしょうか?」


汰華琉が聞くと、「たまは三毛猫だったわ」と幹子が言うと、汰華琉は腰が抜けるほどに笑い転げた。


よって、その三毛猫が死んでから、一番強靭な体と妖怪という種族を得たのだろうと汰華琉は考えた。


よって、三毛猫が転生して、しかも死後の世界の住人ではない魂を持つフローラとして蘇ったと言ったところだ。


「何か願いごとでも?」


「動けないほどの苦痛の日々だったようなの…

 毎日毎日、この子も私も泣いて過ごしていたんだけど、

 ある日目の前でいきなり消えちゃったの…

 だけど、ようやく苦痛から逃れられたんだって思って、

 寂しかったけど安心したし喜んだわ…

 そして、もう出会えた…」


汰華琉がフローラの件と妖怪の件を話すと、「あらまあ」と言って、フローラを地面に降ろした。


するとフローラは人の姿のたまに戻って、幹子を抱きしめた。


「…絶対に、乱暴にはならない…」という汰華琉の言葉に、雅も賛同した。



幹子はここに住むことに決めたようで、農作業用の土地が欲しいといってきたので、汰華琉が訓練として使っていた広大な空き地を幹子に使ってもらうことにした。


そして一から耕すと言うので、汰華琉は手作業用の鍬など一式を作り上げて渡すと、幹子は素晴らしい笑みを浮かべて、地面を耕し始めた。


汰華琉は水路などを確保して、いつでも農地として使えるようにした。



汰華琉は夕食時、考え事をしていた。


そして食事が終わってから、今後のケイン星の件について美貴と話し合って、美貴は企画書の製作と、ロストソウル軍の主宰である、万有爽太に念話をした。


そして快い返事をもらったことで、このケイン星の安全は守られることになった。


結果をケインとマリアに話すと、「ワシの希望以上の願いが叶ったといっていい」とケインは言って大いに喜んだ。


翌日のニュースでこの件は星の全住人に伝えられた。


まずは、宇宙開発は未来永劫行ってはならないこと。


そして、宇宙観測所の三箇所に、ロストソウル軍に依頼した防衛隊を置くこと。


さらには、ロストソウル軍監修による、ケイン星独自の防衛隊を作り上げること。


この件は具体的に決まっていて、有資格者の第一陣と第二陣を試験で決め、第一陣からフリージア星で訓練を行う。


そして第一陣が戻ってくれば、ロストソウル軍から借り受けている防衛隊と入れ替え、ケイン星独自の防衛隊が、このケイン星を守ることになる。


そしてテレビ局によるフリージア星への旅も、決まり次第行うことに決まったと公表された。


よって他力本願だが、ケイン星の住人がケイン星を守る未来設計はできたことになる。


よってこの件については、ほとんどの企業が手を出せなくなったが、唯一WNAだけは、『ケイン星防衛隊士官学校』を設立することに決まった。


第二陣が帰ってきてすぐに学校を開校する予定となっている。


よって若い力には、現在の道とはまた別の希望ある未来が待っていることになる。


よって特に、若い力に大いに気合が入り、その親たちも子供たちを応援することになる。


「多少の不安はあるようだが、ほとんど問題なし!」と汰華琉は言って、パソコン画面から目を離した。


「多少の心配はあって当然だわ。

 何もしなくたって何かをしたって不安な人はいるものだもの。

 徒党を組んでの反対意見だけが心配だったけど、

 まったくないことが明るい情報ね。

 まあ、かなり譲歩してこの結果だし。

 ロストソウル軍としては、

 できれば一部隊だけでも常駐させてもらいたいそうよ」


「他星交流として、常にいてもらったっていいんだ」


汰華琉の明るい言葉に、「…あたしって、頭かたぁーい…」と美貴が嘆くと、ケインとマリアは陽気に笑っていた。



「ケイン星で、長期の防衛計画が発表されました」


ここは喜笑星で、きらびやかな部屋の一室で、幻之丞が言った。


そしてその構想すべてを、映像として宙に浮かべた。


「…やられたな…」と信長は言って苦笑いを浮かべた。


「人口の差が歴然ですので。

 宇宙開発や文明文化の成長をさせないための第一歩でしょう。

 わが喜笑星では、現状では無理でしょう」


幻影の言葉に、「…母星でやらせるぅー…」と信長はうなったが、「まずは、全世界統一の必要があります」という幻影の言葉に、信長は肩を落とした。


「ケイン星では、もうすでにそれは終えているようなものです。

 神ケインと神マリアがいる限り、

 動じることはなにもないと思われます」


「…置いていかれた気分だ…」と信長がうなると、「だからあの子とマリアを獲得せよと進言いたしました」という濃姫の厳しい言葉に、「…言ってたな…」と信長は答えてから、苦笑いを浮かべた。


「だけど、通信回線って開きっぱなしなの?」と幻影が一番肝心なことを聞くと、信長はさらに悔しそうな顔をした。


「…そういえばそうでしたぁー…」と幻之丞と咲笑は大いに眉を下げていた。


「神ケインが影のようなものか」と信長が言うと、「いえ、神様の細田仁左衛門様からの情報ですぅー…」と咲笑が眉を下げて言うと、「…はぁー…」と誰もが深いため息をついた。



「どうしてこんなに?」と汰華琉は大荷物を持ってきた桜良に向けて聞いた。


「うふふ… 賄賂?」と桜良が意味ありげに言うと、細田が愉快そうに笑った。


「あのね、反対したんだけどね、

 できればね、

 喜笑星にもね、

 遊びに来てくれないかなぁーってね、

 信長さんがね、

 言ってね、

 これを持っていけってね、

 言ったのぉー…」


桜良の幼児の言い訳のような話し方に、汰華琉は腹を抱えて笑った。


「礼だけは言っといて。

 でも、遊びに行く暇は今はないなぁー…」


「でも、防衛隊も入ったから、少しは暇はあるんじゃないの?」


「まずは俺たちが、ロストソウル軍と合流して、

 宇宙の現状を知る」


汰華琉の言葉に、「…遊ぶ暇はないなぁー…」と桜良は言って、さらに踏み込んだ話をした。


「あ、ケイン、今の話だけど、できるよね?」と汰華琉が気さくに聞くと、「ああ、それほど離れていない場所であればな」とすぐさま答えると、「為長君と同じだぁー…」と桜良が言った。


「あ、織田信長の息子だよね?」


「うんそう…

 今は竜神家の家老さんだよ?

 近隣の宇宙に、何日かおきに行って、

 めきめき力をつけてるよ?

 そうしておけばね、

 防衛隊がいらなくなるほどだから」


桜良の言葉に、「なかなか魅力的だが、ここは思い切ったことはしない… まずは経験の積み重ねだ…」と汰華琉がつぶやくと、ケインは機嫌よさそうにうなづいた。


「…あのね、今度はね、あたしの素朴な質問があるの?」


桜良の言葉に、「えっ? なになにっ?!」と汰華琉が大いに食いつくと、桜良は大いに苦笑いを浮かべていた。


「怒っていたことはよくわかるけど、

 喧嘩を売りに行った本当の理由」


桜良の言葉に、誰もが一斉に汰華琉に注目した。


「俺の、殻を壊すためだよ」


汰華琉の言葉に、誰もが不思議そうな顔をしたが、汰華琉はすぐに話し始めた。


「冷静に、慎重に、そして臆病に。

 このせいで大きな弊害が必ずあると俺は思っていた。

 そしてそれを目の当たりにしかけていたから、

 喧嘩を売ることでその殻を破ろうと思ってね。

 では質問だ!

 俺が感じた不安とは何か?

 ちなみにこの件は、全宇宙放映中だ」


汰華琉の言葉に、桜良は真っ先に細田を見ると、声を出さずに笑っていた。


「正解者は?」と汰華琉が細田に聞くと、「真田幻影さんはたぶん回答を得たかなぁー…」と予測として言った。


「あの人がわからなきゃ軽蔑するよ。

 だからきっと正解だと思う。

 正解は、個人的にこっそりと話すか…」


するとすぐさま雅と誉と美貴が擦り寄ってきた。


「魔王様はわかるだろ…」と汰華琉が眉を下げて言うと、「警戒心が旺盛で疑り深いから、小さいことは気にしない、だって」と美貴が眉を下げて言った。


汰華琉は仕方ないといわんばかりに、三人に耳打ちをした。


すると三人は目を見開いて汰華琉を見た。


「…目から鱗…」と美貴がつぶやくと、汰華琉は機嫌よくうなづいた。


そして汰華琉は仲間たち全員に耳打ちをすると、「…修行になるぅー…」と静磨は満面の笑みを浮かべて言った。


「みんなもいろいろと考えておいた方がいい。

 この件ばかりが落とし穴じゃないからな。

 生きていれば、多くの壁や囲いが襲ってくることもあるものだから。

 まさに…」


ここまで言って、汰華琉は言葉をとめた。


「さあ、まさに、のあとの言葉を述べよ」


さらなる汰華琉の問題定義に、誰もが頭を抱え込んで、もだえ苦しんだ。


「これはそんなに難しいことじゃない。

 萬幻武流でもきっと教えているはずだからな。

 特に剣術を鍛える場合は、相手があって当然だ。

 そして敵は、目の前にいる相手ではない」


「はいっ! はいはーいっ!」と桜良は勢いよく手を上げて、何度も飛びはねている。


「はい、じゃあ、エッちゃん…」と汰華琉は渋々指名した。


「敵は我にあり!」と桜良が叫ぶと、汰華琉は笑みを浮かべて拍手をした。


「そういうこと。

 強くなろうと思ったら、

 今の自分自身を超える必要がある。

 目の前にいる敵は、まさに自分自身に課した壁だ。

 今の自分自身に勝たないと、

 その壁も乗り越えられないという考え方だ。

 俺は無謀だが、二つも壁を乗り越えたと思っている。

 その成功例は俺の糧となるし、

 失敗していたとしても、結果としては経験として積み重ねられる。

 だが、嫌な感情が残らないようにした方がいい。

 よって、気持ちの切り替えも重要だ。

 できれば、くよくよしないように性格を変えた方がいいだろう。

 とは言っても、そう簡単には変えられないから、

 その方法も考えていくことになる。

 それも、今の自分自身を超えるという修行でもあるんだ」


「よーく、理解できました!」と静磨は胸を張って言って、汰華琉に頭を下げた。


「前の回答を教えろと、ロストソウル軍から言ってきてるけど?」と細田が眉を下げて言うと、「殻に閉じこもること、小心者にはなるな」と汰華琉が答えた。


「この程が難しいから、

 妙なジレンマにさいなまれた時は

 さらに冷静になって考えるべきだろう。

 まだ我慢するべきか、今ぶち壊すか。

 その決断の時期も重要だと思うね」


「…うふふ… 汰華琉に、大勢のお弟子さんができたわ…」と美貴が愉快そうに言うと、「喜笑星の殿様のようにはなりたくないからやめてくれ…」と汰華琉が言って大いに眉を下げた。


「全部聞いてるよ?」と桜良が眉を下げて言うと、「盗み聴きしているやつが悪い」と汰華琉が言うと、「そうだぁー…」と桜良が言って、陽気に笑った。


「エッちゃんがみんなと仲良くして欲しいことはよくわかっている」


汰華琉の言葉に、誰もが一斉に桜良を見た。


だが桜良は薄笑みを浮かべて首を横に振っただけだ。


「無性に腹が立った原因は何か。

 何も言い返さなかったわが神にも同じ気持ちが沸いていた」


汰華琉の言葉に、マリアも薄笑みを浮かべてケインを見た。


「だからあの場で大見得を切って、

 神マリアにやってもらいたかったことをやったと思う。

 神マリアはその映像を見て大いに泣いてくれた。

 きっと、わかってもらえたことがうれしかったからだと思う。

 だから非礼を詫びろなんて思ってもいなかった。

 戦えと言われたら戦ったはずだ。

 信じたものは全身全霊を込めて信じたかっただけ。

 俺のこの気持ちは、エッちゃんにも向けているつもりだ」


汰華琉は言って、桜良に頭を下げた。


「…ああ、プロポーズみたいぃー…」と桜良がほほを朱に染めて言ったので、汰華琉は腹の底から愉快そうに笑った。


「魔王にプロポーズされた時も怖かったなどと言ったが、

 俺の照れ隠しだったはずだ」


すると美貴が号泣して、「魔王に頼ってばかりのあたしが恥ずかしいぃー――っ!!!」と叫ぶと、汰華琉はまた腹を抱えて笑った。


「始めは手下にしてやる、などと言われたが、その通りになったな」


汰華琉の少々昔の真実の言葉に、美貴は強く横に首を振った。


「…あんなこと言ったの初めてだった…」と美貴は薄笑みを浮かべて言うと、汰華琉は、「そうか」とだけ答えた。


そしてなぜか、マリア、桜良、魔王美貴の三人が集合して円陣を組んだ。


「…それはわかるけど、しちゃだめだよぉー…」と桜良は二人をなだめている。


「…俺たち三人であれば、&%$$&#となれるはずなんだ…」とマリアが、意味不明な名詞を言った。


汰華琉は、―― 大切な内緒話をここでしないで欲しい… ―― などと思って、苦笑いを浮かべた。


「…汰華琉の成長の妨げになるはずだが…」と魔王が良識的見解を述べたようだ。


「…だからこそいいに決まっているだろ?」とマリアがごりおししているようだ。


ここからは何も聞こえず、三人は円陣を解いて解散した。


「…何が決まったの?」と汰華琉が恐る恐る魔王に聞くと、「わかりやすい言葉で言うと、神のバリアを張ること」と言ってにやりと笑って美貴に戻った。


「…そうね、悪い虫もつかないからいいかも…」と美貴が納得しながら言うと、「…今以上に嫌われ者になりたくないんだが…」と汰華琉が眉を下げて言うと、美貴はケラケラと愉快そうに笑った。


「汰華琉が覚醒してからって、常識的な意見で統一したわ」という美貴の言葉に、「そりゃどうも」とだけ言って、汰華琉は頭を下げた。


「でもね、汰華琉って、自分が思っているよりも、

 前世でかなり濃い修行をしていたのよ。

 そうじゃなきゃ、大きな神の三人に、

 なかったはずの同じ想いが沸くわけないもの」


「…それ、なんか、無性に怖いんだけど…」と汰華琉が少し震えながら言うと、雅が笑みを浮かべて汰華琉に寄り添って、居心地よさそうに、左腕を抱きしめた。


「ああ、そういえば、なんか意味不明の言葉をマリアが言ってた」


「あら? もう忘れちゃったわ」と美貴があっさりと言うと、―― う、たぶん言った通りだ… ―― と汰華琉は美貴の感情から察した。


「…まさかだが、同じやつがここにいるんじゃないのか?」


汰華琉の言葉に、三人が一斉にそっぽを向いたので、汰華琉は雅に向けて、これみよがしに苦笑いを向けた。


「うふふ」と雅は愉快そうに笑ったが、何も言わなかった。


「…ああ、それは聞いたことがある…」とケインがつぶやくと、汰華琉はさらに不安になったが、ケインの脳内には重要そうなことが多すぎて、人間の営み的部分しか探っていない。


それだからこそのヒューマノイドなのだが、詠唱式の術が使えるといっていい。


「魔王よりも希少で尊い存在」とケインははっきりと言って、汰華琉を見ていた。


「…いろいろと落ち着いて、慣れてからの方がいいかなぁー…」と汰華琉が困惑の表情をして呟いた。



「あのさ、素朴な質問があるんだが…」と汰華琉は美貴に言った。


「魔王が使えない術」と美貴はいきなり結果を言ったので、誰にも何も理解できなかった。


「…そうか… 魔王が発してはデメリットがある、とか…」


「そういうこと」と美貴は言ってから、「…きちんとお勉強もしておいてよかった…」と安堵の感情を流して言うと、汰華琉は愉快そうに笑った。


「その結果も見えるから、

 都合が悪かったら正すこともできるの。

 だけど魔王サンダイスは放っておいた。

 おろかな神のしたことだとしてね」


「あ、そうだ、三位一体の件は?

 あ、魔王の方だ。

 太陽の竜神ってやつ…」


「魔王への縛りよ。

 自由がなくなるの」


「…できたからと言って喜べねえな…」と汰華琉は大いに眉を下げて言った。


「自然界はね、大きな力は極力押さえつけるの。

 その例外候補が汰華琉なの」


美貴が熱い目をして言うと、「…それでようやく釣り合いが取れそうだ…」と汰華琉は陽気に言って美貴を見た。


「何事も程が難しい…

 自然界側の主張よ。

 今の汰華琉を自然界が気に入ったといっていいわ。

 変えてもいいんだけど、

 あたしとしては興味あるかなぁー…」


「ああ、俺もあるから、無理のない程度で変えないでおこう」


汰華琉が陽気に言うと、「…半分以上わからないぃー…」と雅が悲しそうに言った。


「わからなければ、聞いた言葉すべてを信じればいいだけ」


汰華琉のスマートな言葉に、「うん、そうだね」と雅はすぐに答えた。


もちろん、雅は汰華琉の言葉だけは、何においても信用するからだ。


「雅に恋愛感情がわかなかったことも運命か…」


「うふふ… 夫婦ってね、壊れやすいから…」


雅の冷静で悟り切った言葉に、「あたしって間違ってるんじゃない?!」と美貴が騒ぎ始めたので、汰華琉と雅は愉快そうに笑った。


「…ついに、萎縮が始まったわ…」と桜良が眉を下げて言うと、「覗き見や盗み聴きをするからだ」と汰華琉はまた言った。


「だが、迂闊な憶測とかは、

 あまり言わないようにしたいが、

 冗談のひとつも言えなくなるなぁー…

 ま、その時はその時でいいかぁー…」


「そうね、それでいいの」と桜良の少し力の入っている言葉に、汰華琉は安心していた。


「エッちゃんは今の生活に満足してるの?」と汰華琉が何の思惑もなく聴くと、桜良はなぜだか大いに慌てて、見るからにあたふたとした。


「…頼りにされてるからぁー…

 …でもね、きっとね、

 代わりはいる、かなぁー…」


桜良の言葉に、「…その人材も探すか…」と汰華琉が言うと、桜良は飛び上がるほどに喜んだ。


「とりあえず、美貴でもいいぞ」


「いやよっ!」


汰華琉の軽口に、美貴はすばやく反応して拒絶した。


「…いいことがあるかもしれないのに…」と汰華琉が残念そうに言うと、「…あんたとの結婚以外、いいことなんて何もないわ!」と美貴は堂々と断言した。


「…美貴ちゃんは必要だから…」と桜良が眉を下げて言うと、「エッちゃんは真面目だ」という汰華琉の誠実な言葉に、桜良は大いに照れていた。


「そうだ。

 何かお返しをしないと…」


汰華琉の言葉に、桜良は顔を上げずに、両腕を伸ばして手のひらを振って拒絶した。


「それに誠実で欲がない」という汰華琉の言葉に、「…もっともっと、がんばりますぅー…」と美貴は言ってから、いろいろと反省していた。


思いついたら恩返しをするということで、この件の話し合いは終えた。


終えたはずなのだが、桜良と同じく、額に桜の文様を持つ女子が三人と、かなり謙虚な汰華琉と同年代の青年と、その妻らしき女性が桜良から飛び出してきた。


お互い自己紹介をしてから、「…ヤマトタケル、様…」と織田為長と自己紹介をした青年が目を見開いて言った。


「…え?」と桜良が大いに戸惑っていると、「わが母星の神話に出てくる神の名だよ」と為長が眉を下げて桜良に言った。


「…なるほどね…

 それもあったから、あちらさんは興味が沸いたわけだ…

 どんな神だろうと思っていたら、

 小憎らしいガキだった。

 おっと、言葉に詰まるようなことを言ってしまいました」


汰華琉が頭を下げて謝ると、「いえ。それに、相手の立場を慮る素晴らしい方だと確信しました」という為長の言葉に、今度は汰華琉が恐縮した。


「父がこちらの神に無作法を働いたこと、

 心よりお詫びいたします」


まさに誠実としか取れない為長の行動に、「いえ、いくらあなたが織田信長の息子だとしても、あなたが謝る必要はないのですが、気持ちはわかります。ありがとうございます」と、汰華琉も誠実さを持って礼を言った。


「それから、エッちゃんを奪うなということでいいのでしょうか?」


汰華琉の言葉に、為長は頭を下げたまま上げなかった。


「特に、そのようなつもりはないのです。

 エッちゃんの代わりは誰かができるとお聞きしたので。

 それにエッちゃんは、今度は俺たちに興味がわいたようですので。

 エッちゃんからは、ご自分の身の上も聞かせていただいたので、

 エッちゃんの気持ちもわかるのです。

 ですから、エッちゃんの家はどこでもいいのではないかと、

 私は思っているのです」


「…エッちゃんと一緒にうろうろするー…」と為長の妹の天草桔梗が、まさに年相応の五才児程度の言葉で言った。


しかしこの桔梗が、四位一体、喜怒哀楽の神のリーダーなのだ。


桔梗の額には、笑みの桜の文様がある。


「だけど、ここは治安がそれほどよくないから、

 あまりうろうろしない方がいいよ」


汰華琉の優しい言葉に、「だったら正すぅー…」と桔梗は言って、桜の文様を持つ三人を巻き込んで消えた。


「ケイン、どこにいったか教えてくれ」と汰華琉が悲壮感をあらわにして聞くと、「外の道」とケインは笑みを浮かべて、外に指を差していた。


「…近場だったぁー…」と汰華琉は言って、「失礼」と言ってから部屋を飛び出した。


「織田信長が悪です」と為長の妻の春駒が言うと、「…そうとしか思えんね…」と為長はすぐさま認めた。


「我らは人間から見て、大いなる悪事を働いたのです」


ケインの言葉に、「星の創造神でしたら、当然の顛末でしょう」という為長の言葉に、ケインは言葉を失って、薄笑みを浮かべて頭を下げた。


「…養子なの?」とマリアが為長に聞くと、「はい、父は我らの命の恩人です」とすぐさま答えた。


「今現在の喜笑星と未来の喜笑星という、思想の違いだよ」というケインの言葉に、「そうなんだ」とマリアは陽気に答えて為長に笑みを向けた。


「古い体質とは、少々話がかみ合わないが、

 新しい体質とは、十分に話ができる。

 喜笑星とは、織田為長を間に入れて、

 交流をしてもかまいません」


ケインの言葉に、「はい、ありがたき幸せ」と為長は言ってすぐさま頭を下げた。



「…いやぁー… 驚いた…」と汰華琉はいろんな意味で言って、何とか喜怒哀楽の神を連れ戻した。


最後は魔王と少々喧嘩になりそうだったが、リーダーの桔梗が満足したようだったので、それほどの騒ぎにはならなかった。


「勝手に動き回るな」という為長のお説教が始まると、「…ごめんなさぁーい…」と桔梗は肩をすくめて眉を下げて謝った。


「すべてを説明しないと、民衆がうるさいんです」と汰華琉が言うと、「お察しいたします」と為長は言ってすばやく頭を下げた。


「…迷惑、かけちゃった…」と桔梗はようやく反省してうなだれた。


「だけど、この近隣だけは平和になったような気がするんだ。

 桔梗ちゃん、ありがとう」


汰華琉が感謝の言葉を述べると、桔梗は大いに喜んでから、スケッチブックを出してなにやら描き始めた。


「時々大人になりますが、基本的には年相応です」という為長の解説に、「…はあ、なるほど…」と汰華琉は呟いて、いろんな人がいるもんだと、少し陽気に考えていた。


すると、「はいっ!」と桔梗が顔を上げて汰華琉に画用紙を渡した。


「ありがとう」と汰華琉は礼を言って絵を見て、「うおっ?!」と思わず叫んでしまった。


まず目に飛び込んできたのは、体全体が桜色の色鮮やかなサクラインコで、手を出せば飛び乗ってくるのかと思うほど素晴らしい絵で、桔梗の年齢程度では描けるものではないと感じていた。


そしてようやくサクラインコから目が離れると、どう考えても縮尺がおかしいと感じる男子と女子が描かれている。


「…姫と騎士…」と汰華琉は呟いた。


このシーンにはなぜだか覚えがある。


いや、頭に思い浮かべたシーンだと感じた。


誰かから話を聞いたものだと想い、汰華琉は無言で美貴に絵を向けると、美貴も驚いたようで、目を見開いていたが、「お婆ちゃんっ!」と叫んで、汰華琉ごと絵を幹子に向けた。


「おや?」と幹子は言って、笑みを浮かべて絵を見て、「ほら、本当の話だったよ」と言った。


為長は、「…第八章第十一話…」と呟いて苦笑いを浮かべた。


「…泣き虫姫は神官のライラが怖くて怖くて、

 本来の力が出せません…

 …それに騎士は、いつもいつも何かに怒っていて、

 ふてくされた顔をしていました…」


汰華琉がつぶやくと、「こちらにもプリンセスナイトの言い伝えが?」と為長が聴くと、「この星には百年前よりの過去の情報がまるでないのです」と答えると、「まさに、口伝なわけですか…」と為長は納得したのか、何度もうなづいた。


汰華琉が冷静になったあと、為長はプリンセスナイトについて解説をした。


汰華琉たちが幹子に話してもらったような逸話が千以上もあると言う。


そして雅は、目を見開いたまま固まっていた。


そして、「…今蘇れ、我が夢の続き…」と雅がつぶやいたとたんに、雅はその姿を絵とはまったく違う黒い光を放つような怪物に変身していた。


そして誉が絵のままの姫となり、汰華琉が絵のままの騎士となった。


「…おっ、ふっかぁーつ…」と怪物が愉快そうに言ってから、「おっと」と言って、その体を巨大なサクラインコに変えた。


「…夢の続き… ここでも、プリンセスナイトが復活…」と、為長が苦笑いを浮かべて言った。


「お師匠様、もう狭いんだけど」と汰華琉だった青年が言うと、「別にそれでいいじゃん」とサクラインコは流暢に人間の言葉をフランクに話して愉快そうに、『ケケケケ』と、今度は鳥の声で鳴いた。


「…お師匠様はやっぱり怖かったぁー…」と誉だった姫が泣きそうな顔をして言うと、「泣いてないから合格」とサクラインコは言った。


そしてサクラインコが雅に戻ると、姫と騎士も誉れと汰華琉に戻った。


「うふふ… もうあたしの手を離れたわ」と雅が愉快そうに言った。


「…俺は雅の弟子だったのか…」と汰華琉が苦笑いを浮かべて言うと、「師匠を越えた立派な騎士になったわ!」と雅は愉快そうに言って、汰華琉を抱きしめた。


「縛りは解いたから、

 この先、能力はどんどん伸びるはず!」


雅の陽気な言葉に、「…ずっと、押さえつけられてたとようやく気づいた…」と汰華琉は言って、その姿を騎士ではなく勇者に変えていた。


「あー、すっきり」と汰華琉が言うと、「覚醒、おめでとうございます」と為長が笑みを浮かべて祝辞を述べると、「はいっ! ありがとうございますっ!」と騎士とはまったく違う汰華琉の陽気さを兼ね備えた言葉で礼を言った。


「…あー… 悪者退治してぇー…」と汰華琉が希望を言うと、「この星の武器、ぜーんぶ壊せばいいんじゃない?」と雅が楽しそうに言うと、「ま、予告してからだね。そうしないとあとでうるさいから」と汰華琉は言って、雅の頭をなでた。


「偶然にも出会えたら、縛りを解いて、さらに大きな力を得る呪い…」と為長がつぶやくと、「うふふ… 日常生活には支障をきたさないから」と雅は厳しいことを笑顔で言った。


「やっぱり! お兄ちゃんと結婚しようかなぁ―――っ!!!」と雅が高揚感を上げて叫ぶと、美貴は魔王に変身して必死になって抵抗した。



「悪いが、雅との結婚はありえない」


汰華琉の言葉に、「あーあ、ざんねぇーん…」と雅は大いに肩を落として嘆いた。


「えー… 私はいいって思ったんだけどぉー…」とマリアが言うと、魔王が厳しい目をしてマリアを睨んだ。


「では問題、それはなぜでしょうか?」


いきなりの汰華琉の質問に、誰もが大いに考え込み始めたので、桜良はみんなに指を差して愉快そうに笑った。


「ヒントは、人間と神とでは考え方がまるで違うから」


このヒントはさらにみんなを悩ませるだけになっていて、誰もがさらにうなっていた。


「では、誰でもいいので、肉親を思い浮かべてベッドシーンに」


汰華琉の言葉に一番に反応したのは静磨で、両腕をさすりながらも手を上げた。


「…おぞましい…」と静磨がつぶやくと、「そう、それだ」と汰華琉は笑みを浮かべて言った。


「おぞましくないもぉーん…」と雅が口を尖らせて言うと、「お前は神だからな、神は娘であろうが父であろうが兄であろうが、愛さえあれば夫婦となれる」と汰華琉が言うと、「…お兄ちゃんの人間の部分、早く消えてくれないかなぁー…」と雅が大いに嘆くと、「まだ言うかっ!!!」と魔王は大いに抵抗した。


「近親者に対するおぞましさは、

 その間逆の家族の親しさもあるが、

 正常な生理現象でもある。

 近親者と婚姻をした場合、

 高確率でまともな子が産まれないことを、本能で知っている。

 神は願いで子を産むから、何の障害もない。

 俺と雅は本当の兄妹ではないが、

 おぞましさは沸く。

 雅を妹に向ける愛をもって見ているからだろう。

 だからこの先もない。

 雅は俺にとって、

 大昔の師匠だと知っても、

 現世では妹でしかないことは動かない事実だ」


「…今のこの生涯を呪っちゃうぅー…」と雅は落ち込んで言ってから、ケラケラと笑って、「いいオス、探さなきゃ!」と少しやけくそ気味に陽気に言った。


「今は無理なようだが徐々に変えてくれ。

 俺は特に誰かを勧めることはしない。

 できれば嫁には出したくないからな」


まさに汰華琉の妹に向ける愛の言葉に、「…わかったのぉー…」と雅は答えて、上目遣いで汰華琉を見た。


「…おぞましくない?」とマリアがケインに聞くと、「一向に」と答えて笑みを浮かべた。


「それに、汰華琉の言葉は紛れもなく真実だ。

 ワシは修行を終えて創造神となったが、

 その前は人間であったからな」


ケインの言葉に、誰もが一斉に頭を下げた。



雅の汰華琉に対する恋心は一過性のもので、本人が言っていたように、動物のオスに意識が向いているようだった。


だがこのケイン星には、雅の望む動物のオスはいない。


やはり特殊能力を持っている必要があるらしい。


汰華琉はこの夜、ひとりで眠って、また夢見に出たのだが、相手は桜良ではなく、まったく知らない男性だった。


男は、「マイケルだ」とだけ自己紹介をして、汰華琉と二人して数々の戦場をめぐった。


マイケルの動きはわかりやすく、まるで長い間一緒に戦場を駆け巡っていたかのように、汰華琉と気があった。


というよりも、マイケルが汰華琉にあわせているといっていいと、目覚めた汰華琉は思い直した。


汰華琉がこの話をしようとした瞬間、「…マイケル…」と汰華琉は呟いて、ケインを見た。


「知っての通り、師匠の名」とケインは笑みを浮かべて言った。


「…ケインの師匠が、俺の夢に出てきた、と思う…

 だが、なんのために…

 神修行などではなく、すべて戦場だった…」


「願いの夢見。

 ワシは師匠に何度も誘われた。

 神修行でもあるんじゃないか?」


ケインの言葉に、「…そうなんだろうか…」と汰華琉は言って、ケインの記憶の師匠のマイケルと比較して、同一人物だとようやく納得した。


「…この近くにいるということか…」


「そのようだが、感じない。

 隠れているというか、何かに化けて、

 この辺りに潜んでいるような気がする。

 動物だったら、欺きやすいからな」


ケインの言葉に、雅が大いに興味を持ち始めて、今まで通りの汰華琉の妹に復帰していた。


「ま、巌剛あたりだろう」と汰華琉が早速目処をつけると、ケインは少し目を見開いて、「…随分と近くにいたようだ…」と言って、薄笑みを浮かべた。


その巌剛も今は朝食中で、テーブルの下に潜り込んでいて、汰華琉たちとほぼ同じものを食べている。


「巌剛も俺たちに引きずられて、一緒になって覚醒したか…

 こうやって話をしても何も言わないのも気になるが…」


「呪いのようなものかもしれん。

 だがそのうち、何かを言ってくるはずだし、

 汰華琉やワシたちに同行したがるような気がするな」


「…学校には、さすがに連れて行けないからな…

 都合がいい時だけ来てもらいたい」


汰華琉の身勝手で都合がいい言葉に、ケインは少しだけ笑った。


その巌剛は食事が終わるといつものように庭に出て、猫のシュールを相手に、追いかけっこを始めた。


まさにいつもの光景だった。


「シュールもいたな…

 ほかの猫たちは比較的狭いここよりも、

 広々とした保護地を好んだからなぁー…」


「だか結局は、狭い場所が高い場所にいるからな。

 まあ、安心できる場所が多くありそうだから好んだんだろう。

 それに、人間に置き換えて熱い巌剛よりもシュールの方が師匠っぽい」


ケインの言葉に、「…なるほど…」と汰華琉は言って、たまの言葉を思い出した。


「…怖い動物のお仲間、と言った…」


汰華琉がつぶやくと、「決まったかな?」とケインはうれしそうな顔をして、庭ではしゃいでいる一頭と一匹を見つめた。



たまが幼稚園に行きたいということで、幹子とともに学校に行くことになった。


幹子は実年齢が八十八なのだが、見た目が中学生なので、見た目通りに中学校に行くことにしたようだ。


幹子は学はあるのだが、学校は初体験ということで、たまと同じように陽気になっている。


家がそれなり以上に裕福だったので、学校に行くことなく、専属の家庭教師がいたそうだ。


マリアとケイン、そして強制的に拘束されたシュールに見送られて、汰華琉たちは大人数で学校に行った。


夢に出てきたマイケルは、やはりシュールで間違いないようだった。


大学では対宇宙の防衛隊について話が持ちきりとなり、都合がつけば、大学卒業後に士官学校に通いたい学生が、男女問わず大勢いる。


興味を持つことは重要なので、汰華琉としては本人の気概に合わせて会話をする。


コネなどはこの世界には存在しないが、WNA特別機動部隊特別小隊隊長の汰華琉に懇願の目を向けるが、こういった者は自信がないことに輪をかけて、実力もそれなりなので、はっきりと歯に衣着せぬ言葉で汰華琉は受け答えをする。


どの国の軍でもそれほどたやすく所属できないことは誰でも知っているからこその対応だ。


実習では、宇宙に飛び出して別の星に行くことまで公表はしているので、具体的な話に進展することは当たり前だった。


さらに、次回の学校の二連休で、特別小隊が訓練を受ける件も聞いていたし、その記録映像も公表することはすでにメディアに流れている。


その内容次第で、誰もが本格的に、今後の進路を決めることになる。



汰華琉は大学での講義を終えて城に戻ると、来客があった。


桜良がまた新しい客を連れてきていたのだが、相手はフリージア星ロストソウル軍の主宰、万有爽太だった。


そして眼光が鋭い側近の万有ゼウスが、汰華琉に好意的な笑みを向けている。


ひと通り挨拶をしてから、「今日はまたどうして」と汰華琉が聴くと、「これから体験しませんか?」と爽太がいろいろとすっ飛ばして言ってきた。


「そんなに気軽に訓練を受けられるものなのでしょうか?」と汰華琉が恐縮して言うと、「仕事の依頼にはランクがありますから、問題ありません」と爽太に言われて、汰華琉にも興味があったので、軽く腹ごしらえをしてから、爽太に誘われて、汰華琉たちはフリージアに飛んだ。


そして教官役の十数名の部隊の宇宙船に乗って、目的の星に飛び、早速復興作業が開始された。


汰華琉たちは今は見るだけで、自分たちならどうするかと考えながら見学している。


食料が少ない場所は、農地を作り上げて、すぐに食べられるように成長させる。


住処が老朽化しているのであれば、立替工事をする。


子供が泣いていれば、あやしたりともに遊んだりするといった、その場その場で対応は違う。


そして、依頼ランクの低い星だったので、二箇所の村の復興をしただけで、仕事は完了した。


低いランクにしては、報酬はそれなりにいい。


それは、星の外に出ればいつ危険が襲ってきてもおかしくないからで、危険手当も含まれているからだ。


そしてこの先、必要となる訓練のさわりだけを体験した。


実は爽太の狙いはこの訓練だけにあった。


汰華琉たちは夕食前に、ケイン星に帰還した。


『今すぐにでも、復興Sランク部隊に所属可能』


これが汰華琉が今日二時間ほどで体験したすべてだった。


「私たちでも、Bランクまでなら余裕でいけそうよ」とパソコンの画面から目を離した美貴が真顔で言った。


ちなみに美貴も、結果は汰華琉と同じだった。


さらにもうひとつの結果も出ている。


『機動部隊、第五以上に所属可能』


よって戦闘においても復興においても何も問題無しというお墨付きをもらったのだ。


あとは宇宙船があれば、仕事を請け負うことができる。


この宇宙船は予約制で、クルー付きで雇うことになる。


もちろん、宇宙船のクルー側にも選択権があるので、予約時にその結果を知ることになる。


上位の部隊は、お抱えのクルーもいるので、今の汰華琉たちでもそれは可能だと、美貴が言った。


そして早速、この件はニュースになって、宇宙での活躍を辞退した人民が大勢でた。


どう考えても普通ではなかったからだ。


諦めなかったのは、虚勢を張っている軍人だけだったようだ。


『体からビームを発するなんてできっこない!』


まさにそのような体験を汰華琉たちはやってきたのだ。


もちろん、捏造疑惑もわいたが、すべてを公開していることで嘘をつく必要性も理由もない。


さらには、ロストソウル軍の駐屯部隊の隊長にもインタビューをしていて、「超一級」と汰華琉たちの部隊を手放しで褒めていたことにも説得力があった。


だからこその、先を見据えての士官学校でもあると、誰もが認めざるを得なかった。


汰華琉たちは日々の訓練に、フリージアに渡っての訓練も織り交ぜることに決めた。


さらには十日間をかけて、宇宙に旅立つ人選も行った。


ひと悶着もふた悶着もあったが、第一陣の八十五名をフリージアに送り、汰華琉たちはほっと一息つくことができた。


送れば送ったで、様々な面倒ごともあったが、送り込んだ者たちの毎日の成長状態を放映することにより、すべてを回避できた。


その人選の中で、多くの能力者との接触はあったが、適性検査で全員を不合格にしたことによる弊害はあった。


もちろん、汰華琉たちに間違いはなく、受け入れ先のフリージア星ロストソウル軍主宰の万有爽太からも、怒りのコメントがあったほどだ。


よって世間は、少し萎縮した雰囲気の中で日常の生活を送り始めた。


なお、能力者で反抗的な者は、魔王が去勢したので、そこから問題が起こることはなかった。


どの国も渋々だが、WNAの報道などを信じるしか道はなくなっていた。


商売人が注目していた貿易については、逆にこのケイン星からの輸出の方が忙しく、WNAをさらに太らせることになった。


許可が出た変わった作物などを多少輸入したのだが、この星の作物の方がうまかったので、貿易の面で儲けを出すことは困難だった。


食べ物以外のフリージアの特産品だが、これには子供たちが飛びついた。


『次代のを担う子供たちのため』という謳い文句の商品が数多くあることを、ようやく決まった現地に赴いたテレビ局の報道で知ることになった。


そしてフリージア星が、生物が住む三つ子星のひとつであることも、大きな話題となった。


しかし、一般の渡航はまだ許されていないので、多くの人民はその日を待つことになった。



ここまでは汰華琉たちが大いに口を出し手を出してきたが、すべてをWNAに丸投げして、汰華琉たちは自分たちの修練と学業を中心に勤しむ日常に変わっていった。


マイケルという新しい仲間ができたはずなのだが、いまだ猫のままだ。


世話係はケインとマリアなので、逃げ出すことも不可能だ。


マイケルとしては、汰華琉たちと常に同行したいようだが、法律によって動物を連れまわすことは許されていない。


WNAとしては特例を出してもいいといっているのだが、何かにつけて特例を出すのも問題として、魔王と汰華琉が抵抗している。


そんな中、フリージアからの報道で、動物やこのケイン星には生息していない獣人についての紹介などがあったことにより、特例ではなく、認められた動物とその機関であれば、動物を連れ歩ける許可を与えられることに決まった。


それを決めるのは、第三者であるロストソウル軍主宰の万有爽太だ。


よって人民には文句はなく、マイケルは晴れて自由の身になって、常に汰華琉に張り付くことになった。


「…夢とは違い、無愛想だな…」と汰華琉が言ってマイケルの頭をなでると、『フン』と鼻で笑うように鼻を鳴らした。


「…おかしい… 条件は満たしているはずなのに術が解けない…」


汰華琉の想像で予想なのだが、確信をついている言葉に、ケインとマリアが腹を抱えて笑った。


「無愛想だからじゃないのかい?」と汰華琉がシュールに言うと、『フー』とシュールはため息をつくように少しうなった。


「…あ、きっと…

 誰かが悟らなきゃ、術は解けない…」


汰華琉は言ってケインを見ると、「…迷惑なことだ…」とケインは言ってから、弟子入りして修行をつけてもらったマイケルについて思いをはせた。


もちろん、極力意味不明だったことだけをあさりまくった。


そのようなことが多すぎるので、これはケインの修行のようなものになった。


ケインにとってマイケルは、超えられない師匠でもあったからだ。


すると、「…あ…」とケインが何かに気づいて言った。


そしてある詠唱を唱えると、「…魔王の術だったわ…」と美貴が言ったとたんに、シュールは少し身長が低めの男性に姿を変えた。


ケインはマイケルに頭を下げたまま、「不肖の弟子… あ、いえ… すぐに気づかず申し訳ございません、お師匠様…」とケインは恐縮仕切りだった。


「はい! ここで質問だ!」と汰華琉が叫ぶと、誰もがうんざり感を流し始めた。


「ケインが不肖の弟子を打ち消した理由」


汰華琉の言葉に、誰もが頭を抱え込み始めたので、汰華琉、マイケル、ケイン、マリアの四人は愉快そうに笑った。


「…魔王が黙り込んだぁー…」と美貴が嘆くと、四人はさらに笑った。


「こんなもの簡単だ。

 師匠が弟子をきちんと育てなかったと言ったに等しいからだ。

 だが事実は違う。

 マイケルは雄雄しき師匠であって、

 ケインは今も尊敬しているからこそ、

 不肖の弟子は師匠に対して失礼な言葉だから、

 その部分は打ち消したんだ。

 よって、いろいろと慮って言葉にする必要があるという実例だ」


汰華琉の言葉に、「…そうだぁー…」と静磨は思い浮かばなかったことを大いに悔しく思って反省した。


「…今までに散々、踏みにじるようなこと、言ってきたような気がするぅー…」と美貴が嘆くと、汰華琉と雅は愉快そうに笑った。


「ま、結果よければすべてよし」とマイケルは言って、汰華琉に笑みを向けた。


「夢見ではお世話になっています」と汰華琉が誠心誠意言うと、「いいや、俺が楽しんでいるようなものだ」とマイケルは笑みを浮かべて言って、汰華琉の背中を軽く叩いた。


「もちろん、実力を知るためという意味もあったが、

 なーんも面白くもないつまらんやつだった」


マイケルの少し投げやりな言葉に、雅は反論があるようで頬を膨らませた。


「もしマイケルが俺の師匠だったら、

 俺は免許皆伝といったところかな?」


汰華琉の言葉に、「もちろん、そういう意味で言った」というマイケルの言葉に、「…そうだぁー… 弟子にとる必要がないから、師匠目線でつまらないやつと言った…」と静磨は呟いて、また糧を積み上げた。


「いろいろと画策もあるようだが、

 余計な力を纏わせる必要はない。

 汰華琉の邪魔になるだけだ」


マイケルの言葉に、マリアと美貴は少し反省して頭を下げた。


「…お兄ちゃんは、あたしの貸与の術も受けなかった…」と雅は呟いて、汰華琉に笑みを向けて見上げた。


「雅なんてどうです?」と汰華琉が言葉少なに早速雅をマイケルに推薦すると、「誉の方がいい」というマイケルの言葉に、雅は頬を膨らませ、誉は大いに眉を下げていた。


「…はあ… そう簡単にはうまくいかなかったか…」と汰華琉は言ったが、落ち込みはない。


「…身長が高い方がいいですぅー…」と誉が言うと、「ま、見た目も多少は気にするか…」と汰華琉は静磨よりも背の低いマイケルを見て言った。


「伸縮自在」とマイケルは言って、いきなり巨人となって、徐々に身長を縮めていき、静磨と同じ身長で止めた。


「…お化け…」と誉は言って、雅を抱きしめて汰華琉の背後に隠れた。


「…なかなか難しい子だった…」とさすがのマイケルも眉を下げて言うと、「だけど、言いたいことを言えたことは成長している証です」と汰華琉は機嫌よく言った。


「ふふ… そうか…」とマイケルは言って、薄笑みを浮かべていた。



汰華琉たちが学校に行っている間に、世間では少々騒ぎがあった。


汰華琉がその騒ぎに気づいたのは昼食の時で、「ニュース見た?」という雅の言葉だった。


「いや、見てない」と汰華琉が答えると、「この近くから何かが打ち上がったって」と雅は言って、そのニュース記事が載っている情報端末を汰華琉に見せた。


その画像は薄い飛行機雲のようなもので螺旋を巻いていて、空に向かって飛んでいるように見えるが、飛行物体としては写っていない。


「…人?」と誉が画像を見て言うと、「ああ、やっとか」と汰華琉が言ったので、誰もが汰華琉に注目した。


「気にすることはないけど、世間は気にするよな。

 誰かが無謀な実験をしたとか何とか…

 それに、ロストソウル軍が何かしでかしたとか。

 それは真っ先に取材を受けているはずだろう」


汰華琉の言葉に間違いはなく、記事にはヤハン国にある監視基地の隊長へのインタビューも載っていて、事実関係を否定している。


そして、危険はないと言い切っていることも、取材した側は、―― 何かを知っている ―― と想像を豊かにしても間違いのないことだ。


「ロストソウル軍としては余計なことは言えないからだ。

 だが、安全なのか危険なのかは、

 仕事の性質上、言葉少なに伝える必要があるからな。

 そのマニュアルに乗っ取っただけで、

 まるきり問題はない」


「…あー… そうだぁー…」と静磨は納得して何度もうなづいた。


「本当はもっと前にあってもおかしくなかったはずだが、

 自信がなかったんだろう。

 だが今回はマリアにせがまれたはずだ」


汰華琉の言葉に、「ケイン様なの?!」と雅は叫んで、画像を見入った。


「ま、神だからな。

 できないことはほとんどない」


汰華琉がなんでもないことのように言うと、美貴が猛然たるスピードでパソコンのキーボードを叩き始めた。


WNA山城理事長にも知らないことがあったはずなので、第一報として連絡を入れたのだ。


「まああとは、マイケルが現れたことで、

 ケインがその成長ぶりを見せたかった、とか…」


「…ふたり、写っていると思いますぅー…」と誉が画面を見たまま眉を下げて言うと、「マリアを抱いて飛んでるんだろう」と汰華琉はなんでもないことのように言った。


「ですけど、宇宙に飛び出しても大丈夫なのですか?」と美都子が常識的なことを聞くと、「マリアは大丈夫ではないが、結界を張っておけば、まったく問題ないと思う」と汰華琉は答えた。


「悪魔のような死後の世界の住人は、

 空気は必要ないし、食べ物も必要ない。

 だが真空だと体が押しつぶされてしまうから、身を守る必要はある。

 そのための結界で、大気圏を離脱したり突入したりする時は、

 いいクッション材になって、スムーズに航行できると思うし、

 服が燃え尽きることもない。

 ケインもその結界に便乗して、

 中に入っていたと思う。

 少々特殊な飛行方法だから、

 結界ごと移動させることは可能だからね。

 だからこそ、今日まで試さなかったのかもしれないし、

 高台程度なら飛んでいたかもな。

 もちろん、マリアがねだったから」


汰華琉は言って、雅を見ると、「…絶対言うぅー…」と少し頬を赤らめて雅が答えた。


「ケインの体は基本、電気で動いているが、

 充電しているところを見たことあるかい?」


汰華琉の言葉に、誰もが目を見開いて、「…じゃ、じゃあ… 一体、どんなエネルギーを…」と静磨は嘆くように呟いた。


「自己発電だ。

 基本的には、擬似永久機関といっていい。

 熱は持たないし、生物にとって有害なものも流さない。

 極めて安全な仕組みで作られているんだ。

 しかもその動力源は、術でもそれほどお目にかかれない、

 重力制御を基本にしている。

 だから星の上であろうが宇宙空間であろうが容易に飛べるんだよ。

 以前、マリアの記憶の映像に移っていた

 二人の影というヒューマノイドも同じ仕組みだが、

 動力源が小さいから、星を離脱することはできないが、

 空は飛べるはずだ。

 かなり優秀なヒューマノイドたちだぞ」


汰華琉の言葉に、誰もが瞳孔が開いていた。


「ケインとマリアにお願いしたら、

 宇宙遊泳くらいはさせてもらえるかもね」


さすがにこれは遠慮したいようで、誰もがゆっくりと首を横に振っていた。


その話題の三人が空を飛んでやってきたので、「またニュースになるぞ」と汰華琉が言うと、三人は慌てて地面に降りて頭を下げた。


「星の外に出て飛んだのよっ!」とマリアが陽気に言って、ケインに笑みを向けた。


「その件で、大騒ぎになっていると言っている」と汰華琉が言うと、雅がそのニュース記事をマリアに見せた。


「…知らないわ…」とマリアは言ってそっぽを向いたので、汰華琉は腹を抱えて笑った。


「まあ、あれだ…

 この辺りにマスコミがいたら目の前で飛んでやればいい。

 別に星を飛び出す必要はないが、

 似たようなことをやればよくわかるんじゃない?」


「おっ 名案」とケインは言ってから汰華琉に頭を下げてから、三人して宙に浮いて辺りを見回してから南に向かって飛んでいった。


雅と誉が笑みを浮かべて拍手をしていたので、汰華琉は大いに照れていた。


そして美貴、静磨、美都子、幹子、たまと、今日もここにいる大潮潮も、二人に倣った。


「生活を楽しんでいるようでよかった」と汰華琉が穏やかに言うと、誰もが同意していた。



汰華琉が大学からひとり城に戻ったころには、『さすが神』という報道で持ちきりとなっていた。


そしてその神が、「神は汰華琉」と言ったことにも大いに波紋を呼んでいる。


「…余計なことを…」と汰華琉がうなって三人を見ると、三人ともそっぽを向いたので、汰華琉は愉快そうに笑った。


「神は何をしても許されるからな」とマイケルが言うと、「都合が悪い時は使わせてもらいますよ」と汰華琉は言って、ソファーに座った。


「我らに道を示すことは、神以上」とケインが言うと、「少し考えれば簡単にわかることじゃないか」と汰華琉は眉を下げて言った。


「思ったよりも反響があってな。

 少々まずいと思っておった」


ケインはここまで言ったのだが、実は続きがあるように汰華琉は思った。


「マリアの言いなりになったことで、

 俺に叱られるとか?」


汰華琉の言葉に、マイケルは少し笑っただけだったが、ケインとマリアはすぐさま頭を下げた。


「それが誰も傷つけないことだったら別にいいさ。

 だが神だって反感を食らえば、復讐などの標的になることもある。

 しかも目立ったことで、

 力試しと称して暗殺に来るような馬鹿もいるはずだ。

 その辺りもうまくやってくれよ。

 もし殺したりひどいことにでもなれば、

 百年前に逆戻りで、

 俺たちの存在すらも危うくなるからな」


「それは大いに言える」とマイケルが同意すると、ケインとマリアは大いに眉を下げていた。


「まあ…

 この星から武器をすべて消す

 素晴らしい言い訳に使えそうだから、

 それはそれでいいかも…」


汰華琉の言葉に、「うまくやろう」とケインは薄笑みを浮かべて言った。


「…汰華琉お兄ちゃんは、やっぱりこわぁーいぃー…」とマリアが本気で嘆くと、「多少は怖い面があった方がいいんだよ」と汰華琉は言って、これ見よがしの笑みをマリアに向けると、大いに怯えていた。



汰華琉たちは暗くなる直前まで修練場で基礎訓練を行って城に戻ると、眉を下げた桜良とレスターが汰華琉から飛び出してきた。


そして桜良は目的が汰華琉たちではないのか、辺りを見回した。


「細田さんは今日は来ないよ」と汰華琉が察して桜良に言うと、「…まさか、もうクビに…」と桜良が目を見開いて言った。


「結婚記念日だって聞いたから、

 今日と明日は強制的にお休みだ」


汰華琉の穏やかな言葉に、桜良はほっと胸をなでおろした。


「もしも何かあれば、エッちゃんにすぐに報告するに決まってるだろ…」


汰華琉の言葉に、「…信用されてた…」と桜良は言って感動したのか、ワンワンと泣き出し始めた。


「だけど、何の用なの?

 あ、用事がないのなら来るなという意味じゃないから。

 いつでも来てくれたらいい」


汰華琉のやさしい言葉に、「…うん、ありがと…」と桜良は答えて、満面の笑みをレスターに向けた。


そしてリビングに移動してから、汰華琉たちは調理をして、夕餉の支度は整った。


「あ、話を聞く前に、俺から願いがあるんだ」と汰華琉が言うと、「え? なになに?!」と桜良は笑みを浮かべて言った。


「マリア用の天使」と汰華琉が言うと、「…あー… 必要だわぁー…」と桜良は言って、マリアを見た。


マリアは、「…天使… すっかり忘れてた…」と呟いて、ケインを見た。


「ワシも忘れておった」とケインは言って、汰華琉に頭を下げた。


「都合のいい天使でもいいんだ。

 居場所がないとか、少々不幸だとか…」


「心当たりは大勢いるけど…

 出会いは重要…」


桜良は本気で考えている。


「すぐに行けるところだったら、食事が終わってからでもお願いしたいんだ」


「うん、それは大丈夫だよ」と桜良は陽気に答えた。


「マリアが、その天使か神だったはずだったからな」とマイケルが言うと、ケインはばつが悪そうな顔をした。


「悪魔がつけるはずのない名前を名乗りましたからね。

 ほとんどのことは察しがついて、

 ケイン星がこうなってしまった筋道は納得しました。

 知識は本当に重要です」


汰華琉の言葉に、ケインはさらに恐縮している。


「で、エッちゃんたちの用は?」と汰華琉が聴くと、桜良は珍しく箸を置いて、「細田君の作ったヒューマノイドについて、なのぉー…」と眉を下げて言った。


「ん? ほかの影たちとは違うの?

 同じようなものって、細田さんには聞いていたんだけど」


「あ、だったら、もしかして、汰華琉君も作れちゃうの?」


「うん、それなり以上にお勉強させてもらったし、

 一体組めるほどの部品もそろってるから。

 だけど、影以外にも細田さんの偽者が大勢いるけど?」


汰華琉の言葉に、「きっとその人たちって、前のバージョンのようなの」と桜良は言ってケインを見た。


「…ケインの体は特別製か… なるほどね…」と汰華琉は言って納得した。


「術も使えちゃうし!」と桜良が喜びながら言うと、「あ、それはまた別物だ」と汰華琉が言うと、桜良は目を見開いている。


「それに、コピーをとった魂の記録はすべて消去して、

 記録媒体ごと破壊した。

 その記録を持っているのは、ケインと美貴だけ。

 盗まれて悪用されたらとんでもないことになるからね」


「…あー… だったらだめだぁー…」と桜良は大いに嘆いた。


「その情報が欲しかったの?

 それって、ぜんぜんいいことじゃないって思うけど?

 術に関してなら、マイケルに聞けばいい。

 ケインの師匠だから」


いきなりお鉢が回ってきたマイケルは盛大に咳き込んだ。


「…あ、でも、ランス君って、今って、どうなってるんだろ…」と桜良が言ってレスターを見ると、「記憶があるだけで、魔王とは切れているはずだ」とレスターは答えた。


「ああ、魔王サンダイスのことか」と汰華琉が言うと、マイケルはまずいものを食べたかのように苦い顔をした。


「もちろん、ケインが今信じているのは魔王サンダイスじゃない。

 この先は、さすがに言えないから」


汰華琉はここまで言って、桜良とレスターに念話で美貴の魔王に願いが届くことを伝えた。


「…うう… そうだったんだぁー…」と桜良はロボットのようにカチンコチンに体を固めて言った。


「もっとも、その魔王が許可しない限り、術は使えない。

 それに、無許可の場合は手ひどいリバウンドがあるから、

 よくわかるはずだから」


「…俺の詠唱は使えない…」とマイケルは言って、ようやく回答を得たことは理解した。


「ええ、使えません。

 魔王が許可すれば別ですけど。

 だけど、魔王の名は公表していませんので、

 偶然にも詠唱が届くことはないはずです」


「…時間があったら、紹介して欲しい…」とマイケルは言って、知らん顔をしている美貴を見た。


「…あのね、不幸な星の所在を知る術があるって聞いて…

 あ、情報源が、ランス・セイント君」


桜良の言葉に、「俺の知り合いの魔王は、詠唱じゃなくて自分の術として持っていると聞いたぞ」と汰華琉が言っが、「ああ、そういうこと…」と汰華琉は自己解決して、ようやくすべてを理解した。


「不幸を探る術さえあれば、

 大勢でその不幸に向かって飛んで、

 平和に導ける、ってこと?」


汰華琉の言葉に、「そうそう!」と桜良は飛び上がらん限りに喜んだが、「それ、確実に事故になるから、やめておいた方がいいね」という汰華琉の言葉に、桜良は大いにうなだれた。


「それなり以上の力がないと、

 危険に飛び込むなんてことはやめておいた方が得策だよ。

 依頼主は爽太様?」


「…うん、そう…」と桜良は答えてうなだれた。


「ま、あれだ。

 まずは願いの夢見を経験させてからだよ。

 不幸探査の術は状況としては願いの夢見に等しいし、

 実力があれば不幸を確実に止められるはずだし、

 死ぬことはないし。

 それに、夢見に誘える資格を持っている人は多いはずだよ」


「…その方が、まだ安全だぁー…」と桜良は言って、レスターに笑みを向けた。


「一応聞いておくけど、爽太様に欲はない?」


汰華琉の言葉に、「…ここに来てようやく、大部隊を率いている王の欲が出た、のかなぁー…」と桜良は思案げな顔をしてつぶやいた。


「琵琶家にノスビレ村に、最近竜神家も不幸探査を使い始めた。

 だからロストソウル軍もできればそれに倣いたい、

 ってことだろうなぁー…

 だけど、俺たちは一応はロストソウル軍の所属だけど?」


汰華琉の言葉に、「そうだったっ!」と桜良は叫んで、もろ手を挙げて喜んだ。


「この件はできるということだけで、

 解決できたと思うけど?

 爽太様に聞いてみてよ。

 あ、願いの夢見について説明してからだよ」


汰華琉の言葉に、「…汰華琉君に説明して欲しいぃー…」と桜良が言うと、「俺の妹か?!」と汰華琉は叫んで、愉快そうに笑った。


ここは汰華琉が引き受けて、爽太と話をすると、『…その通りでした…』と爽太は力なく言ったが、汰華琉たちがロストソウル軍に所属していたことをまるで意識していなかったようで、すぐさま陽気になっていた。


『あのさ、まったく別の話なんだけど、いい?』と爽太がもうしわけなさそうに聞くと、「ええ、面白そうな話だったら何でも」と汰華琉はまさに懐の深さを見せ付けるように言った。


話を聞き終えた汰華琉は、「それは面白い」と汰華琉は言って、十分考慮してから早いうちに回答をすると答えた。


「…ふっふっふ… ここで、大試練だぁー…」と汰華琉がうなると、誰もが大いに怯えていた。


「…すっごく面白いお話だったのね…」と美貴が眉を下げて言うと、汰華琉は機嫌よく笑った。


「近いうちに琵琶家が、

 無限組み手というイベントをしたいと言ってきたそうだ。

 前回は、三十五対一千万で、琵琶家の勝ち」


汰華琉の言葉に、誰もが目を見開いた。


「はっきり言って、負けたロストソウル軍の方がおかしい。

 まあ、統率が取れていないから負けたといっていいね。

 もちろん訓練だから、殺傷性のある武器や術は使用禁止。

 だけど前回は、戦闘に関係のない術は使用可としたようだ。

 よって琵琶家は、心に訴える術を使って、

 大勢を一気に吹き飛ばしたらしい。

 だからこそ、調子に乗っているといってもいいはずなんだ。

 烏合の衆と言っても一千万。

 まずは、ここから正した方がよさそうだ。

 だからルールは前回と同じ。

 攻撃系や拘束の術を使わずに、一気に勝ちに行こうと思う。

 それが自然の摂理で、正しい真理だ」


「だけど、それがなくてもすっごく強いよ?」という桜良の言葉に、汰華琉が長くない言葉を述べると、「…きっと、勝てちゃう…」と桜良は目を見開いて言った。


「実戦ではありえる準備のようなものだからね。

 俺たちもロストソウル軍の中ではそれなりに顔も売れたから、

 それなり以上に貢献させてもらおう」


汰華琉の自信満々の言葉とは裏腹に、その仲間たちが大いに萎縮していた。


「さて、問題は一番肝心なことだ」と汰華琉は言って、その方法を今ここで術を使って説明した。


「…降参ー…」と桜良は言って、眉を下げて両手を挙げた。


「まずは、織田信長にそれをやる。

 動きを止めるだけで、勝ったも同然。

 それはな、琵琶家が統率力に長けた軍だからだ。

 もしも失敗しても、いい経験になると思う。

 だけど勝った時、有頂天になるんだろうなぁー…」


汰華琉は言って美貴を見ると、「…今はそれはないって言い切っても、その時には有頂天になるって思うぅー…」と答えると、汰華琉は腹を抱えて笑った。


「敵を欺くにはまず味方から。

 ロストソウル軍には説明はしない。

 きっとばれて、対策されそうだからな。

 そしてもうひとつ罠を仕掛けて、

 そっちの方に何かあると思わせる。

 それが三つ四つあれば、

 どれほどの指揮官でも大いに迷う。

 あちらさんはそういった戦いには慣れているんだろうけど、

 条件は大いに違うからな。

 俺だったら、絶対にやられたくないことをやるだけだ」


「胆力は十分だからな。

 きっと簡単なことさ」


マイケルの言葉に、「さらに自信がつきました」と汰華琉は言って、マイケルに笑みを向けて頭を下げた。


「作戦を伝えない分、誉の出番が多い。

 誉には十分に褒美を出すから、気合を入れておいて欲しい」


「はいぃ――! がんばりますぅ――!」という、あまり気合の入らない誉の叫びに、汰華琉は一抹の不安を感じていた。


汰華琉たちは全員で様々な罠を考えた後、汰華琉は爽太に無限組み手に参加する意思を伝えた。


もちろん汰華琉からは、作戦は公表しないと告げた。


よって、作戦があることに爽太は喜んで、早速琵琶家に連絡をした。



三日後の夕食後に、汰華琉たちはフリージア星の広大な模擬戦闘場にいた。


相対する側に琵琶家の家人たちの姿が見えたが、まるで豆粒のようだ。


汰華琉と誉はもう働いていて、本線の作戦準備は早々に終えてほっと一息ついた。


爽太がどでかい声で参戦する者たちに注意事項を述べ始めると、汰華琉は作戦の変更なしと仲間たちに告げた。


『準備はいいかっ?!』という爽太の気合が入る言葉に、八百万のロストソウル軍の軍人たちは一斉に、「うおおおおっ!!!」と雄たけびを上げた。


前回は簡単に負けてしまったので、今回は大いに気合が入っている。


そして前回よりも二百万も参加者が減ったのは、勝てるはずがないと諦めを抱いている者だけだ。


もちろん汰華琉はそういった者は軍人ではないと決め付けている。


そして、勝利の雄たけびを上げられない悔しさに打ちひしがれるはずだ。


『始めっ!!!』と爽太が叫ぶと、両軍の間に張っていた結界が解け、ロストソウル軍は怒涛の勢いで一気に前進した。


「たまっ! 鳴け!」と汰華琉が叫ぶと、フローラの姿のたまは、『フニャァーゴッ!!!』と体に見合わない巨大な声で鳴いた。


すると、琵琶家の軍が大いに戸惑い、振り返って信長を見入った。


信長は心に作用を起こすたわけの術を放ったのだが、まったく効き目がなく、最前線で戦闘が始まった。


これで琵琶家の大多数は身動きが取れなくなっていた。


そして汰華琉は端にいる者たちをさらに大回りをさせるために、術で戦力を操ると、さらに琵琶家は慌てた。


そして極め付けに、誉が目をつけていた猛者たちを、汰華琉が術を使って信長の周りに飛ばした。


飛ばされた者は何があったのか理解できていなかったが、目の前に信長がいたので、すぐさま襲い掛かって拘束した。


そして最前線にいた幻影と胡蝶蘭が戻ろうとしたが、この二人も強者の壁に囲まれた。


「為長さんは来てなかったんだなぁー…」と汰華琉は残念そうに呟いてすぐに、『勝者! ロストソウル軍!』という、爽太のかなり気合の入った言葉を聴いて、模擬戦闘はあっけなく終了した。



少々時間が経って、喜笑星安土城。


「…なぜ、術が効かなんだ…

 それに、なぜいきなり兵が沸いて出た…」


信長は大いに悔しそうにうなると、「大和汰華琉の姿がありませんでした」と幻影は真顔で言った。


まさに不機嫌そうな顔をしているが、これが幻影の真の顔色だ。


「やつはいた!」と胡蝶蘭が大声で叫んだ。


「指揮に専念してたんだろうね。

 得意げに目の前に現れないところが憎いね」


藤十郎の言葉に、「…敵を褒めるなぁー…」と信長はうなった。


「きっとね、下見と人選、してたよ?」と長春が言うと、「それは大いにある」と幻影はすぐさま長春の意見に賛同した。


「あ、それから、御屋形様が叫ぶ前に、にゃんこが鳴いてたよ?」


長春の言葉に、「…術の打消しか…」と幻影は言って、ようやく納得できた。


「あの連中が十人もいて、

 気づかないうちに間合いの中にいれば、

 さすがに何もできないさ…」


幻影の言葉に、「…打ち合わせもなしに、それをやったと言うのかぁー…」と信長は大いにうなった。


「それも作戦でしょう。

 伝えれば、必ず漏れると」


幻影の言葉に、「…大和汰華琉… どうしてくれようかぁー…」などと信長は言いながら、強制的に眠らされるまで、ずっと怒っていた。


だが、冷静な一面もあり、幻之丞と咲笑が記録した映像の検証が始まった。


「大和汰華琉は女子を抱いて、上空千五百メートルにいて、

 ロストソウル軍を見て回っているようにしか思えません。

 予測として、この時に各個人の資質を確認していたように推測します」


幻之丞の言葉に、「…むう… 術は?」と信長がうなりながら聞くと、「探知できていません」と幻之丞は答えた。


「大和殿が抱いている女子が未知です」と幻影が言うと、「目がいいそうです」と咲笑が答えた。


「どれほど?」


「千五百メートル離れていても、個人個人をはっきりと捉えられるものと」


「…術も放たず見るだけで何ができるというのだ…」と信長は大いにうなった。


そして咲笑が詳細を報告すると誰もがうなった。


映像には、汰華琉たちが一塊になって朗らかに話しをしていたことに信長はさらにうなり声を上げた。


これから戦うという雰囲気がまるでなく、楽しい遠足にでも行くような雰囲気だった。


「まずは、大和汰華琉が女子を抱き上げて飛び立つ前ですが、

 何かを言っています。

 口を読むと、下見に行ってくる、でした」


咲笑の報告に、「わずか三十分前に、各個人を見極めて、布陣まで考え出したということでいいの?」と幻影が聞くと、咲笑は同意した。


「さらに猫のような鳴き声ですが、

 姿がありませんでした。

 ですが鳴き声自体は、フローラと断定できます」


「…そんな猛獣がいたら、誰だって恐れおののくはず…」と幻影は猛然として言ったが、咲笑の映像からは、まさに朗らかでしかなかった。


「…なぜ幼児がいる…」と信長が目ざとく言うと、「つい最近、大和汰華琉が妹にした子です」と咲笑が答えた。


「…結局は何をされたのかよくわからない…」と幻影は言って、戦闘になった時の映像を幻之丞に出すように言った。


まさに一糸乱れぬ動きで、そして多勢に無勢の負けて当然といった、当たり前のような映像でしかなかった。


「確実に操られていたはずだ。

 操った者の目処は?」


幻影が聞くと、「山城美貴が、一般的な人間程度の身長の魔王に変身しただけですが、きっと彼女の術かと」と咲笑が答えた。


幻影は約十秒程度の映像だけを何度も繰り返し流すように言うと、「出所は二つあったと思う」と言うと、「もうひとつは大和汰華琉だと推測します」と幻之丞が答えた。


「…集団の右半分と左半分の司令塔、

 いや… 駒を動かす者、か…」


信長がうなると、幻之丞は賛同した。


結局はたわけの術は阻まれ、しかも隊列を組んで攻め入られたことで、負けて当たり前の戦いでしかなかった。


「終戦の知らせを聞いて、大和汰華琉は唖然として、

 出番、なかったぁー…

 と言って残念がっています」


咲笑の報告に、「…やつは戦う気満々だったのに、我らがあっさりと負けていたわけか…」と信長はうなり、そして肩を落とした。



「…いやぁー… 戦う暇もなかったぁー…」と汰華琉は大いに眉を下げて言うと、家族たちも一斉にうなづいている。


予想以上に早く決着がついたので、おっとり刀で戦場に行くまでもなかったのだ。


「…ま、気づかれただろうけど、その証拠はないし…」


汰華琉の言葉に、「…喜んではいたけど、ロストソウルの能力者たちはみんな微妙な顔をしてたわ…」と美貴は眉を下げて言った。


「今頃は爽太様に、いろいろと言われてるさ」と汰華琉はさも当然のように言った。


「…あたし、がんばったよ?」と美貴が異様にかわいらしく言うと、「俺も同じだったけど?」という汰華琉の言葉に、「…全部受け持てばよかったぁー…」と美貴は大いに嘆いた。


「全部はさすがに厳しいはずだけど、

 まあ、できたんだろうけど…

 できれば失敗したくなかったからね。

 その失敗があった方が、

 出番があったかも…」


汰華琉の言葉に、「…戦わない方がいいですぅー…」と誉が言うと、「褒美は何がいい?」と汰華琉が聞くと、「…お兄ちゃんとデート一日券…」と誉は頬を赤らめて言った。


「わかった。

 出かける前にショッピングにも行こう。

 誉にはまだほとんど何も買ってやってないからな。

 たまも一緒に行くかい?」


汰華琉の明るい言葉に、「おばあちゃんと行くよ?」とたまは明るく言って、まったくおばあちゃんではなく若々しい幹子を見上げた。


「…出番、まったくなかったぁー…」と雅、静磨、美都子の三人が大いに嘆いた。


「雅の出番はあったはずなんだけどな。

 次回は出番ができるように作戦を練るよ。

 静磨は、敵陣に投げつけるだけでよかったはずだったが、

 美都子さんの扱いだけが決まってなかった」


汰華琉が眉を下げて言うと、「…なんの糸口もなくてごめんなさい…」と美都子は大いに眉を下げて謝った。


体力的には十分といったほどに上がっているが、能力者としての片鱗がまだ見えていない。


「焦ってるんだろうけど、今こそ我慢だよ」という汰華琉の優しい言葉に、「…ありがとうございますぅー…」と美都子は眉を下げて礼を言った。


「どういった戦いだったのか見せてくれ」とケインが興味を持って聞くと、マリアが何度もうなづいていて、汰華琉が桜良から仕入れた天使三人に笑みを向けた。


汰華琉視線の映像が流れると、「…壮絶だな…」とまずマイケルが言った。


「…うおー… うおー…」とマリアはうなっているだけだ。


ケインは薄笑みを浮かべてうなづいている。


「少数派の方は、胆力を鍛えるのにはもってこいだったはずだよ。

 もっともその前に、悲壮感が流れていたようだった。

 これが多勢に無勢の正しい形だ」


「いや、作戦もそうだが、

 まずはやはり誉の眼力あってこそだ」


ケインの褒め言葉に、誉は頬を赤らめて頭を下げた。


「第二波のたわけの術は届いたはずだから。

 その影響を受けない屈強な者だけを配備すれば、

 何も問題なかったからね。

 殴り合いにもならなかった」


「…ゲームのようなものだったが、さすがにこれは落ち込むな…」とマイケルは相手の気持ちを慮るように眉を下げて言った。


「大きな術に頼りすぎと大反省中だといいんですが…」


「それに、余裕を持ちすぎだ。

 まったく構えていないから、

 いきなり間合いに入られて身動きできなかった。

 だが次があれば、今回のように簡単には行かないだろうが」


マイケルは言って、汰華琉に向けてにやりと笑った。


「俺と雅で殿様に突っ込んで、雌雄を決していました。

 それができなかったので、本当に残念でした」


「…そうか…」とマイケルは薄笑みを浮かべて言った。


「…その役目は魔王がいいぃー…」と美貴がわがままを言うと、「…わかったよぉー…」と汰華琉が眉を下げて答えると、美貴に大いに気合が入っていた。


「堂々と歩いて行って、

 さあ、やろうかぁー…

 って言うー…」


美貴の頼もしいが力の入らない言葉に、「できれば見学していたいね」と汰華琉が陽気に言うと、美貴は有頂天になって小躍りした。


「…普通では経験できない雰囲気だった…」と静磨は静かに言った。


「そうだな、それも大きい。

 相手が百人でもそう思っただろう。

 味方とはいえ、あれほどの者たちが襲ってきて、

 冷静でいられる方がおかしいが、

 その第一歩の経験としては上出来だったと思う」


「勝ったからこそ見えるものがあり、

 負けた者もそれ相応の経験にはなる。

 素晴らしい経験となったようだ」


マイケルの明るい言葉に、汰華琉たちは一斉に頭を下げた。


「次があれば俺も行く」とマイケルがいい始めたが、汰華琉はもろ手を挙げて歓迎した。



「…あのね、

 何とか解決できたんだけどね、

 今はね、

 コネがないからね、

 フリージアにはね、

 渡りづらいんだってぇー…」


桜良がいつもの口調でたどたどしく言うと、汰華琉は腹を抱えて笑っていた。


「魔王サンダイスは出てこないけど、

 感動のご対面ですよ」


汰華琉が笑みを浮かべてマイケルに言った。


「…悲しくなるだろうなぁー…」とマイケルは苦笑いを浮かべて答えた。


「…一応、勇者なんだけどね…」と桜良が言うと、「あ、試験をして雇うこと前提で」という汰華琉の言葉に、桜良は我がことのように喜んで、今ここでランス・セイントを誘った。


するとマイケルが目を見開いてから、ランスに向かって頭を下げたまま上げなかった。


「…随分と苦労をしたようですね…」と汰華琉が挨拶もなしに言うと、「弱い俺が悪いんだ」とランスは言って苦笑いを浮かべた。


「魔王サンダイスの痕跡を感じているようです」と汰華琉がマイケルを見て言うと、「サンダイスが孫のサラに改心させられてすぐに連れてきた神だった」とランスはマイケルの下げたままの頭を見て言った。


ここでようやく汰華琉たちは自己紹介を交わした。



「…はあ… 魔王がいる…」とランスは苦笑いを浮かべて美貴を見て言うと、「…魔王が何も言いませんー…」と美貴は眉を下げて答えた。


「人間にとって正常化したと感じるサンダイスの思念が元なんだ」


ランスの言葉に、「…その思念と、そこら辺りにいた魂が融合した…」と汰華琉が言うと、「サラマンダーちゃんもそうだよ?」と桜良がいつも調子で言った。


「…つまらない魂のように言わないで…」と美貴は控えめに汰華琉に抗議した。


「サラマンダーは魔王と同じようなものさ。

 強い思念の出所が、宇宙の妖精なだけ」


ランスの言葉に、「使い勝手のいい神たち」と汰華琉は言って笑みを浮かべた。


「人助けには便利かもな。

 ああ、ありがとう」


ランスは飲み物を持ってきた誉に礼を言って微笑みかけると、誉は顔を真っ赤にして、雅の影に隠れた。


「ありゃ、まさかの予想していなかった展開…」と汰華琉は言って、にやりと笑った。


「もしも相手がいないのなら、うちの大和誉などどうです?」


汰華琉の言葉に、「…あー…」とランスは言って少し考えて、「いや、今はやめておくよ」と眉を下げて答えた。


「誉、まだ振られてないぞ」と汰華琉が希望の言葉を述べると、誉は唇をかみ締めてうなづいて泣くことを拒絶した。


「…今は友人のようなものなんだけどね…

 ますますふわふわして、掴みどころがなくてな…

 俺も、男女の恋人的な感情があるのかないのか…

 だが、なんとなく居心地がよくてね。

 だからこそ、エッちゃんに頼んでここに連れてきてもらったんだ」


「お相手を見るだけで、詳しくお話できます」と誉がまずしない、真剣な目をしてランスに言うと、「…術でもないのに怖いほどだ…」とランスは言葉を省略して言った。


それは、『心まで見透かされる』という、誰もが経験したくないものだ。


「たぶん、俺と同じだと思う。

 彼女が先で、次に俺がふわふわし始めたからな。

 このままがお互い、一番いいのかも」


ランスの言葉に、誉は落ち込んで、「…初恋だった…」と呟いて雅に抱きついた。


「…大人の恋、でしょうね…」と汰華琉が落ち着いて言うと、「…ああ、きっとそうなんだろうなぁー…」とランスは笑みを浮かべて同意した。


「それにやつは、良縁だといって俺の背中を押すだろう。

 だけど、それがまず嫌だなぁー…」


ランスの言葉に、特に大人たちは何度もうなづいた。


そしてランスは目の前にあるグラスを手にとって、軽く一口飲んで目を見開いた。


そして誉に満面の笑みを向けて、「うまいよこれ! なんていう飲み物なんだい?!」と勢い込んで叫ぶと、誉はすぐさま復活して、ランスに流暢に説明を始めた。


「…恋は魔物…」と汰華琉が積極的になってしまった誉を見ながらつぶやくと、特に大人たちは誰もが感慨深くうなづいた。


「…やる気がないんじゃなくて、ふわふわしてただけ…」と桜良が眉を下げて言うと、「…うまい餌をかっ浚われた気分だよ…」と汰華琉は眉を下げて言った。


しかしランスはしばらくはこのケイン星で生活することに決め、基本的には神たちの護衛のようにして過ごすことに決めたようで、汰華琉としては文句なく雇うことに決めた。


「…よくない空気もあるようだからな…」とランスが言うと、マイケルはまた頭を下げっぱなしになっていた。


「武器を一掃しようかと企んでいます」と汰華琉が言うと、「近いうちにそうなるさ」とランスは陽気に言ったが、寂しそうな目をした。


その日が、このケイン星を離れる日だと確信したからだ。


「ところで、ご友人はどんな方なのです?」


汰華琉の言葉に、特に誉が食いついている。


「悪魔で天使で動物」とランスが言うと、「…うう… なんか複雑…」と汰華琉は眉を下げて言った。


「エッちゃんに踊らされて得た力と、

 自分自身が奮起して得た力に、

 昔返り」


ランスの短い解説に、「えへへ!」と桜良は陽気に笑って、拳を自分の頭に落とした。


「ああ、あれか…

 伝説の御座成功太の組み込まれた登場人物…」


汰華琉の言葉に、「今はまた息子ちゃん!」と桜良は陽気に言った。


「エッちゃんはその子供たち全員と一緒に暮らしたいんじゃないの?」


汰華琉の言葉に、桜良も、そしてレスターも目を見開いた。


「…ああ、そうだったんだ…」とレスターは笑みを浮かべて桜良を見た。


「エッちゃんの住む星を見つけて、

 そこに全員を住まわせて、

 今いる星には通いで出向かせればいいじゃん。

 今持っている力は、エッちゃんあってこそのものだ。

 母の願いを聞けないやつは軽蔑したいね」


「…ううん… あたしが何をしたかったのか、

 十分に理解できたからいいの…」


桜良は母の笑みを浮かべて言った。


「…それに、あたしからみんなに会いに行くからいいの…

 …ありがとう、汰華琉君…」


桜良は誠心誠意、心から礼を言った。


「まずは、昇天しないこと」と汰華琉が言うと、桜良は大いに慌ててから、欲を噴出させて様々なものを請求し始めたので、汰華琉は腹をかかえて笑った。


「…俺もエッちゃんの息子だったらよかったのになぁー…

 そうじゃないことは、もう確認できちまった…」


汰華琉が残念そうに言うと、「…でもね、レスターさんと同じで、いてくれないと困る人だよ?」と桜良が小首を傾げて薄笑みを浮かべて言うと、汰華琉は大いに照れていた。



事件は早速起こっていた。


学園にいる汰華琉たちが昼食を摂るいつもの場所に近づいていると、汰華琉の通信機が鳴ってすぐに、汰華琉は宙に浮かんで修練場に向かって飛んだ。


「…あーあ、本当にやっちゃったぁー…」と美貴は言って、情報端末を見て眉を下げた。


「…学校、休みになるのかなぁー…」と雅が眉を下げて言うと、「…さすがになると思う…」と美貴は表情を変えることなく答えた。


「それに、あたしたちもたぶん仕事になるはずよ。

 後片付けとか…」


美貴の言葉に、「…何もできないよりはいい…」と雅は言って、にっこりと笑った。



汰華琉が修練場に到着すると、ケインとランスが右腕を軽く上げて挨拶代わりとした。


もちろん、未遂なのはわかっていたのだが、こうやってすっ飛んでくるところが汰華琉らしさなのだ。


「一カ国は確実に武器粉砕の刑」


汰華琉の言葉に、「相手は熟練の殺し屋のようだった」とランスはさも楽しそうに言うと、汰華琉は笑みを浮かべて頭を下げた。


「発砲したから受けた。

 よって、言い逃れはできない」


ランスの言葉に、「発砲する前に止められなかったのですか?」と汰華琉が厳しいことを言うと、「ああ、距離があったもんでね。拘束する直前に発砲されちまった」とランスは眉を下げて言った。


「いえ、ですが素晴らしいと思います。

 俺だったらどの程度だったか…」


「…ランス様とそれほど変わらん…」とマイケルはなぜか小声で汰華琉に言った。


「そろそろ慣れたらどうです?」と汰華琉がマイケルに言うと、「…すっげえ怖かったんだよ…」と答えてすぐに身震いした。


「それほど怖い魔王をよく信仰できたもんですね…

 俺だったら、近くに行ってすぐに引き返したはずです」


するとマイケルが大いに苦笑いを浮かべたので、「欲と願いのぎりぎりのラインで、どうしても術を手に入れる必要があったから」と汰華琉が予想をして言うと、「そう、正解だ」とランスは笑みを浮かべて言った。


「初めて言うが…

 ケインを助けるためにどうしても必要でな…」


マイケルの告白に、ランスは知っていたようで笑みを浮かべていた。


ケインはもうすでにその事実は知っていたようで驚くことなく薄笑みを浮かべ、マリアは目を見開いてケインを見ている。


「それに、自然の摂理とはよくできていてな。

 本来使えるはずの術と見合うものと、詠唱魔法と交換でな。

 だから神の力としては、

 強い術はなんにももっとらん」


マイケルの言葉に、「死神の基本性能程度ですか…」と汰華琉が苦笑いを浮かべて言うと、マイケルは同意してうなづいた。


「不便でもなさそうだったのだが、

 今はかなりまずかったと再認識した」


マイケルは言って、ランスにすばやく頭を下げた。


「いえ、お師匠様。

 ランス様が反応されてから、私も身構えておりましたので」


ケインの言葉に、「…要領がいい…」とマイケルは言って苦笑いを浮かべた。


すると汰華琉に美貴から小型情報端末機に通信が飛んできて、汰華琉は右の小指を口元に当てた。


『学校は休校。WNAから仕事の依頼』という美貴の簡潔な報告に、「ああ、すぐに戻る」と汰華琉は言って、事情を説明してから、学校に向かって飛んだ。



汰華琉は魔王たちと合流して、WNA本部に飛んだ。


理事たち数名が屋上で汰華琉たちを待ち構えていた。


山城が一歩前に出て、「狙撃依頼はマレニアだと自供した」と言って唇をゆがめると、「この星に神はいらないなどと?」と汰華琉が聞くと、「そんな話を聞いたそうだ」と山城は肯定した。


狙撃犯は近くの警察署の留置場だと言うことなので、汰華琉と雅だけが警察署に向かって、すべての事情を仕入れた。


「最近だけでも、八人の重鎮を消しているようです」


汰華琉がリストと、今回の件の詳しい報告書を提出すると、「…神とはほとんど無関係ではないか…」と山城は吐き捨てるように言った。


「結局は、狭いから広げようとした。

 そして神が邪魔に思えたので消そうとした。

 こいつは、ただのテロリストです」


汰華琉は言って、マレニア首相の顔写真を弾いた。


「テロリストと言われて怒ったそうだ。

 だが、そうとしか思えんから、

 汰華琉の好きにすればいいさ」


「この星の十分の一の武器を消せますよ」と汰華琉は機嫌よく言うと、魔王が仲間たちを抱え込んで消えた。



ここからは魔王の独壇場で、マレニア国の武器は、大型戦車から兵士のジャックナイフまで、すべてをひとまとめにして固めて、統括情報局の駐車場に転がした。


この事実はすべて報道されていて、首相は議会で捏造だと騒ぎ立てたが、お抱えの特殊警官の寝返りによって、何も言えなくなっていた。


そして無条件で拘束されて、副首相が首相として任命された。


「次は、君の国の武器を破壊に行くかもな!」と汰華琉はテレビカメラに向かって言って、機嫌よく笑った。


「…おまえ、それじゃ勇者じゃなくて悪魔だ…」と魔王は言って鼻で笑った。


ヤハンでは騒ぎになることはなく、いつも以上に平和に思えた。


諸外国は少々騒がしいが、特に行動を起こすことはなく、マスコミに対してのコメント要求には、ノーコメントで押し通した。


いいことであっても悪いことであっても、その裏目に出る情勢となった時には、国の首相の責任となるからだ。


そして武器は不要という常識はもう芽吹き始めていた。


それはロストソウル軍の兵も、ケイン星の防衛隊も、武器を携帯していないからだ。


しかも宇宙船も、一般の輸送機にしか見えず、武器の類は装備していない。


己の肉体だけを鍛え上げ、能力覚醒の試練を受け、兵自身が武器でもあるからだ。


持っているのといないのとは雲泥の差なので、ない方がいいと思うのは当然のことだ。


時には軍の輸送機などのトラブルも相次いで起こっている事実もある。


よって国民の血税の無駄遣いとして、それぞれの国の議会でも議論を交わし始めている。



世間一般の外出禁止令や学校の休校はその当日だけと決まり、翌日は平常の日常に戻った。


休講となった講義は三日間で通常に戻すことになったので、汰華琉はいつもよりも遅い時間に城に戻った。


訓練の時間が短くなったが、ここは家族サービスとばかり、夕食までの二時間は遊園地に行くことになると、たま、雅、誉が大いに喜んだ。


日照時間が長くなってきたので、閉園時間も徐々に延びている。


夕暮れ時は比較的すいているので、遊び放題の面もある。


汰華琉は美貴とともにベンチに座って会話を楽しんでいるが、最後の最後は、たまに誘われて、強制的に乗り物に乗って、短い時間だったが楽しく有意義な時間となった。


「あ、無理は言わないけど、

 明日から早朝訓練をやるから」


汰華琉の言葉に、誰もが目を見開いた。


「日が昇るのも早くなったし、

 琵琶家もやっているって聞いたし」


汰華琉の言葉には誰も逆らえなかったが、「強制じゃないからな」という気さくな言葉も、誰もが強制的な命令に聞こえていた。



この日を境に、WNAとは一線を引くような行動に出る国が相次ぎ、少々空気が悪くなってきたが、マリアがすべて食って素晴らしい空気にしていくので、この件については問題はなかった。


しかし、政府と国民との意見が食い合わず、ついには内紛が勃発する事態までに拡大しそうだったのだが、すべてを正確に報道して、汰華琉たちが双方の武器を破壊して回った。


「代表者同士が殴り合え。

 世間一般を巻き込むな」


汰華琉は双方の陣営に飛んで、この言葉を繰り返す。


どうやらこの方が野蛮と認知されるようだが、武器を使えば多くの人々を傷つけることは、常識で考えて当たり前のことだ。


結局は何かを禁止すれば、いろんなところにしわ寄せが来ることを汰華琉を含め、多くの有識者がまずは認めることになった。


さらには神という脅威を恐れているといってもいい。


もちろん、WNAの伝える事実の件が大きい。


だが、汰華琉たちの行動は、神の意思ではなく、きちんと説明した上で止めているし、破壊した武器相当の賠償金は、政府ではなく直接国民に配るように、WNAが手配していることもあり、反抗的なのは、政府の一部の権力者だけとなっていった。


しかも、軍との折り合いも悪くなっていくことで、選挙となれば穏健派を選ぶように変わっていった。


星の半分の程の国を同じ道に導いた時、自主的に武器を放棄する国も多く現れ、貧富の差がそれほどない、安定した国の状況に、さらに星の空気が澄んでいき、神たちの機嫌がよくなっていった。


ヤハン国が暑くなるころには、平和が不幸を包み込むような状況まで達し始めた。


WNAの理事会では、「一時的かもしれないが、星の絶対的平和を手に入れた」と会議の中でだけ語り合えるようになった。


ここまでようやくたどり着いた時、ケイン星は自力で外敵からの防衛が可能となった。


この件は常にオープンに報道され、防衛隊に選ばれた百数十名は英雄の称号を与えられることになった。


さらには、戦力を維持するために、年二回、ひと月間はロストソウル軍の仕事の依頼を受けることになり、隊員たちには知り合いが大いに増える事態にもなった。


宇宙の外敵探知システムは、ついに半年先まで探索できるようになったが、宇宙船の飛行速度が速ければこの限りではないので、安心はできないので、監視には気を抜くことはない。


汰華琉たちは多くの強い存在とは接したのだが、残念なことに、同じ思いを持つ仲間が増えることがなかったことだけは残念に思った。



「…ここ、いいわぁー… 適度な緊張感もあって…」と、暫定的な仲間のイザーニャが落ち着いた笑みを浮かべてランスに言う。


「出番はなさそうだがな」とランスは言って、少し鼻で笑った。


このイザーニャが、ランスの唯一といっていい、心のよりどころの友人だ。


ランスがあまりにも帰って来ないことが気になったようで、ついにはイザーニャが痺れを切らせてやってきたのだ。


そして三人抱えた天使たちの先生にもなっていたので、ただただ遊びに来ているだけではない。


どちらかといえば、ランスの方が常に遊んでいるようにも見えるほどだ。



汰華琉たちの宇宙での人助けも軌道に乗って、ロストソウル軍のエース的部隊という、代名詞も獲得していた。


よって、ケイン星の人民たちは、生物が住む星が多くあることを知ったが、不幸に見舞われた者たちがこのケイン星に来ないことを気にし始めた。


だがこの件は初めから説明してあって、まずはフリージア星で過ごしてもらってから、居場所を選定してもらうようなシステムが元からある。


ケイン星の人民たちは、他星人との交流を求めているようなのだが、ついにフリージアに観光目的での渡航が許されると、今までのことは小さなことと思い、多くの人々が認定の申請を出す。


しかし合格者は一割にも満たない。


だが、渡航できた者は多くを知って、本人たちの糧となっていった。


娯楽と、自分の生きている意味をさらに広げたといっていい。


フリージアの開拓された場所は、まさにリゾート観光地でもあり、観光客自体が他星人なので、この件ですら土産話になる。


さらに積極性の高い者たちは、他星の不幸などを聞きつけ、星の創造神は何もしない星が多いという事実も知った。


それと同時に、外敵による侵略などは日常茶飯事で、防衛の手が回らないほどだというリアルも耳にする。


よって仕事でフリージア出勤務する防衛隊の隊員が、さらに崇められるようになった。


ケイン星の神の威厳を忘れたわけではないが、比較的薄まっている。


よって、神の意志をついでいるような、WNAの活動を賞賛する者たちも増えてきた。



そんな中、マリアが抱えていた歴史的文献などの、重要な部分が公開された。


それは第一に百年前の悲惨ともいえる星の状況だ。


まさに人が住めるような星ではなかったと、この件は誰もが一致した意見を持った。


今のこのケイン星の状況は天国でしかなかった。


神による間引きも、不幸ではあるという前提において、認めざるを得なかったことでもある。


そして動物の激減。


WNAが資金を持ち寄って立ち上がったこともうなづける。


このような文献は、数多く出てきて、作り物ではないことは誰にでもよく理解できた。


不幸な資料が多い中、相当に歴史ある資料の中で、プリンセスナイトの希望ある伝記も公表された。


まさに人間味あふれる姫と騎士で、その二人を見守る神官が大注目された。


雅はここはサービスとばかり、新築されたばかりの歴史研究所の建物の屋根に登って、巨大なサクラインコに変身すると、民衆は神獣を大いに崇めた。


そしてサクラインコは大きくひとつ羽ばたいて、空で遊ぶように飛び回ってから消えた。


WNA、特殊機動部隊特別小隊、ケイン星防衛隊以外にも強い力で守られていると誰もが自信を持って、安心感を得ていた。


よって次に興味がわいたのが、姫と騎士の存在だ。


この件はマスコミで大いに報道されて、『できれば姿を見せて欲しい!』とマスコミは訴えた。


そして歴史書に忠実な本などが各種類発売された。


子供でも読める絵本から、歴史書に載っていた絵画などを差し込んだ小説なども人気の書物となった。


「姫と騎士は、WNA関係者だからなぁー…

 あまりありがたくないだろうが、

 今とは姿が違うからいいかぁー…」


ここは汰華琉の鶴の一声で、サクラインコが姫と騎士を連れて飛び回って、神が許可したマスコミの前でインタビューを受けた。


普段は何をしているのかという素朴な興味が沸く質問から、今の任務内容まで、幅広い質問に、三人は快く、WNAとは無関係を示唆しながら答えた。


「どうして怒っているのでしょうか?」とインタビュアーが眉を下げて騎士に聞くと、「…俺の力不足…」とぼそりと告げた言葉が大いに受けた。


よって今もなお修行中とインタビュアーが勝手に話を作ってくれたので、汰華琉としては大いに助かっていた。


もっとも、騎士の姿の汰華琉は、実際の汰華琉の勇者よりも能力は低いので、嘘は言っていない。


ひと通りインタビューが終わり、サクラインコが大きく翼を広げて二人を包み込むと忽然と姿が消えたので、現場を見ていたものは、「…夢だったのか…」と多くの者がつぶやいていたが、もちろん映像が残っているので夢ではない。



美貴は腹を抱えて笑いながら、元の姿に戻っている汰華琉たちをねぎらった。


「…本来のお仕事をがんばりたいぃー…」と美都子は大いに嘆いていた。


美都子はWNAの顔として、広報の仕事を兼務するようになった。


そのプロポーションのよさは、本来のお嬢様の雰囲気もあって、この星の姫と、民衆たちは認めていた。


そしてこの星の魔王は、さらに美都子を気に入らなくなったのだが、汰華琉という将来の伴侶を手に入れたに等しいので、あまり欲はかかないことにしたようだ。


そしてようやくだが、ひとりだけ覚醒した少年を雇うことに成功した。


汰華琉は男子が増えたことを大いに喜んだのだが、まだまだ駆け出しだ。


住んでいる国がヤハンでもあったので、さらに付き合いやすい。


しかし、ヤハンでも田舎という場所に住んでいたことで、学園への編入試験はかなり厳しいものになったが、何とかクリアして、蝦夷真人は本来の陽気な笑みを取り戻していた。


年齢は誉と同じで十五才で、高校に通うことになる。


親族はごく一般的な家庭よりも上流の家庭といっていいのだが、DNA検査から里子に取られていたことを真人はようやく知ったことになる。


特殊なDNAを持つ者は、肉親には縁がないようだ。


その件についての文献もある。


「能力者は厳しい条件があってこそ生まれる」という、能力者研究の結果の文献からも、証明されたことになる。


よって、汰華琉の仲間たちは全員里子として、導かれた家庭で過ごしていた事実も知ることになった。


「…生きることを許された仲間たち…」と汰華琉が感慨深く言うと、誰もが賛同していた。



そんな中、ひとつの事件が勃発した。


それは、ロストソウル軍で仕事に従事していた防衛隊を含んだ隊が消息を断ったのだ。


星の復興に携わっていたはずだが、連絡が取れなくなった。


そして機動部隊がすぐさま現地に赴いたが、この機動部隊も消息を断った。


この由々しき事態に、汰華琉たちは問題が発生した星、パットンに向かうことになった。


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