幼馴染を愛している王子様、聖女を娶るべしという伝統に苦しむが、召喚した聖女がおっさんだった件
俺は平凡なリーマン、相田武夫。正月返上して出社している俺は、ある日、トラックにはねられそうになった女子高生を発見して体の動くまま助けた。すると突然魔法陣が出現し、異世界に召喚されていた。
大聖堂のような薄暗い大きなホールにでっかい帽子をかぶった司教っぽい人、金髪碧眼の超絶イケメンの身分が高そうな人、そしてこれまた身分の高そうなハニーブロンドの悪女系美女が目を真ん丸にして俺を見ていた。ふっ。なるほどな。俺は察しがいいからすぐにわかった。勇者召喚だろう。いいぜ、俺が世界を救ってやる!!
しかし、司教っぽい人が叫ぶ。
「せ、聖女様の降臨成功じゃああああ!!!!」
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富めるワルヴァラ王国にある伝統があった。500年に一度、儀式を持って異世界から聖女を召喚し、時の王もしくは王太子の妻に迎えるのだ。というのも、聖女の知識はずば抜けており、産業革命を必ず起して世界を変えてしまう。ワルヴァラ王国が世界一の国力を保てるのも聖女の知識のおかげなのだ。ゆえに、その伝統は絶対だった。
そして、エルンストの兄、カリマが伴侶として聖女を迎えるはずだったのだが、カリマはお忍びで出かけたとき、オオアリークイに襲われて命を落とした。エルンストは末っ子だが、姉しかいなかった。まさか姉に聖女と結婚させるわけにいかない。
繰り上げでエルンストが王位に就いたのだが、彼には最愛の婚約者キアイラがいた。幼いころから恋を育んできた彼らは相思相愛でエルンストはキアイラと別れるなら王位などいらんとまで豪語していたのだ。
「いけません。エルンスト様は王に相応しいお方です。そして、聖女様はこの国になくてはならない人ですわ。諸外国は聖女の力を得ようと虎視眈々と狙っております。どうか、聖女様を娶ってこの国を繁栄させてくださいませ」
キアイラは毅然とした態度でそう言い切った。気高く美しく、そして国のため民のために尽くす彼女をエルンストは尊敬していた。
「……いやだ」
「エルンスト様!!」
キアイラが声を荒げる。
「君でなければいけないんだ。聖女が居なくても、君と私ならいい国が作れる。それでなくても、私は君と離れるなんて考えられないんだ」
エルンストは青い目を潤ませて言葉を紡いだ。いつも凛々しく前を向いていたエルンストのそんな姿をキアイラは初めて見た。
「わたくしもエルンスト様と離れたくありませんわ……でも、でも」
キアイラの声が震えた。気丈な彼女も限界だった。愛する人が違う人と結婚する。それだけならまだ耐えられた。彼が幸せになれるのならキアイラが我慢すればいい。
だが、彼はキアイラを愛してるという。
「キアイラ。ごめん。君を困らせてしまった。愛しているんだ。本当に心の底から」
「わたくしもですわ……」
抱き合って静かに二人は涙を流すだけだった。
そして迎えた聖女召喚の儀式、なぜか召喚されたのは不思議な服をまとう男性だったのだ。
驚きの中、最初に動いたのはエルンストだ。
「大司教、聖女が男性の場合はどうするんだ?」
エルンストが大司教に尋ねる。
「……前例がありませんが、王女の伴侶とするのが最良かと」
「それは……いいかもな」
エルンストがそう言い切るには理由がある。異世界マニアのエルンストの姉、アマーリアは異世界の話が大好きなのだ。「わたくしが男だったら聖女様と結婚するのにっ!!」と豪語するくらいの人間なので、聖女と結婚できると知れば小躍りするだろう。
相田武夫はエルンストから詳細を聞き、「え、俺勇者じゃないの?」とショックを受けたが、アマーリアが「聖女も勇者も似たようなものですわ。国を救うんですもの!!」と訴え、ついでに熱烈なアプローチをかました。
エルンストとキアイラは祝福されて結婚し、また数年後にアマーリアに口説き落された相田武夫も式をあげ、左うちわの生活を満喫している
武夫の知恵はこれまでの聖女を凌駕し、ワルヴァラは過去類をみないほど繁栄したのだった。めでたし、めでたし。
魔女には男も含まれるって聞いたから聖女にも男が含まれるかと思ってつい……。
コメントで男性の場合は聖人、魔女はWitchの訳で男女区別がないと教えて頂きました。
ありがとうございます!!
また、聖女はsaintでこちらも英語だと男女の区別がないそうです!!
そして、聖女はカソリックの信仰対象らしく、婚姻を認めていないそうです。
ですので、この国は聖女を信仰対象とする『チシキチートス教』という聖女婚姻OKの宗教ということにしておいて下さいませ。
お教え下さった皆様、ありがとうございます。博識さに敬服すると共に、大変勉強になりました。