幕間・交渉の場で
エウレアが婚約破棄され別荘に行った翌日。
「……という訳で娘との婚約は無かった事にしていただきたい」
エウレアの父、ローザス・フィートエアは会議室にいた。
対峙しているのは国王だが話し合いが始まってから冷や汗が止まらなかった。
息子がやらかした事の大きさや目の前のにこやかだが目は笑っていないローザスの圧力とか色々な理由である。
昨夜意気揚々と王太子がエウレアとの婚約破棄を報告してきた時は目の前が真っ暗になった。
すぐに怒鳴りつけ王太子を自室に閉じ込め公爵家に連絡を入れ今日に至る。
そして改めてローザスから事情を聞き事がすでに手に負えない状態になっている事を悟った。
なんせフィートエア公爵家は国内でも有力な家であり今まで発展できてきたのはローザスの交渉力の賜物である。
一番敵に回したくない人物が今敵になりそうなのである。
国王にとって選択肢は無かった。
「今回の件は本当に申し訳無かった。婚約破棄は認めるし正式に文書にしよう……」
「そうですか、それはありがとうございます」
「だがなぁ、エウレア嬢は優秀で王妃教育もこなした。このままにしておくのは勿体無い人物だ」
「で?」
「第2王子と新たに婚約をしてもらえんだろうか『あなた?』ひぃっ!?」
「エウレアは傷ついているのですよ、まずは癒やすのが先でしょう?」
そう言って微笑むのは王妃である。
「そ、そうだな、時期早々だった……」
「一応話はしてみますが……、期待はしないでいただきたい」
「えぇ、エウレアにはゆっくりと休んでいただきたいわ」
王妃はエウレアの事を凄く買っていた、だからこそ今回の件で王太子に対して一番怒っているのは王妃だ。
王妃の性格をよく知っているローザスは内心王太子を哀れに思っていた。
よりによって1番敵に回してはいけない人物を敵に回した、と。
王妃は若い頃は女だてらに騎士として活躍していた。
ローザスは彼女の騎士時代をよく知っていた。
仲間想いの部分もあるが敵に関しては容赦を一切しない、それが身内であろうと、だ。
特にまだ国王が王太子だった頃、一回だけ浮気をした事がある。
その際王妃は鉄拳制裁を加えた、という。
暫く顔が腫れ上がったあの情けない姿は今も忘れられない。
だからこそ王妃の怒りは膨れ上がっていた。
まさか息子が似たような事をやるとは……。
「まぁ……、後の事はよろしくお願いします」
そう言って席を立った。