嵐の図書塔5
リリス様との話し合い(?)を終えてジンジャー様達の所に戻ると、皆が困ったような顔で私達を見ている。
そうだよね、いきなりリリス様を連れ去ってしばらく戻って来なかったらそんな顔にもなるよね。
「姫様、そんな青い顔をなさってどうしたのですか?」
「え?」
駆け寄ってきたノーマが私の顔を覗き込むようにして言って、驚いてしまう。
「具合が悪いのですか? お熱は……ありませんね、汗もかいていらっしゃいませんが……そこのリリス様に何か言われましたか?」
「違うのっリリス様は私の話を聞いてくれていただけで」
「そうですか? 姫様とリリス様はわからない言語でお話になりますので、私共は何かぶしつけな事を言われているのではないかと不安なのです」
「大丈夫よ」
テキパキと私の額や首筋、手首なんかに触れて確認してくるノーマを安心させるように笑みを浮かべる。
ノーマはいまいち納得していないようだけれども、今はこれ以上の追及はしないで居てくれるみたい。
「姫様、とにかく座ってください。ノーマ、姫様に何か飲み物を持ってきてくれよ」
「そうですね。少々お待ちください姫様」
イオリに手を引かれて椅子に座るとノーマが素早く離れていった。
「脈拍は正常ですけど、冷えてますね」
「そう?」
イオリの手が温かく感じるから確かに冷えているのかもしれない。
ふわっとイオリの魔力が私の体を覆って、周囲の空気が温かくなったように感じる。
「急な嵐で気温が下がってしまったんでしょう。この建物も人間が建てたものですし、なによりも古いですからね。気温を調整する魔道具がいきわたっていません」
「そうなの」
確かに『フルフル』のイベントで気温が下がった部屋で攻略対象と身を寄せ合うというものがあったから、魔国では当たり前に普及している気温調整の魔道具は貴重品なのかもしれない。
そう考えると、オルクスが魔国を出た魔族の生活水準を下げないようにって色々したのも納得かな。
「姫様、どうぞ」
「ヴァンスっ」
ヴァンスが上着を脱いで私の肩にかけてくれたから、ありがたく袖を通す。
……ヴァンスの匂いがする…………って、私は変態かっ!
自分の思考回路に思わず両手で顔を覆うと、余った袖口が必然的に顔に当たって、なんだか余計に恥ずかしくなった。
「姫様? 耳が赤くなってますよ?」
「な、なんでも……」
ヴァンスの言葉にちらっと顔を上げて目が合って、恥ずかしさから視線を別な所へと彷徨わせると今度はリリス様と目が合って、小さく片手でガッツポーズをとられた。
「な、な……なんでも……ある」
「どうなさいました?」
「あの……ふっ二人で話がしたいんだけど、いい?」
ヴァンスのシャツの袖を引っ張って言うと、ヴァンスは一瞬驚いたような顔をしたけれども、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべて頷いてくれた。
「あー、これは嵐どころじゃすまないかもな」
「少し席を外している間に……イオリ、どうして止めなかったんですか」
「姫様を? 無茶言うな」
「陛下のご機嫌が今の時点で不安です」
「魔力が繋がってるもんな、意識して遮断しなけりゃ姫様の気分の上下なんて手に取るようにわかるだろうよ」
いつの間にか戻って来ていたノーマとイオリがそんな会話をしているなんて知らずに、私はヴァンスに手を引かれて図書塔の中を歩いて行く。
握られた手からドクドクと音がしそうで、まるで手が心臓になったみたい。
「ここならリリス様たちには聞こえませんね」
「そう?」
離されてしまった手が寂しくて、もじもじと羽織っているヴァンスの上着を引っ張る。
「それで、二人きりで話というのはなんでしょうか?」
「あのね……あの……ヴァンスは、私が好きなのよね?」
「はい、愛しています」
「そのっ……あ、あの……私もヴァンスが好きよ? パパとかナムタルとは違う意味で好きだと思うの」
「……それは、私がした愛の告白へのお返事と受け取ってもいいのでしょうか?」
「うん……お付き合いとか、私はしたことがないし、その……子供だからヴァンスには物足りないとか面倒だって思わせちゃうかもしれないし、それに、こんな風に誰かを好きになるのが初めてで、どうなっちゃうかわかんないの」
「姫様?」
「すっごい嫉妬深いかもしれないし、逆にすごい無関心かもしれないのよ? それに、パパだっているし、だからっ……その……それでも、ヴァンスは私で、いい?」
恥ずかしくてギュッと目を閉じてうつむきながら言うと、優しく抱きしめられる感覚がして、驚いて顔を上げると目の前にすごく嬉しそうに微笑むヴァンスの顔があって心臓が止まるかと思った。
「姫様がわたしを受け入れてくださるのなら、わたしはどのような姫様であってもお傍に居たいです」
「とんでもない性格かもよ?」
「例えば?」
「え? えーっとすっごいわがままを言うとか、なんでもかんでも欲しがるとか?」
「今まで約三年、姫様のお傍に居ますがそのような事はありませんね」
「これから言うかもしれないよ?」
「それでもかまいません。姫様のわがままも嬉しいですし、陛下ほどではないにしろ蓄えはあります」
「束縛癖があるかもしれないじゃない」
「姫様にならいくらでも束縛されたって構いません」
そう言ってヴァンスの顔が近づいてくると、首筋に唇を当てられてゾクゾクっとした。
唇が触れたまま顔が上にあがって来て、耳たぶを辿って縁の所を軽く咥えられて思わずヴァンスのシャツにしがみつく。
「姫様と血の誓いをしたいです」
ひえっイケボが耳元でっ!
「ち、血の誓いって?」
「従魔の誓いに近いですね、簡単に言えば眷属の誓いです。姫様の寿命と私の寿命を同じに……。主になったほうが死ななければ眷属になった者は死にません。姫様は陛下の魔力を持った古代宝石精霊ですから、その寿命は陛下と同じものです。なので、わたしが姫様の眷属になる形になりますね」
チュッと音がしてヴァンスの唇が耳から離れた。
さっきは本能的に見ちゃいけないって警告があったのに、今はヴァンスの顔が正面にあって、その瞳とばっちり見つめあっちゃってる。
いつもよりも濃い紫の瞳の中に私の顔が映り込んでて、真っ赤になっているのが分かる。
「ぱ、パパに聞いてみる」
「……そうですね、その前にわたしが殺されないと良いのですが」
「え!?」
苦笑したヴァンスの顔が迫って来てキスされるって思わず目を閉じたら、頬に唇が当てられた。
……頬!? ここは漫画みたいに口じゃないの!?
目を開けて思わず眉間にしわを寄せると、ヴァンスがふんわりと微笑む。
「唇には血の誓いをしてからにしましょう。唇を許された後にやはり血の誓いはダメと言われたら狂ってしまいそうです」
「そういうものなの?」
「はい、少なくとも姫様に対してのわたしはそうですね」
「そう……わかった」
じゃあ仕方がないか、と頷くとヴァンスは抱擁を解くと、私の手をもって手首と手の甲、指先と手のひらにキスをして来た。
その間向けられた真っ直ぐな視線に、全身が熱くなった気がしてヴァンスが貸してくれた上着を脱ぐとそっと返す。
なんだか脱いだ瞬間物足りない気もしたけど、体の方はすっかりあったまったから……、というかむしろ熱いぐらいだよ。
そのあと、ヴァンスと二人で皆の所に戻ると、なんだか「わかってます」みたいな視線で迎え入れられた。
うぅ、バレバレ? せっかく離れてたのにバレバレなの?
いや待って、ヴァンスはリリス様たちには聞こえないって言ったけど、ノーマたちに聞こえないとは言ってなかったよね?
つまり、あの会話はノーマとイオリには筒抜け!? あ~っ穴があったら入りたい!
恥ずかしさのあまりヴァンスの後ろに隠れると、「今日の天気は大嵐かな」とイオリが言って、「せめてお屋敷の敷地内だけにしてもらいましょう」とノーマが諦めたように呟いた。
ヴァンスの愛の告白に返事をして恋人になった二人に待ち受けるのは最大の敵、魔王!
果たしてヴァンスは生き残れるのか!?
娘大好きな親バカの魔王による局地的大災害が発生!?
頑張れヴァンス! 乗り越えなければ明日はない!(命的に)
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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。




