出歯亀出来ればいいから!2
なんだか気になる事を言われたまま、休み時間が終わり教室に戻ったけど、リリス様とジンジャー様は戻ってこなかった。
これはまさかのお色気シーンの続きがどこかで繰り広げられているのか!?
ああああっ、この目でイベントを確かめたい!
いや、でも『フルフル』の姉姫陣営は確かにお色気路線もあったけど全年齢対象だったし、あったとしても保健室でイチャイチャぐらいかな。
しかしだよ? リリス様がジンジャー様と愛を確かめ合っている場合、他の攻略対象とのイベントは起きないのでは?
必要とあればジンジャー様も目をつぶるだろうけど、リリス様の性格から簡単によそに目を向けるっていうのはなさそうなんだよね。
くぅっ、ジンリリの純愛っぷりに萌えればいいのか、イベントが起きないかもしれないことに落胆していいのかわからない!
悶々とした思いを抱えつつ授業が終わると、少し顔が赤いリリス様といつも通りのジンジャー様が教室に入ってきた。
「リリス様、お昼を一緒にいかがですか?」
「ええ、もちろん喜んでご一緒させていただきますわ」
「よかった。お二方も良ければご一緒に」
にっこりと第一貴族科に留学してきている女生徒に笑みを向けると、二人とも頷いてくれたので食堂に向かう。
並んで歩くとリリス様の頬にまだ少し赤みが残ってて、なんか色っぽい?
やっぱり美少女は何をしても美少女だわ。
いいじゃない、このさい他のイベントが起きなくてもジンリリを堪能すれば私の出歯亀欲求は満たされるんじゃなかろうか!
内心で「ぐへへ」と淑女らしからぬ笑みをこぼしつつ、表向きはいつも通りの穏やかな微笑みをキープする。
食堂に到着すると当たり前のように空けられている特等席に座り、学院の使用人が注文を聞きに来るので本日のメニューを見ながら注文していく。
まあ、基本メニューは変わらないけど季節ごとのものとか週替わりのものとかあるからまだ飽きてない。
学院側も王侯貴族の子息令嬢が食事に飽きないように配慮しているんだろうし、飽きるって事はないだろうけどね。
しかし、こうしてクラスメイトとお昼を一緒に食べるとか、まさにスクールライフを満喫してる感じじゃない?
青春? 私ってば今まさに青春しちゃってる!?
うへへ、前世では味わえなかった青春を謳歌するとか、なんて健全!
しっかし、クラスメイトの女生徒を誘ったとはいえ改めて見るとすごいメンツだよね。
『フルフル』では登場しなかった人だしな。
他にも淑女科や官吏科、魔法科に通っている留学生の姫や令嬢も居るし。
王子や子息が多いのは『フルフル』の攻略対象だからしゃーないとしても、留学生多いよなぁ。
なんでやろ?
「そういえば、リリス様は先ほどの授業はいらっしゃいませんでしたけど、体調を崩されたのですか?」
のんびりとしたクラリス様の言葉に、リリス様の手が一瞬止まって赤みの治まっていた頬が再びほんのりと赤く染まる。
「ジンジャー様もいらっしゃいませんでしたわね。もしかしてお二人で?」
ロザリナ様が目を輝かせて尋ねるとリリス様はあからさまに顔を赤らめてしまう。
あ~、萌える。
「政略的な婚約だと思ってましたけど、想い合ってるんですね」
「素敵ですわ! 私もそんな恋がしてみたいですわ。でも、第四王女なんて上の兄姉に甘やかされるとはいえペット扱いですので、そのうち政略の駒にされる運命ですわね」
「私も公爵令嬢として家の決めた婚約者がいますよ。年は十ほど離れていますけど」
十!? 政略結婚なら珍しくないけど、男にしたって売れ残りでは!?
「ええ? 公爵令嬢を娶るのにそんなに年が離れていますの? 相手の浮気が心配ですわね」
「ふふ、浮気どころか亡くなった奥様を大事に想い続けていらっしゃる愛妻家ですよ」
まさかの公爵令嬢が後妻!?
「私にとっては昔から知っている兄様のような方なのですが、奥様がお亡くなりになった時の嘆きようは後追いをするのではないかと心配しました」
「そうなんですのね。それで支えるために後妻になると決めましたの?」
「もちろん、家の利益もありますが、私個人としてはお亡くなりになった奥様が命がけで産んだご子息をあの方と一緒に見守って行けたらと思っています」
穏やかに言うクラリス様の姿に、家族に大事に育てられてたんだろうなぁって思えるわ。
「すでにご嫡男がいらっしゃいますのね。そのお言葉ですとまだお小さいようですし、クラリス様こそが母なのだと思い込ませることが出来ますわね」
なかなか過激な発言だね、ロザリナ様。
「いえ、あの子にはちゃんと命がけで産んでくださった亡き奥様の事を伝えます。だって、自分が愛されて、望まれて生まれたんだってちゃんと知るべきだと思いますから」
何この性格のいい子!
腹に一物抱えた貴族の中で生きて行けるの!?
「そうなんですの? クラリス様がそれでご納得されているのならいいですが、もしご自分の子供が産まれてしまったらその子の方が可愛くなるかもしれませんわよ。なんといってもお腹を痛めて産むのですもの」
「そうですね。その可能性もありますけれど、もし子供を授かった場合でも等しく愛して育てていきたいですね」
あ~、ピュアっ!
なんか煩悩が浄化される気がするわ。
実際にはまったくされないけど。
「私は後妻というのは出来れば遠慮したいですわ。他国の王族の側妃ならまだ妥協できますけれども、望ましいのは国内の有力貴族に嫁ぐことですわね」
「ロザリナ様のご年齢で婚約者が決まっていないのも珍しいですよね?」
私の質問にロザリナ様が頷いて深いため息を吐き出した。
「そうなんですの。父が私の利用方法を考えあぐねいていまして、その間に国内の年の合う有力貴族の子息はほとんどが売約済みになってしまいましたわ」
純粋に可愛い娘を嫁に出したくないとは考えないのか。
「問題のある子息には嫁ぎたくありませんし、残るは何かしらの功績を上げた貴族への下賜ですわね。けれどもその場合王命という事で強引に父が押し付ける可能性がありますので、愛されないどころか浮気をされまくる可能性がありますわ」
わぁ、シビア。
でも現実は非情なりってねぇ。
「だから、想い合ってるリリス様とジンジャー様には憧れてしまいますわ」
話がそこに戻ってやっと頬の赤みが引いたリリス様が微笑みを浮かべる。
オーケー、それが取り繕った笑みだってわからない者はここにはいない。
「お二人の馴れ初めはいつですの?」
「馴れ初めなんて……わたくしとジンジャー様は従兄弟ですもの、幼い時から親しくしておりましたわ」
「けれど、リリス様には長年婚約者がいらっしゃいましたよね」
のんびりと、でも的確にクラリス様が突く。
「ええ、母がわたくしの事を思って公爵家のジルド様を婚約者にして下さいましたの。ほら、王弟の嫡男であるジンジャー様とわたくしが婚姻したら権力が集まると言う人が当時はいましたので」
前国王一派とか側妃一派ですね、わかります。
「ジルド様と婚約していた時は、もちろんジルド様と良き仲になれるようにと様々な努力をしてきましたが、全て無駄になってしまいましたわね」
「それは残念な事ですね。ジンジャー様とはいつからご関係を?」
クラリス様? 貴女のほほんと結構えぐい質問しますね?
「皆様と一緒のお茶会でお会いしたり、留学なさった時は近況などをしたためたお手紙のやり取りぐらいはしておりましたわ」
「まあ、そうなんですね」
「では親密になったのは最近ですの?」
「もちろんですわ。……お互いの気持ちを伝えあったのはつい最近ですわ」
そう言って顔を赤らめるリリス様、眼福です!
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