出歯亀出来ればいいから!
高等学院にある中庭の一つで、私はドキドキしながらその人達を待っている。
予定ではここに姉姫とジンジャー様がきて、プロポーズが行われるはずなのだ。
姉姫陣営にジンジャー様がつく時のイベントなんだけど、発生条件が姉姫がジルド様に婚約破棄をされている事と、ジンジャー様が姉姫陣営に付くという状態でのみ発生するもの。
このイベントが発生すると後にどんなことが起こってもジンジャー様は姉姫陣営を裏切らないという、通称『確定イベント』。
好感度やイベント不足での裏切りが度々発生する『フルフル』で、ある意味安心できる要素と言われていた。
まあ、妹姫陣営からしたら攻略対象が永遠に味方に出来ないっていうジレンマもあったんだけどね。
このイベントのあとの姉姫とジンジャー様は、他の味方と協力しながら妹姫陣営と争っていく。
その中には二人のイチャイチャイベントもあって、敢て発生させたジンリリファンは数知れず。
まぁ、現実問題としてリリス様の新しい婚約者にジンジャー様は正式決定しているんだけど、ジンジャー様はそれを抜きに改めてリリス様にプロポーズするという情報を掴んだのよ!
すなわちイベント発生チャンス!
見逃すなんてもったいない事はしたくない!
そんなわけで、私は今コソコソ隠れてイベント発生場所を見張っている。
しばらくして、ジンジャー様が来て憂い気な顔をして花壇の花を見始めた。
やっば、絵になるわ。流石は攻略対象。
そのまま待っていると、優雅な足取りでリリス様がやって来てジンジャー様がリリス様に視線を向けた。
「リリス様、来てくれたんですね」
「婚約者からのお誘いですもの、当たり前ですわ」
にっこりと微笑むリリス様にジンジャー様が近づいていき、そっと手を取った。
「幼い時からリリス様のお役に立ちたいと思っていました」
「ジンジャー様」
「知識を蓄えるために留学をしたのだって、全てはリリス様のお役に立つためです。傍に居ることが出来ないのはつらかったですが、リリス様からの手紙が僕の心を慰めてくれました」
「わたくしはこちらの状況とジンジャー様の近況をお伺いしていただけですわ」
「毎月頂くお手紙、それを頂くたびに僕の想いは募っていったのです」
ジンジャー様はまっすぐにリリス様を見つめると、ふっと微笑んだ。
その微笑みにリリス様の耳が僅かに赤くなる。
「愛しています。僕をリリス様の最初の夫にしていただけないでしょうか」
「すでにジンジャー様はわたくしの婚約者ですわ」
そう言いながらもリリス様は頬まで赤くする。
「では、リリス様の初めてを頂いても?」
「っ……は、初めてとは?」
「その唇を僕に奪わせてください」
「はひっ」
顔を寄せてちょっとでも動いたらキスをしてしまうんじゃないかっていう距離で囁くジンジャー様に、リリス様は目を瞬かせてあからさまに赤面する。
「愛しています、リリス様だけを永遠に。僕は未来永劫何があってもリリス様のお傍にいます」
「ジンジャー様」
二人の距離が僅かに近づき、唇が一度触れ合うとすぐに離れ、もう一度重ねられたそれは今度はしばらく離れない。
……ちっ、ディープキスじゃないのか。
いや、初めてのキスでそこまで求めるのは贅沢なのか?
チュッと音を立てて唇が離れると、恥ずかしそうにうつむくリリス様の握っていた手を持ち上げてジンジャー様はそこにキスをする。
「リリス様は僕の生きる意味です」
「ジンジャー様」
恥ずかしがりながら顔を上げたリリス様にジンジャー様がもう一度軽くキスをした。
「いずれリリス様は王配を僕の他にもお持ちになるでしょう。それでも、誰よりもリリス様の傍においてください」
「はい」
そう言って頷いたリリス様をジンジャー様はそっと抱きしめると、再度「愛しています」と告げ、リリス様がそれに「わたくしも愛していますわ」と答えた。
これだよこれ!
私が見たかったのはこれなんだよ!
まさに乙女ゲーって感じだよね。
しかも純愛? 純愛なの!?
キャー! 心がトキメク!
抱きしめた体勢のままもう一度キスをした二人はって今度はディープキス!?
両想いの確認が取れたばかりなのに攻めるねぇジンジャー様! いいぞもっとやれ!
リリス様の初心そうなキスの合間の声とか聞こえてきちゃって、流石お色気路線のある姉姫陣営のイベントだと思うわ。
ん? でも『フルフル』のこのイベントではジンジャー様は確かにリリス様に愛を告白するけど、リリス様は「嬉しいですわ」って言うだけだったような?
……誤差ってやつだね!
唇が離れるとリリス様は真っ赤になってジンジャー様にもたれかかって、ジンジャー様はリリス様の耳元でまた「愛してます」って言ってリリス様をお姫様抱っこして中庭を出て行った。
「いいもの見たわ~」
うっとりとして言うと、私に付き添っていたヴァンスたちが呆れた視線を向けてきている事に気が付いた。
「な、なに? 私のスクールライフの目的の一つなんだからちょっとぐらい覗き見してもいいでしょ?」
「まだ何も言っていませんよ姫様」
「だってヴァンスたちってば何か言いたそうな顔をしてるんだもん」
そう言うとヴァンスがやれやれと言うように首を横に振った。
「何が楽しくて魔王の姫君が人間の恋愛事情を覗き見しなくちゃいけないんですか」
「私がものすごく楽しい!」
「まあ、姫様は陛下のせいでご自分の恋愛が出来ませんから、他人の恋愛事情を覗き見て自己満足しているのでしょう」
「ノーマ、いつになく辛辣じゃない?」
「事実でございましょう?」
「うっ……いや、でもパパが言うように私には恋愛はまだ早いんじゃないかなぁって、思わないでもない」
前世でも恋愛経験は画面の向こうでしたからぁ!
三次元との恋愛なんて無理! 見てるだけでお腹いっぱい胸いっぱい!
「確かに姫様は陛下のガードが強いですよね」
「そうなのよイオリ」
「それだけじゃないですよね、姫様?」
「ひゃひぃ!?」
唐突に顔を近づけたヴァンスが耳元で囁いたせいで変な声が出た。
「そのように、初心すぎるのはとてつもなくそそるのですが、その態度は男心に油と火をばら撒くだけですよ」
「うひぃっ」
「ヴァンス、離れなさい」
「はいはい」
ノーマがヴァンスの頭をガシっと掴んで引き離すと、ヴァンスは冗談だったからかあっさり離れる。
あー心臓バクバクする。
無駄に顔面偏差値の高い色気大魔神のくせに声までイケボとか、なんなんだよ!
「まったく、あまり距離を詰めすぎると陛下に消されますよ」
「それは怖いですね」
「冗談抜きで」
「あー、うん。否定はしません」
ノーマとヴァンスがそんな会話をしているのを、まだドキドキしている心臓を制服の上から押さえつつ聞く。
はぁ、ヴァンスの距離の詰め方は本当にたまに心臓に悪いよね。
前世だったら心臓発作を起こしてぶっ倒れてるか、過呼吸になってぶっ倒れてたわ。
「ねえ、姫様」
「ん? なぁに、イオリ」
気づけばイオリに肩に手を置かれて耳元で囁かれる。
「ちょっとはヴァンスの努力に反応しましょう?」
「へ?」
「いや、ある意味すっごい反応してますけど」
「どういうこと?」
「……オレはまだ死にたくないんでこれ以上はちょっと言えないです」
意味深な事言って離れるなよぉ!
気になるじゃないか! 凄まじく気になるじゃないか!
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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。




